人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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次回で1章は終わります


帰還の勇士

 戦場を焦がすほどの高熱が吹き荒れていた。

 黒煙が立ちこめ、地面は幾筋もの焦げ跡で刻まれている。

 その中心で、ドレイクとユアン・ルゥが対峙していた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 ドレイクの装甲は既に限界を迎えていた。

 ベガの猛攻、さらにユアンとの戦闘。

 もうここから自力で勝つのは不可能だった。

 

「……終わる、訳にはいかない」

 

 ドレイクの声はかすれていた。

 だがその目はまだ、闘志の光を失っていない。

 対するユアン・ルゥは、無表情に見える機械の瞳を静かに輝かせていた。

 

「いんや王手だ、だから大人しくしてくれよ」

「戯言を――!」

 

 ドレイクが叫ぶ。

 背部のブースターが火を吹き、疾風のように間合いを詰めて殴りかかる。

 

「やけになったのかい」

 

 しかし、ユアンの反応はそれよりも速い。

 彼の周囲に薄く透明な幾重もの結界が展開され、衝撃波が弾けた。金属音と共に火花が散り、ドレイクの拳は弾かれる。

 

「っ……!」

「さっきから逃げに入ってるだろう」

 

 ユアンは淡々と呟き、杖の先端を地面に叩きつけた。

 そこから放たれた青白いエネルギーが大地を裂き、ドレイクの足元を吹き飛ばす。

 

 爆風が巻き起こり、土煙が二人の間に広がる。

 ドレイクは転がりながら立ち上がった。

 

(もう少し近づけば……圏内に入る。そうすれば装着出来る)

 

 彼は逃げるつもりだった。

 アークブリンガーを着るには一定以上近づく必要がある。

 ユアンはまだアークブリンガーの存在をはっきりと認知してないらしく、ドレイクのみに意識を集中していた。

 

(今なら……いける!)

 

 そして活路を見出した。

 

「機人風情が、俺を見下ろすなッ!」

 

 彼は見せかけだけの暴言を吐いた後に再びスラスターを吹かし、ユアンを飛び越えていく。そして続け様に制御装置を起動し、指先でコマンドを走らせた。通信回線の奥で、低い唸り声のような反応音が響く。

 

「一体何を――」

 

 ユアンが何かを言いかけると、咄嗟に身体の周りにシールドを張った。ドレイクの背後から巨大なロボットが見えた後、こちらに砲撃をしてきたからだ。

 

アークブリンガー……!」

 

 ドレイクが右手をかざすと同時に、機体の眼部が赤く光った。

 無人操縦モードが作動し、巨腕が音を立てて持ち上がる。

 次の瞬間、空間が歪むほどの光束がユアンへと放たれた。

 

 ユアンは瞬時に複数の防壁を展開する。

 エネルギーの奔流が直撃し、周囲一帯が光に呑まれた。

 地面が抉れ、衝撃波が山を削る。

 

「なるほど、太陽系での宇宙空間の戦闘ではこいつを活用してるわけか」

 

 ユアンの言葉に、ドレイクは嗤った。

 

「お前如きに見せるとは思わなかったがな……、だが……これ以上長居は無用だ」

 

 炎の中から姿を現したドレイクが、再びコマンドを叩く。

 アークブリンガーの巨体が膝を曲げ、熱風を巻き上げながら彼の元へ着地した。

 ドレイクはその脚部装甲に手をかけ、まるで宿主へ還るように内部へ滑り込む。

 

 接続音が鳴り響く。

 コクピット内で彼の神経が直接コアとリンクし、視界が一気に拡張する。全身が金属の巨躯に溶けていくと、アークブリンガーのコアが閃光を放つ。

 

「数だけは鬱陶しいね!」

 

 全砲門が展開し、光線の嵐がユアンを包み込んだ。

 ユアンは防御障壁を最大出力で維持しながら、目を細めた。

 

