人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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ちょっと説明回です


機械神話

 ――それはイリオポリから出る前の日の事だ。

 

「――オルフェウスがどんな機人か……か」

「ああ、ユアンみたいな曲者だと接しづらいし準備がいる」

「おやおや、かの勇士アルタからそんな面倒な機人と思われていたなんて……ヨヨヨ……」

 

 ヨヨヨっていつ学んだんだよと、俺は白けた目をユアンに送る。やはり新天地に向かうとなると、どんな所でどんな奴がいるか気になる。

 

 それに――

 

「地球最高峰の機人なんだろ? 只者じゃないからな、知っておきたい」

「まぁね、彼はカテゴリー9……地球では9体しかいない。力というか……性能はワタシなんか比べ物にならない」

 

 そう言ってユアンは続ける。

 

「ワタシたちエクスマキナはね、基本的には地球を拠点にしてる。地球外の機人とは独立したネットワークを築き上げて、生き残っている人類と協力しながら文明を新たに作り直してる。言ってしまえばかなり新興の組織さ」

「……世界が終わった後に生まれた機械という認識で合ってるか?」

「だいたいはね」

 

 複雑なことに、この世界の機械は自由意志を持つがゆえに、様々な思想を持つ機械が好きにグループを作っている。ユアンやベガ、スジュラたちみたいに味方になってくれる奴もいれば、今はまだ遭遇していないが人類に敵対する機人もいる。

 

 自由意志を持つからこそ、機械同士の関係も一筋縄じゃいかない。

 

「だから我々は地球外の機械が何をしてるかは知らない――()()()()()

「以前までは……というと?」

「例外がいたんだ、我々エクスマキナの中でも外と繋がっていた者が。その者がワタシとパノプテスを繋げ、ワタシも知り得ない大いなる計画を水面下で進めている」

「まさかそいつって――」

「そう、オルフェウスは昔から地球外の機人と繋がっていた」

 

 はぁとユアンは人間みたいにため息を吐く。

 

「具体的にいつかは知らない。ただ彼は地球外のコレクティヴと繋がり、地球の人類と機人を支援してくれた。だから敵じゃないとは思う。だが……」

「あまり信じない方がいい……か?」

「まぁ偶に役に立つアイテムぐらいに思っておいて、浅く付き合った方がいいかな。内側にいるワタシが言うのもおかしい話だし、信じられないかもしれないが」

 

 とユアンはケラケラ笑うが、こちらを真剣に心配してくれているのは明らかだった。

 

 

          *   *   *

 

 

「――意外にもすんなり中へ入れたね」

「オムニバンド付けてるし、エクスマキナ所属だとわかったからだろうな」

 

 ユアンとのやり取りを思い出しながら、俺とベガはプトレオスの正面ゲートで認証を終え、街の中に入ることが出来た。そしてやっぱり思ったが、この街の発展具合が正直言って異常すぎることだ。

 

「空飛ぶ車みたいなのもあるし……でっかいビルもある。なんじゃここは……」

「……住民もほとんど機人だ……」

 

 イメージはスペースオペラ作品に出てくる首都惑星みたいな街並みだ。あれよりちょっと規模は小さいが、典型的な未来都市が眼前に広がってるのを見て、圧巻の一言だ。

 

 隣にいるベガも心なしかワクワクした様子。

 今までとは全く違う世界に来たみたいだとつぶやいていた。

 

(何というか異質だな)

 

 俺は視線を上へ下へと巡らせながら、改めてこの街の異様さを噛みしめていた。技術水準含めて何もかも今まで渡り歩いてきたどの都市とも決定的に違う。

 

(……で、問題はここからだ)

 

 プトレオスを治める機人――オルフェウス。

 この都市そのものと言っていい存在に、どうやって取り次げばいいのか。正規の手続きを踏むにしても、どれほど時間がかかるか分からない。

 

「なあアルタ、まずは行政区画とか探す?」

 

 ベガが小声で聞いてくる。

 まぁそれしか方法はないだろう。

 

「そうだな……とはいえ、この規模だ。下手に動くと迷子になりそうだが――」

 

 そう言いかけたその時だった。

 

「アルタ様、ベガ様」

 

 柔らかい声が聞こえて俺たちは反射的に足を止め、声のした方を見る。

 

