人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた 作:アスピラント
「アルタ、こんなとこに居たんだね」
「ベガ」
アガト近くの高台にて、俺は街の外に広がる荒野をじっと眺めていた。俺の目には空に高く登った太陽が荒れ果てた大地を照らす絶景と、草を喰む草食恐竜のような体格をしたキメラの群れが駆け抜ける姿が映っていた。
「……ローグとファナだけど、痕跡すら残ってなかった。ケリー達も……どこへ行ったか知らないって」
「はは、まああの2人なら出来るだろうな……」
昨日、親父とお袋は置き手紙だけを残してアガトから出て行った。残された俺とベガは2人の足取りを辿ろうとしたが、ベガの機能を用いても一切の痕跡は見つからなかった。俺は最初何があったのか現状を把握出来ないまま、ひたすら周囲を探そうとしたが……わからなかった。
ずっと逃げてきた2人のことだ。
短時間で自分達がいた形跡を消して逃げるのは得意分野なんだろう。
「何で……2人は出て行ったのかな。ボクらを置いていくなんて……」
「置き手紙の中にあったろ。お前たちが幸せに生きるには、俺たち2人の存在は不要だってな。ふざけた理由だよ……本当に」
親父は多分最初からこうするつもりだったのだろう。
俺とベガに力を付けさせて、最低限生き抜く力を身につけさせた後は去っていく。これで役目は終わり、後は全て忘れて平和に生きろと。
「ふざけんなよ……」
自然と恨み言が漏れた。
俺の腹はマグマ溜まりが出来ているのではと錯覚するほど、怒りで煮えたぎっていた。
「ふざけんなよッ!!!」
力一杯叫んだ俺をベガは何も言わずに見守っていた。
その気遣いが凄くありがたかった。
「本当に何も教えずに出ていきやがって!! 俺がどんなに悩んでいたのかも知っていただろうが!! ずっと教えてくれって言っても……すまないしか言わねぇしよッ!! 俺はずっと自分が何なのか知りたくて強くなったのに!」
今まで溜め込んだ不満や怒りが勝手に口から放出される。親父は本当に何も教えてくれなかった。自分の事は教えてくれたが、俺が1番知りたかったことは一切語らなかった。ぶん殴ってでも教えてくれと胸ぐら掴むべきだったかなと、かなり過激な手段まで頭に浮かぶ始末だった。
「約束破りやがってッ! ふざけんな、ふざけんな、俺は……俺は……」
今までの思い出が走馬灯のように過ぎる。
初めて銃を握った時、親父は優しく丁寧に扱い方を教えてくれた事。機械兵器を前にして恐怖する幼い俺を庇い、奴ら自体は然程強くないと安心させてくれた事。そしてベガと一緒に暮らすのを許可してくれたおかげで、長らく感じることのなかった家族の温かみを教えくれた事。
気づけば俺は崩壊した世界とは思えないぐらい、とても穏やかで幸せな日々を送れていたんだと認識した。
「俺は!」
こんな別れになるならもっと早くに言えば良かった。
「俺はあんたのことを……本当の親父みたいに思っていたんだ……!」
転生という特異な生まれではあったけれども、この世界で過ごしてきた思い出はかけがえのない物だ。それこそ今の方が大切だと思ってしまうぐらいには。そんな中でローグは血が繋がっていなくても、本当の父親同然の存在になっていた。
ファナも同様だ、話す機会はローグより少なかったが、あの人は常に母親のように側で見守ってくれていたのだ。
「アルタ」
泣き崩れた俺をベガは優しく抱きしめて、背中を摩る。機械とは思えないぐらい柔らかい感触と、じんわりとした温かさが俺の心に染み渡っていく。
「ボクはさ、今まで自分が誰かわからない不安に悩まされて生きてきた。今はいい機械かもしれないけど、本性は悪い機械かもしれない。記憶を明らかにする事によっていい結果を齎さないかもしれないって」
