人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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凶星

 アガトは俺にとって我が家そのものだ。

 転生前の記憶ではいくつか我が家っぽいのは見た事あったのだが、どれもあやふやではっきりしない。となれば自然と故郷はアガトぐらいになる。小さな集落で閉鎖的なコミュニティという環境は、中々の地雷要素満載な感じがするが皆いい人ばかりなのだ。

 長は結構曲者なのは否定出来ないが、悪人じゃない。ヨルマイはただ皆を守りたいだけであり、実は慈愛に溢れた人物だ。

 

 俺はそんなアガトが大好きだ。

 人も機械も分かり合えると希望を抱かせてくれる、この小さな世界が大切で仕方ない。

 

 だからこそ――

 

「はぁ……はぁ……!! そんな!!」

 

 遠目からアガトが赤く燃え上がっている光景が、信じたくなかった。

 

「アルタァ!」

 

 ベガの呼びかけに俺は呆然としかけた意識を再度覚醒させる。アガト付近には山で襲ってきた敵と同じ格好をした人間たちが、しきりに銃を撃ち込んでいる。燃え盛るアガトの街にはもう既に何人か死んでいるのが見えた。

 

「皆!! 奴らを全員殺せッ!!」

 

 俺はもう冷静じゃいられなかった。

 

「高台から撃ちまくれ!」

 

 ベイルは自分達が山道から戻ってきたという状況を活かして、アガトへの攻撃に集中している狂信者達へと銃弾を叩き込んでいく。

 

「ひははは! 異端――ッ!?」

「何……? どう――まだ仲間がいたか!」

 

 流石に隣で狂気の笑い声をあげていた仲間がいきなり死ぬとなれば、嫌でも俺たちの存在に気づく。だけどそれで良い、問題はアガトへ向けられていた意識を割くことにある。

 

「奴ら一体なんだ!? どこの部族だ!」

「知らん……!」

 

 ゲイズは悲痛な表情をしながら応戦する。故郷が焼かれているのだ。無理もない、というか全員が冷静じゃなかった。どこからともなく現れた狂信者達は、嘲笑うようにして見知った家族を撃っている。正気じゃいられないのも無理はなかった。

 

「裁きを受けよ!」

 

 混乱の最中で敵の1人が何かを投げてきた。俺はそれをグレネードの類いかと思い、皆に逃げるよう言おうとしたが遅かった。

 

「爆ぜよ!」

 

 投げつけられた銀色の玉はいきなり加速し始めて、光の弾丸となって俺たちのいる場所を吹き飛ばした。

 

 

「う――わぁ――」

「ベガ!!」

 

 5人は高台から転げ落ち、敵の目の前まで引き摺り下ろされた。一斉に殺気が向くのを感じるが、俺は構わず攻勢に打って出る。

 

「皆、固まれ! アイラはロナを庇ってやれ!!」

「撃て!!」

 

 囲まれた俺は咄嗟にスモークを投げつけ、自分自身と仲間達全員を敵の目から隠す。一瞬銃撃が始まるが、うまく同志撃ちしてくれたおかげでパニックに陥っていた。

 

「今のうちにアガトにまだ残っている人を助けよう」

 

 ベガは怒りを滲ませながらも、しっかりと命を助ける事に重きを置いていた。そこで漸く俺の頭が冷えていく、ああ……何やってるんだ俺は。怒りと不安から俺はすっかり愚かな判断をしかけていたと気づいた。

 皆気づいていないだろうが、俺は密かに深呼吸しながらアガトの中へ突入する。

 

「これ……は」

 

 しかし目にした光景は筆舌に尽くし難いものだった。

 

「やめて!! 殺さないで!」

「貴様の命を捧げ、楽園へ至――」

「邪魔だぁ!!」

「お母さん……!! 目を覚まして――」

 

 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。燃え盛る家々と泣き叫ぶアガトの人々、そして懸命に戦う生き残りの狩人と若い男。そして無残に身体が引きちぎれた母親の身体を譲る幼子。俺は頭をガツンと殴られたような感覚を覚えていると、一際強烈な殺気を側で感じた。

 

「ゼァァアア!!!」

「――ッ!!!」

 

 けたたましい叫び声と共に、炎の中から体格の大きな男が吶喊してきた。避けきれない……咄嗟に衝撃に備えようと身構えたが――

 

「カァ!!!」

「――っ、ぐっ、えっあ」

 

 腕をクロスさせたが威力を殺しきれず、バキボキと骨が折れる音が体内でなった。まるでトラックに追突でもされたのかと勘違いする衝撃が奔り、俺は10数メートルは吹き飛ばされた。

