人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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そしてベガは優しさを得る

「ハァ……ハァ……」

 

 装備を整え、自室の窓から出たボクは一気に山岳地帯へと駆け出していく。雨が痛いぐらい体に叩きつけられていくが、そんな事などお構いなしに、ボクは猛スピードで走っていた。

 

(アイラ……! どこなの……! 君は何を狩りに行ったの……!)

 

 視界に移る情報は崩落かけた土壌と、近辺の地形データが映し出されていた。今思えば……この情報は一体どこから引き出されているのだろうか。そんな事さえ考えてしまうぐらい凡ゆる情報がボクの電子頭脳に叩き込まれる。

 

 安全なルートが分かる。

 青白く光る畦道を沿って行けば、難なく進める。何故今になってこんな機能がボクに目覚めたのかはわからないが、活かさない手はない。

 

「狩場だとは思うけど……」

 

 一口に狩場と言っても候補はかなり多い。

 アガト近辺でも50以上の候補地があるのだ。どう足掻いても全部回り切る頃には、アイラとノラは力尽きるだろう。

 

「時間が、ない。どうしよう……」

 

 走る速度が落ちる。

 ボクはまるで迷子のようになっていた。

 何か……ないか、手掛かりに繋がるものは――と考えているととある記憶が脳裏に蘇った。

 

 ――ベガ、大物を狩れるようになったんだね――

 

  ――まぁね――

 

 あれはキメラを倒せるようになり、アガトの人たちから漸く認められだしたタイミングのでの事だった。ぎこちなく喜ぶボクの前に現れたアイラは悔しそうにしつつ、目に闘志を燃やして話しかけてきた。

 

 ――ベガ、私はデカブツを倒す。そして必ず貴女に並ぶ――

 

 ――デカブツ?――

 

 ――機械兵器で言うなら……そうね、アラフニがいいかしら――

 

 ああ、そうだ。

 アイラはアラフニを狩ってボクに並ぶと宣言していた。ボクは地形データや足跡などの手掛かりではなく、これまでアイラと接して記録してきたやり取りを思い返していた。

 もし自分がアイラの立場ならば――そう考えてボクは進むべき方向を変える。

 

 アラフニはかなり巨大なボディをしているのが特徴的だ。狭い場所には基本的におらず、開けた場所に縄張りを張って巡回する兵器だ。アガト付近で該当するのは8箇所……そこから更にアイラの力量でも撃破出来る可能性を残した場所をピックアップする。

 

 まだ5箇所……多い。

 選別するなら2箇所にしたい。

 更に深く……記憶をめぐりボクは辿り着く。

 

 ――昔ノラと約束したの――

 

 大切な思い出を辿り、ボクはアイラの軌跡を読み取る。

 

 ――私とノラは狩人に命を救われたの、その場所で敵を倒して弱い自分と決別してみせる――

 

 ――そしてあの人が守ったアガトを、今度は私たちが守るの――

 

 該当する場所を見つけたかもしれない。

 ボクの中で希望の光が灯ると、青白いラインが突如目の前に現れて前へと続いていく。この線を辿れば良い、ボクは口角を上げるとより強く足を踏み込む。

 

「今いくよ、アイラ」

 

 もうボクは間違えない。

 友を救う為に、フォトンを足に張り巡らせて光になった。

 

 

 

          *   *   *

 

 

「――ベガ……!」

 

 面倒な事態になった。

 ベガも勝手に出て行った。俺は一向に返事が返ってこないベガを怪しみ、彼女の部屋に突入すると置き手紙だけがあった。

 

 〈アイラとノラを迎えに行く〉

 

 頭を抱えたくなったが辺りを観察すればどっかから出たのか分かった。窓の付近には彼女の履いたブーツの泥が付いており、窓から出て行ったのだろう。全くつくづく言うことを聞いてくれない相棒である。

 

「ベガまで……! そんな!」

「あいつ……!」

 

 お袋は今にも泣きそうな表情をしているし、親父はまさかベガがこんな行動をしてくるとは思わなかったのか、頭を抱えていた。ならばもうベガを止めれるのは俺ぐらいだ。

 

「今ならまだ遠くに行ってないと思う、俺が説得する!」

「だめよ! アルタ! 貴方も遭難してしまうわ……!」

 

 お袋は俺の手を掴む。

 

「大人たちを困らせてはダメ! ただでさえ今は混乱してるのよ? 貴方はもう立派な狩人だけど……まだ子供なの!」

 

