人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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2話更新です、もう1話は夕方あたりです


回収、逃避

 俺たちは攫われた機人と同じ信号を発するキメラと対峙していた。耳障りな悲鳴と獣じみた唸り声を上げた異形のそれは大地を踏み鳴らしながら、俺たちの方へと突進してきた。

 

「くそ……!」

 

 スジュラが鋭く叫び、槍を構えて間合いを詰める。狙うはキメラの喉──しかし、次の瞬間、キメラは大口を開き、紅蓮の炎を吐き出した。

 

「っち!」

 

 スジュラは咄嗟に跳び退り、槍を勢いよく回転させながら火をいなした。あんな反応速度で対応出来るなんて……俺なら一瞬で丸焼きだ。

 

「どうする……スジュラ」

 

 タナクは目配せして何かの判断を伺っていた。

 言わずもがなあのキメラの処遇だろう。

 普通なら破壊が鉄板だが、どうにもあのキメラの中には攫われた機人の意識があるようだ。

 

「……キメラの電子頭脳を無傷で取り出したい」

「解析か」

「ああ、一体何のつもりで機人の意識をキメラの中に入れてるのかは知らないが……」

 

 スジュラは一呼吸入れた後に言った。

 

「どうにも……嫌な予感がビンビンしやがる。アルカディストの計画を知らなきゃ……取り返しのつかないことになる気がする」

 

 その点については俺も同意だ。

 

「嫌ァアアア」

 

 キメラは俺たちを睨むと一直線に突っ込んできた。

 見た目は骨だけになったティラノサウルスのような風貌だからこそ、悲鳴をあげながら突っ込むのは軽くホラーだ。

 

「ふん!!」

 

 しかしそんなキメラをタナクは真正面から受け止めて、無理やり進行を止めた。どうみても10トン以上はある巨体をよく受け止められるなと戦々恐々としていると、タナクは叫んだ。

 

「まだ意識があるなら……どうか止まってくれ……!」

「――――ッ!!」

「頼む!」

「クルシイ、コワイ、ヤメテ」

 

 すると少しばかり反応を示した後――予想だにしない反撃を繰り出した。

 

「――――――!」

「「うあ!!」」

「ぐぅ……!」

「皆!」

 

 モスキート音のような音を出すと、機人だけが痛々しい顔を浮かべて疼くまる。仕組みはわからないが、機人だけに作用にするノイズを出したようだ。

 

「――――ァアア……」

 

 するとキメラは苦しそうにするベガへと向かう。

 この時点で俺はもう考えることすらなく走り出す。

 

「――っ!!!」

 

 そして俺は身体に凄まじい痛みと骨が折れる音や肉が潰れるような音を聞いた。最初は痛みを感じたが、一瞬で痛みがなくなって地面を何度もバウンドしながら、ぶっ飛んだ。

 

「――――!! アルタァァ!!」

 

 ベガの瞳がまた薄らと光り出し、苦しい顔をしながらキメラの横っ面を蹴り飛ばす。すると脇目も振り返らずに倒れる俺の方へと向かってきた。

 

「アルタ!! アルタ!! しっかり――」

「……ぅぐ……あ、れ? 俺……まだ意識が……」

 

 どう考えても死ぬような一撃を喰らって俺はダメだと思ったが、何と生きているどころか意識もある。一体何が起きて――と思って、腕が変な感じがして気づく。

 

「腕が……いっっ!!」

 

 腕がもうズタズタになっていた。

 関節が何個も増え、骨とか筋肉とかが色々見えている。

 だけどそれ以上に衝撃的な変化が、破壊された腕に現れる。

 

「あぐぅぅ……!!」

「アルタ!!」

 

 とんでもない激痛と共に、少し青みがかった金属質の流体が損傷した部分を覆い尽くすと、時間が巻き戻っていくように腕を無理やり元に戻していく。顔中汗びっちょりになって、吐き戻しそうになるが、それでも流体は活動を続けて、俺の腕を()()()

 

「――これは……」

「アルタ……それ……」

「……身体の中にある……ナノマシン……」

 

 めっちゃくちゃ痛かったが、俺の腕はとりあえず元通りにはなった――しかし一部が少し金属のようになっている。

 

