人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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今度はこっちの番だ

「――――――!!!」

「うるせぇ!!」

 

 一方……残されたスジュラとタナクは、ティムルが解き放った生体兵器を相手に大立ち回りをしていた。スジュラの振るう光子武装――祭司の槍(ウィラコチャ・チュル)は、確実にスコーンと呼ばれる不気味な怪物を切り裂いていた。ただその物量があまりにも多い。

 

「こんな奴らを隠していたとはな!!」

 

 タナクもトマホークを振るって排除したり、超人的な膂力で義勇団のサポートに回るが、それでも間に合っていない。壁や天井から這い出てくるスコーンの数は、恐らく百は優に超えていた。

 

「うわぁあああ!!」

「――――――!!」

 

 耳障りな金切り声を出しながら、義勇団の1人に襲いかかったスコーンは、そのまま腹を食い破って無残な肉片へと変えていく。このままでは義勇団が先に全滅する可能性が出てきた。

 

「チッ!」

 

 後先を考える余裕はなくなってきた。

 周りにはまだまだ味方がいるが、いつ死んでもおかしくない状況にある。おまけにベガとアルタはエリュシオンの戦士によって引き離されてしまい、カバーは期待出来ない。

 

 ならば取れる手段はただひとつ――機人の機能を解放し、力づくでの打開だ。

 

「タナク!」

「!」

()()だ」

「……了解」

 

 スジュラとタナクは同時にシステムを切り替えた。

 機体を循環するフォトンエネルギーの出力を上げ、思考回路や武装を全て敵殲滅という、単純で暴力的な目的を果たすためにリソースを割いた。

 

「システム……オーバーロード……アーチェイ・カシル」

 

 スジュラが先に発動キーを言うとスジュラの見た目がみるみるうちに変わっていった。

 

 まず肩から背中にかけて、黄金の羽飾りを模したエネルギーフィンが展開されて機動力が向上、短時間の空中浮遊や急加速が可能な装備を形成されると、バトルマスクが展開されて顔が見えなくなった。

 

 彼女の額部分には幾何学模様が光り、視界は内部ディスプレイに投影され、腕と脚に装着された装甲が伸縮し、槍術に適した形状へ変化を遂げた。

 

祭司の槍(ウィラコチャ・チュル)……」

 

 エネルギーを極限まで圧縮し、刃が稲光を伴いながら巨大化していく。攻撃範囲も広がり、スジュラは機人としての絶大な力の一端を披露した。

 

 そして今度はタナクが動き出す。

 

「システム・オーバーロード、バハ・ネアル」

 

 重厚な装甲が全身を覆い、かつて地球で栄えた狩猟民族が使っていた伝統的な装飾が施されたレリーフが光り輝く。肩と胸部には太陽のようはシンボルが浮かび上がり、背中にはエネルギーフィールドがマントのように広がっていく。

 更には持っていたトマホークがより大きくなり、赤く赤熱化していった。

 

「行くぞ、タナク」

「ああ」

 

 スジュラとタナクの装甲が輝き、オーバーロードによる圧倒的な戦闘態勢が整った。彼らの身体から放たれるエネルギーが空間を震わせ、その威圧感にスコーンすら一瞬怯んだように見えた。

 

 しかし、その一瞬の静寂は次の瞬間に破られる。

 

「――――――!!!」

 

 スコーンたちが一斉に跳びかかる。壁を駆け上がり、天井からぶら下がり、あらゆる角度から牙を剥いて襲いかかった。その数はもはや計測不能、地獄の業火の如き怒涛の猛攻だった。

 

 だが――

 

「遅ぇ!」

 

 スジュラのウィラコチャ・チュルが疾風の如く振るわれた。槍の刃が閃いた刹那、電撃がほとばしり、半径数メートル内のスコーンが一瞬で焼き尽くされる。青白い雷光が迸り、炭化した肉片が弾け飛ぶ。

 

 空中を舞うスジュラの動きは風のように速く、地面に足をつけることなく、連撃を繰り出し続ける。槍を回転させると、それだけで雷の円環が生まれ、接近していたスコーン数体が内部で爆裂するように消し飛んだ。

 

「タナク!」

 

「任せろ!」

 

 スジュラの声に応えるように、タナクがバハ・ネアルを振りかぶった。斧が真紅の光を帯び、燃え盛る業火が刃先から吹き出す。

 