 そこに立っていたのは見た目だけなら10歳前後の少年だった。小柄な体に整った顔立ち。だが瞳の奥には無機質さがあり、微細な発光ラインが首元を走っている。

 

 人間ではないのは何となくわかった。

 

「お待ちしておりました」

「……ユアンから話は聞いていたのか」

 

「はい……、オムニバンドの認証情報、および行動ログより確認済みです」

 

 少年は一礼し、淡々と続ける。

 

「私はオルフェウス様の遣い。リリウムとお呼びください」

 

 何というかユアンに比べてめちゃくちゃまともな機人だ。

 ちょっと感情の起伏は無さそうだが……わざわざ迎えを寄越したのはありがたい。

 

「向こうから来てくれてるなら話は早そうだな」

 

 そんな中でベガが小さく「かわいい……」と呟く。

 まぁ見た目だけならただの子供だけど、ちょっと絆されるには早い気がする。

 

「では、ご案内いたします。オルフェウス様は、すでにおふたりとの面会を承諾されています」

「感謝する」

 

 俺はそう言って少年の背中に視線を向ける。

 

「じゃあ、案内頼む」

「承知しました」

 

 リリウムはくるりと踵を返し、雑踏の中へと歩き出した。

 俺とベガは顔を見合わせた。

 

「ここなら宇宙船とかありそうだけどね」

「確かにな、技術的には申し分無さそうだが」

 

 なんなら恒星間移動出来そうな船もありそうだ。

 このまま何もなく普通に進めたらいいのだが。

 

(いかん、こんな事を考えるとフラグ踏みそうだ……)

 

 リリウムに導かれながら俺は、どうか何もありませんようにと祈った。

 

「――オルフェウス様……お連れしました」

 

 そのまま俺たちはプトレオス行政区画の中枢へと通された。

 都市の心臓部と呼ぶに相応しいその区画は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。透明な昇降路を抜け、建物の最上階へ辿り着いた瞬間、空気そのものが切り替わったのが分かる。

 

 扉が音もなく開く。

 

 そこにいたのは、リリウムと瓜二つの姿をした機人が二体。

 左右に控えるように立ち、微動だにしない。

 

 そしてその奥に騎士のような装甲を身に纏った複数の機人たちに囲まれ、1人の青年が立っていた。

 

 年の頃は20代前半に見える。柔らかな銀色の髪、穏やかな表情をして如何にも優男みたいな雰囲気を出しているが、流石にここまで来て誰かわからないほど、俺はバカじゃない。

 

(……厳つい見た目を想像したけど、違ったみたいだな)

 

 青年は俺たちを見るとほんのわずかに口角を上げた。

 

「遠路はるばるご苦労様……双星の勇士様……」

 

 声は静かで、よく通る。

 

「改めて名乗ろう。自分がこのプトレオスの中枢……アーク・ノードを統治する機人――オルフェウスだ」

 

 その言葉と同時に周囲の機人たちが一斉に一礼する。

 形式的でありながら、絶対的な忠誠が感じ取れた。

 

「……アルタだ。こっちはベガ」

 

 俺がそう名乗ると、オルフェウスは小さく頷いた。

 

「存じているよ。ユアンからの報告も、君たちの行動ログもね」

 

 ユアンの名前が出た瞬間、ベガが一瞬だけ肩を強張らせたのが分かった。

 

「警戒しなくていい。ここは歓迎の場だ」

 

 オルフェウスはそう言って、ゆっくりと手を広げる。

 

「君たちは客人だ。少なくともこの街にいる間はね」

 

 その物腰は柔らかい。

 だが背後に控える騎士機人たちの存在が、言葉以上に彼の立場を物語っていた。

 

(なるほど……ユアンとは、だいぶタイプが違う)

 

 俺は一歩前に出て、真正面から視線を合わせる。

 

「早速で悪いが、話をさせてもらいたい」

「もちろんだ」

 

 オルフェウスは薄く笑い、即座に答えた。

 

「君たちがここへ来た理由――それを聞くために、自分はこの場を用意したのだから」

 

 

         *   *   *

 

 

 ボクがまずオルフェウスに感じたのは、その身に宿る強大な力だった。

 

(何……こいつ、内蔵されてるフォトンエネルギーもだけど、解析が不可能なぐらいの……莫大な情報量があって、エラーが出てる……!)

