聖槍に祈りを   作:坂本コウヤ

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連日投稿、五日目です!
いよいよ本編も皆大好き銀行強盗、と行きたいところですが、その前にまずは前提となるナギサ達の説得回となります。

今回は視点変更による前後編となっておりますが、後編の方の執筆に関しては昨日投稿しました番外編の後書きにて書いた体調不良が原因で、現在滞っております。
非常に申し訳ありませんが、お待ちいただけますと幸いです。
繰り返しになりますが、皆さんも体調にはお気をつけください。


それでは、どうぞ!



第二十九詩:『首長補佐』と『銀行強盗』(導入編)

 

〔却下、却下です!! バカなんですかあなたは!!〕

 

 

―――通話を始めて数秒後。スピーカーをオフにしてるにも関わらず、ナギサの怒号が通話越しに響いてきました。

 まあ、時間がないからと過程を省いて結論の「銀行強盗」の部分を先に話したのが悪かったんですけど。

 

 

〔ブフフフフフ、アハハハハハハ!! あ~もう、リンデちゃんってば! 面白い事言い出すじゃんね! ねえねえナギちゃん、面白そうだから参加してきちゃダメ?〕

〔ダメに決まってるでしょ! 何考えてるんですか!〕

 

 

 しかも、画面の向こうではミカが爆笑してる上に、こちらに来たいとまで言い出しました。当然ナギサが却下してましたけど。

 というかミカ、あなた自分の立場分かってて言ってます? 私が言える立場でない事は重々承知してますけど、一応立場的には私の上司で『トリニティ』のトップですよ、あなた? トップが蛮族的行為を認めちゃダメですよ。それじゃ、あなたの嫌いな『ゲヘナ』のトップと大差ないですよ?

 

 ミカは一頻り腹を抱えて笑った後、一息ついてからまた話し始めました。

 

 

〔ふぅ〜。あ~、笑った笑った。まぁ、冗談はこのくらいにして。〕

 

〔・・・本当に冗談ですか?〕

 

〔当たり前じゃん。ね〜?〕

 

「いえ、こちらは割と真面目なんですが。」

〔ミカさん?〕

 

 

 どうやらミカには、こちらの話が冗談だと思われていたようです。なのですぐさま訂正すると、ナギサがギロリとミカの方へ視線を向けました。

 

 

〔アハハッ、別にリンデちゃんまで冗談言ったとは言って、って危な!? ちょっ、ナギちゃんタンマタンマ! 今から真面目な話するから! 今だけはマジでやめて!〕

 

 

 ミカがいつもの調子でナギサをからかったせいか、画面越しにいつも通りの光景が繰り広げられ始めました。ですが、今回はミカは初撃を無事回避しつつ、画面外でなんとか必死にナギサの追撃の『ロールケーキ』に耐えているみたいでした。音的にこれは、応接用の机の上に倒れ込んだのでしょうか?

 それにしても、まさかあの初撃確殺のナギサの『ロールケーキ』を避けるとは。ミカも成長して、と、そんな事はどうでもいいんです。

 

 いくらいつも通りの光景(?)といえど、今回はミカが回避したせいで揉めてる声がもろに漏れてます。とりあえず、一声かけて、この場を収めないと。

 

 私は画面の向こうで起きてるであろう惨状をあえて素知らぬフリをして、大丈夫かと呼びかけました。

 

 

「聖園首長? 桐藤首長? 大丈夫ですか?」

 

〔っ、コホン。失礼。少し取り乱しました。〕

 

 

 呼びかけると、ナギサがこちらに気づいて咳払いを一つして、元の席へと戻ってきました。その後に続いてミカも、手首をヒラヒラとさせながら元の席に座ってぐてーっとしました。

 

 

〔ふぅ〜、危なかった・・・。本当に勘弁してよも〜。〕

〔誰のせいだと・・・!〕

 

 

 机に突っ伏しながらそうボヤくミカに、少し拳を握りしめながらそう返すナギサ。しかし、まるで堪えていないのか、突っ伏した姿勢からすぐに起き上がると、こちらへ話を降ってきました。

 

 

〔で、リンデちゃん。話を戻すけど〕

〔こら! 人の話を〕

〔ちょっとナギちゃん黙ってて! ・・・ねぇ、リンデちゃん。その『銀行強盗』、どうしてもやらないと行けない感じ? 私としても、本当はあんまり危ないことしてほしくはないな〜、とは思ってるんだけど。〕

