人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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リュドラの決戦②

 足音が響くたびに、息が白く揺れた。

 暗い通路の奥へと、ボクはただひたすらに走った。

 スジュラたちが稼いでくれた時間を決して無駄にはできない。

 

(絶対にアルタを助ける。そして、これから先の旅を続けるんだ。ローグも、ファナも、必ず見つけ出す)

 

 心の奥底でそう誓いを新たにする。

 崩れた階段を駆け上がると、湿った地下の空気が途切れ、冷たい風が頬を打った。

 

 目の前に広がるのは、リュドラの中でも最大規模の建造物――かつて中央競技場だった場所とユアンから聞いている。

 天井は崩落し、月明かりが破片の隙間から差し込んでいる。瓦礫と骨組みが混ざり合い、無数の機械装置が散らばる。

 まるで廃墟と戦場の境界に、巨大な墓標が立っているような光景だった。

 

 その中心にボクが何よりも愛する人がいるのが見えた。

 

 巨大な拘束具に繋がれ、無数のケーブルを身体に巻きつけられたアルタの姿。意識はなく、首を垂れたまま、微かに胸が上下している。青白い光が彼の全身を走り、機械と人間の境界を曖昧にしていた。

 

「アルタ……!」

 

 思わず声が漏れる。だが、その名を呼んだ瞬間――

 ボクの背筋を凍らせるような低い声が響いた。

 

「来たか。私の予想より随分と遅かったようだが」

 

 アルタの隣に立つ男が、ゆっくりと振り返った。

 軍服の上に白いの外套を羽織り、長身の身体を真っ直ぐに立てている。切れ長の瞳に冷たくも理性的な光が見えた。

 こいつが聖戦士のリーダーだと、すぐにわかった。

 

「お前が……聖戦士のリーダーか」

 

 ボクの問いに、彼は微かに口角を上げる。

 

「アルカディストという野蛮な駒を率いるリーダー、と言えば――それは私……ドレイクのことだ」

 

 軽く顎を上げ、まるでそれが誇りであるかのように言い放つ。

 

 ボクは拳を握った。

 この男の存在そのものから、強烈な圧を感じた。

 これまで戦ってきたどの敵よりも、重く、深く――まるで地そのものが動いているかのようだった。

 

(こいつは……間違いなく今までで一番の強敵だ)

 

 けれど、ここで退く選択肢なんて最初からない。

 この男を倒せなきゃ、ボクたちの旅はここで終わる。

 

「お前はボクたちの故郷を焼いた……アガトを壊した張本人だな」

 

 声が震えそうになるのを必死で抑え、ルキオスを抜く。

 白い光刃が現れ、瓦礫の影に反射して揺らめいた。

 

「アルタを返してもらうよ」

 

 ドレイクは微動だにせず、代わりに背後のアルタを指差した。

 

「彼にはアセンション・システムを搭載した」

「……何をしたの」

「彼の肉体は機械どもの小賢しい策略のせいで、ナノマシンによる機械化が進んでいた。あのままでは人としての機能を失い、我々の聖戦には使い物にならなかった」

 

 ドレイクの声は淡々としていたが、なんとなく熱が入っているように聞こえた。

 

「我々が改良を加え、システムを塗り替えた。次に彼が目を覚ます時、彼は我々の戦士として蘇る。裏切り者を追い詰め、機人どもを駆逐する、新たなる英雄としてな」

 

 ボクは奴の目を見て改めて確信する。

 自分の正義が絶対であり、それを他者に押し付ける存在。

 自分のやってることが非情なものであっても、正しいことをしているから何も思わない奴だと。

 

「はっ」

 

 だからボクは鼻で笑った。

 

「……そんな馬鹿みたいな理想、叶うといいね」

「理想ではない。これが運命だ」

 

 ボクはルキオスの出力を上げた。

 光刃が唸り、周囲の空気が震える。

 ドレイクもまた、ゆっくりと腕輪を翳して言った。

 

「起動――アストレイア・ヘリオクス」

 

 起動とともに、ドレイクの身体を包むのは青白い光を纏った流線型アーマー。ベースカラーは純白の外殻にコバルトブルーのフレームラインが走り、各所の駆動部には淡く輝くフォトン粒子が流れていた。

