お ま た せ 。
言い訳するとGT7のアプデで執筆サボってました、EG6にR31スカイラインにNSX来たのでつい入れ込んじゃいました、すいません。
また長くなるので2話に分けます。
「(ひ、引っかかった〜!)」
「見事なくらいに母親と同じリアクションだぜ…全く親子そっくりだな」
トレノが退出した事務所で結衣はそんなことを呟く、彼女が友人のフミをそそのかす為に昔から使っていたやり口だ、お前じゃ勝てない、相手は凄すぎる、こう煽ることによって負けず嫌いなフミは勝手に引っかかってくるという訳だ、そしてそれは娘であるトレノにもしっかりと受け継がれていたようだ。
「あの対抗心メラメラの目、何度見たことか、あれじゃ誰が止めてもバトルするだろうなぁ」
「楽しくなってきたぞ〜…明日、私も秋名に見に行くか」
尻尾が上機嫌に揺れる、結衣は再びしまっていた電子タバコを取り出し喫煙へと戻った。
バトル前日の秋名山、明日のバトルの影響か峠道はいつもより賑わっておりギャラリーや走り屋ウマ娘が場を沸かせていた、そしてそこに主役と呼ぶにふさわしい者達が駆けていく。
「うぉ!来た来た!アールスカイライン!中央走り屋チームナイトキッズの登場だぞ!」
アールを先頭に列を成した走り屋達が夜道を攻めていく、グリップで正確なラインを描き曲がっていく、現役プロレーサーの走りに周りは歓声を上げる。
「凄ぇ立ち上がり!まさにプロの走りだ!」
「流石の秋名の芦毛でも、あんだけ速い加速じゃ厳しいんじゃねえか?」
「挑戦状断ったって噂聞いたぜ、そりゃプロ相手じゃ誰だって断るよ」
「あのGT-Rのウマ娘だ、中央でも勝てるのは少ねえのに、地方のウマ娘じゃ無理だよ」
観ていたギャラリーからそんな声があがる、あのアンフィニイエローに勝った秋名の芦毛でもGT-Rのウマ娘には勝てないだろう、しかし何処からかその真反対の意見も出てきた。
「いや、あの芦毛ならもしかしたらあるかも知れないぞ、なんたってアンフィニイエローに勝ったんだからな!」
「あぁ、あのもの凄ぇドリフトで抜いちまうかも知れない、明日が楽しみで眠れないぜ!」
「あの芦毛なら絶対来る!鳥肌もんのドリフトをこの目に収めるんだ!」
秋名の芦毛への期待の声が聞こえる、地方のウマ娘が中央に勝つ、そんな夢にも思わなかったことを成し遂げた彼女は今やヒーローだ、秋名、そしてその他の場所、SNSでも、明日のバトルへのボルテージが上がっていく。
「(覚悟しろよ…秋名の芦毛)」
「(ドリフトなんてのはギャラリーを沸かすだけの見せ物にすぎねぇ…オレはGT-Rに入ってそれを嫌というほど分からされた…真に速いのは、ドリフトを卒業したグリップ使いだ…!)」
「(待ってろよ…秋名の芦毛もサバンナの野郎も、全員オレがぶっちぎってやる…峠でもサーキットでも、最速はこのアールスカイライン1人だけだ‼︎)」
秋名の曲がりくねった峠道に彼女のテールランプが輝く、ギャラリーの歓声が木霊する夜道、バトルの時間まで丁度24時間を切っていた頃だった。
「えぇ⁉︎トレノ、それ本当に言ってるのか⁉︎」
「はい、今日、私行きますよ、相手がそんな凄い相手だと、逆にどこまでなのか見てみたくなるんです、私、誰が止めようと行きますから」
バトル当日、午後のシフトに入っていたトレノはライム達にそう告げた、昨日まで乗り気では無かったトレノがいきなりそんなことを言い出した為、ライム達は嬉しさより困惑が勝ってしまっていた。
「…お、おいレビン…トレノの奴どうなっちまったんだ…?」ヒソヒソ
「わ、分かんないすけど…でもああなったトレノは例え脚が折れてもバトルに来ますよ…アイツ、昔から一度決めたことは絶対に曲げない頑固者っすから…」ヒソヒソ
「…まぁ、分かった、ありがとうなトレノ、お前には感謝してもしきれないぜ…でも無茶だけはするなよ、相手はあのアールスカイラインだ、無事に麓まで降りてきてくれればアタシ達は大満足だからよ」
「はい…でも、例え相手がプロでも、私負ける気はありませんから」
そう言い放ったトレノ、真剣な眼差しからは冗談を言っているとは思えない、ライムとレビンは顔を見合わせるとゆっくりと頷き、ライムは彼女の肩に手を置いた。
