人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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今回はちょっと長めです。


さて仕事の話をしようか

「さてアルタ、身体の調子はどうだい?」

「以前よりいいぐらいだな」

「おぉ、そりゃあ良かった。痛みもないかな?」

「思った以上に少ない」

 

 手術から3日が経った。

 俺はユアンの根城であるモスクにて、ベガと共に来ていた。かつての人間の指導者や権力者が使っていた、マクスーラと呼ばれる特別な区域には、ユアンを代表にアイオニス・トラベラーの戦士達が武器や装備を揃える部屋が数多くあった。ユアンはその中でも1番奥、歴史書や太古の遺物ばかりを揃えた部屋に引きこもっていた。

 

「うむうむ、いやぁワタシはまた困った人間を救ってしまった。何と素晴らしい機械なんだろうか……ワタシは」

(鼻につく言動だな……)

 

 ケラケラ笑いながら、堆く積もった本と資料の山の上に絢爛な椅子を置き、そこに王様の如く座っていたユアンはまさにウザいの極みだった。ちなみに俺とベガの近くにはスジュラとタナクがいるのだが、お二人は何だか不機嫌そうだった。

 

「ユアン、片付けぐらいしてくれよ」

 

 スジュラが散らかった部屋を見て渋い顔をする。

 わかる、別に潔癖症じゃなくてもこの散らかりようは見過ごせない。

 

「片付けちゃったらスジュラ達の仕事が無くなっちゃうだろ? これはワタシなりの親切心だ」

「……アタシらのアルファ・マインドじゃなきゃ破壊(デレズ)してやるとこだな」

 

 目をヒクヒクさせるスジュラは、チラリと俺を一瞥した。

 

「ミトラの中にいる奴と話したのか」

「まぁ、な」

「機械化するってわかっておきながらよく承諾したな」

「じゃなきゃベガと旅が出来ないからな、そこら辺は割り切っている」

 

 そう言うとスジュラはため息を吐く。

 そんな吐かれるようなことを言ったつもりはなかったのだが。

 

「お前結構ネジ外れてんな」

「そうか?」

「ああ、ベガの為なら文字通り全て捧げちまう危うさがある」

 

 確かにベガのためなら何でもしてあげたいと思うのは、あながち間違いじゃない。そんな風に思っていると隣にいたベガは「えへへ」とずっと照れくさそうに笑っていた。

 満足そうでなによりだよ、本当に。

 

「スジュラ、彼は納得しているんだよ? 機人がそんなネジ外れてるなんて冗談……くく、おかし――!?」

「よし、わかった! ってなる訳ねぇだろ――ユアン」

 

 スジュラは一瞬でユアンの背後を取ると、力一杯腕を捻り上げた。ギギギ……と何かがひしゃげるような音が鳴り、ユアンは苦悶に満ちた表情をし出した。

 

「あははは! 出来ればワタシの関節部を捻じ曲げるのはやめてほしいなぁ!?」

「るせぇ! なんでこんな事をアタシらに黙ってやんだよ!! ふざけんな!! 自由人ぶるのはやめろ!!」

「タ、タナクゥ!? 助けてぇ!?」

「断る」

 

 そのままひたすら技をかけられ続けるユアンを見て、俺は何となくこいつらの関係性を把握しつつあった。ユアンは何かと皆を惑わす傍迷惑な気質を持ってはいるが、周りの機人がそれを上手くサポートしているのだと。

 そして周りが頼りがいのある連中ばかりだからこそ、ふざけていられるのだろう。

 

「――ったく、次からはちゃんとアタシらにも話は通せよ。水面下で勝手にやられるのは信頼されてない感じがして、腹が立つ」

「いてて……信頼しているさ。だけど情報というのは時として我々にも牙を剥く。上手く扱うには限られた人物にのみ伝えることもあると理解はして欲しい」

 

