人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた 作:アスピラント
次は朝7時あたりに投稿します
視界が閃光で焼ける。
床を蹴る音と同時に、ドレイクの拳が迫った。
ボクはルキオスを水平に構え、金属と金属の擦れる音を耳で追う。刃と光がぶつかり、瞬間、目の前が白く染まった。
直後、ドレイクの足が回転し、踵が横薙ぎに飛ぶ――そこからレーザーが放たれた。
「フッ……!」
咄嗟に身を翻し、床を滑る。
焦げた瓦礫の匂いが鼻を刺した。
(……近接の合間に熱線。しかもタイミングをずらしてくる)
ルキオスの表面にフォトン波を走らせながら、ボクは息を整えた。奴のアーマーの構造は、まるで流体のように変形している。動作のたびに光子層が膨張し、腕の関節から熱波が迸る。
(あれを完全に制御している……やっぱり隊長を務めるだけあって手強い)
ドレイクの動きは、機人のそれに近かった。
人間の限界を超えた動体反応、そして瞬間的な転移――フォトンを媒介にした短距離ジャンプを披露しながら、ボクの知覚を振り切る勢いで素早く動く。
「どうした? カテゴリー10とは名ばかりか」
挑発混じりの声が苛立つが、冷静さを失ってはいけない。
ドレイクの掌が輝き、鋭い光線が放たれた。
ボクは跳躍してかわしながら、床に着地して反撃。
ルキオスの刃が閃く――けれど、ドレイクは刃の軌道を完全に読み、身体を傾けて紙一重で避ける。
その一連の動作が滑らかすぎて、本当に驚く。
(……まさかデコリッパーの干渉波を感じ取ってる!?)
ボクの手に伝わる微振動――つまりデコヒレーションを起こすための刃の機能を見抜いていると予想した。
もしかしたら奴が付けてるバイザーでフォトンの周波数を解析し、接触そのものを避けているかもしれない。
(察しがいいのが腹立つ、こうなったら無理やりにでも隙を作って一撃入れるしかない)
ボクは距離を取り、ルキオスを後方へ収める。
ナノボット生成ユニットを展開し、両手を掲げた。
さらにフォトンを収束――白亜の輝きが形を成す。
(いつものでいくか)
両手にブラスターピストルを作り、引き金を引きっぱなしにすると銃身が光を放つ。トリガーを引くたび、連射された光弾が一直線にドレイクを狙う。
「芸がないな」
だがドレイクは、空間を一瞬歪ませ、弾道を回避した。
光の残滓だけを残して、別の位置に再出現する。
「……厄介だな」
ボクは歯を食いしばる。
戦闘中に、ここまで緻密な転移を繰り返せる相手なんていなかった。というよりワープに近い事をされるのが初めてだ。
「ふん……」
ドレイクが、薄く笑う。
その声は静かで、どこか人間離れしていた。
「これでカテゴリー10……? 本当にそんなものなのか?」
「言ってくれるね……!」
ボクが返そうとした瞬間、ドレイクの周囲に青白いフォトンが集束した。空間が脈動するように震え、床面に円形の陣形パターンが浮かび上がる。
――嫌な予感がした。
ドレイクの両腕が広がり、声が低く響く。
「だが油断は出来ん、覚醒される前に潰すとしよう」
アストレイア・ヘリオクスの装甲が光を放ち、
背部ユニットが分離していく。
そこから分かたれたフォトン粒子が凝縮し、
人の形を取り始めた。
「なっ……!?」
ボクの目の前で、ドレイクが3人になった。
幻影ではなく完全に実体を持った分身だった。
「「「言っておくが全て同じ実力であり、同じ武器を使える」」」
両方が同じ表情で、同じ声で言う。
「「「持ち堪えられるかな」」」
圧迫感が一気に増す。
視界のすべてを、白と青の光が支配した。
3人のドレイクが同時に熱線を放ったのだ。
(空気が焼けてるみたいだ)
凄まじい熱量を前に、ボクは焦りを覚えた。
だが無常にもドレイクたちが同時に放った熱線が、まるで巨大な溶断機みたいに大地を削っていく。
この場で出来る事は悪あがきぐらいだ。
(避けられないなら仕方ない!)
