人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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狂信者の猛襲

「鉄の悪魔……ふむ、貴様のような奴がいるとは……聞いてなかったが」

「……その呼び方、本当ムカつく」

 

 ボクの神経を逆撫でするようなことを抜かす不審者は、じっとこちらを見ていた。マスク越しでもわかる……こいつから感じる敵意や憎しみは、アガトに来る前に遭遇した人間から放たれたものよりも、ずっとずっと濃ゆいものだった。

 

「――楽園の使者からの天命を授かった、貴様を連れていく」

「何……?」

 

 楽園の使者――聞いたことのない名前だ。

 だがここでわかった、こいつらをここに寄越したのはその使者を名乗る人物だと。しかし奴らは殺気を一時的に収め、何やら此方を捕獲する方向に変えたようだ。

 

 よく見れば耳に何を付けている。恐らく通信機の類いだろうが……かなり見た目は原始的なのに、手に持っている武器は旧人類が使っていたような実弾を使う銃ではなく、見た目はかなりシャープでホログラムの照準サイトをつけているという、最新の武器のように見えた。

 

「大人しくしろ、ならば破壊は免れる。使者の命に従うがよい」

 

 ジリジリと迫る狂った奴ら。

 多勢に無勢、まさに絶対的なピンチという奴だ。

 しかし彼らは知らない、ボクは仮令狩人が100人いても蹴散らせる自信がある事を。

 

「そうかい……」

 

 ボクは姿勢を低くする。

 粗方敵はボクが武器の一切を持っていない事に、油断しまくっている状態にある。事実彼らの戦意は緩んでいた。

 

「――ボクが貴様らみたいな奴に従う訳ないだろ」

 

 ボクは地面を蹴り上げて一気に眼前の男1人に向かって、跳び膝蹴りをかます。蹴られた男はまるでパチンコ玉みたいに吹っ飛び、崖から落ちていった。

 

「戦闘用か……!」

「さぁ、ボクも知らないからな」

 

 戦闘用かは知らないし、そもそもどんなマキナスなのかこっちが知りたいぐらいだ。ボクは彼らが銃を構えるのを見ると、足にフォトンを流す。フォトンは今の世界に生きる機械生命体全ての力の源、これを行うことでボクだけじゃなくアイラも強くなれる。

 

「手足を吹き飛ばせ! 電子頭脳は傷つけるな!」

 

 次の瞬間――怒号と電光を纏った弾丸が飛んできた。

 奴らの銃はどうやら電気を用いて射撃する特殊なライフルらしい。凄まじい連射速度で撃ち出された弾は岩を貫き、小規模の爆発が巻き起こった。

 

 威力が凄まじく高い、少なくともアラフニの機体に付けられた機銃よりも高い。まともに受けたらボクのボディですら無事じゃ済まない。このまま取り囲まれた状態で撃たれまくったら、いつか絶対にやられる。

 

 しかしボクには()()がある。

 

「捉えたぞ、悪魔め」

 

 銃口がしっかりとボクの胴体に狙いを定めた。このまま撃たれたら確実に当たる。ボクは先に引き金を引かれる前に腰のベルトに取り付けていたレーザーブレードを取り出した。

 

「――!!」

 

 射撃が始まった瞬間にボクは一気に意識を研ぎ澄ませる。視界に映るのは飛んでくる弾丸に関するデータ、そして弾道の向かう先だ。ボクは分析結果に基づき、光の刃を高速で振るって全ての弾丸を切り落とした。

 

「な……!」

「怯むな! 撃ち続けろ!!」

 

 まさか音より早い速度で放たれた弾丸を切り落とされるとは思わなかったのか、この狂った敵は目に見えて狼狽え始めた。ボクは弾丸を切り裂きながら、一気に距離を詰める。

 

「く、来るな!」

 

 男の目に恐怖の色が宿った。

 戦いにおいては、先に恐怖したものから死ぬのだ。

 

「ハァ!!」

「――ッ!!」

 

 ボクは迷わず光刃を使って男を袈裟斬りにする。人体ですら簡単に両断してしまう威力を見たボクは、これは本当に危ないものだなと冷や汗が流れ出た。

 

「近寄らせるな!! 距離を保つんだ!」

「悪魔めぇ!!!」

 

 悪魔……ね。確かに君らから見たら、今のボクは悪魔かもしれない。だけど君たちはボクの大切にしている人達を害そうとする連中だ。そんな連中にまで優しさを施す必要はないと、アルタから散々言われてきている。

