今回は前回の予告通り、下記描写回です。
タイトル通り、3話前の過去描写回のリンデ視点です。
なので今回も大半一人称です。そして文章量が1万超えです!
かなり詰め込んだので長くなりましたが、よろしくお願いします!
今回は珍しく多機能フォームフル活用で文字色、背景色多めで描写させていただきました。良かったら意見とか貰えると幸いです。
また、初の歌詞付き回です! フォント変えてる所が曲の歌詞なので、その歌詞がある辺りはその曲を歌ってるものと思っていただければ。良かったら聞きながら見てください。
それでは、どうぞ!!
「・・・あら、ここは。」
春の夕暮れに照らされながら学校への帰途についたリンデは、ふと視界を右へ向けた。
そこは、何の変哲もない芝生公園で、昼間などは一般市民や学生達で賑わっていたり、露店販売が並んでいたりするような、そんな何処にでもありそうな普通の公園である。
だが、リンデにとってそこはただの公園などではなく―――
「―――懐かしいです。そういえば、ミカと出逢ったのも、こんな夕暮れ時でしたね。」
―――ミカと、己の『最推し』にして『太陽』/『月』/『一番星』で、替えのない唯一無二の『輝き』とこの世界で初めて出会い、そして救われた大切な場所であった。
(あの時、荒れに荒れて、暗闇の中を彷徨っていた私の心を救ってくれたのが、ミカだったんですよね。)
当時のことは、目を閉じればすぐに浮かんでくる。何の因果かこの『キヴォトス』に『エルフリンデ』の姿と力を得て転生を果たし、この世界で『エルフリンデ』のように生きてみせると意気込み、そのハードルの高さと自身の凡愚さ加減に絶望して荒んで、大好きな歌を欲求不満の捌け口にするほどまでに、その頃のリンデは精神的に追い込まれていた。
当時の事を振り返ると、何故そんなに荒れていたのか自分でもよくわかっていないのだが、おそらく身体の年齢に精神が引っ張られてたのかもしれないとリンデは推測していた。今となってはリンデの中で、ミカに出会うまでの自分はほぼ黒歴史と化しているのだが、この時の事だけは、いつまで経っても色褪せることはなく、リンデの心の奥底で『太陽』のように自身の心を温かく照らしていた。
「・・・誰も、見てませんよね。よし。」
そんなリンデだか、ふと周りを見渡して、誰もいない事を確認すると、公園の真ん中へと足を進めた。そして目的の場所につくと荷物を下ろし、徐ろに右手を軽く握って前に、左手も同じく軽く握って胸に当てて、足は揃えて目を閉じ、顎を引く姿勢をとった。そして、足でテンポをとると、そのテンポに合わせてブレスをとって、歌い始めた。
―――まるで当時の記憶を、懐かしむように。
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鉛のような体を引きずって
当てもなく歩く夜明け前の街
流れ出たものはとうに枯れ果てて
空になった心だけ残っている
何も知らないままで
生きていたかったな
いつか
また
朝が来ればきっと
うまく笑えるだろう
(フフッ、意外と覚えているものですね。久しく歌っていなかったというのに。)
甲斐甲斐しくも凛々しく、厳しくも優しい彼女の『
こんな事をいうと彼女やこの身体の本来の持ち主―――『エルフリンデ』に失礼かもしれませんが、私はこの詩を、自分の中で第2の『詩』だと思っています。
転生してからの日々、それは、『前世』で期待に胸躍らせたいくつもの物語達のように、綺麗で華々しいものでは決してありませんでした。
いくら外面の姿が素晴らしくても。
声がどれほど美しくても。
どれだけすごい力を持っていたとしても。
それを扱う自分自身が『凡愚』であるのなら、全て意味のない、『無用の寵物』でしかないと突きつけられた時、私は思わず、泣き叫びたくなるほどの絶望を感じました。
転生した当時、最初は姿形の素晴らしさや声、そして持ちうる力に感激して、この姿に恥じない、いや、この姿をした『彼女』のように生きてみたいと思っていました。しかし、当時の私ではまだ幼いただの少女でしかなく、出来る事などたかが知れていました。