ボクは歯を食いしばり、瞬間的に判断した。
右脚に出力を集中――地面を全力で叩き割る。
「……ッ、はあああああああッ!!!」
地響きが走り、床の岩盤がひび割れ、巨大な破片が宙を舞う。それを蹴り飛ばし、目の前へ放った。
次の瞬間、岩塊が熱線とぶつかり合い、爆発。
衝撃波と煙が生じ、光が拡散した。
(今しかない!)
ボクは煙の中を駆け抜ける。
フォトン駆動ユニットを最大稼働して一瞬で加速する。
ルキオスの刃が輝き、デコリッパー・モードが作動した。
「ゼァアアア!!」
振り抜くと同時に確かな手応えを感じる。
しかし――
「な……」
けれど、斬った相手はドレイクの分身だった。
刃が当たった瞬間、分身の身体がざらざらと崩れ、光子の粉となって消えていく。
「……なるほどな」
残る2体のうちの本物が、低く笑った。
その声には、分析を終えた者の余裕があった。
「今のは、対アーマー用の兵装か。フォトン結合を断ち切る波長を纏っている。この短期間で開発するとは……流石は機人というべきか」
ドレイクの装甲が光を放つ。
青と白の光が交差し、床に伸びる彼の影が、禍々しいほどの存在感を放っていた。
「だが機人優勢の時代は終わる、ナハトアという成功例によって、我々はついに機人討滅の道筋を掴んだ」
「……何?」
ドレイクの言葉はとてもでまかせには聞こえなかった。
「だから思い知らせる、機械は人の下で生まれたツールに過ぎない。そこに生命や尊厳は存在しないと」
そう言い放った瞬間、ドレイクの姿がふっと掻き消えた。
次に見えたのは真横だった。
「ッ――!」
反応するより早く、拳がボクの腹を貫いた。
拳の中心から放たれる光――それは、圧縮されたエネルギー弾。
「ぐっ、あ……!!!」
衝撃が身体を貫き、視界が跳ね上がる。
ボクの身体が宙を舞い、背中から瓦礫に叩きつけられた。
アーマーが軋み、感覚センサーが警告を鳴らす。
(……っ、速すぎる……!)
目の前のドレイクが、ゆっくりと拳を下ろす。
その青白い光の中で、彼の輪郭が歪むように見えた。
「この戦いが終わった後、人類と機械の戦争は大きな転換点を迎えるのだ」
* * *
その名が発せられた瞬間、空気が一変した。
――デミウルゴス――
それはスジュラたちにとって未知の名だった。
昔……人類が保存した資料の中にある神話の中に同じ名前の存在があったが、間違いなくそれとは違う。
「デミウルゴスって、なんの話よ」
スジュラが問いかける。槍を構えたまま、眉間に皺を寄せた。ジェラルドは睨みを効かせたまま語る。
「さっき言った以上のことは俺も知らない、ただ全ての諸悪の根源だというのは確実だ」
「……そんな存在、我々は知らなかったがな」
フラウが短く息を呑む。
ジェラルドは笑った。
その笑みは、呆れに近かった。
「知らないだと?? 同じ機械の分際で情報統制までしてるのか! くはっ! 貴様らが壊した癖に、見なかった事にするとはな!」
タナクが苦々しい声をあげた。
「我々は人と生きる事を選んだグループだ、太古の昔に災禍をもたらした機械とは違う」
「同じだよ……機械風情が。俺たちは事実……厳しい戦いに身を投じられている。貴様らがもたらした殺戮の下で生まれた先祖が、更に愛する人たちの犠牲を重ねてまで築きあげた国の下で生まれ、悍ましい歴史を聞かされてきた!!」
ジェラルドのバイザーが赤く光った。次の瞬間、彼の背部スラスターが開き、空気が唸る。