「おい、お二人さん! 見つめ合ってないでキメラをどうにかしないと!」

「さっき撥ね飛ばされた奴に言うセリフか……よ!」

「……なんか生きてるなら大丈夫だろ!」

 

 スジュラが呼びかけてくれたおかげで、俺の意識は再びキメラに向く。

 

「本当に大丈夫……?」

 

 そんな中でベガは縋るように言った。

 大丈夫ではない――けど俺はベガの前では口にしない。人間じゃなくなっていくという恐怖はあるが、戦える力が手に入るなら何だっていい。

 

「……とりあえず……まだいてぇけど……傷は治ってる。治療とかは色々終わった後でいい」

 

 俺は足に力を込めて立ち上がる。

 

「キメラを止めるぞ」

「……うん」

 

 この哀れな機械を楽にしてやるためにも。

 

 

 

           *   *   *

 

 

 一方でジャック達、地上待機組は静かな夜の荒野で神経を研ぎ澄ませながら警戒していた。エイラも一切会話することなく、ただ音や視界に気を配り、銃から決して手を離さなかった。

 

 その時――洞窟内から断続的に空気を振動を感じた。

 

(洞窟内から……爆発か)

 

 熟練のハンターであるジャックは中で交戦に入った事に気づいた。しかもかなり激しい、それなりの相手と戦っているのは明白だった。

 

(救援は頼まれたらだぞ、エイラ)

(わかってる)

 

 念の為、ジャックは仲間たちに対して視線だけで伝える。機人の戦いはかなり派手で、人がいると却って戦いづらい事がある。況してやこの中は洞窟……狭いとスジュラやタナクの攻撃が当たるかもしれない。

 

(ここは耐えるしかない)

 

 必要とされたら向かう――そう考えていた矢先、ジャックは何かに気づく。

 

 ――――ギギ…………――

 

 夜の荒野に、微かな異音が響いていたのだ。

 ジャックは背後の洞窟を警戒しつつ、じっと耳を澄ませる。夜風の音とは違う。規則的な低音の唸り──いや、もっと鈍い、重い響き。

 

「……おい、今の聞こえたか?」

 

 すぐ近くで待機していた仲間たちに声をかける。1人が肩をすくめると、全員の意識がジャックに併せて音へと集中する。

 

「何かが近づいてるのか?」

 

 男が不安げに呟いたその瞬間だった。

 ヒュン、と風を裂く音がして――頭が爆ぜた。

 

「!!!」

 

 仲間の1人がやられた。

 刹那、ジャックの戦闘本能が警鐘を鳴らす。

 

「伏せろ!!」

 

 叫ぶのとほぼ同時、砲弾が地面を抉った。

 轟音と共に爆風が荒野を吹き荒れ、土砂が舞い上がる。衝撃波がジャックたちの身体を宙に投げ、背中から地面へと叩きつける。

 

「ぐ……ッ!」

 

 耳鳴りがする。砂塵の中で視界がぐらつく。だが、今ので終わりではない。ジャックは朦朧とする意識の中、何かが続けて飛来する気配を感じ取った。

 

「敵襲だ!! ロスがやられた!!」

「アルカディストか!?」

「いや、違う! これは……!」

 

 ジャックは砲弾が飛んできた先に赤い光が灯るのを見た。

 それはこの世界で人よりも多く戦ってきた敵だ。

 

「プーパだ!!」

 

 ジャック達がいる場所より、数百メートル先にある地点にてそれはいた。

 

「ギギギ……」

 

 頭部と胸部に長い角を持つ甲虫のような身体をしたプーパ――コレオプテラが、胸角と頭の間にある砲口からレールガンのようにして弾を撃ち出していた。プーパの中でもかなり頑強で強力な個体であり、ハンター達から恐れられている種類の機械兵器だ。

 

 そしてそんな強力なコレオプテラの周りには、3体のスコルピオが配置されている。蠍型のプーパはまるで護衛のようにコレオプテラの周りを固め、ガトリング砲を使って乱射していた。

 

「こいつら……何でここに!」

「わからん! エイラ! 対物ライフルだ!」

「わかった!」

 

 ジャックは転がるように地面を蹴り、崩れた土砂の陰へと身を隠す。荒野にはまだ砂塵が立ち込め、プーパの影がぼんやりと歪んで揺れていた。

 

「エイラ、見えてるか!」

「……視界悪いけど、スコルピオは三体……!」

 