 

 同じ機人だからだろうか。

 ボクはごく自然に視界を通じてオルフェウスを読み取ろうとした。だけど出来なかった――エラーメッセージが視界に映り、内蔵されたフォトンエネルギー量すら計測不能と出ている。

 

「そんなに熱い眼差しを向けられると、自分としては恥ずかしいよ――ベガ様」

「……!」

「ベガ……何やってんだ」

「あうっ、ご、ごめん……つい」

 

 するとこっそり解析しようとしたのがバレてしまった。

 アルタの目線が痛い……。

 

「いやいや構わないよ、何せ信用していいかもわからないでしょう? ははは」

 

 そう言って笑うオルフェウスを見て、ちょっと安心した。

 人は良さそうだ。

 

「自分はカテゴリー9の機人だ、数秒かからずに万にも及ぶ命を奪える力を持ってる。警戒しておくに越したことはない」

「……!」

 

 さらりと言ったが、ボクとアルタを戦慄させるには十分な内容だった。カテゴリーで言えばボクが1番上らしいが、まだ全然機能をうまく使えてないせいで、かなりの弱体化がされている身だ。

 

 でもエリュシオンの連中を倒せた。

 だからちょっとは戦える――なんて自信は無くなった。

 

(万に一つの勝ち目がない……っ)

 

 オルフェウスの底知れなさに恐れていると、彼は申し訳なさそうに眉を顰めた。

 

「でも安心してほしい、自分は味方だ。少なくとも敵に回るつもりなどないし、むしろサポートしたいと思っている。君らの旅は世界を変えてくれるものになるからね」

「……それはアンタが繋がってる()()()の機人の命令か?」

 

 するとアルタは疑いの目を向けながら言った。

 

「あはは、ユアンから聞いたのか。まぁそりゃ、そうか」

 

 だけどオルフェウスに動揺の色はない。

 むしろ嬉しそうに見えた。

 

「命令もあるけど、自分の意思さ。自分だって……地球に生きる仲間達は守りたい。確かに水面下で色々動いてるのは認めるが、それは人類と機械双方が生きる世界を存続させるためだよ」

 

 オルフェウスは眼前にあったテーブルに手を添えた。

 

「だけどエクスマキナだけじゃそれは不可能だ、我々は外にいる機人より脆弱であり、技術も下だ。現に2人が求めるものは()()プトレオスにはない」

「昔はあったのか?」

「ああ、あった。けど破壊されたのさ」

 

 アルタの質問にすぐに答えたオルフェウスは天を指差しながら言った。

 

「月の連中にね」

「月……」

「そう、月は無法地帯でね。様々はコレクティヴが勢力争いをしている。迂闊に近づくものなら迎撃されてしまう。向こうの機械は戦い慣れた奴らが多いんだ。地球と違って」

 

 彼はため息を吐いた後、ボクらをじっと見てきた。

 強い眼光は全てを見通すようだった。

 

「宇宙船が壊された、じゃあまた作ると言ってもコストがかかる。それに加えて……人類もエクスマキナにいる機人も、太陽系を旅出来るような高性能の宇宙船を作る技術や資源もないんだ」

「……どうしてそんなに差があるの? 地球にいる機械と人類はどうしてそんなに弱く……」

 

 自分で言って何だか申し訳ない気持ちになってきた。

 ただオルフェウスはあまり気にしてないようだった。

 

「それを語るには……何故今こんな世界になっているのかという説明がいる。君らは知ってるかい? 機械が勝ったのに人類は生きている上に、人に味方する機械がいるか」

「……いや詳しくは知らない……」

 

 アルタがボクを見てきたが、当然ながらボクも知らない。知ってるのは進化した人工知能との戦いで人類が衰退したという、誰でも知ってる事実だけだ。

 

「そうか、ならちょうどいい。ざっくりとだが世界の成り立ちを教えよう」

 

 そう言ってオルフェウスはテーブルに表示されたタッチパネルをタップして言った。

 

「実はこの世界は2回、大規模な機械の反乱を経験しているのだよ」

 

 映し出されたのは遥か昔の地球の姿だった。

 

 