 ユアンの言いたいことは何となく分かる。

 要するに情報の取捨選択だろう。知るべき者が知り、知る必要のない者には伝えない。パノプテスが何故俺を機械化を促進させるアーマーをつけたのか理由を教えないように、思惑があって言わなかったのだと。

 

「ちっ、わかったよ」

「すまないね、君らには負担を――」

「今更だよ。んで? 今回アタシらとアルタとベガをわざわざ自分の根城に呼んだのは訳があるんだろ?」

「その通り。仕事だよ」

 

 仕事――俺は意識を切り替えた。

 

「実はつい4日ほど前に、ここから西へ50キロほど離れた村でアルカディストの襲撃があったと偵察隊から報告を受けた」

「奴ら、また……」

 

 ベガはギリギリと歯噛みする。

 過ぎるのはアガトで行われた殺戮の記憶だ。

 俺にとっても辛い出来事だ。

 

「アルカディストの連中はその村にいた人間を殺戮し、一緒に暮らしていた機人を()()()

「攫った?」

「ああ、破壊ではなく攫ったんだよスジュラ」

 

 攫ったというワードに妙な引っ掛かりを覚えたスジュラは、訝しげな表情を浮かべた。俺は最初ピンと来なかったが、数瞬してからやっとスジュラが何故そんな顔をしたのか気づいた。

 

 奴らは機人を排除したがっていた。

 如何なる理由があれど機械の存在を許さないアルカディストならば、機人を真っ先に殺すはずである。なのに奴らは攫ったのだ。

 

「攫った後、アルカディストは村から更に西へ向かっていった。その際に偶々居合わせたエクスマキナ所属の狩人(ハンター)と交戦、しかしアルカディストは強化外骨格を装備していた上に、強力な光学兵器を持っていた。ハンターは何人かアルカディストを倒したが、重傷を負って退却せざるを得なかった。残念ながらそこで助け出すのは無理だったようだ」

「手強そうだな……」

「普通の人間相手からまだしも、強力な武器と装備を揃えているからね。こればかりは仕方ないさ」

 

 スジュラが渋い顔をしたのと同時に、俺も顔を歪めた。

 雑魚とはとても言い難い連中だ、ハンターはむしろ良くやった方だと思う。

 

「ただハンターもただじゃやられなかった。咄嗟に逃げていくアルカディストに通信機を仕込み、どこへ逃げたかは突き止めている」

「めちゃくちゃ有能……!」

 

 ベガはすごいじゃんと素直に感心している様子。

 良くやった方どころじゃない、めちゃくちゃ良くやった方だ。

 

「村にはワタシが派遣した偵察隊とハンターがいる。君らは彼らと合流後、攫われた機人の救出を頼みたい。無論……報酬は弾むよ〜? 何せイリオポリの市長にしてギルドの組合長たるワタシ直々なんだから!」

「うぜぇ」

 

 一々芝居じみた態度さえなければ良いのにと、俺もベガも思っていた。しかしこれはかなり大事な任務になりそうな気がしていた。いつもと違う行動を取ったアルカディスト……そして潤沢な装備。奴らが世界に刻みつけた暴力の惨状は、俺たちが求める目的へと結びついていてもおかしくない。

 

(親父……)

 

 アルカディストを追えば親父を知るエリュシオンに辿り着く。何でも良い、俺たちに必要なのはとにかく親父や俺とベガの正体に繋がりそうなものなら、なんだって探し求めてやる。

 

「――君の想像通り、これは君にとっても大事な仕事になる」

 

 そんな風に決心しているのを見ていたユアンが口を開く。

 

「アルカディストは基本的に野獣みたいな存在だ。奴らは盲目的に機械生命体を殺すし、仲間の人間も有無を言わさず殺したり暴行したりする。そんな獣達が機人を殺さずに攫ったとなれば……何か指示があったからだろう」

