人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた 作:アスピラント
「では其方らには、この偉大なる鉄の御使の加護を授けよう」
「「はい!」」
アガトから少し離れた山岳地帯エリアにて、ヨルマイはアイラとノラを入れた5人の若者に、魔除けとなるキメラの牙が通されたネックレスを首にかける。キメラは大地を守る自然の守護者、そして神の使いであるという変わった信仰をしている彼女らしい激励だ。
「アイラ、ノラ、2人にも期待しておるぞ」
「……はい」
「ありがたく頂戴いたします」
アイラとノラは真顔でヨルマイから魔除けのネックレスをかけてもらっていた。まぁ機人であるアイラからしたら、機械に機械の死骸をかけられているようなものだ。何処か険しい表情しているのは気のせいじゃないはず。
「これがあれば、きっと」
「ありがたい……!」
「必ず倒してみせます」
それ以外の3人はとても嬉しそうに笑っていた。まぁ比較的信心深い人が多いから不思議な光景じゃない。だが俺にはいまいちピンと来ていなかった。機械はあくまでも人間にとって変わった新しい支配者であり生命体だ。神みたいな力を持っている奴がいたとしても、本当の神様なんかじゃない。
改めて思うと俺はかなり現実的な考えをする人間らしい。これは俺の正体にも繋がっていたりしてな……などと考えていると、ヨルマイが試験の概要を説明し出した。
「其方らにはアガトから4キロほど東に離れた山岳地帯の奥、鉄の丘にて群れを成すラヴェジャーの討伐をお願いしたい」
鉄の丘と呼んでいる地域では、ラヴェジャーの中規模な群れがよく目撃されていた。虫のような見た目をした奴らが多い機械兵器達の中では珍しく、ラヴェジャーは哺乳類寄りな見た目と習性を獲得している。しかし中規模の群れとなれば戦い慣れた狩人でさえ手を焼く。
だからこそ今回の試験は、新人たちがきちんと生き残りやすくなるようにと、ヨルマイは次のように忠告した。
「よいか? 試験は誰が1番多く倒したから狩人として立派だという訳ではない。皆で力を合わせて敵を倒し、生き残ることこそが目的じゃ。全員無事で群れを倒し切る、それを第一に考えて動くのだ」
「「「はい」」」
「では……ご武運を」
この一言を受けたアイラとノラは身が引き締まる思いで答えると、他の3人と一緒にアガトから出ていく。ヨルマイはあまり得意じゃないけど、たまにズバッと立派なことを言うから嫌いになれない。ただベガはまだ何となく苦手そうだった。
「さて俺らも行くか、ベガ」
「うん」
新人たちの護衛兼監視役として俺とベガは、アイラたちより遅れて出発する。頼むから何も起きないで欲しい――フラグとかじゃなくて。
「お前らも気をつけろよ」
「ああ、わかってる」
そしてアガト近辺にて待機が決まった狩人の男が、俺たちを気遣うように声をかけてきた。大丈夫、ちゃんと気をつけるから安心してくれと答えて、俺たちも向かう。
「……」
その際にベガが俺の手を繋いで、キュッと軽く握ってきたおかげで癒された。
* * *
「奴らの痕跡がこんなところにまで……」
アガトから20キロ離れた荒野にて、赤いローブを羽織った女が地面に刻まれた大勢の足跡を見ながら言った。女は
彼女の見た目はアガトにいる狩人が着ている軍用装備より、かなり原始的な服装をしている。まるでインディアンのハンターのように、衣服のあちこちには獣の毛や鳥の羽が飾り付けられていた。
「さてと……」
彼女はマスク代わりに口元まで上げたスカーフをくいっと下げて赤みがかった肌を晒す。露わになった目元にはタトゥーを彫ってあった。かなりエキゾチックな見た目をした彼女は、かなり険しい目つきをして地面を睨む。
すると――
「足跡の数的に……50名以上……多いな。何を標的にしている?」
そんな女の後ろから、同じ赤いローブを着た男が現れた。見た目から察するに女の仲間だろう。
「わからん。頭のおかしい連中とはいえ、目的も無しに動く奴らじゃない」
「狂者を操る存在が指示していると?」
「そう見ていい」
