人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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旧人類の遺跡にて

 夜――不気味なまでの静けさに満ちた荒野を、車両が駆けていく。反重力機構によって地面から少し浮いて走っているおかげで、静かなまま高速移動出来る輸送車の中で、俺達は目的地であるアインヘル研究施設と呼ばれる、太古の人類が遺した研究施設へ向かっていた。

 

「アインヘル……という名前は、人の名前か?」

《ああ、かつて人類の歴史上において……とりわけ人と機械の戦争が起きた時代で名を馳せた科学者の名前だ》

 

 そんな中で俺は義勇団達といつもの仲間と共に、車内で装備の確認をしながらユアンと会話していた。今回の作戦は、いつもとは一味違った空気が流れていた。ユアンと会話しているというのもあるが、向かう場所が場所だけに、緊張感が漂っていたのだ。

 

《人と機械の間に起きた戦争の歴史は長い。今の世界に至るまでの過程で……数々の対立があった。シンギュラリティ直後と100年以上が経って太陽系全域へと人類が進出した黄金時代、そして黄金時代末期から今に至るまでの間にも、数多くの人と機械が活躍した》

「アインヘルはいつの時代の人間なんだ?」

《黄金時代だ、少なくともワタシより昔の人だよ。詳細な記録……地球にはあまり残って無いんじゃないかな》

 

 科学者が遺した施設……名前だけ聞けば、ロマンに溢れた素敵な響きだ。だけど今に至っては違う。これから踏み込むのは敵の巣窟なのだ。

 

「ねぇユアン、そのアインヘル?って科学者はどうして有名になったの?」

《いい質問だね、ベガ》

 

 まるで先生と生徒だな。

 

《人類と機械の戦争が激化した時……いや正確に言えば勃発した時から人類は不利だった。機械は1秒にも満たない僅かな時間で進化し続けていき、技術や物量でも負けていた》

 

 それはそうだろうな。

 人類の知能を超えた人工知能が本気を出せば、きっと人類はすぐに滅ぼされる。それでも持ち堪えられていたのは、ある程度人類側も技術革新が進んでいたり、味方になってくれる人工知能もいたからだろう。

 

《だけど彼の登場により、人類の勢力は持ち直した。戦況を変える為に……彼は非人道的な事をした、と言い伝えられている》

「非人道的な事……?」

《詳細な内容は我々もわからない、ただ……彼こそが答えだと当時の人々はもてはやした》

 

 俺は何か気味の悪い何かを感じた。アルカディストのやってきた事や、彼らの思想から鑑みるに……きっと悍ましい内容だったに違いない。

 

「――っと」

 

 その瞬間――ガタンと車両が動きを止める。

 運転していた義勇団の男が後ろを振り返ると、俺達に向かって言った。

 

「着いた、ここからは徒歩になる」

 

 目的地付近に着いたようだ。

 

《ではワタシはここで通信を切るよ、くれぐれも……気をつけてくれ》

「ああ……」

 

 ユアンが通信を切り、俺はベガと共に車両を降りる。

 この時……何故かはわからないが、何かが待ち受けている予感があった。

 

 

         *   *   *

 

 

 発信源の山岳地帯付近は、予想通りゴツゴツとした岩場ばかりで、基地なり施設とかが全くありそうにない場所だった。見張りなどが居ればまだ良かったのだが、それも見当たらない。

 

「暗視ゴーグルで辺りを見たけど……野生動物以外に反応は無し」

「……ドローンによる索敵も……周りに人はいない」

 

 ニンバスとスジュラが辺りを確認してくれているが、やはり人はいない。キメラもいない……偽の情報をつかまされたかとすら思い始めたが、待ち伏せがいないんじゃ意味がない。

 

「発信源はもう少し……奥か」

「奥って……山に登る羽目になるぞ」

 

 タナクが信号を見ながらいう。

 確かにこのままだと登山まっしぐらだ。

 

「……うーん……」

「おいベガ、危ないぞ」

「……音が違う……」

「ん?」

「ここから……音が違って聞こえてくる」

 

 ベガはおもむろに岩場をウサギみたいにぴょんぴょん飛びながら、切り立った岩壁に耳を澄ませる。そうか……そういう事か。

 

「隠し扉か」

「うん……でもだいぶ分厚い金属製の扉があるみたい、音の響きが違う」

 

