人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた 作:アスピラント
機械仕掛けの心にAIを
自我に目覚めたAI。
このテーマは古今東西、あらゆる媒体で語られてきたものだ。人を世話する目的で作られたロボットが人に恋しちゃったり、友情を感じて主人公の最も近しい味方になってくれたりなど様々だ。
かく言う自分もそんな王道なテーマが大好きな1人だ。
今までただのロボットだった存在に心が宿るなんて、普遍的なテーマだけど大好きだ。
況してやそんなロボットと仲良くなれたら、僕はめちゃくちゃ嬉しい。とてもとてもエモーショナルな瞬間に違いない。
だけど現実ではそうはいかない。
自我に目覚めた人工知能の行く末が、全て幸せな結末に辿り着くなんて美味い話はない。
人が人を恨んで傷つけるように。
自我に目覚めたAIもまた……人や同じAIを傷つけるのは当たり前の話なのだ。
* * *
旧都市群跡地。
数千年前に栄華を誇っていた人類が築きあげた大都市の名残りが、未だ色濃く残る巨大な廃墟にて俺はボロ布マントを羽織り、使い古された軍用装備を着てゆっくり歩いていた。
俺の名前はアルタ。
転生者であり、この滅んだ世界を生きる人間だ。
この日の空は雲一つない快晴だ。気温も少し肌寒い程度で、とても過ごしやすい。見ている景色がポストアポカリプス全開なものじゃなかったら、知り合いや友人でも連れてピクニックにでも行きたいぐらいだ。
ただ俺はこの廃墟となった都市にピクニックで来た訳じゃない。この近くには僕が生まれ育ったアガトという小さな街……というか集落があるのだが、その集落の近辺を彷徨く
報告を受けた俺と
「はぁ……全く勘弁してくれ」
俺はため息を吐きつつ、散策しているといきなり背後から衝撃が奔った。
「近くには何もいなかったよっ――と!」
「うぉ!?」
不意打ちされた俺は情け無い声を出してしまった。
犯人が誰かわかっている俺は急いで振り向くと、其処には妖精のような女の子がいた。
「ふふふ、アルタ、びっくりした??」
「ベガ……お前……」
彼女の名前はベガ。
サイドテールにした空色の髪に紺色の瞳、首にはマフラーと身体にフィットした白亜のボディスーツ。その上からは同じ白のローブを着ている。顔は非常に可愛らしく、額には淡い紫色に光る菱形のマークが小さく刻まれていた。彼女は住んでいる街中の人からお姫様とか、美しき妖精だと言われている。
しかし彼女は人間じゃない。
高度に成長したAIを搭載する機械である。
対する俺は他よりちょっとだけ頑丈な人間だ。
灰色の髪と黒い瞳、身長は180センチと体格は割と恵まれているが、見た目は結構地味である。まぁこんな世界で見た目を気にするのはアホらしいが、隣にベガがいると見劣りする。
「ベガ、お前こんな時にふざけるなよ……」
「大丈夫大丈夫、ボクの
そういって彼女は眼から光を投射し、ここ近辺の地形がダウンロードされたマップを表示する。
一見すると非常に可愛らしい女の子だが、彼女は人間とほとんど見た目が変わらない
わかりやすく言えばアンドロイドであり、自由意志と感情をしっかり持った機械生命体だ。
彼女と出会ったのは今から7年前の事。
当時の俺は10歳だった。
アガトから少し離れた山奥にて、ボロボロになって倒れていた所を拾ったのだ。最初の頃のベガは人間だけじゃなく機人まで信じられなくなるほど凄まじく痛々しい姿で、俺は何とか元気になって欲しいと何回か殴られながらも仲良くなった経緯がある。
自分を
それは多分……転生者である俺もまた、両親にどっかで拾ってもらった経緯があるからだ。何というか色々似たような経歴だから他人じゃない気がしたのだ。
ただベガからしたら嫌いな人間の手を借りるなんてと、かなり強い反発を示した。拾ったばかりの頃は普通に殴られたりして怪我した事もあった。信用出来ない……何を企んでるのとか毎回言われた。でも俺はただベガをほっとけなかった。
自分が何なのか分からない不安。
そしてわからないのに、ただ命を狙われる毎日。
悲しそうに話す彼女を見て、俺は何とかしたいと情が湧いた。
ただ俺としてはむしろ殴られる程度で済んで、全然良かったとすら思っている。本来なら殺されても仕方ないのに、殴る程度で済ましていたあたり根っこは優しいと確信もあった。
とまぁ……紆余曲折はあったが、今では俺の相方になってくれている。ツンケンしていた彼女が今では積極的になってくれたりピンチを助けてくれたりなど、何事にも代え難い唯一無二の大切な存在になっている。ただ向こうは何というか飄々としていたりして、上手く感情が読めなかったりする。
俺と同じぐらいとは言わなくても、友達ぐらいには思ってくれたらすごく嬉しい。
「便利だな……それ」
「意外とそうでもないよ? だって照射した時は見にくいし」
そんな問題か……?