 

「ボクは君らみたいな敵の前だけ、悪魔になろう」

 

 敵に何を言われてもどうでもいい。

 ただ何回も言われたら腹立つから、さっさと黙らせるべきだ。ボクは残る敵を一掃してアルタの元へ向かうべく、再びレーザーブレードを構えた。

 

 

 

            *   *   *

 

 

 

「――やるな、このマキナス」

「確かにな」

 

 鉄の丘から約20キロ離れた地点で、純白と海のように真っ青なラインが入ったローブを着た男と女が、空中にて映し出されたベガの戦闘を食い入るように見ていた。キメラへの処置……もとい光学迷彩を使って、アガト近辺を観察していた張本人だ。(狂信者)に渡したコンタクトレンズ越しに見慣れぬマキナスを発見した2人は、ひとまずどの程度動けるのか確かめるべく()()を命じた。

 

 するとどうだろうか――新しく見つけた機人(ベガ)は戦い慣れた個体だった。名も知れぬ辺境の街に暮らす奴にしてはかなり強い。一体どこのコレクティブに所属している機体なのか……彼らの興味は一気にベガへと集まった。

 

「レーザーブレードね、キメラが使ってた奴を流用したのかな?」

「人間を惨殺するには充分すぎるからな。ただコイツ……拡張機能を使って自分の武装を展開していない。カテゴリーは良くて4……悪く見積もって3あたりだな」

 

 冷静に分析した結果、ベガの力は然程大したことないと推測した。フォトン内蔵量を計れたらまた結果は違っただろうが、映像越しで見る限り態々自分達が出張る必要のない相手だと、2人は判断した。

 

 

「実力がありそうな男は先に爆弾で吹き飛ばしたし、残りはカテゴリー1の機人2体と人間3人か。かっすいなぁ」

 

 アルタが向かっていた所からは既にもうもうと黒煙が上がっている。虫型ドローンを使って位置情報と音声データを照合させ、彼らがこの場所に来るのは承知していた。わざわざ自ら分断してくれるなんてありがたい話だ。戦える人間をさっさと仕留めておけば後は容易い。

 

 練度の低い駒でも確実に仕事を果たせるし、目立つ事なく目的を果たせる。ただベガの実力の高さは予想外だったが、まぁ粗方問題ないと見ていた。

 

「このカテゴリー3相当だけでも回収し、あとは情報を聞き出そう」

「あの5人グループはどうする?」

 

 女が問う。

 

「全員排除とだけ伝えろ」

「了解」

「カテゴリー1の機人に用はないからな……」

 

 そう言うと男は手駒達にと繋がる無線のチャネルに切り替える。本来の目的を果たすには1番手取り早い方法だ。

 

「我らの剣よ、目的地についたら……1人残らず捕虜してこう尋ねよ――」

 

 そして男はこう告げる。

 

「ローグ、ファナ、この2人の名前に聞き覚えはあるか――とな」

 

 奇しくもそれはアルタとベガの2人と、密接に関わる人物の名前だった。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

 耳鳴りが凄まじい。

 多分……鼓膜は無事だと思いたい。

 微かに風の吹く音と何かが燃えるような音が聞こえる。

 

「――かぁ……! ぐ……!」

 

 飛んでいた意識を再び肉体に呼び戻した俺は、全身がズキズキとめちゃくちゃ痛むことに気づく。痛みに強い自信はあったが、意識が戻ったばかりという不意打ちに近い形で食らったのもあって、思わず呻き声をあげてしまった。

 

「邪魔……くせぇっ!」

 

 続いて俺はズシリと身体の上にのっかかった岩を、火事場の馬鹿力で持ち上げて横にズラす。肋骨も痛いし、息を吸うたびに痛みが奔る。多分ヒビが入ってるか……折れてるかどっちかだろう。お前に背中がさっきからズキズキするし、頭からは血が流れ出ている。簡単に言えば満身創痍だ。

 幸い……罠だと気づいたのが早くて俺は爆弾の直撃を受けずに済んだようだ。直撃なら原型なんて無くなっている。

 

「……いって、よく生きてんな……俺」

 

 喉の奥から迫り上がってくる血を吐き、俺は持っていたライフルを支えにして立ち上がる。敵の正体はわからないが、鉄の丘にいる俺たちの仲間全員が危機に陥っているのは理解している。

 

 ベガは……多分問題ないだろう。

 アガトの戦力の中で最強の彼女だ。易々とやられる柔な奴じゃない。俺がまず向かうべきはアイラ達だろう。

 