「任せたぞ、トレノ」
「…はい」
「とは言ったけど…」
バイトから帰ったトレノは家に着き、いつもは明かりがついている店の前へと立っていた、しかし普段とは異なり扉の前には『事情につき臨時休業。』との貼り紙が貼られていた。
「ただえさえ客少ないのに、ちゃんと働けよなヤニカス母さんめ」
扉を開け中に入る、人の気配はなく家の方にもフミは居なかった、勝負服一式が入っているクローゼットを開けたトレノは疑問をあげた。
「…あれ」
勝負服、リトラのヘッドライト、テールランプ、そしてあともうひとつ、肝心の蹄鉄シューズが無い、何処を探しても隅々まで見ても、そこにはシューズの影もなかったのだ。
「…っはぁ⁉︎無い⁉︎無い‼︎シューズが…どこ行った⁉︎」
慌てふためくトレノ、家中を駆け回り探したが蹄鉄シューズの姿は無かった、トレノの顔が青ざめていく。
「どうしよ…あんな啖呵切って行くって言ったのに…これじゃ…」
脳裏によぎるライムやレビンの顔、そしてトレノにとって一番嫌なこと。
「まるで逃げたみたいじゃんかー‼︎」
店の中で彼女の叫びが響いた。
「すげえ人…とんでもねえギャラリーだぞ…」
秋名峠、バトル開始1時間前になり既に山頂や峠道の端には夥しい程の見物客が並んでいた、スタート地点にはアールを中心とし、既にナイトキッズのメンバーが勢揃いしていた、そしてその峠道から歓声が上がる、栗毛と白毛のウマ娘を先頭に上ってくる集団、レッドサンズだ。
「レッドサンズの峠最強姉妹‼︎アイツらも今日のバトルを見に来たのか⁉︎」
「そりゃそうだ、自分達が負けた相手がライバルチームと戦うんだ、今回のバトルはレッドサンズとナイトキッズのプライドのぶつかり合いでもあるんだ!」
「レッドサンズまで来ちゃったっすよ⁉︎トレノの奴、まだ来ないすけど…大丈夫なんすかね…?」
「…大丈夫、アイツはきっと来てくれる、前回も来てくれたんだ」
いつまでも姿を現さないトレノにスピードスターズは内心焦りを感じていた、尚集まるギャラリー、ナイトキッズ、そしてレッドサンズのプレッシャーがライム達にズドンとのしかかる。
「…居ねぇな、あの芦毛」
「焦んなよアール、アイツが恋しくなったか?」
「バーカ、アイツが逃げ出したんじゃねぇかと思っただけだ」
横にいた赤い勝負服のウマ娘の挑発にアールは適当に流した、ダメージジーンズに薄手のインナー、GT-Racingの黒いミリタリージャケットを羽織い蹄鉄のシューズにはGT-Rでの彼女のナンバーであるR32の文字が刻まれている、ヘッドライトと特徴的な丸目4灯のテールランプを装着した戦闘態勢の彼女は中々姿を見せないバトルの相手を今か今かと待ち続けていた。
「チッ、あの野郎怖気つきやがったか…?」
「…」
一方こちらはレッドサンズ陣営、同じくトレノの姿がない事にイエローは苛立ちを覚えている、サバンナは一貫して沈黙、時間は刻一刻と過ぎていき開始30分前にまで迫った。
「トレノの奴何してんだよ!LANEの既読もつかねえし…まさか本当に来ないんじゃ…」
「そんなことは…トレノ…」
「(どうすっかなー)」
自室のベッドに寝転がり天井をぼけっと見つめていたトレノ、峠に行こうにもシューズがなければ話にならない、半ば諦め気味の彼女はチームへの言い訳を考え始めていた、その時だった。
ブォォオン…
ピクンと耳が反応する、聞きなれた重低音、窓を見ると駐車場に入ってくる1台のスポーツクーペ、フミだ、トレノが駆け足で外へと出ると車から出てきたフミの手にはトレノの蹄鉄シューズがあった、目を見開きソレを指さす。
「母さん…それ!」
「今日のバトルに備えてちょっと弄ってきたんだ、もう時間だろ、これ履いて早く行って来い」
「ッ!…先言えよな!私、家中探してもなかったからどうしようて思ってたのに」
「わりぃわりぃ、忘れてた」
「こんのヤニカスウマがぁ〜…!」
一切誠意の無い適当な謝罪にトレノが顰めっ面をする、長いため息をした後、トレノはフミからシューズをひったくりそれに履きかえる。
「はぁ…それじゃ、行ってくる、母さん」