「……前に言ってたな」
「うん。だから今の平穏な暮らしが出来れば……ボクは幸せだなって。ついこないだまでそう思ってた」
でもね――とベガは俺の頬に手をやり、顔を向かい合わせた。
「それはボクだけにとって都合の良い幸せなんだ。ボクは幸せになれても……アルタはずっと自分が誰なのかわからない不安を抱えたまま。ボクにとっての本当の幸せは、君も一緒に幸せにならないと得られないんだ」
ベガの星光のような瞳が俺の魂を捉えた。
「アルタ、ボクと旅に出よう。ボクらの正体を知り、出て行ってしまったローグとファナを探す。ボクらは記憶がないのか、一体自分が何なのか知りたければ……もう探しに行くしかない」
「ベガ……」
「ボクらが正しく前に進むには必要な事だ。全ての憂いを断ち切って……何も不安がなくなったその日が訪れるまで、旅をしよう」
そこにかつて人や機人を、自分以外を廃絶して逃げていた少女はいなかった。いるのは自分の不安だけじゃなく、俺の不安まで解決しようと試みる勇者であった。
「旅……」
今までアガトの近くにいるだけで完結していた世界から一歩踏み出す。間違いなく想像もつかない困難が待ち受けている。旅に出なければ出会う事もなかったはずの悪意や、障害にも沢山向き合うだろう。下手すれば死ぬような事だって全然あり得る。
俺はそんな場面にあった際に、ベガをちゃんと守れるのか不安になった。
「大丈夫だよ、アルタ」
しかし俺の考えている事なんてお見通しだと言わんばかりに、ベガはなんて事ないと付け足して笑う。
「2人なら、きっとどんな困難も乗り越えられる。昔君がボクを助けてくれたように、今度はボクが君を助けてあげる」
我ながら単純だなと心底思うが、俺は彼女の一言でこれからの不安が綺麗さっぱり消し飛んでしまった。ベガとなら太陽系の彼方だって行ける。何故かはわからないけど、俺はそう確信した。
* * *
「――本当、ここまで来るのに色々あったな」
そして時は
親父とお袋がアガトを去ってから2年。
俺とベガは17歳になり、体はもう完全に大人と言っても過言じゃないぐらい成長した。身長は180センチを超え、ベガも174センチと女性の中ではかなり高くなった。顔つきも可愛らしさの中に凛々しさが混ざり、より美しさが際立つようになった。
「どうしたの? アルタ?」
アラフニを倒し、アガトへ帰還する道中でベガは俺の顔を覗き込む。
「これまでの事を思い出していたんだよ。ほら……アイラとノラはもうじき狩人の試験を受けるだろ? あいつらが認められたら……俺たちはアガトを出るんだしさ」
「あ〜、なるほど感慨に耽るって奴かな」
「そうそれ」
あれから2年が経ち、俺たちはもうじきアガトを去る。これは親父達がアガトを去り、俺とベガ……そしてアガトの老人達の間で取り決めたことだった。
俺たちが旅をすると決めた当初、まずヨルマイに相談を持ち掛けたのだ。親父はアガト随一の戦力、そんな彼が抜けてしまった上に俺たちまで無断で出たら、アガトを守る人が少なくなる懸念があったからだ。
ヨルマイはすごく悩んでいた。出来る事なら俺とベガにはいつまでも残って欲しいと。理由は分かる、ベガというずば抜けた戦力がいなくなれば不測の事態も対処出来る安心感があったからだ。
さてどうしようかと思っていた矢先、ベガは代替案を提案してきた。
――アイラとノラが狩人になるまではいます――
そう、俺たちの後輩であるアイラとノラを一流まで育てあげる事だ。ベガほどの性能がアイラに無くても、今まで親父から教わった知識を全てアイラとノラに教え、試験に合格させてしまえば俺ら2人の抜けた穴は埋められると。