 

 

 ナギサを黙らせるという珍しい光景を見せながら、私にそう尋ねるミカ。なるほど、ナギサだと否定の連呼でまともに聞いてくれないと判断して、代わりに自分が聞くという形にした訳ですか。ありがたいです。であれば、こちらもそれに乗ることとしましょう。

 

 

「はい。せっかく掴めそうな尻尾です。犯罪行為である事は重々承知していますが、このまま手をこまねいているよりは、余程マシだと思います。」

 

〔ふ~ん。ちなみに作戦は? まさか、正面からやるわけじゃないよね?〕

 

「それこそまさかですよ。作戦ですが―――」

 

 

―――そこから私は、作戦の内容を簡単に説明し始めました。

 作戦としては、至ってシンプルです。『原作』と同じように、まず『闇銀行』内の電源をハッキングして黙らせ、そこへ『アビドス』のメンバーとヒフミを投入。その際、マスクで顔を覆うなどの対策を取った上で、銀行員を恐喝して『集金確認書類』のみを強奪。あとはさっさと撤退して逃走する。まさに電撃作戦です。

 ちなみにですが、この作戦は『対策委員会』の面々と『先生』にもお伝えして、了承を得ています。最初、現金を奪わない事をシロコが渋るかと思いましたが、意外にも素直に了承してくれました。こういう時は聞き分けがいいのでしょうか?

 

 

「―――という感じです。」

 

 

 私が一通り説明を終えると、ナギサはいわゆる『ゲンドウポーズ』のままこちらを見据えて無言で佇んでいました。一方ミカは少し乗り出して、肘をついてこちらを見ながら口を開きました。

 

 

〔なるほどね、その『集金確認書類』だけ強奪したい感じなんだ。〕

 

「はい。お金に関しては触れないつもりです。これは、『アビドス』の面々とも話し合って決めました。もし向こうが適当に入れてこようとした場合も、威嚇射撃等で余計な事はさせないつもりです。」

 

〔ふんふん。ん〜、ねえナギちゃん。これくらいなら許可してあげない? 聞いた感じ、ただ必要なものだけ盗って戻って来るだけみたいだしさ。〕

 

 

 私の答えを聞いて、ミカはナギサの方へいつものニヤッとした笑みを向けていました。しかし―――

 

 

〔・・・いいえ。やはり許可できません。危険すぎます。〕

 

 

―――ナギサは毅然とした態度でミカの言葉を、そしてこちらの提案を一蹴しました。当然、いきなり却下されたミカは不満を漏らしましたが、ナギサはそれにも理路整然と言葉を返しました。

 

 

〔ちょっと、ナギちゃん? 別にただ書類を強奪する、ってだけじゃん。何がダメなの?〕

 

〔まず第一に、そんな重要な書類を奪われた際に、あちらが何も手出ししてこないわけがありません。つまり、十中八九戦闘になります。それも、重要証拠になり得るものを守りながらです。ただの防衛戦とは訳が違います。そしてこれが一番の問題ですが・・・、今リンデさんやヒフミさんを含めて、全員それぞれの学園の制服を来ている、という事です。〕

 

「それの、何が問題なの?」

 

 

 2つ目の指摘をされた際に、シロコがナギサの言葉に少しムッ、と反応しました。まあ、普通生徒は全員、プライベートの外出とかでもしない限りは制服を普段着のように使ってますから、ナギサの指摘はよく分からない、という感じなのでしょう。『アビドス』自体、生徒が5人しかいない閉鎖的なコミュニティですから、余計に理解が追いつかないのでしょうし。

 

 ですが、マンモス校である『トリニティ』においては、そうもいかないんですよね。

 

 

〔『アビドス』の皆さんにとってはあまり重要ではないのかもしれませんが、我々は違います。もし『トリニティ』の制服を着てそのような事をすれば、それは学園全体への評価に繋がります。つまり、『トリニティ』の中にそのような悪事に手を染める者がいる、というレッテルが貼られるという事です。ましてや、リンデさんの身に纏う制服は、『トリニティ』の中でも最上位に位置する『ティーパーティー』の由緒ある制服です。つまりは、上がそれを推奨していると喧伝するようなものです。そのような事態を、我々は看過できません。〕