 タナクはその巨体に似合わぬ速さで地を蹴り、スコーンの群れへ猛突進。最前列の数体を体当たりで吹き飛ばし、斧を振り下ろす。

 

「ォォオオオッ!!!」

 

 その瞬間――地下施設全体が揺れたのではと思ってしまうような衝撃が行き渡った。

 

 タナクの斧が叩きつけられた瞬間に熱波が爆発し、炎の衝撃波が四方に広がったせいだ。巻き込まれたスコーンたちは自分が焼かれたという認識すらできず塵と化した。

 

 だがタナクは止まらない。

 

 爆風に紛れ、二度目の一撃を横薙ぎに繰り出した。圧倒的な膂力を活かしたその一撃は、群れをまるごと両断するほどの破壊力を持っていた。

 

「すげぇ……」

 

 スジュラが空中で槍を構え直しながら義勇団のほうへ目を向ける。彼らはまだ包囲されているが、スジュラとタナクの猛攻によって形成が崩れつつあった。

 

「行くぞ!」

 

 スジュラが低空で疾走しながら、槍の先端に雷を集束させる。目標は義勇団を取り囲むスコーンの密集地帯。

 

「……撃ち抜け!」

 

 一閃。

 

 槍から放たれた雷撃が一直線に突き抜け、十数体のスコーンを貫いた。電流が体内を走り、スコーンたちは痙攣しながら爆ぜる。

 

「はっ……こいつらが雑魚で助かった」

 

 スジュラが駆け抜ける軌跡には、焦げた死骸しか残らなかった。

 

「お前ら、動ける奴は立て! 戦える奴は武器を持て!」

 

 スジュラの叫びに、義勇団の生き残りたちが顔を上げる。彼女たちの怒涛の戦いぶりに勇気を奮い起こされ、怯えていた者たちも徐々に立ち上がっていった。

 

「おおおおお!!!」

 

 士気が戻った義勇団が一斉に武器を構える。それを見たスジュラは小さく笑みを浮かべた。形勢はこちらに傾きつつある、そうなればこっちのものだ。

 

「……タナク!」

「分かってる!」

 

 タナクが再び斧を振り上げ、今度は大地を砕くように叩きつけた。

 

「クラァアアアアッシュ!」

 

 轟音とともに地面がひび割れ、巨大な衝撃波が走る。地面のスコーンは吹き飛ばされ、壁や天井に張り付いていた個体も耐えきれずに落下。

 

 そこへ――

 

「はぁっ!!」

 

 スジュラの雷槍が突き刺さるという殺意の高いコンボが襲いかかるのだ。落下したスコーンが次々と雷光に焼かれ、施設内には爆発音が鳴り響き、義勇団は巻き込まれないように後方へ下がった。

 

「よし……」

 

 粗方片付いた上に、味方がうまく下がってくれたおかげで、攻撃に巻き込む事なく済ませられたのは運が良かった。安堵するスジュラだったが……

 

「スジュラ!!」

「!」

 

 突如後ろから隠れていたスコーンが飛び出してきた。

 不意を突いた襲撃にスジュラは一瞬焦る――が。

 

「ギャアア!?」

「うお!」

 

 いきなりズドンと重たい射撃音が轟き、不意打ちしてきたスコーンの頭が爆ぜた。

 

「――珍しい、まさか貴女がそんな隙を晒すなんて」

「あぁ、誰だ……?」

 

 そしてスジュラの背後から女の声が聞こえてきた。

 どこか親しげでありながら、確かな尊敬の念が込められているような口調だった。警戒心を持って後ろを振り返ったスジュラは驚きから大きく目を見開いた。

 

「お前は――!」

 

 

 

         *   *   *

 

 

 ボクは地を蹴った。

 フォトンが足に流れ込む際に、独特の振動が脚に伝わる。スラスターを最大出力で吹かし、一気にティムルへと踏み込む。だが――

 

〈甘いな〉

 

 ティムルの声が響いた瞬間、視界の端に光の軌跡が走る。

 

 瞬時にバックステップ。直後、目の前をビームの弾丸が通過した。余波で頬が灼ける。回避が半歩遅れたら、まともに胸を撃ち抜かれていた。

 

 「ッ……!」

 