「……ってつもりだったんだかな……」

 

 岩陰からゆらりとマスクを被った変質者共が現れた。恐らく落下してきた俺が死んでるか確かめにきた奴らだろう。ただ妙なのは着ている衣装が原始的な癖して、手に持つアサルトライフルっぽい武器がどう見ても未来的なデザインをしている事だ。

 

「頑丈な人間だ……」

「機械に与する異端者め、本当に人間離れしているな」

「さっさと殺そう」

 

 口々に言ってくるセリフはカルトみたいな言葉だ。なるほど……こいつらは人間至上主義的な考えをした奴らか。機械なんて即殺害すべきと考えるあまり、思想がかなり極まってしまったんだろう。話し合いなんか出来ない連中で確定だ。

 

「聖なる武器で穢れた魂を浄化せん」

 

 そう言ってカルトの連中は見慣れない銃を構えた。

 機械兵器やキメラから剥ぎ取って手に入れられるタイプじゃない。

 

「はい、そうですか――ってなる訳ねぇだろ」

 

 俺は奴らに見えないように懐に忍ばせたハンドキャノンを引き抜き、最初に構えた奴の頭を吹き飛ばした。いきなりバラバラになった仲間の頭部を見た狂信者は、不気味な叫び声を出した。

 

「死ね……!!!」

「断る」

 

 狂気と弾丸が飛び交う中で俺に焦りはなかった。武器の性能は確かに向こうが上だ。しかしその精神性や判断能力はズブの素人だった。恐らく武器の性能にかまけて、自分自身の鍛錬を積んできた連中じゃないらしい。そんな奴らがいい武器を持った所で、宝の持ち腐れだと直々に教えてやらねばならない。

 

「よっ――と!」

「がぁ!?」

 

 次弾を装填し撃ちまくる敵の片足を吹き飛ばす。バランスが崩れた事で乱射中のライフルが無造作に投げ出され、何人かの身体を抉った。

 

「今のうちに……」

 

 背中に背負っていた改良型アサルトライフルを取り出し、指切りで引き金を引き、最小限の弾数で3人を射殺。更に俺はケリー特製のグレネードをパニクる集団の中に投げ込んだ。

 

「逃げ――!!」

 

 グレネードは悲鳴ごと敵を爆発で引き裂き、山肌の一部を吹き飛ばす。敵は俺が予想以上に戦えることに焦っている様子。いやぁ……相手の質が悪いのは本当に救いになる。おかげで俺は悠々自適に距離を保ちながら排除出来るのだから。

 

「舐めるな!!」

「おっ……と!」

 

 と思っていると、霧の中から手製の斧を振りかざすイカれた男が乱入してきた。やけになっているのだろう、その目は赤く血走っていた。

 

「異端者め!!!」

「うるさい奴だな」

 

 奇声を発しながら凶器を振り回す様はかなり恐ろしいが、そんなもの俺にとっては何ら脅威にはならない。俺は銃を一度仕舞い込むと向かってきた相手の腕を掴み取り、足を引っ掛けて引き倒す。

 更に俺は引き倒したのと同時にナイフを引き抜くと、深々と男の胸元に突き立てた。

 

「う――ぐ――ぁ」

「悪いが、敵には容赦しない派なんでね」

 

 そう言って俺はナイフを捻り上げトドメを刺す。悶えていた男は段々と力が抜けていき、そのまま事切れた。

 

「俺のとこは……これで終わりか? 随分と甘く見られたもんだな」

 

 気づけば追い討ちに来た敵は全員死んでいた。俺は安堵していると遠くで複数の銃声が鳴っているのを聞いた。

 

「アイラ達がいる方角か」

 

 俺は思わず舌打ちした。アイラ達には一通りの戦闘訓練を施したが、彼らは対人戦の経験があまりない。機械生命体との戦いとはまた別の生々しさがある戦闘に、彼らがいきなり上手く対応出来るかは微妙なラインだった。

 

「急ぐか」

 

 正直言って身体を動かすだけで痛い。戦闘時に動けたのもアドレナリンが出ていただけで、一旦冷静になってしまうとじわじわと痛みが出てきた。

 

「だけど走らねぇとな……!」

 

 痛いから何だ、アイラ達を助からない方がずっとやばい。俺は無理やり身体を動かして鉄の丘を走る。アイラ達はまだまだこれから活躍してもらわないといけないのだから。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

「何なのコイツらは!」

「知らない!」

 