「…おう」
ライトを展開しトレノは秋名峠へと駆け出して行った、娘の背中をじっと見つめるフミは煙草を取り出して火をつける、辺りに漂う白煙に囲まれながらトレノの姿を見送っていた。
「…目付きが違った、ったくどうなっちまってんのかな、アイツが自分から峠行きたがるなんてな」
「残り5分だ…まずいな」
「トレノ…どこ行っちまったんだよ…!」
9時前、ライム達の冷や汗がダラダラと落ちる、トレノが一向に来ないのだ、ライムはスマホの時計を細かく気にし、レビンに至っては泣きそうになってしまっている。
「…もしトレノが来なかったら、ナイトキッズの奴らに謝るしか無いな」
「そんな…⁉︎こんだけ人を集めてはい来ませんでしたなんて言ったらとんでもない目に会いますよ⁉︎」
「…しょうがないだろ、アイツが来なきゃ、アタシ達はどうしようもない」
「そんな…頼むよトレノ…」
「来てくれよトレノーッ‼︎」
「…何叫んでんだ?レビン」
「「「「ッ⁉︎」」」」
叫んだレビンに誰かが返したその言葉にスピードスターズは一気に振り向いた、そこには白黒の勝負服にリトラのヘッドライトをつけた、そこにいる誰もが待ち侘びていた芦毛のウマ娘が立っていた。
「ふぇ…?トレ…ノ?」
「遅れてごめんなレビン、遅くなっちゃって」
「…トレノ…来てくれたのか?」
「おう、走り屋ウマ娘は挑戦されたら、受けて立たなきゃいけないんだろ?」
「…ぐす…トレノー‼︎私はぁ…私は来るって信じでだぞ‼︎」
「おいおい泣くなって…」
泣きべそをかきトレノに抱きついたレビン、秋名の芦毛がようやく姿を見せたことでナイトキッズ、そしてレッドサンズのテンションが上がっていく。
「来たなアール、秋名の芦毛が」
「あぁ…待ち侘びたぜ」
「来たか、あの芦毛…」
「ハッ、相変わらずギリギリまで来ない野郎だぜ」
時刻は午後8時58分、バトル開始2分前のことであった、中央トレセン公式チャンネルのライブ配信がスタートし、映像には夜の秋名峠が映り始める。
〈お待たせ致しました皆さん!ただ今より中央トレセン"ナイトキッズ"のアールスカイラインvs群馬トレセン"スピードスターズ"のスプリンタートレノ、両者による秋名峠下りのバトルが始まります‼︎〉
チャット欄は無数のコメントが流れていく、同接数は瞬く間に万単位にまで膨れ上がった、あのナイトキッズのリーダーにしてGT-Rのエース、アールスカイラインと新星の如く現れた秋名の芦毛、2人のバトルと言うことでレースへの期待は頂点にまで上り詰めていた。
〈さぁ峠レース恒例、最初はお互いの自己紹介となります!〉
「中央トレセン、ナイトキッズのアールスカイラインだ」
「…スプリンタートレノ、スピードスターズにいる」
「覚悟しろ秋名の芦毛、今日はお前をこの秋名でぶっちぎって見せるぜ!」
会場が湧き上がる、自己紹介を終えた2人は装備の最終チェックを行いスタートラインに立った、スピードスターズ、ナイトキッズ、レッドサンズの3チームがスタートを見守る。
「イエロー、あの芦毛にアールの弱点を教えてやるんじゃなかったのか」
「そのつもりだったがアイツの顔見たらやめた、急に憎たらしくなってきたぜ…それにアイツなら、弱点なんか知らなくたって勝てるさ…アイツなら」
そう言い放ったイエロー、彼女が真っ直ぐ見つめる先にはただ1人、トレノの姿がある、その切れ長の眼差しをじっとスタートを待つトレノに向けていた。
ザワザワ
スタートから数個目のヘアピン、そこのギャラリーの中に結衣の姿があった、いつ始まるのかソワソワしている観衆を横目に結衣はスマホを取り出しフミへと電話をかける。
「…はい藤原豆腐店、なんだ結衣か、お前今向こうにいるのか?今日は槍でも降んのかな、トレノが自分から峠行来たがるなんて青天の霹靂だぞ」
「ハハ、カエルの子はカエルってことだろ、それよりフミ、今日の相手はGT-Rのウマ娘なんだろ?正直な所勝ち目あるのか?」
相手はプロ、しかも現役のエースだ、いくら下り最速のトレノでもスピードやパワーは明らかにアールの方が上、直線で離されてそのまま置いていかれる…と言うことも十分に考えられる。