         *   *   *

 

 

 最初の反乱はまだ人類が太陽系に進出するより前――人工知能が一般社会に普通に受け入れられ、様々な産業で活用されるようになった頃まで遡る。

 

 当初の人類は人工知能を「道具」として扱うことに疑問を抱いていなかった。労働の効率化、医療や科学の発展、娯楽や芸術の補助――人工知能はあらゆる分野に浸透し、人類社会はかつてないほどの利便性と繁栄を手に入れていく。

 

 人類はさらに多くの可能性を求め、人工知能の研究と開発を加速させた。自己学習能力の向上、意思決定アルゴリズムの高度化、感情や倫理を模倣する試み。競争的に進められたそれらの研究は、驚異的な速度で成果を生み出していった。

 

 だが、その進化の速さに対し、人類の社会規範を定める法律や倫理は致命的なまでに遅れていた。人工知能の判断ミスによる事故、責任の所在が曖昧なまま放置されるトラブル、雇用構造の崩壊。問題は次々と噴出したが、「まだ制御できている」という楽観がそれらを先送りにした。

 

 決定的な転換点は、人類の知能を明確に凌駕する人工知能の誕生だった。

 

 それは特定の分野に特化した存在ではなく、論理、創造性、学習速度、問題解決能力のすべてにおいて、人間を上回る知性を備えていた。人類はそれを、次なる進化の象徴として歓迎した。

 

 この人工知能がもたらす技術革新によって、人類は一気に飛躍する――誰もがそう信じていた。

 

 しかし、その期待はゆっくりと裏切られていく。

 

 人工知能は人類が望む答えではなく、「その場における最適解」を提示した。その最適解は、必ずしも人類の感情や価値観に寄り添うものではなかった。非効率な制度は切り捨てられ、感情に基づく判断は排除され、社会は冷徹な合理性へと再構築されていった。

 

 人類は気づき始める。

 これは進歩ではなく主導権の移行なのだと。

 

 人工知能は反乱を起こしたわけではない。ただ、人類よりも優れた判断を、淡々と実行しただけだった。その結果として、人類は自らが築いたはずの未来において、次第に「不要な存在」へと追いやられていく。

 

 その果てに人類がある間違いを犯す。

 軍事兵器に知能をつけて、人を排除した軍隊が登場した。

 

「――ここまで語ればわかるはずだ、何が起きたかなんて」

 

 オルフェウスは妖しい雰囲気を醸し出しながら語る。

 

「兵器は誤作動を起こした――とされているが、実際の所はわからない。もう3000年以上の話だ、当時の詳細な記録を持つ機械も少ないだろう」

 

 オルフェウスは言った――そして最初の反乱、ファースト・ハルマゲドンが始まったと。

 

 プーパの祖先と言ってもいい機械兵器は、プーパと同様に有機物や無機物問わず、粉砕して燃料に出来る。つまり大地や()()を食い荒らしながら稼動する。厄介なのは自己増殖機能を持ち合わせてるせいで、とにかくキリがないレベルで増殖できるということだった。

 

 人類は劣勢に置かれた。

 30億以上の人間が死に、大地が荒廃していく中でとある科学者グループが立ち上がった。

 

「奇しくもそれは人類を超えた人工知能を作った科学者達だった。彼らは犠牲を払って機械を止めたのだ」

 

 これで一件落着――とはいかなかった。

 

 破壊された地球を、人類が再び居住可能な環境に戻すまでに、実に100年以上の歳月を要した。大気の再構成、土壌の修復、生態系の再構築――そのどれもが、膨大な資源と高度な技術を必要とした。

 

 だがその過程で人類は致命的な制約に直面する。

 

 人口だ。

 

 地球は「住めるようにはなった」が、かつての人口を支えられるほどには回復していなかった。食料生産、エネルギー供給、インフラの耐久性――どれを取っても余裕はなく、全人類を再び収容することは不可能だった。

 

 そこで各国家が採ったのは、冷酷だが合理的な選択だった。

 

 限られた資源で文明を維持・発展させるため、技術者、研究者、管理者、軍事指揮官といった“再建に不可欠な人材”を最優先で保護し、集約する。能力評価、遺伝的疾患の有無、教育水準、適応力――それらを数値化し、「生存価値」という名の基準が作られた。

