人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた 作:アスピラント
怒りが電子頭脳を焼いていく。
ベガは血を流して倒れ伏すアルタを見て、心の中にあった最後の枷が外れた感覚を覚えた。もういい、持てる全てを使って大切な人を傷つける奴を消せと。
ベガ……。
いつか世界に放り出された時、ベガに「生きて」と言った声がまた響く。深層意識を通じて何かと接続したベガは、ボディに搭載された機能の一部が解除されたと理解した。
〈ダメ……〉
嫌だ。
声の主はベガの凶行を止めようとしているように聞こえた。だけどそんなことなんか知った事はない。敵を前にして優しさを見せるのは違う。ならばここは機械らしく、血の通ってない無慈悲な判断を下すべきだと考える。
〈怒りに……飲まれては……ダメ〉
武装を選択。
手取り早く人間を殺すなら純然たるエネルギーをぶつけて、原型すら無くなるレベルのパワーを見せつければいい。大丈夫……虫を潰すのと同じだ。
今のボクはヨルマイの言った神の子なんかじゃない。
全てを消し飛ばす……破滅の化身となれ。
* * *
「何だ……こいつは……」
ゼムは目の前で仲間を一瞬の内に焼き殺したベガを見て、畏怖の感情を抱いていた。あり得ない、人間を崇拝し……機人を侮蔑して生きてきた自分が、目の前にて光り輝く機械の女相手に恐れをなすなんであっちゃいけない。
そんなタイミングでゼムの頭の中に――さっさとこの機械を破壊しろ――と御使様の声が鳴り響いた。
「全員でかかれ!」
アガトの住民を取り押さえていたはずの狂信者達は、一斉にベガへ銃口を向けた。彼らが扱うのはエリュシオン製のイオンリアクター搭載プラズマライフル――センティネルは、たった数発で機人や機械兵器に重大な損害を与える代物だ。
白い銃身にレールシステムを搭載した簡易型レールガンの一種であるそれは、ベガのボディでさえ破壊可能なレベル。しかしそれはあくまでも通常状態での話。今のベガには全く通用しなかった。
「――――捕捉完了」
闇雲に撃たれたら住民にまで危害が及ぶと、
「な――」
「え」
1秒にも満たない時間の中で死んだ事すら気づいていない敵は、間抜けな声を出すことしか出来なかった。ベガは確実に仕留めたと判断するとアガト中心部にいる10数名に狙いを定める。
「化け物がぁ!!!」
「うわ……!」
死の恐怖に駆られた男はあろうことか、ケリーの襟を掴み上げて頭に銃を突きつける。何と卑怯な真似か……だがこうした場面においては最適な判断だった。自力で止められないなら、相手の弱みにつけ込んで隙を作り出す。これまで数多もの集落を襲い、略奪し、殺戮を繰り返してきた彼らの常套手段だった。
「――弾道ルート、確保」
だがそんな浅はかな考えは、人智を超える判断能力を手に入れた機人の前に意味を成さない。ベガはすかさずケリーを捕えた男のみに狙いを定め、人差し指を向けて口を開く。
「ファイア」
青い光が一瞬だけ光り、男の額を射抜く。
頭蓋を撃ち抜いた光は寸分の狂いなく敵の命だけ奪った。
「ひぃ……!」
「なんだ、奴は、まるで
「ファイア」
更にベガは容赦なく10本の指全てから光を放って、敵を撃ち抜き……そのまま指を動かして敵だけを切り裂く。出力はキメラ製のレーザーブレードを数倍は超えており、横薙ぎに払えばアガトごと断ち切れるものだった。
「――次」
「……!」
瞬く間に敵を殺戮したベガは、無表情のまま星の形に煌めく瞳をぐるりと回して残る敵を見据える。まさに圧倒的な強さ、そして苛烈な殺し方に側にいたケリーは寒気を覚えた。
「ベガ……ベガ? 本当に……貴女なの?」
「ソコニイテ」
「元に……戻るよね……?」
「――」
ケリーの縋るような声を無視してベガは真向かいにいる敵を睨む。最大目標であるゼムはまだ生きているからだ。
「貴様……一体何だ? 明らかに普通の機人じゃないな」
ゼムは
しかしそんな相手は辺境の荒野にはまずいない。機人と人間はどれも雑兵で、簡単に殺戮出来るクズばかりというのが彼らの認識だった。
(だがあれは何なんだ……!!)