 

「く――は」

 

 おかしい、普通の人間にこんな力なんて出せない。

 俺だってそれなりに鍛えてきた人間だ。あんなバカみたいな力を出せるとしたら、それこそ機人ぐらいしか思い当たらない。

 

「おお……素晴らしい」

 

 俺を跳ね飛ばした男がゆらりと仰々しく両手を広げる。禿頭にトライバルタトゥーを彫った厳つい顔つきに、首から下を白い骨のような機械が肉体の上から纏っていた。赤いカラーリングをした民族衣装と、身体に縫い付けられた異形のアーマーの組み合わせは、まるで筋肉が剥き出しになった不気味な人型にしか見えなかった。

 

「これが御使様から賜った……聖なる鎧の力。これならば……私はより多くの正義を果たせる」

 

 聖なる鎧……恐らくあの骨組みのようなアーマーの事だろう。あれは人間の力を飛躍的に向上させる強化外骨格の類いだ。力勝負で奴らは機人を圧倒しようとしている。

 

「アルタァア!!」

 

 怒りを誰よりも爆発させたベガが男へ向かう。

 やめろ、そいつは普通じゃない――そう声をかけようにも声が上手く出せないぐらい痛くて仕方がなかった。

 

「報告にあった機人か……」

 

 光を帯びたベガの前に男が立ち塞がると、そのままベガの腕を掴み地面に叩きつけた。クレーターが出来上がるほど強く叩きつけられたベガは堪らず呻くが、男は容赦なくその拳を彼女の腹に食らわせた。

 

「ガァ!!」

「笑止……だが貴様は殺さぬ。そう仰せつかっているからな」

 

 そして男はダメ押しに拳に電気をまとわせて、ベガの顔面を殴って意識を飛ばす。相棒があっという間に制圧されたのを見た俺は、今繰り広げられた現実が信じられなくなっていた。

 

「貴様!!!」

「おっと」

 

 敬愛する先輩であるベガが倒され、同じ機人であるベイルが丸太みたいに太い腕を振るう。怒りを込めた彼の拳は吶喊してきた男の顔面を殴りつけた……が、格闘経験は向こうのがずっと上だったのか、ベイルの拳は難なく受け止められてしまった。

 

「ぐ……!」

「人の振りをする愚かな鉄屑よ」

 

 狂信者の男は同じように拳を握る。ミシミシと内部の特殊合金製の骨まで軋む握力に、ベイルは困惑しながらも振り解こうとした。

 

「ぐ!」

「その身でもって罪を贖え」

 

 男が力一杯ベイルの腹部を殴りつけると、最も簡単に胴体に風穴が空き、青い血と内部機関が露出した。明らかな致命傷を負ったベイルの目から光が消えると、そのまま物言わぬ鉄塊となって頽れた。

 

「ベイルッ!!!」

 

 アイラの怒号が響き、ライフルを取り出して躊躇なく乱射する。男はベイルの機体を貫いた右腕を引き抜くと、ガントレットからシールドを展開した。

 

「質の低い武器だ……そんなものでは私は殺せぬよ」

 

 男の手には円形に煌めく何かが握られている。

 いち早く察知したロナは痛む身体を無理やり動かした。

 

「アイラ!!」

「う……! ロナ!?」

 

 ロナはアイラを突き飛ばし――その身体を両断された。原因は男が投げた円形の刃だ。投擲されたそれはロナの命を奪った後、ブーメランのように男の手元に戻っていった。

 

「う……わぁぁあ!!! ロナ!!!」

「貴重な人間が……まぁいい。機械に与する時点で敵も同然だ」

「殺してやる!!!」

 

 アイラはロナの亡骸から彼女の銃を引き抜こうとしたが、その腕を背後から現れた狂信者の男にぶった斬られた。

 

「あ……がぁぁ!!」

「大人しくしろ」

「が――」

 

 腕を無くしたアイラは成す術なく、狂信者の手にかかり拘束されてしまう。実にスムーズな手口で無力化していく敵を見て、こいつらはかなり機人相手に戦ってきたのだろうと推測出来た。

 

「アイラァア!!!」

「ノラ、行くぞ……!」

 

 ノラとゲイズが勇んで攻撃を仕掛けようとする――だがそれをやってはいけない。俺は何とか立ち上がり、口を開く。

 

「ノラ、やめ……ろ」

「でも……!! ベイルが、ロナが……!」

「……大人しく……しとけ」

 

 口から溢れ出る血を飲み込み、俺は目の前にて不気味な笑みを浮かべる男達に向かって言う。

 