 

「人類のために……消えろ、鉄屑」

「消えるのはそっちだ」

 

 その瞬間、床が爆ぜた。

 光と風圧がぶつかり合い、瓦礫が宙を舞った。

 

 

           *  *  *

 

 

 夜空は、爆炎と煙で曇っていた。

 崩れた建造物の影の中、フェルナンドとオーレンが呻きながら立ち上がる。アーマーの輝きはすでに失われ、起動コマンドを繰り返しても、反応は返らなかった。

 

「……おかしい。エネルギーが……起動しない!」

「クソッ、何度やっても反応がない! この俺が、こんな――!」

 

 オーレンは怒声を上げ、腕の操作盤を叩きつけた。

 だが、返ってくるのはエラー音だけ。ナノマシンの光は不規則に明滅し、まるで内部構造が自己崩壊しているかのようだった。

 

 焦燥と憤怒が彼らの表情を覆う。

 

「……まさか、あの狙撃か」

 

 フェルナンドが歯を食いしばる。

 あの弾のせいで、アセンション・システムの量子構造が壊されている――それを理解するまで、そう時間はかからなかった。

 

 その刹那、義勇団の兵士が瓦礫の影から飛び出した。

 ブラスターを構え、怒りを込めて引き金を引く。

 

「今だ、撃てぇぇっ!!」

 

 光弾が雨のように降り注いだ。

 フェルナンドの片腕が反射的にアーマーを展開し、衝撃を弾く。

 だが完全ではなかった。焦げた装甲の隙間から肉が覗き、再生細胞がむき出しになる。

 

「たかが……原住民風情がァァァァ!!」

 

 怒号が夜気を裂いた。

 フェルナンドが飛び込み、オーレンが追う。

 二人の拳が兵士たちを叩き潰し、衝撃波が瓦礫を吹き飛ばす。人間の肉体ではありえない跳躍力、骨格強度。

 それでも、体表に走る傷は次第に深くなり、再生が追いつかなくなっていく。

 

「ぐっ……おのれ、なぜ……!」

 

 オーレンの背中が焦げ、血が噴き出す。

 それでも彼は止まらない。全身の細胞再生を無理やり活性化し、己を燃やすように戦う。焼け焦げた皮膚の下で、フォトン線維がまだ光っていた。

 

 その光景を、少し離れた廃ビルの屋上から見つめていたのが――ノラとアイラだった。

 

 スコープ越しにその様子を確認し、アイラが小さく舌打ちする。

 

「……まだ動くなんて、化け物にもほどがあるっての」

 

 ノラは肩越しに振り返ると、短く言った。

 

「アイラ、まだデコリッパーはあるか?」

「あと……三発。他のはベガ達が持ってるし……どれだけ必要になるかわからないから……」

「それで十分だ」

 

 ノラの声は落ち着いていた。

 だがその眼差しは、燃えるような決意を宿している。

 

「おい、まさか――」

「俺が引きつける。お前はここから撃て」

「危険すぎる! 相手は聖戦士なのよ!?」

「死ぬつもりない。生き残るさ。ちゃんとな」

 

 その言葉に、アイラは息を呑んだ。

 ノラは微笑を浮かべると、腰のハンドキャノンを引き抜く。

 銃身の内部にはユアンから渡されたフェーズ・サーモバースター弾が込められていた。微弱な量子振動を起こし、内部からアーマーの神経接続を焼き切る対アセンション専用弾。2つある切り札の内の1つだ。

 

「ある程度近づいたら、俺の指示を待たずに撃て。……頼んだぞ」

 

 そう言い残し、ノラは戦場へと駆け出した。

 爆風が吹き抜ける中、彼は義勇団の兵士たちに紛れ、フェルナンドとオーレンへ距離を詰める。

 光弾が掠め、瓦礫が爆ぜるたび、身体が軋むように痛んだ。

 それでも、足は止まらなかった。

 

(……アルタ、ベガ。あんたらを待たせるわけにはいかねぇ)

 

 距離が詰まった瞬間、ノラは立ち止まり、狙いを定めてトリガーを引く。白熱する光線が直線を描き――フェルナンドの胸を貫いた。

 

