人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた 作:アスピラント
「はぁ……はぁ……」
全身に痛みが奔る。
俺は鋼鉄で出来た怪物の死骸が積み重なる地獄みたいな場所で、ぶっ壊れた銃を杖代わりにして立ち上がっていた。
「くそ!!」
目の前には地平線の彼方まで埋め尽くすプーパ達。
最悪の光景だ。虫みたいな姿をした奴らが沢山蠢くのを見るのは、なかなか精神的にきつい。
『人のままでは生き残れない』
何かが頭の中で囁く。
優しい女の声だが、俺は冷徹な印象を抱いた。
「人間をやめろってか!」
俺は吠えた。
『そうだ、この先に待ち受ける敵は貴方の想像を超える』
「人類至上主義の連中か!?」
『違う、人類の文明を滅ぼし……太陽系の深淵に潜む者たちだ』
この終末世界を作った機械か――と考えると、声はその通りと言った。
『貴方に与えられた力は成長する、傷つき、敵を倒した分だけ……それは最適化する』
「俺じゃないとダメだったのか、それは」
『その通り、貴方とベガの力が重要になる』
そして声は言った。
『それは変化じゃない、戻るだけだ』
「何を……言って――」
その瞬間に俺の意識は覚醒する。
* * *
「アルタ、おはよう」
「……ベガ……」
朝日が差し込む古城の一室、周りがレンガで出来た小洒落た部屋で寝ていた俺は、起き抜け1番に視界の全てをベガの顔面に支配されていた。正直言って整いすぎた美少女の顔面を朝から目の当たりにするのは、ラブコメぐらいでしか見た事ない。
「魘されていたけど……大丈夫? 腕……痛む?」
「あー……今はマシになってるよ、ありがとう。それより」
「それより?」
「顔が近い」
俺はやんわりとベガに退がるよう、手で示しながらゆっくり起き上がる。昨日の逃避行から数時間経過して、翌日になった今では身体の痛みはほとんどない。むしろ……前より好調と言っても良かった。
「良かった、まだ朝はゆっくり出来るから……休んでおこっ」
「ああ」
身体を少し伸びしながら、俺は昨日のことから今に至るまでをゆっくり思い返す。今いるのはジャックとエイラが暮らすサングラール王国の王都――ヘリスだ。イリオポリとは違ってプーパの発生地域が比較的近いこの地域は、立派な城塞都市が築かれており、兵士の人口がかなり多い。
門番や街をパトロールする兵隊は皆、中世騎士のような甲冑を着て、手にはしっかりとレーザーライフルや通常火器を持っており、何というか中世と近未来の文化が歪に混ざったような独特の文化が築かれている――と、スジュラに教えてもらった。
「朝、サンドイッチ食べる? 親切な宿屋のおばさんがくれたの」
「ああ、食べるよ……腹ごしらえしたいしな」
そして何で俺たちがこんなのんびりしているかというと、サングラール王国のハンターの計らいで、宿を用意してもらったのだ。
「ん……うまい」
「美味しいね」
何というか昨日とはかなり打って変わって平和な時間だが、俺は気になっていたことを聞く。
「ジャックはどうしてるか聞いてるか?」
「アルタが寝てる間にエイラが来たよ、手術して……とりあえず一命とは取り留めたけど……まだ予断は許さない状況だって」
「……そっか」
右手の喪失、そして重度の火傷。
ジャックの年齢的に、力尽きてもおかしくない傷だった。
「例え治っても、元のハンター活動が出来るかも怪しいって」
「きついな……それは」
「でも命ある分だけ、まだマシさって言ってた。強い
「本当だな」
とは言え、精神的にきついのは変わらない。
エイラはわからないが、ジャックという戦力をなくしたのは痛手だ。
「それにさ……攫われた機人を、彼女が所属していた
「ああ……」
それは昨日の深夜の話だ。