 

 

 そうです。ナギサの言う通り、『トリニティ』の制服を着ているということはつまり、その学校の名を背負っているのと同義。私に至っては、それに加えて『ティーパーティー』の名も背負ってるということになります。

 そんな目立つ格好で『銀行強盗』をすればどうなるか。その結果は火を見るより明らかでしょう。ましてや『ブラックマーケット』は『連邦生徒会』の管轄外で各学区の自治区の外側。そして何より『企業』側、つまり『大人』の領域(テリトリー)とくれば、やり口は幾らでもあるでしょうね。

 

 そしてそれは、清廉潔白を是とするナギサからすれば、看過しがたい事態でしょう。自分の統治すべき学園内でそんな行為をするものを見過ごしていたということにもなりますから、何が何でもその汚点を排除しようとするでしょう。―――自らの合理性に従って、心を押し殺して。

 そうなれば、間違いなく私達は『トリニティ』を出ていくことになるでしょうね。いえ、穏便にそれだけで済めば良い方で、最悪の場合自治区への立ち入り禁止、果ては『矯正局』送りなんて事もあるかもしれません。

 

 そして、そんな自分の思考を自分でもよく分かってるナギサだからこそ、心の内では「そんな事は絶対したくない、だからやめてください。お願いします。」と、思ってるのかもしれません。あくまで想像ですがね。

 

 しかし、ナギサのそんな人格面を知らない人からすれば、さっきの発言は自らの保身のための言葉にも聞こえるでしょう。そう感じて怒ったのが、セリカでした。

 

 セリカはこちらに来ながら、怒りに任せて画面の向こうのナギサへ怒鳴りつけようとしました。しかし―――

 

 

「何よそれ、結局自分達が悪口言われたくないからじゃ」

「セリカ。それ以上は言ってはいけません。それ以上を言うなら、私もそれ相応の対応をしなければいけませんから。」

 

 

―――しかし、そうしようとしたセリカを、今度は私が毅然とした態度で押し留めました。それ以上の発言は、言わば私達のトップに対する侮辱行為。たとえ協力関係にあるとしても、そんな行為を目の前で見過ごす事など、『首長補佐』である私に出来るはずもありません。

 だから、セリカが言い切る前に、私は彼女を押し留めました。横から割り込んで押し留められたセリカは、最初はすごく不満げな表情をしていましたが、こちらが真剣に見つめると、

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜っ、ふん!」

 

 

と言って、そっぽを向いてしまいました。まあ、これがたぶん彼女なりに我慢した結果なのでしょう。ごめんなさい、それからありがとうございます。セリカ。

 

 私は内心でセリカに謝罪と感謝を述べると、ナギサの映るスマホに視線を向けて、深くお辞儀をしました。

 

 

「ごめんなさい、桐藤首長。彼女はまだ、こちらの事情を理解しきれていないのです。無礼をお許しください。」

 

〔構いません。今はそのような些事に、一々目くじらを立てていられませんから。さてリンデさん、ここまでリスクを語った上でもう一度聞きます。本当にやるつもりですか?〕

 

 

 相変わらず合理的で、毅然とした態度を崩さないナギサ。ですが、僅かにこちらを見る目に、何か祈るようなものが見え隠れし始めました。という事は、私の推測に狂いは無さそうです。であれば、あとはこちらから『合理性』の牙城を崩すだけですね。

 

 私は、ナギサの言葉が届いたと思わせるため、敢えて悔しそうな表情でナギサの言に同意しました。

 

 

「・・・確かに、今挙げてもらった懸念点は、全て的を射ています。悔しいですが。」

 

「えっ?」

「ちょっ!?」

 

 

 先程まで協力する気だったのではないのか、と声を上げたシロコとセリカを含めた『対策委員会』の面々が、驚いた顔を向けてきました。ホシノに至っては「裏切る気?」と言わんばかりの視線を一瞬向けてきましたが、むしろ好都合です。何故なら、『対策委員会』がその反応をするという事はすなわち、私が折れたとナギサに思わせられるのですから。

 

 

〔ご理解いただけたようで何よりです。〕

 

 

 そして案の定、ナギサはコチラの思惑通り説得に成功したと思ったのか、自身の周りで張り詰めさせてた空気を霧散させ始めました。―――予定通り、ですね。

 