2人はある集団を追っていた。その集団はまるでイナゴのように辺境の村を訪れては、悪逆の限りを尽くす非道な怪物だった。ただ数年前までは弓矢や剣などの時代遅れな装備しかなく、大した脅威にならなかった。だがある瞬間から彼らは未知の武器と装備を持つようになった。
キメラのテクノロジーでも無ければ、機械兵器が扱う武器でもない。赤いローブ羽織った2人が見たことない技術を敵は手に入れていたのだ。
「この先に街や集落はあったか? 自分の記憶にはなかったはずだ」
「アタシの記憶回路にもない……が、たまたま見つけていないだけか、それとももっと大きな何かがあるかもしれない」
女は遥か地平線の先へ向かったであろう敵を見据える。もし狙われている誰かがいるならば、今すぐにでも加勢しないと助けられない。未知の力を身につけた敵は自分達のように戦い慣れた者でなければ、全く敵わない存在なのだから。
「
ハルマゲドン以前の地球にて、太古の先住民が使ってきた言語を使って女は何かを呼び寄せた。男も同じように叫ぶと、土煙を出しながら何かが爆走しながらやってきた。
「――グォオオオオ!」
現れたのは2体の巨大なトカゲを思わせる姿をしたキメラだ。白い装甲を付けた体長5〜6メートルのキメラには、背中に鞍が取り付けられている。2人はスムーズに乗ると手綱を手に取って力強く引いて高らかに叫ぶ。
「
「グォオオオオ!!!」
2人の掛け声に応えるようにキメラは吠えると、敵の足跡を辿りながら凄まじい速度で走り抜けていった。
* * *
「よし、じゃあまずはこのグループでリーダーを決めよう」
試験がスタートし、鉄の丘に入り込んだ狩人の卵達はリーダーを決める事にした。まず口を開いたのはノラだ。実力的にリーダーをするならアイラとノラのどちらかだが、反発を生まないよう自主性を重んじて提案した。
「自分はアイラかノラのどっちかでいいよ」
次に答えたのは、三白眼が特徴的な少年――ゲイズだった。黒髪短髪で顔立ちは普通、年齢は16でアイラとノラとは昔から付き合いがある。彼が狩人として試験を受けた理由は、単にアガトの人たちの力になりたいという純粋な思いからだ。
そんな彼はアイラとノラの実力をちゃんと理解している。だからこそ率先して譲ると決めていた。
「アタシも同じく、リーダーは柄じゃなくてさ……」
そして自信無さげに同意したのは、淡い紫色の髪をした少女――ロナ。この中では1番年上の19歳だ。彼女もまた似た理由で狩人を志したが、訓練を始めた期間が遅くて今に至る。
「なら、今回はアイラがやったらどうだ」
「ベイル、私でいいの?」
そして最後、一際身長の大きな機人の少年――ベイルは少し不満そうに譲る。17歳とこの中で2番目に年齢の高い彼は、かなりの自信家でもあった。プライドも高く、アイラとはちょっとばかり衝突も多い。そんな彼がリーダーを譲るなんて――アイラは鳩が豆鉄砲喰らったような顔をした。
「今回は協力しながらじゃないといけないからな、仕方なくだ……仕方なく」
「二度も言うな」
ベイルはやむを得ない理由だと何度も強調してきた。アイラは青筋を立ててはいたが、彼は自分のプライドを優先する自己中な奴じゃなくて良かったと内心安堵した。
まぁ当たり前の話だろう、皆試験を突破して狩人になりたくて仕方ないのだ。生きるためには協力が不可欠だと先輩達から散々教わってきた。
仲間の足を引っ張る真似はしない――皆の意識は一緒だった。
「よし、なら私に着いてきなさい。あっという間にラヴェジャーを全滅させるわよ」
ならば絶対に皆で乗り切ってやろうとアイラは気合いを入れる。頼もしいアイラの一声に静かに頷いた新人達は、そのまま彼女のサポートに周る。彼らは辛いといったような言葉を一切吐かずに険しい山道を登る。目指すはラヴェジャーがいる山の中腹、中々珍しい場所に縄張りを設けたものだなと5人は思っていた。
「にしてもラヴェジャーが標高高い場所にいるなんてな」
「ノラもやっぱりそう思った?」
「うん、やっぱりメジャーな機械兵器だから尚更気になってさ」
ノラの隣にいたロナが同意を示すように近寄ってくる。先行していたアイラは何故かジト目で後ろを睨んできたが、ノラは目を逸らす。こんな時にやきもちを妬くなと視線で訴えつつ、ノラは口を開く。