知識も力もあるのに、それを十全に活用するための肉体が幼い故に、周りの子供に合わせて学校に通わなければならず、当然転生した当初は知識の高さから、小学生の勉強など退屈で仕方なく、周りの生徒達と合わせるという器用さも持ち合わせていなかった私は、徐々にクラス内から孤立していく事となりました。
最初はそれでもよかった。ただ自分の目指す未来に、誰かと並び立って歩く必要は必ずしもないだろうと、勝手に思っていましたから。今思えば、これも一種の強がりで、傲慢だったのでしょう。自分の方が知識も力もある。だからわざわざ合わせてやっているのだと。そんな風に驕っていたのです。
けれど、『エルフリンデ』として生きる為に最も重要な『祈り』を捧げるという行為において、私はあまりに無知でした。
元々、『前世』で何かに祈るという行為を日常的に熟していた訳では無い私が、その行為を行った所でただの猿真似にも満たない何かにしかならず、その事を理解した私は、理想と現実のギャップに愕然としました。
更に、当時の私は幼い身。あの長大な『ロンギヌスの槍』を扱うことなど当然できず、銃なんて握ったこともなければ、撃てても的に碌に当てられない。そんな状態でした。
―――そして何より、『トリニティ』では何かしらの式典や儀式、祈りの時間に『歌う』という行為が身近にありました。それ故に、この身に宿る歌声もまた、そういった式典等では全員で揃える以上目立つわけにもいかず、結局趣味で一人歌う時くらいしか役に立つことはないという事に気づいてしまいました。
―――何故、どうして。
―――苦しかった、何の役にも立てなかった『前世』から、ようやく解放されたのに。
―――何故私は、また苦しんでいるんですか?
―――何故私は、また無力感を味わっているんですか?
―――あぁ、神よ。いるなら答えてください。
―――どうして私は、こんな姿で、こんな声で。
―――こんな力と知識を持って、また苦しい生を生かされているのですか!?
――――・・・答えて、ください。答えてよ・・・。
―――だれか、たすけて・・・・・・。
神へと『祈り』を捧げる時、いつからかずっと、こんな風に問いかけ続けていました。しかし、答えなど当然降ってくるわけもなく、いつからか私は、この身体に似つかわしくない思考と、諦観を抱いていました。
―――この世界に、希望なんてない。
―――神など、この世界の何処にもいやしない。
―――私の居場所なんて、何処にもない。
―――誰も私を助けてなんて、くれないんだ。
―――こんな世界、滅んでしまえば・・・。
そんな鬱屈とした気持ちを抱えていたある日。天気予報なんて見てなかった私は、夕焼けをぼうっと眺めている間に雨に降られ、呆然としていました。
「・・・フッ、フフフ、アハハハハ。」
そして、やがて何かに耐えきれなくなった私は、乾いた笑みを浮かべて、嗤っていました。そして、何を思ったのか。今歌っている『詩』を歌い始めました。
―――世界に自分の絶望を、吐き捨てるように。
人の優しさを知るたびにきっと
いつかは離れていってしまうのと
無償の愛など存在しないと
言い聞かせ目を閉じれば忘れると
―――あぁ、そうだ。誰も私に、優しくなんてしてくれない。
―――ずっと側で一緒にいてくれるなんて保証はない。
―――何より、無償の愛なんてこの世に存在しない。
―――そんなこと、『前世』にいた頃から嫌と言うほど知っていたはずだ!
あぁ、何で今更求めてしまったんだろう。
転生すれば、理想だった、憧れだったあの物語の主人公達のようになれると?
皆に求められて。皆に愛されて。皆に、世界に必要とされる!
そんな存在に自分がなれると、本気で思っていたなんて・・・。
―――バカだ。本当にバカだ。バカの極みすぎる。こんな簡単なことにすら気づかないなんて。
『凡愚』は何処までいったって『凡愚』のままだ。汚れた『石』をどれだけ磨いたって、珠玉の『宝石』になんてなれやしない! 『魔法使い』も『神様』も、この世界の何処を探したって、求めたって! そんなご都合主義のようなものは存在しない!!
