人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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お待たせしました。



1章 星の名を持つ勇士よ
人と機械が生きる街


「――君、そろそろ時間よ」

「ん……?」

 

 呼びかけられた俺は、ふと顔を上げる。

 そこは何処かの研究室のようで、やたら高そうなパソコンやら骨組みだけになった無骨なロボットが、何体か部屋の隅に置かれている。

 

「どうしたの? ボーっとして」

「ん、あ、いや……最近寝不足で」

 

 隣にいるのは多分女だ。

 だけど何故か顔が認識出来ない。よく見れば俺と彼女はカジュアルな洋服の上から白衣を着ている。右胸あたりには名札があって、証明写真がつけられている。

 

 ――大学、コンピューター科学・人工知能研究所――

 

 名前の一部はぼやけて全てを確認することは出来なかったが、とりあえず学生の身分なのは何となく分かった。

 

「――先生に挨拶行くよ」

「ああ、わかった」

 

 口が勝手に動き、俺と女は同じ学生とすれ違う度に軽く談笑しながら何処かへ向かう。窓の外は未来都市ではなく、地味な色合いをしたアパートや道路が見える。時代的に……2000年代のどっかなのは間違いなさそうだった。ただあくまでも所感であり、正確ではないと思う。

 

「信じられる? 私達がここの学生インターンにいけるなんて。応募した時なんか通ったらいいな程度だったのに」

「俺からしたら応募すら難しかったぞ……周りには天才が多すぎる」

 

 ハァと重苦しいため息を吐く俺らしき人物を見て、隣にいた女はププと笑うと懐かしげに語り出した。

 

「食事と睡眠削って、限界まで研究成果を出して、何とか私に追いつこうとしてたもんね」

「お前が優秀すぎるのが良くない。GPAだってギリギリ足りなくて焦ったわ」

 

 どうやら俺の目線に立っている人物は、インターンを受けるために必要な成績やら課題やらでかなり苦労したようだ。一体どれだけ大変かは想像付かないが、かなり頭の良さそうな学校にいる中で必死こいてるみたいだから、まあ死に物狂いだったのだろう。

 

「でも君はちゃんと受かった、しかも名指しでメッセージまで来たんでしょう? ――博士から」

「ああ……あんな有名人から直々になんて、夢かと思った」

 

 女は誇らしげにこっちを見ているようだ。

 そうか……ちゃんと努力を実を結んだのか……。

 それは俺も安心した、まぁこの記憶が妄想でなければの話だが。

 

「つーかほぼお前のおかげだがな」

「へへ、まぁね」

 

 悔しいが事実だ。

 よく呼ばれたもんだなと我ながら思う。

 

「学生インターンメンバーって何人いる?」

「確か……21人だった気がする」

 

 平均的な学生スタッフの人数がわからないため、俺は何となくそうなんだと答える。選ばれし21人……何だがとても男心をくすぐられる響きだ。

 

「当たり前だけど皆君より優秀だよ〜?」

「……言うな」

 

 天才は須く努力している――だからといって自分が当てはまるとは限らない。そんな事などとっくの昔に承知しているはずだった。だけど俺はこの時本当に()()()のように悔しくて、体の内からエネルギーが湧いて来るのを感じていた。

 

「んなもん、これから乗り切ってやる」

「……!」

 

 天才に追いつけない?

 知ったことか、ならば無理矢理努力を積み上げてやる。俺は驚く彼女の目をしっかり見ながら啖呵を切った。

 

「――――」

「――――!」

 

 だがその言葉はノイズがかかり聞こえなかったが、女と男の表情に熱が入っていた事から、2人にとって重要な何かなのは理解した。

 

 この記憶は何だ。

 前世かはわからない。頭の中で勝手に作り出された妄想の可能性だってある。だけどやけに鮮明で俺はひどく懐かしく感じていた。

 

 もしかしたら俺の正体に繋がる内容かもしれない。期待を込めて俺は深く意識を潜っていく中――場面が切り替わる。俺と女は何やらさまざまな資料と機材で散らかった部屋の中にいた。

 

 はっきり言って汚い部屋だ、

 しかしそんな部屋の中心に光があった。

 その光はやがて人の形になると、着崩した白衣が似合う美しい女の人が現れた。

 

「ああ、君たちが――か。待っていたよ」

 