「開けた場所で逃げる標的を走りながら追いかけ回すのが奴らの習性だろ? なのに真逆の場所にいるのが変だなって」
「……確かに。でも気まぐれじゃない? ランダムで偶々変な場所を縄張りに選んだとか」
「奴らが気まぐれに動くなんて……あるのかなー」
うーんとノラは頭を悩ませるが、他4名はとりあえずそれがおかしくても、倒せば何でも良いと考えていた。ラヴェジャーの住む場所が変わってるのは気にはなるが、むしろ戦いになればこちらが有利になると見ていた。
岩場を障害物にして奴らが最も得意とする走りを防げば、もう単なる的にしかならない。
「有利なのは私たちよ、ノラ。心配しなくていいわ」
「わかった……」
ただこっそりと油断はしないようとアイラは付け足す。
もう前みたいに無策に戦いを挑む子供じゃないのだから。そう考えていると皆は足跡に気づく。
「ラヴェジャー……」
「機動音も聞こえる」
霧に包まれた空間の先へと続く細長い足跡、そして機械兵器特有の無機質に動かす機体から漏れ出る金属音。アイラは音を立てずにひょいひょいと近寄り、岩の影に隠れながら顔を覗かせる。
「ギギギ……」
「ギ……ギ……」
装甲が少し引っ掻いたような傷まみれになったラヴェジャーが、5体ほど辺りを彷徨いていた。あんな風になっているのは恐らく慣れない地域で横転したりしたからだろう。遅れてやってきたノラ達も静かに状況を確認する。
「ノラ、ロナは右側から回り込んで。ゲイズは左、私とベイルはここで。3方向から同時にラヴェジャーを仕留めよう」
「「「了解」」」
アイラの指示を受けた彼らは、コソコソと動きながら向かう。5体同時に破壊すれば、万が一叫ばれても仲間が来る事はない。こんな場所で乱戦になるのは防ぎたかったアイラの策だ。皆異論なんて持たなかった。
「アイラ……お前は変わったな」
「ん……? 何急に」
アイラは機械兵器の装甲を簡単にぶち抜く、対物ライフルを組み立てながら答える。銃口にはケリー自作の消音器が取り付けられていた。極めて古い兵器をモデルにした武器だが、1000年以上経った今でも全然役に立つ。
「以前のお前は自分が自分がと、他者の戦果すら全て自分の物にしてやる勢いで、無茶な戦い方をする奴だった」
「それいつの話よ……」
アイラの脳裏に過ぎる黒歴史の数々。
具体的に言うと、まだ小さいアイラがベガに対してイチャモンふっかけて勝負を挑み、負けては勝ち負けては勝ち、挙げ句の果てには絶対に自分が勝てそうなジャンルで勝負を挑む姑息なメスガキムーブの数々だった。
アイラは「ふざけるな、恥ずかしい奴ばかり思い出した」と苦虫を噛み潰したような顔をしながら、静かに答えた。
「仕方ないだろ、俺たちは一緒に行動する機会が少ない。お前ら2人は大概アルタさんとベガ様のコンビと一緒だからな」
「……ふん」
ベガ様……ね――とアイラは独りごちる。ヨルマイが変に持て囃すせいで、ベガはやんごとなき方扱いされる事が多くなった。そのおかげで貴重な同年代の人や機人からは、距離感のある扱いになっている。それが非常に不愉快だった。
「それベガの前で言わないでね。様付けされるの……すごい嫌がっているから」
「む……」
「お願い、せめてさん付け程度にはして」
何もベイルは悪気があって言ったわけじゃないと知ってはいるが、念の為に言っておいた。今彼女は自分達の監督役であり、試験が終われば鉢合わせする。うっかり言わないように釘を刺しておく。
「ベガとアルタは……恩人なの。嫌な思いだけはさせないでね」
「……」
そう頼み込むアイラを見て、ベイルは目を見開いた。今までこんな姿の彼女を見ることが無かったからだ。
「あの2人のおかげで、アイラは変わったんだな……」
「変わった程度じゃないかな〜、私の場合は」
軽く言葉を交わしながらアイラとベイルは最後にスコープ越しにラヴェジャーを睨む。確かにアルタとベガの2人がいたからこそアイラは変われた。だけどアイラ自身は単なる変われた程度の認識にとどまらなかった。もはや一度死んで別人に生まれ変わったレベルの変化だと考えていた。
「バカな私はあの時に死んだのよ」