あぁ、だったら私は・・・、何も知らず、誰も知らないまま生きていたかった。
どうしてこんな『姿』で。
どうしてこんな『声』で。
どうしてこんな『力』を持って。
どうして『前世』なんて知識を抱えたまま。
どうして。
どうして。
――どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして―――――
―――どうして!? 私は、何も―――
「『掴めないんだ』!?」
―――天に向かって吠えるように、私はそう叫んだ。もう、サビの最後まで到達した時には、私の感情がぐちゃぐちゃになっていた。これ以上歌う気も、もう失せかけていた。息を荒々しく吐きながら、雨とともに流れる涙も気にすることなく、私はずぶ濡れのまま、天を見上げていた。
―――そんな時でした。誰かが話しかけてきたのは。
「君、どうしたの〜? こんな所で。何でそんな辛そうに歌ってるの?」
「・・・・・・。」
こんな時に誰、と、私は胡乱げに声の方へ視線を向けました。傘をさしてて顔はよく見えませんでしたが(そもそも涙と雨で視界は最悪でしたが)、声の感じからして幼そうな感じだったので、同年代くらいかと勝手に決めつけていました。後にして思えば、雨が降ってることを加味しても、声である程度原作キャラだと判断できる材料はあったのですが、当時の私にはその余裕がありませんでした。
そして、普段であれば無理にでも『エルフリンデ』の話し方をエミュレートして、丁寧に話す事を心掛けていた私でしたが、あいにくこの時にはもうそんな余裕すらもなく、ただ感情のままに言葉を叩きつけていました。
「・・・関係ないでしょ、あなたには。」
乱暴にそう返して、彼女から早く距離を取ろうとした私でしたが、その少女はあろうことか私を捕まえて、さらに話しかけてきたのです。
「ねえねえ、傘持ってないの? そのままじゃ風引いちゃうよ? ねえ、私の傘空いてるし、良かったら」
「っ、関係ないって言ったでしょ!!」
矢継ぎ早に言われる言葉の意味も理解することなく、私は彼女の傘ごと手を振り払いました。そして気がつけば、相手の顔も表情も理解することなく、私はただ己の感情を爆発させていました。
「さっきから何なんだよお前! 何も知らないくせに、同情でもしてんのか!? やめろよ、そうやって希望をちらつかせるの!! どうせ助けて自己満足したら、お前も私のことなんて忘れてどっか仲のいいやつのとこでもいくんだろ!? だったら最初から突っかかってくんな!! お前みたいなのが一番腹立つんだよ!! この世界に希望なんて何処にもない! 神様なんてご都合主義なものはどこにも存在しない!! 私の居場所なんて、この世界のどこにもありはしないんだ!!! だからそうやって無意味に手を伸ばそうとすんなよ!! 希望抱かせようとすんな!!
もう、もう放っといてよ!!」
最後の方はもう、涙と金切り声でひどい声になっていました。でも、当時は正直それで喉が潰れようが構いませんでした。『前世』では大好きだったこの『声』の持ち主には申し訳なかったですが、私はもう、この『声』を自分のものだと受け入れたくなかった。ただの『宝の持ち腐れ』。だったらいっそ、ここで潰れてなくなってしまえば―――そんな風に思っていた、その時でした。
「む〜、何なのいきなり!? そんな怒らなくてもいいじゃん! せっかく綺麗ないい歌声だな〜って思って、なのにそんな辛そうに歌うから心配してあげたのにさ! あ〜、もうビショビショじゃ〜ん。」
「・・・・・・えっ?」
――――綺麗で、いい歌声? 私が?私の、歌声が・・・?
