人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた 作:アスピラント
後日――リリアの自宅に残されていた証拠は、義勇団の手に渡ると早速調査が行われた。彼女の自宅にあったのは王都ヘリスにて潜伏しているアルカディストのメンバーの名簿、隠し通信の記録、そして地下活動拠点の詳細な位置情報など多岐にわたり、サングラール王国全土に散らばる闇の網を暴き出していた。
王都から各地へと急報が発せられると、義勇団はただちに摘発に乗り出した。その動きは迅速かつ容赦がなく、王国の隅々まで捜索が行われる。
「――行くぞ! 突入!」
俺とベガも、レジールたちと共にその最前線に立っていた。
「くそ、義勇団どもめ!」
「応戦しろ!!」
アジトに突入するやいなや、飛び交うのは鉛で出来た弾と光の弾丸だ。俺は事前にもらったエネルギーシールドジェネレーター搭載型のガントレットを構えて弾を受け止めると、すぐ後ろにいたベガが跳躍する。
「ハァ!!」
「――!?」
光弾をものともせずに突っ込んだベガは、敵の最前列にいた集団を蹴り飛ばし、エグゾスケルトンすら破壊する拳を叩きつけて吹き飛ばしていく。
「ベガに獲物取られる訳にはいかないな」
「アタシらだって戦士だって証明しなきゃなぁ!!」
続いてスジュラとタナクが突っ込み、アルカディストの構成員を次々と無力化していく。正直言ってこの三体が前線に出れば、小規模のアジトなんざあっという間に制圧が出来る。
「俺たちの出番が無くなる勢いだな……」
「ですねぇ、同じ機人でも……性能差が違いすぎてため息しか出ないわ」
その活躍ぶりを見て、レジールもニンバスもため息を吐くばかり。一見すると……このままなら余裕でアルカディストを制圧しきって、大団円といきそうではあるが……実際の所、俺たちにそんな時間的な猶予はなかった。
――それから1時間もしないうちに制圧した俺たちは、アジトにあった資料を回収していく。だが……そもそもの物量は少なく、大したものはない。
「――ダメだ、ここは1拠点のひとつだけど……重要拠点じゃないな」
「後で念入りには調べますが」
「わかった、ご苦労様」
レジールが義勇団の団員を労わるが、その表情に余裕はない。無理もない、なんせアルカディストの計画がどんなものかはっきりしてないまま、時間が過ぎているからだ。
* * *
「建国記念日に……王国は生まれ変わる? リリアがそう言っていたのか?」
「ああ」
リリアは捕まえたその日、俺はレジール達と機人の仲間たちに彼女が話していた事を共有した。建国記念日に何かをするつもりだと俺が教えた瞬間、レジールは顎に手をやりながら考える。
「建国記念日は丁度今から2週間後だな、毎年サングラール王国で執り行われる祭りだ」
「結構大規模な祭りなのか?」
「国を挙げての催し物だからね、国民のほとんどは参加するって言ってもいい」
レジールとニンバスも、毎年この日は楽しみにしているらしく、義勇団も警備の仕事をしつつも、市民と一緒に楽しむのが慣例らしい。
「確かにそれなら機人も人も集まっている、何かを仕掛けるなら良い機会だが……」
「義勇団だけじゃなくハンターと将軍配下の兵士もいる。わざわざアルカディストが襲撃を仕掛けても、撃退出来るぐらいの戦力は集まってるぞ」
独立派が全員反旗を翻しても、機人の戦力とかち合えば無事では済まない。まぁ単純な総攻撃なら、ユアンに救援を依頼して固めるのもひとつの手だが……。
「正直総攻撃ってだけじゃ、生まれ変わるなんて言い方するかね。わかりやすいならいいんだが……」
「ボクも……なんかそんな単純な内容じゃない気がする」
仰々しい名前に不安になった俺たちは、とりあえずリリアを尋問することにした。奴から情報を抜き出せば何とかなる――しかし彼女の胆力は、俺たちの想像を超えていた。