 そう言ってくるお袋を見て、俺は思う。

 確かに子供なら下手な動きを取るべきじゃない。だけど生憎……俺の中身は()()である。引き時は理解しているし、何よりもベガをほったらかすことは出来ない。

 

「お袋、俺はもう大人だよ。それに狩人の一員だ」

「でも……!」

「大丈夫、無茶はしないから」

 

 準備を整え、俺は装備を着込む。銃もしっかり忘れずに、そして信号弾も持参する。

 

「アルタ!」

「親父、説教なら後で……」

「仕方ないから俺が付き添う」

 

 すると親父まで装備を着込んで待っていた。

 

「さっきまで探してただろ! 休めよ……!」

「子供1人で行かせる訳にはいかん、俺はお前が本当に無茶しないか見ておきたい。それに……もうベガの奴が勝手に出て行った以上はもう形振り構ってられん」

 

 そう言って親父は俺の頭を小突く。

 相変わらず痛いが、不思議と不快感はなかった。

 

「ローグ、アルタ……! 危ないわ……」

「ベガをほったらかすのは無理だよ、お袋。あと俺は無理しないから大丈夫」

「……でも」

 

 母親の悲痛な声が俺の良心に痛みを齎すが、大丈夫だと最後に言い残す。制限時間を設けてとりあえず探そう……それにベガは強い。元々ある程度経験があるから然程心配はしていなかった。何があってもここ近辺でベガを倒せる奴はほとんどいないだろう。

 

「ベガをほったらかすと、どんどん離れていくぞ」

「わかってる」

「あとアルタ、山は下手な機械兵器より恐ろしい。何度も言うが無茶するな……絶対に」

「……どーも」

 

 普段はあれだけ無茶な事をやらす癖にと俺は毒づく。

 友人の1人や2人……助けられなくて、何が仲間と言えようか。大事なタイミングで指を咥えてみるのはごめんだ。荒れ狂う山の天候を前にして、怖気付く訳には行かない

 

「行くぞ、アルタ。彼女は出て行ったばかりだ……足跡などの痕跡はまだ残ってる。追うのは容易い」

「ああ」

 

 そして俺はベガより遅れて向かっていった。

 願わくばまだ近くにいますようにと願っていると、親父は感慨深そうに呟いた。

 

「にしても……ベガは人を思い遣れるようになったんだな」

「ああ、まだ不器用だけど」

「今までお前にしか懐いた様子がなかったから懸念していたが、あの子は俺なんかの予想とは違って着実に成長している」

「親父……」

「俺は……ベガを見くびっていたかもな……」

 

 いつになく寂しそうに笑う親父の横顔を見つつ、俺は前を向く。こんな状況だが……俺もベガの事を少し誤解していたかもなと思っていた。あいつは俺が思っている以上に早く、色々な人に優しくする事が出来るようになるかもなと。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

 一方でアイラとノラは2人して洞穴の中で、少しの間仮眠をとっていた。しかし2人ともエネルギー不足や空腹に加えて、いつ機械兵器が現れるか分からない不安によってますます疲弊していた。

 

「ん……」

 

 微かな違和感を感じたアイラは目を開けた。

 ゴツゴツとした岩場という寝るには最悪の場所なのに、びっくりするぐらい一瞬で寝てしまった事に愕然としつつ、アイラは耳を傾けた。

 

 ガシン……ガシン……

 

 大質量を伴う機械がすぐ上を歩いている。アイラは背筋に寒いものが奔るのを感じた。洞穴の天井からはパラパラと小さな石片が落ちてきている。

 

「アイラ……」

「わかってる、静かに」

 

 異変に気づいたノラも同じように身構え、いつでも出れるようにする。徐々に音が大きくなり、洞穴自体が崩れようとしているのが分かった。アイラはノラに目配せすると2人は同時に頷いた。

 

「出るよ」

「ああ」

 

 幼馴染だからこそ出来た連携、2人は洞穴が耐えきれなくなるギリギリで同時に出た。直後……洞穴は上にのしかかっていた黒き巨体によって崩落した。

 

「アラフニ……!!」

「ギガァアアアアア!!!!」

 

 2人に現れたのはノラの背中を切り裂き、この曇天の中で命を喰らおうと追いかけてきた怪物――アラフニだった。脚部にある機銃と、メインフレームには多連装型ミサイルランチャーが装着されていた。少年少女にはやりすぎな武装だ、まともに喰らえば原型なんて無くなる。

 

「逃げるよ!! かついでくから舌噛まないで!」

「うぐ……!」

 

 アイラに今のノラを守り切れる実力はない。

 舌打ちしつつもアイラはぬかるんだ地を踏み締め、駆け出していく。

 

(目眩し程度には……!)

