人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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今回はちょっと甘めです。


ベガの思慕

「――アルタ、あのプーパだ」

「ああ、わかってる」

 

 果てしなく広がる荒野、俺とベガは自分の背丈より高い枯れ草の中に隠れながら地平線の彼方を睨む。視線の先には呑気に決められたルートを周回している自由意思無き機械兵器――プーパがゆっくり歩いていた。

 

 アガト付近じゃ見ない胴体をいくつも連結させた多脚索敵型プーパ――サラダポダルサだ。ムカデを思わせる異様な細長い機体を、漆黒の装甲殻で覆い、節ごとに赤い光学センサーを瞬かせながら荒野を這っているのが特徴だ。従来型の鈍重な二足歩行とは違い、地面を撫でるように高速巡回しながら攻撃してくるため、初見だとまず大苦戦は必死だ。

 

「……厄介そうだな」

 

 小さく舌打ちし、右腕を持ち上げた。肘から先の装甲が音もなく分解し、無数の銀色の粒子へとほどける。

 

「新兵器、試運転には丁度いい」

 

 そこで俺つい先日、闇市で手に入れた光学兵器――多層収束光砲を()()()で読み取り、解析した設計データを脳内から呼び出し、機械化された神経回路が即座に構築手順を演算して再び掌に作り出した。

 

 ナノマシン粒子が渦を巻き、骨格を形成し、次いで水晶のように透明な砲身を編み上げていく。光を閉じ込めた結晶格子が内部で淡く脈動し、完成と同時に低い駆動音を響かせた。

 

「行くぞ」

 

 神経信号を送った瞬間、砲身の結晶格子が眩く輝いた。

 

 ――来る。

 

 サラダポダルサの胴体節が一斉に軋み、赤い光学センサーがこちらを捉える。ぼさっとしたら蜂の巣にされかねない反応速度だ。見た目がマジできしょいが、舐めたらやられる。

 

「ベガ!」

「任せて!」

 

 草叢を蹴散らし、ベガが正面から飛び出す。空中で両手を振り抜くと、青白い光が凝縮し、刃の輪郭を持つ。

 

(どこぞの○イトセーバーなんだか)

 

 ベガが新しく手に入れた武器――ルキオス。

 きらりと光るそれは鋼鉄でさえバターのように切り裂く。

 

「ギギギギ……」

 

 予想通りサラダポダルサは最も目立つ熱源へと標的を変更した。胴体が蛇のようにうねり、地面を抉りながら一気に距離を詰める。

 

 ……いい囮だ。

 

 俺は膝をつき、砲身を安定させる。

 同時に、体内で別の感覚が目を覚ました。

 

 ドレイクとの死闘のあと、俺の肉体はもう半分以上、人間じゃない。骨格は強化合金に置換され、内臓はフォトンを蓄える炉心に置き換わり、神経は光信号で走る。

 

 そこにエリュシオンのアセンションシステム由来のアーマー機構まで取り込んだ事により、俺は機人と人類のテクノロジーの双方を扱える可能性を持った、極めて特異な存在となった。

 

 もはや転生特典みたいだな――と思ってしまうぐらいの大盤振る舞い。これなら両親を見つけるのも楽勝だといきたかったのだが……。

 

(あの時は無我夢中だったけど……武器構築ガチでムズイ!!)

 

 ベガが苦戦していた理由がわかった。

 武器に限らず、複雑な構造体をナノ粒子で作る時に大事なのはイメージだ。だが人間の頭で複雑な機構を持つ()()の武器を作るのは不可能だ。これはかなり参った。

 

 そのため俺が取った手段は手に入れた武器を解析し、それを元に新しく作るという方法だ。これはドレイク戦後に出来るようになった新しい力だ。

 

 この力を使えばイメージは出来なくても解析さえすれば作れる――と思っていたのに。

 

 掌の中で完成したはずの多層収束光砲がわずかに歪んだ。

 

「――っ」

 

 結晶格子の一部がノイズを帯び、光が乱反射する。ナノマシン粒子の結合が不安定だ。演算は通っている。設計図も完璧なはずなのに、現実の構築が追いついていない。

 

 砲身がきしりと軋む。

 

(焦るな焦るな……!)