「同じようなことは引き起こさせない!! 機械共と……そんな機械共に絆された奴らは同罪だ!! 人のために死ね!!!」
青白い閃光が走り、戦場が咆哮を上げた。
鋼と炎の嵐の中、スジュラが一歩踏み出す。両脚の駆動音が低く響く。
「仕方ない、全開でいくよ!」
彼女の背後に黄金の光が花開く。
「システム・オーバーロード――アーチェイ・カシル!」
瞬間、彼女の背中に羽飾りを模したエネルギーフィンが展開された。黄金の光が尾を引き、彼女の体が宙を滑るように浮き上がる。バトルマスクが展開し、彼女の瞳が獰猛な光を宿した。
続いて、タナクが重低音のような声で呟く。
「システム・オーバーロード、バハ・ネアル」
重厚な装甲が隆起し、全身を包み込む。胸部と肩部には太陽を象った紋章が光を放ち、背中からは揺らめくエネルギーマントが展開されるとトマホークが唸り、赤く灼熱する。
フラウも静かにマスクを外し、代わりにフルフェイスバイザーを装着。
「システム・オーバーロード――レヴェリア・ハイト」
空間が一瞬、歪んだ。
彼の姿は薄膜のように揺らぎ、光学迷彩と共にその存在が霞む。フラウはステルス特化型――その本領をようやく解放したのだ。
ジェラルドはそれを見て、薄く笑う。
「全て潰して、俺たちは勝利を刻む」
彼の剣が光を帯び、盾が変形を始める。
白銀のルーメン・キャヴァリエールが再構築され、剣身は倍以上に巨大化。彼が一歩踏み出すたびに、地面が砕けた。
「人類の栄光のため!!」
剣が唸りを上げた瞬間にタナクがトマホークで迎え撃つ。
衝突音が地下に響き渡り、衝撃波が走った。
スジュラがその隙を突いて突進、槍の穂先に電光を纏わせる。
「アタシらを侮るなぁぁッ!!」
「!」
ジェラルドが盾を前に突き出し、フォトンの衝撃波を放つ。
光の奔流がスジュラを呑み込みそうになるが、彼女は脚部スラスターで急上昇し、真上から急降下した。
槍の穂先が盾に突き刺さり、フォトンが炸裂する。
「……っ」
ジェラルドの瞳が見開かれる。
槍の内部に仕込まれたデコリッパー機構が作動し、盾のフォトン結合が分解されていく。
スジュラの声が轟いた。
「その盾邪魔だからよォ! ぶっ壊しとくわ!」
盾が爆ぜた。
ジェラルドは即座に手を離し、腕部を装甲で再構築。
「退け!!」
スジュラの体を掴み、地面に叩きつける。
凄まじい衝撃がはしり、床がひび割れ、施設全体が震動した。
「オオオオ!!」
タナクが吠えるように突撃し、巨斧を振り下ろす。
ジェラルドの剣とぶつかり、火花が爆ぜる。
フラウは光学迷彩を駆使して後方に回り込み、狙撃態勢に入った。
「フラウ!!」
タナクの声に反応し、フラウが引き金を引く。
放たれた弾丸が空を裂き、ジェラルドの肩を正確に撃ち抜いた。
「ぐっ……!」
鮮血と火花が飛び散る。ジェラルドの右肩装甲が砕け、剣の保持が一瞬緩む。
だがその一瞬で十分だった。
タナクがトマホークを全力で叩き込む。
ジェラルドが体勢を崩し、足元の床が耐え切れずに崩落を始めた。
「くっ! 道連れだ……!」
彼の声が地鳴りに飲み込まれ、全員の足場が崩れた。
瓦礫と共に落下するスジュラ、タナク、ジェラルド。
落下の衝撃の中でも、フラウだけは冷静だった。
彼は崩れゆく足場を飛び石のように跳び移りながら、落ちていくジェラルドに照準を合わせた。
「もう1発……!」
轟音とともに、一発の弾丸が放たれる。
実弾、しかも特殊弾頭。大口径の弾丸がジェラルドの肩を貫通し、血煙が弾けた。
「……っ、フッ……!」
呻き声を上げながら、ジェラルドは姿勢を崩す。