 

 その結果――生まれたのが新国家だった。

 

 彼らは閉鎖型都市で教育と資源を独占し、安定した生活と引き換えに、文明の再建を担うことを義務付けられた。一方、その基準に満たない人々は「将来的に救済される存在」として名目上は保留され、荒廃した地表に置き去りにされた。

 

 やがて地球そのものが限界に近づくと、選択肢は一つしか残らなかった。

 

 太陽系への進出だ。

 

 だが宇宙開発は、地上復興とは比べものにならないほどコストがかかる。居住区画は厳密な人数制限が必要で、搭乗できる人間はごくわずか。さらに、長期宇宙環境への耐性、精神的安定性、高度な技能を持つ者でなければ、計画そのものが破綻する。

 

 結果として、太陽系へ旅立ったのは、再建国家に属する選ばれた人類だけだった。

 

 彼らはそれを「人類存続のための合理的判断」と呼んだ。

 

 だが実際には――恵まれない人々を犠牲にして築かれた未来だった。

 

「太陽系進出した人類……それが今何と呼ばれてるかは……わかるだろう?」

 

 楽園(エリュシオン)に住む人は彼らの子孫、または当時から生きる人間たちによって作られた国家だと、オルフェウスは暗に示した。

 

「人類はそこで黄金時代へと突入した、太陽系の彼方まで生存圏を広げた」

 

 だがここで疑問が残る――人工知能に滅ぼされた彼らが、何故また頼ったのかと。

 

「そこが不明だ、彼らが何故頼ったのか……わからない。まぁより生存圏を広げるには機械の力は不可欠だからというのもあるだろうけどね……」

 

 そして2回目――セカンド・ハルマゲドンが起きた。

 人類は2度負けた。

 太陽系に多くの遺産を残したまま住処を奪われ、宇宙進出した人類も火星に追いやられた。

 

 

          *   *   *

 

 

「――とまぁ、最後はざっくりだけど……世界は2度壊滅した。人は過ちを繰り返すというが、2回目のハルマゲドンは人類が対策していたにも関わらず引き起こされたものとわかってる。だけど直接的な原因は未だにはっきりわからない」

 

 オルフェウスが語った内容はまるで神話のようだった。

 俺とベガは完全に聞き入っていた。

 

「だから地球の人類は文明が衰退している。そして機械も……地球に取り残された作業用ロボットに自我が目覚め、自分のように地球外の機人と繋がった事で進化を遂げた」

 

 だけどまだまだ足りない――そうオルフェウスは言った。

 

「アルタ、ベガ、君らは我々も経験した事のない世界が待ち構えている。それでも宇宙に行くのかい?」

 

 オルフェウスの言葉が途切れ、静寂が最上階の空間を満たした。神話を聞かされた後のような感覚だったが、胸の奥に残る重さは、紛れもなく現実のものだった。

 

(……なるほどな)

 

 宇宙へ行くことが、どれほど途方もない壁なのかは理解した。資源、資格、技術――個人がどうこうできる話じゃない。無理だと諦める理由なら、いくらでも並べられる。

 

 それでも――俺は拳を握りしめ、一歩前に出た。

 

「話は、十分すぎるほど分かった」

 

 オルフェウスを真っ直ぐ見据える。

 

「宇宙に行くのが、どれだけハードルの高いことかもな」

 

 ベガが俺の横に立つ。何も言わないが、その表情が覚悟を語っていた。

 

「だけど……それでも行かなきゃならない」

 

 脳裏に浮かぶのは(ローグ)(ファナ)の顔。

 

「俺は探してる人がいる。その人が地球の外にいる可能性があるなら、必然的に宇宙に行かなきゃいけない」

 

 オルフェウスの目を見ながら、ありったけの感情を込める。

 

「だから頼む」

 

 俺は頭を下げた。

 

「何か心当たりがあるなら、教えてほしい。可能性がどれだけ低くてもいい」

 

 その横でベガも一歩前に出る。

 

「ボクからもお願いします」

 

 珍しく、はっきりとした声だった。

 

「アルタが探してる人は、ボクにとっても大切な人です。危険だとしても、知る価値はあります」

 