「機人を攫った事自体にエリュシオンが絡んでるかもしれない……と?」

「可能性は高いね。どう言う訳か……エリュシオンは地球にいる人間を急に利用し出した。きな臭い事この上ない」

 

 エリュシオンについてはイリオポリに来てから、スジュラ達経由から共有済みだ。野蛮人である彼らを大きな脅威にまでのし上げたエリュシオンとは、少なくとも200年以上前から因縁があると話を聞いている。

 ただ奴らとて機人全てを相手取れるとは考えておらず、ゲリラ的に使者を送っては密かに暗躍し、その度に他のコレクティブと阻止したりしてきたようだ。

 

「ただこの最近は妙におとなしかった。以前は結構使者が自らやってきては、挑発行為を何度もやってきては抗争をしかけたりとアグレッシブだったのさ。スジュラも……何度も戦ってきたんだから」

 

 ね! とユアンはスジュラに意味深な呼びかけをするとこめかみを押さえながらスジュラは言った。

 

「ああ、だから急に数年ぐらい大人しくなったから却って不気味だった」

「そう、なのか」

「恐らくはそのタイミングでエリュシオン側から接触があったのだろうね」

 

 そこで君らに仕事を与えると言って、ユアンは俺にバンド状の端末を投げ渡してきた。俺は付けろと促されて、とりあえず左腕につけた。するとバンドの縁に沿って光が淡く灯り、何らかのデータを読み込んだ。

 

「ベガには先に渡していたが、君の生体情報が登録してある情報端末――オムニバンドだ」

「どうも、つーか生体情報なんていつのまに……」

「手術時に決まってるだろう」

 

 ドヤ顔するユアンだが、そんな気軽にプライバシーを侵害しないで欲しい。まぁ許諾したのは自分だが、もう何を仕掛けられてもおかしくないなと諦めるしかない。

 

(それはともかくとして端末はありがたい。アガトじゃ碌な通信機器なかったし、比較的最新の機器を手に入れられたのはデカい)

 

 試しに触ってみると、水色の光を帯びたメニュー画面が出てきた。恐る恐る指で触れればちゃんと反応している。未来世界へ転生を果たしてから初めて未来技術を実感した瞬間でもあった。

 

「ちなみに餞別として15万センティアを、君とベガに付与している。基本的にはデジタル通貨だが……物理トークンに換えたりすることも出来るからね。その際はカードやチップ好きな形態を選べるから」

「金まで……!」

「一文無しだろう? その金はワタシ達の連盟に加入している街や国ならどこでも使える。あとは友好関係にある組織とか……ね」

 

 なるほど連盟の領域内のみか。

 となれば他の組織では違う通貨が使われている事になる。ここら辺も後々知っておきたいとこだが、まぁそれは後でいいだろう。

 

「端末には先に依頼の詳細を入れてある。詳しくは後で中を見てくれ。ふふふ」

「わかった」

「しかし……実はまだ問題があってね。それについては――タナク、2人を此方に」

 

 今度は何だと俺はタナクの方へ振り返ると、そこに居たのは何とアイラとノラだった。2人とも神妙な顔をしているあたり、さっきまでの話はしっかり聞いていたようだ。

 

「アイラ、ノラ!」

「ベガ、おはよう! そしてアルタも……ひとまずは身体良くなったのね」

「良くなった……という言葉が正しいかは微妙だがな」

 

 改良されたが正しいが、余計なことは言わないでおく。

 するとノラが俺を見るなり、手を掴んで握りしめてきた。

 

「マジで良かったです……! もう二度と一緒に狩りが出来ないんじゃないかって覚悟してたんで……」

「心配かけたな、もう大丈夫だ。暫くは慣れが必要だけどな」

 

 本当に良かったと何度も言うノラの目には、きらりと光るものが見えた。それだけ心配してくれていた事に、逆に俺ももらい涙しそうだ。

 

「また一緒に散策しましょう!」

「……ああ」

 