 コンコンとベガは拳を叩きながらそう言うベガ。

 レジールはランチャーを使って無理矢理開けるかと言うが、ベガは腕をぶんぶん回しながら、次の瞬間――

 

「フッ!!!」

 

 パァンと空気が弾ける速度を持った剛拳を岩壁にお見舞いした。すると轟音を立ててカモフラージュ代わりの岩が砕け、中にあった頑強な鋼鉄の扉が、凄まじい勢いで吹っ飛んでいった。

 

「やった!」

「やったじゃねえ!」

「あたっ」

 

 スジュラがベガの頭を軽く叩く。

 うん……これはもうステルスとか無理だな。俺はパラディオンを構えて、アルカディストが飛び込んで来るのを覚悟したが……。

 

「……だけど……何も反応がない」

「確かに」

 

 団員達を含めたほぼ全員が、あまりにも反応の無さにキョトンとしていた。怒号や警報の類いも何も聞こえない。ベガが無理矢理ぶっ飛ばした扉の奥に広がる仄暗い空間からは、ただ微かな風の音が聞こえるだけだ。

 

「……慎重に中へ進もう」

 

 レジールの言葉に俺達は黙って頷き、ゆっくりと歩を進める。

 

「何というか……不思議な空間だな」

「確かに……」

 

 暗闇に包まれた地下施設の内部は、静寂の中に微かな息遣いを感じさせた。慎重に足を進める俺たちの周囲には、老朽化した機器が無造作に放置され、金属の腐食臭が漂っている。壁に取り付けられたモニターは、ひび割れと埃に覆われ、何かが映る気配はない。かつてここで働いていた者たちは、どんな想いでこの場所を去ったのか。

 

 ――ギィ……。

 

「おっと……わりぃ」

 

 スジュラが床に落ちた錆びたプレートを踏み、わずかな音が響くと彼女は少し謝る。まぁ……ここまで老朽化していたら無理もない。

 

「……これは……?」

 

 壁に残された掠れたマークに、俺は思わず手を伸ばした。軍隊のものだろうか? いや、それだけじゃない。ロゴマークの端には、判読不明の文字とともに、地球のような星が描かれたエンブレムがあった。風化が進みすぎていて、詳しく読み取ることはできないが、最後らへんだけはわかった。

 

 ――救世軍――

 

「救世……軍……」

 

 大層な名前だ。

 当時の状況が一体どんなものか分からないが、こんな名前にする辺り、凄惨な事になっていたのだろう。そんなの想像もしたくない。

 

「研究施設にしては……物々しいな、それに何を研究していたのかもわからない」

「大昔のものだからな……想像もつかないわ」

 

 ニンバスが小声で呟く。

 確かにこの雰囲気は単なる研究施設のものではない。どこか、もっと軍事的で……戦時下の空気を感じる。

 

「……この先に何かありそうだ」

 

 レジールが前方を指す。細い通路の先に、わずかに開けた空間があるようだった。俺たちは警戒しながら進み、その空間へと足を踏み入れる。

 

「広い……」

 

 天井は高く、壁際には巨大な機械が並んでいる。中央には円形のプラットフォームのようなものがあり、天井には崩れかけた照明が吊るされていた。しかし、肝心の部屋の用途は分からない。何のために作られたものなのか……。

 

「ここは……?」

 

 俺が言いかけた、その時だった。

 

  バチッ……バチッ……

 

 突如、部屋の隅にあった端末が淡く光を灯し、ホログラムの映像が空間に浮かび上がった。

 

「敵か!?」

「いや……違う」

 

 思わず俺含めた複数名が一斉に武器を構えたが、それは攻撃でも罠でもなかった。

 

《――記録はされているな?》

《はい》

 

 そこに現れたのは、痩せ細った体格の男を映し出したホログラムだった。肩まで伸びた乱れ気味の髪、深く落ち窪んだ目、額に刻まれた皺は彼が幾多の苦悩と研究の末に辿り着いた者であることを示していた。

 

 彼は長い白衣を纏い、片手には杖をついている。

 肉体的な衰えを感じさせるが、その目には異様な鋭さが宿っていた。

 

 そしてホログラムの映像には淡く――西暦2742年12月20日記録――と記載されていた。

 

 それが、今から遙か過去に記録されたものであることを示していた。

 