 一方でアイラ達は突然の乱入者と激しい銃撃戦に突入していた。ラヴェジャーの群れを求めて奥へ進んだはいいが、そこに居たのは狂信者共だった。いきなり一斉掃射を喰らったアイラ達は慌てて岩場を盾にして隠れたのだが――

 

「うぐぅ……!」

「ロナ、しっかりしろ!」

 

 試験メンバーの内、ロナが撃たれてしまった。脇腹を貫いた弾丸は彼女の脇腹を抉り、少なくない量の血を流していた。至急治療しないといけない大怪我だ。ゲイズは荒っぽく呼びかけて彼女が意識を失わないようにしていた。

 

「死ね、悪しき機械とその僕よ!」

「貴様らの命を楽園に捧げる!」

 

 赤い衣装を纏う狂気の人間たちは、もうお構いなしにひたすら未確認のアサルトライフル()()()武器でもって、若き戦士を屠ろうとしていた。狩場はすっかり戦場となり、既にアイラ達が仕留めていた死体から流れ出た血が山肌を赤く染め上げていった。

 

「このままじゃ埒があかない!」

「ぐぁ!!」

 

 1人を射殺したアイラは咄嗟に岩陰に引っ込むと、隣にいたノラに指示する。

 

「ノラ! フレアを!」

「わかってる!」

 

 アイラの指示を聞いたノラはすかさずフレアガンを打ち上げた。これでアルタとベガの2人にも異常事態の共有が出来る。ただ2人が助けに来る間にくたばらないよう、持ち堪えないといけないが。

 

「敵は何人いるかな!?」

「わからん!」

 

 アイラの呼びかけにベイルは怒号を交えて答える。まぁそらそうだとしか言いようがない。飛び交う弾丸の数は百なんかじゃ効かない数だ。死の雨が降り頻る中でアイラは必死に策を練る。

 

(そういえば……まだ他にもラヴェジャーは残っていたはずよね)

 

 狂信者に遭遇する前、彼らは残ったラヴェジャーの足跡を追って此処に来ている。向かう道中にてアイラはラヴェジャーの残骸等をまだ見ていない。

 

(こうなったら……奴らを使う)

 

 自分達も危ないが、取り囲まれた状況からひっくり返すにはカオスが必要だ。幸い……処理したラヴェジャー達の警報器はまだ使える。死骸からもぎ取り、直接こちらが弄れば奴らを呼び寄せられる。

 

「ベイル、ノラ、ゲイズ、ちょっと耳かして――」

「何……?」

「何か思いついたか」

 

 返事するノラとベイル、そして無言で耳を傾けるゲイズに対してアイラは作戦を語る。しかしその内容はとても作戦とは言えない内容だった。ロナとアイラ以外が上手く相手を引きつけつつ、アイラがラヴェジャーの死骸まで戻り、警報器を鳴らすというものだった。

 

「アイラ、危険だ! 俺たちが持ち堪えれば良い!」

「そうよ……! 敵が何人いるか分からないのに……!」

「だからよ!」

 

 ノラとロナが思い留まるように言うが、この数を相手に持ち堪えられる保証はなかった。もっと強力な兵器を使われたら、今隠れている岩場ごと吹き飛ばされるかもしれない。

 

「今切り抜けるためには必要よ! ずっと引きこもっていたら……追い込まれる!」

「アイラ……」

「ノラ! 大丈夫! もう前の私じゃない、決してやけになって言ってるわけじゃないから!」

 

 必死に応戦する仲間達と、殺意を剥き出しにする狂信者達の銃撃戦が繰り広げられる中で、アイラとノラは顔を向かい合わせて視線を交錯させる。あの時……己を過信して無茶をやらかした少女はここには居なかった。ノラの目に映っていたのは、死なんて軽く乗り越えてみせると決意した戦士だった。

 

「わかった……アイラ、頼む」

「任せて、上手くやるから」

「皆! アイラの援護を!!」

「「ああ!」」

 

 ノラの合図を受けて、ベイルとゲイズは改良型アサルトライフルのエアバースト弾を放つ。小規模の爆発を伴う威力の高い弾丸は狂信者達の視界を塞ぐだけじゃなく、何人かの腕も吹き飛ばした。

 

「ぎゃああ!!」

「腕がぁぁ!!!」

 

 千切れ飛ぶ腕を必死に押さえる狂信者を、ノラは無心で討ち取る。正直同じ人間を殺めるのは忌避感がある。だってこれまではずっと機械兵器かキメラを相手にしてきたのだ。生々しい叫び声は、精神をガリガリ削っていく。