そのまま青白い閃光を残して、暗黒の地下空間へと先に落ちていく。
轟音が止むと、地下に落ちた空間は一瞬の静寂に包まれた。
鉄骨が軋み、崩落した瓦礫の破片が、時折、乾いた音を立てて転がる。
「まだ奴は死んでない、追うよ!!」
「「ああ」」
スジュラは息を荒げながら、壁面の岩盤に指を突き立て、体を支えた。タナクがそのすぐ下で、片腕を使って体勢を保ち、フラウは軽やかに着地していた。
「……奴は?」
「……あの瓦礫の向こうだ」
スジュラが荒い呼吸のまま返す。
彼らのすぐ下、崩れた床の瓦礫の下で、何かが蠢いた。
次の瞬間、粉塵を吹き飛ばしながら――ジェラルドが立ち上がる。
その姿に、三人の視線が集中した。
彼の左肩から先は、ほとんど千切れかけていた。裂けた装甲からは青白い火花と血が交じり、光の滴が床に落ちていく。
「まだ……動けるのか」
フラウの声に、スジュラが苦く笑った。
「満身創痍って言葉、奴には通じなさそうだ」
ジェラルドは、血を含んだ唾を吐き捨てるように床に叩きつけた。その瞳は血走り、理性の欠片も残っていない。まるで獣だった。それでも、瞳の奥には確固たる信念の炎が燃えていた。
「この命が尽きるまで……俺は戦い続ける、そう……約束したらのだ……!!」
彼は右手の剣を構え――そして、左肩を見下ろした。
「どんな手段を使ってもな……!」
次の瞬間、無造作に剣を振り下ろした。
「――ッ!!?」
スジュラの目が見開かれる。
ジェラルドはためらいもなく、自らの左腕を切断した。血と火花が一瞬、滝のように散る。
するとジェラルドは切り落とした腕を、まるでゴミを捨てるようにスジュラたちへ投げつけた。
「これをやるよ……!」
「なっ――!」
左腕が空中を回転しながら飛来する。
スジュラが反射的に避けようとした瞬間、ジェラルドの唇が動いた。
「――起爆」
閃光と轟音がスジュラ達を飲み込む。
切断されたアーマー自体が炸裂し、周囲に凄まじい爆風が広がった。
「くっ……!!!」
スジュラが咄嗟に腕で顔を庇うが、衝撃で吹き飛ばされる。
タナクは爆風をまともに食らって青い血と機体の一部が吹き飛び、フラウの装備は破壊されてしまい、ライフルが粉々になる。
「オオオオ!!!」
煙の中から、影が迫る。
ジェラルドだった。
右手に握る剣を振りかざし、フラウへ一直線に斬りかかる。
「フラウ!!」
スジュラの叫びも間に合わなかった。
鋭い袈裟斬りが、フラウの両腕を切り裂いた。
金属音と共に、断面から火花が散る。切断された腕が床に落ちた。
「――ぁ、ぐ……!」
フラウが膝をつく。
ジェラルドは剣を振り上げ、今度こそトドメを刺そうとした――。
「やらせるかぁッ!!」
スジュラの叫びと同時に、彼女の手から放たれた槍が飛ぶ。
槍の軌道はわずかに逸れたが、その穂先がジェラルドの剣を弾き飛ばした。
鋼が甲高い音を立て、火花を散らす。
「……チッ!」
ジェラルドは舌打ちすると、代わりに拳を振りかざした。
次の瞬間、その拳がフラウの頭部を殴りつけた。
鈍い衝撃音。
フラウの身体がぐらりと揺れ、床に崩れ落ちた。
「フラウ!!」
スジュラが駆け寄ろうとした瞬間、視界の端で閃光が走る。
ジェラルドが彼女に向かって突進してきた。
膝が突き上げられ、スジュラの腹部にめり込む。
「――ッ!」
衝撃で身体が浮き、数メートル吹き飛ばされる。
瓦礫に叩きつけられたスジュラの喉から、青い液体が飛び散った。
「てめぇ……!!! いい加減……死にやがれェ!!!」