《……私はヨハン・アインヘル。統合適応型ニューラル認知システム工学の研究者であり、人類救世軍の兵器開発部門のトップを勤めている》

 

 男は低く静かな声でそう名乗った。

 

 統合適応型ニューラル認知システム工学――それがどんな分野なのか、俺にはよく分からないが、人工知能とニューラルネットワークを専門とする高度な学問であることは察せられた。

 

《これは、私が提唱する新たな戦略だ。今我々の文明は、シンギュラリティを迎えた後、破滅の道を辿りつつある。加速度的に進化する機械知性に対し、我々はあまりにも脆弱だった。人類が生存し、繁栄し続けるためには、従来の方法ではもはや不可能だ》

 

 アインヘルは杖を突きながら、ゆっくりと歩くように動く。ホログラムであるにもかかわらず、その所作は異様な存在感を放っていた。

 

《私はこの結論に至るまで、多くの計算とシミュレーションを重ねた。そして一つの真理を得た。人類が生存し、機械に対抗するために必要なのは――》

 

 一瞬、映像が僅かに乱れる。

 

《――人間そのもののアップグレードだ》

 

 人間のアップグレード――聞こえはいいが、何か背筋がヒヤリとするような感覚を覚えた。

 

《従来の兵器と戦略では、人類は到底勝てない。機械は1秒にも満たない間に自己最適化を繰り返し、進化し続ける。技術的にも物量的にも、人類は圧倒的に不利な状況にある。このままでは、いずれ人類は淘汰される》

 

 アインヘルの声は冷静そのものでありながら、確固たる確信に満ちていた。

 

《だからこそ、私は提唱する。人間を機械と同じ領域へ進化させなければならない。思考速度を機械に匹敵するレベルまで加速させる高密度神経増幅体――ニューラル・ハイパー・アクセラレーションの開発だ。機械と対等以上に戦える肉体強度を持たせるための遺伝子強化、および適応型人工筋繊維の移植。そして、個人で制御可能な戦略兵器の導入……》

 

 卓越した戦闘能力、強靭な肉体……。

 俺の脳裏には両親の姿が浮かんでいた。

 

《この技術を持つ者は、人類の新たな戦士となる。彼らは機械と互角以上に戦い、戦局を覆す力を持つ勇者となる》

 

 アインヘルは杖を握り締め、目を細めた。

 

《旧来の生物学的限界に囚われる必要はもうないのだ。我々は自らの手で進化しなければならない。機械に対抗できるのは、強化された人間だけだ。そして、選ばれた者が使う戦略兵器こそが、人類の切り札となる》

 

 ()()()()()

 それはつまり、生半可な強化ではなく、特定の条件を満たした者だけが扱えるものだということだろう。

 

《……そして、この理論と技術は、すでに実践されている。諸君……我々の研究成果をその目で見てみないか?》

 

 映像のアインヘルは、静かにこちらを見据えるように言った。過去のはずなのに……今いる俺たちに向かって言われているような気がした。

 

「皆」

 

 するとスジュラが鋭い眼差しをホログラムの向こうにむけた。

 

「何かあるぞ」

 

 スジュラの言葉に俺たちは反応し、ホログラムの映像を見つめながらも周囲を見回した。確かに、この部屋は広いが、まだ奥がある。レジールが先頭に立ち、慎重に進む。

 

「こっちだ……」

 

 壁の一部がわずかに開いているのが見えた。誰かが最近通った痕跡があるわけではないが、何かの仕掛けが働いたのかもしれない。俺たちは警戒をそのままに、隙間へと足を踏み入れた。

 

 暗闇の中、薄暗い青白い光がぼんやりと灯っている。天井から垂れ下がるケーブル、壁際に並ぶ制御端末、そして――中央に佇む奇妙なもの。

 

「……これは……」

 

 目の前にあったのは、機人とは違う、見たことのないロボットのボディだった。関節部分が無骨で、軍事用とも医療用ともつかない形状。そして、その傍らには、透明な溶液に満たされた複数のガラス容器が並んでいた。

 

「これ……脳か?」

「……そんな、まさか……」

 

 ニンバスが低く呟く。透明な液体の中に漂っているのは、有機的な組織――人間の脳だった。

 

「本物か?」

「多分……」

 

 いずれにせよただの標本ではない。

 微細な管が接続され、薄暗く脈打つ光が流れ込んでいる。

 