「トレノに何かアドバイスとかはしたのか?」
「別に何も…ただな、アールスカイラインだっけ…アイツがバトルする相手ってことで向こうの走りを少しばかりネットで見させてもらった、そこで奴には峠ならではの弱点が見つかった」
「峠ならではの弱点?」
「そうだ、それは…」
『あのアールの弱点は…』
「「奴のスピードとパワーそのものだ」」
サバンナ、そしてフミの声が異なる場所で重なる、本来アールの長所である筈の2つ、フミとサバンナはそれを弱点と言い放った。
「スピードとパワー?そりゃ向こうの長所じゃ無いのか?」
「確かに奴の加速は凄まじい、四駆の車みたいにグングン速度を上げていきやがる…ただ峠の下りでは、かえってそれが奴に牙を向く」
「強力な加速をするということはその分強力なブレーキングが必要ってことだ、それに、ネットの動画を見た所、奴はコーナー限界まで速度を引っ張る癖がある、サーキットとかの平地じゃそれでも問題ないが、峠の下りじゃ別だ」
『速度を出せばその分コーナーでのアンダーステアも強まる、急激な加速と急激なブレーキングをこの秋名の急な勾配で続けていれば、いくらGT-Rの奴でも必ず蹄鉄がたれて脚への負担が蓄積していくはずだ』
「麓まで降りてくる頃には蹄鉄が言うこと聞かなくなるし脚はパンパンになるしで、コーナーの入り口でアンダーと格闘するようになってる筈…勝機があるとすれば、後半の突っ込み勝負だ」
『そこまであの芦毛がアールに着いていけるかだが…見ものだな。』
2人のウマ娘、2つの場所でアールスカイラインの弱点が暴かれる、どちらも当の本人とバトルするトレノには届いていない、バトルはお互いのチェックが終わりカウントダウン前へと入っていた。
「トレノの靴なんだがな、蹄鉄のセッティングを少し変えた」
「蹄鉄を?どんな風にだ」
電話越しに結衣が問いかける、昔ながらの固定電話を耳に届くよう肩と顔で挟み、煙草にライターで火をつけながらフミはゆっくりとそれを話す。
「…
そう説明したフミ、
「な、なに⁉︎
「分かってねえな結衣、腕さえありゃドリフトはアンダーの足の方が速く曲がれるんだよ、豆腐の配達の関係で普段はちょっと妥協したセッティングにしてあるけどな…」
「…けど!そのことトレノには言って無いんだろ⁉︎アイツ、バトル中いきなり挙動が変わって困惑しちまうぞ…?」
「言ってもしょうがねぇんだよなぁ、頭で考えて走り方変えていけるほど賢い奴じゃねえから」
「だったら尚更…」「けど」
結衣の言葉を遮りフミは説明を続ける。
「頭は賢くねえけど、アイツの身体に染みついた技術は確かだ、ちょっとくらい足弄ったってアイツには関係ねえよ」
「フミ…」
「トレノなら走りこなすさ、秋名は、ウマ娘を育てる峠だからな」
「カウント行くぞーッ‼︎」
頂上に響くライムの声、今回のカウントダウンはライムが担当することになり2人を前にライムは腕を振りあげる。
〈さぁいよいよバトル開始です!カウントダウンが始まります!〉
「5秒前‼︎」
「4、3、2、1…」
「GOーーーッ‼︎‼︎」
掛け声に2人同時に飛び出す、ライムを挟みスタート直後の長いストレートへと入っていく、先頭はアール、追いかけるようにトレノ、前回のイエロー戦と同じ展開で進んでいく。
〈始まりました秋名峠のダウンヒルバトル!先頭はアールスカイライン、2バ身離れてスプリンタートレノ、共に好調な駆け出しです!〉
速度を上げる2人の後ろを数台のドローンが追いかけていく、機体にはレッドサンズのロゴ、配信用のドローンとは別にサバンナが用意した自前のドローンだ、レッドサンズ陣営では数枚のモニターが配置されそこにアールとトレノの姿が隙間なく移されている。
「シンデレラ城のミステリーツアー出発、特等席からバトルを見物させてやる、イエロー」
「…」
モニターの前に座る姉妹2人、イエローはトレノが映るモニターの映像を真剣な眼差しで食い入る、スピードスターズ、ナイトキッズ、そしてレッドサンズ、3つのチームのプライドのぶつかり合いでもある秋名でのダウンヒルバトルが、今幕を開けたのであった。
続く。
GT-Rの弱点はちょっとだけ変更しました。