「ぐ、あぁぁぁぁっ!!?」

 

 青い光が噴き出す。

 フェルナンドのアーマーが再び暴走を起こし、崩壊し始める。オーレンが驚愕の声を上げた。

 

「フェルナンド!? 何が……!」

 

 その時、彼の頭の中にひらめいた。

 ――この弾丸。あの狙撃と同じ、いや、それ以上の干渉波。

 つまりこれは、聖戦士専用の兵装技術。

 エリュシオンのデータを解析し、対抗するために作られた“自分たちを殺すための弾”だと。

 

「……オーレン、俺のことはいい! あの面倒な弾を持ってる奴を先に始末しろ……!」

「……舐めやがって」

 

 オーレンの目が怒りに染まる。

 瓦礫の上、光を反射するビルの影――そこに、銃を構えた青年の姿があった。

 

「貴様か……!」

 

 オーレンは咄嗟に砲撃をノラに向かって撃つ。

 

「やば……!」

 

 まさかここででかい兵器を使うとは思わなかったノラは、咄嗟にジャンプして建物から飛び降りる――と同時に爆炎が迸り、ノラの背中を掠る。

 

「がぁ…………!!」

 

 少なくないダメージを喰らい、ノラは強い痛みで倒れそうになるが、何とか気合いで持ち直す。

 

「負ける……かぁ!」

 

 瓦礫を踏みしめながら、ノラは呼吸を荒げて走っていた。

左腕からは血が滴り、着地した際の衝撃で脚も負傷している。それでも止まることはできない。背後から聞こえるのは、瓦礫を蹴散らして迫ってくるオーレンの咆哮だ。

 

「逃げ切れると思うなよ!!」

 

 鋭い光弾が背中を掠め、地面が爆ぜた。

 ノラは転がり込みながら近くの倒壊ビルの影へと滑り込む。

 傷口が焼けるように痛んだが、手にしたハンドキャノンを離さなかった。

 

「……はぁ、はぁ……ここまで、来れば……」

 

 血に濡れた手で、銃口を上げる。

 標準センサーが警告を発し、オーレンの熱源反応を捕捉すると、すぐ目の前に彼のシルエットが、煙の向こうから姿を現す。

 まだアーマーの右半身がかろうじて機能している。青白い光が不規則に明滅していた。

 

「死に損ないが……!」

 

 オーレンが跳躍する。

 ノラは息を止め、引き金を絞った。

 

 ――轟音。

 

 光の柱が閃き、オーレンの胸部を貫いた。

 

「ぐっ、ああああぁっ!!!」

 

 フェーズ・サーモバースター弾が命中し、内部から焼き裂くように爆ぜる。オーレンはたまらず膝をついた。

 

 その瞬間、ノラは無線のスイッチを叩く。

 

「……今だ! 撃て、アイラ!!」

 

 数百メートル離れたビル屋上、スナイパーライフルの照準が閃く。

 

「任せて」

 

 アイラはスコープ越しにオーレンの頭部を正確に捉え、トリガーを引いた。

 

「――――っ!」

 

 デコリッパー弾がオーレンの頭部を貫通し、量子構造を瞬時に崩壊させる。フォトンが弾け、青い光が夜空に散った。

 巨体が崩れ落ちる音が響き、ノラは膝をつきながらガッツポーズを取った。

 

「よしっ……やった……!」

 

 だが、その安堵は長く続かなかった。

 

「よくも……」

「ッ!! お前ッ!!」

 

 背後から重い影が迫る。

 血まみれのフェルナンドが、片膝を引きずりながら歩み寄っていた。半壊したアーマーの奥で、なお瞳だけが赤く燃えている。

 

「……よくも、オーレンを……貴様……!」

 

 次の瞬間、ノラの視界が回転した。

 フェルナンドの蹴りが腹部を貫き、地面を滑りながら十メートル以上吹き飛ぶ。内臓が潰れたような痛みが全身を貫き、喉から血が噴き出した。

 

「がっ……は、ぁ……!」

 

 崩れた瓦礫の上で、ノラは必死に息を繋ぐ。

 フェルナンドの影が覆いかぶさるように立ちはだかった。

 

