人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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日常に潜む陰

 ――新たな形、これなら――

 

 ――領域内でも活動出来る――

 

 ――処理速度も問題無し――

 

 ――移植、完了――

 

 頭の中で……誰かの声が聞こえる。

 女の声か男の声か、そのどちらとも取れる声だ。俺は深い眠りに入ると偶にこの声を聞く。多分これは転生を自覚する前の……俺の記憶だ。根拠はないが、なんとなく俺はそう予感していた。

 

『ベガばかり気にしているが、お前はどうなんだ?』

 

 自問自答する俺の影が、真っ白な空間に佇んでいる。

 俺の声をしているが、あれは俺の形を真似した何かだ。

 

『お前が転生した根拠はあるのか?』

 

 あるさ、だって全部じゃないけど今の時代じゃない俺の記憶が残ってる。

 

『は、他の記憶もある。学生、社会人、ある時は蛮族、またある時は兵士。どれもバラバラで全く異なる人格だ』

 

 黙れ。

 

『お前は自分の事を転生者という設定で固め、仮初の主人格を作り上げて精神を保っているにすぎない。本当のお前は一体なんなのかすら分からない』

 

 黙れ、俺は絶対に転生者だ。

 そうじゃないと()()()()がうるさいんだ。自分をきちんと固定しないといけないんだ。

 

『本当の怪物はベガじゃなくて――お前かもしれないのに』

 

 いつの間にか、顔のない誰かが俺の前に立っていた。

 

 

 

         *   *   *

 

 

 

「……ぁあ、クソ……変な夢見た」

 

 何とも形容し難い夢から覚めた俺は、冷や汗ダラダラになってしまった顔を手で拭う。隣にはベガがまるで赤ん坊のように身体を丸めて、スヤスヤと寝ていた。2人暮らしになってから俺はベガと一緒のベッドで寝るようになったのだが、至ってかなり健全な夜を過ごしている。

 疾しい気持ちはないのかと大人に揶揄われた事があるのだが、何というか……一応正式な付き合いがある訳じゃないので清い関係性だ。

 

「ん……ん? あるた?」

「あ、悪い。起こしちまった」

「……だいじょぶ、それより……そっちこそどう?」

 

 ベガは寝ぼけた様子でこっちをチラリと一瞥する。

 明らかにまだ眠気から覚めていないが、それでも心配しているのは明らかだった。

 

「……変な夢を見た」

「悪夢?」

「悪夢……かもな」

 

 ベガは魘される事は無くなったが、俺はひどくなっていた。少なくともこんなに酷いのはベガと出会う前ぐらいで、彼女と会ってからはほとんど無くなった。だから俺も「意外と大した問題じゃないかも」と高を括っていたが、それは間違いだった。

 

 酷くなったのは親父達が出ていってからだ。

 あれ以来……俺は毎回じゃないが、ちょくちょくさっきみたいな悪夢を見るようになった。

 

 自分の頭の中で、無数の声がする。

 性別は男ばかりだが、年齢もバラバラ。運が良かったのは表面に出てくるのは()()()だけであり、他の人格みたいなのが出てこない事だろう。

 

「毎回同じ夢?」

「いや違う、と思う。ただ共通してるのは他人格の声が聞こえてくる事だな」

「カリウスさんに診てもらったら?」

「いや……いい、今日はほらノラと出かけるから」

「んー……」

 

 本当に大丈夫?

 目でそう言っているのは明らかだったが、まぁ命に関わる程度じゃない。心拍も正常だし、思考自体に問題はない。俺は大丈夫だからとベガを撫でるとベッドから起き上がる。

 

「準備しなきゃな……。そういやベガは今日何する予定だ?」

「ちょっと前にさ、デカいキメラ倒したじゃん? ワニみたいな奴」

 

 俺は頭の隅に置いていた記憶を引っ張り出した。ああ……確か河口付近に異常行動を取るキメラがいるのを、俺たちが偶々見つけたときかと思い出す。鉛色の肌と鉄の装甲を纏う9メートルはある半生物半機械の怪物――ペイルスクス。

 まるでガビエルのように細い口吻と、口から放つ高出力プラズマカッターは恐ろしかった。

 