 光は軽快な口調でこう言った。

 

「――私達とシンギュラリティを引き起こそうじゃないか」

 

 さらりと口に出した内容はあまりにも壮大で唖然とする内容だったが、俺が気になったのはそこじゃない。

 

 ――似てる――

 

 その人物は不思議とベガに似ていたのだ。

 

 

 

          *   *   *

 

 

「――ッ!?」

 

 頭にいきなり奔った痛みから、俺は思わず体が跳ねてしまい――自分がベッドの上で寝ていたことに気づいた。ログハウスっぽい内観をしているが、部屋の壁や置かれた雑貨からアガトにある我が家じゃないのがわかった。俺は目だけをギョロギョロと動かし、ひとまず自分が置かれた状況を確認しようとした。

 

「まだ身体動かすには早いと思うがな」

「――!」

 

 近くで男の声が聞こえ、俺は勢いよく首を声がした方へ向けた。

 

「何故なら生きている人間の中でお前が1番重傷だったからだ」

 

 身長は多分俺よりでかい。

 額には槍のようなマークが入っており、肌は赤茶けている。着ている服はエキゾチックな民族衣装で、筋肉もかなりのものだったがこれは()()じゃない。額にマークがある時点でコイツはマキナスだと判別出来る。

 

「……えーと、あんたは」

「タナクだ」

 

 無表情でタナクと名乗った機人の男は手を差し伸べる。俺は身体の上からかけられた毛布から少し手を出して、簡単に握手する。

 

「あんたが俺達を助けてくれたのか……」

「ああ、とある仕事でアガトと呼ばれる街の近くに来た際に、とんでもないフォトンエネルギーを検知して、寄ってみればあの惨状だった」

「念の為聞くけど、アガトは」

「ミサイル攻撃による余波で吹き飛んだ。人命は救えたが……」

「そうか……」

 

 わかってはいた。あれだけの激しい襲撃を受けてアガトが持つ訳ない。無情にも告げられた顛末に俺は体から力が抜けそうになった。

 

「でも命があるだけまだマシだ。助けてくれてありがとう……タナク」

「そう思ってくれたのなら何よりだ」

 

 タナクはドカリと近くの椅子に座り、飲み物を啜る。

 

「ところでここはどこなんだ?」

「イリオポリ、西側地区だ。俺たちの拠点でもある」

 

 イリオポリ――ヨルマイが言っていた商業都市の名前だ。

 どうやら俺は図らずとも目的地に着いていたようだ。もっともこんな出立なんて勘弁願いたいが……。

 ただ俺はどうしてもタナクには色々聞きたい事が山ほどある。アガトの近くを仕事で寄っていたというが、その仕事の内容が一体何なのかということ。そして俺たちの街を襲撃してきたイカれたクズ共が何者かということ。

 

(親父関連は……地雷かもしれないから伏せておこう)

 

 俺はまだ世界のことを何も知らないに等しい。

 ならば余計なことを教えない方が今はいい。

 

「なぁ……タナク」

「何だ?」

「お前らって――」

 

 一体何者かと言おうとした瞬間――また新しく機人が割り込んできた。

 

「おいタナク! 目を覚ましたならさっさと報告しろよな」

 

 タナクの後ろから見覚えのある女が現れた。アガトを守ってくれた女の人だった。意識を失う寸前で怪しい部分はあったが、あの場面だけは鮮明に覚えていた。

 

「スジュラだ、よろしくなアルタ」

「ああ――って何で俺の名前を」

「起きるのはお前が1番遅くてな。相棒のベガから名前を聞いたんだよ」

「ベガ……! そう言えばベガは」

「だから落ちつけ。今はちょっと街を散策してて……その内帰ってくる。だけど覚悟はしておけよ? 用事以外ずっとお前の側から離れなかったんだからな」

 

 ベガの名を聞いて俺は人生で1番安堵した。

 無事だったこと以上に、俺は敵を消し飛ばしていく彼女がもう二度と戻らない気がして凄まじく恐怖した。ただ軽く話を聞く限り、ベガは元気そうだ。

 

 ただそんな事よりも気になるのは時間だった。

 

「俺はどれくらい寝ていた?」

 

 何だか全身の筋肉が凝ったような感覚がする。

 数日は動いていないだろう。

 