スジュラは荒い息を吐きながら、震える腕で地を掴む。
もはや身体が思うように動かなかったが、それでも彼女は立ち上がった。
「ウォォオオオオ!!」
彼女は壊れかけた槍を構えた。
ジェラルドが嘲るように笑い、前に出た。
「ぶっ壊す!!!」
次の瞬間、二人の影がぶつかった。
拳と槍が交差し、金属が軋む音が響く。
ジェラルドの圧力は凄まじかった。彼の身体はもはや限界のはずなのに、力は増していた。
火事場の狂気――あるいは、生きながら燃え尽きようとする命が生み出した覚悟の力が上乗せされていた。
「く……!!」
スジュラの拳がジェラルドの顎を掠めるが、すぐに捕まれた。彼の手がスジュラの首を掴み、容赦なく締め上げる。
「機人に呼吸は関係ないが、それでも無理矢理引きちぎれば話は違う、そうだろう!!?」
ギチリ、と嫌な音がした。
スジュラの首が捻られ、視界が揺れる。
ジェラルドの指先が装甲を突き破り、人工筋肉に食い込んでいく。
「う、ぁ、ああああ――ッ!!」
悲鳴が地下に響く。
その瞬間――ジェラルドの視界は揺らぎ、意識がぼやけた。
「ッ――!?」
ジェラルドの頭部に巨大な何かが突き刺さっていた。
押さえ込まれていたスジュラが目を凝らすと、突き刺さっていたそれはタナクのトマホークだった。
「終わりは……貴様だ……!」
青い血を流し、右目が潰れたタナクが、片腕で構えた姿勢のまま立っていた。身体は満身創痍で今にも倒れそうだった。
「……ウラァァアアア!!」
するとスジュラが怒号とともに、ジェラルドの頭に突き刺さっていたトマホークを深く突き刺した後、引き抜いてジェラルドの首を跳ね飛ばした。
「人も同じだろ……?」
血飛沫を辺りに撒き散らし、頭がなくなったジェラルドは崩れるように前のめりに倒れた。ようやくくたばった――と認識した瞬間に、タナクは膝をつく。
「……ぐ」
「タナク……! ごほっ……! うぐ……!」
スジュラも咳き込みながら地に膝をつき、青い血を拭った。
「爆風をまともに食らって、この程度で済んだのは……多分フラウの弾でいくらかアーマーが剥げていたからだな……」
「……帰ったら直してもらおう」
「ああ……とりあえず、この身体だと碌に戦えない」
スジュラはタナクを支えて、壁に寄りかからせる。
かなり手強い敵だった。
アルタが倒されるのも納得の強さだった。
「……は、何が起きた……」
「フラウ……!」
遅れて意識を取り戻したフラウが弱々しく言葉を口にすると、スジュラが駆け寄る。
「……倒したのか?」
「なんとか、フラウも両手やられたから……まずは安全な場所まで退くよ」
「……くっ、もうあんなしぶとい奴と戦うのはごめんだぞ」
「ははっ、本当だよ……ったく」
スジュラはフラウを立たせると、2人でタナクの肩を支えながら地下から退却する。
「皆……ジェラルドとか言う、エリュシオンの戦士は倒した」
そしてスジュラは勝利を皆に伝えると、先に行ったベガを思う。
(増援は……いや、回せるとしたらユアンぐらいか。とにかくあとは親玉だけだぞ、ベガ)
スジュラはユアンにも連絡を入れつつ、後を託す。
「絶対、アルタを助けろよ……ベガ」
* * *
瓦礫の中に横たわったまま、ベガは荒い息を吐いていた。
視界がぐらつき、焦げた金属と焼けたオゾンの匂いが鼻を刺す。地面は抉れ、空は崩れ、ドレイクの放つフォトン粒子が空間を歪ませていた。
(……ボク、は……どうしてこんなに弱いんだ……最高峰の機人じゃないのか……?)