「大人しく……する、だから……何もするな」

「ふん……」

 

 ほくそ笑む敵を見て、俺はかつてないほど腸が煮え繰り返っていた。だがここで怒りに任せて暴れても殺されるだけだ。それに俺はすぐに殺されない確信があった。

 

「――、はっ、それでは――」

「――、――」

 

 奴らは無線機で誰かとやり取りしている。向こう側にいる奴らから何かの指示があってアガトにやってきたのは明白であり、それは少なくともアガトの住人皆殺しという目的ではない。

 

 だから今は耐えろ、こいつらは必ず殺す。

 俺は横目で倒れ伏すロナとベイルを見る。光のない瞳がこちらを真っ直ぐに見ていた。

 

(お前らの仇は取る)

 

 ベガの安否は気がかりだが……彼女はまだ生きている。ひとまず俺たちは策を練る時間が必要だ。

 

「――まぁいい、貴様から思わぬ情報が手に入れるかもしれないからな」

「……」

「だから今は眠れ」

 

 そして男は俺の顔を強く殴りつけ――目の前が暗くなった。

 

 

 

         *   *   *

 

 

 

「――んぐ……」

「目が覚めたか」

 

 頭がガンガンと痛むのと同時に、俺は自分の身体が縛り付けられている事に気づいた。両手を後ろ手に縛られ、正座させられている。まるで罪人だなとどこか他人事のような感想すら浮かぶ。

 

 周りを見渡せば未だ火がついた家屋が目立つ荒廃化したアガトと、生き残った数十人の住民……そしてその先頭にヨルマイが見えた。もう先が短い老婆だが、襲撃者に向ける目は獰猛に輝いている。彼女もまだ諦めている様子はなさそうだが、若干の怪我が目立つ。

 

「アルタ……!」

 

 そして真向かいにはベガが3人の強化外骨格を装置した人間が取り押さえている。ただそれでも男達の顔はキツそうに見えた。

 

「私たちが何をしたって言うの……!」

「俺たちを解放しろ!!」

「まだ小さな子供もいるんだぞ!!」

 

 大人たちが口々に襲撃者を非難するが、彼らは皆涼しい顔をしていた。中には侮蔑の表情すら浮かべる奴までいる始末。こいつらにまともな倫理観なんてない上に、自分達が絶対的に正しいと信じて疑って稲生のは明白だった。

 

「鎮まれ!!」

 

 男が叫ぶとアガトの人々は忌々しそうに黙り込む。

 

「我はゼム。純然たる人間にして、地球を統治する者! 同時に私は機械を討滅せよと御使様より仰せつかった勇者である!」

 

 勇者……俺は反吐が出そうになる。どう見ても勇者なんて柄じゃない。良くて野盗や裏社会に属する人間にしか見えない。だが彼の瞳を見て、こいつは本気で勇者だと思っているのが分かった。

 

「まさかこのような地に、貴様らのような愚かな人間がいたとは……! 機人と暮らすなど悍ましい! その悪魔どもが数千年前に何をしてきたなど、言われずとも分かるであろう!」

「……いいかの」

 

 ゼムの発言を遮るように発言したのは、ヨルマイだった。

 

「ヨルマイ様……危険です……!」

「分かっておる」

 

 お付きのシャーマンから挑発をやめろといった注意を受けても尚、ヨルマイは引かなかった。いつも外界を恐れている臆病な印象を受ける彼女だが、今の彼女は1人の長として威厳ある姿を見せていた。

 

「貴様は?」

「この街を作った……ヨルマイという」

「ほう? であるならばこの惨状を作ったのは貴様の汚れた思想が原因か」

 

 ゼムは強化外骨格に覆われた拳を握りしめる。

 まずい……機人すら殺す一撃を繰り出す奴を前に、一般人よりか弱い老女が立ち向かうだなんて……!

 

「そうじゃ」

「ならどういうつもりで前に出た? 命乞いか?」

「ワシの命は風前の灯火、この身などどうなろうと構わん」

 

 チラリとヨルマイは俺とベガを一瞥した。

 その目には確かな優しさがあった。

 

「じゃが、この思想を広めた責任を取る事は出来る」

「ほう?」

「ワシはどうなってもいい、だが……その他の者は見逃してやってくれ」

 

 ダメだ。

 ヨルマイの覚悟はありありと伝わってきた。彼女にとって何よりも大切なのは街に住む人達。彼らの狂気を一身に受け止める事でこの場を収めようとしているのはすぐに分かった。

 

「お前と他数十名の命が釣り合うと?」

「釣り合いの問題じゃない。この責に彼らは関係ない。機人も人も……ただ暮らしていただけじゃ」

 