「1週間だ」

 

 ただ返答内容は俺の予想を超えていた。

 

「1週間も……っ! ていうか……身体がいてぇ……!」

「ああ、だからいきなり動くなって!」

 

 スジュラが肩を押さえて俺を寝かせる。

 乱雑な口調の中に、確かな親切心があった。

 

「大丈夫だ、お前の街で生きていた奴は全員助けている。イリオポリの居住区画で仮の住まいを提供してる」

「そう、か。そっか……! はぁ」

 

 なら多分ケリーやカリウス、アイラたちも無事だと見ていいだろう。俺は安堵から脱力して再びベッドに寝転ぶ。

 

「1番重傷なのはお前だ。ただでさえ厄介な怪我をしているんだ。暫くは安静にしないとな」

「厄介な怪我……?」

 

 どう厄介なのか気になった俺が視線をスジュラの背後に向けて唖然とする。何故ならば見知った光がそこに居るのを見たからだ。

 

「アルタ……」

 

 俺の光――ベガが何やら紙袋を抱えてこっちをじっと見ていた。まるで信じられないものを見たような顔をしている。でもそこに負の感情は一切なく、溢れんばかりの喜色があった。

 

「アルタ……! 目が覚めたんだ!」

「アルタ、さん!」

 

 後ろには右腕だけ黒いフレームに変わったアイラと、顔に絆創膏をつけたノラがいた。皆無傷という訳にはいかなかったが、少なくとも付き合いが1番長い3人がちゃんと元気そうにしていたのが分かると、目頭がすごく熱くなってきた。

 

「アルタぁ!」

「ベガ……」

 

 ベガは律儀に紙袋を置くと、優しく俺に抱きついてきた。相変わらず安心する温もりだ。だけど俺のせいでここまで悲しませたと思うと、凄まじい罪悪感が襲ってくる。

 

「良かった、目が覚めたんだねっ!」

「ああ……それと心配させてごめん」

「う……ぅぅ、ほんと、だよ……ばか……」

「悪い、気をつけるよ」

 

 くしゃりと俺はベガの綺麗な髪を撫でて背中をトントンと叩く。まるで幼い子供をあやすように、俺は彼女が落ち着くまでそのままの体勢でいた。

 

「女を心配させるのはあまり良くないぞ、うん」

 

 スジュラは何やらニヤニヤしながら見ている。さぞかし良いものを見たというニヤけヅラに、俺は居た堪れない気持ちになってきた。やめろ……そんな微笑ましいものを見るような目で見るな!

 

「あ、えーっと……もしかしてお邪魔?」

「アイラ、ここは一旦――」

 

 おかげで後輩ズも気を遣ってワタワタし始めた。

 おい、お前ら今更そんな態度を取るな。別にこんな状況を見たのは初めてじゃないだろ!

 

「あー、悪いな2人とも……俺は別に――」

「まぁ待てアルタ。済まないアイラとノラ、ちょっと私達はアルタとベガに聞きたい事があってね。今は一旦掃けてくれないか?」

 

 俺の言葉を遮ってスジュラが後輩2人に命じる。アイラの顔に少しばかり緊張がはしったが、タナクは「別に悪いようにはしない。大丈夫だ」と言って説得した。わざわざ俺とベガの2人を残して聞きたい事……多分平和な内容ではない。

 

「悪いな、多分込み入った話が出来そうなのはアルタとベガぐらいだと思ったからな」

 

 スジュラは申し訳なさそうにしつつ、こちらをしっかり見据えていた。ずっとこっちの様子を伺う程度に留めていたタナクは、いつのまにかスジュラの側に立っていた。

 

「ボクらに……何か用があると?」

 

 ベガは俺から一度離れて隣に座ると、若干の警戒を見せた。

 

「まぁな。警戒するのも仕方ない。私達はそれを承知でこの場を設けた」

「悪意がある外道ではないとは分かるが、君らの目的と私達の目的が相反する可能性もある。だから一旦話し合いが必要だとオレとスジュラは判断した」

 

 なるほど、それは確かに言えている。

 スジュラとタナクは狂信者に比べたら、めちゃくちゃマシ――どころか人格者だろう。じゃなかったらわざわざ俺たちを助けたりはしない。ただそこに打算的な動きがあった可能性もある。