ヨルマイは少し思案すると、その提案を呑んでくれた。今から2年間……アイラとノラが試験を受けられるその日まで、しっかりと鍛えあげてアガトの守護者として活躍出来るように導けと。
そして2人が晴れて狩人になった暁には、アガト総出で旅へ向かう俺とベガを祝ってやろうと――ベガは何か渋い顔をしていたが、一応そう言う取り決めにはなった。それから俺は機械兵器を倒す際は常にアイラとノラを連れていき、知識も教え込んだ。
余分に1年間戦えるのだ、俺とベガはかなり精を入れて訓練した。おかげでまだ正式な狩人になっていないが、実力自体は熟練の狩人と引けは取らない。後は試験に受かれば良い――それだけだった。
「試験ってさ、明後日だっけ?」
「ああ、一応狩場は決めてあるけど……明日本当にそこで問題ないかノラと軽く見て回る予定だ」
「贔屓するねー、アイラとノラ以外にも3人試験受ける人いるんだよ〜?」
クスクス笑うベガを俺は「贔屓じゃねぇよ」と言って軽く額を小突く。親父の癖が俺にも移ったのか、ふざけたベガに突っ込みを入れる時はこうしてしまう。ベガは「あた」と間抜けな声を出すが、絶対に痛くないのはお見通しである。むしろ小突いた俺のが痛いまである。
「アイラとノラは……ぶっちゃけ問題ない。これまで俺たちと一緒に組んできてから分かるけど、もうアイツらは合格するのは目に見えている。ただ見回りは……何つーかアガトを去る前に一緒に散策行かせて欲しいという、ノラの希望があってやってる事だ」
ここまで俺は結構な早口で説明した。
見回りは試験の前日あたりにやるのは鉄板なのだが、やってる事は本当にただの散策に近い。あくまで異変がないかとか、バグったキメラがウヨウヨしていないよなとか、試験を行う際のイレギュラーがないか見る仕事だ。
それをやるんだと何気なくノラに話したら「じゃあ最後に散策一緒にいきたいです、先輩」と言ってきたのだ。何ともまぁかわいい後輩である。俺は快く承諾し、ヨルマイにも話は通した。
だから不正なんかじゃないし、贔屓でもない。
ないったらないのだ。
「あー……まぁ試験終わったら翌日にはアガトを出ちゃうからねー。もうゆっくり散歩する時間すら無いから無理もないか」
「そうだぞ。ベガも来ないか? 最後ぐらいゆっくり話す時間あっても……」
「どうせ試験終わったらドンチャン騒ぎでしょ? その時にたっぷり話せるから大丈夫」
ベガはヒラヒラ〜っと手を振り、ノラと男同士でまったり話しなよと言った。それは確かに言えている。ヨルマイ主催の宴が試験が終わったら待ち受けているし、その際に別れは言えるのだ。ただまぁ見回りなんて機会はなくなっちゃう訳だから、来ても良いのにとは思った。
「さ、着いたよ」
「ん、話していたらあっという間だな」
それから俺たちは中身のない話をしていると、アガトの前に辿り着いていた。相変わらず10年前から大した発展をしていない小さな集落である。でも独特の温かさと雰囲気がある。紀元前の人類が築き上げたような建物から、太古の人類が残した建築様式を見様見真似で再現した古めかしい小屋まで、時代ごとにバラバラな様式をした建物が並ぶ世界が出迎えてくれた。
「「ベガお姉ちゃん〜! おかえり〜!」」
「わ! チビちゃん達っ!」
アガトに入るやいなや、ベガを出迎えたのは人間の子供達だ。つい数年前に夫婦になった家庭で生まれた3人の子供は、ケリーの工房にて武器調整を見学するベガを見て、速攻で興味を抱いて懐いてしまったのだ。最初は困惑していて距離感を測りかねた彼女だったが、今ではすっかり良きお姉ちゃんをしていた。
対する俺は顔が怖いという理由で寄りつかない――解せぬ。
「ね、ね! 聞いてベガお姉ちゃん!」
「ふふ、なーに?」
「皆でお城作ったの! 見てほしいな〜」
