3分割の2つ目は、第五詩以来久々のリンデ弱音回です。
前回団長からの追撃を振り切ったリンデ。
今回はそんな彼女が『パテル』へ帰還した後のお話です。
あと、前回同様アンチ・ヘイト注意です。
これも前回言いましたが、別に筆者は団長の事、嫌いじゃないです。
ただし、この小説は『リンデとミカ』が主軸です。なのでまぁ、あんな事言っちゃった以上、必然的にミカ達からは、ね。
そういう訳で前回も書きましたが、しばらくの間彼女には損な役目を担ってもらう事になります。ご了承下さい。
それではどうぞ!
「―――ただいま戻りました・・・。ハァ・・・。」
「あっ、おかえりリンデちゃん。って、大丈夫? なんか疲れてない?」
「おかえりなさい、リンデ先輩。大丈夫ですか? 何かありましたか?」
一方、ミネの襲撃を振り切ることが出来たリンデは、少し疲労を感じながら『パテル』の執務室にへと帰還していた。しかし帰還して早々、妙に疲労しているリンデを見て心配するミカとカナギに、リンデは何があったかを簡単に説明した。すると、ミカが呆れながら、机に持って帰ってきた医療薬品をおいてソファに座り込むリンデの頭から帽子を脱がせると、リンデに膝枕をしてあげながら、いつもとは逆にミカがリンデの頭を撫で始めた。
「あ〜、またミネちゃんか。リンデちゃん、だから私か誰かがついて行こうか、って言ったのに。」
今回の医療薬品受け取りに際して、ミカはこの条件を提示された時点で何となくこうなるのではと思い、リンデに自分か他の誰かをつける事を提案していたのだが、リンデがこれは自分とミネの問題だからと言って聞かず、結局ミカが折れる形で彼女を送り出したのだ。
だが、結果としてリンデが疲れているのを見ていると、あの時折れずについていけばこうはならなかったのではないかとミカは考え、先の発言をしたのだが、リンデとしてはおそらく変わらなかっただろうと思っていた。
「ミネのあの態度は、おそらく誰がいても変わらないと思います。以前からずっとそうでしたしね。」
「以前、とは何時からそのような感じなのですか?」
「・・・具体的には覚えていませんが、今年の夏頃からだったと思います。」
カナギの疑問に、こめかみを抑えながら答えるリンデ。今年の夏頃というと、もうそれなりに期間は経っているはずなのに、それでもなおこれほど付き纏われている事にカナギは驚きと共に、少し怒りが湧き始めていた。
「それほど前から、ですか・・・。ですが、素人目でもリンデ先輩は健康そのものの気がします。穿った見方になりますが、逆にミネ団長がリンデ先輩をわざと疲れさせようとしてないかとすら、考えてしまいます。」
「だね。正直、これ以上続くようなら『ティーパーティー』から正式に抗議してもいいんじゃないかな?」
そして、ミネの行動に納得がいってないのはミカも同じなようで、リンデの頭を撫でながらも、やや言葉の端に怒りが見え始めていた。すると、それを受けてリンデが二人を鎮めようと声を上げた。
「カナギ、それは決して『救護騎士団』の前で言ってはいけませんよ。それとミカ、そこまでする必要はありません。これはあくまで私と」
「リンデちゃん、辛いなら辛いって言ってよ。」
「っ、ミカ。」
しかし、リンデの言葉を途中で遮るように、ミカの声が割り込んできた。ほんの少し、まだ怒りが残ってるようなその声には、心配する気持ちが多分に含まれていて、リンデは撫でられながら困惑していた。
「そうです、リンデ先輩。こういう時にそういう優しさはいりません。私達にも、力にならせてください。でないと、何時まで経っても恩返し出来ませんから。」
「カナギまで・・・。」
追い打ちをかけるように、カナギの黒い瞳が、ミカに膝枕されてるリンデを見つめてくる。その目はほんの少しだけウルッとしていたが、同時にリンデの事を心配しているのがよく伝わってきて、リンデはまた少し戸惑っていた。
これは本来、自分とミネの問題であって、『ティーパーティー』で議題に挙げてまで『救護騎士団』との問題にするほどの事ではない。なのに、二人は本気で自分を心配してそこまで考えてくれているのかと思うと、戸惑いと同時にどうしようもなく情けなくなってしまい、申し訳無さが込み上げてきて。
―――気がつけば、謝りながらポロッと弱音が零れていた。
「・・・ごめんなさい。個人の問題すら、まともに解決出来なくて。情けないですね、私は。」