「……これは何だ?」

 

 俺の問いに誰も答えられる訳がなかった。ただこの場にいる全員が同じように不気味な感覚を覚えていたのは間違いない。

 

「まだ……電源が生きてる」

 

 レジールが古びた端末のスクリーンを指さす。画面には何かが表示されていたが、文字化けがひどく、ほとんど読めない。

 

「データがあるなら、閲覧出来るかもな」

「ちょっといじってみても?」

「まぁ……いいだろう」

 

 そう言うとベガは端末の前に立ち、ためらいなく操作を開始した。薄汚れたキーボードを叩くと、端末が低い電子音を鳴らし、ぼんやりと映像が浮かび上がる。

 

「トランセンデンス……?」

「何だそれ」

「いや……何か残っていたデータがこれだけ」

 

 ベガの隣に立って俺は画面を覗き込むと、ロードを開始した。

 

《……プロジェクト・トランセンデンス……》

《患者27-31……》

《神経同期率……67%……》

《適性……不十分……廃棄処分……》

 

 物々しい書き込みと共に、突如としてログが表示された。

 

 

          *   *   *

 

 

記録: 11178E2689$SS-0.113

件名: ログA-280

実験番号: 109 - 意識データ移植 - 試験15

ステータス: グリーン

個人情報: アレクセイ・ドラスケル、V・スタール、患者27-31

場所: クリプト500

 

[アレクセイ]

……よし、状況はどうだ。

 

[V・スタール]

移植プロセスは完了しました。ニューラルインターフェースの同期率は98.7%、生体信号の安定度は90%以上を維持しています。対象患者の意識はまだ若干の混濁がありますが、覚醒レベルとしては問題ない範囲です。

 

[アレクセイ]

意識の自律性は? フレームとの適応指数はどうなっている。

 

[V・スタール]

適応指数は0.87。基準値をクリアしていますが、通常よりもわずかに低めです。神経フィードバックに遅延は見られませんが、内部処理速度が通常より1.3%遅い……調整が必要かもしれません。

 

[アレクセイ]

ふむ……。被験者の応答確認に移ろう。……患者27、聞こえるか?

 

[患者27]

(数秒の沈黙の後、機械音声と混じった微かな声)……ここは……どこ……?

 

[V・スタール]

こちらは研究施設クリプト500です。あなたの意識は現在、新しいボディに移植されています。認識ははっきりしていますか?

 

[患者27]

(少し間を置いて)……ボディ? ……私は……?

 

[アレクセイ]

君の意識は今、人工の神経ネットワークに接続されている。思考プロセスに違和感は? 身体感覚は正常か?

 

[患者27]

(沈黙)……奇妙な……感じ……私の手? ……動く?(金属音が鳴る)……私は……

 

[V・スタール]

制御システムに異常は検知されていません。運動機能をゆっくり試してください。

 

[患者27]

(ぎこちなく手を動かし始める)……動く……ああ、私は……え? ……いや、違う……違う、これは……私じゃない……。

 

[アレクセイ]

強制安定化プロトコルを起動しろ。

 

[V・スタール]

了解。生体シグナルの変動が増大しています。意識レイヤーの再同期を試みま——

 

[患者27]

(急に声のトーンが変わる) ……いや、違う! これは……私の身体じゃない! こんなものじゃない! 返せ! 返せ!! ……お前は誰だ!? ……俺は……私は……私達は……!?

 

[アレクセイ]

……統合が崩れ始めたか。

 

[V・スタール]

脳波パターンが異常振動しています。異常波形検出、意識データが分裂を——

 

[患者27]

(声が複数重なったように響く) やめろ……! 私は……私じゃない……違う……うるさい! うるさい! うるさい!! うるさい!!!

 

[V・スタール]

警告、神経フィードバックが過剰反応しています! 意識同期が崩壊——

 

[患者27]

(唐突に金属を叩きつけるような音) これは私の身体じゃない……こんなもの……違う!! 壊さなきゃ……壊さなきゃ……壊さなきゃ!!

 

(激しい衝撃音、金属の軋む音、内部機構が破壊される音)

 

[アレクセイ]

緊急停止しろ! 神経リンクを切断しろ!!