いいえ、何かの聞き間違いかもしれない。希望が、『光』が見えたって、どうせそんなもの、絶望という『影』が差し出す甘い罠だ。そんな疑心暗鬼に囚われたまま、私は彼女の言葉を聞き返した。
「・・・今、何て?」
「へっ? だから、何で辛そうに歌うのかって」
「違う、その前。」
「えっ? 綺麗な歌声だな〜、って。」
「・・・・・・。」
聞き間違いでは、ありませんでした。彼女は、確かに私のこの歌声を綺麗だと言ってくれてました。
確かに、この『声』の本来の持ち主の歌声は素晴らしいものですし、同じ声である以上、綺麗な歌声になるのもかろうじて理解はできました。
でも、こんなもの所詮、借り物でしかない。それに何より、私はその『綺麗な歌声』を、たった今自分の中の黒い衝動のままに使い潰そうとしていました。『詩』にも『声』にも、何の罪もないというのに。
なのに、そんな私の歌声を、彼女は『綺麗』だと言ってくれました。この雨の中聞こえたであろう、私の歌声を。
―――初めて、でした。この世界に、この姿で、この声で生まれ落ちて、そんな事を言われたのは。
さっきまで心の中があんなに冷たくて真っ暗で、あんなに荒れ果てていたはずだったのに。
その時の私の心はまるで、『太陽』に照らされているように暖かくて、『月』に照らされているように穏やかで、『一番星』に照らされているように、未来への希望が生まれていました。
でも、雨に打たれて震える身体の寒さが、震える右手の冷たさが、私を再び暗闇の恐怖へと引き込もうとしてきました。私は、胸に灯ったこの熱が逃げてしまわないように、必死に抱こうとしました。しかし―――
「ちょっと! 急に黙り込んだ挙げ句、蹲らないでよ!」
「――――えっ?」
―――そんな私の右手を、先ほどの少女がまた掴んできました。その手を掴む力からは、「絶対に離さないぞ!」という思いも感じられました。語気が少し怒っているようにも聞こえましたが、怒ってる理由をはっきりと言ってくれたため、私は、さっき怒鳴った時とは違う、少し辿々しい感じで彼女に言葉を返していました。
「ご、ごめん、なさい。その、初めて、だったから。綺麗だなんて、言われたの。」
「えっ、そうなの? えぇ~、勿体ないなぁ。こんなに綺麗なのに。」
「そ、そう、かな?」
少女の言葉にまだ自信が持てず、挙動不審に言葉を話していく私。しかし、少女はそんな私の様子を気にすることなく、うんうんと頷いてから、突然こんな提案をしてきました。
「うんうん! あっ、ねえねえ! さっきの歌、なんて曲なの? 良かったらもう一回、聞かせてよ!」
「え、えぇ!?」
「? ダメだった?」
「い、いえ、その。ダメじゃ、ないけど・・・。」
傘をはたき落として、あれだけひどい八つ当たりをしたのにも関わらず、目の前の少女は私に、さっきの『詩』をせがんできました。それに、滲んだ視界ではありましたが、彼女が今、先ほどの傘を持っていないのに気付いた私は、さっきまでと逆に彼女の心配をしてしまっていました。
「そ、それより、早く傘の中に入らないと。ずぶ濡れになって、風邪引いたらダメだし。」
「へっ? プッ、アハハッ☆ それあなたが言うの?」
「うっ、ご、ごめんなさい。私のせいで・・・。」
彼女の傘を叩き落とした側の私がいうべきでは無い事を言ってしまっていたのに気づいて、私は慌てて謝りました。ですが、彼女はそれを自分が責めてしまったと捉えたようで、謝った上でどうしてそう返事したのかを言ってくれました。
「あぁごめんね。責めた訳じゃないんだよ。君の方がずぶ濡れなのに、私の事を心配して来たのがおかしくて。フフッ、アハハッ☆」
「えっ? あっ・・・。」