 着地と同時に体勢を立て直す。だが今度は足元の地面が炸裂した。爆発の衝撃で体が浮く。横に跳んで回避を試みるも、ティムルの動きは一歩先を行っていた。

 

 〈そこだ〉

 

 今度は真横から射撃。間一髪で腕を上げ、衝撃を逸らす。しかし、その隙を見逃してくれる相手ではない。

 

 「……くっ!」

 

 突如、視界が反転した。足元を払われ、地面に叩きつけられる。衝撃で息が詰まる。

 

 ――まずい。このままじゃ、ジリ貧だ。

 

 ボクの攻撃はことごとく捌かれ、逆にティムルの攻めは止まらない。圧倒的な戦力差があるからか――いや、違う。ボクがまだ未熟だからだ。

 

(光子武装を使えなきゃ、勝てない……!)

 

 手数が少ない上に単純な近接格闘では、飛び回る彼女を捉えるには難しい。

 

 けれど――どうすれば?

 ボクはまだ、自分の力を完全に使いこなせていない。光子武装はただの武器じゃない。ただ起動するだけじゃ意味がない。ボク自身が、それをどう扱うかを理解しなければならない。

 

(何か……コツを……!)

〈考えてる暇はないぞ〉

 

 ティムルの影が迫る。踏みつけるように振り下ろされる脚。ボクは転がるように回避し、膝をついたまま睨み上げた。

 

 (……何が足りない)

 

 光子武装を使うための、何か。ボクはそれを掴めていない。だから、動きが鈍る。攻撃に迷いが生まれる。

 

 ――ボクの戦い方は、どうあるべきなんだ?

 

 ティムルは手を緩めない。連続する攻撃、遠距離と近接を織り交ぜた多彩な戦法。翻弄されながらも、ボクは考える。

 

 このままじゃダメだ。何かを変えなきゃいけない――。

 

〈さっさと……壊れろ……〉

 

その瞬間――ティムルは目に冷たい光を灯すと、静かな苛立ちを込めて言った。

 

〈光子熱線砲――イグニス・アルクス〉

 

 その一言が発せられた瞬間、ティムルの周囲に集束していた光子が、一気に膨張を始めた。数秒後には空間に響く音もなく、ティムルの手のひらからまばゆい光が放たれた。それは、まるで大空を裂くように真っ直ぐに突き進む流星のようにも見えた。

 

「砲撃!!」

 

 爆発的な熱と圧力を伴って、巨大なエネルギー弾が発射された。まずい……あれはボクのボディを容易く破壊することが出来る。光の軌跡は、天を貫くような勢いで前方に伸びると空間を熱で歪ませながら直進してきた。周囲の空気が震え、光が爆風となって衝撃波を伴って広がっていく。

 

「ッ――!」

 

 ボクは全身を駆け巡る悪寒を頼りに、弾かれるようにして地面を蹴りながら全力で飛び退く。しかし光の砲弾のスピードはあまりにも速く、回避は間に合わない。砲撃がまるで狙い澄ましたかのように、進行方向を封じ込めるのが見えたからだ。

 

〈無駄だ、クズ鉄!!〉

 

 ティムルの声が響いた瞬間、エネルギー弾がボクの目の前で爆発を起こした。地面までも激しく揺れ、衝撃波が身体を打つ。光の余波に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたボクは全身に痛みが奔るのを感じていた。

 

「ぐっ……!」

 

 だけど怯んだままでは追撃を喰らって終わりだ。

 咄嗟に体を丸めるようにして地面に転がったはいいが、さらに吹き飛ばされたボクはもう避ける事すら難しくなっていた。

 

〈追撃だ、たんと喰らいな〉

 

 そんな隙をティムルが逃す訳なかった。

 目の前に再度爆発的な光が迫ると、ボクは反応する間もなく、攻撃を喰らった。

 

「あ……ぅ……」

 

 意識が一瞬途切れかけるも反射的になんとか回避のために空中へと飛び上がった。だけど代償として、爆発の余波で大きな衝撃を受け、無理に空中で姿勢を立て直すも、体は不安定になり、視界が揺れる。

 

「くっ……!」

 

 身体のあちこちが痛い。

 意識もぼんやりする。

 死ぬ……このままじゃ、ボクは終わる。

 

(どうすれば……いい)

 

 そんな時……何故かボクは昔を思い返した。

 あれはまたローグとファナがいた頃――狩りに慣れ始めてきた時の記憶だった。

 