アイラはそう言うと、皆の視界にちょうど入るように手を軽くあげて下す。これは合図だ……おろした瞬間に3カウントが始まり、引き金を引くための合図。
「撃て」
アイラは横にいるベイルに聞こえるように告げると、3方向から赤い光が灯り、ラヴェジャーの頭を同時に弾丸が穿つ。悲鳴すらあげる間もなく、機械兵器は火花と装甲板を撒き散らしながら機能停止した。
「ふぅ〜……!」
アイラは安堵のため息を吐く。
人間らしい癖がインプットされた人工知能が見せる振る舞いに、ノラ達人間組は苦笑する。それと同時にあまりにも素晴らしい手際の良さに、アイラの素晴らしい成長具合を実感する。
――ギギギギ――
「残りも近くにいるみたいね」
しかし安心してられるのは今のうちだ。何か異変を感じた他のラヴェジャーが反応し出し、近くで警戒態勢に移行している。これからは乱戦になるのは明らかだ、さっきまでの予定調和な動きは取れないし、臨機応変な動きを求められる。
「さぁ皆で生き残りましょ」
「「ああ!」」
誰もが頼りにしたくなるような余裕ある笑みを見せたアイラは、そのまま仲間を率いてラヴェジャーのいる地点へ向かう。試験はアルタ達の想像よりもはるかに順調に進んでいた。
* * *
「霧が出てきてるな」
「うーん……見にくいね。こりゃ困った」
試験場となる鉄の丘にて本格的な戦いが始まり、数十分が経った。アイラ達が頑張っている中で俺は比較的高い位置にある岩場に腰を下ろし、全体を軽く見渡していた。手元には双眼鏡が1つあり、俺は定期的にそいつを使って監視していた。ちなみにベガは双眼鏡なんていらないから肉眼(?)で見ていた。
何かと馴染みのある場所ではあるが、試験を行う場所はちょっと奥に位置している。何故かと言えば単にラヴェジャーの群れの目撃されたのが奥だったというだけだ。
「戦闘音が聞こえる、アイラ達大丈夫かなー」
「んー、あいつらなら大丈夫だろ。アイラとノラが上手くやるし」
「だいぶ信頼してるね」
「お前もかなり信頼してるだろ、ベガ」
ベガの地獄耳はアイラ達の活躍をきちんと音で捉えたようだ。いや〜本当にアイラとノラは成長――しすぎである。あの脱走事件から人が変わったように真面目になった2人は、俺なんかより知識や経験をガンガン吸収しまくっていった。元から優秀だったから不思議な話じゃないが、一応先輩としては自信なくなるレベルだ。
「ただ何事も絶対はないからさ、やっぱり心配にはなるよ」
ベガも変わった。
昔は俺にしか好意を向けてなかったが、他者を思い遣る心を学んでからますます魅力的になった。まぁ……ちょっと依存度高いベガも嫌いじゃなかったりにするが。
「だけど何かやばくなったらフレア弾撃てって言ってるから、大丈夫だろうけど」
試験が始まる直前、俺は5人全員分のフレアガンを持たせている。命に関わる事態……またはそれに連なる緊急時には迷わず撃てと言っている。確かに霧が出ているが、完全に見えなくなるぐらい濃ゆい霧じゃない。この程度なら余裕でフレア弾が見えるはずだ。
「……うーん」
「どうしたベガ」
「なんだろ……妙な何かが霧に紛れてる? 何か横切ったのが見えた」
妙な何かとはなんだろうか。
煮え切らない事を言われると俺も心配になる。
「侵入者?」
「……どうだろ、気のせいかもしれない」
あまりこんな反応をするベガは見たことない。俺は気のせいのままにしたくなかった。
「俺が見に行こうか?」
「ボクのが安全じゃない?」
「流石に2人も持ち場離れる訳にはいかないだろ? 俺1人でも大丈夫。詳しい場所だけ俺に教えてくれるか?」
ベガはそのまま口頭で説明する。場所は鉄の丘の東、アイラ達が行った方角とは違う。万が一彼女が見た不審な奴が居ても遭遇はしていないはず。俺は急いで準備をして山肌を慎重かつ丁寧に降りていく。
「ベガ、俺も何かあったらフレア撃つ」
「わかった。皆はちゃんとボクが見ておくから安心してよ」
ベガのいってらっしゃいという声を背後から受け止めて、俺は足早に向かう。もうイレギュラーな出来事は勘弁だぞと願いを込める。
(にしても不審な何かか……)