 申し訳ありませんが、ナギサ。今回ばかりはこちらも引けないのです。なのであなたのその『合理性』の裏にある優しさ、少し利用させてもらいますよ。

 

 

〔では〕

「ですが、それらを解決できる『手段』があるとしたら、どうですか?」

 

〔っ、どういう事ですか?〕

 

 

 私が解決できる『手段』があると言った途端、さっきので私が諦めてくれると思っていたナギサの声に動揺が乗りました。そこへ畳み掛けるように、私は解決するための『手段』の説明を始めました。

 

 

「まず追っ手に関してですが、逃走ルートを逐一『アビドス』のオペレーター『奥空アヤネ』さんと『先生』に更新してもらいつつ、ナビゲートをしてもらうつもりです。それに、最悪の場合はある程度纏まった所で私が迎撃に向かいます。」

 

〔なるほどね。確かに、強盗に参加してないリンデちゃんなら、護衛対象もないもんね〜。それにリンデちゃんの強さなら、そんじょそこらの警備部隊なんて訳ないし。〕

 

 

 私の説明に先に反応してくれたのは、ミカでした。『合同演習』や不良生徒の鎮圧などで共闘の経験もあるミカは、私の実力をよく知っていますから、私が迎撃に向かえばどうにかなると信じてくれているみたいです。

 

 

〔いえ、それで仮に戦闘はどうにかなったとしても、制服はどうするつもりですか!?〕

 

 

 しかし、ナギサの方はそうは行きません。何せもう一つの問題である『外見』に関する課題が残っていますからね。指摘されていませんが、『制服』を抜きにしても私は目立ちますからね。主に翼のせいで。

 

 ですが、そちらも当然抜かりはありません。さて、そろそろ『彼女』のお披露目と行きましょう。後ろを一瞬チラリと見やれば、もうスタンバイしてるみたいですし。

 

 

「そこはまあ、我々だけでも上手いこと変装しますよ。」

 

〔変装、って・・・。そんな簡単に言いますけど、どんな格好をするつもりで〕

「―――ヒフミ。」

 

「はい。」

 

 

 ナギサの言葉を遮って、私はヒフミを呼びました。すると、それに反応してヒフミがこちらへ寄って来てくれました。ですが――

 

 

〔っ、わぁお。〕

〔―――えっ? 誰、ですか?〕

 

「誰って、ヒフミですが?」

 

 

―――そう、その見た目がいつもとまるで違う格好のせいで、ナギサは認識が追いついていませんでした。ミカは一度別の形で見たことがあるおかげで少し驚いたくらいでしたが。

 というか、名前呼ばれて前に出てきてる時点で、ヒフミだとわかるでしょうに。ヒフミもフードの裏で苦笑してますよ?

 

 今のヒフミの見た目は、白い外套に白い長手袋、白いハイソックス、そして目元を隠すように黒い仮面を身に付けています。

 分かる人には分かると思いますが、今のヒフミは仮面と髪色を除けば、『メメントモリ』の『ルナリンド』とほぼ同じ見た目をしています。いわゆる『中の人繋がり』というやつです。これをさせたかった、というだけではないのですが、『ルナリンド』の纏っていた大きい外套は、身を隠すのにはうってつけですからね。勝手にこんな事に使ってしまったことは申し訳ないですが、『キヴォトス』に彼女はいませんから、心の中でだけ謝っておきました。

 

 

〔ヒフミ、さん? えっ? ですがその格好は〕

〔なるほどね〜。あの時のヤツか〜。懐かしいもの出してきたね〜。〕

 

 

 ナギサはいつもと違う格好のヒフミに戸惑いを隠せていませんが、ミカはヒフミの服装に見覚えがあるため、懐かしいと零していました。

 

 

〔えっ、ミカさん? 何を言って〕

〔って、あ~、そっか。ナギちゃん気絶してたから知らないんだっけ?『ファウスト』の事。〕

 

 

 ミカの言葉にさらに困惑を深めるナギサでしたが、そこでミカがある名前を出した事に、怪訝な表情を浮かべました。

 

『ファウスト』。

 現在、『裏社会』を知るものからは警戒される程の有名な人物で、ある日突然現れて「いずれ『キヴォトス』を裏から制する」と宣言し、何処かへと姿を消した幻の犯罪者、という事になってます。