「しかし妙な動きをする、出し惜しみしてるのかな?」

 

 エネルギーが拮抗する。

 だがその瞬間、アークブリンガーの機体が急上昇した。

 ドレイクは攻撃を中断し、推進出力を最大まで上げる。

 炎の尾を引きながら、巨大な機体は雲間を突き抜けていった。

 

「……なるほど最初から逃げる気か」

 

 ユアン・ルゥが小さくため息をつく。

 光の残滓が空に消え、焦げた大地だけが残る。

 彼は静かに杖を地に突き、通信リンクを開いた。

 

『よかったぁ……! 本当に……!』

『生きててくれて……よかったです! 本当に……良かった……!」

 

 アイラの声。続いてノラの歓喜の叫び。

 通信の向こうでは、笑いと涙が入り混じっている。

 

(そっか……そっちはうまく行ったんだね、良かった良かった)

 

 ユアンの表情が少し柔らかくなった。

 ただ最後の仕事が残っている。

 

「おぉ、聞こえてるか? いやぁ、よかったよかった! ベガ、アルタ、アイラ、ノラ、全員無事みたいだね!」

 

 アルタが「ああ」とそっけなく返す。

 彼にベガとアイラ、ノラという昔馴染みをぶつけたのは大正解だった訳だ。

 

 だがまだ最後の仕事が残ってる。

 

「喜んでるのが無線からでも伝わってくるよ。ほんと、おめでとう。で……だ、悪いんだけどさ……アルタ、復帰早々で申し訳ないんだけど、今あの空飛んでる鉄の塊、撃ち落としてくれない?」

『おいユアン、復帰直後に無茶振りすんなよ』

 心底参ったように言ってるが、声色から余裕の色が見えた。

 

「いやぁ~頼れる男が戻ってきたからさ。期待してるよ……ベガの英雄さん」

『……ったく』

 

 渋々と言った様子だが、この時点でユアンはアルタは地球の外で戦える力を身につけたと確信した。若干の遠回りはあれど、結果的に彼は人と機械の力を手に入れた。

 

『――よし、行こう』

 

 2人のやり取りを聞いた後、少し離れた場所から2つの小さな光が下から登ってきた。それらはまっすぐにアークブリンガーに向かっていく。

 

 ユアンは遠い目をしながら眺めて言った。

 

「いけ、星の名を持つ勇士よ」

 

 君たちの行く末に幸あれ――と。

 

 

           *  *  *

 

 

 アークブリンガーは成層圏の縁へ抜けようとしていた。脚部フラップが自動で閉じ、推力配分が上昇巡航モードに切り替わる。機体内の圧力がわずかに変化し、コクピットの計器群が「LINK STABLE」「CORE SYNC 92%」の緑を並べた。

 

(この戦域で得た情報は必ず持ち帰る。次は勇者” を前面に出せばかてる! 特にあの機人とアルタは、正面から叩き潰し、アルタは完全に回収せねば!)

 

 ドレイクは奥歯を噛み、出血で濡れた舌を押さえつけた。胸部の痛みは増しているが、神経接続が痛覚を鈍らせてくれる。彼は視界の周縁に流れる地表パノラマを小さくし、航法経路を外縁軌道のランデブーポイントへと引いた。

 

 その瞬間――機体全体が、杭で打たれたようにビクリと跳ねた。

 

《ALERT:REAR ARMOR HIT/VECTOR 184-352/ΔE=2.8MJ》

《Rear fin array—unstable/Attitude correction engaged》

 

「……何だと?」

 

 ドレイクは反射的に姿勢制御を優先。胴体をひねるように180度ロールし、後方をカメラズームで舐める。青黒い空に敵影はない。遥か下方、廃墟都市リュドラの瓦礫模様が、夜の灯をまばらにまたたかせているだけだった。

 

(地上からの対空射撃……いや角度が違う。上から撃ち込まれた?)