 

「くぅ!」

「ゲイズ……!」

 

 と思っていたらゲイズの頬を弾が掠り、ばっくりと傷がついた。心配になったノラが声をかけるが手で制す。

 

「奴らから目を離すな! アイラの道を切り開け……ノラ!」

「……っ!」

「自分は平気だ!」

 

 だから構うな、前を見ろ――暗にそう言われた気がしたノラは意識を切り替えた。

 

「ああ!」

 

 ノラは再度射撃に意識を向けて敵を封殺する。エアバーストによる撹乱により、狂信者達の銃撃が一時的に収まったのを確認したアイラは、急いで岩場から飛び出す。

 

(今しかない!)

 

 非戦闘型であっても走力は人間のそれを超える。しなやかな人工筋肉を活かした加速により、アイラは無残に転がるラヴェジャーの死骸に辿り着く。

 

「まだ使えるな……!」

 

 アイラは高周波ナイフを取り出して、ラヴェジャーの喉に突き立てる。そのまま力一杯に縦に引き裂き、黒い液体まみれになった発生器官を取り出すと、回路を繋げる。

 

「何かやらかすつもりだ……!」

「機械のクズを殺せ!」

 

 一部の敵がアイラに気づいて撃ち始め、アイラは何発か貰ってしまった。

 

「あ……が……!」

 

 咄嗟に横へ飛んで回避するが、腕や腹からは青い血が流れていた。だが発声器官は手放さなかった。アイラはほくそ笑むと自分のフォトンを通してスイッチを入れた。

 

「さぁ……来い!!」

《キィィィ――!!!》

 

 ラヴェジャーの警報が戦場に鳴り響く。甲高い音は山びことなって鉄の丘の隅々まで行き渡ると、狂信者達の声に混じって怪物の声が聞こえ始めた。

 

「ギィイイ!!!」

 

 アイラ達は初めてラヴェジャーの叫び声が頼もしく聞こえた。ただ狂信者達にとってはそうじゃない。機械兵器は人類だけじゃなく、人に味方する機械生命体にとっての敵である。奴らはただ敵を殺す為だけに存在しているのだ。

 

「おい、この……声は……!」

「悪魔が来る――がぁ!?」

「ギィイイイイ!」

 

 ラヴェジャーの群れが途端に雪崩れ込み、狂信者達に襲いかかった。彼らは搭載したカメラから潜在的な脅威を独自の指数で計算し、数値が高い奴から襲いかかる習性がある。そして現にラヴェジャー達は狂信者達が持つ武器から、アイラ達よりも危険であるという計算結果を導き出した。

 

 故にラヴェジャーは真っ先に狂信者達を襲い出した。

 

「がぁあ!!」

「来るな……! 来るなぁ!!」

 

 ラヴェジャーに飛びかかられ、強靭な顎でバリボリと体を食われる敵を見て、アイラ達は顔を引き攣らせた。バイオマスによる燃料補給ができる彼らは、人間を含めた有機体を()()()()()()のだ。目の前で繰り広げられる凄惨な光景に、呼び寄せたアイラも顔色を悪くした。

 

「ア、アイラ……」

 

 ノラはゆっくりと戻ってきたアイラに対して、尋常じゃない何かを見るような目を向けた。普段冷淡なベイルでさえ……ドン引きしていた。

 

「私は悪くないわ……。悪いのは――ッ!」

 

 プイッとノラから目を逸らすアイラは、そこで偶々気づいた。

 生き残っている1人がコチラに向かって、巨大なボウガンのような兵器をコチラに向けていた事を。

 

「皆ッ!!」

「死ね、クズ鉄」

 

 狂信者が弦を離すと巨大な槍のような魂がアイラ達の付近に着弾――そのまま爆発を起こした。

 

「う――わぁ――――ぁ!!」

「ぐっぁ」

 

 吹き飛ばされるアイラとノラ、他のメンバーも爆発に飲まれてしまった。しくじった……アイラはそのまま宙に舞うと岩に強く叩きつけられた。

 

「ぐ……ぅ」

 

 まずい、体力の限界が来ている。

 アイラの左手は歪な方向に捻じ曲がり、頭と胴には深い傷があった。もう起き上がれる体力なんて……どこにもなかった。

 

「やっと……だ」

「――!」

 