しかし今はどうだ。
ゼムは聖戦士であり正義の化身である自分達が、虫ケラのように蹴散らされていくという現実を受け止めきれずにいた。
「一体どこのコレクティブだ!!」
「……」
「怪物が……!!」
「
ベガの口からぎこちなくも冷たい殺意が溢れる。
恐れをなしたゼムは残ったエグゾスケルトンを装着した部下に対して、無謀な指示を出す。
「かかれ!! この女をバラせ!!」
「オオッ!!!」
自分たちが生き残るには、目の前にいるベガを倒さねばならない。強化された人間複数人でかかれば何とかなると
「ウラァア!!!」
エグゾスケルトンの内部には機人と同じように、フォトンが循環している。握りしめた拳には指向性を持たせたフォトンエネルギーが貯められ、殴り抜いた瞬間に炸裂するように仕掛けてあった。
「シッ――!」
男が殴り、白色の衝撃波が現れて大地が砕ける。
だがベガはそれを何事もなかったように掴み取る。
「な……」
「――」
キィィンとベガの瞳が輝き、お返しと言わんばかりに殴り返す。同じフォトンを張り巡らせた拳だったが、質や量はベガの方が圧倒的に上だった。
「ぎゃ……」
まるでキャノン砲のようなベガの拳が男の上半身を吹き飛ばした。飛び散る血は蒸発し、血煙とかした仲間を見た男達は勇んでいた気持ちが萎んでいった。
「こ、いつ」
「次」
1人を倒した後、ベガはまたすぐに近くにいた男の頭を掴むと、そのまま地面に強く叩きつけた。クレーターが出来るレベルの勢いで叩きつけられた男は、まるで潰れたトマトのようにグシャリと血の塊になった。
* * *
「何だ……こいつは」
「わからない……」
1番驚いていたのは狂信者でも、アガトにいた人々でもなかった。ゼムの瞳越しから一部始終を見ていた御使の2人だった。2人は当初ベガのカテゴリーを3程度に見繕っていた。戦闘は出来るが、人間の力でも十分に対応可能かつ比較的弱い部類に当たる機人であろうと。
だが結果はどうだ。
ベガと呼ばれる機人はいきなり動きが変わり、フォトンと体内に宿したナノ粒子の組織を駆使した
「最初に放出されたフォトンのエネルギー量は」
「約10ギガジュール、原子炉5基分以上に相当するわね」
「カテゴリーは6か7……だと」
戦慄する御使の男を他所に、片割れである女は放たれたフォトンのエネルギーが叩き出した数値に驚愕していた。覚醒した彼女はまさに動く核兵器と言っても過言ではない。女は狂信者たちを退かせるべきだと判断し、男に声をかけようとした。
「――今すぐ退かせないと」
「待て」
だが男は制止した。
「ゼムには引き続き交戦を命ずる」
「死ぬよ?」
「構わない。こいつを破壊するためにはそれなりの兵器が必要だ。準備が整うまでは引き留めさせろ」
予想外の戦力を叩き出したベガを前に、男は至急本部に連絡を取る。こいつを破壊するには手持ちの武装では心許ない。やるなら援護が必要になる。
「今こいつを仕留められるなら、未開人の命なんて釣りが来るレベルだ。だからこいつらの命を使い潰す」
「なるほどね、さすが外道……」
と女は言うが、その声色は酷く愉快なものを見たように楽しげだった。
「座標は送る。後はゼムがどれだけ持たせられるかだな」
男はホログラムを空中に展開し、連絡を取る。
今はまだ対応出来るレベルだ。将来的に厄介になるのなら早い内に芽を摘まなければならない。
* * *
「よくも我らが同胞を……!」
「――」
ゼムの怒りが溜まり、仲間の亡骸を見た後にベガを睨む。アガトは一瞬の内に外敵の亡骸に満ちた地獄絵図になっていた。動ける者は動けない者をどうにかして運び、ベガと敵との間に繰り広げられる戦いから逃げようとしていた。
「んぐ……」
そんな中で腹部を刺された上に電流を流され、体の外も中も重傷を負ったアルタは何とかして瞼をこじ開けて、ベガの様子を見ようとしていた。
「――」
「な……」
そして映ったベガは以前とは全く違かった。
冷たい瞳と能面のように硬い表情、そしてボディにこびりついた大量の血。彼女の側にはグシャグシャになった人間だった何かがあった。十中八九……ベガが殺したのは間違いなかった。
