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「…で?アイツどうなったんだ?」
「引っかかったぜ、ドア開けた瞬間頭から水がバッシャーンだ」
「ハッ、ざまぁみろw」
とある中学校の陸上部の部室、その中で話す3人のウマ娘、しかしその内容はあまり褒められたものでは無い。
「大体、普通の人間のくせに私らウマ娘に楯突くのが間違いなんだよ」
「あんだけ遅いノロマのくせしてよく陸上部入ろうと思ったよなw」
「今度、アイツのユニフォームトイレに捨てちまうなんてのはどうだ?」
「ハハwそれ賛成〜」
彼女達が3年生ということもあり、着替えていた周りの生徒達は嫌な顔をしながらも聞き流すしかなかった、1人の生徒のいじめ話、しかし次の瞬間部室は静寂になる。
ガンッ‼︎
「「「⁉︎…」」」
「…くだらねえこと話してんなよ、聞いてて不愉快なんだよ‼︎」
ロッカーを思い切り叩き声を荒げた芦毛のウマ娘、一瞬呆気に取られた3人は後輩が歯向かったことに苛立ちを覚えそのウマ娘を囲んだ。
「なんだぁトレノ、テメェ先輩に向かってなんだその口は!あぁ⁉︎」
「や、やべえよトレノ…」 「落ち着けって…」
同級生の制止を振り切り3人の前に出た彼女、リーダー格のウマ娘に襟を掴まれても怒りを露わにしたその鋭い目つきをむけ反抗する。
「大体テメーには関係ねえだろーがよ、なんならお前もアイツと同じ目に合わせてやろうか?」
「やれるんならやってみろよ、格下しか相手にできねぇクズがよ‼︎」
「んだとゴラァ‼︎」
ドガッ‼︎
「うぐっ⁉︎」
振りかぶった拳が飛んでくる、芦毛はそれを躱し逆にそのウマ娘の顔面に思い切り喰らわせた、吹っ飛んだリーダー格のウマ娘は後ろのロッカーに激突する。
「なっ⁉︎」「やりやがったなテメェ‼︎」
「テメェら全員ムカつくんだよクソが‼︎」
「やめろトレノ!」「トレノを抑えろ!」
結局その後乱闘になり結果的に3人はボコボコにされてしまった、そしてしばらくした後、その芦毛のウマ娘は自ら退部届を出し陸上部から姿を消してしまった。
ピピピピピピ…
「…ん…んん」
鳴り響くアラーム、布団にくるまり寝返りを打つトレノ、あの秋名でのバトルからちょうど1週間経った土曜日、レビンと東京に行く約束をしていたトレノだが夢から覚めようとしない、そんな彼女の頭に突如激痛が走る。
ドゴッ!
「イッ⁉︎…」
「ったくいつまで寝てんだ、早く起きやがれってんだよ」
「…⁉︎や、やべっ!」
フミからの拳骨を喰らい目覚めたトレノは時計を見て飛び起きた、どうやら朝の豆腐の配達から帰り2度寝をしていたようだ、約束の時間まで猶予がない、急いで支度をしてトレノはフミの車で集合場所の高崎駅へと向かった。
「ったくよ、自分から送ってくれと頼んでおいて寝坊とは、随分といい度胸じゃねえか」
「しょ、しょうがないでしょ、夜はレビン達に秋名に連れてかれるし、朝は配達だし…そんな寝てないんだから」
あれからトレノはスピードスターズにほぼ毎日、半ば強制的に秋名へと連れてかれていた、あのアンフィニイエローを打ち負かしたトレノ、チームの中ではヒーロー扱いになりライム達に走りのコツなどを質問攻めされたり、並走を頼まれたり、秋名では引っ張りだこであった。
「お前のチーム、あのライムとかいう奴がやってる所なんだろ?」
「別に私チームに入ってないし…けどライム先輩達からはなんというか、凄い羨望の眼差しを向けられてる…この前と私を見る目が全然違うし…」
「まっ、中央にも勝てねえチームじゃお前がエース扱いになっちまうのもしょうがねえか」
ガコン
「…ちょっと飛ばしすぎじゃね?」
