人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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素直になって

 俺とベガの2人で実戦を重ねて更に3年。

 歳は15歳になり、俺とベガの身体も前よりだいぶ成長してきた。俺の身体もだいぶ筋肉が付いてきたし、身長だってめちゃくちゃ伸びた。180センチ近くに到達した時は思わず感動から泣きそうになった。

 

 ありがとう……転生後の肉体、本当にありがとう。

 

 対するベガはというと……胸が大きくなったらしく、出かけた際に薄着になって胸を寄せるポーズをやってきた際は、理性と本能が内戦を始めてしまった。しかしそこは俺もちゃんとしなきゃいけない。手を出すなんてもっての外だし、第一ベガはふざけてやってきただけだ。

 

 本気にしたら痛い目を見る、だから調子に乗ってはいけないのだ。

 

 そんな成長した俺たちだったが、この時どんな感じだったかと言うと――

 

 

「ベガ、3時の方向にキメラ」

「オーケー」

 

 アガトの街付近に現れた暴走したキメラを相手に、改良型アサルトライフルを手にして大立ち回りをしていた。相手をしていたキメラはまるでマンモスのような姿をしている。この時の季節は冬だったのだが、この寒い季節になる山岳地帯に近いアガトの付近にマンモス型のキメラ――ベルクが現れやすくなる。

 季節が変わると出現するキメラが変わるあたり、AIは律儀に季節の変わり目を重んじているかもしれない。

 

「アルタ!」

 

 ベガは山のように積もった雪を蹴飛ばしながら疾走すると、ベルクの身体から発射された球状の爆弾を射撃で撃ち落とす。猛スピードで駆け抜けながら撃っているのに、一切ブレなく標的に当てれるのは、機人ならではの正確さと見ている視界が人間のそれと違うからだ。

 

 彼女の目には視界だけじゃなく五感全てから得た情報が、淡い青色のホログラムとなって浮き出る。足跡のある場所には足の形と行き先が浮かび上がるし、太古の昔にあった人類の建物を見れば、擦り切れた文字が予測変換で浮かび上がる。

 

 まさしく拡張現実機能そのものだった。

 謂わば全自動で機能する超高性能HUDといった所か。

 現場での判断力と解析は、どうあがいてもベガに軍配が上がる。

 

 しかしだからといって俺はベガ1人に任せない。

 相棒は常に一緒に戦うものだからだ。

 

「負けてられないな……これは」

 

 自分に振り返ってきたキメラのレーザー光線を、俺は何とか躱すと最近作ってもらった単発式のハンドキャノンを構えた。イメージするならコンテンダーのようなものだ。尤も使っている弾薬は、機械兵器の内部で作られた奴の流用であり、当たった瞬間に爆裂する凶悪な性能まで付いている。

 人間に使ったら……グロ映像待ったなしである。

 

「これで……決める」

 

 あちこちから煙をあげ、損傷した箇所を自己修復するキメラを見た俺は、人工生体組織が敷き詰められた胴体部と剥がれた装甲の間に、狙いを定めた。内部には心臓と同じ機能を持つ動力炉がある。このキメラはかなり巨大だがハンドキャノンで動力部を破壊すれば1発でお陀仏だ。

 

「うぉ……!」

 

 ただキメラも負けていられない。垂れ下がった鼻で巨木を引き抜くと棍棒のように振るう。距離を詰められたり、俺が放った弾丸を止めようとしているのだろう。だがもう遅い、俺は迷う事なく引き金を引き、キメラの動力部を破壊した。

 

「――――――ッ!!?」

 

 不快な叫び声をあげたキメラは青い液体を吐き出して、小規模の地震を引き起こしながら倒れ伏す。俺はそのまま弾を込めてじっと睨み、キメラが完全に機能停止したのを見届けると込めた弾を取り出してハンドキャノンを仕舞った。

 

「ふぅ……」

「おつかれアルタ」

 

 ぽすんと肩に寄っ掛かる形でベガは労う。

 

「バグったキメラ……普段はほとんど出ないはずなのに、この数ヶ月で5回……。一度こいつを作っているAIのメンテナンスした方がいい気がしてきた」

「確かに言えている。まぁ……こいつらがどの機械の胎で生まれてるかわからないから、どうしようもないけど」

 