 色々あったが、何となくまたアガトで過ごしていたような日々が戻ってきそうで、俺も顔が綻ぶ。ただ感動を分かち合うよりも先に聞いておきたいことがある。

 

「何でこいつらを……?」

「彼らには別の任務を与えたくてね」

「あー……まさかあの件か? ユアン」

 

 スジュラはどうやら心あたりがあるらしい。

 

「そう、暴走するキメラの調査だ」

 

 暴走するキメラ……確か以前にもスジュラが軽く頭出しをしていた事を思い出した。

 

「ここ最近もまた増え始めている、ただ我々も人手……いや機人不足でね。イリオポリ含めて我々が担当している依頼は沢山あるし、力になれそうな人材は必要だ」

「なら……私達はアルタとベガの任務に――」

「そう言う訳にもいかない。暴走したキメラよりエリュシオンの戦士は強い。仮に彼らが出張ってきた場合……カテゴリー3以下の機人は全く歯が立たないと考えていい」

 

 でも……とアイラは食い下がりながらも俺を見た。

 分かる、言いたいことは全然分かる。

 アイラとノラは奴らに憤りを覚えているし、仇を取りたいと願っている。この手で故郷をめちゃくちゃにした奴に制裁を与えたい――そんな気持ちは痛いほど分かる。

 

 だが……物事には適材適所がある。

 

「アイラの気持ちは分かるが、頼んだよ。暴走したキメラの調査だって絶対調べなきゃならない仕事だ。わかって欲しい」

「……く」

「イリオポリの代表として、この仕事を君らに任せたいのさ」

 

 そうまで言われたら断る訳にもいかない。

 第一……自分達は彼らの世話になっている。何でもかんでもやりたい事を聞いてもらえるほど、俺たちに甘い訳じゃない。彼らにも守らないといけない大切なものがあるのだから。

 

「わざわざワタシが、使いを出さずに直接頼んだのも……ワタシなりの誠意だよ。アガトはついこないだまで存在すら認知されなかった街、襲撃されている報告を受けるまでは何かのミスかと思ったぐらいだ」

 

 ふぅとため息を吐き、ユアンは座席にもたれかかる。

 彼が今どんな思いを抱えているのかは知らないが、少なくともいい気分ではないのは分かった。

 

「ただし現実は違った。スジュラの報告で1つの街が消えた。少なくない犠牲が出て、数少ない生き残りは住む場所を無くした」

 

 いつも飄々とした様子で捉え所のない彼が見せたのは、悲しみと怒りだった。

 

「これまで幾度となく悲惨な目にあった人や機人を助けてきたが全く慣れやしない。相変わらず……悲しくてやるせなくなる。もっとワタシに力があればと何度も思ったさ」

 

 だからね――とユアンは俺らを見た。

 

「これはワタシなりの罪滅ぼしだ。アガトを滅ぼした輩はワタシ達にとっても許せない敵だ。共通している敵がいるならば、ワタシは君らの報復に手を貸そう。好きな任務を与える事は出来ないが、必ず君らをアルカディスト討滅の仕事に関わらせよう」

「ユアン……」

 

 ベガは何とも言えない様子だった。

 俺も同じだ、ユアンの本音を初めて目にしてなんて言えばいいか、適切な言葉が浮かばなかった。

 

「それがワタシなりの誠意だよ」

「……!」

「さて……長話して悪いね。アルタとベガはスジュラの案内の下……諸々準備は進めてくれ。アイラとノラはもう少ししたら義勇団という機人と人間の連合部隊の1人がやってくる。詳しい仕事の説明は彼がしてくれるから」

 

 ユアンは一通りの説明を終えた後、ニコリと笑う。

 

「どうか頼んだよ、君たち」

 

 

 

           *   *   *

 

 

 

「――さてここが武器屋だ。イリオポリの優秀な銃器技師が武器や弾薬、乗り物の燃料などを販売している。ハンターならば何度も通う店だね」

 