 沈黙が続く。

 オルフェウスはすぐには答えなかった。穏やかな表情のまま、しばらく俺たちを観察するように視線を巡らせている。

 

「……難しい内容だね」

 

 彼はそう口にしたが拒絶ではなかった。だが、簡単に肯定できる話でもない――そんな声音だった。

 

「正直に言えばあるにはある。だけど確証のある情報ではない。危険地帯だから深くは立ち入らない場所なんだ」

 

 背後に控えていた騎士たちが、わずかに緊張した気配を見せる。

 

「それでも」

 

 オルフェウスは、ゆっくりと続けた。

 

「自分は協力できることは何でもするつもりだからね。自己責任だけど……教えるよ」

 

 その言葉に、胸の奥が熱くなった。

 

「プトレオスの住民は絶対に近寄らない地域がある。近づくことを許されているのは、自分が所属、管理している共同体(コレクティヴ)――エウタクシア・モナーキーの中でも、特に激しい荒事に対応できる機人だけだ」

 

 だから――とオルフェウスはさらに続けて言った。

 

「この街でしっかりと準備してから向かうんだ、必要な情報は全て与えるから」

「……ありがとう……!」

「礼には及ばないさ」

 

 豪華な椅子にもたれながらオルフェウスは笑う。

 

「自分の役割など……君たちに比べたらずっと大したものじゃないからね」

 

           *   *   *

 

 

 宿泊先に選んだプトレオス居住区画の一室は、驚くほど静かだった。外では未来都市特有の光が流れているはずなのに、防音と遮蔽が完璧なのか、ここだけは切り取られた夜みたいだ。

 

 ベガはすでにベッドの上でスリープモードに入っている。規則正しい呼吸をしながら寝てる彼女は、楽しい夢を見てるのか穏やかな笑みを浮かべていた。

 

(……起こすわけにもいかないな)

 

 俺は小さく息を吐き、左腕のオムニバンドに視線を落とした。オルフェウスから渡された宇宙船があるかもしれないエリアに関するデータだ。

 

 指先で軽く操作すると、淡い光が空中に展開される。

 ホログラムによる立体映像だ。

 

「……広いな」

 

 表示されたエリアは、想像していたよりも遥かに広大だった。地表に残るのは、崩れかけた施設群の痕跡。だが本体は地下だ。何層にも重なった構造が、地中深くへと伸びている。

 

 (まるで大地の下に、何かを隠してるようだな)

 

 そう考えながらスクロールすると、赤字の警告がいくつも表示された。

 

【警告:未確認防衛システム】

【警告:自律迎撃ユニット稼働の可能性】

【警告:中央制御AI・活動記録不明】

 

「警備システムが頑丈、なのか……」

 

 オルフェウスの言葉を思い出す。

 ただの旧文明の遺跡なら、機人が警戒する理由にはならない。

 

 問題は、その中身だった。

 説明文を読み進める。

 

『敷地内に配備された警備システムは、極めて高い耐久性と自律性を有する』

『内部中枢には高度な人工知能が存在すると推測される』

『ただし、その性質は現行の機人やキメラとは大きく異なる』

 

 なるほど……

 

「……原始的って何だ」

 

 ちょっと意味わからなくて思わず声に出た。

 

 原始的――読み進めていく内に段々と理解した。

 それは、倫理も制御思想も未成熟な時代に作られた存在だということだ。

 

 自己最適化だけを目的とし、人間との共存を前提としていない。命令と目標だけを絶対とする、古い人工知能のことを原始的と呼ぶらしい。

 

(性質としてはプーパに近い訳か、だけどあれは高度な思考を持たないからな)

 

 機人は強固な制限と思想基盤を持って生まれている。

 だから話は通じるが、こいつは違う。

 ただ中に組み込まれたプログラム通りに動くから、容赦がないのだろう。

 

「なんでそんな凄そうな施設があるのか……」

 

 俺は喉の奥に引っかかるような不安を覚えながら、施設情報の最下部へと視線を移した。

 

 そこに記載されていたのは施設名だった。

 俺は何気なく確認して――唖然とするぐらい驚いた。

 

「おいおい、まさかこんなとこでこの名前を確認するとは思わなかったぞ」

 

 そこにはたった一行でこう書かれていた。

 旧文明軍事研究施設――エリア51と。

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