 ヨルマイは長らく言わなかった本音を話していた。俺の前でさえ言わなかった、彼女の想いと覚悟が囚われた人達の心に伝わり、絶望を塗り替えていくように俺は見えた。

 

「お主らに……何の迷惑をかけた?」

 

 ヨルマイの瞳が開かれる。

 

「ただ細々と暮らす我々を殺して何になる」

 

 そして彼女は狂気を宿す者達に問うた。

 

「わしらを殺して……本当に人間の時代が来ると思ってるのか?」

〈殺せ、ゼム〉

 

 無機質な声がゼムの耳に付けられた無線機から響くのと同時に――

 

「仰せのままに」

 

 ゼムは手の甲から小さな銃口を展開してヨルマイの額を撃ち抜いた。

 

 あれだけ世話になり、アガトを家だと思ってくれていいと言ってくれた老女は、くだらない弾丸1発で死んでしまった。俺は悲しみとショックで体から力が抜けそうになった。

 

「ヨルマイ様ッ!!!」

「貴様ら!!!」

 

 激昂するシャーマン達は何とかして駆け寄ろうとするが、狂信者が抑える。俺はもうこの時点で()()()()の犠牲を許容した強引な手段を考えていた。俺たちは神様でもない、変わった経歴はあれど理不尽を何でもひっくり返すような力はない。それに最も近いベガも今は何も出来ない。

 

 考えろ、奴らを殺してアガトの人々を出来る限り多く助ける手段を。奴らの目的さえわかればそこから突破口が開く筈なのだと。

 

「我々がここに来たのは聖なる目的の為である! 決してイカれた老女を殺すためではない」

 

 ゼムは吠えて周りの人々は怯える。

 ケリーとカリウスは子供達の目を塞ぎ、何が何でも危害は加えさせないと睨みつけていた。

 

「我々は人探しをしている。その者達は我らの御使様を裏切り、悪魔に手を貸していた」

 

 人探し……俺はこの瞬間に自分の中で予感めいたものを感じていた。何かが交錯し……結びつく、そしてそれは逃れのようのない大きな運命の流れであると。

 

「よって貴様らに問う。ローグ・アルカイオス、ファナ・アテネスは……どこにいる」

 

 予感は――的中した。

 

「本来なら御使様のモノであるそれを奪い去り、敵に渡した重罪人だ!! そんな愚行によって人類がどれだけの危機に陥るのか……知っておいて実行したクズ共である!!!」

 

 ゼムは血走った目を皆に向けると耳障りな声を荒げたが、俺はもうそんなことが気にならなくなっていた。

 

「2人を知ってる者がいれば名乗り出よ! そうすれば全員生かしてやると御使様は仰った!」

 

(奴らは両親を探しにきた……! 遥か遠くからこの辺境の地に逃げてきた2人を狙って)

 

 俺は咄嗟にベガを見る。

 彼女もまたかなりの衝撃を受けているのか、放心状態になっていた。

 

(皆を救えるのはきっと俺だけだ)

 

 奴らの狙いが両親ならば俺のやるべきことは定まった。俺は何気なくベガの方へ目を向けると、彼女はじんわりと瞳に涙を溜めて此方を見ていた。決心が揺らぎそうになるが、グッと堪える。

 

 ベガ、お前は生きろ。

 俺はどうなるかわからないけど、アイラとノラと一緒に頑張ればきっと大丈夫だから。

 

「知ってる」

「む……」

 

 狂信者達だけじゃなく、捕らわれたアガトの人々の視線まで俺に集まる。

 

「ローグとファナは……俺の両親だ」

「何……」

 

 ピリッとした空気が流れる。

 狂信者達は俺をジロジロと舐め回すように見たあと、口を開いた。

 

「それは真か?」

「ああ」

「誓って嘘はないと」

「勿論だ」

 

 と言っても両親の事はほとんど知らないがな――と内心で付け加える。ゼムは予期せぬ収穫に悦に入ったような気色悪い表情を浮かべていた。よっぽど御使とやらの使命を果たせたことが嬉しいのだろう。

 

「ほほう、ならば我々と来い。御使様が貴様と是非顔合わせをしたいとおっしゃっている」

「……どうも」

「さて……貴様の名は? 自ら進んで我々の役に立とうと言うのだ」

 

 ゼムの質問に俺は迷いなく答えた。

 

「俺はアルタだ」

 

 

          *   *   *

 

 

「――アルタ……?」

 