「パーカ、プラス20までは誤差だよ誤差」
シフトチェンジをしフミはアクセルをふかす、制限速度を軽くオーバーした速度のGR86、大口径のカスタムマフラーから重たい音を響かせ道を走ってゆく。
「お前、今週毎日秋名行ってるよな、峠走るのが楽しくなったか?」
「別にそんなんじゃないし、けど、私が走るとライム先輩やレビンがなんか知らないけど喜んでくれるんだ、でも昨日は…」
「聞こえるかトレノ、間も無く最初のコーナーだ、全開のドリフト頼むぞ」
「分かりました…けど、こんなことで本当に勉強なるんすか…?」
「頼むよ、トレノの視点からでしか分からないこともあると思うんだ」
「はぁ…」
暗闇の秋名、リトラクタブルのライトを起動しトレノは走っていく、彼女の頭の横にはヘッドカメラが装着されている、ライムがトレノにお願いして付けてもらったものだ。
「にしても考えたなライム、トレノの視点からの映像とは」
「あぁ、これならどのタイミングでブレーキをすればとか、どのラインを描けばいいとか、より詳しく分かるからな!」
「お、そろそろっすよライム先輩、エイティ先輩!」
ライムのスマホにはリンクしたヘッドカメラのライブ映像が映る、トレノがいよいよ最初のコーナーへと迫っていく、しかしどんどん速度が上がっていく映像に対し3人は冷や汗が流れた。
「ちょっ、トレノ?ブレーキ、ブレーキ!」
『大丈夫っすよ』
「どこが大丈夫なん…うわぁぁぁぁ‼︎」
コーナーに恐ろしい速度で突っ込んでいくカメラ映像に3人は叫び出す、しかしぶつかる事はなくトレノはドリフトしコーナーを曲がっていく、スマホの画面を観ていたライムの顔は引き攣っていた。
「(な、なんで曲がれるんだ⁉︎あんな速度でぶつからないんだ⁉︎)」
「ッ⁉︎トレノ!次はヘアピンだぞ⁉︎」
『だから大丈夫っすよ』
「そんな速度でヘアピンに突っ込んで大丈夫な訳なっ…うわぁぁ⁉︎」
「(うるさいなぁ…)」
無線で聞こえてくる3人の絶叫に耳を絞りながらもいつものようにヘアピンを曲がっていくトレノ、そして次のコーナー、トレノはノンブレーキで身体を捻らせ進入していく、再びライム達の絶叫を聴きながらガードレールギリギリに膨らみラインを描いていく、そんなトレノの恐ろしい程の突っ込みに耐えきれなかったのかライムは…
「ぶ、ぶつかる⁉︎うわぁぁ…あっ…」
バタン…
「ちょ、ライム?…」
「ラ、ライム先輩⁉︎大丈夫っすか⁉︎」
「ダッハハハ‼︎お前のヘッドカメラの映像見て失神しただぁ?」
「う、うん…なんか私が谷底に落ちると思ったらしくてそのままぽっくりと…」
握っていたステアリングを叩きながら爆笑するフミ、トレノが3つ目のコーナーを抜けた時、ライムはものの見事に意識を無くしてしまった、恐怖のダウンヒルにライムの断末魔の絶叫が秋名山に木霊したのであった。
「…ねぇ母さん、走り屋って楽しいのかな」
「んぁ?なんだいきなり」
赤信号の待ち時間、トレノはいきなりそんなことを言い出す、シフトノブに手を置いたままフミは娘の話に耳を傾ける。
「…私は夜秋名に行くのになったのは最近だけど、ライム先輩達は毎日のように峠を走ってるんだ、私と同じトレセン所属じゃないレビンも走るのが好きで先輩達に着いてってる」
「私だって毎日走ってるけど、なんで皆があそこまで峠に夢中になれるのか分からないんだ…母さんだって昔は走り屋だったんだろ?やっぱ楽しいの?」
「そうだな…まぁ走ることは好きだったぞ、楽勝でつまらねえこともあったけどな、それでも当時の私は走り屋としてのプライドは最低限持ってたつもりだ」