 

 

          *   *   *

 

 

「――ベガはアルタと比べて銃の腕が劣っているな」

 

 あれは確か14、15の頃だった。

 日課の射撃訓練をしていた時、背後からそんな言葉が飛んできた。

 聞き慣れた声――ローグだ。振り返ると腕を組みながらボクの撃った的を見つめると明らかな事実を指摘するように、静かで鋭い声でまた言った。

 

「正直言ってちょっと悪いぐらいだ」

「い、いきなりへこむようなことを……」

「事実だからな、それに自分でわかってるだろ?」

 

 ボクは撃ち終えた銃を降ろしながら、微妙な顔をする。的を確認するまでもない。散々な結果だって、自分でも分かってる。でも、ストレートに言われるとやっぱり堪える。

 

「親父……もう少し遠慮しろよ」

 

 アルタがため息混じりに言いながら、軽く肩をすくめる。彼は隣で銃を構えたまま、的をじっと見つめていた。

 

「的を見ればわかるような事だぞ」

 

 ローグは変わらぬ口調で答えると、ボクが撃ち込んだ弾痕を指さす。確かに散らばり方がひどい。アルタのそれと比べると、明らかに精度が違った。

 

「……んー、確かにそうだけどな」

 

 アルタは少し考えるようにして、苦笑いを浮かべる。

 

 「あ、アルタァ……」

 

 ボクは思わず情けない声を漏らした。せめてフォローくらいしてくれたっていいのに。

 

「悪い悪い、練習したら上手くいくから」

 

 アルタは軽く笑いながら謝った。彼の言葉は慰めのようでもあり、どこか当然のことのようにも聞こえる。

 血は繋がっていないらしいけど、こういう遠慮のなさを見ると、やっぱり親子なんだなって思う。

 

「にしても不思議だよな、普通機人のベガの方が上手い方が自然だろ」

 

 アルタがふと呟く。

 確かにそういうイメージがあるのは分かる。

 

「機械だから?」

 

 するとファナが言った。

 

「うん、人間より精度は高く撃てそうじゃん」

 

 機械と言えば、正確無比で計算高く、何でもそつなくこなせる。ボク自身もそう思っていた。なのに――どうにも違うようで、ひどくもどかしかった。

 

「そうねぇ……アルタの意見は尤もよ」

「なら――」

「ついでに少し話してやれ、ファナ」

 

 するとローグが促した。

 

「諸説はあるけど……大昔の機人はそれこそ、今よりもっと感情が希薄で、より機械そのものに近い存在だったらしいのよね」

 

 ファナはゆっくりと思い出すように話し始める。

 機人の起源に近い話はボクも興味ある。

 

「それこそ性能も優れていて、無駄なことは一切しない人工知能が大半だった。最適解だけを選び取る、まさに完璧な機械」

 

 ファナの言葉を聞いて、ボクはなんとなく自分の想像する”機械”の姿を思い浮かべた。無駄がなく、無感情で、ただ効率を追求する存在。それが機人の始まりだったのかもしれない。

 

「でも、それは長くは続かなかった」

「どうして?」

 

 アルタが首を傾げる。

 

「それ以上の進化が望めなかったからよ、アルタ」

 

 進化が望めない――どういうことだろう?

 

「最初から完成されたままでは、機械は進化ではなく、如何に安定した状態を維持するかに思考を割くことになる。そのせいで、他の人工知能との競争で優位に立てなくなったの」

 

 ファナは静かに言葉を続ける。

 

「だからこそ、感情や機能をあえて不完全にし、混沌とした環境の中で進化することを目指した……その結果、機械は多様性を持つようになったのよ」

「……例えばどうやって?」

「仲間の機人同士で殺し合ったりしたのよ」

 

 さらりと放たれた言葉に、ボクは息を飲んだ。

 殺し合った……なんて、どうしてそんな選択を取ったのか。

 

「前いた場所で聞いた話だから、私が直接見たわけじゃないけどね。でも、彼らは競争と進化のために、そういうことを繰り返してきたの」

 

 仲間同士で殺し合う――その光景を想像しただけで、思わず背筋が寒くなる。隣を見ると、アルタも複雑そうな表情をしていた。昔の機人がどんな意識をしていたのかは知らないけど、かなり悍ましい光景だったに違いない。

 