 

 その間にも、サラダポダルサはベガを追い詰めていた。地面を削りながら胴体をしならせ、節の隙間から小型の迎撃ドローンを射出する。

 

「ちっ……数が多い!」

 

 ルキオスで叩き落としながら、ベガが叫ぶ。

 そして一瞬、俺の方を振り返った。

 

「アルタ、構築ミスってるでしょ! 一回退く?」

 

 心配そうな声が聞こえてきた。

 

「いや」

 

 だが俺は歯を食いしばり、砲身を握り直した。

 

「このまま続けてくれ。誘導頼む」

「……了解!」

 

 ベガは一瞬だけ目を見開き、すぐに覚悟を決めたように頷いた。次の瞬間、彼女はわざと大きく踏み込み、サラダポダルサの正面へ躍り出る。

 

「ほら! こっちだ化けムカデ!」

 

 ルキオスを振るい、光の軌跡を大げさに描く。

 サラダポダルサの全センサーが一斉に彼女へ向いた。

 完璧なヘイトコントロールと言ってもいい。

 

「さすがだよお前は!」

 

 俺は砲身を支えながら、内部の演算を強引に上書きする。崩れかけた結晶格子を、機械化した神経で直接制御し、再結合させる。

 

(クソ……! 安定しろ……!)

 

 砲身が、再び収束を始めた。

 内部で多層の光輪が回転し、圧縮されたフォトンが臨界点へ達する。

 

「……今だ」

 

 引き金代わりに、神経信号を叩き込む。

 

 次の瞬間――赤いの閃光が荒野を切り裂いた。

 幾重にも重なった光が、一直線にサラダポダルサの胴体を貫通する。

 

「ギィィィ!!」

 

 漆黒の装甲殻が内側から弾け、節が連鎖的に爆散した。赤い光学センサーが一斉に消え、長大な機体が砂煙を上げながら崩れ落ちる。

 

 数秒後――荒野に残ったのは、焼け焦げた金属片だけだった。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 砲身が霧散し、右腕が元の装甲に戻った。

 とりあえず……何とか倒すことは出来た。

 

(慣れしかないか……)

 

 またはベガのように覚醒を期待するか。

 せっかく手に入れた新しい力だ、早く慣れさせたい気持ちがある一方で、俺はあの日以降から続く問題に目を向けなければならない。

 

 その問題とは――

 

「ふぅ、ナイス……アルタ」

「おぅ」

 

 俺は戻ってきたベガと軽くハイタッチでもかまそうとしたが、ベガはそそくさと離れてしまう。

 

(……やっぱり……避けてるよな……)

 

 何故かベガがちょっと申し訳なさそうな顔をしながら俺を避けてることだ。

 

 

          *   *   *

 

 気づいたのは今から3日ほど前の話だ。

 イリオポリを出て、目的の街であるプトレオスに向かう道中――荒れ果てた大地に、キメラやプーパが徘徊する地域を避けるためにちょっと遠回りをしようと考えた時だ。

 

「……ベガ、ちょっと時間はかかるが迂回しよう。プトレオスに着く前にボロボロとか嫌だしな」

 

 双眼鏡を取り出して、キメラの群れを確認した俺は何気なく言った。まぁはっきり言ってただの業務連絡である。だから当然……ベガも「わかった」と普通に返事すると思っていた。

 

「…………ぅん」

「? ベガ?」

「あ、うん、わかった。遠回り、しよう」

 

 めちゃくちゃか細い声で言うもんだから、思わず何かあったと思った俺はちらっと振り向いたが、既にベガはバイクに跨って走り出そうとしていた。

 

(え……何今の反応)

 

 

 ――このおかしな反応はこれだけじゃない。

 

 

「――まさかこんなとこに街があったなんてなー……」

「う、ん」

 

 バイクを走らせて2時間あまり、俺たちは小さな街に着いた。マップには点々と集落があるとは書かれていたが、思いの外しっかりとした街だった。

 

「ひとまず宿を見つけて、装備とかちょっと見てみたいな」

 

 街が意外と栄えてるのを見て、俺はある種の期待感を抱いていた。それはまだ見ぬ武器や装備があるかもしれないという事。

 イリオポリで装備を新調してきてはいるが、俺としては未知の武器――それか面白い武器――があるかもしれないと考えると、見て回らないというのは損だ。

 

「それでも大丈夫か? ベガ」

「ふぇ!? あ、うん……いいよ」

「……?」

 

 何だそのかわいい反応はと思いつつ俺は宿を見つけ、部屋を取る。

 

「2部屋に分けますか?」

「いや1つで大丈夫」

 

 機人の受付の質問に普通に答える俺、そしてベガの方に顔を向けたら――

 

「〜〜〜……ッ!」

 