 

 前方へ視界を戻す。――そこで、ドレイクは息を呑む。

 

 白い光の羽根が、夜空に花火の残光のような弧を描いていた。フォトンの微粒子が尾を引き、翼膜の一枚一枚が透明な刃のようにきらめく。翼の中心には細身の機人――ベガ。彼女は無言のまま、燃えるような白光を背にたたえてこちらを見据えている。

 

 その隣には、灰色の鋼鉄で組まれた多関節の翼。強度リブが脈動し、表面を走る回路の光が呼吸のように明滅する。翼の主は人間――アルタ。かつて着せられたアセンション・システムと同質の機能を、別種の技術で再構成したようだ。

 

(バカな、どうやって――いや、そんな事よりも不味い……!)

 

 ドレイクが分析にかかる一秒よりも速く、通信波が空気を震わせた。

 

「「お前は絶対に逃がさない!」」

 

 ベガとアルタ、二つの声が重なる。

 次いで、翼が弾けた。

 

 視界から消えた、と思った瞬間、アークブリンガーの頭部ビュレットに衝撃が走る。ドレイクの眼前でHUDが割れ、警告が真紅に切り替わった。

 

《CRITICAL:HEAD UNIT—STRUCTURAL FAILURE》

《Optics lost/Primary sensor offline/Switching to auxiliary》

 

 音が遅れてくる。機体前面が豪快に凹み、装甲が剥離する鈍い悲鳴。ベガとアルタの拳が、左右から同時に面を潰したのだ。頭部外殻のセラミック層が粉砕され、内部の光導波路が露出、火花が散る。

 

「くっ……!」

 

 ドレイクが姿勢を戻すより早く、白い残光が横滑りで回り込む。ベガだ。彼女は空中で身体を捻り、両腕を閃かせる。無から白亜のブラスターピストルが生成され、二挺の銃身が瞬時に過熱した。

 

「――!」

 

 連射。光弾は点ではなく線になり、顔面の破口から機体内部へ豪雨のように注ぎ込む。遮蔽が剥げた可動カメラが次々と焼き切れ、サーボの信号が断たれて痙攣した。

 

《INTERNAL DAMAGE:HEAD BUS/SUB-ROUTER #2,#5,#7 LOST》

《Cooling request overload/Declined》

 

 機体の首が、だらりと垂れる。反射的にドレイクは胴体センサーへ切り替え、ジャイロを手動で補正、翼で姿勢を持ち上げた。だがその死角にアルタがもう食い込んでいる。

 

「そこだ」

 

 彼の前腕が厚みを増し、拳骨の外装が開いて内側の砲身が回転を開始――拳のガトリング。短距離用の散弾式フォトン打撃器。回転数が上がるほどに生成弾の密度が増し、衝撃波が拳の周囲に薄い圧縮層を作った。

 

 至近距離、面で叩くように機体胸甲へ浴びせる。火花ではない、白い噴煙が立つ。装甲の分子結合が剥がされ、歪み、めくれ上がる。連打のベクトルは一点ではなく、常に数ミリずつ角度を変えている。応力線が途切れ、補修アルゴリズムが追いつかない。

 

《ALERT:CHEST ARMOR—ADHESION FAILURE》

《Local field coherence ↓ 41%》

「小癪なぁあああ!!」

 

 ドレイクは咆哮とともに反撃に転じる。胴体側面のビームユニットが開き、周囲へ無差別に掃射。空間が白熱し、空気が爆ぜた。ベガの翼が熱の層に触れてゆらぎ、アルタの銀灰の翼にも損傷が及ぶ。

 

 しかし二人は止まらなかっま。

 ベガが上、アルタが下、円軌道と直線を交互に織り、アークブリンガーの視界が戻らない今……攻め切るには今しかない。白い光と灰の衝跡が三次元の編目を作り、そこに巨体を絡め取る。

 

「下がれ、ベガ!」

 