「ともかく……実際に戦いだけじゃなく、競争意識を作ったり、それこそ生命体の進化のサイクルをシステムに組み込む過程で、機械は個体別で性能が違ってくるようになった。でもその代わりに、ものすごいスピードで進化し、高度な社会を築けるようになった」

 

 ファナの言葉を聞きながら、ボクはなんとも言えない気持ちになった。

 まるで人間のように、生き物のように、環境に適応して進化する――それが”今の機人”という存在の成り立ちなのだ。

 

「……だからベガが射撃の腕がそんなでもないみたいに、得意不得意が機人にもある。これは仕方ないことだ」

 

 ローグの言葉が、ボクの胸にじんわりと染み込む。

 なんとなく、救われたような気がした。

 

「じゃあ今のベガをもっと強くするなら、得意を伸ばした方がいいわけだ」

 

 アルタが腕を組みながら言う。

 

「ああ……今のところ、ベガは純粋な身体機能を活かした戦闘が得意だ。それはいい……だが基本的に丸腰なのは良くない」

「そりゃそうだ」

 

 言われなくても分かる。丸腰で戦うのは、さすがにリスクが高い。

 

「だからまずはベガにとって最適な武器を見つけるのが大事だな」

 

 ローグがそう結論づけると、ボクは少し考えてから聞いた。

 

「……なら、どういうのがいいかな?」

 

 ローグは迷いなく、はっきりと答えた。

 

「シンプルに剣の類がいい。ベガにはきっとうってつけだ」

 

 その言葉を聞いて、ボクは自然と自分の手を見つめた。

 銃よりも、直感的に扱える武器――剣。

 それは、ボクにとって”最適な選択”なのかもしれない。

 

 

           *   *   *

 

 

「――ああ……すっかり……忘れていた」

 

 昔を思い出して、ボクはようやく気づいた。

 銃にばかり拘っていたけれど、何もそれだけが武器じゃない。

 現にスジュラは槍を使ってるし、タナクだって斧を使っている。アルタの隣にいて、いつしか銃を作ることばかりに目を向けてきた。

 

(作りはもっと単純で、かつ自分にとって最適な武器を作れば良かったんだ)

 

 やっと気づいた。

 ボクが作るべき武器を。

 

〈ちっ……まだ壊れないのかよ〉

 

 ティムルは驚きを隠せない様子だった。

 だけどボクはあいつに対してまだほとんどダメージを入れられてない。優位に立っている自覚があるのか、まだまだ余裕そうだ。

 

 でもここからはそうはいかない。

 勝つには奴を常に圧倒する立ち回りが重要になってくる。

 

「……まだボクにはやらなきゃいけない事がある」

〈あん?〉

「その為には……お前たちが邪魔になる」

 

 ボクの言葉を聞いたティムルは鼻を鳴らした。

 

〈邪魔になる……? 上等だよ、今すぐにでも消し飛ばしてやる〉

 

 言葉と同時に空気が震える。

 エネルギーが収束し、砲撃の兆しが生まれた。

 

 「……っ!」

 

 ボクは即座に横へ跳ぶ。

 しかしティムルの攻撃は一発では終わらない。連続した砲撃が降り注ぎ、まるで空間そのものを焼き尽くすような熱量を生み出していた。

 

 地面が抉れ、爆炎が巻き上がる。視界を奪う煙を蹴散らしながら、ボクはひたすら回避に専念する。

 

〈逃がさねえよ〉

 

 ティムルが鋭く睨むと、軌道を読んでいたかのように砲撃がボクの進路を遮った。

 

〈焼き尽くす〉

 

 刹那、視界が歪んだ。ティムルが再び距離を詰め、圧倒的な速度で攻撃を仕掛けてくる。右からの射撃、左からの蹴り、一瞬の間に二つの攻撃が迫る。

 

(焦るな……!)