 キメラは縄張りに入ってきた異分子や、こちらから攻撃を仕掛けない限りは襲ってこない性質を持つ。あくまでも彼らの目的は惑星環境の整備であり、その行動の邪魔さえしなければ無害な機械生命体だ。

 しかし例外は存在する。彼らは稀に()()()のだ。本来取るべき行動を取らず、周囲を破壊し尽くす恐るべき兵器になってしまうのだ。

 

「正直言ってバグったキメラが増えたらアガトで戦えるの、ボクとアルタだけになっちゃうよね」

 

 帰り道にベガは白けた顔で言った。

 うん、実際の所キメラ相手に無事で済むのは親父を筆頭に、歴戦の狩人だけだ。他にもいたのだが……亡くなった人もいる。ただでさえ人が少ないアガトだ。たった1人の損失さえめちゃくちゃ痛手になる。

 

「……うーん、あまり酷かったらヨルマイ様に相談だな」

「あ、相談だけするならアルタ1人でね」

 

 ヨルマイというワードを聞いた瞬間に、ベガは顔を顰めた。

 

「お前ヨルマイ様苦手すぎだろ……」

「だって手のひら返しが酷いし。あれはなんなの? 最初はボクを追い出すように言ってきたくせに、今じゃ神の子だよ? 崇拝されるのすっごい嫌」

 

 ああ、そうだった。

 ベガと親交を深め、活躍していくとヨルマイ含めたアガトの老人たちは、人間離れした美貌を持つベガを「神の子」だと持て囃し始めたのだ。あの掌返しには俺も引いた記憶がある。ただ邪魔されるよりかはマシかなと相手にはしてないが、あそこまで行くとちょっと心配になる。ベガに対して余計なことをしなければ良いのだが。

 

「そう言えばアイラとノラだけど、狩人になりたいから今度訓練連れてってくれって」

「え〜……ボクとアルタだけで良いよ」

「ちょっとぐらい、アイツらとの時間を作っても良いだろ」

「……アイラといるとダメ。それはアイラの為にならないから」

 

 1つ歳が下の友人であるアイラとノラは、どうやら本格的に狩人になるべく格闘訓練や射撃練習を始めて動きをインプットしていた。俺は2人がケリーやノラの両親からの許しを経て、ようやくスタートラインに立ったんだなと嬉しくなるのと同時に、ベガの態度を何とかしたいなとずっと考えていた。

 

 ここ最近……ベガはアイラを避けている。理由はアイラはもっとやれば出来るんだから、自分の時間減らして訓練に専念して欲しいから――だそうだ。

 彼女なりにアイラを思ってやってるのは分かるが、俺からすると難解極まりない。

 そのせいで2人の関係性は拗れに拗れているし、ベガは更に突き放すような態度を取るから険悪な雰囲気になっていた。これは流石に何とかせねばならない、どうすれば仲直り出来るかと俺は日夜頭を悩ませていた。

 

(ベガの不器用なとこを何とかしたいなぁ)

 

 何の理由があってそんな事をするかは知らないが、この溝は解決しないといけない。ギクシャクした人間関係……いや機人関係はいずれ厄介な問題を招くのだから。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

「――そうか! それで怒れる機械の獣は倒したか」

「はい、俺とベガも怪我なく無事に倒し切りました」

「それは良い! これからも期待しているぞ」

 

 アガトに帰還した俺はヨルマイを筆頭としたアガトの老人に、暴走したキメラは無事に倒したついでに内部に格納されていた水やフォトンまで回収したことを伝えた。ちなみにベガはヨルマイのティピーから離れた場所にいる。

 これは俺の考えだ、またヨルマイに崇められたら酷く不機嫌になるのは目に見えている。

 

「して……ベガ様は今日も来てくださらなかったか」

「彼女は少し疲れたと言ってましたので、申し訳ございません」

「そうか……ではワシらが揺るぎない信仰を貴女にと言っていた事を、ベガ様に伝えてくれ」

 