 しかし俺とベガはそいつを何とか倒した。

 ただ倒し方が割とグロく、ベガが口の中にあったレーザー砲器官に向かって手を突っ込み、力ずくで引き抜いて破壊したのだ。ありゃ機械でも痛いだろうな……と俺は顔を引き攣らせた。

 

「ああ……あったな」

「あれで手に入れたレーザー出力器官でさ、近接武器出来ないかなってケリーに頼んだの」

「またどうして近接武器を?」

 

 正直ベガならステゴロで大丈夫そうな気がするが……と俺の言いたいことが分かったのか、ベガはチッチッチと不敵に笑う。

 

「旅に出たらどんな奴と戦うかわからないでしょ? それに……レーザーブレードはカッコいい」

「主な理由は後者だな」

「さっすがアルタ、よく分かったね」

「もう付き合い長いからな」

 

 ベガはベッドから跳ね起きて、えいえいと剣を振り回すフリをした。まぁ使える武器が増やせるには越した事はない。俺も作ってみたくなった。ただ近接格闘に持ち込んだら、俺たち人間は機人に勝てない。そもそもの身体スペックが違いすぎるし、ベガみたいなバカ力の持ち主とやり合ったら肉片になる。

 

 せめて身体を強くするような、外付けの強化アーマーとか欲しくなる。そうすればもっとベガの力になれただろうに。

 

「――さて、そろそろ行くわ。留守は頼む」

「はいはーい」

 

 一瞬過った気持ちを払い、俺はいそいそと狩りに向かう時と同じ装備に身を包む。ベガはピョンとベッドから飛んで降り立つと、すぐに台所へ向かった。マイペースな彼女を微笑ましく思いながらも俺は家を出た。

 

 悪夢によって澱んでしまった感情は、ノラとの散策で解消せねばならない。ただ背後からベガのじっとりとした視線が、何だかすごく居心地悪かった。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

「アルタさん、遅かったっすね」

「悪い……本当に悪い」

 

 アガトの街と外の世界との境界線付近、ここから先は管理外区域と書かれた看板の近くに、俺と一緒に試験場の見回りを申し出た後輩――ノラが居た。2年前にアイラと共に一悶着を起こした少年は、しっかりと身体作りしてきた凛々しい青年になりかけていた。

 金髪ツーブロックはそのままで、装備の幾つかは俺のお下がりを使っている。俺と違うのは岩場に溶け込めるカモフラ用の装備を着ている事と、肩にはエネルギーセルを弾薬に変換して撃ち出すラスターライフルをかけている事だろう。機械兵器の装甲にもダメージが入るよう、ケリーがしっかりカスタマイズした改良武器だ。

 俺も1つぐらい光学兵器は欲しい、ちょっとノラが羨ましくなった。

 

「ベガさんが何かやらかしたとかです?」

「いやアイツは悪くないよ、うん。アイツはね」

 

 悪いのは100パー俺である。

 しかし悪夢に魘されてるなんて、わざわざここで言う内容じゃない。俺は言葉を濁していると近くにあった看板に、何かがチラリと映ったのがみえた。

 

「……」

 

 よく目を凝らさなくても看板から、改良型アサルトライフルのヘビーバレルがはみ出ているのがみえた。看板の背後に誰かが隠れている。俺はそれをマジマジと見ているとノラが気まずそうな顔をし出した。

 

「あー……アルタさん、えーと……」

 

 ああ、大丈夫。

 ノラはきっと悪くない。多分今気づいたんだろう。

 

「ノラ、看板の裏に隠れてるアホを引っ張り出してこい。もう誰かわかってるから」

「すみません……俺何度も注意したんですけどね……。アイラ、お前勝手に付いてきたな」

「ちぇ〜、でも別に悪い事した訳じゃなくない?」

 

 ノラがキッと睨みつけると、看板の裏からアイラが出て来る。赤みを帯びた長い髪というわかりやすいチャームポイントは相変わらずだが、それをストレートにして肩まで伸ばしているおかげで、だいぶ大人っぽく見えていた。身長も伸びているが、ベガと違って彼女は脚部を機械兵器の残骸を元に、体格をいじって伸ばしている。内蔵されたナノボットによる成長機能がベガよりも劣るため、人力で何とか背を伸ばしたのだ。

 

 全てはベガと並びたいがため――何なら俺より重い感情抱えてないかなって思っている。

 