 エイラが素早く対物ライフルを構え、スコルピオのひとつへ狙いを定める。スコルピオは機械蠍のような外観を持ち、背中のガトリング砲を回転させながらこちらへ向けていた。

 

「撃つ……!」

 

 エイラが引き金を引いた。轟音と共に炸裂弾が放たれ、スコルピオの装甲を抉る。しかし――

 

「まだ動くか……!」

 

 直撃したはずのスコルピオは、砲身をこちらへ向けると同時に、ガトリング砲を乱射した。

 

「伏せろッ!」

 

 ジャックはエイラの身体を引き倒し、同時に弾丸の嵐が荒野を蹂躙する。弾痕が岩や地面を削り、鉄の雨が二人のすぐ近くを通り抜けた。

 

「ちっ……やられる前にやらねえと……!」

 

 ジャックもライフルを肩に担ぎ、反撃を試みる。しかし撃とうとした瞬間――爆炎が襲って来た。

 

「くそッ!」

 

 コレオプテラの砲撃が再び炸裂し、ジャックたちの背後で爆発を起こす。爆風が吹き荒れ、砂と衝撃波がジャックの顔を叩く。

 

「包囲されるぞ、位置を変える!」

「どこに!?」

「とにかく動け!」

 

 二人は岩陰を飛び出し、身を低くしながら駆ける。しかし、追撃の弾丸が土煙を巻き上げ、スコルピオの弾幕が執拗に追いすがる。

 

「チッ……クソ野郎どもが……!」

 

 ジャックは反撃しようとライフルを構えるが、スコルピオの砲撃が激しすぎる。エイラも一瞬の隙を突いて狙いを定めるが、撃とうとすると同時にコレオプテラの砲撃が周囲を揺るがす。

 

 これでは動きを封じられたも同然だ。

 

「まずいな……! このままじゃ……!」

 

 敵の銃火は止まらず、むしろ着実に二人を追い詰めていく。

 

 ジャックは奥歯を噛み締め、どうにか打開策を見つけようと考えるが――その間にも、機械兵器の攻撃は着実に射線を狭めていた。

 

「ギギ……」

 

 コレオプテラに内蔵されたセンサーは速やかに、敵へクリティカルなダメージを与えられる弾道を計算していた。レールガンのチャージを始め、弾自体に火薬をさらに詰めて、純粋に爆発範囲を高めていくと、脚をしっかり地面に突き刺して身体を固定し、その時を待つ。

 

「でかいやつをやるんだ!!」

 

 ジャックはそれを見て、全身の毛が総毛立つのを感じていた。

 

「砲台を壊すぞ! エイラ!」

「わかってる!」

 

 エイラも同様の危機を感じ取り構える。

 そして引き金を引くのと同時に、レールガンのチャージも完了した。

 

「――――!!」

 

 一瞬だけ電光が迸り、その直後に対物ライフルの弾が機体に当たるとコレオプテラの身体が、僅かにズレた。破壊まではいかなかったものの、計算に若干の狂いが出た。

 

「エイラ!!」

「う――――わ」

 

 しかし弾はジャック達の近くに着弾した。

 爆風と炎がエイラに襲いかかりそうになる中で、ジャックはなんとか我が身を盾にして守る。

 

「ぐが――」

 

 しかしそのせいでジャックの右手が吹き飛び、胸部にかけて熱傷を負ってしまった。2人は爆風に煽られると、ゴロゴロと荒野を転がった。

 

「ジャック!!」

「……う……ぐ……」

 

 致命傷だ。

 しかしこんな場所でジャックを助けられるような設備もないし、手持ちのスティムパックでなんとかなる傷じゃない。

 

 さらに悪い事に……。

 

「「ギギギ!!!」」

 

 更にスコルピオが地面をかち割って現れ、耳障りな鳴き声をあげたのだ。まるで獲物に群がるハイエナの如く集まりつつあるプーパ達を見て、エイラはますます焦燥感を募らせる。

 

(退却を……しないと!)