拳を握ろうとして、ベガは手の震えに気づく。
自分の中に渦巻く何か――それが暴れ出すことを恐れて、いつも力を抑えてきた。
だが、その代償として、いつも誰かが傷ついていた。
スジュラたちも、アルタも……。
今も、ベガは地に転がったまま、あの時と同じ無力さを噛み締めていた。
ふと視線を上げると、ドレイクが歩いてくる。
その周囲に立つ五体の分身――それぞれがフォトンとナノ粒子から構築された、完全なる実体だ。
三体から五体に増やしたという事はいよいよトドメを刺しに来たらしい。
「死ね」
五人のドレイクが一斉に拳を構える。
白と青の輝きが、夜明けのように戦場を照らした。
(ボクは……どうして、いつも……)
脳裏に浮かぶのは、アガトで暴れていた自分とナハトアを倒した時の自分の姿だ。
あの時は確かに“本当の力”を出していた。
けれど、それは怒りと絶望がすべてを塗り潰していたからだ。誰かを守りたいなんて思考すら消え、ただ壊すことだけを考えていた。
(でもそれが、ボクの本質なのか?)
胸の奥が焼けるように痛んだ。
怒りからじゃない、恐怖からだ。
自分自身に対して抱く底のない恐怖だ。
「……違う」
ベガは小さく呟いた。
その声が、煙に飲み込まれそうになる。
「違う」
本当のボクは、そんなものじゃない。
兵器じゃない。破壊者じゃない――何度も呟く。
「怖がっていたからなんだ、ボクが弱いのは」
地に手をつき、ゆっくりと身体を起こす。
ルキオスを握る手が震えていたが、ベガは深呼吸して、光刃を消した。
(システムとか、記憶がないとか言い訳するな、ならばなぜ本来の力が出せてる。それはボク自身が勝手に使えないと考えていたからじゃないのか?)
動力炉が静かに鼓動を刻む。
それは恐怖を鎮め、意識を研ぎ澄ませる音。
エネルギーが静かに唸りを上げ、ベガの全身に白い光が流れ始めた。
(もっと自分を信じるんだ、自分は強いって……ちゃんと思わなきゃ力なんて出せない。それは人も同じ事)
意識を切り替える事が必要だ――ベガの纏う空気が変わった。
「……む」
ドレイクの声には、僅かに警戒が混じっていた。
ベガは目を閉じた。
光が、心の奥から滲み出る。
白炎――純粋なフォトンエネルギーが両の手に宿った。
その炎は怒りではなく、静寂から生まれた光。
暴走ではなく、制御。
破壊ではなく、守護。
(ボクは兵器なんかじゃない。愛する人を守る――そのために生まれたんだ)
次の瞬間、五人のドレイクが動いた。
一斉に放たれる熱線。
それは空間を裂き、地面を溶かしながらベガを包み込む。
「消えろ――!」
ドレイクの声が響いたのと同じタイミングでベガは動いた。
「フッ!!」
白炎を纏った両手が交差し、熱線を受け止める。
轟音と共に爆発が起きるが、その中心に立つベガの姿は揺るがない。彼女の周囲の空間が、まるで時間を遅らせたように静止していた。
「なっ……!」
ドレイクの驚愕が聞こえる。
白炎が弾け、ベガの姿が消えた。
次に見えたのは、分身の一体の頭部が吹き飛ぶ瞬間だった。
「ハァ――――!!」
白い光の軌跡が走る。
拳が振るわれるたび、爆音が響く。
分身たちが一体、また一体と崩壊していく。
(こいつの中で何かが変わった!! いや……心理的な変化でここまで変わるのか!?)