 アルタが短く叫び、両腕の強化が第二段階へ移行した。前腕外殻がさらにスライドして厚みを増し、拳面に薄い六角格子が浮かぶ。拳を握るたび、格子が収束して衝撃孔を形成、圧縮された熱がにじむ。

 

 踏み込んで右ストレート――拳の背後で、炎柱が上がる。推力を拳撃へ重畳した推進合成打撃。拳が胸甲へ沈み込み、内部のリブをまとめて叩き折る。続けざまに左――二連。衝撃の余波が遅れて広がり、機体の背が弓なりにしなる。

 

 アークブリンガーの内部で、赤いコアの脈動が乱れた。ドレイクの視界に赤い雪が降る。血ではない、データのスパーク。彼は歯を食いしばり、推力を腹部側へ逃がして降下を打ち消そうとする。

 

 そこへベガが滑り込む。彼女は二挺のブラスターピストルを回転させるように再形成し、片方の銃身を細長いルミナスブレードへ転化。もう片方の銃は維持したまま、ブレードで前腕の関節部を水平に薙いだ。

 

 白い線が一瞬だけ空へ刻まれ、次いで金属の悲鳴。右腕の肘節が断たれ、肘から先がぶら下がる。同時にピストルが肘の内側へ光弾を連打、切断面へ追い打ちの熱を叩き込む。関節の再接合が間に合わない。

 

《RIGHT ARM—FUNCTIONAL LOSS》

《EMERGENCY BALANCE MODE》

 

 機体が傾き、姿勢制御が飽和する。揚力のベクトルが乱れ、巨体はゆっくりと失墜軌道へ乗る。ドレイクは必死に尾翼だけで持ち直そうとするが、その尾翼にベガの翼が高速で掠り、フォトンの糸で縫い留めるように切り刻んでいく。

 

「落ちろ!」

 

 アルタが最後の一撃に向けて、拳の内圧を極限まで上げた。拳面の格子がひとつ、ふたつと消える――それは面積を縮め、圧力を一点に集中するための準備だ。

 

 ベガが正面から、アルタがやや下から。二人の軌道が一点で交わる。拳と拳は交差せず、巨体へそれぞれ別の角度から打ち込まれる。胸甲と腹部、その両方の荷重経路へ同時に圧が入る。

 

 バギィン――と鈍い破砕音が、空の広がりを一瞬だけ無音にした。

 

 アークブリンガーの胴体が、内側からへしゃげる。コアを包むケーシングに蜘蛛の巣状の亀裂。赤い光が漏れ、次の瞬間に消えた。推進噴流が断たれ、巨体は完全に浮力を失う。

 

「ぐ……ここまで、来て……俺は……俺は……!!」

 

 もはやなす術が無い。

 自由に動かせなくなったアークブリンガーはただの的となった。

 

「動け、動け!」

 

 震える指でコントロールを叩く。

 何も反応しない。

 HUDは赤一色に染まり、神経リンクは切断されていた。

 それでも彼の瞳だけは、戦意を失っていない。

 そして、その視界の先――二つの輝きが近づいてくる。

 

 灰色と白。

 夜空の中、流星のような光跡を残しながら、二つの影が交錯していた。

 

「……不味い……!」

 

 ベガとアルタだ。

 彼らの身体から、眩いフォトンの稲光が迸っている。

 アルタの身体には灰色と黒の稲妻が奔り、ベガの翼には白と水色の輝きが走る。異なる色の光が絡み合い、まるで陰と陽がひとつに溶け合うようだった。

 

「アルタ、いける?」

「ああ」

 

 二人の言葉が同期する。

 次の瞬間、ベガとアルタは両脚に全出力を集中させた。

 フォトンがまるで星のように輝くと、下から見ていたドレイクは2つの流れ星が迫ってくるように見えていた。

 

「やめろォォォッ――!」

 

 ドレイクの絶叫。

 しかし、もはや止まらない。

 