「下等な生命体が、神の兵を殺すなど――万死に値する!」

 

 スコープ越しにその光景を見ていたアイラの胸が締め付けられる。焦りと怒りが入り混じり、涙が滲む。

 

「ノラ……ノラ、動いて……!」

 

 彼女は狙いをフェルナンドに変え、再び引き金を引いた。

 だがフェルナンドは反応した。わずかな動きで弾丸を避け、右腕を掲げる。

 

「遅い!」

 

 腕部が変形し、レーザー砲が展開される。

 青白い光束が放たれ、建物全体を貫いた。

 

「う――ぁ!」

 

 アイラは咄嗟に身を翻すが、直撃は免れたものの、衝撃波で足場が崩壊する。

 

「きゃっ……!」

 

 コンクリートが崩れ、瓦礫が彼女の身体を押し潰す。

 激痛と共に息が詰まり、動けない。

 スコープ越しに見えるのは、血に塗れたノラの姿。

 

 フェルナンドはゆっくりと歩み寄る。

 怒りに染まったその顔は、もはや理性を失っていた。

 

「安心しろ……お前の仲間も、すぐに同じ場所に送ってやる……!」

 

 レーザー砲がノラに向けられる。

 ノラは目を細め、震える手で銃を構え直した。

 だが、もう弾はない。

 意識が遠のく中、それでも彼は睨み返した。

 

「……そんな顔、してると……勝てねぇぞ……」

 

 その瞬間だった。

 

 ――轟音。

 

 フェルナンドの横合いから、瓦礫が爆発的に吹き飛ぶ。

 光の粒子と共に、鋭い爪と装甲のような鱗を持つキメラが飛び出してきたのだ。

 キメラは咆哮とともにフェルナンドに突進し、その身体を容赦なく弾き飛ばす。

 

「っ……!?」

 

 フェルナンドは壁に叩きつけられ、アーマーが砕け散る。

 痛みに顔を歪めながら、彼は目を凝らした。

 キメラの背に機人が乗っていた。

 

「いやぁ――間一髪だったね」

 

 ノラを救ったのはユアンだった。

 彼の軽やかな声が、燃え尽きた戦場の空気を切り裂くように響いた。

 

「ユアン……さん?」

「わりかしギリギリだけど、何とか間に合った。君らは死んじゃダメだよ。アルタとベガにとって必要なんだから」

 

 彼は瓦礫の上に立ち、軽く口笛を吹く。その音に反応して、恐竜型のキメラ――「リガルドレイク」が低く唸った。

 

「さぁ、やっちゃって」

 

 ユアンの声が静かに響くと、キメラが地を蹴った。

 その巨体がフェルナンドに迫り、鋭い牙がアーマーを纏う右腕に食らいつく。金属と骨が軋む音が、戦場に不快なほど響いた。

 

「ぐっ……離れろ、この化け物がッ!」

 

 フェルナンドが叫び、拳でキメラの顔面を殴りつける。だが、それでも牙は離れない。キメラの喉元が膨れ上がり、次の瞬間――口内のフォトン排出器官が光を帯びた。

 紫がかった閃光が放たれ、フェルナンドの腕部装甲が内側から焼き切られる。

 

「があああああっ!!!」

 

 アーマーが崩壊し、内部の生体構造が露出する。

 焦げた金属臭と焼けた肉の匂いが混じり、夜気が濁った。

 

「君らは所詮……ワタシ達の開発した新兵器に捧げる被検体であり、踏み台であり、舞台装置……」

 

 ユアンはその隙を逃さなかった。

 軽やかな足取りで距離を詰め、杖を構える。

 

「……君たちはもう、戻れない場所に行き過ぎた」

 

 杖の穂先が一閃。

 フェルナンドの胸甲を貫き、心臓を直撃した。

 

「――ッ……ぐ、あ……!」

 

 光が漏れ、フェルナンドの身体が硬直する。

 その瞬間、ユアンは杖のグリップを握り直し、側面のトリガーを引いた。

 

 ――ブラスター射出。

 

 白い閃光が走り、フェルナンドの胸部を内側から焼き裂く。

 フォトン粒子が爆ぜ、アーマーが完全に崩壊する。

 