「――いくら……尋問しても、私は絶対に言わないわ」
レジールたち義勇団と、俺たちはリリアをひたすらに尋問にかけた。意識が微睡む薬を投与し、判断力を鈍らせようとしてもリリアは何ひとつ答えない。
「答えれば恩赦を与えると言ってもか」
「私は喋らない、部屋にあるもので色々わかったでしょ? それで我慢しなさい」
圧倒的なまでの精神力……いや何かしらの対策をされているのか定かではないが、彼女は何も話さなかったのだ。
「俺がもっと聞き出せば……!」
気持ちを焦らすことなく、こいつの誘いに乗じて素直にアルカディストに入り込むぐらいのことはすべきだった。もう少し俺が上手く出来ていればと悔やむ。
「アルタ、お前は良くやってくれていた。君がそこまで責任を感じる必要はない」
「……レジール」
「ああ、実際拠点の幾つかはわかりそうだしね」
ニンバスと一緒にレジールは俺を励ましてくれる。
だがリリアはそんな俺を見て、嘲笑うばかり。
「ふふふ、そうよアル。どの道……もしあの日に床を共にしたとしても、そんなにすぐ詳細を教えたりはしなかったわ」
「……こいつ」
ベガは殺気を隠そうとせずに睨むが、リリアは涼しい顔をしていた。
「せいぜい何が起きるのか……震えながら待つといいわ。どの道それが起これば……いくら戦力があっても我々の勝ちは揺るがない」
「なら……実行される前に潰すだけだ」
腹立つ笑みを浮かべるリリアを尻目に、俺たちと義勇団は早速行動を開始した。それが今に至るまでの顛末だ。
* * *
《――それで有力な情報はリリアの自宅にはなかったと》
「ああ……」
「あまり収穫はなかったかな……」
リリアの自宅にあった情報を元に、アルカディストの拠点の1つを潰して王都に戻った俺たちは、ユアンに経緯を説明していた。レジールとニンバス含めた義勇団は今ここにはいない。彼らが実は敵という可能性は低いが、念には念を入れての対応だった。
「なぁ、ユアンもやっぱり総攻撃だと思うか?」
スジュラはソファに寝転がりながら聞く。
リラックスはしているが、表情は浮かないままだった。
《まぁ恐らくはそうだろう、アルカディストの計画の最終段階が人類の復興ならば、サングラール王国から支配を広げていくのは他の国を攻めるよりかは楽だろう》
「独立派がいるから?」
《そうだよベガ、王国軍の全てが独立派ではなくとも……アンドロス将軍は機人に対して嫌悪感を抱いている。アルカディストは恐らく彼を主軸に国を再編したいと考えるだろう》
生まれ変わるというニュアンスに捉われていたが、確かにアンドロスが国の支配者になれば、サングラール王国はこれまでと違う国になる。
つまりクーデターに近いことを、彼らは考えている――あくまでも推測ではあるが。
「問題は手段だな、アルカディストがどうやって国を落とすか……」
《この手段を崩せば勝ちだろうね、ただ……現時点で向こうが切れるカードは少ない。今ある兵器だけで王国を落とすのは容易くない。エリュシオンの戦士がいたとしても》
「その根拠は?」
エリュシオンの戦士……強さがわからない以上、もしかしてそいつらを主軸に添えた攻撃かと考えた。第一……リリアは御使という言葉を使っていた。これが一番俺の中で有力だと考えてさえいたが、ユアンは違う意見を持っていた。
《考えてみな、確かにエリュシオンの戦士の中には恐るべき強さを持つ戦士はいる。だけどもしそいつらが関与してるなら、こんな回りくどい手段を使うかい?》
「……あ、強い奴ならもう最初から潰しにかかるよね」
《ベガの言う通りさ、エリュシオンの戦士は恐らく……斥候であり、派遣された人数は非常に少ない。恐らく……特定の部隊が独自に動いている》
ベガは俺を見るなりドヤ顔してきた。
確かにベガは冴えている。何というか……かなり理知的になってきている。以前はもうちょっと幼さみたいなのがあったが、何だか大人っぽくすらなっていた。