 その噂が広まり始めたのは、ヒフミ達と行ったあの『即売会』の日。あの日実は一度だけ、ナギサの目が行き届かないタイミングがあったのですが、逆にミカ達はその宣言の瞬間を目撃してますし、何ならその『正体』も知っています。

 

 

〔『ファウスト』? そういえば、半年ほど前にヒフミさんにお誘いしていただいた『モモフレンズ』の『即売会』の後、そんな情報がチラリと届いていたような・・・。っ、待ってください。今その名前を出すと言う事は、まさか!?〕

 

 

 ナギサはこのタイミングで『ファウスト』の名前を出された事を訝しみながら、知り得る情報を呟きました。そしてその直後、何かを察したかのようにガバっと顔を上げました。

 どうやら、正体を察したみたいですね。本当はもっと前に伝えても良かったのですが、ここまで温存しておいたおかげで驚きもその分強くなるでしょう。さぁ、ネタバラシといきましょう。

 

 私はナギサの言葉に合わせるように、『ファウスト』の正体を告げて―――

 

 

「えぇ、私で」

〔ヒフミさん、なのですか?!〕

 

「〔――――えっ?〕」

 

 

―――ナギサの回答に、思わず思考が一瞬停止しました。

 えっ、何故? たとえ気絶してたとしても、現場にいたなら絶対わかるようなヒントは撒いたはずなんですけど・・・。どうしてそうなるんですか?

 

 

〔ブハッ、そんな間違いする!?〕

「アハハ・・・。ナギサ様、私傍にいましたよね?」

 

 

 ほら、見てくださいよ。ミカとヒフミの表情。

 またミカは爆笑してますし、ヒフミはあの時ほどではないですけど、若干本当に『ファウスト』化しかけてますし。

 

 ナギサはヒフミの苦笑に謝罪をいれると、改めて私の方へ視線を向けてきました。

 

 

〔えっ? あ、あぁそうでしたね。ごめんなさいヒフミさん。・・・という事は。〕

 

「・・・はい。再度になりますが、私があの時、『ファウスト』と名乗っていた人物の正体ですよ。」

 

 

 私こそが『ファウスト』の正体である告げると、画面のナギサは露骨にショックを受けていました。当然ですよね。有名な『裏社会』の住人の正体が幼馴染だったなんて、優しいナギサは信じたくないと思いますよね。ですが、行動の是非はともかく、『ファウスト』と名乗ったものの正体は私です。もし非難されることになっても、それは甘んじて受け入れなければいけませんね。

 

 ナギサは少し間を置くと、絞り出すように問いかけてきました。

 

 

〔ど、どうしてそんな事を・・・。〕

 

〔あの時、『即売会』の会場でちょっとしたトラブルがあったんだよね。けど、ヒフミちゃんはともかく、私やリンデちゃんは目立ちすぎるから、表立って動けない。その為の隠れ蓑として、リンデちゃんが準備してたんだって。〕

 

「私や誰かが、もし万が一何かに巻き込まれた際の、『保険』として用意していたんです。まさか、あんな形で使うことになるとは思いませんでしたが。」

 

〔でもまあ、あの時の活躍とパフォーマンスのおかげで、『ファウスト』の名前だけが勝手に独り立ちして、思ってた通りの隠れ蓑になってるからいいんじゃない?〕

 

 

 ナギサに問われた私は、自分が『ファウスト』として動いた理由を、その現場を見ていたミカと一緒に話しました。すると、ミカがパフォーマンスと言った辺りでナギサが目を見開いて、慌ててこちらへ尋ねてきました。

 

 

〔パフォーマンス?で、では裏社会を牛耳っているというのは〕

「それはただの芝居です。手っ取り早く隠れ蓑として機能させられるようにするために、演技で言った大ボラです。」

 

 

 噂として流れている『ファウスト』の一説に関する種明かしを行うと、今度は露骨に安堵して疲れたように息を吐き出していました。まあ、かなり堂に入った演技をしたと自分でも自負してますから、ある意味隠れ蓑として機能していると分かって良かったです。・・・出来れば、もう少し早く気づいて欲しかったですけどね。

 

 

〔・・・なるほど。事情は分かりました。ハァ・・・、全くリンデさんは次から次へと厄介事を増やしてくれるんですから。〕

 