「べ……が……」
アルタは血を吐きながら、絞り出すようにして呼びかける。だが肝心の彼女の聴覚センサーには届いていない。今の彼女はまさしく兵器のようだった。
「――御使様の仰せのままに」
ゼムは無線越しから指示を受けとると、何ら疑いを持つ事なくベガへと吶喊する。彼が着ているエグゾスケルトンはこの襲撃メンバーの中で1番性能がいい。動きやパワーも他とは違う。ベガは冷たい眼差しを向けながらも、迫り来る電光を纏った拳と蹴りを躱していく。
「我々は度々……貴様らのような機人と人が暮らす街や集落を見てきた」
「――」
空気が弾けるほどの速度を持つパンチを繰り出しながら、ゼムは自論を語る。これまで数十年にわたって機械が蔓延る大陸を渡り歩き、その過程で導き出した歪んだ考えだ。
「襲撃を繰り返す度に、人間ほど間抜けな事を抜かすのだ! 機械も同じ世界を生きる命……人類と共に歩めるのだと。ふざけるな!! そんな事が出来る訳がない!!」
「……ふん」
肉弾戦に持ち込んだが、ベガは反撃せずにいなすだけ。何のつもりかは分からない不気味さを覚えたゼムは、このままじゃ埒があかないと判断して高周波ブレードを搭載した刀を取り出した。
堅牢な機人の装甲すら切り裂くレーザーブレードに匹敵する威力を持ち、エグゾスケルトンに接続する事でフォトンまで纏える代物だ。
「機人……もとい機械生命体は絶対に人間と相容れない!! 貴様も見てみろ……!! 同じ街に住む住民がお前を見る顔を!」
「――!」
無表情だったベガの顔に初めて陰りが見えた。
視線を外し、遠く離れた場所でベガを見るアガトの人々の顔を見た。
「ベガ……」
「ベガ……お姉ちゃん」
大人と子供、双方ともベガを見る目に怯えが含まれていた。向上した表情分析機能は彼らが感じている感情は「不安」と「恐怖」の2つだと結論づけていた。
「お前が守ろうとした人間は……お前を化け物だと見ているだろうな」
「……」
「選ばれた人しかつけられない聖なる鎧を纏った我々を、容易く殺せるのだ。そりゃ怯えて当たり前だ……!!」
ゼムは好機と見て、ブレードを構える。
狙いはベガの細い首だ。首さえ断ち切れば……あとはどうにでもなる。ボディの制御をしている電子頭脳の回路を遮断することで、格納された武装の展開すら防げる。
「改めて断言する。人と機械は分かり合えない!」
ダンと強く足を踏み込み、ゼムは力一杯刀を握りしめて振るう。
「我々がやってるのは……人類の目を覚まさせるという、崇高な目標を掲げた聖戦なのだ!!!」
銀が煌めきベガの首に向かう寸前――彼女はその刃を手で受け止めた。
「む……!」
「キミの言い分ハ……わかっタ」
一部片言になりながらもベガはしっかりと自分の意思で、その刃を受け止めていた。人工皮膚が裂かれて内部に張り巡らされたフォトン流体が流れる回路が損傷し、青い血がポタポタと焼け落ちたアガトの家の瓦礫の上に落ちる。
「ボクも……何度も考えタさ。自分みたいな存在は人と相容れないかもと」
「貴様……放せ!」
人を超える力で握られた刃は、エグゾスケルトンの力でも微動だにしなかった。ゼムは焦りから無理やり奪い返そうと躍起になっていた。
「ふん」
「が……!」
そんなゼムに哀れみの視線を向けたベガは、軽く腹を蹴って吹き飛ばす。蹴飛ばされたゼムは堪らず刀を手放し、バキバキとアーマーが砕ける音を鳴り響かせたまま、瓦礫を巻き込んで吹き飛んでいった。
そんな哀れな彼をぼんやり見ていたベガは、彼に構うことなく言葉を続けた。
「ボクは狭い世界しか知らないけど、機械が基本的に強力な存在だというのは分かるよ。アガトの外を出れば虫みたいな形をした機械兵器が闊歩しているし、そいつによって人が死ぬのも見た」
機銃によってバラバラになった死体をベガは散策中に何度も目にしてきた。平和な暮らしを送ってきたが、一歩出れば死が身近だった。
「基本的に自ら人を襲わないキメラだってそうだ。あいつらも安全じゃない。下手すりゃ機械兵器より厄介だし……何でこんな奴らがうろついてんだって嫌な思いをしたよ」