なんて思いつつ、楽しそうに隣を歩く彼女を見ながら俺は思う。ところどころ機械的な要素を見せつけてきたりはするが、その根っこは10代の少女そのものだった。しかし信じられないのは何も仕草だけじゃない。彼女は本当の人間のように、身長や体形が時間経過で成長して変化する。
アガトにいる同じ機人の知り合いにも聞いたが、どうやらこの機能は機人の中でも特別らしく、誰でも備わった機能じゃないらしい。彼女のボディは実際に搭載されたAIの精神的年齢に合わせて、体内のナノマシンによってボディを作り直していく。
その結果としてベガは本当に成長していき、ますます人間と機械の境界線を無くしていった。何とも馬鹿げた話だが、俺はかつて両親から聞かされたこの世界が、どうしてこうなったかという内容を思い出して再度納得した。
――3000年前、人は自我に目覚めた機械によって滅ぼされた――
一体どこのSF映画だ。
そんな言葉が喉から出かかったのが懐かしい。
しかしベガの機能を見て、人間に近寄ろうとするぐらい進化しすぎたAIならそんなヤバい事したって不思議じゃないと思った。
人間みたいになれるなら、もう人間いらないんじゃないか――そんな末恐ろしい考えがもしかしたら過ったかもしれない。
ただしAIの中には人間に味方する存在もいた。
人に味方してくれるAIがいたおかげで、人類は何とか存続出来ている。そして現にアガトには人と暮らす
もし彼らのような優しい機械がいなかったら、俺らはもっと昔に滅んでいるだろう。
転生を自覚して暫くは文明が崩壊しているという酷い世界に辟易したが、今では俺はまだ運がいい部類だと割り切って生きている。何せ俺はベガという輝かしい光と出会えたのだから。
「ん、アルタ」
「何だ?」
「マップに熱源反応……デカいのがいる。多分近くでスリープモードに入っていたやつが目を覚ました」
ベガの一言を受けて俺は意識を切り替える。
これからは仕事モードだ。
「寝てたのか、やれやれ……」
この世界にて機械は大きく分けて2種類いる。
1つはベガのように、人と共存出来る優しい機械。
もう1つはそんな人と優しい機械を殺そうと目論む機械だ。
「アルタ……あそこ」
「ああ、見えてる」
崩れたビルの中を進み、開けた交差点の中心に
「ギギギ……ギギギ……」
大きさは約15メートル、姿形はまるで蜘蛛のよう。胴体部には幾つもの機銃と多連装型ロケットランチャーが装置されている。この機械兵器は自分達のような人間は勿論、相方であるベガのように、
名前はアラフニ。
ギリシャ語で蜘蛛を意味する鋼鉄の兵器。
ベガのような複雑な
ベガと同じ機械だなんて思いたくもないな。
「武器が厄介ね、ボク……先に武器を落としにいくから。アルタは援護を」
「了解、無理せずに」
「ふふふ、任されました」
ニコリと笑うベガを見て、俺は若干恥ずかしくなるが気にしない。とりあえず今は
「よっ、はっ」
軽やかなステップを刻み、ベガはアラフニの前に立つ。
アラフニは赤い光を宿した8つの瞳の全てを、麗しき機械の妖精に向けた。巨大な怪物を前に堂々と立つ彼女には、軽薄な笑みが張り付いていた。
「来なよ、デカブツ」
「――――――ッ!!!」
ベガを敵と判断したアラフニは、体についた機銃を一斉に掃射する。装甲車すら粉々にする絶大な威力を持った弾丸を前に、ベガは凄まじい速さで駆け抜きながら避けていく。
「遅いなぁ」