 

 アイラはアラフニの頭部についた赤い複眼に向かって弾をばら撒き、視界を塞いだ。眼球には防衛機能として鉄の瞼があり、高速で飛来する銃弾をいち早く認識すると素早く閉じた。

 破壊は出来なかったが、狙いはズレた――ひとまずはこれでいい。

 

「くっ……」

 

 ただアラフニは狙いを定めない一斉掃射を選択、挙げ句の果てにはミサイルランチャーが発射されて、アイラは爆風に煽られる型になった。火力も何もかもが違う、ベガは一体こんな怪物を相手にどう立ち回ったのかと思っていた。

 

(このままじゃ……!)

 

 一時的に凌げてもずっとは無理だ。

 どうしよう、どうしようと考えていると背負われていたノラが声を掛けてきた。

 

「アイラ……俺を……置いていけ……」

「は!? 何言ってるの!?」

 

 そんなこと出来る訳がない。

 2人はもはや家族のように深い関係性と絆で結ばれている。片割れを逃げる際の足手纏いだと言って捨て置くのは、絶対に出来る訳がなかった。しかしそれでも……ノラはアイラに死んで欲しくないが故に、自らの死でもってアイラの命を繋ごうとしていた。

 

「出来る訳……ないでしょ! 私はノラと一緒に生きるの!」

「……アイラ、このままじゃ……2人とも死ぬ」

 

 アイラの目からは涙が流れる。

 雨と混じっているおかげで、ノラにはわからなかった。

 

「私が貴方を死なせない!! ノラだけは絶対に!」

「こうなったのは、ついてきた俺の自己責任だ。君が気にする必要はない……」

「違うよ……!」

 

 ノラに非なんて一切ない。

 全ては自分のせいであるとアイラは理解していた。ベガを見返して、ちゃんと自分を見てもらいたいという子供じみた理由で大切な人が死のうとしている。

 

 今になって漸く分かったのだ。

 自分はまだまだ力なんてないし、未熟も未熟だと。

 弱さ故に人が死ぬと。

 

「ギガァアアアア!!」

 

 視界を回復させたアラフニが、逃げる2人をロックオンした。赤いレーザーに照らした後、超高速の榴弾を発射して標的を確実に殺す簡易型レールガンだ。

 超音速で放たれた弾丸はまともに喰らわなくても側を横切った瞬間に2人は死ぬ。それほどの兵器である。

 

「アイラ……! 俺を捨てろ!! ロックオンされたんだ、逃げられない!」

「いやだ!!」

「お前だけは生きるんだ!! アイラ!」

 

 ノラの懇願空くアラフニは発射シーケンスへ移行した。込められた弾丸は2人を穿つべく砲口から顔を出し始めた。もう無理だ、発射したら絶対に死ぬとアイラは理解した瞬間――

 

「伏せて……アイラ、ノラ」

 

 凛とした声を聞いたアイラは頭から飛び込むようにして伏せると、赤い火花が明滅して何かがアイラの頭上を横切る。そして後方にいたアラフニの砲口に着弾すると、金切り声と共に激しい爆発が巻き起こり、怪物は大きく後退した。

 

「良かった……間に合った……」

 

 2人を救った恩人――ベガはスナイパーライフルで狙いを定めるべく覗き込んでいた顔をずらして、ホッとした様子で笑った。

 それを見たアイラは今度こそ耐えきれずに顔をくしゃくしゃにすると、フラフラしながらベガに近寄る。ノラはゆっくりとアイラから降りると「行っていいから」と耳打ちする。

 

 その瞬間にアイラはベガに抱きついた。

 

「ベ……ガ……っ!」

「わっ……とと」

 

 いきなり抱きつかれるとは思わなかったベガは、少し蹌踉めきながらもしっかり支えた。

 

「ごめん、ごめん、勝手に出て行って……ベガと皆に迷惑かけて……!」

「アイラ……」

「私、意地になってたのっ。貴女に振り向いて欲しくて、こんなバカな事しちゃったっ! 挙句にノラまで危険な目に遭わせて! 私、本当、バカだった」

「アイラ」

 

 悲痛な叫びに対してベガは一度アイラを引き離し、しっかり目を見ながら言った。

 

「ボクも君に酷い態度を取った。本当……心にもない事を言ってしまった」

 