そこでようやく、今の自分の状態に気づきました。『エルフリンデ』由来の綺麗な柔肌も純白の翼も、全てがびしょ濡れでドロドロになっていて、何と言いますか、他人の心配よりも自分の心配をしろと言われているようにも感じて、羞恥から思わず私は顔を赤くして、目の前の少女から少し目を逸らしました。ですが、それすら構わないというのか、彼女はまた私の手を掴んで自分の側に引っ張ると、また『詩』を歌う事をせがんできました。
「ねぇ、そんな事どうでもいいからさ! 早く聞かせてよ、ねえ! いいでしょ?」
「え、えぇ?! は、離してよ。」
「君が良いって言うまで離さないじゃんね!」
「そ、そんな!? だ、だったらせめて傘に入って!歌うから!」
「ダメだよ! 傘取りに行ったら逃げちゃうでしょ?」
「に、逃げないから!」
「ホントかな〜?」
そういって、頑なに私の手を離そうとしない少女に、どうしたものかと頭を抱えました。何故だが分かりませんが、目の前の少女に私は逃げてしまうと思われているようで、どうしたら彼女がこれ以上濡れることなく、要望通りに『詩』を聞かせることが出来るか考えました。そして、苦肉の策でしたが、歌を聞かせる代わりに彼女にある条件を提示しました。
「分かった。歌う。歌うから! だから、せめて私と一緒に、傘に入って。」
それは、歌う代わりに私と少女、二人で傘に入るというものでした。当時から思っていましたが、あんな事をしておいて割と図々しい条件を提示したものですね、私。でも少女は「ん〜」と少しだけ悩むと、私を連れて傘の方へ移動して、自身と私を傘に入れてくれました。
「よし、これならいいでしょ? さぁほら、早く歌ってよ!」
「せ、急かさないで。それと、さっきの詩、まだ途中だから。そこからでも、いい?」
「ん〜、まぁ聞けるなら何でもいっか。オッケー☆」
私の言葉にそう答えてくれる少女。傘の中に入ったからか、彼女の髪の色や、背中に羽が生えているという事が分かりましたが、私はまた急かされる前に目を閉じて呼吸を整えると、そのまま目を閉じたまま、『詩』の続きを歌い始めました。
何だって出来ると思ってた
主人公になれると思ってた
何時だって
何処にいたって
宝石みたいに輝けると
振り返れば誰もいなくなって
期待ばっか、汚れた石だったんだ
ああ―――
「『変われるかな』・・・?」
――――そこまで歌って、私はその先を歌うのが、少しだけ怖くなりました。今こうやって雨を塞いでくれる傘が、この閉じた視界の向こう側にいる少女が、どれも全て、私の希望を望む心が生み出した幻で、今もまだ私は大雨の中、鉛のような体を動かすことなく、暗闇に閉ざされて、何処にも行けなくなってしまっているのではないかと。ならもう、これ以上歌ったところで、と、諦めかけたその時でした。
―――傘を持ち直そうとしたのか、隣の少女の手が、私の手に触れてきました。おそらく、偶然触れただけだったと思います。ですが、その手の暖かさが、私にそう告げてるようにも感じました。
―――諦めないで、怖がらないで、と。
それを理解した途端、私の中で流れる旋律と、私の声が奏でる歌声以外の音が聞こえなくなりました。
そうだ、何を怖がっていたのでしょうか。この『詩』はここからが本番で、そしてその歌詞は、希望に満ちている。さっきまでの暗い気持ちではなく、今抱いてるこの暖かい気持ちなら、この『詩』の真価を、隣の少女に聞かせられる!
(ならば、今歌う事に怖れも諦めもいらない!歌い上げろ、『十郷リンデ』!! この衝動のままに!!)
生きていく事も、死んでしまう事も
怖くて、ただ私は、息をしている
今はそれで、いいと思える
微かな光が差す―――
―――そして、『詩』はクライマックスを迎えます。変わることにも、光にも怯える必要はなくて。ただ繰り返される日々の中で、夢のように感じられる『
何度でも。
何度でも!
何度でも!!