 紅潮しつつ、何かを堪えるような表情。

 え、まさか……嫌だったりとかするのか――と思ったが、アガトじゃしばらく2人で一緒に寝たりしていたし、恥ずかしいと感じるのはあまりにも今更過ぎる。

 

 別に疾しいことだって……ベガが機人というのもあって人間である俺は何もできないから、何もしてない。ただ一緒にいる事が自然だっただけに、ベガの反応が異様に見えた。

 

「ベガ……?」

「あ、いや、大丈夫! 大丈夫だから! うん!」

「……お、おう」

 

 そんな慌てて言われたら逆に傷つくんだが……とは言えず。

 1つの部屋には決まったものの、寝る時は離れていたりとめちゃくちゃ避けられてるのがわかって、俺はまた落ち込んだ。

 

 

           *   *   *

 

 ――そして今に至る。

 

 

 街に戻った俺は依頼所の端末にサラダポダルサの討伐証明データを送信して金を受け取っていた。

 

「報酬は電子通貨センティアにて支払われます。こちらで取引処理を行ってください」

 

 指示された先にあったのは、ATMに似た縦長の機械だった。端末を接続し、個人識別コードを入力する。

 

 ――承認。

 ――報酬額、転送開始。

 

 淡い光が走り、オムニバンドの内側が一瞬だけ熱を持つ。

 

「よし……入ったな」

 

 金額はそこそこ。新装備の弾薬代と修理費を差し引いても、しばらくは余裕がある。

 

「ベガも確認しとけよ」

「うん」

 

 ベガは素直に頷き、同じように端末を操作する。その横顔はいつも通り落ち着いていて、宿での様子が嘘みたいだった。

 

(本当に、わからん)

 

 依頼所を出た俺たちは、そのまま街の中央通りにある酒場へ向かった。日も落ち始め、人の数が増えてきている。旅人、傭兵、商人、機人。雑多な声と匂いが混じり合っている。正直言って俺はこういう場所は嫌いじゃないし好きだ。

 

 木製の扉を押し開けると、熱気と酒の匂いが一気に押し寄せてきた。

 

「空いてるな」

 

 カウンターの端に腰を下ろし、軽めの酒1つ頼む。ベガの分はジュースにする。

 

「はいよ」

 

 店主がグラスを置く。

 俺は一口飲み、喉を潤した。

 

「はぁ……」

 

 思わず息が漏れる。

 

「やっぱ戦闘後はこれだな」

「アルタ、おじさんみたい」

「うるせぇ」

 

 ベガはくすっと笑った。こうしている分には、いつも通りだ。距離も近いし、視線を逸らしたりもしない。

 

「……あー」

「どうしたのアルタ?」

「武器構築さ、やっぱ難しすぎだろ」

 

 今日の戦闘を思い出しながら言う。

 

「解析した設計図があっても、粒子制御がちょっと狂うとすぐ崩れるしさ。途中で砲身ひび割れかけた時は心臓止まるかと思った」

「見ててわかったよ。ちょっと不安定だった」

「だろ? アセンションシステムの補助がなかったら、撃つ前に自壊してたかもしれん」

 

 苦笑しながらグラスを回す。

 

「ドレイク戦の時は勢いで出来たけど、あれ多分……奇跡に近い」

「でも、ちゃんと倒した」

 

 ベガはそう言って、少しだけ胸を張る。

 

「アルタはすごいよ。その内ボクを抜かすんじゃないかな」

「いやいや、いくらなんでもそれはない」

 

 そう返しつつ、内心では少し救われていた。

 こんな会話が出来ているということは嫌ってるわけじゃない。避けられてる感じも、今はない。

 

 なのになんで宿だとああなるのか……わからない。

 同じ部屋にするって言っただけで、あの反応だ。

 視線逸らすし、距離取るし、布団も最大限離すし。まるで俺が地雷原みたいな扱いだった。

 

(俺、何かやらかしたか?)

 

 アガトの時も、今までも、同じ部屋で寝るなんて珍しくなかった。今さら恥ずかしがる理由が思いつかない。

 

 酒を飲みながら、ベガの横顔を盗み見る。

 いつも通りの表情。落ち着いていて、穏やかで、少し無防備。

 

(……本当に、わからん)

 

 嫌われてないのは確かだ。

 じゃあ、何をそんなに気にしてる?

 俺の視線に気づいたのか、ベガが首を傾げた。

 

「どうしたの?」

「いや……なんでもない」

 

 誤魔化してグラスを煽る。

 とりあえず一通り考えた上で俺の中である仮説が浮かぶ。

 

(まさか前世の記憶……か?)