 ユアンから仕事の話を受け、それから俺たちはスジュラとタナクの2人に武器屋へと案内されていた。何でも今後活動していくにあたって何度も利用することになるだろうし、今のうちに顔合わせがてら新しい武器を持っておけとの事だ。

 

 ただ俺はちょっと金を節約したい気持ちがあった。

 それに使い慣れた武器のが良いという個人的な拘りもある。何というか……愛着あるからなるべく強化して長く使いたいのだ。

 

「別に今まで使っていた奴でも困ってないんだけどな」

「アルタ、ずっと使ってたもんね」

「そうそう、もう第二の相棒みたいなもんだ」

「ダメだあんな骨董品、21世紀レベルの武器だぞ? 通用しない奴らが出てくる」

「……ちょっとオブラートに包んでくれよ……」

 

 あんまりな言われように、俺はちょっと傷ついた。

 一応結構好きだったんだけどなぁ……使い勝手良いし、機械兵器――もといプーパ相手なら問題なかったのだが。そんな哀愁漂わせた俺を憐れんだのかは知らないが、スジュラは背中をバンと強く叩いてきた。

 

「新しい奴にしとけば、少なくとも命を守れる確率は上がる。金ケチって死んだってなったら情けないからな」

「わかったよ……」

 

 正論で殴られたら仕方ない。

 俺は大人しく武器を新調することにした。

 

「スジュラ、タナク、珍しいな……機人であるお前たちがここに来るなんてな」

 

 そんなやり取りが聞こえていたのか、幾つもの銃が並ぶカウンターの奥から、バイザーをつけた黒い作業着を着た男が現れた。厳つい顔には幾つもの古傷が刻まれ、蓄えた黒い髭はとても男らしい。そんな彼は機械の左手と生身の手で大きなアサルトライフルらしき武器を抱え、近くにいたデスクに置いた後、男はバイザーを外して俺とベガを一瞥した。

 

「お前らがスジュラの言ってた訳ありの新入りか」

「訳あり?」

「訳ありだろ、どう考えても」

 

 男の「訳あり」という言葉に対してベガは可愛らしく首を傾けた。だけど実際の所スジュラの言う通り……俺たちは訳ありを体現したような存在である。こればっかりは否定出来ないぞベガ。

 

「久方ぶりだなスジュラ」

「ああ、そうだな。その前に紹介させてくれ。アルタ、ベガ……こいつはバルジム、人間の銃器技師だ。イリオポリ随一の腕前と知識があるから、何か困ったらこいつに頼むといい」

「その代わり、高くつくがな」

 

 見た目は40代かそこらといった所か。

 作業着姿がよく似合うその男は、俺とベガと握手を交わすなりそんな冗談をかます。ちょっとぐらいは値段のサービスはして欲しいなとは思ったのは内緒だ。

 

「バルジム、事前に頼んだのは準備出来ているか?」

「ああ、勿論だ」

 

 バルジムは近くにあったバッグを、俺の前にドカリと置く。

 そのままファスナーを開けていくと、流線型のフォルムが特徴的なライフルが現れた。マットな質感のブラックとダークグレーの配色が何ともたまらない。

 

「これが新しい相棒だ……!」

「アルタ?? 掌返しが酷いよ??」

 

 思わず涎が垂れそうだったが、ベガの白けた目線で引っ込んだ。仕方ないだろ……男はカッコいいガジェットや武器に心が躍る生き物なんだよ。

 

光子(フォトン)エネルギーをぶっ放す多機能型バトルブラスターライフル――名付けてパラディオンだ。単発と連射、最大5発分のエネルギーをチャージして放つチャージ弾、更にはバレルまで撃てる代物だ」

「おお……!」

 

 バルジムから手渡され、両腕にズシっとバトルブラスターライフルが乗っかる。見れば見るほど、美しいフォルムには目を奪われる。半透明のエネルギーカートリッジと、実用的で現実感のあるデザインは素直にかっこいい。