「「ハァァアアア!!」」

 

 重力を断ち切るかのように、二人は一気に急降下した。

 脚を突き出し、まるで神罰を下す雷のような光の矢となる。

 白と灰の残光が交差し、一瞬だけ世界が静止したように見えた。

 

 そして――轟音が天地を貫いた。

 

 アークブリンガーの胴体中央に、二人の蹴撃が同時に突き刺さる。次の瞬間には爆縮とともに内部のコアが暴走を起こした。紅い光が一点に凝縮され、限界を超えた圧力が金属を内側から破裂させる。

 

 視界を白光が覆い、音が消える。

 やがて世界が閃光の中で弾けた。

 

「――――!!」

 

 空を覆い尽くすほどの閃光が、夜のリュドラを昼のように照らした。爆風が雲を突き抜け、地表の瓦礫が宙に舞う。白と灰の光が渦巻きながら広がり、遠くから見る者にはまるで巨大な花が咲いたように見えただろう。

 

 その光景を、リュドラの地上から多くの者が見上げていた。

 

 戦闘の終結を知らされるように、戦場は一瞬だけ静まり返る。負傷兵たちは手を止め、空に輝く二重の光の輪を見つめた。

 

「……きれい……」

 

 呟いたのは、メディックの少女。

 彼女の隣ではアンドロス将軍が腕を組み、険しい顔のまま空を見上げていたがその瞳の奥には、わずかに安堵の光が宿っている。

 

「終わったな……ついに」

 

 少し離れた場所では、スジュラとタナク、そしてフラウが休息用の簡易テントの外に出ていた。スジュラは口を半開きにして空を指差す。

 

「……あれ、ベガとアルタか?」

「うん……だと思う」

「はは……よくやったな、マジで」

 

 爆風が届く。

 地表に微かな熱風が吹き抜け、光がやがて沈静していく。

 空には淡いフォトンの粒子が漂い、夜空に溶けるように消えていった。

 

 そして――最後に。

 

 崩れた建造物の影、瓦礫の上に並んで立つ二つの影――アイラとノラも同じように見ていた。

 

 二人は互いに肩を組み、光の残滓が降る空を見上げていた。

 頬には涙の跡があり、息を吸うたび胸が震える。

 ノラが小さく笑い、アイラがそれに応える。

 

「……やっと、アガトの仇を取ったね」

 

 アイラの声は掠れていた。

 ノラはゆっくりと頷く。

 その横顔は、どこか誇らしげで、どこか寂しげだった。

 

「アルタ、ベガ……」

 

 アイラが空を見上げる。

 灰色と白の残光がまだそこにあった。

 それはまるで、永遠に交わることのない二つの流星が寄り添っているようだった。

 

「……やっと結ばれたんだね」

 

 言葉が風に溶けていく。

 夜空の高みに、淡く光る残滓がひとつ流れ落ちた。

 漸くアルカディストから始まったこの戦いに、終焉が訪れた瞬間だった。

 

            *  *  *

 

 ドレイクを倒した直後――残っていたアルカディストの部隊は蜘蛛の子を散らすように逃げ出したが、逃げ場はなかった。リュドラ全域を包囲していた俺たちの部隊がすぐさま包囲網を狭め、ユアンとアンドロス将軍の指揮のもと、残党はすべて捕縛、もしくは制圧された。

 この間に何人か暴れる者もいたが、全て問題なく対処された。

 

 そしてユアンたちは早速現地の調査を始めていた。

 エリュシオンの聖戦士たちが残した兵器、資料、データなどは機人達が次々と回収していき、念入りに解析していくとの事だった。

 

 だが彼らが地球にやってくる際に使っていた宇宙船に関しては、全く収穫は得られなかった。なぜならドレイクたちが息絶えた瞬間、艦体のコアから自己崩壊プログラムが走り出したのだ。