「わ! それは絶対に見ないと! アルタ! ヨルマイ様に報告お願い!」
「……お前、ヨルマイ様に会いたくない口実に子供使うなよ……」
俺はジト目をベガに向けると、彼女は舌出して――えへっ――と誤魔化す。ちょっとベガさんや、その仕草はどこでインプットしたんですかね。
「お願いよ、アルタ」
「……はぁ〜、仕方ないな」
「ふふ、ありがと。お詫びに今日はボクがご飯作るから」
「もともと今日はお前が当番だろ……ったく」
「ありがと! んじゃよろしくー」
そう言って子供に囲まれながら去っていくべがを見送った俺は、深いため息を吐いた。
快活になり、明るくなったベガは何か小悪魔めいた魅力が出てきている。こちとら変にベガを意識しちゃう時があるから、こうして翻弄される事を喜んじゃうのだ。本当に罪深い美少女アンドロイドである。
「本当、アルタは頼りになるよ」
俺の身にもなって欲しいものだ、本当に。
俺は熱くなる顔を誤魔化すようにヨルマイのティピーの中へ入る。ここ数年俺たちが機会兵器やバグったキメラを倒しまくったおかげか、ティピーの中は機械の装甲による装飾によって、地味にグレードアップしていた。鎧や防護服に使って消費していたが、それでも余ってしまうぐらい大量にあった。
それをこうした装飾に使っている。有効活用として適切かは微妙なところだが。
「ヨルマイ様、アルタがきました」
「おぉ……無事……じゃったか……」
御歳110歳を超えた老婆が、ガードに支えられる型で出迎えてくれた。つい10年前はまだまだしっかりしていた様子だったが、ここ最近はちょっと弱々しい。側から見たらいまだに力強さを感じるが、よく見てきた俺からしたら前より体調は良くない。
「無理なさらず。あくまで報告だけなのでガードに任せてしまえばよろしいでしょう」
足腰弱いのに無理しないで欲しいなと思いつつ、俺は言った。
「いやいや……アガトの英雄を前に、ワシ自らが出迎えないのは……失礼に値する……。これぐらいのわがままは……聞いておくれ」
律儀なことだ。
気持ちは非常にありがたいが、ヒヤヒヤする。
「アガトの近辺に彷徨いていたアラフニは駆除しました。周辺も念の為見回りましたが、特に異変はなかったです」
「そうか……ならば良かった。アラフニは強力な怪物じゃ、早急に処理出来るお主らには頭が上がらぬ」
「まぁ……仕事ですから」
辺境では俺とベガに勝てる奴はそうはいないだろう。
まぁ本物の強さを持った奴と出会ったら怖いが。
「してアルタよ、試験が終わった後の事じゃが」
「はい」
「行く宛はあるのかの?」
行く宛は一応あるっちゃある。
アガトから10キロ離れた位置に、また別の村があるのだが彼らはここと違って他の街と交流がある。希望は薄いが聞き込みしつつ、人の多い街や拠点をその足で探していく型になるだろう。
「――かなり地道じゃな」
「親父は痕跡を残さなかったので……」
「ふむ、これは助けになるかはわからないが……」
そう言ってヨルマイは古めかしい地図を取り出し、俺に渡してきた。ここ周辺地域の街や村の所在地が記されたマップだ。俺からしたらかなりありがたかった。
「ここから東に50キロ離れた場所に、イリオポリという商業都市がある」
「都市ですか」
商業都市――つまり様々な商いを行う人々が集まる場所だ。間違いなく俺が頼ろうとしている村に比べたら、まだ有力な情報は手に入りやすいだろう。
「ここには様々な産業に携わる者がいるだけではなく、アルタのような狩人達も集っている。狩人の組合――ギルドがな」
「……ギルド……」
なるほど……ファンタジーでよく出てくるようなギルドと同じみたいな組織か。