 絶対伝えないです。

 正直ヨルマイがこんな風になるとは思わなかった。俺は辟易しながらも軽く会釈して、線香くさいティピーから出る。あの歪な空間に長時間いたら、こっちまで頭がおかしくなりそうだ。

 

(……そういや昔親父がヨルマイと話すとか言ってから、なんか変わったように見えんだよな)

 

 あの時は大して気にしていなかったが、親父はヨルマイと会話をしたと言った後、老人達のイヤミは控えめになったのだ。上手く言いくるめた程度に思っていたが……ひょっとして何か唆したのだろうか。まぁ考えすぎな場合もあるから俺は頭の片隅に置いておく。

 

「やるわね、ベガ。それに――」

「……アイラか――」

 

 はやくベガとゆっくりダラダラしたい――と考えていると、ちょっと姦しい声が耳に入ってきた。声的に間違いなくアイラとベガだろう。俺はもう既に喧嘩を止めに入る準備をしつつ、2人がいる路上に向かった。

 

「まーた活躍したみたいね、ベガ」

「飽きないよね〜君は」

「当たり前じゃない! 貴女は私のライバルよ!」

「へー」

「アイラ……ベガさんも困ってるんだから……」

「困ってすらないよノラ、ボク自身……何とも思ってないし」

 

 と思いきや、俺が想像しているより2人はまだ理性的に会話していた。多分近くにノラが居たからだろう。

 

「ノラもいたのか」

「アルタさん」

 

 アイラの幼馴染の少年――ノラ。

 ツーブロックに刈り上げた金髪が似合う14歳の少年である。顔つきは典型的なコーカソイドであり、岩場に溶け込めるカモフラ用の装備に、灰色のマントを着ていた。

 

「随分と着込んでるな、お前らはまだまだ狩人見習いだろ? まさか……実戦に行ってないよな?」

「近くに開けた場所があったので、動物相手に射撃訓練をしてました。あ! 大人の許可は得てますよ!」

 

 慌ててノラは説明するのを見て、俺はこいつもアイラに似てるなと思っていた。アイラとノラは俺たちのように、狩人として人の役に立ちたいと考えている。しかし狩人になるには、いくつか手順を踏まないといけない。

 それな年齢制限だ、基本的に狩人になるには15歳以上になって他の狩人から実戦の試験をクリアした者でなければならない。これは15歳以上は現場判断を下せる最低限の年齢だと、昔アガトにて活躍した狩人が定めた決まりだ。

 

 え? じゃあ俺とベガはどうなるんだと言われるが、俺らの場合……両親が無理やり説得させたらしい。曰く「2人は早い内に自衛手段を持たせる必要がある、絶対に」との事。すぐに首を縦に振らないのは明白だったが、根気よく言い聞かせて今に至る。

 まぁ悪く言えばズルとも言う、俺たちにそんな意識はなかったがアイラからしたら別だった。

 

「ここ最近、アイラは焦ってるんです」

「いつもの事じゃないか?」

「いえ、だってアルタさん達は今やアガトの英雄扱いですよ? ヨルマイ様が事あるごとに言ってますから」

 

 あのババア……面倒な事を。

 

「街の大人たちはこぞって2人を褒めますから。そうなったらアイラのやる気にも火がつきますよ」

「……火が点くどころか? あれ」

 

 そう言って俺の視線の先――アイラとベガは段々とヒートアップしていた。

 

「あんまり調子乗らない事ね、ベガ!! 貴女達が倒してきたのはザコばっか! 私ならより強大な機械兵器を破壊出来るわ!」

「……はぁ良く言うよ。一度もボクと組み手で勝った事ないでしょ? 無理無理、絶対貴女じゃ死ぬ」

「もう昔の私じゃないわ!! いつまでも下に見ないで! ちゃんと私を見なさいよ!!」

「実力不足なのは本当」

「なんですって……」

 

 冷たくあしらうベガを見て、アイラは吠える。

 ここ最近ベガは俺以外に対してかなり冷たい。全くもって関心などない態度に、流石の俺もアイラが可哀想になってきた。

 

「ベガ……」

「アイラさ」

 

 ちょっと言い方を注意するかと俺はベガに忠告しようとしたが、ベガは既に口を開いていた。

 