「以前から私とノラ、アルタの3人で何回も狩りには行ってるし。前みたいに無謀なことはしてないわよ」

「でも今日用事があるって言わなかった?」

「あったけど、ノラがこっそり最後にアルタと散策がてら話したいって聞いてからドタキャンしちゃった」

 

 アイラは「えへ」と悪びれることなく言ってのける。16歳になった2人の後輩は今や次期エース候補だ。まぁアガトにいる狩人なんて、全員合わせても10人ぐらいしかいないからエースもクソもないが。

 何かとお騒がせな彼女だが、2年前と比べ物にならないぐらい成長している。状況を冷静に見極める力と射撃スキル、ナイフを用いた徒手空拳はベガでさえ身を見張るほど。まともに組み合ったら俺も危ない。

 

「ねぇアルタ、ベガは?」

「すまないが、ベガは野暮用があるから来ないぞ」

「う〜……一緒に行きたかった……」

「散策終わったら会いに行きな、アイツも喜ぶから」

「やった!」

 

 多分……ちょっとウザそうな顔はするかもだが。

 俺はアイラとノラの間で繰り広げられる会話の応酬を捌きながら、アガトから出て目的地である平原へ向かう。試験をするには現状最適な奴がそこにいるのだ。

 

「アルタさん、試験ですけど……どんな奴を倒す予定です?」

「ちょっと、それって言っていいの?」

「大丈夫だ、問題ないよアイラ。だからノラはきいてきたんだ」

 

 アイラが怪訝そうな顔をするが、機械兵器の種類自体伝えるのは全く問題ない。むしろ他に受ける狩人候補の中には、すでに知っている奴もいる。

 

「今回はスコルピオを倒してもらう予定だ。直近で平原付近を彷徨いていたのを斥候が見つけた。数も6体ほどいたから丁度良い」

「スコルピオかぁ〜……アイツ地面に潜るからやりにくいのよね〜……」

 

 スコルピオ……名前の通り、蠍みたいな身体をした機械兵器である。2つのぶっとい鋏には火炎弾を放出するキャノンが内蔵、長い尾節の先端には溶解液を注入出来る針が付いている。複眼のセンサーは極めて精微であり、標的と定めた対象物のわずかな動きを検知して先制攻撃を仕掛けてくる。

 アイラとノラは俺と一緒に倒した事が何度もある。それ故に2人は余裕ある態度を取っているが、決して弱い相手じゃない。

 

 何せスコルピオは地面に潜航し、地下から不意をつく動きまでしてくるうざい敵だ。決して弱くないし、普通の狩人見習いでは相手にならない。だがアラフニほど厄介じゃないため試験という難易度には丁度良い。

 

「奴らがまだ近辺を彷徨いている事、そしてバグったキメラや不審な何かが無ければそこで試験をやる」

「ふーん」

「言っとくが今回は調査だけだぞ、余計な戦闘はしない。分かったかアイラ」

「わかってるわよ!」

 

 アイラは多分本当にわかっているとは思うけど、それでも俺は不安になってしまった。

 

「にしても……寂しくなりますね」

「ん? ああ……そうだな」

 

 ノラが目を伏せて言った。

 何の話かは態々言われなくてもわかる。

 

「試験が終わったらすぐ出発する気なの?」

「いや宴会には参加する予定だ、ベガもな。アイツはそこで皆と話せたらいいって言ってた」

「はぁ〜……なるほどねぇ」

 

 アイラもノラと同じような表情をして言った。今思えばこの2年間でアイラとノラの2人と過ごす時間は長かった。師匠と弟子という関係性では収まらない絆を築き上げてきた。俺も旅に出たら暫くコイツらと会えないよなぁと思う度に、すごく寂しくなったりする。

 

「アガトの外ですか……どんな世界が広がっているのか」

「気になるなら、お前もいつか旅に出たらどうだ? ノラ」

「え……? 俺がですか? んー……どうでしょう、ちょっと怖さもありますね」

 

 ノラは力無く笑うとアイラがいたずらっ子全開な笑みを浮かべて、ノラの背中に飛び掛かる。言っておくが機人は人間より重い、ノラの顔は一瞬で重さから顔を赤くした。

 