 

 俺としてもいつまでも腹の探り合いなんて、ストレスマッハな時間をずっと過ごしたくはない。というかお互いそう思っている筈だ。

 

「だからこっからは自己紹介タイムだ。イリオポリでいつまでもピリピリ過ごすよりも、お互いが何者かを理解すれば立ち回りやすくなる。それに? 協力体制だって築けるかもしれない……敵は同じみたいだからね」

 

 スジュラが鋭い眼光を虚空に向けた。

 十中八九……あのイカれた奴らだろう。

 リーダー格っぽいのはベガのレーザーで死んだが。

 

「そうだな、分かった。じゃあ色々話していこう……まずは俺たちからだ」

「いいの?」

「いいんだよベガ。俺たちは助けてもらってるんだ、礼と言えるかはわからないが、これが俺なりの誠意だ」

 

 俺は疑問符を頭に浮かべてそうなベガに言い聞かせた。迷い……というほどでも無さそうだが、ちょっと気にはなったらしい。だけどスジュラは誠意と信頼を持ってこの場を設けてくれた。何より味方は欲しい、俺たちは今故郷を失くした身なのだ。

 

「わかった。まぁ2人は多分いい機人だと思う。アルタの経過観察とか、医者を手配してくれたし」

「嬉しいねぇ、そう言ってもらえて。くっくっくっ」

「この世界で、何か考えがあったにしろ人助けしてくれるのはお人好しだと思うから」

 

 そう言われると照れ臭いなとスジュラは頭を掻く。

 

「話はずれちまったけど、俺たちは実はこれから旅をする予定だったんだ」

 

 それから俺はスジュラに、親父関連の情報はちょっとだけ濁して身の上話をした。自分とベガの正体、そして何も言わずに消えた両親を探す旅に出る筈だった事を。

 

「――という訳だ」

「なるほど……親と自分探しの旅か。これからだったのに……運がなかったね」

 

 運が無かったというより、あまりこの言い方は相応しくないが……いつかは訪れていたかもしれない。何せあいつらは両親を探しにやってきていた。やって来るのが遅いか早いかだけの違いだった。

 

「奴らは両親を探しに来ていた。理由はわからないけど」

「ふむ……」

 

 スジュラは興味深そうに聞いた後、口を開いた。

 

「もしかしたら君らと我々は共に戦えるかもな」

「え?」

「ああ、悪い。では改めて自己紹介しよう」

 

 スジュラは改まった様子で向き直る。

 

「我々は人機共和連盟……エクスマキナ所属のハンターだ。主な任務は人と機械が共に生きられる世界を作るために、慈善活動や敵対勢力への攻撃または工作活動を行っている」

 

 エクスマキナ――救いの手、または強引に解決することを言う言葉だ。

 

「軍事組織みたいな感じか?」

「いや国際団体に近いかな。国や人種、機人ならコレクティブ問わずに集まっているよ。所属している組織なら2000以上はある」

「2000も」

 

 ベガは目を丸くして驚いた。

 アガトの外にはそんなに壮大な世界があったのかと、ワクワクしているように俺には見えた。

 

「そして今いるイリオポリは、オレ達と同じコレクティブ――アイオニス・トラベラー所属の機械生命体と、ゴルトガ商会という人間の商業組織が治めている」

 

 聞けばこのアイオニス・トラベラーという種族(コレクティブ)に所属している機人は、非戦闘タイプからスジュラのようにゴリゴリの戦闘タイプから幅広いらしい。比較的新興のコレクティブでありながら、この地域一体を支配する有力な機械だという。

 

「まぁ他にもイリオポリだけで、15のコレクティブ出身の機人がいる。エクスマキナは今の地球で最も強大な組織の1つだと言っても過言じゃないぞ」

「じゃあイリオポリみたいな都市は、他にも沢山あるのか?」

「あるよ、エクスマキナ独自のネットワークがあってね。その都市や街が我々の所属の場所なら、身分をさえ提示出来ればいつでも気軽に入れる」

 

 ほら、こんな感じのカードがあるよとスジュラは使い古されたカードキーを見せる。画像も文字すら何もない単なるカードだが、この中には沢山の情報が入っているという。

 