* * *
夜の帳が落ち、ヘリスの街並みは灯火に照らされながらも静寂に包まれていた。エイラはジャックと一緒に病院に、スジュラとタナクはヘリスのお偉いさんに、自分達が任務を完了した後に、襲撃を受けた旨を報告しに行っていた。
そんな中で俺とベガは何をしていたのかというと、ある一室の前に立っていた。
「ここ……でいいんだよな?」
「うん、エイラに聞いた通りなら」
重厚な鉄製の扉を前に、一度だけ深く息を吸う。
ベガの腕の中には、白布に包まれた機人の遺体があった。キメラと無理矢理接続され、アルカディストによって命を奪われた犠牲者だ。
今回の依頼はジャック達の要請だが、その大元は攫われた機人が所属していた
「アリスタさん、捜索依頼を引き受けたジャックの代わりに……お伺いに参りました、アルタです」
「どうぞ」
ノックをすると、すぐに応答があった。
穏やかで落ち着いた女の声。
俺たちは静かに扉を開ける。
「失礼します……」
部屋の中は、整然としていた。
広くはないが、無駄のない機能的な作りをしている。
壁際には書類が積まれたデスク、棚には整然とデータ端末が並べられ、窓際には作業台のようなものがあった。
そして、その中央に佇む一人の機人。
「命がけで依頼を果たしてくれたのね……ありがとう」
銀色の髪を肩まで伸ばし、淡い青色の義眼を持つ女機人だった。
白を基調としたシンプルな衣服を身に纏い、長身でありながらどこか優雅な雰囲気を持つ。
その表情は、穏やかで理知的だった。
「初めまして……あなたがアルファ・マインドの?」
「はい。私はアリスタ。コーラス・アコンプリのアルファ・マインドです」
コーラス・アコンプリ、それが攫われた女機人の所属している新興のコレクティヴの名前だった。
「夜遅くに……ありがとうございます」
「いえ……こちらとしては、その、大変申し上げにくいのですが……」
「ええ、わかっています。それでも……ちゃんと見つけてくれてありがとうございます」
彼女――アリスタは一礼すると、ゆっくりと俺たちの前に歩み寄る。その視線は、俺の腕の中にある遺体へと向けられていた。
「……ジェミナ……」
小さく囁くような声だった。
俺は言葉を探しながら、遺体をそっと差し出す。
「よくぞ……戻ってきてっ、くれましたね……」
彼女はゆっくりと遺体に膝をつき、その布をそっとめくった。
露わになったのは、静かに眠るような顔をした女機人の姿だった。頭部には破損の痕があり、機体の随所には撃たれたような痕もあった。
アリスタは何も言わなかった。
ただ、その指先で彼女の頬にそっと触れる。
まるで、人が最愛の者の頬を撫でるように。
「……貴女が最後に見た景色は、どんなものだったのでしょうね……」
彼女はそう呟き、目を閉じた。
長い沈黙が流れる。
静寂の中で、アリスタは僅かに眉を寄せると小さく息を吐く。
「……悲しいです」
その声音は、機械の冷たさではなく、まるで人間のそれのようだった。
ベガが、俺の袖をそっと引く。
「アルタ……少し、時間をあげよう」
「ああ……」
俺たちは静かにその場を後にした。
扉が閉まる直前、俺はもう一度だけ、アリスタの姿を見た。
彼女は、ただ黙って、亡き仲間の手を握っていた。
* * *
「……アリスタさん、すごく悲しそうだった」
「家族みたいな存在だったんだろうな」
家族がいなくなった痛みはよくわかる。
しかも普通の殺され方じゃない、命を弄ばれたような死に方だった。
「アルカディストの連中が何を狙いにしていたのかを、突き止めなきゃな」
「アルタが持っているキメラの電子頭脳は?」
「バックパックの中だ、一応調べるにしろ……誰にやってもらったいいかわからないからな」
「それのことなんだけど」