 制御不能のまま構造が崩れ、内部データや解析可能な機器は灰燼に帰した。あれほどの技術を、指先からすり抜けるように失ったのは正直痛かったとユアンは語った。

 

 ドレイクを地球に寄越した人物、そしてエリュシオンの本部から送られているだろう記録は手に入れる事は出来ない。捕虜になっているティムルから情報を聞こうにも、彼女に仕込まれた口封じが解除出来てない以上は何も出来なかった。

 

 そして俺たち――俺は捕まっていたから、活躍もクソも無いが、戦いの主力として活躍したベガやスジュラ達はというと――

 

「サングラールの英雄の帰還だ!!」

「よくぞお戻りで!!」

「「「万歳!!!」」」

 

 サングラール王国の首都――ヘリスへと帰還すると、いきなり歓声が押し寄せた。街の人々が広場に集まり、俺たちを迎えてくれた。兵士たちは敬礼し、女や子どもたちは笑いながら手を振っている。

 

 誰もが「英雄が帰ってきた」と言って、盛大に出迎えてくれたのだ。

 

「えへへ……なんか、いいね。持て囃されるって悪くないかも……」

 

 ベガは少し照れたように笑いながら、俺の隣で手を振った。

 アイラとノラもドヤ顔で胸を張り、スジュラやタナク、フラウまでもが肩を並べて笑っていた。

 共に生き延びた仲間たちが、今ここにいる――それだけで、俺も胸が熱くなった。

 

「……お前たちがいなければ、我々は壊滅していただろう。心から感謝する」

 

 アンドロス将軍が俺に頭を下げて感謝を述べた。

 最初の頃は敵かと疑ってしまったが、今じゃ信頼出来る友人と思ってる。

 

「そんな大層なもんじゃない。ただ、やることをやっただけだ」

「それで十分だ」

「捕まってたけどなー」

「うっさいスジュラ」

 

 全く耳の痛い事を……。

 だけど事実だから強く反論は出来なかった。

 

「おかえりなさい!」

 

 そのまま王都の中央広場へ移動すると、待ち構えていた市民たちが一斉に花弁を撒いた。空を舞う花びらが光を反射し、まるで祝福の雨のようだった。

 

(……やっぱり、生きてるって素晴らしいな)

 

 青空の下で照らされる花びらを見ながら、改めて生きてることへのありがたみを心底味わった。同時にこうも思った。

 

(もっと強くならなきゃな……)

 

 何せ俺とベガの旅はまだまだ続くからだ。

 

 ――その日の夜。

 

 俺たちはそのままの勢いでリグラン3世主催の宴に参加することになった。久しぶりの温かい料理、仲間の笑い声、そしてベガの微笑みを堪能しながら、俺は皆と一緒に広場でどんちゃん騒ぎをしていた。

 

「ベガ良かったねぇぇ〜っ! アルタと幸せになりなさいよーっ!」

「ケリー……そんな大袈裟にしなくても」

「するわよ! 私にとって貴女は娘みたいなものよ!」

 

 ケリーに至っては、もはや俺とベガが祝言をあげたような口ぶりだ。だけどこの世界自体……ポストアポカリプス世界だから、結婚とかにあれこれ手続き必要とかはない。実際将来を共に過ごすという意味では変わらなかった。

 

「よっ、英雄さん」

「アルタ、乾杯」

「お……スジュラ……とタナク、お前にいきなり無表情で乾杯して来られたら、何か変な感じだな……」

 

 ケリー含めたアガトの生き残りの人たちにもみくちゃにされるベガを見ていると、いきなりスジュラとタナクがやってきた。今思えばこの2人がいなかったら俺はとうの昔に死んでいた。

 

「身体の具合はどうだ? アルタ」

「問題ないよ、それより……フラウは大丈夫か?」

 

 俺が捕まってる間、スジュラ達と同じコレクティヴにいるフラウという男が、随分と頑張ってくれていたらしい。そんな彼は俺をぶちのめしたジェラルドに、両手をぶった斬られた。