ドレイクが警戒を強める。
彼女の動きは滑らかで、正確で――何より、無駄がない。
怒りに任せて突撃していた頃のベガとは違う。
今の彼女は、完全に己を制御していた。
「ハァァアアア!!」
ベガが白炎を纏った拳で最後の分身を叩き潰す。
光の残骸が霧のように散り、ドレイクだけが残った。
「チィ!!」
ドレイクが背部ユニットを展開する。
多連装ロケットランチャーが姿を現し、肩部装甲が開く。
両手の砲口がチャージを始めた。
エネルギー値が急上昇し、周囲の大気が震える。
「まさか覚醒したのか……!」
ドレイクが両腕を広げる。
轟音とともに、ロケット弾の群れが発射された。
同時に、両手から極太の熱線が放たれる。
地面が裂け、建物が消し飛び、廃墟都市の一角が一瞬で白く焼け落ちた。爆風が世界を飲み込み、光がすべてを呑み尽くす。
だが――その炎の中を、白い影が走った。
ベガだ。
白炎を纏った身体が、爆炎の中を縫うように駆け抜けていく。ロケット弾を蹴り上げ、爆風を利用して跳躍し、残光の軌跡を描きながら、ドレイクの目前に迫る。
「いきなり強くなったわけじゃないよ」
白い光が再び形を取る。
光子で構築された
「ただ……これが本来の自分だった、それを段々と思い出してきただけなんだ」
ドレイクが剣を振り上げて防御するが、ベガは踏み込みと同時にルキオスの出力を上げた。刃が光を放ち、瞬間的に伸長する。
「なっ――!」
ドレイクの胸部装甲を斬り裂く。
鋭い音と共に、フォトン粒子が飛散する。
デコリッパー機能が作動し、装甲の結合が崩れていく。
「……チッ……!」
ドレイクはすぐに後退し、アーマーの破損個所をデータ修復しようとした。
だがベガの追撃は止まらない。
光刃が次々と閃き、刃と刃が交錯するたびに装甲が斬り飛ばされていく。
「おのれ……!!」
ドレイクが歯を食いしばる。
HUDに警告が点滅する。
彼は一瞬、通信ラインを開き、アルタのデータ改竄プログラムの進行率を確認した。
――進捗:70%。
(もう起動するしかない……!!!)
ドレイクの手がホログラムを展開する。
そこにはアルタのデータが映し出されていた。
「させるかよ!!」
ベガが叫び、ルキオスを構える。
ドレイクが起動キーを入力しようとした瞬間――白い閃光が走った。
「ガ……!!」
ルキオスの刃が、ドレイクの右腕を切断した。
「うぐ……ぉおお!!」
悲鳴にも似た金属音。
切り落とされた腕が宙を舞い、ホログラムが弾け散る。
ドレイクが咄嗟に分身を前に出現させ、直撃を防ごうとしたが、遅かった。光刃はすでに本体をも斬り裂いていた。
「ぐっ……あああああああッ!!」
ドレイクの胸部装甲が崩壊し、光の破片が四散する。
分身も次々に歪み、消えていく。
ドレイクの息が荒くなり、片膝をついた。
「お前の負けだ……ドレイク……!」
ベガはルキオスを構えたまま、静かに彼を見据える。
「負け……ね……」
だがその直後、彼の口元が歪んだ。
笑っていた。
血を吐きながら、嘲るように笑ってから言った。
「……まだ確信するには早いぞ」
突如――金属が軋むような、不吉な音が響いた。
ベガは反射的に顔を上げ、音のした方向へと身を向ける。
崩れかけた瓦礫の向こう、白煙を裂いて現れた影を見てベガは固まる。
「まさか……」
そこに立っていたのは、灰色のアーマーを纏った青年だった。アセンション・システムによって形成された戦闘用の外装は、ドレイク達のとは違って、どこか無機質で、生命の温度を拒むような冷たい灰色をしていた。
背中からは、金属質の翼が展開され、光の粒子が舞っている。彼の髪は淡い灰色に染まり、黒い瞳には何の感情も映っていなかった。
「……アルタ……?」
ベガの声が震える。
青年――アルタは、確かにそこにいた。
けれど、その姿はもう彼女の知るアルタではなかった。
無言のまま、機械の翼をわずかに広げると、冷たい目を彼女に向けた。
ようやく1章も終わりが近づいてます。