 

 唯一残った方法は彼を近くの街へ連れていく事。

 機人の力がいる。

 

「すまない……」

 

 エイラは無線機の通信をつけた。

 

 

            *   *   *

 

 

《――アルタ! ジャックが重傷だ! プーパ共も来てる!》

 

 アルタ達のチームの耳元で響くエイラの叫び。緊急要請の信号が、通信機越しに何度も叩きつけられると、事態が深刻だと理解した。

 

「……まずいな」

 

 スジュラが低く呟き、タナクも苦々しげに顔を歪めた。戦闘中に別の戦場からの緊急要請――それが何を意味するのか、誰もが理解している。

 

「……ジャック達がやられてる」

 

 ベガの表情が強張る。仲間たちが苦戦し、あるいは既に倒れている可能性。その現実が、彼女の瞳を不安に染めていく。

 

「だけど……!」

 

 目の前のキメラが、低く呻く。獣じみた声、機械のノイズ、そして苦悶の叫び。攫われた機人の意識を持つそれを、完全に破壊するわけにはいかない。

 

 だが――

 

「もう……時間がねえ!!」

 

 俺は力一杯叫んだ。全身に今も痛みが走る。先ほどの衝撃で腕はズタズタになり、ナノマシンによる再生の余波がまだ体を蝕んでいる。それでも、ここで躊躇うわけにはいかない。

 

「援護を頼む!!」

 

 ハンドキャノン《エクリプス》を抜いた。

 黒き銃身に、深紅のエネルギーラインが脈打つ。通常弾ではなく、貫通力を極限まで高めた特殊弾が装填される。

 

「頭の中さえ破壊しなきゃいいんだよな!」

「ああ、それなら大丈――ぐっ!?」

 

 キメラが再び不協和音を発し、スジュラ、タナク、ベガの動きが止まる。このノイズはつくづく厄介だ。援護を任せるはずが、1人で戦う羽目になった俺は仕方ないと割り切り、1人で突っ込む事にした。

 

「――っ!!」

 

 また腕に痛みが奔る――不快な金属音が身体の中で響いているのが嫌というほどわかっていた。だがそれを無視して俺は力の限り走り抜ける。

 

(人間じゃなくなっていくとしても!!)

 

 この終末世界をベガと共に生きていくには、人間の肉体は脆すぎる。一緒に戦っていけるなら喜んで機人(マキナス)になってやる。

 

「うおおおおおッ!!」

 

 トリガーを絞るとエクリプスの銃口が閃光を放ち、火を噴いた。ハンドキャノンの銃声がとにかく重く、まるで大砲みたいな音が鳴る。普通なら反動で腕が跳ね上がるが、一部機械化しているおかげで、痛みや衝撃も少なく済んだ。

 

「くたばれ!!」

「――――――!!!」

 

 一発、二発、三発――。

 

 炸裂弾がキメラの頸部を撃ち抜き、鉄と肉の断片が飛び散る。

 

 更に四発、五発、六発――。

 

 機械仕掛けの頚椎が軋み、裂ける音が響く。キメラの悲鳴が耳をつんざいた。

 

 だが、それでもまだ倒れない。

 

「――まだかよッ!!」

 

 俺は全身の筋肉を強張らせるとさらに一歩踏み込む。

 エクリプスの銃口を、キメラの首元に直接押し当てた。

 

「これで……終わりだ!!」

 

 最後の一発が炸裂するとコードのようなものも千切れ、大量の火花が散って俺の肌を焼く。クソほど痛いけど、どうせ直るならもう関係ない。

 キメラの頚椎は砕け散ってるし、機械の神経が寸断され、異形の体が痙攣していた。だがそれでもまだ完全には動きを止めない。

 

「なら……直接引きちぎってやらぁ!!」

 

 俺はエクリプスを放り出し、血の滲む右手を前に突き出した。アドレナリンが出まくっていて、痛みがだんだんと薄れていく。

 

「ぁああああ!!」

 

 悲鳴と共に青みがかった金属質の流体が、傷口から溢れ出す。ナノマシンが活性化し、腕の表面を滑るように覆い尽くす。

 

(悪いな……)

 

 最後に俺は機人に向かって謝る。

 もっと早くついていればこうはならなかったかもしれない。

 

「――オラァァッ!!」

 

 鋼鉄へと変貌した腕を、更にキメラの首の奥深くへと突き刺す。指先が機械の断面を貫き、神経接続を断裂させていく。

 キメラが痙攣する中で俺は歯を食いしばり、全身の力を込めて拳を握った。

 