私はその『光』に―――
「『触れたいんだ』!!」
―――そうして、私は最後まで『詩』を歌い切りました。息は絶え絶えで、とてもお披露目できるようなものではありませんでしたが、何故だが私の胸には、達成感のようなものが、そして満足感のようなものが生まれていました。
あぁ、いつ以来でしょうか。こんなにも満ち足りた気分で歌ったのは。この『詩』に限らず、歌を歌う事は元来、こんなに気持ちいいものであったはずなのに。いつから私は、この気持ちを忘れていたのでしょうか。
いいえ、違いますね。忘れていたわけではなく、きっと私は忘れようとしていたんです。こんな気持ちをいくら抱えていても無駄だと、希望なんて何処にもないと蓋をしていないと、自分が狂ってしまいそうで、怖かったんです。
でも、今隣にいる少女のお陰で、思い出せました。人にとってはどうでもいい事かもしれない。こんな綺麗な歌声があった所で、『彼女』やこの声の持ち主のようになれるわけでもない。
でも、これが今の私なんですよね。
例え容姿も、今持っている知識も力も。今は『宝の持ち腐れ』であったとしても。
例え『彼女』のように祈りを捧げることが出来ないとしても。
私は歌が大好きで、その大好きな歌を歌える素晴らしい『声』に恵まれているのだと。
それが何の役に立つのかなんてわからない。役に立たないどころか、ただの気休めかもしれない。それでも、この『歌声』は私にとっての希望で、心の支え足りうるものなのだと。ようやく、思い出す事が出来ました。
その事実を噛みしめるように、私はまた、閉じた目を開いて涙を流した。さっきまでのような大粒ではなく、ツーッと頬を伝うら一筋の涙を。
すると、パチパチパチパチと音が聞こえてきた。横を見ると、先ほどの少女と思われる娘がいて、傘を地面におろして笑顔で拍手していた。
「思った通り! 凄い綺麗だったよ、君の歌声! ねえねえ、なんて歌なの?」
「え、えっと・・・、『Twilight』、って名前。」
「ふ~ん、聞いたことないや。」
グイグイくる彼女に気圧されながら、『詩』の名前を教えましたが、返ってきたのは予想通りの返答でした。まぁ、そうですよね。以前、この世界に転生してきてまだ間もない頃に一度、スマホで軽く調べましたが、この世界アニソンなどは共通している者ものあるのですが、ゲームの曲などは全然違うんですよね。まさかタイアップ曲含めて『メメントモリ』の『詩』が一曲もないとは思いませんでした。おかげで「オリジナルのようなもの」と伝えれば、だいたいどうにかなってしまうので、少々複雑な気分なのですが。
と、そこで私は目の前の少女の声に聞き覚えがあるなとようやく思い始めました。そういえば、姿も何処かで見たことがある、どころか、なんだか懐かしさを覚えるといいますか。・・・何処かで会ったことありましたっけ?
そんな風に見つめていると、今度は「あーっ!」と大声を上げたかと思うと、少女が傘を拾って慌て始めました。
「やっば、もうこんな時間じゃんね! ごめん、私もう帰らなきゃ!」
「そ、そう。大丈夫?」
どうやら少女の家には門限でもあるのか、スマホで時間を見て慌てて帰り支度を進めだしていました。私が大丈夫かと尋ねると、少女は明るい笑顔で頷いて―――、最後に特大の爆弾を置き去りにその場から走り出していきました。
「うん! 心配してくれてありがと! あっ、私『聖園ミカ』! 見た所君、同い年だよね! また会ったら名前聞かせてね!! それと、雨降ったらいけないから傘貸しとくね! 次会う時その傘目印にするからさ! バイバ〜イ!」
「・・・・・・・・・・・・えっ?」
(み、『聖園ミカ』? 今、彼女。私の、『最推し』の名前を、言いましたか? そ、そんなバカな・・・。しかも今、傘押し付けられましたか?)
残された私はというと、最後に先ほどの少女―――暫定『聖園ミカ』が残した特大の爆弾情報を処理するので精一杯で、彼女に別れの挨拶を交わすこともなく、その場で呆然と突っ立っていました。―――彼女から無理矢理渡された、傘を片手に。
(あれ? でもよくよく思い返すと、声完全に『◯央』さんでしたし、羽にも月のアクセサリーついてましたし、髪の色も目の色も・・・。えっ? そんなまさか、えぇ?!)