「お主の腕ならば、ギルドのお眼鏡に叶うだろう。ベガ様もいれば百人力。そこで名を挙げれば……協力者も募りやすい。どうじゃ……」
「ヨルマイ様、ありがとうございます……!」
手探りの旅に道筋が見えた気がした。
ひとまずの目的地が決まれば、後はなるようになれだ。親父がどこまで行ったかは知らないが、これを起点に俺とベガの正体も探っていけたらなと思った。
「かつてあちこちを転々としながら逃げ回った時の記憶が、今になって役に立つ時が来そうだ……」
ヨルマイは感慨深そうに言った。
ああ、確かアガトの街が出来たのもヨルマイとその仲間が、機械の脅威から逃げるために作ったと親父から聞いていた。その際に得た知識なのだろう。
「恩に着ます」
「大したことはしておらぬよ……」
ヨルマイは本当に感謝されるまでもないぞと言う。
「アルタよ」
「はい」
「生い先短い老耄の……最後の忠告をしよう」
その一言を機に、ヨルマイの雰囲気は柔和なものから張り詰めたものに変わる。
「これから先、お主はローグの足取りを追う過程で様々な困難に当たるだろう。それはわざわざワシから言われずとも予想はしている筈じゃ」
「はい……」
「その旅路で間違いなく、人を鏖殺せんと企む機人や機械と何度も当たる。これは間違いない」
人類を滅ぼそうと機械……それは今まで相手してきた機械兵器とはまた別なのだろう。
「アガトの周辺に現れる機械兵器は、奴らにとって雑兵とすら数えられていない代物。意思を持ち、人類が作り出せない武装でもって大きな力を振るう奴ら。そいつらこそ……本当の脅威」
ヨルマイの閉じたままだった目が、力一杯に開かれる。
瞳は白く濁り、恐らく視界はほとんどぼやけているだろう。
「その時に鍵となるのは……ベガ様の存在じゃ」
「ベガ……」
「彼女の力無くして……旅を続けることは出来ないじゃろう」
ヨルマイはおぼつかない足取りで俺に近寄ると、しわくちゃの手で俺の両手を包み込んだ。
「どうか2人とも、必ず……生きて旅の果てまで辿り着いて欲しい」
「ヨルマイ……様」
「ただ……どうしても辛い時はある。その時はいつでもここに戻ってきていい。アガトはお主の家じゃ、それだけは忘れずに……な」
最後にヨルマイはそう言うと、満足したのか笑みをこぼす。彼女なりの激励だったのだろう。少し緩んでいた気持ちが一気に引き締まった気がした。
だからこそ俺はこれだけは言っておこうと思った。
「ヨルマイ様」
「うむ……」
「12年間……お世話になりました」
「ふふ、それは旅立つ際に言うものじゃぞ」
どうしても言いたくなったんですよ。
俺は何だか気恥ずかしい思いをしながらも、ヨルマイ様の下を後にした。これまで彼女にはどうしても苦手意識はあったが、最後の最後に何だか分かり合えたというか……打ち解けられて本当に良かった。
だからこそ尚更……死ぬわけにはいかない。
必ず親父とお袋を連れ戻すのと同時に、俺とベガの正体を解き明かして見せると固く誓った。
* * *
「ヨルマイ様……」
「何じゃ」
アルタが去ってから、お付きのシャーマンが声をかけた。
2人の関係性はとても古く、アガトの創設時からの付き合いだ。2人の間に秘密はなく、常に情報を共有してきた仲でもあった。
「ローグから言われた事を……アルタに伝えなくても良かったので?」
「言わぬ方がいい。ベガ様が不快に思う内容だからの……」
すっ……とヨルマイは細い目をぐっと瞑り、ローグから言われたことを思い出していた。
それはかつてベガを引き取った際、ローグがアルタに内緒で伝えられたものだ。その内容はただ一言のみであったが、ヨルマイのように昔から生きてきた人間ならば、必ず聞いたことのある名前が含まれていた。
――ヨルマイ様、ベガは……神の力を使える者です――