「ぁ……が………………」

 

 フェルナンドは呻きながら片膝をついた。

 焦点の合わない目でユアンを睨みつける。

 

「貴様ら……のような……ただの……機人が」

「ワタシ達を舐めすぎだ、そんな考えだから……君たちはいつまでも機械に勝てないんだよ」

 

 ユアンの声は淡々としていた。

 だが、その瞳の奥には鋼の意志が宿っていた。

 

「人類と団結するために……君らの存在は邪魔でしかない。退きな」

 

 杖の先端に残った光が再び凝縮し、最後の一撃が放たれる。

 フェルナンドの身体が光の中で砕け散り、爆風が瓦礫を舞い上げた。

 

「ふぅ……」

 

 煙が晴れると、ユアンは静かに息を吐いた。

 リガルドレイクが彼の傍らで喉を鳴らし、忠実に主を見上げる。

 

「……あと少しだよ、ベガ」

 

 彼は杖を背中に戻し、倒れ伏したノラのもとへと歩み寄る。

 

 

            *  *  *

 

 

 瓦礫が砕け、金属が焼ける匂いが立ち込める。

 廃墟の奥、青白い光の中で、ジェラルドが立っていた。

 

 彼の全身を覆うのは、白銀に青のラインが走るアーマー――ルーメン・キャバリエールだ。神聖なる騎士を思わせるその装甲が、ほのかに光を脈動させながら周囲のフォトン粒子を吸収している。左腕のシールド――アーク・バリアが起動し、右手の光剣が低く唸った。

 

 対峙するのは、スジュラ、タナク、フラウ――三人の機人。

 それぞれが高速移動しながらジェラルドを包囲し、同時に攻撃を仕掛ける。

 

「左を取る! スジュラ、前に出ろ!」

「了解ッ!」

 

 スジュラの槍が青白い残光を引きながら突き出された。

 ジェラルドは即座に剣で弾き、逆にシールドで押し返す。

 衝撃波が床をえぐり、瓦礫が宙を舞う。

 

 その一瞬の隙に、タナクが前へ。

 シールドアームを変形させ、プラズマ弾を撃ち込む。

 だがジェラルドは盾を半回転させて衝撃を吸収、姿勢を崩さずに剣を滑らせるように振る。

 

「……遅い」

 

 彼の声が低く響く。

 フラウの幻影が背後から襲いかかるが、ジェラルドは動じない。剣を振り抜くと、幻影が散る。次の瞬間、実体のフラウが右側から飛び出す――だがその動きすら、彼は読んでいた。

 

「虚像を重ねるとは面白いが、解析済みだ」

 

 盾の表面が一瞬輝く。

 光学解析フィールドが展開し、フラウのステルスパターンを即座に分解する。そのままシールドを突き出し、衝撃波が走った。

 

「ぐっ……!」

 

 三人が同時に距離を取る。

 その隙にジェラルドのバイザーが点滅した。

 通信回線の奥で、フェルナンドとオーレンの生体信号が“消失”していることに気づく。

 

「……ちっ」

 

 わずかな苛立ちが、表情を歪めた。

 彼の左目のHUDには、二人の戦闘データが記録されている。

 死亡時の反応波形――そこには見覚えのあるパターンがあった。

 

「これは……フォトン干渉波? いや、違う。もっと精密だ」

 

 ジェラルドの声が低くなる。

 

「デコヒーレンスを起こさせたのか?? ちっ……エクスマキナの分際で随分と小賢しい策を……」

 

 即座に状況を理解する。

 対アセンション・システム兵装――機構に干渉し、共振を破壊する対抗兵器を奴らは作り出した。恐らく沢山あるわけではないようだが、何も知らないフェルナンドたちはそれを使われて死んだ。

 

(デコリッパーは間違いなく主力メンバーに渡してる、ならこいつらが使う刃や弾頭を絶対に受けてはならない)

 

 スジュラが再び前へ。

 槍の穂先が紫の光を帯びていた。

 ジェラルドの目が細まる。

 

「来たな……」

 

 スジュラは叫ぶ。

 

「食らえぇぇぇぇッ!!!」

 