 

「マットブラック仕上げの高精度バレルの先端部分には放熱フィンを仕込んでる、これは発射時の光子エネルギーを効率的に排出する機能を持たせてる」

「なるほど、チャージ弾が使えるって言ってたけど冷却システムは大丈夫か?」

「問題ない、空冷式のフィンがバレルの周囲に配置されてるから、連射やチャージ弾使用時の過熱を防いでくれる」

 

 バルジムが更に言うには、搭載されたホログラフィックスコープの中央には小型のディスプレイがあり、目標の情報を提供してくれる機能まで付いているという。倍率は1.5倍から6倍まで調整可能で、内蔵されたターゲティングAIが風速や目標の移動速度を自動計算し、リアルタイムで命中精度を向上させてくれるらしい。

 

 まさに高性能かつ多機能な銃で、俺のテンションは上がっていた。

 

「しかもサイズ感もピッタリ……!」

「そら一緒に作り上げたのは、コイツだからな」

 

 そう言ってバルジムが紹介したのは、何とケリーだった。

 

「はーい、アルタ、ベガ」

「「ケリー!!」」

 

 馴染みのある顔に俺とベガは自然と笑みが溢れる。

 無事なのは知っていたが、まさかイリオポリの銃器技師として既に働いていたとは知らなかった。

 

「ケリーは優れた技術者だ、だからアタシはバルジムのサポートスタッフとして、ここを紹介したのさ」

「スジュラのおかげで、私は何とか銃器技師として働ける場を貰ったんだ。私だってアルタとベガの為に何かしてやりたかったからね」

 

 姉御肌な彼女らしい言葉だった。

 あの襲撃で彼女はかなり精神的なショックを受けた筈だ。にも関わらず彼女は自分なりの戦い方を見つけ、今俺たちの力になろうとしてくれていた。

 

「コイツは素地がいい、フォトンを扱った武器の製作経験は殆どないが、俺が教えたらすぐにマスターしやがった。その内……俺なんか越されるかもしれないな」

「言いすぎだよ……とまぁ、私は上手くやれてるよ。んでアルタとベガの戦いをサポート出来るように、ここの仲間達と学んでる最中さ」

 

 ケリーは後ろを振り返って手を振ると、機人と人間が複数人揃って手を振りかえしていた。全員がケリー並みの技術者と考えると、これほど心強い事はない。

 

「そしてこれはアタシの自作、アルタが好きなハンドキャノンを新調した奴さ」

 

 ゴトリとアイラは大型のリボルバーを目の前に置く。

 ブラックとガンメタルグレーのツートンカラーを基調とした、クラシックな見た目をしたハンドキャノンがそこにあった。

 

「そいつはエクリプス、アルタ用に作ったよ」

「……ケリー」

「見た目も拘ったんだ、今度はそいつを愛用してやってくれ」

 

 きっとこの重みは耐久性の高い合金という材質以外に、ケリーの想いが託されている。戦えない自分に代わり、エクリプスとパラディオンを使って生きぬいて欲しいという願いの顕れだ。

 

「ありがとう……ケリー」

「どういたしまして! さてあとはベガに渡す奴もあるから」

「わ! ありがとうケリー!」

 

 どうやらベガにはまた別のものを渡すらしい。

 俺は久々に見る2人のやり取りに、微笑ましさすら感じているとスジュラが話しかけてきた。

 

「ベガはちょっと色々事情があって武装は少なめだ。それはまた後で話す」

「ん? ああ、わかった」

「とりあえず弾薬と装備、あとは必要なものを揃えたら……店の裏に来い」

 

 こうして俺はスジュラの指示の下、他にも必要そうな物資を受け取り、着々と準備を進めた。いつもならあっさり済ませていた準備だが、この日ばかりは久々というのもあってちょっと時間をかけてしまった。