――神……? まさか……!――
――貴女の想像した
「……神の力を使う者……か」
ヨルマイは何も全てを知っているわけじゃない。
むしろローグやファナの方がずっと今の世界をよく知っているだろう。そんな自分でも神の名前には覚えがあった。
「アルタ、ベガ様。どうか旅の行く末が……2人にとって良きものにならん事を……」
2人はきっと大きな流れに巻き込まれることになる。
太陽系そのものを大きく変えるような、とてつもない流れに。
* * *
「――ってヨルマイに言われたんだよな」
「へ〜……あの人……そんなこと考えてたんだ」
帰宅してから暫くして、俺とベガは2人で食事をしていた。ベガは何だか張り切っていたので、一体何を作ったんだと聞いたのだが。
――ボク、シチュー作ってみたよ――
何の因果か知らないが、昔俺がベガにあげていたお袋特製シチューをベガ本人が再現したようだ。意気揚々と食べて食べてとせがむ彼女に根負けした俺は、一応お袋の味を知る身として食べてみた。
その結果――めちゃくちゃそのままだった。
というか何ならちょっと越してるまである。ごめんよお母さんってレベルだ。
「どう? 美味しい?」
「めちゃくちゃ美味い、完全再現してるじゃないか……」
え、ベガはいつお袋からレシピ習ったんだ?
一緒に作ることはほとんどなかった筈だが……俺が見てない内に習ってる説がある。俺はもうスープを飲む手が止まらなかった。
「実はね、味から成分分析して材料を取り寄せて、作り方とかこっそり試行錯誤してたの」
「味覚から突き止めたのか?」
「そう、なんか……いつのまにか出来るようになってて」
うおお……じゃあマキナス相手に秘密のレシピとかは無意味だな。むしろ改良されてオリジナルを超えてしまうまである。料理人としても大成出来る機能まであったら、いよいよ人間の職業とか危ういだろう。太古の昔の就業環境とかどうだったのかなと余計な思考まで辿り着いてしまった。
「この料理、実はボクが1番作りたくて思い出深い料理なんだ」
「そうだったのか……」
「だってさ、ボクが塞ぎ込んでた中で食べさせてくれた料理だったもん。ある意味……人生の一皿みたいな奴かな?」
そんな風に思ってくれたのかと俺はしみじみ思う。あの時はとにかく食べさせて、エネルギー供給させなきゃと躍起になっていた。今でこそ主要なエネルギーはキメラから回収出来るフォトンエネルギーだが、大半はこうして有機物を食べる事でバイオマス変換して摂取している。一体どんな原理で光子エネルギーにしてるのかは……専門家じゃないからわからない。
ただ重要なのはベガはこうした一緒に過ごす時間を、親父達が居なくなってからより大事にするようになった事だ。
「あの時はごめんね、強く当たっちゃって」
「仕方ないだろ、周り全て敵に見えてたら……ああなっちまう」
殴られた痛みも必要経費、死ななかったら何でもいいのだ。
「優しいなぁ……」
「普通だよ」
「ふふ、そう言う事にしてやろう」
ベガは「はっ!」と何か思いついたリアクションを取ると、自分のシチューにスプーンをぶち込んで掬うと、俺の前に差し出した。
「はい、あーん」
「……わざわざあんなリアクションして、やりたかったのそれか?」
「嬉しいでしょ?」
「……嬉しいから頂きます……」
クッソ逆らえねぇ……俺はパクりとスプーンに上に乗っていた鶏胸肉を頬張り、幸せと旨みを噛み締めた。旅に出たらこんな和やかな時間も少なくなるかもしれない。今だからこそ、目一杯楽しまなければ。
「あの時のお返しが出来た、へへへ」
「そりゃあ……何よりでした……」
訂正、旅の途中でも無理矢理和やかな時間を作らないといけない。
やっとここまで来ました。
次回もお楽しみにして頂けると嬉しいです