「前から思ってたけど、ボクに構う余裕あんの?」

「な……っ!」

「もう子供のままじゃいられないんだよ、アイラ。貴女よりボクはもうずっと強くなっている。なのに……アイラはまだ燻るつもり?」

「わ、私だって努力してる!! 言われなくても頑張ってる!!」

「なら何でまだ弱いの」

「……っ!!」

 

 あまりにも冷たい言葉にアイラは半泣きになっている。

 

「そんなんだから雑魚のままなんだよ、アイラ」 

「ベガ!!」

 

 この一言を聞いた俺はついに怒気を込めて叫んだ。

 

「アルタ……っ」

「言い過ぎだ。そんなに言う必要あったか?」

 

 俺は強くそう言って聞かせようとしたが、ベガは気まずそうに顔を背ける。俺だってベガに強く言ったりしたくない、だけどアイラは不器用なだけで、ベガと親しくしたいからついつい挑発をしてしまうのだ。機人とは言え……中身は子供と然程変わらない。

 一応精神的には大人な俺は心を鬼にして、叱った訳なのだが……。

 

「……っ!」

「あ、ベガ!」

 

 ベガは謝らずに逃げるようにして去っていく。

 ちょっとこれは重症かもしれない。

 

「うぅぅ、私は……」

「アイラ……」

 

 悲しそうにするアイラに対してノラは肩を摩る。

 

「悪い、アイラ、ノラ。俺がちゃんと言っておくから」

「……ぅう、私、ベガと……こんな喧嘩したくないのに」

「ああ、わかってる。俺がちゃんと言っておくから」

 

 俺はもう思春期なんてないけど、アイラとノラ、そしてベガは年頃の少年少女だ。アイラにも悪いとこはあれど、今回の件はベガの方が明らかに言い過ぎてしまっている。双方悪い事を認識させた上で、何とかしてやらねばならない。

 

「まいったな……」

 

 つくづく思う――本当にアイラもベガも、人間臭くて驚くことばかりだと。

 

 

          *   *   *

 

 

 

「――はぁ、まさかここまで引き摺るとは」

 

 俺はリビングで入れたばかりのコーヒーを飲みながら、ボロいソファに座り込む。

 俺がベガに対して一喝入れて数時間、もう陽が沈んでいる時間帯になっていても……ベガは拗ねたままだった。俺が会話しようとしても、彼女はちょっと気まずそうにした後に顔を背けたりしていた。

 

 原因はアイラの件だ。

 彼女はまだ謝っていなかった。

 

「意固地になってるだけだよな、ありゃ」

 

 だと思いたい――という希望的観測で俺は考えていた。というか俺自身アイラとベガの関係性は、そこまで最悪とは思っていなかった。ライバル関係でそれがちょっと拗れただけ、ヨルマイの件もあってベガの気分が悪かっただけだと、俺は考えていたのだ。

 

「おいアルタ」

「親父」

「……悩む面が珍しくてな」

 

 そんな悩める息子を、物珍しい何かを見たような顔をした親父(ローグ)が名前を呼んできた。何だ……そんなに悩む俺が珍しかったか。

 

「だいぶ強くなってきたな、お前は」

「まだまだだろ」

 

 親父が褒めの言葉をかけてくれたが、俺は自分自身のことはまだまた弱い認識だった。身近に素手で機械を破壊する相棒がいるからだ。

 

「ベガの事を言ってんのか?」

「むしろそれ以外誰がいるんだよ。親父も知ってるでしょ、ベガの無茶苦茶具合は」

「まぁな、アガトの機人達でもあんな立ち回りは出来ない。非戦闘タイプが多いコレクティブだから仕方ないが」

 

 親父はそう言ってくれるが、素の機人の力は人間より強い。勿論俺よりも力はあるし、加減無しで殴られたら骨は折れてしまう。戦いに向かないタイプでもそうなのだ。なら戦闘に特化した連中ならどうなるかなんて、想像するのは難しくない。

 

「だがな、ベガはまだお前と同じように未熟だ。到底……俺が安心出来るレベルに達していない」

「……未熟……ね」

「お前もわかっている筈だ。ベガは対人経験がないが故にお前以外とのコミュニケーションが上手く取れない。向こうが良かれと思っていた事が、真意が上手く伝わらないことで余計な軋轢を産んでいる」