 ベガもまた同じようにアイラに対して言い放った非礼を、下手な言い訳せずに謝罪した。彼女の事を全く考えずにした事が今回の騒ぎを招いたのだ。ベガはアイラに対して「君は悪くない、悪いのは自分だ」と伝えた上ではっきり言った。

 

「アイラ、君は友達だ。嫌いだとか……興味ないとか、そんなこと思ってない。もうボクは友達を見捨てないし……大切にするから」

 

 そしていつの日か、アルタに言われた事を返すようにアイラへと言った。

 

「ベガ……っ! うわぁぁん! 私、嫌われたと思ってたの……。だから……見て、欲しかっただけなの!」

「うん、分かってるよ」

 

 こんなに思い込んでいたなんて思わなかったベガは、アイラを大事に大事に、そして優しく抱きしめる。いつかアルタは言っていた事を思い出していた。

 

 ――不安になったらそばにいて、抱きしめてやる――

 

 ――そうしたら不安がパァっと晴れていく――

 

 まさか自分が早速それを実践するとは思わなかったベガは、優しくアイラの背中を摩るとノラがやって来た。

 

「アイラ、だいぶ思い詰めていたみたいで……俺にはどうにも出来なかったんです」

「ノラ」

「どうしたらいいか、俺わからなかったんですけど……今ベガさんが解決してくれたみたいで、良かったです」

 

 力無く笑うノラを見て、ベガはアイラを支えながら彼の頭を撫でてやる。ノラは照れ臭くなったのか、ほんのり顔を赤くした。

 

「ノラ、君だって……その……間違いなくアイラの力になってる。だからそんな自信無さそうにしないで」

「で、でも」

「アイラに1番必要なのは、なんだかんだで君だよ――ノラ」

 

 ベガはそう言ってやるとノラは少し惚けたような顔をした後、くすりと笑った。ああ、この人はこんなにも嬉しい言葉をかけてくれるんだなと思うのと同時に、最初の頃とかまるで違う成長具合にかなり驚いていた。

 

「ギギ……」

「「「!」」」

 

 和やかな空気が漂う中、頭部が破損したはずのアラフニが再び起動する。損壊はかなり激しいが、巨大な機械兵器はかなりしぶとい。ベガはスナイパーライフルをしまい、肩にかけた改良型アサルトライフルを取り出して、弾倉を入れ替える。

 入っているのは機械兵器の硬い装甲をぶち抜く、小型化されたAPDS(装弾筒付徹甲弾)弾だ。これらもまた倒した機械兵器の内蔵器官から確保して、改良型アサルトライフルに使えるように調整したものである。

 

「下がるよ」

 

 ベガは2人を庇うように後退りしながら撃ちまくり、アラフニを怯ませながら逃げていく。自分1人なら勝手に吶喊すれば良いのだが、生憎そう言う訳にもいかなかった。

 

 何故ならば――ベガの視界に表示されたミニマップには他の機械兵器が近寄ってきている事を示す、赤い斑点が幾つもあったからだ。

 

(まずい……ボクなら生き残れるけど、2人はそう言う訳にもいかない。退却しないと)

 

 ベガは比較的冷静に退却を決めると、2人を一気に抱えた。その際に若干アイラとノラが困惑したが無視する。脇に抱える姿になってしまったが、助かるなら見てくれなんてどうでも良いのだ。

 

「飛ばすよ!」

「「わかった!」」

 

 迫る沢山の機動音を聞きながらベガはアガトを目指す。

 道中で何とか振り切り、2人の安全を確保したら機械兵器を屠ればいい。後は他の狩人に託せば問題はないと考えた。

 

 だが機械は甘くなかった。

 

「危ない……ベガ!」

「!」

 

 周りを取り囲んでいた機械兵器――ラヴェジャー複数体がガトリングを掃射。ベガは2人を射線上から外すべくほっぽり投げると、その身で弾を防ぐ。

 

「う……ぐぅううう……!!!」

 

 火花と青白いベガの血が舞い、人工皮膚が剥げていく。露出した美しい銀の骨格が少し露出していき、ベガの機体に傷が増えていく。

 

「ベガァ!」

 

 アイラは必死になって叫ぶ。ベガはアガトにいるどの機人よりも頑丈だが、無敵じゃない。凄まじい量の弾薬を長時間喰らえば死は免れない。

 

「ベガ! 死んじゃう!!」

 

 数百……いや千近くの弾薬を一身に浴びたベガはまさに満身創痍。腕をクロスさせて顔面への被弾を防いでいたが、腹や足は血まみれになっており、人工筋肉が痛々しく露出していた。