「じゃあ盤上をひっくり返すような戦力って……」
《……アルカディストは何をしてきた?》
「あ……」
俺はユアンに言われて気づいた――キメラだ。
「「キメラを操って襲撃か!!」」
俺は勢いよく立ち上がって叫ぶように言った。
ベガと一緒に。
「「あ……」」
「なるほどなぁ、キメラか。確かにこの世界じゃ機械の力がでかい。そいつらを大量に操れば!」
「サングラール王国も陥落する……なるほど。ユアン……いつ気づいた」
《リリアの発言かな? うまく隠してるけど……これまでの奴らの被害を見れば、そう難しくはない。だけど……可能性の話だからね。もしかしたら超兵器を持ってるかもしれないよ》
「だったら最初から使うだろ」
やっと点が繋がった気がした気持ちよさ以上に、俺はユアンに畏怖の念すら抱いた。限られた情報で良くそんな簡単に結論に至れるなぁと、感心すらしていた。
《だけど……国を落とすぐらいキメラが必要になると考えたら、これまでみたいにキメラ1体につき、機人1体は割に合わない。調整だって必要だ。ワタシがわからないのは……大量にキメラをどうやって操るか……だ》
「あ、そうか……沢山機人を攫わないといけないもんね」
ベガはキョトンとした様子で言った。
確かに……どうやって沢山の機人を操ればいいのか、想像がつかなかった。
「一気に機人を操る手段かぁ〜……わからん! タナクとアタシは頭つかわねぇから、さっぱりだわ」
「俺を巻き込むなスジュラ」
「じゃあわかんのか!」
「わからん」
「わからねぇじゃねえかよ!!」
2人はもう既にお手上げだ。
戦闘時は頼もしいのに、今や単なる賑やかし担当に成り下がってしまっている。
《残り13日しかないが……とりあえず焦っても致し方あるまい。君らは連日駆り出されていただろ?》
「ああ……そうだな……」
体力はあるが、確かに連日俺たちは動いてばかりだった。それでも時間的猶予とか意識しなくてよかったから、大して疲れた認識はなかったものの、今になって気持ち的にも焦りが出て、休まる瞬間がなかった。
《少し息も挟むんだ、その方が後になって閃いたりするから》
だから俺たちは一旦ユアンの言葉に甘えて、少し何も考えずに休む事にした。起きたら全部解決してないかなと、都合の良い事を考えながら。
* * *
「王都を周りたいだなんて、まさかベガがそんな事を言うとはなぁ」
「そんなに意外だった、かな?」
「いつもアルタにべったりだから、なんか外に関心ないイメージだったわ」
ユアンから自由時間をもらい、ボクはスジュラと王都を巡っていた。アルタは仮眠すると言って寝てしまったが、ボクは疲れてはいなかったから、とりあえずせっかく違う国に来たなら、観光みたいなことをしたいなと思って、スジュラを誘った。
そしたらこの一言だ。
ボクはそんな閉鎖的な機人に思われていたらしい。
「ボクだって色々冒険して、外の世界を知りたいって気持ちはあるよっ」
「そういやお前らって、本当はこれから旅に出るつもりだったのが襲撃受けたんだっけ」
「うん……最初から出る予定ではあったよ……」
本来ならアイラとノラが一人前の狩人になったのを祝ってから、アルタの両親と自らの出自を突き止める旅に出るつもりだった。だけどそこに横槍が入って……ボク達は今戦いの渦中にいる。
「……やっぱり平和に旅したかったか?」
「んー……でもボクもアルタもさ、多分色々な人達の陰謀が絡んでいるから、平和は難しかったんじゃないかなー」
スジュラは申し訳なさそうにみてくるが、彼女が申し訳なく思う必要なんて一切ない。だってこれはボク達自身が選んだ道なのだから。
「万が一アガトに何も起こらなかったとしても、近いうちに自ら厄介ごとには首突っ込んでいたし、気にしなくていいよスジュラ。はい」
「おっと……さんきゅ」
そしてボクは屋台で買った焼き物をスジュラに渡す。