 

 親父にもやっぱりお見通しだったようで、何なら1番懸念していた問題点だと考えていた。あのやり取りを見ていなくても、普段の言動からベガの考えを理解するのは容易だった。

 

「ベガはもっと素直になるべきだ。そして普段から他の人間や機人を思い遣れるようにしてやる必要がある」

「……わかってる、でも中々上手くいかないんだよ。ベガは頑固だし」

「難しくてもやるんだ。あいつの前でお前が傷ついたり、誰かに陥れられたりしてみろ。極端な方法を取るぞ」

 

 親父は何かを恐れているような口調で言った。

 極端な手段というのは、間違いなく力を用いた手段だろう。それは俺も予想出来た。

 

「もしベガのそれを解決出来たらば、もう俺から言う事は何もない」

「……そうかよ」

 

 そう言って親父は自室に戻る。何もない……というのは引っかかる。言うべき事は間違いなく沢山あるだろうにと毒づいた。それに最近親父は俺達の力を強くしていって、何がしたいのかわからない。まるで何かに備えるように、子供らしい経験はさせずにひたすら戦いを教えてきた。

 まるで狙われることがあるぞ――と暗に言われているような気がして、不安と不満だけが募っていく。

 

(まぁ今はいい。親父の事より……今はベガだ)

 

 本腰を入れて話し合うべきだなと、俺は冷めたコーヒーを飲み干すとベガのいる部屋に向かう。2階にある俺の部屋のすぐ隣、そんなに対して広くない部屋だが……ベガ1人が過ごすには充分だ。

 

「ベガ、今いいか?」

 

 俺はドアを軽くノックする。

 

「……いいよ、別に」

 

 力のない返事が返ってきた為、俺はガチャリとゆっくり部屋に入る。ベガはベッドの上で体を丸くして座っていた。落ち込むと彼女は自分の身を守るように蹲り、そのまま閉じこもってしまうのだ。

 

「ベガ、さっき怒ったことだけど――」

「わかってるよ、アルタの言ってる事は」

「……!」

 

 ほんの少しだけ顔を上げたベガは、あまり語らなかった自分の心の内について話し始めた。

 

「アルタはさ、優しいよね。基本的に誰にでも」

「いや……誰でもって訳じゃないよ。ヨルマイ様は苦手だし」

「でも基本的に優しいじゃん? アガトにいるほとんどの人と話せるし、割と楽しそうに話すじゃん」

「優しいというか、まぁ自分の言いたい事をはっきり言って関係性築きあげただけだからなぁ」

 

 この時の俺は15歳。

 住み始めてからは10年近くになるが、ただでさえ狭いコミュニティの中なのだ。全員と顔見知りになるのにそんな時間はかからない。ましてや俺は基本的に誰かを拒絶したりはしていない。中身がある程度成長した人間だから――と言うのがデカいが。

 

「でもボクは……どう接したら分からなくなる。何が正解かわからない。アルタなら大丈夫なのにな」

「……なんで?」

「なんか素直になれるの。全部……辛い事とか嬉しい事も言いたくなる」

 

 嬉しいけど……俺だけという点な辺り、やっぱり周りには壁を作ってそうだ。

 

「少なくともさ、アガトの人はベガを疎ましくは思ってない。もっと伝えたいことをそのまま言えばいいだけだぞ」

「……本音を言うと、ボクは怖いんだ。信じてきた人に裏切られるのが。素直に思った事が……相手を傷つけたりして、ボクを敵と認識するんじゃないかなって」

 

 俺はこの時、トラウマというものを失念していた。

 彼女が俺と話せるようになり、相棒としての関係性を築けたから大丈夫だと思っていたが、それはあくまでも対症療法に過ぎなかった。

 

「アルタ以外の人は信用できないと無意識に思ってるからだと思う。悪意がないとわかっていても……線引きしちゃう」

「ケリーさんもか?」

「ケリーも……他よりはマシだと思ってるけど、あまり変わらないかも……」

 