20年前の現役だった頃のフミは自他共に認める秋名最速のウマ娘であった、どんな奴にも負けない下りのスペシャリスト、"ジーシーインプレッサ"として走っていた時のフミは、自分の走りに誇りを持ち、そして走ることへの情熱をいつも心に宿していた。
「走り屋としての…プライドか…」
「まぁ、別に無理して楽しもうなんて思わなくたっていいんじゃねえか?お前にとって走るってのはどうしても仕事の手伝いってイメージだろうし、それでも先週みたいに、仕事の手伝いなんてのは忘れて素直に走ることだけ考えてりゃ、峠を走ることへのイメージがそのうち変わってくるもんだ」
信号が青に変わる、クラッチをあげアクセルをふかし車がまた動き出す、エンジンの回転数はどんどんと上がっていきマフラーが重い咆哮をする、車内にも響くその音を聴きながら、トレノは窓の外をぼーっと見つめていた。
「(走ることへの…イメージ…)」
高崎駅、ロータリー前のベンチで誰かを待つ小柄な芦毛のウマ娘、レビンだ、そして彼女の耳に入った大きな低いエンジンサウンド、ピクリとその方へレビンの耳が動く、見るとロータリーに赤いスポーツクーペが入ってきた、フミのGR86だ。
ブォォォンブォン…
「(お、来た来た、トレノんち母さんのちょっとうるせえ車)」
とまった車にレビンは駆け寄る、中からいつもの眠そうなトレノが出てきた。
「よ、おはよう」
「おはようレビン、なんか随分張り切ってるな」
「そりゃそうだろ!なんたってあの中央トレセンに行くんだからな!」
「お前らあんまはしゃぎすぎて迷子になんなよー、んじゃあな」
「おう」「娘さんお預かりします!」
手をヒラヒラと振りフミはその場を後にした、2人は駅に入り東京行きの新幹線に乗る、外側の席に座り暫く景色を眺めていたトレノの肩が叩かれた、振り返るとレビンの指がトレノの頬に刺さる、よくあるイタズラだ。
「いっ…何すんだよレビン」
「別に、お前がいつにも増してボケっとしてたからな」
「…そういえばトレノ、例の件、結局どうすんだ?」
「例の件?何それ」
「決まってんだろ、スピードスターズのメンバーになるかだよ」
先週のバトル以降、トレノはスピードスターズの秘密兵器だという噂が独り歩きしていた、ライム達もつい調子に乗ってしまいトレノはうちのエースだの、秋名の芦毛とやりたきゃスピードスターズに尋ねろだの、ありもしないことをふかしまくっていた。
「頼むよトレノ、私も調子乗って秋名の芦毛のマブダチとか言っちまってるんだ…入ってくんないとスピードスターズは赤っ恥だぜ…それに、トレノが入ったら私も正式にチームに入れてもらうことになってんだ、なぁこの通りだ、入ってくれないか?」
「別に入るのはいいんだけど、ライム先輩ちチームって走り屋のチームなんだろ?私、自分のこと走り屋って言っていいのか分かんないし…」
「何言ってんだよお前!あんだけ速いくせして走り屋じゃない訳ないだろ!お前は秋名最速のすんげえ走り屋ウマ娘なんだ!」
「そうなのか…?でも、仮に私が走り屋だとしても、群馬トレセンのチームに他校の生徒が入るっていいのか?」
「そこら辺は心配すんな、ライム先輩が学校に説明して特別助っ人枠としてとってくれるそうだ、おまけで私もな!」
えっへんとレビンは胸を張る、これでトレノは名実ともに秋名スピードスターズの一員になる訳だが、当の本人はどこか引っかかっていた、自分が走り屋ウマ娘だとは思えなかったからだ。
「お、そろそろ東京だろ」
「ほんとだ、んじゃ降りる支度すっか」
東京駅に着いた新幹線から2人は降り京王線に乗り換える、そして遂にウマ娘にとって最高峰の場所である中央トレセン学園のある府中へと2人は降り立ったのであった。
「くぅ〜〜‼︎とうとう来ちまったぜ中央トレセン‼︎トレノ写真撮ろうぜ‼︎」