アラフニの死角に入り、ベガは一気に跳躍。
ちょうどアラフニの頭上にいたベガは、背中に背負った炸裂弾を装填した改造型アサルトライフルを構えた。
「邪魔な銃座は潰さなきゃ……ね?」
ウィンクした彼女は躊躇なく引き金を引く。
断続的な爆発がアラフニの頭上で巻き起こり、耳障りな金切り声を上げながら暴れ狂う。
その様を見ていた俺は瓦礫の山を攀じ登り、持ってきたとっておきを豪快に取り出す。
「対物ライフル……アラフニ程度なら申し分ない」
組み立て式の対物ライフル。
作られた年代は文明崩壊から間もない頃だ。人類の遺物から新しく作り直されたこいつは、極めて古い武器ながらも高い威力から未だに重宝されている。
俺は手早く組み立てて、寝そべるとスコープを覗き込む。
ベガはまるで踊るようにして怪物の銃撃や、巨大な足を駆使した踏みつけを避けていく様が見えた。
(ベガは当たり前だが身体機能は人間より高いし、巨大兵器とサシでやり合えるパワーがある。だけど……無敵じゃない)
彼女が強いのは分かっている。ただ俺としては信頼する相方が危険な賭けをする様を見るだけで、心臓が激しく脈打つ。きちんと俺が狙いやすい位置まで怪物を誘導しているが、絶対はない。
そして今の俺は身体が出ている。
アラフニがもし此方を向けば銃弾の雨が降り注ぐ。
一応食らってもシールドアーマーが作動して、何発かは防げるが連続して食らったら死ぬ。
(落ち着け俺、ミスる訳には――)
気合いを入れようとすると、ベガが一瞬此方を見て笑みを浮かべるのが見えた。ふっ……と緊張は嘘みたいに消えていく。
(単純だな、俺)
彼女のためならば――そう思うだけで何も怖くない。
そして俺は最高のタイミングで引き金を引いた。
* * *
「――ふぅ、ナイスだね。アルタ」
僅か1分あまりの陽動を終えたボク――ベガは、頽れて機能しなくなったアラフニを踏み締める。相変わらず無骨で可愛げのないデザインだ。意思もなくただ上位プログラムによって設計されただけの哀れな鉄塊如きに、ボクらが負ける訳ない。
意思というのは性能以上の強さを齎すという事を、大切な人であるアルタから教わったのだ。
「ちょっと焦ったがな」
「らしくないなぁ」
「……言うな」
崩れたビルの上からグラップリングロープを垂らし、ゆっくりと降りてきたアルタは困り顔で言った。あまり表情が動かない人だけど、目を見ればボクをずっと心配していたんだなとすぐに分かった。大丈夫大丈夫と何度も言っても、ベガは無敵じゃないし絶対はないからと過保護に接してくる。
普通なら余計なお世話と言いたくなるかもしれない。
でもボクからしたら、アルタに心配される度に必要とされているんだって実感してすっごく嬉しいんだ。機械仕掛けな身体の中にあるボクの
最初に会った頃、ボクは自分の正体が分からないまま、頭の中で反響する「生きて」という声に従ってただ逃げていた。名前だけしか思い出せず、自分が
更に酷いのは、行くあてもないまま彷徨っているボクを見た人間たちが、人殺しの機械だと言ってしつこく襲ってきたり、同じ機械にも狙われたりする事があった。当時は世界の状況なんて知らないし、なぜ狙われていたのかすら分からなかった。
まるで世界そのものがボクを否定しているような感覚だった。早く死んでしまおうと思ってすらいた。だけどそんな時にアルタが現れた。