 

 再び目を覚ました瞬間、俺は恐らく前世の記憶が一部流れ込んだ。そこで見たのはベガに似た顔を持つ女の姿。

 

(あの時、俺はベガと精神的に強くリンクした気がした。おかげで昔の記憶が蘇った。俺が蘇ったのなら……ひょっとしたらベガも思い出したのかもしれない)

 

 ベガも転生してるのかはわからないが、間違いなく無関係じゃない。遥か昔に繋いだ絆が回り回って今に至ったのなら、ベガもどう反応したらいいかわからなくなってるのかもしれない。

 

「なぁ……ベガ」

「ん?」

「何か……俺に対して思うことがあるんだろ?」

「!」

 

 思い切って切り出すとベガは明らかに気まずそうにした。

 恥じらいとはまた別か……否か、それはわからないがベガはとにかく言いづらそうだった。

 

「ベガ、もしかして俺がお前に何か嫌な事を――」

「い、いや、違うよ。嫌なことなんかされたと思うような事はないし、別にアルタが嫌になったわけじゃないんだよ……!」

 

 慌てた様子で嫌いになんかなってないと言う彼女を見て、ひとまず俺はほっとする。

 

 俺は更に続けた。

 

「……その理由って話せる内容か?」

「……ここだと、難しい、人多いから」

 

 チラチラと周りを見ながら気まずそうにするベガを見て、それなりの話題だと判断した俺は、彼女と一緒に宿に戻る。

 

「――大丈夫か?」

「う、ん」

 

 部屋に戻り、俺は真剣なモードに切り替えた。

 おいそれと語れない内容が飛んでくると考えたら、こっちも緊張してきた。

 

「ボクがね……ちょっと避けてたのは……」

 

 俺はごくりと喉鳴らすと――

 

「――したから」

「ん?」

 

 ポショリと話すベガ、いや全然聞こえない。

 

「悪い、聞こえなかった……もう一度……」

「〜っ! は、は、」

 

 ベガは顔を赤くしてから言った。

 

「は……初めて…………アルタと…………キス…………したの、思い出しちゃったから! もう!」

「…………ん?」

 

 転生前の記憶――と思いきや、ベガは予想しなかった事を暴露した。キス……キス……あ、でっかいロボ倒した時の……。

 

「なんか……色々物事片付いてさ……安心して、イリオポリ出た後に思い出したんだ……。あ……そういや、キ――しちゃったて」

 

 モジモジしながらベガは続けた。

 

「それから、なんていうか……なんかこれまで感じたことないぐらい、物凄くアルタを大切にしたい気持ちとか、もっとくっつきたいとか、感情が溢れ出してきて……どうしたらいいかわからなかったの」

「お、おう……」

 

 やばい自分から聞いておいてめちゃくちゃ恥ずかしい。

 鏡を見るまでもなく顔が赤くなってる事実を噛み締めながら、ベガの心情暴露大会を聞く羽目になった。

 

「ほんとはずっといたい、でも恥ずかしいからどうにもならなくて、だけど離れたら申し訳ないし、もう何がなんだか――」

「わかったわかった、ちょっとこれ以上は俺の方が色々持たないから」

 

 目をぐるぐる回しながら早口で喋るベガを制止すると、俺はとりあえずベガの肩に手をおく。ピクンと震えた彼女の頭を俺は撫でながら言った。

 

「あ、あるた」

「ごめんごめん、何か無理矢理言わせたみたいになって」

「……謝るのはボクの方だよ、あんな露骨に避けちゃって……」

「何も悪くないよ、ベガは」

 

 ベガはモジモジしてるが決して嫌がる素振りを見せなかった。俺は大した理由じゃなくて良かったと安心しながらも、彼女の思いに応える。

 

「むしろ……俺はベガがそこまで思ってくれて嬉しいんだ」

「そう……?」

「ああ、大切に思ってくれてるってわかった」

「……この感情ってなんだろ、何か……いつもと同じようで違うの。アルタがすごく…………大切なんだ」

 

 その感情の名は知っている。

 彼女の中にある感情は、きっと俺がずっと抱いてきたものと同じだ。

 

「俺も大切だよ、ベガのことは。はっきり言うと世界より」

「それは……いいこと? 世界滅亡かボクかなら……ボクを取るの?」

「ああ、あまり大っぴらには言えないけど」

 

 なんだかんだで世界も救うつもりではある。

 ただ彼女を死なせないために世界を救うだけだ。

 