そう語るベガの口調は……いつしか普通になっていた。
目には光が戻り、殺意こそあれど理性のほとんどを取り戻していた。
「だからといって……」
ベガは刃を握る手に力を込める。
記憶映像に過ぎるのは、呆気なく殺された後輩と街の人々。人も機械も無意味に殺されてしまった。
「だからと言って、お前らがボクらの世界を壊していい理由にはならないんだよ」
「……!!」
最後に刃を握りしめて破壊したベガは、一瞬の内にゼムの近くへと詰める。ボディ内部で何かが起動し、これまで以上のフォトンが動力源から溢れていく。やがてその莫大なエネルギーをどうすれば活かせるのか、ベガの中にある演算機能が解答を導き出した。
形作るのはライフルだ。
しかも未来技術をたくさん詰め込んだ絶大なる威力を持つもの。それを確実に敵だけに狙いを定めて、
「この……!!」
「邪魔なものは切り捨てようか」
そのままベガは手刀を形作り、フォトンの刃でゼムの両手を焼き切る。一体何が起こったのか分からなかったゼムは、次の瞬間にはベガによって空へと飛び立っていった。
(この兵器はあまりにも強すぎる。陸上では使えない)
ベガはゼムの首を掴みあげて、空中へと放り投げる。そのまま彼女は両手を合わせて体内のナノ粒子を操作して、武器をその場で生成する。狙いは山岳地帯……その何処かから見ている黒幕。
(無線機から発せられていた電波は……この辺り)
ベガの背部から光の翼が現れる。
空に浮かび上がるは美しき機械の天使。
翳した両手に合わせて、羽のような装飾が施された流線形のライフルが現れた。ライフルとは言っても、その大きさはかなりのものだ。長さは約5メートルあり、充填されたのは世界を焼き尽くしかねない光子の力。
「
自然と浮かんだ武器の名前を口にしたベガは、バレルにフォトンが充分に込められた事を確認すると、迷いなく引き金は引いた。
キィィン――
空を照らす星の光。
それを真正面から見ていたゼムは、光の奥に翼を生やしたベガの姿を網膜に焼き付けると、自然に言葉が漏れた。
「これがほんものの……天使」
そしてゼムの意識は途絶えて空間を切り裂く光の軌跡が、アガトを照らした。
機械の天使が放った一撃は人形のように力無く空に浮かんだゼムを一瞬で飲み込む。痛みなんて感じる暇もない。彼女が放った特大のレーザーは生命体の細胞の一片すら残さない超火力だ。
「このまま……薙ぎ払う」
ベガは目つきを鋭くすると、そのまま光を薙ぎ払う。
連なっていた山脈は全てぶった斬られ、赤い線が走ると暫く待った後に特大の爆発を巻き起こした。
「……ッ!!」
倒れ伏していたアルタでも爆発は見えていた。アガトの街を見下ろすのは複数箇所で起きたキノコ雲と爆炎だ。凄まじい爆風がアガト全体を通り過ぎ、ズズンと大きな地震を引き起こす。
(なんて……力だよ)
アルタは知る由もないが、ベガの一撃によって山岳地帯60キロ圏内にあったものは全て吹き飛び、蒸散していた。おまけに熱核兵器に匹敵する光子武装を使った影響で、焼き払われた地帯はまるでマグマ溜まりのようになっており、近寄るだけで命が失われる空間になっていた。
(これが……マキナスの力)
重傷を負ってる事すら忘れていたアルタはふと思いだす。
ヨルマイはかつて機人達の戦いを見て、人類なんかもう到底追いつけない領域だったと言っていた事を。そしてベガを見て神の子だと持て囃す姿を見て、何をバカな事をとすら思っていた。
だけど今なら分かる。
ヨルマイが機人を神と見做してしまう理由が。
ベガはたった1発で地図を書き換える必要がある攻撃をしてしまっているのだ。
「ベガ……お前は……一体」
何なんだ……アルタはその言葉を言わないようにグッと堪えた。
「……はあ!」
宙に浮かびながら呆然としていたベガは、いきなり虚脱感に襲われた。込み上がっていたエネルギーと感情は急速に冷却され、ベガはフラフラと蹌踉めきながら降下して……そのまま落下した。
「……!」