アガトはかなり目立たない場所に居を置く変わった街だ。規模もかなり小さく、外部との交流は最小限に努めている。僅か数キロ先にある同じような集落と、たまに遥か遠い地からやってくる旅人ぐらいだ。
食量に関しては自給自足、家畜を飼い、畑を耕す。ただその畑も普通の肌じゃない。遥か昔に友好的な機人によって作ってもらった栽培施設にて、野菜類を育てている。
生活のほとんどがアガト内で完結するようになっているのだ。だからこそ外部からやってくる不審者なんて、いないに等しい。少なくとも俺がきてからはそうだった。
「仮に侵入者がいたとして、アガトを狙う理由は何だろうな」
目的地付近に近づいた俺は、念の為にハンドキャノンを引き抜く。敵意を持つ奴がもしかしたら俺を見張っているかもしれない。緊張感を常に持って俺は進んでいく。
「人の気配はない」
山を吹く強く風がビシバシと当たるが、俺はその悉くを無視していく。霧は段々と濃くなり、心なしか不気味な雰囲気さえ漂ってきた。今襲われたらだいぶ面倒だぞ……天気が本当に恨めしい。
「ん……?」
ふと俺は岩と岩の合間に何かが挟まっているのが見えた。俺は近寄り、じっと観察するとそれが赤い布切れだとわかった。ここは山岳地帯で人は滅多に来ない、俺は迷わず布を引っ張り出した。
「衣服……まだ新しい?」
布の質感から察するのは無理だが、少なくとも数年前からあったとかの布じゃない。まさについさっきまで誰かがここに居たぐらいの新しさはある。
「……」
俺の本能が警鐘を鳴らす。
武器を握る手に力がこもり、そのまま辺りを観察すると
「……くそ」
間違いない――俺たち以外の誰かが山岳地帯にいる。ただいきなりここでフレアを撃つには早い。そいつが敵か味方かを判別してからでも遅くはない。ただ願う事なら人間の方がいい。マキナスだったら逃げる事も視野に入れなきゃいけない。
「ただ殺せる敵ならぶち殺す」
生憎狩人生活も長くなって、それなりの経験は積んできた。仮に人間が相手でも躊躇なく殺せる自信はあった。いや……というより前にも似たことはあった。アイラに差別的な言葉を投げかけ、破壊しようとした人間を俺は一度殺している。
やってしまったと思った瞬間もあったが、俺は割とすぐに受け入れた。その日から俺は仲間のためなら人を殺す精神性を獲得している。
――に?
――わからない
さぁ覚悟は決まった――と思う矢先、人の話し声が聞こえてきた。俺はハンドキャノンを握る手に力を込めて身を乗り出した。
「……!」
そして素早く引き金を引こうとして――止まる。
「誰も……いない?」
あろうことか、そこには誰も居なかった。
あるのは岩と砂利が寂しく残る開けた場所のみ。
「一体……これは」
確かに人の声がした筈なんだがと困惑する俺の目に入ったのは、人の声を発する謎の球体のみ。それがスピーカーだと気づいた俺は全身から鳥肌が立つのを感じた。
「罠――」
その瞬間――俺は一目散にスピーカーに背を向けて逃げたが、背後から来た灼熱の衝撃波に飲まれて身体を吹き飛ばされるのを感じた。
* * *
「何!?」
アルタが持ち場を離れてから少しした後、ボクはアルタが向かった先で爆発が起きるのを見た。その瞬間にもう冷静な自分は消えかけていた。
「アル――」
崖を飛び降りようとした時に、ボクは迫り来る音に気づいて振り返った。
「穢らわしき鉄の悪魔め」
「ぐっ!?」
いきなり青い電光が迸り、ボクの体は宙を舞った。身体が痺れて動けなくなったままボクは、岩壁を何度も叩きつけられながら落ちていく。
「あ……ぐっ!」
かなり下へ落ちたボクは最後に豪快に地面に叩きつけられる。全身が痛いが幸い死ぬレベルじゃなかった。並の機人なら破壊されてもおかしくないけど、ボクは何かと特別なのか大した損傷は無かった。
「何だ……今のは」
ゆっくりと身体を起こすと、ボクの周りに知らない人達が取り囲んでいた。皆血のように赤い民族衣装と、目玉をモチーフにしたようなマークが描かれた木製のマスクを被っていた。
「我々の聖なる星系を侵す、忌まわしき鉄の悪魔……」
「今こそ貴様らの醜い体を引き裂き……」
「楽園の使者に、その命を捧げん」
ぶつけられるのは狂気。
ボクは未だかつてない気色の悪さを彼らから感じていた。