 

[V・スタール]

ダメです、制御不能! 被験者が自壊を——

 

(音声ノイズ、電子音の断続的な破裂音)

 

[患者27]

(微かな声) ……間違い……だった……

 

(最後の衝撃音と共に、ログが強制終了)

 

【ログA-280: 終了】

 

 

           *   *   *

 

 

「――何、これ」

「わからん……」

 

 ベガと俺は言葉を失っていた。

 中に入っていたのは凄惨な実験記録だ。意識の移植……混乱……、それは()()()()()()()()

 

「……もしかして、俺は……」

「アルタ……?」

 

 俺は頭を抱える。

 もしかして……そうなのか。

 もし俺の予想が当たっていれば、色々な事に説明がつく。

 

「ベガ……」

 

 俺はその内容をベガに言おうとした瞬間だった。

 

「来たか、原住民ども」

「「!!」」

 

 上から悪意に満ちた女の声が聞こえてきた。

 俺たちは一斉に見上げると、そこには金髪の女が宙に浮かんで見下ろしていた。白と青のカラーリングのローブに、下にはさらにアンダーアーマーを着ているのか、首筋まで金属質の装具で覆われている。

 

 こいつには見覚えがあった。

 

「お前は誰だ」

 

 タナクは機械でできた長弓を構える。

 いつになく本気の殺意が目にこもっていた。

 

「私はティムル、まぁ……お前たち異端者の敵で、人類の味方だ」

「……何」

 

 自らをティムルと名乗る女はゆっくりと俺たちの前に降り立つ。楽園(エリュシオン)の戦士と見られる彼女は、側から見たら武器も何も持っていない丸腰の状態だ。

 

(なのに……何故かわかる。迂闊に飛び込めば――)

 

 ――わけもわからず死ぬ。

 

 それだけは確実にわかっていた。

 

「お前らか、ボクたちの住処を滅ぼすよう仕向けたのは……!」

 

 そしてベガも険しい表情を浮かべて2丁のブラスターハンドガンをティムルに突きつけて言った。

 

「こいつだアルタ、ボクたちの故郷の仇だ」

「わかってる、だけど冷静になれ……!」

 

 無策でここに来た訳がない。

 案の定ティムルは、ニヤリと笑ってから言った。

 

「いきなり飛び込むようなバカじゃないだけ、まだマシか……。ふふふ、まぁ結果は変わらないけど」

「てめぇはエリュシオンに所属している戦士だな? 何の目的でアルカディストをこき使ってやがる」

 

 スジュラはいつでも動けるように槍を手に持ちながら言った。

 

「知りたいか、そらそうか。でもまだ教えてやらないよ……その内にわかるさ」

「じゃあ無理矢理聞くって言ったらどうする?」

「まさか私を倒せるとでも? エクスマキナの機人如きに遅れなんか取らないよ……我々エリュシオンは」

 

 するとティムルは指を鳴らす――その瞬間、6本腕を持つ鋭利な牙を生え揃えた謎の生き物が現れた。何もない空間からいきなり現れたそいつらは、妙にテカリを帯びた黒い体表に、鋭い爪を持つ手足があった。

 

「何だこいつらは! 総員……戦闘体勢に移れ!」

「ニンバス!」

 

 キメラでもプーパでもなく……謎の生体兵器の登場に、ニンバスと団員たちはレジールの忠告を無視して、銃を構え出す。

 

「また妙なオモチャを作りやがったな、てめぇら……」

「最近出来たんだ、試運転に君らはちょうどいい」

 

 そしてティムルは右手を掲げて言った。

 

「殺せ」

「撃て!!」

 

 一瞬で光弾が空間を飛び交う。

 義勇団のブラスターは謎の生体兵器に向かって一斉射撃をお見舞いするが、生体兵器は跳躍しながら光弾を華麗に避けていくと、背部と見られる装甲から紫色のレーザーを照射し、2〜3人の団員の肉体をバラバラに焼き切った。

 

「くっ!! 機動力が尋常じゃない!!」

「どきなぁ!!」

 

 ニンバスは自分の部下が呆気なく死んだ事に狼狽えながらも忠告すると、すぐにスジュラが躍り出た。彼女は槍を回転させながらレーザーを絡めとるようにして軌道を変えると、力いっぱいに投げつけた。

 

「オラァァ!!」

 

 それはまるでミサイルのように飛んでいき、生体兵器の一体を貫通――すぐに戦闘不能にまで追い込むと、専用のガントレットでリモート操作して手元に戻して、また違う機体へ向かう。