門前で写真を撮ったレビン達は校内へと入っていく、ただえさえ暑いのに加えごった返すような人の多さに2人は既に汗をかいていた。
「すげえ人だな…蒸し暑い…」
「そりゃ中央だからな、全てのウマ娘が憧れる場所と言っても過言じゃねーぜ」
「そうかぁ?別に全員が全員思ってないだろ」
「お前は走りに無頓着すぎるんだよ…というか何に対してもだ、お前、今の今まで本気でキレたこととか無さそうだよなー」
「…別にキレるくらいはあるぞ、ムカついた時とかは多分衝動的に動いちまうと思うし…」
「ホントかよ…お、あそこではちみー買ってこーぜ!」
ずらりと並ぶ屋台や移動販売車に大勢の人が並んでいる、クレープ、にんじん焼き、芦毛のグラサンかけたウマ娘が焼く焼きそば…所狭しと店が並ぶ通りをトレノ達ははちみーを持って抜け、2人は様々なイベントが行われているグラウンドへと場所を移した。
「やっぱ賑わってんなぁ…おぉ!あれはこの前のG1レースで勝利したウマ娘!…おほ!あっちは春天を勝った人だ!有名人ばっかじゃねえか!」
レビンはあちらこちらに居るウマ娘達に目を輝かせる、中央のウマ娘ともなればG1を制した者もたくさん居る、テレビで観るような生徒達がグラウンドの至る所に居るのだ、興奮するレビンを呆れた目で見ながらトレノははちみーを啜る。
「…随分興奮してんなお前」
「ったりめぇだろトレノ!こんな一生に一度会えるかも分からない有名人がそこら中に居るんだぞ、興奮するに決まってんだろ!ほらあそこ!ダービー取ったすんげえウマ娘も居るぞ!他には…」
「(…全員知らねー…)」
G1ウマ娘を説明するレビンだが1人も分からないトレノは話半分にレビンの説明を流していた、それ故に彼女は気付いていなかったのだ、自分もその"有名人"の一員になっていた事に。
「ねぇあれ、先週イエローに勝った子じゃない?」
「ほ、本当だ!あれ、秋名の芦毛だぞ‼︎」
誰かがトレノを指差してそう叫んだ、途端に周りの視線が一気にトレノ達に降り注ぐ、一瞬固まった2人は次の瞬間には逃げ場を失ってしまいトレセン生徒達に囲まれる。
「スプリンタートレノさんですよね⁉︎」
「本物だ!写真撮っていいですか‼︎」
「どうしてあんな速いんですか⁉︎どんなトレーニングを⁉︎」
「レッドサンズを全員倒すって言ったって話本当ですか⁉︎」
「中央に来るって噂は⁉︎その為に今日来たんですか⁉︎」
質問攻めにされるトレノ、中には根も葉も無いような噂を聞く生徒も居る、あのレッドサンズのNo.2、峠レースでも敵なしであったアンフィニイエローをいとも簡単に打ち負かしたウマ娘、秋名の芦毛の名は中央の中で瞬く間に広がり一躍時の人となっていた、そんな彼女が中央トレセンに来ている、2人を囲む人数はどんどんと増えていきちょっとした騒ぎになっていた。
「ど、どうするトレノ…これ逃げられそうにないぞ?」
「あ、あの、ちょっと通してください!」
「みんなー!ここに走り屋ウマ娘のスプリンタートレノさんが居るよ!あのイエローちゃんに勝った子、本物だよ!」
「だ、だから、私は走り屋なんかじゃ…」
瞬く間に大人数がトレノ達の周りに集まりさらに増えていく、困り果てた2人は強引的にそこから抜け出そうとしたその時、ひとりのウマ娘の声で周りの生徒達は一気に静かになった。
「おいおいなんだよ、まさかお前から来てくれるとはな、秋名の芦毛!」
声がした方の人だかりが自然と掃けていく、そして姿を現した青鹿毛のウマ娘、こちらに近づいてくる彼女にレビンは目を丸くして震えた声を出した。
「あ⁉︎貴女は⁉︎あのナイトキッズの…⁉︎」
「…?レビン、誰だこの人?」
「ばっ⁉︎お前、アールスカイラインを知らないのか…⁉︎」