するとベガはオムニバンドを起動すると、メッセージボックスに1通ユアンからメールが来ていた。
〈任務完了お疲れ様、スジュラから顛末は聞いたよ。機人に関しては非常に残念だった。助かっていたらと思っていたが、アルカディストの野蛮さを考えると……やはり確率は低かっただろう。これは君たちのせいじゃない、だから必要以上に責任を感じる必要はない〉
そこには励ましの言葉が書かれていた。
ユアンはかなり変わった奴だが、こういうときのケアはかなり細かいらしい。俺は素直にありがたいと思った。
〈そこでだが、君らが確保したキメラの電子頭脳は出来ればワタシと近しい者の手で調べてもらいたい。昼間にスジュラを迎えに行かせるから、詳細はそこで話そう。ではまた後で――〉
メールはここで終わっている。
「ここじゃ無理ってか」
「なんか込み入った事情があるみたい」
「ふん……」
信用できる人があまりいないのだろうか。
サングラール王国の情勢が不安定とか、色々あるのか定かではないが、とりあえず迂闊な動きはやめておこうと頭の片隅に置いておく。
「とりあえず呼ばれるまではゆっくりしよ、アルタ」
「そうだな……」
「ここ最近は中々気が休まらなかったし……ね?」
ニコニコするベガを見ながら、俺は束の間のひと時を過ごすのだった。
* * *
「すまないな、せっかくゆっくりしている所なのに」
「いや……いいよスジュラ、相手の計画を早く止めるには絶えず動いた方がいいからな」
それから約一時間後――一旦身体を休めていた俺たちのもとに、スジュラが迎えに来た。
「ベガも悪いな」
「ボクは大丈夫だよ、別に怪我してないし」
ベガは軽く腕を回してみせ、異常がないことを示す。スジュラは小さく頷くと、すぐに本題へと移った。
「ユアンの依頼で動いてもらうが、なるべく公にしたくない内容があってな、とりあえず付いてきてくれ」
俺たちは宿を後にし、スジュラの後ろをついていく。サングラール王国の王都ヘリスは、昼間の活気と賑わいが特徴的だ。石畳の道を歩く人々、行商人の呼び声、馬車やリザードキャリッジが行き交い、歴史と近未来が融合した独特の景観を作り出している。
しかし、スジュラはそんな賑やかな大通りから一本外れた脇道へと進んでいった。
「……こっちで合ってるのか?」
「表の通りは都合が悪いんだ、今から行く場所は王都の中でも裏の顔に属する区域だ」
「治安悪いのか」
「アタシたちは別に大丈夫さ、ユアンの手の中にあるからな」
(あいつ何者だよ)
その言葉通り、進めば進むほど周囲の雰囲気は変わっていった。路地裏は薄暗く、建物もどこか年季が入っている。壁の落書きや、無造作に捨てられた荷物の残骸が、ここが王都の「表」ではないことを物語っていた。
雑然とした通りの中、目立たないようにひっそりと建っている小さな店があった。看板もないが、扉の前には赤く点灯した小さなランプがある。
「ここだ」
スジュラが小さくノックをすると、しばらくして扉がわずかに開き、暗がりの向こうから機械音の混じった声が聞こえた。
「おいレクス、スジュラだ」
「来たか、入れ」
その言葉を聞いた途端、扉がゆっくりと開かれた。
中にいたのは、一人の機人だった。
銀色の装甲を持ち、細身のフレームに濃紺のジャケットを羽織っている。頭部は人間に近い造形だが、片目は赤く光る義眼になっており、動作の端々に人工的な滑らかさがある。
「……お前たちか。ユアンの言っていた客人……アルタとベガは」
機人は俺たちを見回すと、静かに店の奥へと手を示した。
「入れ。ここで長く立ってるのは好ましくない」
「ああ」
俺たちは促されるままに足を踏み入れた。
店の中は狭く、無造作に並べられたモニターや端末、分解された機械のパーツがそこかしこに転がっている。棚には電子機器や精密部品が詰め込まれており、いかにも技術者の作業場といった雰囲気だった。