「とにかく私たちはそんな巨大な組織の下、日夜活動してる仕事人さ」

「最近はずっと同じ任務だがな」

「はは……まぁ状況によるね。タナクの言う通り、厄介ごとがあると私たちみたいな戦える連中はとにかく忙しくなる」

 

 なるほど、まあやってることはアガトの狩人にちょっと似ている事だろう。機械兵器がいたら排除して安全を確保する。ただ彼らの場合は守る範囲が凄まじく広い。並大抵の実力じゃないのは何となく分かった。

 

「そこで漸く私たちがアガトによるきっかけに舞い戻る訳だが、多分内容は何となく想像つくと思う」

「……アガトを襲ってきた奴らを追ってたんだね?」

「正解だよ、ベガ」

 

 ベガはこっそり俺を横目で見るとドヤ顔してきた。

 俺だって気づいていたぞ、本当だぞ。

 

「奴らは一体何者だ?」

「アルカディスト――と呼ばれているわ。簡単に言えば人類至上主義。聞いたことは?」

「人類至上主義という言葉ならある」

 

 親父がかつて所属していた国も、確か人類至上主義の国だと言っていた。ただ奴らはちょっとあまりにも野蛮人すぎる気がした。武器だけは一丁前だったが。

 

「アルカディスト……ね。奴らは結構前からいるの?」

「存在自体はめちゃくちゃ前からいるわよ。ただ奴らはそこまで脅威じゃなかった。15年前までは」

 

 スジュラはいきなり立ち上がって、部屋の隅に置いてあった白い銃を持ってきた。銃身には弾痕がしっかりと刻まれており、破損していると一眼で分かった。

 

「奴らは当初、かなり原始的な武器や装備しか持ってなかった。たまに太古の人類が使っていた武器とか使ってきたりはあったけど、大した脅威じゃなかったのよ」

「非戦闘タイプのコレクティブでも制圧出来るぐらいだったんだ。まぁ言葉を使う野生動物みたいなもんだ」

 

 タナクが辛辣な補足情報を付け加えるのを、俺は困った顔をしながら聞いていた。野生動物のがまだマシな気がする。言葉を喋る分……タチの悪さが倍増してるからだ。

 

「そんな奴らがこんな武器を使い出した。碌に統率すら出来ていなかった奴らが、まるで誰かに教わったみたいに動きを変えて……大きな組織まで作り上げた」

 

 スジュラは破損した銃を指で何度も叩いた。

 

「こいつがどんな銃か分かる?」

「光学兵器……か?」

「いや違う。ボクらを襲う時にも使っていた個人携帯用レールガンの類似品だ」

 

 ベガは目をパチクリと瞬きしてから答える。

 彼女にはこの銃が何たるかが、文字通り視界に浮かび上がっているのだろう。

 

「その通り。TRG-12ストームブリンガー……って書いてある武器だ。高密度リチウムイオンバッテリーを使って電力供給を行い、8.5x50mm弾を毎分800発の連射速度でぶち込む代物だ。はっきり言ってあんな野蛮人がいきなり作れるもんじゃない」

「だろうな……」

 

 多分この武器を配ったのは――俺は歯噛みした。

 

「私らはあの怪物達を操る黒幕を追っている。特にここ数年……アルカディストの連中による被害が倍増してるの。エクスマキナの管理地域でね」

「それに加えて異常行動を起こすキメラも増えた。我々は事態を重く受け止めて、この問題の解決に向けて動いている」

 

 話を聞けば聞くほど、俺たちが出会していた厄介ごとは思いの外スケールはデカいものだったようだ。

 

「キメラも奴らが?」

「それはまだわからない。だが関連性はあるかもしれない。並行して進めているという感じだ」

 

 タナクがそう言った後、スジュラが続く形で語る。

 

「んで私たちがアルカディストを追ってた中、ベガのフォトンを遠方から検知した」

「推定カテゴリー10と数値が出たから、オレは最初行くのを止めるよう言ったんだがな……。ベガの気質が善性で助かった」

「カテゴリー……?」

 

 スジュラとタナクが助けに来たきっかけに関する会話をする中で、カテゴリーという単語が気になった俺は思わず問う。機人にも細かいランクがあるのか。

 

「カテゴリーは機械生命体の脅威や戦力を表す規格だ。下は1で1番上が10、んでベガは1番上の10に相当するフォトンを放出していたのさ」

「ベガ……お前最強だったのか……」

「ボ、ボクもあんまり実感ないんだけどね」

 