「リンデ先輩、それは違います。この問題を、無理に個人の問題として抱え込まなくていいんです。もっと私達を頼ってください。」
「そうだよ。それにリンデちゃん、全然情けなくなんかないよ。 嫌なことがあっても全然表に出さずに、いつだって私達を助けてくれてるじゃんね。そんなリンデちゃんが情けないなんて事、絶対にないから。ね?」
「ですが」
「ですがも何もないです。それに、今のリンデ先輩は嫌な事があって、少し疲れてるんです。今日ぐらいミカ様に甘えても、構わないと思いますよ。」
「カナギ・・・。」
リンデの口からついて出た弱音に、そんなことは無いと否定するカナギとミカ。それでも自分が、となりそうなリンデの言葉を遮るように、カナギが今日くらいはミカに甘えても構わないと言った。それに同意するように、ミカも言葉を続ける。
「そうそう、いつも甘えさせてくれるんだから、リンデちゃんも今日くらい寄りかかってよ。というか首長命令! リンデちゃんは今日一日、私に甘えて休むように! 私も休めるし、Win-Winだよね!」
「・・・命令、ですか。そんなに疲れてるように見えますか?」
「うん。」
「はい。というより、自分がらしくない弱音を零している時点で気づいてください。」
「・・・・・・。」
ミカに休めと命令され、更にカナギに弱音を零している事を指摘されて、リンデは黙り込むことしか出来なかった。それを肯定の沈黙と受け取ったカナギは、リンデが机に置いた医療薬品を抱えると、ミカにあとを任せて執務室を出るのだった。
「では、これらの片付けはこちらでやっておきます。ミカ様、リンデ先輩をよろしくお願いします。」
「オッケー、あとは任せて☆ ありがとね、カナギちゃん。」
ミカの言葉に一礼して、執務室を出るカナギを見送ると、ミカはリンデの頭を撫でる事を再開した。改めて上からリンデの顔を見ても、確かにいつもに比べて少し疲れているようにミカは感じた。そんなリンデに優しく語りかけるように、ミカはリンデの頭を撫でながらまた話しかけた。
「カナギちゃん、いい娘だよね。ナギちゃんみたいに真面目な所もあるけど、必要以上に口出ししてこないし、今みたいに気を使うことも出来るしさ。あんな後輩に思われてるって、リンデちゃん幸せものだね。」
「・・・そうですね。」
少し間をおいて、リンデがそう返事した。しかし、その間に含まれている言葉を、ミカはすぐに読み取った。
「今、自分にはもったいないとか考えたでしょ?」
「えっ?」
「そういう顔してる時のリンデちゃんが思う事、もうだいたい分かってきたよ。ねぇ、どうしてそう自分ばっかり責めるの?」
暗い顔をして目を伏せる時、リンデは大抵自分を責めるような事ばかり考えているのをミカは知っていた。自分がリンデを『お日様』のようだと褒めた時。自分が素直な好意を伝えた時。何故か決まってリンデはそういう表情をする。まるで自分には、その資格はないと言うように。
だが、ミカにとって『お日様』と呼べるのはリンデだけで、こうやって素直に甘えて好意を示す相手もリンデしかいない。ナギサやセイア、ヒフミ、それに加えて最近はカナギや『事務方』の娘達も好きではあるが、ここまで素直な好意を伝えたい相手はリンデだけなのだ。なのにそれを、自分が受け取ってはいけないかのような反応をされると、どうしたら良いか分からなくなってしまう。そう思って、改めてミカはリンデに語気を少しだけ強くして問いかけてみたのだ。
―――問いかけられたリンデは、微動だにせず沈黙を貫いていた。その沈黙にそろそろ耐えかねてミカが再度尋ねようとする直前、リンデはミカに逆に問いを投げかけていた。
「・・・・・・ねぇ、ミカ。」
「ん?」
「・・・私は、間違っているのでしょうか?」
「っ、急にどうしたの? 今日のリンデちゃん、明らかに変だよ? 大丈夫?」
普段なら聞かないような、暗く沈んだ声音で問いかけてきたリンデに、ミカはただ事ではない気配を感じた。これがいつものリンデであれば、言葉を濁しながらも何とか答えようとしてくれるはずなのだが、今のリンデはまるで、暗闇の中で一人蹲って、泣く事すら出来ずに閉じこもっている子供のようにも見えた。帰ってきた時に比べて、更に弱り果てたリンデを見ていられず、ミカは自分の問いを引っ込めてリンデの事を心配した。
すると、リンデはその状態のまま、ミカに今自分が考えている事をボソボソと話し始めた。