「なに〜? ノラは怖いの〜?」

「アイラ……! お前……! 乗っかってくるな!」

「だって怖いって言うから慰めようかなと」

「ふざけんな」

 

 怒ったノラが必死に文句を言うが、俺は知っている。なんだかんだでアイラと密着して嬉しがっている事を。

 

「俺が怖いって言ってるのはな……旅に出たらお前が傷つくかもしれないからだよ」

「……っ!」

 

 途端にアイラが大人しくなって、スルスルとノラから降りていく。彼女は意図的にノラから顔を背けてちょっとだけ距離を開けてしまった。

 

「ア、アイラ?」

 

 態度を明確に変えたアイラを見たノラは、動揺しながら聞くとアイラはか細い声で言った。

 

「う、うるさい……ノラのくせに……」

 

 このやり取りを見ていると俺は何度も思う――クソ苦いコーヒーをがぶ飲みさせてくれと。

 

 

 

          *   *   *

 

 

「ケリー」

「ん……? お〜ベガ! 来てくれたの!」

 

 アルタがノラと一緒に狩場候補の下見に向かっていった後、ボクは技師であるケリーが営む工房に立ち寄った。今日はアルタと行動を共にする時間はほとんどない。寂しいけど……世話焼きなところがあって僕は好きだ。

 

「前にさ、キメラから手に入れたレーザーブレード。ボクに使えないか打診したけど、あれから経過はどうかなって」

「ん! とりあえず人間サイズにまでサイズ縮小しつつ、出力もそのままに出来たわよ」

「どれどれ」

 

 流石はケリー。

 同じ機人として鼻が高い。ボク自身銃を使った戦闘も得意だが、実際の所直接殴った方が強かったりする。だけどそれをやろうとすると、アルタから「危ないから近接格闘はやむを得ない場合」と口酸っぱく言ってくる。心配してくれる気持ちはありがたいが、ボクとしてはアルタを守り抜く為に最善を尽くしてるだけに過ぎない。

 

「はいこれ」

「ん……意外と軽い」

 

 ケリーから剣の柄の部分だけみたいな機械を渡された。重さは全然感じない。ボクが人より力持ちだと考慮しても、軽すぎるぐらいだ。

 

「試しにボタン押してみて。言っとくけど! 私から離れた位置でお願いね!」

「わかってるって」

 

 言われるがままボタンを押すと、鋒が少し上向きに曲がった片刃の剣が出てきた。圧縮された光子(フォトン)エネルギーによって構成された剣は、出現と同時にバチバチと音を立てながら光り輝く。

  

「イメージは昔、()()と呼ばれた国で使われた刀をモチーフにして作り上げたものよ」

「刀……ふーん」

 

 ボクは軽く手首を回すと、工房にあった机の角が一瞬で焼き切れた。やっべぇ……器物破損だぁ……とボクはサァーと血の気が引いた。もっとも人工血液だから本物の血じゃないが。

 

「あ……っ」

「……ベガ、弁償ね」

「ご、ごめんなさい……」

「しまいなさい」

「はい……」

 

 お母さんが居たらこんな感じなのかな……。

 ボクは居た堪れない気持ちのまま、貰ったレーザーブレードを手首の中にしまう。我ながら機人というのは自在に体内へ格納出来たりするから、本当便利だなと他人事みたいに思った。

 

「安全装置はちゃんと付ける事。威力も調整出来るから」

「うん、ありがとう」

「普通の金属の剣と違って、フォトンには重さがないわ。だから特に力なんて入れなくても簡単に切れるけど、何でも切れちゃう刃を自在に振り回したら、自分を切っちゃう事故だってあり得る。本当に気をつけて」

「……わかってる」

 

 確かにこの切れ味だとボクの身体でさえ簡単に切り裂けそうだ。迂闊に振り回してアルタを傷つけるのは避けたい所である。使うなら周りに味方がいない事をしっかり確認してからじゃないと。

 

「明日が終わったら、もうベガには会えないのかー」

「ん?」

 

 ケリーがデスクの上で肘をつきながらつぶやいた。

 ああ、なるほど……永遠の別れみたいに思ってそうだな。

 

「ケリー、言っとくけどボクはちょくちょくアガトに戻るつもりだよ」

「へ? そうなの……?」

「ちょくちょく……は言いすぎたかもだけど、アルタと決めているんだ。旅に出ても偶には戻ろうって」

 