 彼女の全身から火花が散り、推進フィールドを最大出力。

 空間が歪むほどの加速で突進する。

 

「ふん!!」

 

 ジェラルドはそれを真正面から見据え――身をひねり、盾を斜めに構える。槍の穂先が掠める瞬間、シールドの駆動部を最大振幅に変え、反射波をぶつけた。

 

 火花が弾け、空気が爆ぜる。

 互いの装甲が衝突し、金属の悲鳴が鳴り響いた。

 

「やはり仕込んでいるな……?」

 

 ジェラルドは素早く後退し、腕部を変形。

 両腕の外装がスライドし、内部からガトリングバレルが展開される。

 

「ならば距離を取らせてもらう」

 

 無数の光弾が放たれた。

 爆撃のような連射が廃墟を貫き、地面を抉る。

 スジュラは身を翻し、タナクが前に出て防御フィールドを張る。

 

「クソッ、前に出られない!」

 

 タナクの声に、フラウが冷静に応じる。

 

「分かった……正面からは無理。意表を突くわ」

 

 彼女の身体が揺らめき、ステルスモードに移行。

 数体の幻影が散り、三方向からジェラルドを包囲する。

 その動きを見て、スジュラが小さく頷いた。

 

「フラウ……そういうことね」

 

 タナクがエネルギーシールドを重ね、正面の注意を引きつける。ジェラルドの視線がわずかに逸れた、その瞬間――

 

「今だ!」

 

 フラウの幻影が四方同時にジェラルドへ襲いかかる。

 実体を掴ませぬ攻撃に、彼のシールドが一瞬反応を遅らせた。

 

 スジュラが突進。

 槍の穂先が再び紫光を放つ。

 その光には――殺意が宿っていた。

 

(当たれ)

 

 そう願ったがジェラルドは抜け目のない男だった。

 

「衝撃波が盾からしか出ないとでも??」

 

 次の瞬間――ジェラルドは部屋全体を一気に吹き飛ばすような衝撃波を全身から放つ。3人はなすすべなく巻き込まれてしまう。

 

「くそ!!」

 

 悪態をつくスジュラをよそに、ジェラルドは口を開いた。

 

「全く機人の底知れなさには驚かされる。我々のアーマーを簡単に崩す新兵器を数日かからず作るとはな、ティムルの失態は死罪じゃ償いきれん」

「……は、だがこの程度のアーマーで機人に勝つつもりだったのか? アタシら程度に解析されるなら、地球外の機人に勝つのは不可能だろ」

 

 スジュラはタナクを立たせつつ、アーマーの脆弱性を指摘する。地球外の機人は謂わば今も続く機人と人間、そして人間を生かすべきと考える機人の中でも最上のクラスと、人類の文明を殺した機人のグループによる小競り合いの最前線にいる存在だ。

 

 エクスマキナとは違い、基礎的なスペックも高く、カテゴリーも8以上がゴロゴロいる。そんな連中と殴り合いの戦争をする上で、自分達みたいに戦闘用が少ないグループに解析されるようじゃ対抗できないのは当たり前の事だった。

 

「は、我々がずっとこの仕様だと思ってるのか? 弱点を突かれたら我々は何度もアップデートをしている。このアーマー自体も何回かバージョンを変えているに決まっている」

 

 しかしジェラルドはそんなことなんか知っていると断言した。

 

「お前たちはずっと地球にいるから知らないだろう、我々がどれほどの危機感を感じて……日々を送っているのか」

「知らなくて当たり前だ、それに……危機を招いてるのは自己責任だろう? 大人しく同じ人ともわかり合い、機人にも理解を示せばそうはならなかった」

「はっ、バカか。俺が言ってるのはそうじゃない」

 

 タナクが言うと、ジェラルドは薄ら笑いを浮かべた。

 

「お前たちも他人事じゃないぜ、この太陽系はそう遠くない内に終わりを迎える」

「何を言って……」

 

 フラウが疑問を口にした瞬間、ジェラルドは言った。

 

「太陽系の深淵で……デミウルゴスが目覚める。我々を滅ぼしたかつての厄災が……再び人類に災禍をもたらすのだからな」

 

 

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