「ガァアアアアー!!」

 

 鋼鉄の頭部が、捻じ切られる。

 キメラの叫びが途切れ、全身が弛緩した。その巨体がゆっくりと崩れ落ち、地面に沈む。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 俺は荒い息をつきながら、千切れたキメラの頭を手から放す。その手はまだ金属質の輝きを帯びていたが、徐々に元の色へと戻りつつあった。

 

「……アル、タ」

 

 ノイズから解放されたベガが、俺のことを呆然とした様子で見ていた。複雑そうな顔をしているのがすぐにわかったが、今はそんな場合じゃない。

 

「ベガ、俺なら大丈夫だ……」

「……うん」

 

 何か言いたげなベガは言葉を飲み込むと、スジュラが言った。

 

「アタシらも……平気だ、くっそ……あれは対策が必要だな」

 

 蹌踉めくタナクを肩で支えながら現れたスジュラは、忌々しそうに言った。ノイズに関しては機人を完全に封じ込めることが出来る恐るべき兵器だ。俺も人間のままなら死んでいただろう。

 

 何とか倒した事に安堵していると、タナクはすっかり倒れたまま動かなくなった攫われた女機人の下に駆け寄り、軽く手を翳す。

 

 まだ生きているかどうか確かめているのだろう。

 しかしタナクの表情は暗いままで、俺たちの方へ向き直ると首を横に振る。

 

「……ダメだ、攫われた彼女だが……完全に機能停止している」

「……一応遺体は回収しよう、アタシが背負う」

 

 機人の遺体を担ぐスジュラを他所に、俺は首だけになったキメラに向かう。

 

「っしょ!」

 

 俺はキメラの頭部をナイフで開けて、中に入っている小さな電子頭脳を取り出す。淡い青の光を放つ小さな脳みそを、バックパックの中に入れた俺は、皆の方へと向き直る。

 

「……ジャック達の元へ向かうぞ」

 

 

             *   *   *

 

 地上に出た瞬間、俺たちは目の前の光景に言葉を失った。

 

 ――銃撃、爆音、閃光。

 

 夜闇を切り裂く無数の銃弾と、暴れ狂うプーパの影。光学兵器の閃光が視界を焼き、爆発が地面を揺らす。

 

「こりゃ、地獄だな……!」

 

 スジュラが思わず呟く。

 タナクも息を呑み、ベガは険しい表情のまま拳を握りしめた。

 

 俺たちが足を踏み入れたのは、まさに戦場だった。

 

「――アルタ! ジャックがもうもたない! 今すぐ王都に戻るしかない!」

 

 通信機越しに響くエイラの焦燥。奥で防戦しているはずの彼女が、ほぼ絶叫に近い声を上げていた。その隣には血溜まりに沈むジャックの姿があった。そして奥の方ではすでに事切れたハンター達の死体が転がっているのが見える。

 

 俺は急いで走り、エイラの近くに行くと彼女は叫ぶ。

 

「ジャックの傷を治せる設備があるのは、わたしたちを派遣したサングラール王国の王都ぐらいだ!」

「ここから近いか!」

「イリオポリよりはな! だが……見ての通り……脱出したくてもプーパが邪魔だ!」

 

 確かにこの物量を前にして、突っ切るのは容易じゃない。

 身体を出せばあっという間に粉微塵になるのがオチだ。俺が撃破しないとと思って銃を取り出した辺りで、スジュラとタナクが武器を構える。

 

「こいつら相手なら……ノイズもださねぇだろうし、地上だから暴れられる」

「蹴散らして隙を作る、援護は頼むぞ」

 

 タナクは長弓を取り出すと、デカい矢をナノテクで作り出した。

 

「一掃する!!」

 

 タナクは上に向かって矢を放つ――すると一気にバラけて、無数の小型爆弾をスコルピオの頭上へと降らせた。爆発する死の雨に晒された機械兵器は、けたたましい悲鳴をあげながら破壊されていくが、ヘラクレスオオカブトみたいな見た目をしたプーパの装甲までは破壊出来ていなかった。

 

「あいつは硬い!! 時間かかる相手だ!」

「しかもレールガンか……!」

 

 壊せるが、ここは時間が惜しい。

 しかしあのデカブツをどうするかと考えていると、ベガが躍り出る。

 