『最推し』との突然の邂逅に、私の思考も心も、雨に降られる前とは別の意味でしっちゃかめっちゃかになって、大混乱していました。そして、そんな『最推し』に私は、とんでもない八つ当たりをかましてしまった事を思い出してしまい―――
「わ、私は『最推し』になんて無礼な事をぉぉぉ!?」
―――雨の中吠えた時とは違う、そんな情けない叫び声を上げてしまいました。
まぁ、その翌日も少し雨が降っていたので結局押し付けられた傘を使いまして。そうしたら、本当にそれを目印にこちらを見つけてくれるとは思いませんでした。しかも同じクラスだったと知った時は、知らない間に彼女にこれ以上の無礼を働いていなかったかと戦々恐々していました。まぁ、幸い彼女もこちらをあの時初めて認知したようなので、問題はありませんでしたが。
あっ、当然名前は教えましたよ。はい。互いに改めて自己紹介しましたとも。まあ、その際あの時の事はふたりだけの秘密にしてほしいと頼んだら、あっさり受け入れられてホッとしたという一幕もありました。そういえば、思い返すとあの頃から、今の呼び方をお互いにしていたのですね。
これが、私とミカとの出会いの物語。
とある探偵達風に言うのであれば、『
そう。あの日に私は彼女に心を救われ、以来彼女を『魔女』と呼ばせない為に、そして彼女を支え、守れるようにと、己を高め、磨き上げていくようになりました。
そして、私が彼女に心を救われたように、私も誰かの心を救いたいと、そう思うようになったのです。
以上、馴れ初め回兼転生したての頃のリンデ回でした。
で、裏設定などもあるので久々に後書きガッツリ書きます。
ミネのメイン回であっさりめって言いましたけど、今回は破ります。ご了承ください。
前回の前書きで書いた通り、リンデは気がついたらこの状態で転生させられていたタイプの転生主です。
見た目に関しても、どうして『エルフリンデ』と特定できたかというと、
・槍はどう見ても『ロンギヌスの槍』
・声は幼い感じだけど『姫』さん
・何より頭のヘイローがすごい独特の形状
(ヘイローと呼ぶには複雑かつゴツすぎ&世界観違いすぎ。)
という理由から、といった裏設定があります。
で、初期の頃のリンデは与えられたものを活用して転生ライフをエンジョイしつつ、『エルフリンデ』のように生きてみたいなという、かなり漠然とした人生設計をしていました。
ただ、理想と現実のギャップ、本人の不器用さから勝手に挫折して、殻に引きこもってしまってのが、過去描写のリンデです。
色々ぶち撒けたりしてましたが、結局のところ全部、思い通りにならない事への八つ当たりなのには変わりなかった訳です。
でも、そんな中ミカが自身の歌声を綺麗と、今の自身の持つ『才』の一つを褒めて、認めてくれた。例え借り物であっても、今は自身の一部であるものを認めてくれた事で、その殻を破る決心がついた感じです。
人って落ち込んでいる時ほど、無関係の第三者からの些細な言葉が、凄く胸にストンと来てくれる事、ありますよね。今回は正にそれで、二人はここで出会うべくして出会ったといった描写にしたつもりです。
ちなみに、もしここで二人が出会わなかった場合、即バッドエンドルート直行が確定します。つまりもしミカがナギちゃんと遊べてた場合、後の未来では・・・。
つまり今回の影のMVPはナギちゃん(正確には桐藤一家)かもしれません。
『
リンデはよく人の脳を焼いていきますが、そもそもリンデがミカに脳を焼かれているというね。
だから本人基準だと、そこまで脳焼いてるつもりはないという。
やっぱ似たもの同士じゃねえかお前ら! はよくっつけよ!
まあまだまだ先なんですけど。というかそもそもプロローグの時点で、ね。
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それではまた次回!