「さぁ…?」
「この人は中央の峠専門チーム"ナイトキッズ"のリーダー、アールスカイラインだよ…!実力はあのホワイトサバンナに負けず劣らず!それにまだ現役のトレセン生なのに、ウマ娘のプロレーシングチーム『GT-Racing』、通称GT-Rのエースとして活躍してるとんでもねぇウマ娘なんだよ…‼︎」
「ハッ、今そのおチビちゃんが言った通りだ…オレの名はアールスカイライン、お前だろ?あの妹に勝ったってウマ娘は」
トレノに指を向ける、スプリンタートレノの名はナイトキッズの中でも浸透しており、ライバル関係のレッドサンズのNo.2を倒したということで既にチームの討伐対象としてリストアップされていた、そしてその目的のウマ娘が自らトレセンへと来たことでアールの心はいつにも増して燃えていた。
「やはりな、こうして対面すると実感するぜ…お前からは強いオーラを感じる、極限の域にまで達した奴特有のオーラだ…お前なら、この"R"の名を持つオレの相手に取って不足は無ぇ…!」
「このアールスカイライン、お前にバトルを申し込む‼︎来週の土曜夜9時、場所は秋名山、下り一本勝負だ、スプリンタートレノ‼︎」
ザワザワザワ‼︎
「ちょ!挑戦状だ‼︎あのアールスカイラインが秋名の芦毛とバトルするぞ‼︎」
「す、すげぇ‼︎レッドサンズに続き今度はナイトキッズが相手だぞ‼︎」
周りに居たウマ娘達が五月蝿く盛り上がる、挑戦状、峠バトルの名物とも言うべき風習、それを受けた者は相手とタイマンでバトルをする、そしてその掟として走り屋は挑戦されたのなら受けて立たなければいけない、しかしそんなことは露知らず、トレノが返した言葉に周りは驚愕する。
「え、嫌ですけど…」
「なっ⁉︎…」 「…あぁ?」
レビンとアールが同時に声を出した、片方は驚愕し、もう片方は怒りが混じっている、周りにいた野次馬はまた急に静まり返った、トレノがそのことにキョロキョロと辺りを見回していると突然頭に拳骨が飛んできた、レビンだ。
「イッタ⁉︎なにすんだよ…!」
「バカヤロートレノ!なに挑戦状断ってんだよ…‼︎あのアールスカイラインからの挑戦状だぞ…⁉︎」
「はぁ?別にいいだろ断ったって…」
「ダメに決まってんだろ‼︎走り屋ウマ娘は峠で挑戦されたら、受けて立たなきゃいけないんだよ…‼︎」
「だから、私は走り屋なんかじゃないって…」
「走り屋じゃねえだ…?」
「ヒッ…⁉︎」
トレノのその言葉にアールが遂にキレる、トレノに掴み掛かったアールにレビンは悲鳴をあげた。
「ふざけんなァ‼︎あんだけの腕持ってて走り屋じゃねえだと⁉︎ナメた口聞いてんじゃねえぞ‼︎」
「別にナメてなんかないよ…それに、私は本当に走り屋じゃないから、ただ家の仕事の手伝いで峠を走ってただけで、やりたくて走ってる訳じゃない」
「クソッ…何処までも減らねえ口だな‼︎ムカつくぜ…こうなったら問答無用だ‼︎」
「来週の土曜!何があっても絶対に秋名に来い‼︎来なかったらお前のその寝ぼけた顔をボコボコに殴り飛ばしてやる!覚悟しやがれ‼︎」
捨て台詞を吐いたアールがその場を後にする、アールがトレノに挑戦状を出したこと、そしてそれをトレノが断ったこと、2つの衝撃的な事態に周りは騒然としていた。
「マジ?普通断る?」
「アール先輩に怖気ついたとか?ありえなくない?」
「プロレーサーだし怖がるのも分かるけどさぁ…」
トレノへの批判とも思える意見があちらこちらから聞こえてくる、レビンの耳にもそれが聞こえてきた。
「ま、まずいぞトレノ…やっぱさっきの受けといた方がいいぞ…トレノ?」
返事が無いことにレビンは振り返った、つい今の今までそこにいた友人が、忽然と姿を消していた。
「…トレノ?」