「・・・すみません。弱音を零してしまったから、でしょうか。ミネに言われた事が、頭に引っかかってしまって。」
「なんて言われたの?」
「・・・『歪んでいる』、と。」
「えっ?」
「私は歪んでいて、その『歪み』がいずれ私だけでなく、ミカ達も破滅させると。そう言われました。」
淀んだ瞳でそう告げるリンデに、思わず絶句してしまうミカ。と同時に、リンデにそんな事を言わせる原因となったミネに対して、ミカの中で暗い感情が湧き上がり始めた。だが、その思いを表に出してしまったらきっと、さっきみたいにリンデはまた自分の気持ちを溜め込んでこちらを優先してしまう。それをさせないために、首長命令なんて面倒な言い方をしてまでリンデを甘えさせて休ませているのに、そうなっては本末転倒だ。
だからミカは、自分の中で湧き上がってきた暗い気持ちにグッと蓋をして、リンデを励ますことを優先した。
「・・・リンデちゃんは何処も歪んでなんかないよ。ましてや、間違ってるなんて絶対ない。リンデちゃんがどれだけ私達の事を思ってくれて、優しくしてくれてるか。私は知ってるよ。だからそんなリンデちゃんが間違ってるなんて、歪んでるなんて、絶対にあり得ないから。」
「ですが、その『歪み』のせいで私だけでなく、ミカ達も破滅させると」
「そんな事は起きないし、起こさせないから。ねぇリンデちゃん、それ以上ミネちゃんの言っていた事なんて、考えなくていい。きっとミネちゃんの早とちりだって。だから、今日はゆっくり休んで、明日からまた甘えさせてよ。ね?」
ミネの言う『破滅』を考えるあまり、悲観的になってるリンデの言葉を遮ってミカはリンデの頭を抱き抱えるように手を回して、自身の胸に押し当てた。いつもとは逆に、自分の胸の鼓動を聴かせるように。
すると、だんだんリンデの雰囲気が落ち着いて、入ってきた時の少し疲れた顔をしていた状態くらいには回復した。ミカの鼓動を直に感じて安心したからか、リンデの瞼は徐々に重くなっていった。
「・・・分かり、ました。では、お言葉に甘えて。」
―――やがて、自身の眠気に勝てないと悟ったのか。リンデはミカに聞こえるかどうかの声でそう呟いて、瞼を閉じてスヤスヤと眠り始めた。先程までの重苦しい雰囲気はそこにはなく、年相応かそれより少し幼いような表情は、ミカに抱きしめられてる構図も相まって、いつもとは逆にミカに甘える妹のようにも見えた。
「・・・寝ちゃったかな。フフッ、可愛い寝顔。」
そんなリンデの寝顔を見ながら、スヤスヤと眠るリンデの頬をプニプニと触って小さく微笑むミカ。正直、リンデの弱った姿を見た時は心配で胸が張り裂けそうだったが、ミカの心は今不思議と落ち着いていた。さっきまで湧いてきていたミネへの悪感情も、何だか何処かへいってしまったようだった。普段の凛とした、大人びた姿からは想像出来ないあどけないリンデの寝顔を見たからだろうか。だとしたら随分と現金な性格をしているなと、ミカは自分のことながら少し呆れてしまった。
(それにしても、リンデちゃんのこんな姿、今まであったっけ? まぁ珍しくはあるんだけど。)
膝枕の姿勢に戻ってリンデの頭を撫でながら、ミカは心のなかで思い返していた。珍しい、どころか学園でのリンデを知ってるものからすると、想像できそうにない一面である。ただ、ミカはこんなリンデを見るのが初めてではないような気がして、記憶の中を少し探っていた。
(―――あっ。)
―――そして、その答えはすぐに見つかった。
(そうだ。私がリンデちゃんと、初めて会ったあの日だ。)
―――それは、ミカとリンデの始まりの刻。
二人が出会い、こうやって仲睦まじく語り合い、互いに無二の親友となるきっかけとなった、夏の夕暮れ時。
(そういえば、季節は違うけど。あの時も、こんな夕暮れ時だったよね。)
ミカが窓の外を見ながら、あの頃の記憶に思いを馳せた。
次回、初めての過去描写入ります。ご期待ください。
個人的にはリンデミカ、よりもミカリンデ派です。
言いやすいのもあるけど、何だかんだ重要な場面ではミカの方がリードしそうなので。
まぁ、弱ったミカをリンデが押し倒しちゃって、「その、優しく、してね?」なんて言われるシチュも、それはそれであり、かも?(;^ω^)
感想・評価、ここすき、誤字・脱字報告お待ちしてます。 いつも通り、返せる分は返信しますので、よろしくお願いします。
それではまた次回!