 

「退かない!」

 

 痛い。

 だけど逃げる訳にはいかない。

 後ろには友達がいる。

 

「ボクの……友達を……!!」

 

 アルタの出会いを通じて、漸く気付いたのだ。

 友達は絶対に大事しないといけないのだと。

 

「死なせるもんかッ!!」

 

 ベガの瞳が五芒星(ペンタグラム)の形状に変わりかけた時、突如ラヴェジャーは何者かによって一斉に破壊されていく。誰かが撃っているようだ、銃声がかなり近い。

 アイラとノラは新手かと思っていたが、ベガだけは誰が来てくれたか確信していた。

 

「――ベガ!」

 

 心配になって来ていたアルタが、すぐに近くに来てくれていたと気づいていたからだ。付近にあった切り立った崖から慌てた様子で駆け寄ってきたアルタは、すぐに胸ポケットに手を突っ込んだ。

 

「……へ、へへ、やっぱ……来て……くれたね」

「喋るな……! とりあえず修復用ナノボットを使うぞ」

 

 アルタは額に汗を滲ませつつ、ポケットから取り出したキメラの体内から回収していた機人用回復剤――修復用ナノボットを傷口に投与する。注射器のような見た目をしたそれを素早く打ち込むと、続け様にアイラへ投与する。

 これで何とか傷だけはマシになるが、ベガはかなり重傷だ。簡単には動かせない。

 

「酷い傷だ、アイラとノラより重傷だぞ。手早く済ませなきゃな」

 

 遅れてきたローグはベガの容体が良くないと判断すると、前方にて警戒する損傷したアラフニと、生き残りのラヴェジャーを睨む。

 

「アルタ……、ローグさん」

「アイラ、ノラ、とりあえず……無事で良かった」

「ベガのでかい声が聞こえたもんでな、おかげですぐわかった。さて……後は奴らをまとめてスクラップにするか」

 

 ローグは40mmピストルグレネードランチャーを取り出す。アイラとノラはあの物量を前にして、それだけでは心元ないのではと訝しんだ。

 

「機械兵器を屠るには何も大量の弾薬が絶対に必須な訳じゃない」

 

 ローグは狙いを機械兵器ではなく――奴らのすぐ横にある土砂の積もったなだらかな崖に狙いを定めた。

 

「例え手持ちの武器が少なくとも、周囲の環境を利用すればデカブツだって簡単に倒せる」

 

 そう言ってローグは引き金を引くと地響きと共に土砂が崩れ、ローグ達の前方にいたアラフニとラヴェジャーの群れを一気に押し流し、あっという間にスクラップにした。

 

「な……」

「ベガは恐らくこれを狙っていたんだろう。おかげで容易く倒せたな」

 

 アイラとノラは改めて実感した。

 巨大な機械兵器を前にして、ただの人である彼らはどう倒してきたのか。それは単に経験と置かれた状況を把握した上で、周囲の環境を利用する賢さにあった。

 

 まだまだ足りない。

 何もかも……力だけじゃなく、頭も。

 2人の未熟な戦士は歯噛みした。

 

(一件落着とまではいかないが……まぁ最悪は免れたな)

 

 ベガを一生懸命背負うアルタと、申し訳なさそうにするアイラとノラを見ながらローグは思った。ベガの見せた姿はまさしく自分が望む成長の形だと。彼女は今初めて身内以外にも優しさを見せて、かつ友達を守ろうと身を挺した。

 アルタ以外の人にも温かい心を見せるように……やっとなれたのだと。

 

(これだけ心が育てば……後は時間の問題だろう。ベガの心は善性に傾き、よっぽどの事がなければ()()する心配もない)

 

 アルタとベガ、もはや2人はローグとファナにとって子供に等しい存在。そんな子供達に過酷な運命なんて歩ませない。余計な事を知らずに、ただ辺境の街でゆったりと友達に囲まれて暮らしてくれたら……もうそれで良い。

 

 しかしそれを実現するには自分の存在が邪魔になる。

 もう充分だろう。

 ローグはもはや自分達が居なくてもアルタとベガは生きていけると確信した。

 

「……本当に、よく育ってくれたな。アルタ……ベガ」

 

 ローグは誰に聞かせる訳もなく、ただ呟くと空を見上げた。

 雨は次第に晴れていき、曇天の隙間から光が差し込んでいた。まるでこれからの未来を暗示しているような空模様だった。




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