 

 反射的に体を捻り、弾丸を紙一重で回避する。同時に蹴りの軌道を読み、わずかに膝を折ることで衝撃を最小限に抑えた。しかし、間髪入れずに第二波が来る。ティムルは躊躇なく、隙間を埋めるように射撃を繰り出しながら動く。

 

 「チッ……!」

 

 ボクはティムルの間合いから脱出すると戦うための――いや、勝つための武器を作る為にイメージする。

 

 (星の光のように、確かな一閃を――)

 

 脳裏に、かつての記憶が蘇る。

 ローグ、アルタ、ファナ。彼らと過ごした日々。己の特性、戦い方。ボクはずっと答えを探していた。でも、本当はもうとっくに知っていた。

 

 一振りの剣がいい。

 

 ボクにとって最適なのは、シンプルで、強靭で、一撃の精度が高い武器。ただし、単なる剣ではダメだ。ボクの戦い方に最適化された、フォトン・アルマスとしての剣を作り上げなければならない。

 

(なら、やるべきことは決まっている)

 

 ボクは頭の中で、剣の構造を組み立てる。

 フォトンの流れ、フレームの強度、重量の最適化。全てを計算しながら、形にする。

 

(まずは基盤となるエネルギーコア……出力を高めつつ、偏りをなくして……)

 

 一生懸命に作っている間にもティムルの猛攻は止まらない。すれ違いざまに蹴りを放たれ、咄嗟に腕でガードする。しかし、その威力に押し込まれ、数メートル先まで吹き飛ばされた。

 

〈オラァ!!〉

「ぐっ……!」

 

 地面に膝をつくが、思考は止めない。剣のイメージを明確にしてフォトンの流れを制御する。

 

(刃の長さは……中距離戦を考慮して、リーチを伸ばす。刃の形状は、斬撃に特化したものに……)

 

 ティムルがさらに迫る。巨大な大砲を形成し、容赦なく撃ち込んでくる。ボクは直感的に回避しながら、形成中のデータを脳内で組み立て続けた。

 

(まだ、あと少し)

〈逃げてばかりじゃつまらねえぞ!〉

 

 ティムルの挑発混じりの声がボクを焦らそうとする。

 だが、それを気にしている余裕はない。

 

(最後に……刃に込めるフォトンの特性。通常のエネルギー斬撃ではなく……収束率を高めて、狙った部分を確実に切り裂くものにする)

 

 イメージは、完成した。

 ボクは拳を握りしめ、全身のフォトンを一点に集中させる。膨大なエネルギーが腕から流れ出し、徐々に剣の形を成していく。そして、最後の工程は名前を刻むこと。

 

 ボクが思い描いたのは――星の光。

 夜空を照らし、進むべき道を示す輝き。

 

「ルキオス……」

 

 ボクは、その名を紡いだ。

 瞬間、手の中に収束するフォトンの流れが変わった。形状が固定され、光が刃を形作る。

 

〈何……〉

 

 ティムルが眉をひそめる。

 心底面白く無さそうな声色に、ボクは思わずほくそ笑む。

 

「……これが、ボクの武器だ」

 

 白亜に染まった剣は、以前使っていたレーザーブレードよりもはるかに上等なものだとすぐにわかった。

 

〈チッ、ようやく剣を作ったか……だが、そんなものが通用すると思うなよ〉

 

 ティムルが再び砲撃の構えを取る。しかし、今のボクはもう、さっきまでのボクではない。

 

 剣を手にしてボクは何かがカチリとうまくハマった。

 ルキオスの存在はボクの戦闘スタイルを決定づけただけじゃなく、内に眠る大きな力を引き出すきっかけになる気がした。

 

〈くたばりやがれ!!〉

「いやだね」

 

 ボクは一気に踏み込む。

 

 ティムルの砲撃が迫る――だが、それよりも早く、ボクの剣が閃いた。ルキオスの刃が、光の残像を描きながら、ボクの進むべき道を切り拓く。

 

〈はッ! 真正面から焼かれに来たか!?〉

 

 嘲笑う声を無視してボクは放たれた熱線に対して、真正面から剣を振るう。ボクの身体を丁度避けるような形で両断された熱線は、周囲を焼き尽くしながらもボクを押し返そうとする。

 

〈出来損ないの剣で何が出来る!!〉

「……道を……切り拓くことだ……!!」

 

 この剣は謂わばローグとファナが示した答えだ。

 単なる思いつきなんかじゃなく、ボクの力を最大限に引き出すきっかけになる道標。

 

「ボクは勝つ……!」

 

 アガトのために、友達のために。

 そして――

 

「勝って……未来を手に入れる!!」

 

 そして力いっぱい振るって光を切り裂き、ボクはティムルに迫る。

 

〈何……!〉

「ハァァアアア!!!」

〈ガ――ッ!!〉

 