「こここそ……ボクの役目だよね!」

 

 そう言って彼女はブラスターハンドガンを2丁作り出した。

 

「うりゃ!!」

 

 そして引き金を引いた瞬間――凄まじい威力を伴う光の弾丸が硬いプーパの装甲を溶かし貫き、そのままどでかい爆発を引き起こした。

 

「ベガ!! ナイスすぎる!」

「へへへ」

 

 俺は今すぐわしゃわしゃベガの頭を撫でたくなる衝動を抑えつつ、パラディオンでスコルピオを破壊していく。プーパ達はベガの力を脅威と感じたらしく、隊列に乱れが生じていた。

 

 これはデカい隙だ、スジュラとタナクも同じ事を考えたのかニヤリと笑って叫ぶ。

 

「ベガ!! そのまま撃ち続けろ!!」

 

 そしてスジュラは荒野に轟かんばかりに叫ぶ。

 

来い(ニヨル)、ダガー!! クリーバー!!」

 

 力一杯叫ぶと遠くから土煙をあげながら爆走してくる何かが現れ、スコルピオを跳ね飛ばす。現れたのはスジュラとタナクが乗りこなすキメラの一種――2体のサンドリザードだった。

 

「あれは……キメラ」

「あいつらの足なら逃げ切れる!! 早く乗るぞ!!!」

 

 俺たちはジャックを慎重に抱え、サンドリザードの上に乗る。奴らが体勢を直す前に全員が乗ったことを確認すると、スジュラは叫ぶ。

 

「かっとばすぞ!! 振り落とされるなよ!!」

 

 サンドリザードが砂漠を蹴り上げ、狂ったようなスピードで夜の荒野を疾走する。乾いた風が肌を切り裂き、砂塵が視界を霞ませた。疾走する衝撃で身体が弾かれ、振り落とされまいと必死にしがみつきながら、俺は背後を振り返った。

 

「……くそ、しつこい!!」

 

 黒い夜を背に、光る無数の複眼。スコルピオとコレオプテラの群れが、獲物を狩るかのように迫って来ていた。

 

「伏せろ!!」

 

 スジュラの怒鳴り声が響く。次の瞬間、灼熱の弾丸が俺たちのすぐ横を掠め、大地をえぐり飛ばした。

 爆風が巻き起こり、砂煙が視界を埋め尽くす。熱気が頬を焼き、髪の毛を焦がすほどの熱量――まともに喰らえば一瞬で蒸発する威力だった。

 

「このままじゃ撃ち抜かれるぞ!! どうにかしないと――」

「ボクに任せて!!」

 

 ベガが叫ぶと同時に、両手のブラスターハンドガンが輝く。

 彼女の兵器ならばプーパ達を一撃で砕くことが出来る。

 

「いっけぇぇぇ!!!」

 

 怒涛の光弾が、一直線にスコルピオへと殺到する。着弾した瞬間に、夜の荒野を一気に明るく照らす爆炎が星空を裂き、鉄の塊が吹き飛ぶ。破片が火花を散らしながら舞い落ち、地面に突き刺さった。

 

「やった!!」

「まだ来るぞ!!」

 

 しかし息つく間もなくコレオプテラが羽を震わせながら跳躍し、俺たちの頭上へ回り込んでいた。あの巨体でどうやって飛んでるんだと突っ込みたくなるが、とにかく迎撃するしかない。

 

「ギギギ」

 

 コレオプテラが勢いよく降下して押し潰そうとしてくる。

 

「避けろ!!」

 

 スジュラとタナクが手綱を引き、サンドリザードは雷光のような動きで急旋回すると視界がぐるりと回り、身体が振り回される。俺は必死にジャックを抱え直し、振り落とされまいとしがみつく。

 

 

「……ベガ!!」

「わかってる!!」

 

 ベガの目が鋭く光る。

 

「まとめて……ぶっ飛べ!!」

 

 両手に握ったハンドガンを乱射し、コレオプテラを粉々にしていく。想像以上に凄まじい戦闘に、俺はただ振り落とされないようにすることしか出来なかった。

 

「これで……道が……開く!!」

 

 更に夜空を裂く超高威力の光弾を撃ち込み、コレオプテラの装甲が蒸発し、爆風に呑まれて吹き飛ぶと、プーパの集団にぽっかりと大きな穴が空いたように、通り道が出来る。

 