その様子を見たアルタは焦りを顔に貼り付けた。ベガは力無く身体をほっぽり出したような体勢のまま、アガトの街に墜落――巨大なクレーターを作り上げた。
「ベガ……!!」
アルタは這う這うの体で意識を無くしたベガの近くによる。まさか死んでないよなと泣きそうになりながらも、アルタはもはや傷の痛みを無視して近寄る。
「ベガ……ぁ!」
クレーターの中で眠るベガを見て、アルタは転がり落ちながら彼女に縋り付く。土と血……そして煤がついた彼女の身体を見て、アルタは心が引き裂かれそうになっていた。
「目を覚ませ……ベガ……!」
「……」
「死ぬ……な!」
脳裏に過ぎるのは――笑顔で隣を歩くベガの姿。
必ず隣で笑い合いながら冒険しようと言った彼女を、失う訳にはいかない。
何故なら彼女は……誰よりも大切な女なのだから。
「ベガ……!! 目を覚ませ!!!」
しかしそんなアルタを嘲笑うように、遥か宇宙の彼方から放たれた
* * *
「――くはぁ!! 危なかった……なぁ!」
「危うく死ぬとこだよ……ったく」
山岳地帯から更に数キロ離れた地点。
御使の2人は予めセッティングした量子テレポート装置から、息も絶え絶えな状態で現れた。ベガの一撃は間違いなく自分達を狙っていた。フォトンが集約されるのを見ていた男は、本能からテレポート装置のスイッチを押して緊急離脱を果たした。
「ふっ……あいつ、カテゴリー7じゃないな。見てよ……これ」
女はフードの奥で自嘲するように笑って、さっき計測したフォトンエネルギー量から、推定カテゴリーを算出した結果を男に見せる。
「カテゴリー……10。ははっ、太陽系最強クラスのマキナスか……くはは!」
カテゴリー10。
それは機械生命体としてのランクの最上級。人類が絶対に敵対してはいけないと言われている領域だ。過去3000年間にわたって人類がカテゴリー10を倒したのは1例だけ。つまり……実質上の討伐不可能な相手になる。
しかし今はどうだろう。
怪物は力を使い果たしてアガトに落下した。
こんなに無防備になってしまえば無事じゃ済まない。
「今回は……自分達の勝ち逃げにさせてもらう」
もう座標指定は完了済み。
本部から槍は放たれ、アガトの頭上にまで迫っていた。
「嫌がらせだ……たんと喰らえ」
男がそう呟き、アガトの街を爆炎が包み込む。
人工衛星から撃ち込まれた極超音速ミサイルは寸分の狂いもなくアガトを焼き払った。
「今回の成果は……今までの検証で積み重ねてしまった不手際を払拭するだろうね」
「ああ、これでキメラに対する実験は継続出来る。しかしそれよりも……カテゴリー10を打倒したんだ。俺たちは英雄だ」
男の目は爛々と輝く。
この戦果は自分の地位を跳ね上げるだろう。
「ローグとファナに関してはどうする?」
「恐らくまだアガトを離れてそんな経っていない。奴はまだ地球にいるかもしれん」
仕事は山積みだ。
だが希望はある、人類は漸く光を掴み取ったのだ。
「任務を継続するぞ。残りの駒も使って……目障りな機人と人間の連盟を潰す」
「奴らがいなくなれば地球は私たちのものになる」
女はこれからの未来に想いを馳せ、光悦とした声で喜びを露わにする。
「勝利は近い……!」
男は最後にニヤリと笑うと、静かにその場を後にする。美しき瞳にドス黒い信念を宿して。
* * *
身体が熱い。
直前に目の前で太陽が現れたと思った俺は、近くにまだベガがいると認識すると、ここは天国かなと思った。あれだけ人殺したけど……不可抗力だよなと変なことを考えていると、目の前に誰かがいることに気づいた。
「――ふぅ、よかった……間に合ったかな」
右手を天に掲げるようなポーズを取った女がいた。
手には茶色のシールドをアガトの上を覆い尽くすように展開していた。まるでインディアンみたいな服装をした彼女は、マスクをぐいっと下げると赤茶けた肌が特徴的な、野生的な美女が顔を出した。
「もう大丈夫、敵はいない。集落の人も無事だよ」
ニカッと笑う彼女を見て、安心した俺はプツンと意識を失った。
プロローグは終わり、次回から1章です。
ちょっと書き溜めますのでお待ちください。
追記、週末辺りに1話投稿予定です。