 不可視のシールドにかちあった瞬間――ルキオスから白い光と水色の電光が迸り、飛んでいたティムルをたたき落とす。

 

〈舐めんな……!!〉

 

 対するティムルも光刃を展開して斬りつけてくる。

 ボクは瞬時に合わせて、目にも止まらぬ速さで斬り結ぶ。

 

〈アアアア!!!〉

「ヤァァアアア!!!」

 

 辺りを焼き切り、エネルギー同士が炸裂し合う事で研究施設の空間はあっという間に赤い炎と瓦礫が舞う戦場と化す。シールドを着実に破壊していったボクは、ティムルの隙を見出した。

 

「ここォ!!」

〈ギギギギ……!!〉

 

 シールドを破り、ルキオスがティムルの肩から胸にかけて袈裟斬りにすると、アーマーが段々と粉々になっていくのが見えた。

 

〈クゥァアアア!! ふざけんな!! お前みたいな化け物どもに私らは負ける訳にはいかねぇんだよ!!〉

「うぐ」

 

 するとティムルは血だらけになりながらも無理やりに突っ込んで、ボクにつかみかかる。憎悪によって赤くなった瞳は、背筋が寒くなりそうなぐらい恐ろしい雰囲気を纏っていた。

 

〈大義のない……下劣な侵略者は死ね!!! 太陽系は人類だけのもの!! 鉄屑は全て滅びろ!!!〉

「大義が……ない……??」

 

 大義ならある。

 思い浮かべるのは唯一無二の相棒(アルタ)の姿。

 

「大義ならあるよ」

 

 2人で一緒に、幸せな未来を手にする。

 これ以上ない大義だ。

 

「それにお前は罠にかかった」

〈あぁ!?〉

 

 ボクは剣にエネルギーを集約する。

 これはただの剣じゃない。

 ()()でもある。

 

「ぶっ飛べ」

〈しま――〉

 

 ルキオスから青白い雷光が解き放たれ、ティムルのアーマーを粉々にすると、彼女は凄まじい速度で吹っ飛んだ。

 

 後に残るのは静寂だけ。

 つまりボクは……勝ったのだ。

 

「ハァ……ハァ……! やった! 倒した……!」

 

 勝ったと理解した瞬間、力が一気に抜けて膝を突いてしまった。やっと光子武装が使えて安堵したけど、それ以上に何だかとても疲れた。

 

 普段使わない部位を酷使したような、独特の不快感と倦怠感がある。

 

「……皆と……合流……しなきゃ」

 

 しかし今は敵地の中、こんなとこでゆっくりしている場合じゃない。作ったルキオスは柄の部分だけ残して腰のベルトにつけて、この崩落しそうな部屋から出ようとした時――

 

「がぁぁぁ!!」

「!!」

 

 瓦礫を吹き飛ばして、全身血まみれになったティムルがボクへと突撃してきた。スーツは破れ、左腕は潰れたのか力無く垂れ下がっていたが、その右手には巨大なブレードを展開させていた。

 

「死ねよ!!!」

 

 刃がボクの首筋に当たる寸前――

 

「ベガもちょっと気を抜きすぎじゃない?」

「へ……」

 

 ()()()()()()()声と共に、ティムルの右手は突然何かに弾かれて刃を砕かれた。

 

 銃声だ、しかもかなり高威力のもの。

 

「今よ、ベガ」

「……ああ」

 

 親しげに言われて、ボクはやっとその声の正体に気づいて笑みが溢れた。そのままボクはバチリとフォトンを拳に込めると――

 

「歯を食いしばれ」

「――――!!?」

 

 力いっぱい振り抜いてティムルの顔面を殴り、今度こそその意識を奪った。

 

「……はぁ、助かったよ」

 

 やっと終わったとボクは息を整えると、後ろを振り返る。

 そこにいたのは――巨大な対物ライフルを担ぐアイラの姿だった。かつてアガトでボクの後輩だった彼女は、今まで以上に頼もしくなって、駆けつけてくれたのだ。

 

「これで昔の借りは返せたって事でいいよね? ベガ」

「……むしろそっちが上回ってるんじゃないかなってぐらいだよ」

「へへ……やったね」

 

 ちょっと前に会ったばかりなのに、何だか久々に会ったような不思議な感覚を覚えながらも、ボクはアイラと固い握手をするのだった。




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