とりあえず今は食べるなり、楽しく喋るなりして、重荷から解き放たれて良い時間だ。
「むしろ早い段階でスジュラ達に会えたのは、すごく運が良かった事って考えているぐらいだよ」
「……ははは、言ってくれるねぇ……」
「わぷ」
そう言うとスジュラは嬉しそうにボクの頭をワシワシを撫で回す。アルタもそうだけど、皆ボクの頭を撫でるの本当に好きだなぁって思う。子供っぽく見られているのかな、体は大人なのに……。
「よし、んじゃ今日はアタシが奢ってやる」
「本当っ!?」
「ああ、なんてたってベガはアタシの大事な後輩だからな! それぐらいはお安いご用さ」
スジュラはニカっと笑って、引き続きボクの頭を撫でる。むず痒いけど……すごく心地良くて、ついつい身を預けてしまいたくなりそうだった。
「お……」
「ん? どうしたの? スジュラ」
そんな時、スジュラは何かに気づいた。
ボクは彼女の視線の先へと向くと――食材が並ぶ屋台の前で、何やら難しい顔をして悩むアリスタさんの姿があった。
「アリスタさん」
「ん……? あら……スジュラさんとベガさん、どうも」
相変わらず柔和な笑みを浮かべるアリスタさんは、淑女みたいな雰囲気を出していた。すごい清涼剤みたいな機人だなぁとボクは思っていた。
「お買い物ですか?」
「はい、あとは式服を取りに行ってましたの」
「式服?」
何かあるのだろうかと聞くと、アリスタさんは「ああ……この国を訪れたのは初めてでしたね」と妙に納得したような様子。
「もう少しで建国記念のパレードが行われるのは知っていますか?」
「あー……一応は。つい最近知りました」
建国記念日――今のボク達にとって、X-DAY的な意味合いのある単語だ。
「実は私、毎年歌を歌わせていただいているのよ」
「歌! 意外ですね」
「私のコレクティヴは……他の機械と心を通わせて、人と機械が歪み合う事なく寄り添う事を目的としている。私以外の子も……本当なら一緒になって、記念日は歌うのだけどね……」
そう言ってアリスタさんは目を伏せる。
攫われた機人……確か他のコレクティヴに所属しているキメラとも意思疎通が出来るという話だった。
「……キメラと心を通わすんですか?」
「ええ、そうよ。歌を通じて……催し物をするのが通例なの」
ボクの中で……何かがつながりそうだった。
「だいたい……例年だと何体ぐらいと?」
「以前なら4〜500体ほど、今は……私だけなので100体前後にはなるでしょうが……」
「100体……」
そこからはもうボクは脊椎反射の如く、アリスタさんに詰め寄る。
「アリスタさん、あの! こないだボク達が発見したジェミナさんはまだご自宅にいますか?」
「え、ええ……亡くなった機人はミトラで供養するのが通例なのですが、まだ彼女は保管していますよ」
「おいどうしたベガ、急に」
急にボクが興奮したのを見て、スジュラは困惑していたけど……これは大事なことだ。
「スジュラ、レクスにも声かけて。どうしても確かめたいことがあるの」
これは敵の作戦の全貌が分かるかもしれないという、非常に大事な局面だからだ。
* * *
「――ルタ、アルタ!」
「ん?」
久々に夢すら見ずに、深い眠りについていた俺に、焦ったようなベガの声が呼びかける。俺は微睡ながらも目を覚ますと、ベガだけじゃなくスジュラとタナク……更には何故かアリスタさんもいた。
「どうした……?」
「今からレクスのところ行くよ」
「え?」
「もしかしたら……奴らの計画がはっきりするかもしれないから!」
ぐいぐいとベガに腕を引っ張られた俺は、とりあえず急いで身なりを整えてから、一緒にレクスの店に向かう。一体何があったのかは分からなくても、計画について進展があったと聞いてからはシャキッとし始めた。
「――今アルタも連れてきたよ、レクス!」
「おう」