 

 不謹慎な話かもしれないが、漸く前へ踏み出せた事による高揚だと思っている。仕事という体ではあるが、俺とベガにとってはこれは旅の始まりでもあるし、戦いの始まりでもある。

 

(もうあんな思いはしたくない)

 

 そう、もう目の前で大切な存在を奪われる痛みなんて味わいたくないのだ。

 

 

 

           *   *   *

 

 

「――さぁ、こいつに乗っていくぞ」

 

 準備が終わり、俺とベガは店の裏に来るなり――固まった。

 何故ならスジュラが乗っていたのは乗り物じゃなく、キメラだったからだ。

 

 2体の5メートルはある巨大なトカゲみたいな姿をしたキメラは、オレンジ色に光る目をじっとこっちに向けていた。大人しくしているのは分かる。しかしまさかキメラがこんな街中でペットのように大人しくしている姿が、あまり馴染みなくて落ちつかない。

 

「キメラって乗れるのかよ……!」

「同じ共同体(コレクティブ)にいるからな、だからアタシ達とアタシ達が認めた奴以外は乗れない」

「サンドリザードという種類のキメラだ。普段はこの付近の荒野を彷徨いている。俺が乗る奴がダガーという名前で、スジュラが乗るのはクリーバーだ」

 

 タナクはダガーの頭をよしよしと撫でた後、すぐに飛び乗った。俺も恐る恐る乗っかってみたが、特に抵抗されることもなく素直に乗れた。

 ベガはスジュラの後ろに乗り、しっかりと鞍に座り直す。何だか浮かない顔をしているが……これはとりあえず後でいい。

 

「50キロ離れた地点へ徒歩で行くには時間がかかりすぎるし、道中でプーパやキメラに会ったら面倒だ。こいつなら少なくとも夕方には着く」

「その後でハンターと村人に合流、後の流れは状況次第――か?」

「その通りだ、アルタ」

 

 にしても機人の拉致か。普段殺戮ばっかしている奴らが違う行動を急に取り始めるなんて、間違いなくクソみたいな事を考えているに違いない。

 最悪の事態になってない事を祈るばかりだが、こればかりはある程度覚悟は必要かもしれない。

 

「アルタ、ベガ!」

 

 スジュラとタナクが手綱をしっかりと握りしめた辺りで、見送りに来てくれたケリーがこれから出ようとする俺らに声をかけてきた。

 

「絶対……帰ってきなさい。絶対よ」

「ああ、大丈夫だ」

「ボクが付いているから大丈夫!」

「……ふふ、どうかアルタを頼むわ……ベガ」

 

 何でそんな子供扱いするんだと、俺は視線で訴えたがケリーはどこ吹く風といった様子。むしろベガの方を心配すべきだろうに。

 

「じゃあ行くぞ、しっかり捕まっておけ! ダガー! 行け(ディー)!!」

「グオオオオ!!!」

 

 けたたましい叫び声をあげて、ダガーとクリーバーは俺たちを乗せてイリオポリの外へ出る。見た目からは想像つかない凄まじい速さで駆け抜けるキメラに圧倒されながらも、俺は過ぎ去っていく荒野の景色をマジマジと眺めていた。

 

「……すごい」

 

 陽が少しだけ沈み、昼から夕方の中間へ移り変わろうとしている。地平線の彼方まで続く広大な景色は、俺みたいな田舎者にとってあまり見たことないものだった。

 

「アルタ……」

「ん?」

 

 静かに見ていると、並走していたベガがニコリと笑いかけてきた。

 

「これから頑張ろうねっ」

 

 数日前の不安気な彼女はもういなかった。

 いるのはこれからの旅路に想いを馳せる、可憐な機械少女だった。

 

「ああ、一緒に頑張ろう」

 

 そう言って答えた俺は、念願の旅が今幕を開けたのだと実感した。

 

 




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