 いやよくよく考えなくても、山脈全てぶっ飛ばすレーザーを撃ってる時点で最強クラスは目に見えていた。ただの機人じゃない気はしていたが、まさかそこまでとは思わなかった。

 

「ただ今は機能制限がかかってるのか、通常時はカテゴリー3……つまり普通の戦闘タイプの機人が当てはまるカテゴリーに落ち着いてる」

「いつもカテゴリー10クラスの戦闘技能をつかわれたら、この大陸がめちゃくちゃになるからな……」

 

 カテゴリー10……そんなにやばいのか。

 そんな強さを持つ機械相手に、俺は何が出来るのだろうか。

 

「……」

 

 俺はチラリとベガを一瞥する。

 彼女は自分でもあんな力があるなんて知らなかったと、スジュラと話している。ただもしいつかあの力を完全に扱えるようになってしまったら、果たして俺はこいつの相棒としていられるのか不安になった。

 

 俺には力がない。

 銃器の扱いや格闘に長けていると言っても、圧倒的な力の前じゃ薙ぎ払われて終わりだ。俺はベガの……相棒にはなれない。それどころか彼女に守られる大多数の中の1人になってしまう。

 

(俺も強くならないと。人のスケールには収まらない力がいる)

 

 だからこそ……こんな傷からはとっとと回復しないといけない。俺はそのままスジュラとタナクを交えて、うまく協力関係に持っていけないか話した。ちょっと勘繰られたりするかもと身構えたが、2人は既にこちらに対して警戒心が薄らいだのか話は極めてスムーズに進んだ。

 

 協力に対する条件としてはアルカディストの打倒、そして最終的な理想としては背後にいる黒幕を突き止めて、壊滅させる事とする。俺としてはアルカディストを追い詰めれば自ずと親父達に近づくだろうと思っていたから、願ったりだった。

 

「――話をまとめると、やっぱり私たちがお互い利害が一致しそうだね。君らを襲ってきたアルカディストの目的……そして街を破壊したという行為に対して、君らは仕返しが出来る。そして私たちも奴らを排除して平穏を取り戻したい。うん、いいね……協力し合える」

「俺としてはありがたすぎるぐらいだ。何せエクスマキナは規模のデカい組織みたいだからな。そこの庇護下にいれば親父の情報も入るかもしれない」

「今回の件に協力してくれたら、全然力を貸すよ。私たちの仕事だけ手伝ってもらって、ボイなんかしないからさ」

 

 スジュラはきちんと借りは返す主義だと言って、グーサインを出す。やっぱりスジュラはめちゃくちゃいい機人だ、縁をちゃんと繋いでおかねば。

 

「助かるよ、何から何まで」

「いやいや、私たちこそありがたい限りさ」

「俺も……回復したらすぐに戦えるよう調子は取り戻しておくよ。いつまでもじっとはしてられないしな」

 

 そう言って俺は手を何度か握りしめ、足を動かす。ムカつくことに手には若干の痺れと震え、足は何だか動かしづらさが残っている。脊柱へのダメージか……もしくは神経の損傷か定かではないが、厄介な反応が身体に残っている。

 早く治ってくれと内心で思っていると、いつのまにか空気が静まり返っている事に気づいた。

 

「……? 何だよ」

「あのね、アルタ」

 

 ベガは悲しげに俺の手を握る。

 一体何なんだと俺は訝しげに見ていると、スジュラが張り詰めた雰囲気を纏いながら口を開いた。

 

「アルタ、君は今後我々のサポートに回ってもらいたい。前線じゃなくて……な」

「どう言う意味だ?」

 

 いまいち理解が追いついていない俺は、続くスジュラの言葉を聞いて愕然としてしまった。

 

「君の身体は障害が残ってしまった。歩行機能……および運動機能に関する障害がね」

「は?」

 

 何を言ってるのか、頭が理解を拒む。

 

「つまり君は……ベガと一緒に戦えない身体になってしまったんだ」

 

 何故ならそれは、俺の決意と想いを踏み躙る非常な現実を表す内容だったからだ。




やっと1章開始です。
ここから本格的に進むので、何とか面白くしていきたい所存です。
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