「ボクもアルタを取る、アルタと生きたいから」

「……ああ」

「何だろ、さっきまで恥ずかしくて近寄れなかったのに、今は違う」

 

 ベガはギュッと俺を抱きしめる。

 機械だなんて信じられないぐらい、彼女の身体は柔らかくて暖かい。

 

「……アルタ、これが……愛なのかなぁ」

「…………ああ、そうさ」

 

 それからしばらく俺はベガを抱きしめ続けた。

 考えていたこととは違っていたが、俺はもっと深くベガの内側に入れたことがとにかく嬉しかった。

 

 

         *   *   *

 

「――すぅ、すぅ……」

「…………」

 

 ボクは隣で寝るアルタの頬に手を添える。

 今日は思いを素直に言ってスッキリしたのか、前みたいに恥ずかしくて側にいられないという状態にはなっていない。

 

「…………アルタ」

 

 そっとアルタに抱きつきながらボクは思う。

 彼は…………()()()()()()()時からの縁かもしれないと。

 

 あの時……ボクが彼に口付けをした瞬間に、頭の中を見覚えがあるのに、既視感がある光景が流れ込んだ。今よりもっと昔で、機械がまだ生命体になる前の時代でボクとアルタは恋人だった。

 

(あれは……一体なんなのかな)

 

 幻影、もしくは記憶処理の不具合かもしれないが、ボクはあれが不具合によるものじゃないと思っていた。あの記憶が流れ込んでから、ボクはどうして彼に心を開く事が出来たのかはっきりした気がした。

 

(心のそこから愛する人だったからだ、無意識のうちに……ボクは彼に惹かれていたんだ。だから……なんだ)

 

 アルタも同じ記憶を見ているのかはわからない。

 でも見ていてくれたら嬉しいなと思う。

 一度死して、世界が滅んで何年も経ってから再び巡り会うなんて、こんなにロマンチックなことはない。

 

「運命……だったのかな」

 

 かわいい顔をして寝るアルタを見ながら、ボクは笑う。

 運命だなんて、ちょっとロマンスを拗らせすぎだな。

 だけど悪くない。それだけ繋がりが強固であるのが嬉しいから。

 

「ずっと……一緒に」

 

 ぐいっと引き寄せ、彼の体温を感じながら欲張りなボクは思った。人ならきっともっと深く愛しあえたはず、でも機人であるボクには()()()()。それがすごくもどかしい。

 

 いつか身も心も……なんてね――

 

 叶うかはわからないが、いつも出来たら嬉しいなとボクは思って一緒に夜を過ごした。

 

 

          *   *   *

 

 

 二日後――乾いた風に混じって、金属の匂いが鼻を刺した。

 

「……あれが、プトレオス……」

 

 砂塵の向こう、地平線の果てにそれは現れた。

 巨大な金属の花が広がってる――そう形容する以外に思いつかない異様な都市だった。

 

 無数の環状構造が幾重にも重なり合い、花弁のように広がりながら空へと伸びている。外壁を覆う装甲は滑らかな白銀色で、その継ぎ目や溝に沿って金色の光が脈動するように流れていた。まるで都市そのものが呼吸しているかのようにすら見える。

 

 雲を突き抜けるほどの高さを持つ中心塔は、花の雄蕊のように天へ貫き、周囲には無数の構造物が軌道衛星のように巡っている。

 

 サングラールも、イリオポリも十分に発展した都市だったが、こいつに至っては文明の階段を、十段くらい一気に飛び越えているように見えた。

 

「すご……」

 

 隣でベガが、素直に息を呑いた。

 俺も同じだ。言葉が出てこない。

 

「……なんかさ」

 

 ベガがちらりと俺を見る。

 

「ちょっと怖いけど、ワクワクもしない?」

「ああ」

 

 俺は苦笑しながら頷いた。

 

「不安がさほどないんだよな」

 

 胸の奥が、妙に静かに熱を帯びているようだ。

 ナグルファルへの道。親父とお袋の痕跡。デミウルゴス。エリュシオン――いくつも立ち向かわなきゃならない事があるけど、俺は不思議と不安感はあまりなかった。

 

 それはきっとベガのおかげだった。

 

「ボクがいるから?」

「……そうだな」

 

 隣で笑うベガを見て、俺も笑う。

 そう……俺は1人じゃない。

 愛する人がいるだけで、力が無限に湧き出るようだ。

 

「……行こう」

「うん」

 

 そして俺とベガはまっすぐにプトレオスへ向かう。

 何が待ち受けてもきっと大丈夫、そう思いながら。

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