 いくら機人とは言え、さすがの俺も心配していたを

 

「大丈夫大丈夫、今は修復用ナノボットで腕は生えるから」

「大事をとって数日は休むがな」

「そうか……直りそうなら良かった」

 

 ほっと一息つくと、スジュラが真剣な表情をする。

 

「所でアルタはよ、()()()()()()って聞いたことあるか?」

 

 今までにないトーンだ。

 デミウルゴスという名前は知っている。

 確かプラトンの……何かに出てる神様の名前だ。

 

「……神話とかに語られるような奴だった気が」

「あーそうじゃなくて、機人とかAIの名前で思い当たるのはないか?」

「ないかな、そいつがどうした?」

「ジェラルドがよ、こう言ったんだ――我々を滅ぼしたかつての厄災が……再び人類に災禍をもたらすのだからな――って」

 

 ジェラルドの声を録音していたのか、そのまま奴の声でスジュラが話す。やばそうな存在はわかるが、俺は初耳だった。

 

「……知らないな……、人類を滅ぼした機械ってやつか」

「太陽系の深淵とも言っていたが、ジェラルドはその情報について深いところまでは知らないようだった」

「ティムルにも聞くつもりだが、まぁ……大した情報は得られないかもな」

 

 とスジュラとタナクは語るが、俺はふと気になった。

 

「機人側こそ知らないのか?」

「知らん、つーか人類を直接追い詰めた奴なら、アタシらよりずっと昔からいる奴じゃなきゃ知らない。人類と機械の最終戦争……ハルマゲドンが起きた時代って言ったら、多分地球に当時の事を知る機人はめちゃくちゃ少ないと思うな」

「……そうなのか」

 

 少なくとも3000年以上前の事だ。

 名前だけでも頭に入れておく事にする。

 

「まだまだわからない事とか、やらなきゃいけないこと沢山あるな……」

「それは仕方ない、この世界は不安定だからな」

「アタシらも明日からは普通にパトロールあるぜ、全く嫌になる」

 

 平和な時間ほど短いのはなぜだろう。

 俺は深いため息を吐くと、隣にベガが座る。

 

「アルタ」

「ベガ」

「なーに3人とも真面目な話してるのっ、今はそんな話はしないっ!」

 

 ベガはニコニコ笑いながら俺たち3人に酒を渡す。

 

「ベガ……俺たちはまだやる事が――」

「わかってるよ、別に全てが終わったわけじゃないのは!」

 

 ベガは俺と向き合う。

 相変わらず綺麗な顔だった。

 

「でも休める時は休まなきゃダメ、体だけじゃなく心も! 特に今は必要だよ」

「……まぁ、確かにな」

「でしょ? ほら……スジュラもそう思ってる。多分タナクも」

 

 ベガはそのまま俺の手を握る。

 余計な一言かもしれないが、タナクは無反応だぞ。

 

「辛い事以上に、幸せな時間や楽しい時間も必要。だから今日は……楽しもう」

 

 張り詰めた気持ちをベガはゆっくり解きほぐす。

 ああ……そうだな、今日ぐらいは素直に楽しんで良かったんだな。

 

「よぉぉし!! じゃあ捕まっていたけど、最後だけ美味しいとこを持っていた英雄アルタに乾杯!!」

「「「乾杯!!!」」」

「スジュラ! お前俺が気にしてるとこいじんな!!」

 

 いきなりテンションを上げたスジュラが、俺のことをいじって皆を盛り上げる。でもそうやって俺の失態をうまく笑いに変えて、落ち込みすぎないようにしようとしてるのはわかった。

 

(本当……俺は恵まれすぎてるな)

 

 だからこそ俺は、この平和な時間を噛み締める事にした。

 ちなみに皆とは普通に朝になるまではしゃいでたせいで、スジュラ達がパトロールに遅刻したのはまた別の話だ。




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