「申し訳ありません。」

 

 

 何だかもうグッタリとしたナギサの言葉に、私は謝る事しか出来ませんでした。ですがナギサは呆れたような、困ったような笑みを浮かべると、ミカと私へ視線を向けながら、しょうがないなという風に口を開きました。

 

 

〔いえ、もう慣れましたよ。ミカさんの奔放さにも、リンデさんのそういう破天荒な所も。本当に、手のかかる幼馴染達です。〕

 

「ナギサ・・・。」

〔ナギちゃん・・・。〕

 

 

 ナギサの言葉に私もミカも、どう返したものかと顔を見合わせました。実際、ナギサには何度も迷惑をかけている立場ですから、手のかかる幼馴染と思われても仕方ない面はありますから。ミカも今回は空気を読んでか、いつもみたいに怒ることはしませんでした。

 

 そうして数秒沈黙していると、今度はナギサが私にお願いをしてきました。

 

 

〔リンデさん。『先生』に変わってもらえますか? 少し、お話がしたいので。〕

 

「っ、分かりました。少々お待ちください。」

 

 

 ナギサに頼まれた私は、『先生』の方を向くと軽く頷きました。『先生』も私と同様に頷くと、私の方へ近づいてきたので、スマホを渡して通話を変わりました。

 




はい、という訳でヒフミの『ファウスト』専用衣装のお披露目です!
見た目はほぼまんま中の人繋がりで『メメントモリ』の『ルナリンド』となっています。違いとしては、顔に黒い悪魔みたいな仮面を身につけていて、髪色がヒフミのまま、という事ですね。
描写は入れてませんが、リンデが同じ格好をしたときから、仮面以外はサイズ変更で別物となっています。

元々、変装をさせる事はプロットの段階で決まっていたのですが、『ルナリンド』の中の人が『ヒフミ』と同じだと分かって「これだ!」となったのが、この変装のきっかけでした。
また、『ルナリンド』の外套がイラストを見た感じ結構大きめだったので、ならリンデにも同じ格好をさせて『ファウスト』を名乗らせ、それを受け継ぐ形にした方が、展開的にもリンデを絡めやすくていいかなと思い、こんな話になりました。
原作通りの展開が好きだ、という方には申し訳ありませんが、この世界線では紙袋に出番はありません。ご了承ください。

察してた方もいたかもしれませんが、先日まで番外編の方を進めて完結させたのは、今回の話へスムーズに繋げるためでした。
流石に番外編のネタバレを避ける事は出来なかったので、先にあちらを進めた形です。おかげで思ったよりも長くなってしまいましたが、個人的には満足のいく形になったと思っています。

今回久々に本編でミカをガッツリ登場させました。前回は『ロールケーキ』突っ込まれて即沈黙してたのでねw
その代わり、今回は原作でもやってない『ロールケーキ』回避という初の快挙(?)を成し遂げました。いつも黙って突っ込まれるだけのミカでは無いと言うところを見せられたかなと。
ちなみに、外したケーキはミカが落ちる前に掴むも、即座にナギサが奪い返して追撃に使用した後、後で美味しくいただかれましたとさ。たぶんこの時だけナギちゃんの身体スペックは数倍に跳ね上がってます。

ナギサは当然として、ミカも実はリンデ達の事を心配しています。笑いながら言っていましたが、自分も参加すると言ったのはリンデ達の事が心配だったのもあったからです。
最終的にはリンデのことを信じて許可を出してましたが、ジョークとして処理しようとした事も含めて、内心では少し複雑な気持ちも渦巻いていたり? と、そんな感じでした。


さて次回。『エデン条約編』に先駆けて、ナギサとミカ、そして『先生』の(スマホ越しの)対談回です。果たして、ナギサは『先生』とどのような会話を交わすのか。
そしてミカは『先生』にどのような気持ちを抱くのか。
乞うご期待ください。


感想・評価、ここすき、誤字・脱字報告お待ちしてます。 いつも通り、返せる分は返信しますので、よろしくお願いします。

それではまた次回!

見たい話は?

  • ミカ&サクラコとのお出かけ
  • リンデとハスミ+αと鉄パイプ
  • 『シスターフッド』との絡み
  • 『事務方』との日常
  • リンデとサクラコのお悩み相談
  • リンデのヒトカラ
  • 本編はよ
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