「アルタ、ベガも来たか」
そしてその中にタナクもいた。
「自己紹介しておく、俺はレクス。ここで電子技術やデータ解析を請け負っている」
「レクスは俺たちと同じコレクティヴに所属している、信頼出来る仲間だ」
レクスと名乗った機人は、作業台の前に腰掛けると、俺たちをじっと見つめた。
「ふむ……なるほどな、ユアン。全員集まったぞ」
《ありがとう、レクス》
すると部屋の真ん中でユアンがホログラムとして登場した。
《皆、改めてお疲れ様。決して望んでいた末路ではなかったが……任務は完了した。一旦そこは労わせてくれ》
「助けたかったがな」
スジュラははぁとため息を吐く。
《そうだね……ただ彼女の犠牲を無駄にしないためにも、今回の件で手に入れた電子頭脳を解析し、アルカディストの連中が何を企んでいるのかを知ろう。んじゃ……アルタ……レクスに電子頭脳を》
「これだ」
俺はバックパックから電子頭脳を取り出して、レクスに渡す。彼の赤い義眼が一瞬だけ光を増した。
「さて……どんな秘密が眠っているか、暴いてみるか」
彼は電子頭脳を手のひらで転がしながら、にやりと微笑むと作業台の上にあった円形の容器の中に入れ、ケーブルを接続していく。
「所で……何でこうやって隠れながらやる必要があるの?」
レクスが準備している間、ベガは俺たちが気になっていたことを聞いた。
《それはサングラール王国の社会情勢が原因なんだよね》
ユアンは2つの集団をホログラムで表示した。1つは格式高そうな式服に身を包んだ集団と、顔つきの厳つい連中が集まった集団だった。
《今サングラール王国は国王派と独立派に別れている。国王のリグラン3世はワタシたち機人とは友好的な関係を結んでくれていてね。一族代々……世話になってる》
国王らしき画像が映し出されるが、見るからに優男みたいな感じの男だ。深みのあるダークブロンドで、肩にかかるほどの長さを持つ髪をまとめ、長身で引き締まった体格をしている。単なる政治家ではなく、戦士としても活動していたことがあるような雰囲気があった。
しかも王にしてはやけに若い、多分30代ぐらいだろう。流石に歳は今の俺より肉体は歳上だろうが。
《しかし独立派は違う、彼らは機人を嫌ってる。大々的に排除しにかかってる訳じゃないが、彼らは機械に擦り寄る国王を失脚させ、新しい国を作りたいと考えてる》
「じゃあ……コイツらの目に触れると良くないからって事?」
ベガの問いに対してユアンは頷くと、レクスが作業したまま言った。
「考え方が考えだけに、アルカディストに近しいからな」
「もしや内通者がいるのか?」
《証拠はない、だけど用心の為さ。サングラール王国は……色々と調べ甲斐がある。君らがそこに逃げ込んでくれたのはタイミングが良かった》
安心安全な場所じゃないのかよ。
にしてもここが落ち着くのは無理そうだ。
「……もしやユアン、次の仕事は」
《察しがいいねスジュラ、次はワタシ直々から依頼だ。サングラール王国でアルカディストの繋がりを調べてくれ。ワタシ的に……ここは怪しい》
「探偵みたいな事苦手なんだよなー……適任いんだろ!」
《君ら戦闘能力あるし、しくじっても何とか出来るでしょ》
マジかよとスジュラは項垂れるが、タナクは諦め気味なのか何も反応していなかった。俺とベガはいずれにせよ、親父たちを探してるから絡むつもりではあった。
《さてレクス、解析はどう?》
「いきなり全部はわからねぇ、ただ……ウィルスまみれでびっくりしたぜ。除去はしたがな……」
よいしょと言ってレクスは解析したデータを参照しながら話し出した。
「まずはコイツを見ろ」