 

「スジュラに続くんだ!!」

「おう!!」

 

 倒せない相手じゃないと分かり、安堵したレジールはスジュラのアシストに回る。ただここで予想外の事が起きた。

 

「やるねぇ、腐っても戦闘用。標準的な()()()()程度は歯が立たないか」

 

 ティムルは特に動揺することなく呟く。

 一瞬にして乱戦状態に陥った研究施設内だったが、この乱戦に乗じて俺たちは不意をうつべく動き出す。

 

「ぶち当てる……」

 

 ベガはブラスターを構えるが、ティムルは手を掲げると静かに呟く。

 

「見えてないとでも?」

 

 ティムルの手の周りに銀色に光る粒子が集まり、流線型をしたキャノン砲を形作る。紫色の光が集約していくと、ティムルはその光を乱射した。

 

「うわ!!」

「ベガ!!」

 

 当たった瞬間に凄まじい爆風が吹き荒ぶ。見た目はただの光弾だが、破壊力が段違いだ。

 

「地球外じゃ何の変哲もない熱光弾だ、これぐらいで怯んでしまっては拍子抜けだ」

 

 だが――ティムルは更に言葉を続けた。

 

「お前は()()カテゴリー10の超一級品の機人だ。何故かは知らないが……万全の機能を発揮される前に無力化する」

 

 ティムルはわずかに口元を歪めると、ゆっくりと右手を掲げた。

 

「来い」

 

 彼女の足元から、青と金に輝く光の粒子が発生する。それらはまるで意志を持っているかのように彼女の身体を包み込み、瞬く間に装甲へと変化していく。

 

「起動――サンクティ・ヴェスティス」

 

 ティムルの声と共に、光の粒子は流れるように彼女の全身を覆い、青と金の装甲へと変質する。エネルギーラインが鋭く輝き、背部には推進用のスラスターが展開。肩部と腰部には細かな補助ユニットが浮かび上がり、彼女の戦闘能力を飛躍的に引き上げていく。

 

「お前たちに進化した人類の力を見せよう」

 

 俺はそれを見て思った――アルカディストの連中が、何故こいつらを御使などと持て囃すのか。こんな姿を見せつけられたら、確かに神の使いだと思っても仕方がない。

 

「ハァァ……」

 

 彼女は軽く拳を握り込む。

 すると、装甲の表面を走る光のラインが鋭く脈動し、全身から凄まじいエネルギーが溢れ出す。

 

「――シィッ!!」

「ぐっ!?」

 

 次の瞬間にはティムルはベガを殴りつけ、研究施設の一画を吹き飛ばしながら彼女を俺から引き離す。この中で最高戦力であるベガをまず仕留めにかかったのかと、俺は舌打ちしながら追いかけるつもりだった。

 

「お前は俺の担当だ」

「なっ!?」

 

 するといきなり俺の隣に、切れ長の瞳をした男が現れた。すぐに対応しようとしたが、あまりにも突然すぎて何も出来る訳がない。

 

「来い」

「がっ!?」

「アルタ!!」

 

 スジュラが叫ぶものの、俺は胴体に腕を回されてそのまま一気に連れ去られる。あまりにも凄まじい力で持ち上げられた上に、一瞬で無理矢理皆から引き離されていく。

 

「て――め――」

「場所を移す」

 

 そしていつのまにか俺とエリュシオンの男は、やけに広くて薄暗いスタジアムのような場所に来ていた。

 

「ふん」

「ぐ……!」

 

 俺は放り投げられる形で床を転がると、素早く銃を構える。

 

「ここはどこだ……!」

「案ずるな、研究施設内だ……少し遠いがな」

 

 何故俺を引き離したのか、理由はわからない。

 周りの援護がない以上、1人でこいつを相手にしなきゃいけないのがクソだ。

 

「俺はジェラルド、ティムルと同じだ」

「……何故俺を引き離した、普通の人よりは強いが機人ほどじゃねぇだろ……!」

「薄々勘づいてるだろ? お前は元々……俺たちエリュシオンにいた人間だ、裏切り者ローグによって連れ出された者……いや――」

 

 そしてジェラルドは聞き捨てならない事を口にした。

 

「――俺たちと同じ……聖戦士の候補生だった事ぐらいは」




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