店内に駆け込むとレクスと、以前に俺たちが発見した女機人のボディが、台座の上で寝そべっていた。頭にはリング状の機械が取り付けられており、何か作業を行っていた。
「一体……何故この機人を?」
「その前に……ボクが色々説明する」
するとベガが口を開いた。
「アルカディストが……キメラを操って攻撃を仕掛けてくる可能性がある所までは分かるよね」
「ああ、だけど……一度に沢山のキメラを操るでもしないとサングラール王国を陥落させるのは難しいって……」
「そう、だから……アルカディストはどうやって沢山のキメラを操るのか……わからなかった。けどその方法がわかったんだ」
ベガはアリスタさんの方を見る。
「アリスタさんが……操れるのか?」
「あ、操るというほどではないですが……実際に私はこれまでキメラと意思疎通はとってきました。コーラス・アコンプリ所属の機人に備わった機能です」
《なるほどねぇ、合点がいったよ》
「「「!!」」」
するといきなり俺のオムニバンドが勝手に起動し、ユアンのホログラムが映し出された。ちょっといきなりすぎてびっくりしたが、それ好き勝手に出来るなら……プライバシーとか色々不安になるレベルだぞ。
《連中はどこからかコーラス・アコンプリの特異性に目をつけた。他のコレクティヴに所属しているキメラのシステムに干渉し、意思を伝達して思うがままにする機能は、少なくともこの地域では彼ら以外にいない。そこで本当に操れるかを……実際にアリスタさんの友人を攫って確かめた……》
「んでそれが可能だった、なおかつキメラ自身に内蔵された自己認識すら書き換えるコードを組み合わせて使えば……沢山操れる」
レクスは忌々しそうに呟いた。
俺はふと想像してしまった――沢山の暴走するキメラによって蹂躙されるサングラール王国の姿を。
「おい待て、アタシはまだ追いついてないが……もしアリスタさんが奴らに捕まって……利用されたらやべぇんじゃないのか」
「……だから建国記念日が必要だったんだ、催し物で……沢山の人も集まるし、キメラに干渉出来る一番の機会だから」
「なんてこった……くそ、じゃあアリスタさんを見張らなきゃな」
彼女の身に何かが起きてからじゃ遅い。
これからはアリスタさんにベッタリつく勢いで守らないとと、俺が言うとベガが答えた。
「でもどこの誰が狙ってくるかを、ずっと見張るのは中々しんどい。建国記念日を中止でもすれば良いかもしれないけど……相手に勘づかれたら逃げられる」
「じゃあ……囮にする気か?」
らしくない作戦だなと、俺は少し戒めるような視線をベガに向ける。やり方としては手っ取り早いかもしれないが、アリスタさんを危険な目に合わせるような作戦は、正直言ってリスクが高いし、彼女だって怖いはずだ。
しかしベガは首を横に振った。
「いや……違う、アリスタさん……当日護衛につく人がいるんだけど、王国の兵士らしいんだ。だから……もしかしたら記録の中に関わりの人が映ってるかもしれないんだよ」
俺は思わず息を飲む。
「んで本題に戻る、今から俺はキメラのメモリーにあった機人の意識データから記憶を抜き取り、それを元のボディに戻してから映像として抽出してる」
「……もし見覚えのある人がいれば、計画の全容を知ってる奴に近い立ち位置だと思う」
そしてレクスが作業しながら言った。
眠るようにして横たわる女の機人の頭を開き、内部機構を慎重に弄りながら、レクスは眼前のホログラムを注視する。
「よし……これで……どうだ」
レクスがカチリと何かのスイッチを押すと、若干ノイズ混じりになった音声と、画質の粗い映像が空間に表示された。
〈やめて……! 何する気なの! 貴方達!〉
「……ジェミナ……!」
女の声が聞こえてくると、アリスタは口に手を押さえて言った。ベガは彼女に駆け寄ると「きつかったら、この部屋から出た方がいい」と言う。確かにここから先は中々ショッキングな映像が流れてもおかしくはない。