レクスは端末を操作しながら、ホログラムに解析したデータを映し出した。そこには複雑なコードの羅列と、何かのフローチャートが表示されている。
「驚いたのは、この電子頭脳のデータ構造だな。普通……機人やキメラの意識データってのはニューラルネットをベースにした自己最適化プログラムで構成されている。だが、こいつは違う」
レクスはコードの一部を拡大し、指でなぞる。
「これは……キメラの意識データそのものが、完全に別のプログラムに書き換えられている。つまり、元の意識を維持したままデータ化されたんじゃなく、構造レベルで接続された機人のアルゴリズムに最適化された形跡がある」
「……意識データを書き換えた、ってことか?」
俺が尋ねると、レクスは小さく頷く。
つまりそっくりそのまま意識を中に入れたわけじゃなくて、コピーしたものをキメラの中に入れている――という事になる。
「そういうことだ。通常、機人の意識データは固有の人格モデルに依存している。だが、こいつは元々生身だった個体の意識データを、機人のOSがそのまま受け入れられるように変換しているんだ。おそらくはアルカディストが開発した独自のエンコード技術だと思うが……」
「奴らにそんな頭はない、エリュシオンの技術だな」
タナクはズバリ言った。
「……それってもう生きてるとは言えないよね……」
ベガが疑問を口にする。
「難しいところだな。元の意識がどこまで保持されているかによる。だが、俺から見ればこれは”機人化”じゃなく”意識の再構築”だ。まるで人間の魂を無理やりデータに置き換えたみたいなもんだな」
レクスはそこで一度手を止め、画面を切り替えた。次に映し出されたのは、ある特殊な認証コードだった。
「それともう一つ奇妙な点がある。この電子頭脳には、特定のプロトコルが仕込まれていた。こいつを解析しているうちに分かったんだが……見ろ」
彼が端末を操作すると、新たなコードの断片が表示された。そこには”コレクティヴID: CHM-09”という識別番号が記されている。
「……CHMって、まさかキメラの識別コードか?」
スジュラが険しい表情を浮かべる。
「その通り。通常コレクティヴごとに識別コードが違うのは知ってるな? 俺たちの所属するコレクティヴは別のID体系を持っている。だが……この電子頭脳にはキメラのコレクティヴIDが登録されていたんだ」
「それの何がおかしい――」
と俺が聞くつもりだったが、気づく。
「ああ、そういうことだ。連中はコピーした機人の意識データをキメラの一員として認識させるための偽装コードを仕込んでいる」
レクスはさらにコードの一部を指差しながら続ける。
「このプログラムは、ネットワーク上で特定のコレクティヴに所属する機人同士が相互認証するプロトコルを利用している。普通なら、違うコレクティヴの機人がアクセスすれば弾かれる。だがこいつにはキメラのコレクティヴに属していると誤認させるための特別なシークエンスが埋め込まれていた」
「つまり、コイツを利用したらガワは大丈夫でも、中身が敵意を持って活動する機人を作り出せるってことか?」
タナクが聞くとレクスは頷く。
「そういうことだ。これを使えば、アルカディストは俺たちのコレクティヴに所属する機人の中身をキメラに変えたり、悪意あるプログラムを仕込ませた機人を使って、内部から情報を抜き取るのも容易いだろうな」
「……面倒な話になってきたな、くそ」
スジュラが深くため息をつく。
《厄介だね……つまり、アルカディストは我々の内部に入り込んでる可能性があるってことか》
「ただ失敗した形跡がある、興味深い事に……バグったキメラに見られる症状と同じプログラムだ」
「!」
俺はそこで息をのむ。
つまり……アガトでもたまに見かけるイカれたキメラは、アルカディストによるデータ改竄の影響の可能性が高い。