「よし!! 道が開いた!!」

 

 スジュラが叫び、タナクがサンドリザードの手綱を引いて速度をさらに上げる。

 

「王都まで一直線だ!! 全員、しがみついてろ!!」

 

 そして俺たちは全速力で夜の荒野を駆け抜ける。

 背後で爆発が連鎖し、機械獣の断末魔が響く中で、背後に向かって牽制の銃弾をばら撒きながら逃げ続けていった。

 

 ――そして走り続けて十数分。

 

 砂漠の冷たい夜風が肌を刺し、荒野を駆けるサンドリザードの息遣いが荒くなってきた。追ってくるはずのスコルピオやコレオプテラの影は、もうどこにも見えない。

 

 俺たちはようやく、機械獣の包囲を振り切ったようだ。

 

「……振り切ったみたいだな」

「はぁ……しつこかった……」

 

 俺がそう呟くと、ベガが後ろを振り返って確認し、安堵の息を漏らした。

 

「うん、多分……もう大丈夫……」

 

 エイラも背後を見たが、彼女は安心した様子を見せなかった。むしろ、焦燥に駆られるようにジャックの顔を覗き込んでいる。

 

「ジャック……っ!! お願い、返事して……!」

 

 彼の呼吸は浅く、皮膚はますます青ざめていた。肩に負った傷口から流れ出た血が衣服を濡らし、その手は冷たくなっていく。

 

 ――このままじゃ、本当に死ぬ。

 

 エイラの手が震え、彼女は必死にジャックに呼びかける。

 

「もう少しだから……もう少し頑張って……!」

 

 だが、ジャックは何の反応も示さなかった。

 俺は奥歯を噛み締める。

 

(クソ……早く治療しねえと……!)

 

 焦燥が胸を焦がし、喉の奥がひどく乾く。だが、どれだけ急いでも、目的地に着かなければ意味がない。

 

 そのとき――

 

「おい!! 前を見ろ!!」

 

 スジュラが叫んだ。

 俺たちは一斉に顔を上げると暗闇の向こうに、輝く光が見えた。

 

「……あれは……!」

 

 タナクが前方を指差しながら言った。

 

「王都だ!! サングラール王国の王都が見えたぞ!!」

 

 俺たちは、砂漠の果てにそびえる巨大な城塞都市を目にした。

 

 高くそびえる城壁。規則正しく並ぶ監視塔。夜闇の中に、燦然と輝く街の明かり――。

 

 間違いない。

 俺たちは、ようやくたどり着いたのだ。

 

「門番がいる……余計なまねをするなよ」

 

 スジュラから指示を受け、俺は素直に頷く。

 

 サングラール王国は初めて見るが、何とも立派な城塞都市だ。

 

 高くそびえる外壁は、まるで大地から生えた山脈のように圧倒的な威圧感を放っている。壁には無数の砲台が設置され、見張り台には銃を構えた兵士たちの影が見える。門の前には厳重な警備のもと、中世の騎士のような甲冑を身に纏った門番たちが立っていた。

 

 彼らは装飾の施された銃を構え、俺たちに向けて鋭い視線を向けると、声高らかに呼びかけた。

 

「止まれ!! ここはサングラール王国の王都だ!! 身分を証明しろ!!」

 

 俺たちはサンドリザードを急停止させると、エイラが先にキメラから飛び降りた。そして俺も、血まみれで意識を失ったジャックを背負い、砂塵を巻き上げながら門の前へと駆け寄る。

 

「頼む!! サングラール王国所属のハンターが重傷だ!! 一刻を争う!!」

「この人達は私の味方だ、通してくれ」

 

 続いてエイラが言うと、ようやく門番は銃を下ろす。

 

「エイラさんにジャックさん!? これは…………大変だ」

「おい! 早く門を開けろ!!」

 

 門番は素早く通信機を取り出し、内部の兵士たちと何かやり取りを始める。数秒の沈黙の後、ゴォン、と重々しい音を立てながら城門がゆっくりと開かれた。

 

「こっちへ!」

 

 俺たちは武器を背中に収めると、サンドリザードを引きながら門の中へ駆け込む。

 

 こうして俺たちは何とか生きて脱出することは出来たものの、依然として謎を残したままになった。

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