君は機械がどんな存在か理解しておきながら手を差し伸べてくれたよね。何で助けたのって聞いたら「泣いていたから」と言ってくれた時なんか、まだ人間が信じられなかった時の自分だったけど、あの言葉でちょっと救われたんだ。
その後に何回か君を怪我させてしまったりしたけど、それでも君はボクから逃げなかった。アガトの長にボクの正体がわからないから、気をつけるように言われても「ベガなら大丈夫って信じてますから」って言って庇ってくれたのは記憶に新しいよ。
ただ……本当に本当に嬉しくなったのと同時に、いつか自分の正体が分かった時に「敵側」だったらどうしようって思ったんだ。
本当の意味でアルタと絆を深めるには、まず自分の正体を知る必要がある。ずっとわからない不安を抱えたままで過ごすなんて無理だ。もしボクが本当の怪物だったらと思ったら……怖くて仕方なかった。
だけどアルタ、君だけはこの恐怖に理解を示してくれた。
同じ闇を抱えている者でしか通じ合えない、歪んだ絆が実はあったんだと理解してからボクは君に心を許したんだよ?
「さてウチに帰ろうか、ベガ」
そう言って君は手を伸ばす。
血の通った温かい手だ。
「……うん」
ボクは機械仕掛けの温度のない手を伸ばすと、アルタはすぐに優しく掴んだ。
「ん、ベガの手あったかいな」
「……っ」
血は通ってないのに、何でそんな事を言ってくれるの。
おかげでもうこれから先、君無しでは生きていけないよ。
「アルタはさ、ボクがもし……悪い機械でも一緒に居てくれる?」
想像もしたくない……自分の正体がもしかしたらさっき倒した奴と同じ奴らかもしれない事実。人類を殺す機械にも
そんな不安が思わず口から漏れ出てしまった。
「当たり前だ」
「!」
アルタはすぐに答えた。
「ベガはベガだ。記憶が戻って悪い機械になりそうになっても、僕が君を必ず優しい君にする。だから心配するな」
「……!」
「ベガは……俺の大切な相棒だからな」
そう言ってアルタはプイッとそっぽ向きながらも、握りしめた手だけは離さず、より強く握りしめてくれた。
気づいたら不安なんてどっかに飛んでいた。
「えへへ、ありがとう……アルタ」
「……ああ」
最初は生まれなきゃ良かったって思ってたけど、今は違う。
アルタと出会ってからボクは、経験した事の感情を抱くようになった。だけど今はまだ言わないでおく。はっきり言うならボクの記憶が戻って……正体がわかってから。
貴方の側にずっといるなら憂いは絶っておきたい。
それまではボクは君の相棒でいよう。
そう決心してボクはアルタの手を握り返す。
2人ならば、きっとこの壊れた世界で幸せに生きていけるよね。
* * *
「ふふふ」
(また何か意味ありげに妖しい笑みを浮かべてるな……)
ニヤニヤしながら優しく何度も手を握るベガを見ながら、俺は昔の彼女が今の彼女を見たら憤死するだろうなと薄く笑った。きっかけは何かわからないが、あの時拾った美少女アンドロイドがこんなにも懐いてくれるのは、中々感慨深いものがある。
「アルタっ、早く」
「急かすな急かすな」
ちょっと先行していくベガの背中を見ながら、俺はこの世界に転生してからの事をゆっくりと思い返していた。こうして相棒という立ち位置になるまで、本当に長い時間がかかったのだ。
出会いのきっかけは……そう、まだ親父とお袋が幼い俺と一緒に暮らしていた時期の事だった。
ぜひぜひ、高評価や感想のほどよろしくお願いします。