「……イカれたキメラの発生分布図とかないか?」
《至急、データを纏めるよ》
「助かるユアン」
スジュラも早速動き出している。ここに来てピースがハマりそうな感覚を覚えた俺だったが、まだわからないことはある。機人の意識データ改竄までして、中身を入れ替える目的は何なんのか……。それが全く検討つかなかった。
《しかし内部に……か》
「ユアン?」
《……いや何でもないさ、とりあえずは君らは独立派の動きを見つつ、リグラン3世と共闘体制を作り、一緒にアルカディストを追ってくれ。国王派はアルカディストを壊滅を掲げているから》
じゃあワタシからの話は終わりだと言って、ユアンは通信を切った。
「俺も引き続き調べる、ただ迂闊に他の連中に何を調べてるかは言うな」
「わかったよ、あと任務中に何か怪しいのあったらお前に調べてもらう」
「1万センティアな」
「金とんのかよ」
談笑するスジュラを他所に俺はベガと顔を見合わせる。
「とりあえず……前には進んでるのかな?」
「さぁな……でもバグったキメラの正体がわかったのは大きいだろ」
少しずつ進んでるといいなと思いつつ、俺は解析中の電子頭脳を睨む。前に進んでいるのか、それとも遠ざかっているのかは定かじゃない。しかし無駄にはなっていないなら、ちゃんと俺たちは正しい方へ進めているはずだ。
「とりあえずやれる事をやるしかない」
自分と仲間を信じる――それが最善なのだから。
* * *
王都ヘリス――その中心には王城グラン・カステルがある。
城の外壁は純白の大理石で覆われ、陽光を浴びるたびに輝きを放つ。四方には高くそびえる塔が配置され、最上部には王家の紋章を掲げた旗が風にはためいていた。
終末世界とは思えないほど、かつての人類の栄光が蘇ったような城の中、国の最高権力者が居座る荘厳な玉座の間に、重厚な沈黙が漂っていた。
「……」
リグラン3世は窓辺に立ち、王城の外に広がるヘリスの街を静かに見下ろしていた。鋭い青灰色の瞳が捉えていたのは石畳の道、高くそびえる尖塔、交差する路地の向こうに広がる市場の活気。国王の視線は、その賑わいの奥にある見えざる不安を探るように彷徨っている。
背後で、親衛隊の騎士が一礼し、低く報告の声を上げた。
「陛下、ユアン様より通信がございました。アルカディスト討伐に向け、協力体制を強化すべく、新たな人員を迎え入れる事は出来ないか……との事です」
「新たな人員……?」
リグラン3世はゆっくりと振り返り、騎士を見据えた。
「はっ。現在ユアン様の推薦により、アルタ、ベガ、スジュラ、タナクを作戦に正式に組み込むべく、陛下のご裁可を仰ぎたいと」
「昨日王都に避難してきた者達か……」
リグラン3世は静かに思案するように顎に手を添えた。ユアンが動かすということは、彼らは並の者ではないのだろう。確かに、アルカディストの脅威は増しており、少しでも有力な戦力を加えるのは理に適っている。
「……使いの者を準備しろ。彼らとの面会の機会を設けよう」
「かしこまりました」
騎士が恭しく一礼し、玉座の間を後にする。
再び窓の外に目を向けながら、リグラン3世は息を吐いた。
「機人と共に歩む王として、私の選択が正しいのか……」
この国は、王族と機人との関係を巡り、内側から裂かれつつある。独立派は機人との共存を否定し、新たな国家の在り方を模索している。しかし、機人の技術を無視してこの国の発展はありえない。
歴代の王は、機人たちと共に王国を築き上げてきた。だが、その積み重ねは今、他ならぬ人民によって否定されかけている。
「……この作戦で、国王としての成果を民に示さねばならぬ……」
城塞都市ヘリスの街並みを見下ろしながら、リグランは静かに決意を固めた。