 アガトから遠く離れた地点で、ゼムの網膜レンズ越しにやり取りを見ていた()使()2人組は、フードの奥に隠された表情を歪めた。その名前には聞き覚えがある、まさかローグとファナの手によって育てられていたとは思わなかったからだ。

 

「確かか?」

「生体スキャンをかけないと何とも」

「……どうする。本物だったら……」

 

 ()に相談すべきか否か。

 楽園から舞い降りた御使は暫し頭を悩ませた。こいつは自分達にとって特級の地雷になり得る存在だ。もし自分達がしてきた事を、目の敵にしてきた機人の共同体(コレクティブ)にバレたらただじゃ済まない。

 

 それどころかアルタ本人による、こちら側へのアクション次第では劣勢に立たされかねない。御使の男は様々なケースを考えて、ここはひとまず手順通りの任務を果たすべきと判断した。

 

「廃棄だ」

「いいのか?」

「疑わしいなら即刻始末だ。探す手間が省ける」

「これで人違いなら、手掛かり無くなりそうだな」

「あの2人だけで我々をどうこうは出来ないさ、それに……」

 

 御使の男は遠くを見ながらポツリと言葉を漏らす。

 

「この街に住む奴らを全員連れて、バラバラにして調べてしまえばいいからな」

 

 僅かばかりに風が吹き、御使の男の顔が露わになる。

 白い髪に、深い青色の瞳、肌は真っ白で生気のない顔つきをしている。首元にはキラキラと光沢を帯びたバトルスーツが見えており、皮膚と一体化しているように見えた。

 

「全てはエリュシオンの為に……」

 

 男はそう言うと瞳を閉じて――ゼムに指令を下した。

 

 

 

         *   *   *

 

 

 

「――なるほど」

 

 俺はゼムの顔付きが変わるのを見て、しくじったと直感した。

 

「取り押さえろ」

「はっ」

「ぐ……!」

 

 強化外骨格アーマーをつけた男が俺を取り押さえ始める。両脇をしっかり固められ、もがいても絶対にどうにもならないのはわかった。

 

「やめて!!!」

 

 ベガが必死に振り解こうとするのが見えた。

 ああ、悪い……ベガ……俺は結局のところ、無力な男で特別な存在なんかじゃなかった。

 

「……御使様はこう言った、お前だけは処理しろと」

「てめぇ……!」

「我々に御使様の気高い使命が何なのかは分からん。しかし……あの者達の願いが人類全ての為にあるのは間違いない」

 

 バカが、お前たちは利用されてるだけだよ。

 そう言ってやりたいが、取り押さえてきた奴らが許さなかった。

 

「やめて!!! お願い!! アルタァアアア!!」

 

 ベガの泣き叫ぶ声が聞こえ、次の瞬間に俺は……

 

「死ね、人類の為に」

 

 ゼムの手に握られた大振りのナイフが深々と胸に突き刺さり、刃から高圧電流を流される。肉は焼けて身体の内部からゆっくりと死んでいくのが分かる。

 

「が……っ、ごぼ……」

 

 堪えようのない痛みが奔り、口から血の濁流が溢れ出す。どう足掻いても死ぬのは確実な傷だ。乱雑にナイフが引き抜かれると、胸から血がまた噴き出て俺はそのまま前のめりに倒れ伏した。

 

「うわぁああアアアア!!!」

 

 意識が飛びそうになる最中で、ベガの声にノイズがかかるのを聞いた。

 

「ち、何だこいつ」

「うるさい奴だ、破壊して黙らせ――ッ!?」

 

 ゼムが非情な命令を出そうとして固まる。

 

「GAAaaaa、うぐ――ガ――ギ――ギキ――」

 

 ベガから何かが軋むような音がなり、身体から眩い光が噴出する。彼女の体内から漏れ出たフォトンは、空高く打ち上がっていき光の柱を形作った。

 

「な……んだ、こい――」

 

 狼狽える狂信者がベガに恐怖を抱いた瞬間――腕が千切れ飛んだ。

 

「は――?」

「――――」

 

 そのままベガは取り押さえていた3人の男を背部から噴出したフォトンで焼き殺した。困惑するゼムと……俺は唖然としながら、ベガの顔を見た。

 

「――ファースト・フェーズ解除。ヒューリスティック・アルゴリズム……正常に起動。ソースに接続許可を申請……棄却。副次機能の限定解除……認可。フォトン・アルマス、殺傷モードに切り替え……認可」

 

 無機質なアナウンスが彼女の口から漏れ出て、俯いた彼女は顔を上げる。

 

「全脅威ノ抹消(デレズ)ヲ遂行シマス」

 

 その瞳は五芒星の形に光り輝いていた。

 

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