 ボクはローグみたいに何もかも捨ててまで、ここから去るつもりはない。それにローグとファナを連れ帰るのは至難の技だと思う。多分……何年もかかるかもしれないし、下手したら地球にいるかもわからない。

 そんな状態でずっと探していたら、もう全然アガトに戻る機会がない。だったら旅の成果がひと段落ついたりしたらまた戻ろうとアルタと決めたのだ。

 

「心配しなくてもボクは皆の事、忘れないし」

「なーんだ、安心したわ……。だってこんな可愛い妹分と二度と会えないってなったら――ねっ!」

「わっ」

 

 ケリーはガシガシとボクの頭を乱雑に撫で回す。髪が乱れるからやめて欲しいと慌てて言ってもケリーは聞かなかった。

 

「ベガ、頼むから死んだりしないでね。やばくなったらアルタと一緒に逃げちゃいなさい」

「わ、分かった」

「でもどうしても逃げられない時は、遠慮なく味方を頼ること! いい?」

「わ、わかりましたっ」

「宜しい!」

 

 そしてついでと言わんばかりに、ボクはケリーと約束まで見事に取り付けられてしまうのだった。

 

 

 

         *   *   *

 

 

 

「――さて平原の様子だが……」

 

 ノラとアイラという予期せぬ乱入者を交えて、俺は試験を行うのに丁度良い平原にたどり着いた。枯れ草が生い茂っているし、身体をその中に隠せる。更には遮蔽物として使えそうな岩場まである。この近辺で戦い易いとしたら、ここがいいだろう。

 

「ふーん、まぁ確かに色々戦法は試せそうな場所ねー。やるじゃんアルタ」

「そりゃどーも」

 

 アイラは赤い髪を弄りながら、上から目線な評価を下す。一応狩人としての立場は俺のが上なはず……。にも関わらずアイラからこの扱いを受けるのは解せぬ。そんなに先輩としての威厳がないのかなと心配になってしまった。

 

「スコルピオなら地面を掘り進んだ後がある筈」

 

 ノラは地面が抉れた形跡がないかひたすら探し回っていた。スコルピオがまだこの平原を活動しているならば、近くに跡がある筈だ。アイラも同じように痕跡を探していき、俺もまた同様にみわたす。まぁつい数日前に目撃された地点に行けば、大丈夫だろう。

 

「……ん?」

 

 そんな緩んだ気持ちを引き締めたのは、アイラがふと漏らした疑問の声だ。俺は彼女を一瞥すると何に気づいたか言ってみろと促した。

 

「あれ……機械兵器が出す黒い血じゃないかしら」

「どれどれ」

 

 アイラが指差す先を見れば、確かに点々と黒い血痕が続いていた。間違いなく機械兵器の機体内部を循環するバイオマス燃料だ。機械兵器は機人達とは違い、フォトンが使われていない。なら何で動いているかと言うと、コイツらは有機物を取り込んで機体内部で燃料へと変換するシステムが存在する。

 漏れ出た黒い液体は変換された燃料であり、可燃性だ。下手すりゃ火事になるため、取り扱いには注意が必要だ。

 

 誰かが狩ってしまったのか――と考えたが、少なくともアガトの狩人は関係ない筈だ。試験直前になって狩り尽くしたら新人達の分が無くなる。と考えるなら自然と外的要因になるのだが……一体何が起きたのだろうか。

 

「あれ……? でもキメラの血もあるわ、縄張り争いしたのかしら」

「本当だ……。アルタさん、青い血もあります。奥の森まで続いているみたいです」

「何……?」

 

 キメラだと――確かここら付近はキメラの縄張りではない筈だ。まさかまたバグったキメラか? にしたって最近多すぎる。本来ならバグったキメラなんて珍しい相手なのだ。それがここ数ヶ月で10件は遭遇している。年に3回あればいい方なのだが……何が起きているのだろうか。

 

「アイラ、ノラ、散策って言ったが……ちょっと訂正だ。武器構えろ」

「アルタ?」

 

 アイラの目が細まる。

 俺が張り詰めた雰囲気を出したことに気づいたのだろう。釣られてノラも武器に手をやる。

 

「森へ向かう、交戦する可能性があるから気を引き締めろ」

 

 




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