「やめるか?」
レクスも気遣って映像を止める。
何せ俺でさえ声を聞いて、生々しすぎて顔を顰めるほどだ。当事者からしたら傷を抉りかねない記録を、聞くのはかなりきついはずだ。
「いえ……」
しかしアリスタさんは首を横にふり、大丈夫だと言って気丈に振る舞う。
「気を遣ってくれてありがとう……ベガさん、でも大丈夫……せめて何があったかは知りたいのです。彼女の無念に……応えないと」
「……わかりました、でも……無理だけはダメ」
「ええ……ありがとう」
レクスは静かに頷くとまた記録を再生する。
〈何……お前たち鉄クズを人類のために役立てるだけだ〉
〈貴方達……アルカディストね! 私たちだけじゃなく、従わない人間も殺す悪党!〉
映像の場所はおそらく洞穴の中だ。
松明の明かりと、雑に置かれた武器や機械、赤い外套を着た男たちが屯っている。しかし何人かは仮面を外しており、その狂気に陥った顔を晒していた。
〈悪党とはよく言ったものだ、人類の文明を破壊して、大量虐殺をしてきたのは機械側だと言うのに〉
〈だからといって私たち全員が殺戮者とでも? そんなわけないでしょ! 私たちはただ……人と寄り添って生きてきただけなのに!〉
なんとも噛み合わないやり取りが続く。
アルカディストは機人を嘲笑うように話していた。
〈寄り添う? 機械はあるべき姿に戻るべきだ、生命体などという高尚なものじゃなく、人間の指示通りに動く道具へとな〉
そして視界に、映し出されたのは強面の男だ。
中々体格に優れており、戦士としての経験を積んでいそうな雰囲気すらある。それを見ていたアリスタさんは、大きく目を見開く。
「……この方……知っています」
「本当ですか」
「……建国記念日に、私の護衛を務めてくださるガードの方です……! 確か王国軍に所属しているケインさんという方です」
「こいつの面は俺も見たことある、将軍のガードもやってるぜ」
アリスタとレクスの一言にユアンは決まりだねと呟く。
ならば話は早い。
《独立派に近しい立場かもね、リグラン陛下には私から話を通して……アンドロス将軍と近しい立場が誘拐に関与していると伝えよう》
「「了解」」
敵の尻尾を捕まえて、表舞台に引き摺り下ろす時が来たのだ。
* * *
それから数時間後――リグラン三世の命によって、アンドロス将軍とその側近たち、そしてケインを含む数名が、何の説明もないまま一室に集められた。
その部屋は、王宮の奥深くに位置する厚い石壁に囲まれた会議室。高い天井から垂れ下がるシャンデリアが、重々しい光を放っている。だがその華やかさとは裏腹に、室内の空気は異様なまでに張り詰めていた。
「一体……我々を呼び寄せた理由は何ですか? 陛下」
「まだ答えられぬ、少し待て」
「……」
集められた者たちは皆、不穏な沈黙の意味を感じ取っている。しかしその緊張の核心に触れる者はいなかった。
やがて、重い扉がゆっくりと開く音が響く。
「失礼します」
義勇団団長のレジールが、まるで空気そのものを切り裂くかのように、静かに歩を進めた。その後ろに控えるのは、精鋭たち。鎧に身を包んだニンバスを筆頭に義勇団の団員達が一歩踏み出し、無言のまま出口を塞ぐように立つ。
場の空気がさらに緊迫したものへと変わる中、リグラン三世は一言も発さず、ただ冷ややかな視線を集められた者たちへと向けている。
その沈黙を破ったのは、レジールだった。
「……将軍、単刀直入に問おう」
その声は低く、だが威圧感に満ちていた。
「アルカディストと、何らかの繋がりを持っている者がいます。それも貴方に近しい立場の者が」
静寂が一瞬にして破られ、重苦しい緊張が爆発する。
アンドロス将軍は、まるで聞き間違いでもしたかのように目を見開き、低く短く息を吐いた。