 黒煙立ち込める中からゆらりと男が現れた。ラヴェジャーによって右腕を食いちぎられていたが、何とか撃退したのか彼はまだ生きていた。手にはしっかりと斧が握られており、満身創痍になったアイラを殺すべく、ありったけの力が込められている。

 

「お前を殺し……」

 

 男が一歩踏み出すたびにアイラは震える。

 

「人間はまた力を取り戻す」

 

 やっとこれからなのに、残酷に殺されてしまうと。

 

「地球は……人間のモノなのだ!!!」

 

 男が斧を振りかぶった瞬間――頭が弾け飛ぶ。

 

「それは昔の話だよ、気狂いが」

 

 どしゃりと倒れた男の背後から、ハンドキャノンを握ったアルタが現れた。

 

「ア、アルタ……!」

 

 アイラは安堵しかけたが――アルタの身体が傷だらけなのを見て固まった。まさかアルタがこんなになるなんて、全く想像つかなかったからだ。

 

「不意打ち食らってな……悪い。だけどもう大丈夫だ」

 

 アルタはそう言ってほくそ笑むと横を見る。釣られてアイラも同じように視線をズラすと、青い光がピカッと輝きノラ達の前に現れた。

 

「ふぅ、ごめん。遅くなった」

「ベガさん……」

「また助けちゃったねノラ、でも……もう大丈夫さ」

 

 ベガはレーザーブレードを構えると、残る狂信者達と一緒に暴れ狂うラヴェジャーも切り裂いていく。

 

「ベガ!! 敵は全滅させるなよ!」

「了解!」

 

 アルタの号令の下、ベガは駆け出す。

 それを見たアルタは満足気に頷くと、アイラに手を差し伸べる。

 

「色々あったが……とりあえず残りを片付けるぞ。ハンター」

「え……! でも私はまだ」

「あれだけ出来たら充分! もうお前は一人前だ……。んでまず最初の仕事は……奴らを倒し切る事だ」

 

 肩に手を置き、アルタは言った――それはここまで努力してきた彼女を労う、最適の言葉だった。

 

「一人前になったな、アイラ」

「へへへ、やっとここまで来たよ……アルタ」

 

 

 

         *   *   *

 

 

「――さて、と」

 

 何とかベガと合流し、俺はアイラ達を無事に助け出した――がロナは重傷。今はベガの手で傷を焼いて塞ぎ、ひとまずの出血を抑えた。屈強な男でさえ泣き叫んでもおかしくない痛みを、ロナは20歳にも満たない女性でありながら無理やり耐えていた。もうその根性で合格レベルだが……完全に安心は出来ない。

 

 急いでアガトに戻り、カリウスに診てもらった方が確実だ。しかしその前にやる事がある。

 

「連れてきたよ」

 

 ベガは、大柄な男の首根っこを掴みながら現れた。顔はもう変形しているレベルでボコボコにされている。とりあえず生き残りの中からまだ喋れる元気がある奴を選んだ結果、こいつになったらしい。

 

「ほら」

「ぐ……が」

 

 ベガはまるでゴミを捨てるように乱雑に放り投げた。同情なんてしないが、とりあえず痛そうだなとは思った。

 

「お前らはどこから来た、どうしてここに来たんだ」

「く……」

 

 ベガはゆっくりと足を男の胸元に沈ませる。力一杯踏み込んだら、ベガの足は男の胴を簡単にぶち抜く。今だってめちゃくちゃ痛いはずだ。

 

「くっ、ははは……! 愚かなり……!」

「愚かなのは君らだと思うけど」

「何も理解してないのだな、貴様らは」

 

 血反吐を吐きながら笑う男は見てるだけで不快指数が上がる。俺は思わず拳銃に手を伸ばしかけていた。

 

「ここに来たのが我々だけだと思うか?」

「何……」

 

 ベガの目つきが鋭くなる。固唾を飲んで見守っていたアイラ達も同じように、表情を険しいものに変えていた。

 

「我々は把握しているのだよ、貴様の住処をな」

「……待って」

 

 ベガの目が見開くのと同時に、俺の背筋に寒いものが奔った。

 

「今頃……アガトは火の海だろうよ」

「お前ぇええ!!!」

 

 ベガが拳を握りしめて男を殴ろうとして――俺が先に男の頭を拳銃で撃ち抜いた。

 

「ベガ、皆」

 

 もう時間はない。

 考える時間すら勿体ない。

 

「アガトに戻るぞ!!! 全力で走れ!!!」

 

 でないと……俺が守るべき人達が皆死ぬ。

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