 ベガはじっと俺を見る。

 光がない……ガラス玉のような目に俺は一瞬怯んだ。

 

「アルタ、やっぱりボクって冷たい機人なのかな? あの地上を彷徨く機械兵器みたいに、他の人相手でも酷いことを簡単に出来ちゃうのかな……?」

 

 彼女の身体は震えていた。

 あの一喝が響いたのか、ベガは見捨てられるとまで思い詰めていたようだ。俺は彼女の今の姿を見て、拙いと直感してすぐに抱きしめた。

 

「ベガ、はっきり言っておく。俺はお前を冷たい奴だと思った事はない」

「アルタ……」

「お前は不器用なだけなんだ。まだまだコミュニケーションとかが足りてないだけだ」

 

 ぎゅっと抱きしめ返してきたベガの力が、俺の全身を痛くなるぐらい包み込む。下手したらグシャリといきそうだなと冷や汗が出てきたが、俺は逃げなかった。

 

「ただな、俺はベガにはもっと色々な人と話して、もっと温かみのある心を持って欲しいんだ」

「温かみ……?」

「ああ、何も俺と同じぐらい他人を想えって言う訳じゃない」

 

 俺だって人類全員を大切に思うのは無理だ。

 見ず知らずの困ってる人全員を救いたいと願えるほど、俺の正義感はそんなに強くない。だけどそれでも……ベガやケリー、アイラとノラみたいに普段仲良くしている奴の助けにはなりたいとは思っている。

 何故なら彼らは味方でいてくれる確信があるからだ。困った時は助けてくれるし、辛い時には耳を傾けてくれる。

 

「お前だってアイラが悪い奴じゃないぐらいは分かるだろ?」

「……うん」

「俺が思うに、ベガには味方が沢山必要だと思うんだよ」

 

 彼女はかなり寂しがりやだ。

 だからこそ必要なのは頼れる人を俺以外に増やす事だ。

 

「味方……」

「今すぐには難しいとは思う。でも……勇気を出して……他の人に歩み寄って欲しい。世界はベガが思っている以上に優しい人がいると知って欲しいな」

 

 俺はゆっくり言い聞かせてそっと離れる。

 ベガの表情は何とも言えないもので、どうしたら良いかわからない迷子のように見えた。

 

「……アイラに悪い事した……」

「許してくれるさ、アイラはベガを大事に思ってるから」

「……うん」

 

 そう、今はこれでいい。

 ベガならきっと真意に気づいてくれる。

 だってまだ15歳だ、大人でさえ全然完璧じゃないのに15歳で色々理解しろとは言えない。俺はそっと彼女の美しい空色の髪を撫でつつそう思った。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

「――ねぇ、アイラ! 危ないよ!」

「うるさいわね、怖かったらついて来なくていいじゃない」

「君が心配だからだよ……!」

 

 大人たちが寝静まる深夜、こっそりと家から抜け出したアイラとノラは、普段動物の狩猟を行う際と同じ装備に身を包んで、小声でやいやい言いながらアガトの街の外に出ていた。背中には機械兵器の装甲を突き破れる弾薬を撃てるスナイパーライフルを背負い、改良型アサルトライフルを肩にかけている。ノラも武装はしていたが、アイラと比べたら持てる武器数は少なかった。

 

「絶対……ベガを見返してやるんだから!」

 

 アイラの頭の中には、ベガの事でいっぱいだった。

 絶対に見返して、今度こそ自分を認めさせる。その思いは間違ってはいないが、手段が間違っていた。だけど彼女は未熟ゆえに気づかない。

 心配で着いてきたノラも、正常な判断が出来ていなかった。危ない目に遭っても助けられるという根拠のない自信が、彼の判断を鈍らせていたのだ。

 

「ねぇアイラ、行くならあまり遠くにしないようにしてくれ」

「わかってるわよ……!」

 

 誰にも見つからず、2人の未熟な戦士はアガトの街から出ていく。目的地は山岳地帯、アイラにとって思い出深い地がそこにある。そこで必ず成果を出すと固い決意を抱いたアイラは迷わず進んだ。

 

 しかし数時間経っても2人は戻らず、アガトの街に長らく訪れなかった混乱を齎す事となった。




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