「……何を言っている。私の配下があの狂信者どもと繋がりがあるとでも? 冗談はよせ……確かに機人には私個人的な意見としては、好ましくは思っていない。だが……だからといって殺害までするような愚行はしない」
その言葉には、確かな怒りと侮辱されたという強烈な感情がにじんでいた。
「ったくくだらない妄言を言うようになったな、義勇団は!」
隣に立つケインもまた、険しい表情で一歩前に出る。
「あの集団と思想が近い、なんて戯言を根拠に呼び出したわけじゃあるまい。……侮辱も甚だしい!」
「我らを蛮族と一緒にするな」
案の定……アンドロス将軍を含めた独立派の反論は強く、確固たる自信に満ちている。だがそれも長くは続かないのは目に見えていた。
「証拠も無しに呼ぶわけないだろ」
俺は吐き捨てるように言ってベガに合図する。
「……犠牲になった機人が遺してくれたの、非道な犯人の姿をね」
「何……」
そう言ったのはケインだった。
ベガは躊躇なく部屋に映像を流した。
〈――やめて、貴方達は――〉
部屋の中央に浮かび上がるのは、例の記憶映像。不明瞭だったノイズ混じりの映像が次第に鮮明さを増し、暗い洞窟の内部が映し出される。赤い外套をまとった男たちの姿、その場に広がる冷たい狂気。
そして――その中に、ケインの姿が、はっきりと映し出された。
〈お前たち鉄クズを人類のために役立てるだけだ〉
その声、その表情。間違いなくケイン本人だった。映像の中で彼は、あの冷酷な言葉を平然と吐き捨てていた。
「「な……」」
空気が、一瞬で凍りつく。
あのアンドロス将軍までもが絶句する。彼の目は見開かれ、疑念と動揺、そして信じたくないという感情が複雑に入り混じっている。
「……ケイン、これはどういうことだ?」
将軍は虚しげに問いかける。
本当に知らなかったのか、動揺で瞳が揺れているのが印象的だった。
「違う!!」
だが、ケインはその視線から逃れるように顔を背け、絞り出すように声を発する。
「お、俺じゃない! そんなはずがない、捏造だ! 偽物だ……!」
いくら言っても無駄だ。
すでに言い訳が通用しないのは明らかだ。
本人が一番それを理解している。
「おのれ!!」
「!」
ケインは一瞬で懐に手を伸ばす。
手の先には黒色に鈍く光る拳銃があった――そう認識した瞬間、俺は真っ先に動き出した。
「甘いんだよ!!」
ケインがブラスターを引き抜くよりも速く、俺は手を鋭く振り下ろす。すると金属音が甲高く響き、ブラスターは床を滑って遠くへ転がる。
「おら!!」
そのまま俺は、ケインの右腕を極め、背中から押さえつけるように床に叩き伏せた。
「ぐあっ――!」
重く鈍い音が響く。
ケインは抵抗する間もなく、完全に無力化された。
「抵抗なんて無駄だ」
「く……そ!」
もはや何の反論も返せなかったケインは、ただ憎々しげに俺を睨むしかできない。するとレジールが一歩前に進み、淡々と命じる。
「……諦めろ、すべてを話してもらうからな」
「通信記録も全部見させてもらうよ」
義勇団の隊員たちが、ケインを無理矢理彼の顔は絶望に染まり、もはや往生際の悪い言い訳すらできなかった。
その様子を、アンドロス将軍はただ呆然と見つめていた。
「……ケイン……お前……なぜだ……」
裏切られた将軍の言葉は、重く、そして悲痛だった。
沈黙が再び部屋を支配する。
「アンドロス将軍……貴方にも話を聞かせてもらう。彼の立ち位置は非常に貴方と近い。協力出来るかね?」
リグラン3世は将軍の肩に手を置くと、優しく問う。
アンドロス将軍はただゆっくり頷く事しか出来なかった。
「……ねぇ、将軍はアルカディストとは無関係なのかな?」
確かに反応を見る限りは……そう見える。
俺はてっきりこいつが裏切ってもおかしくないと考えていたが……。
「わからねぇ……ただ利用はされてそうだな」
ひっそりと耳打ちしてきたベガだが、俺も意外というのが正直な感想だった。ただ立ち位置的に目立つ彼は、明確な裏切り者というよりかは隠れ蓑に適しているかもしれない。
「葉を隠すなら森の中……か」
「アルタ?」
「いや……何でもない」
何にせよ、俺達はこのチャンスを逃すわけにはいかない。
レジール達や陛下にも無理を承知で頼み込んだ俺は、ベガとスジュラ、タナクと一緒にケインの使っていた兵舎へ向かった。
「――うひゃー、こりゃ大量そうだな」
「探すのも大変そうだ」
スジュラはまず部屋に入って第一声、参ったような声を出す。リリアの時とは違って……専門的な機械もある上に、あの時は、ただの足がかりにすぎない断片的な手がかりだった。だが今回は違う――ケイン本人がアルカディストの中心に深く関わっていた以上、ここに残された情報も桁違いのはずだ。
「執務室はここか」
兵舎の一角、ケイン専用の執務室。壁際に設置された端末、無造作に置かれた書類、そしてロックされた金庫。そのすべてが、どこか冷たい無機質さを漂わせている。
「徹底的に洗うぞ」
レジールの命令のもと、義勇団の隊員たちが迅速に動き始めた。俺たちも手分けして情報を探る。
スジュラは、資料棚から山のような書類を引きずり出し、タナクは床を這うようにして隠し場所を探す。一方ベガは黙々と端末を取り出していく。
「端末のロックって……」
「ああ、アタシが専用のロック解除のデバイスを使うよ」
ベガから端末を受け取ったニンバスは、差し込み口にUSBのような機器を取り付ける。するとパスコードが無力化されて、秘められた中身を呆気なく晒した。
「さて……と、どんなものが――ん?」
ニンバスは何回もタップしていくと、何かの資料に目が止まったようだ。
「どうした?」
俺が問いかけると、ニンバスは画面をじっと見つめたまま、眉をひそめた。
「この端末……数時間前に通信を受けてる」
「通信?」
「そう、それもただの通信じゃない。暗号化されてる」
「……どうにか出来るか?」
「ふふ、すでに接続してるこの機器があれば……容易いから心配なし!」
するとニンバスは素早くデバイスを操作し、指先が画面を滑るたびに複雑なコードが解除されていく。彼女の手際の良さは見事なもので、難解な暗号も次々に解読されていく。
「よし、解除完了。発信源を特定できた」
画面に表示された座標を指さすニンバス。
「んー……ここから数十キロ離れた山岳地帯からだ。名前はアインヘル研究施設、クリプト500……聞き馴染みないな……」
「何だその場所――」
俺が呟いたその時だった。
《ちょっと見せてくれるかい?》
「ユアン……?」
《少し嫌な予感がしてね、アルタ……場所のデータを》
「あ、ああ……」
ただならぬ予感に俺は渋々データをオムニバンドに移し、ユアンへと送る。
《……まさかまだ動くのか、この施設》
「どんな場所なんだ」
《ざっくり言うと、機人すら生まれる前……人類と機械の争いが始まった初期にね、人類は連合軍を立ち上げて……対マシン用に世界中にいくつも研究施設を作った。もう3000年以上前の古代遺跡みたいな場所さ》
「……兵器開発とかしていた場所か」
《今となってはどんな研究をしていたかはわからない。少なくとも……まともな研究じゃないのは確かだが》
つまり……示された場所にあるのは、大昔の人類が極秘の研究をしていた秘密の施設だ。何があるかわからない場所から、アルカディストに対してメッセージを送っている奴がいる。
「アルタ……どうする?」
ベガは心配そうに問う。
罠かもしれない、何が待ち受けているかユアンすらわからない場所に行くのは、あまりにもリスクが高い。だけど……それ以上に俺達には成さねばならないことがある。
それはこのアルカディストの陰謀を食い止め、アガトの仇を討つことだ。
「勿論……行くに決まってる」
喜んで飛び込もうじゃないか――旧人類の遺した研究施設へと。
高評価、感想あるとすごく嬉しいです。
非常に大きなモチベになるので。