人類が機械に負けた世界に転生したけど、記憶喪失の美少女アンドロイドを世話したらめちゃくちゃ懐いてきた   作:アスピラント

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深夜更新で申し訳ございません。


幸せになってくれ

 アイラとノラの失踪事件から2週間が経った。

 実際……救出作業自体はそんなに大変じゃなかった。我らが相棒ベガによる唐突な家出があったものの、彼女はアイラとの記憶と絆を頼りに見事居場所を割り出し、2人を助け出した。

 ただ運悪くラヴェジャーが騒ぎを聞きつけて集まったせいで1番の重傷を負ってしまったが、俺の応急処置と帰還後にカリウスの治療もあって見事全快。後遺症もなく3日後には普通に狩人の仕事も出来ていた。

 

 ただし……本当に大変だったのは事後だったりする。

 

「――さて何故俺がわざわざ呼びつけたか、わかるな? アイラ、ノラ」

「は、はい」

「……わかってます」

「えーと……ボクも?」

「お前もだ、ベガ」

 

 帰宅して諸々の騒ぎが落ち着いた後、ベガとアイラ、そしてノラは我が家のリビングで正座させられた。西暦が終わって3000年経った世界でも、正座は未だに使われるらしいと間抜けな思考をしていたが、そんな甘っちょろい認識は程なくして消え去った。

 

「まずアイラ、お前は全てにおいて間違っている。本来なら狩人として認められていない者は、必ず狩人を同行する決まりになっている。にも関わらず……勝手に武器を持ち出して挙句の果て敵に殺されかけた。もう言われなくても……これが間違ってるとは分かるよな?」

「はい……」

 

 ぐうの音も出ないとはまさにこの事。

 まぁ様々な事情(ベガとの拗れ)があったことを考慮しても、1番悪いのはアイラである。本当死んでしまったら洒落にならないし、まだ命がある分だけマシである。

 

「ノラ、お前は何故アイラを強く引き留めなかった」

「うぐ」

「1番止めやすいはずのお前まで同行したら、誰がアイラを止める?? もっと彼女には強く出ていい、反省しろ」

「……わかり、ました」

 

 何気にノラもやらかし度合いでは負けていない。どうにもノラはアイラに対して甘かったりする。普段の人間関係なら「どうぞ好きにして」と言えるのだが、命に関わる仕事においてそれは致命傷になる。判断ミスはそのまま死へと関わる、とりわけ俺含めて人間は弱い。

 例外はいるだろうが、少なくとも俺含めてアガトの狩人の戦闘能力はベガより低い。

 

 俺たちは弱者なのだ。

 まだ俺は……アガトからずっと離れた世界がどんなふうになっているかは知らないが、これだけはハッキリと言える事だった。

 

「そしてベガ」

「ボ、ボクも……か」

「当たり前だ、何で独断専行した? 最初から俺とアルタを連れていればお前はあんな怪我しなかっただろう」

 

 ベガは感情を優先しがちな所がある。本来ならこの中でずば抜けてスペックが高いのに、自分にとって大切な存在が害されると認識した瞬間、目先の事が考えられなくなる悪癖があった。いつもの狩りならそこまで問題ないかもだが、今回みたいに予測しにくい展開になると拙い。

 

「この中では1番思考回路が優れているんだ、もっと己を律しろ」

「はい……」

 

 しょんぼりするベガを見た俺は、まるで怖い先生に叱られて丸くなる問題児みたいだなと思った。

 

「……とは言えだ」

 

 ひとしきり叱った後、親父は正座する3人と目線が合うように屈んだ。その目には優しい光があった、俺も長らく見てない目だ。

 

「命があって……良かった。死んだら終わりだからな」

 

 その目を見てから3人は何か思うことがあったのか、目に見えて大人しくなった。俺も何というか……親父は本当に色々な事を経験したんだなと直感した。

 

 

 

           *   *   *

 

 

「――はぁ〜」

 

 と……ここ数日は色々あった。

 俺はいつも通りリビングで寛いでいた。ベガは今アイラ達と遊んでいる。あの日以降からベガは人を信じて、社交的な対応をするようになったのだ。最初の頃は誰も寄せ付けない雰囲気を出していたから、いきなり態度変わったら皆引いたりしないかなと俺は思っていたが、杞憂だった。

 

 何せ元はめちゃくちゃ美少女である。

 ツンケンしたベガも、柔和になったベガも違う魅力があった。早い話……顔が良いと解決するのも容易いだ。全く羨ましくて仕方ない。

 

「俺もイケメンになりたかったわ」

 

 もはやないものねだりでしかない……が、前世から培ってきた卑屈さがここで発揮していた。

 

「前世……ね」

 

 依然はずっと悩んでいた俺の正体。

 正直今も気になっているが、このアガトでの暮らしが快適なのもあって、いまいち一歩踏み出しにくくなっていた。ベガについても同じだ。アイツが何だかんだ今も自分が何なのか、ふとした拍子に悩まし気に呟くのを聞いた事がある

 

 ――ボクは……一体何なんだろ――

 

 過去を捨てて、平和な今を取るか。

 それとも平和を捨てて、過去……または己が何か知るべきか。俺はここに来て原点の悩みに立ち返っていた。

 

「アルタ」

「親父」

 

 センチな気分になりかけていると、何やら一仕事終えて戻ってきた親父が声をかけてきた。さっきまでヨルマイとアガトの代表達で会議しているとは聞いていた。話し合いが出来そうな見た目じゃないのに、頑張って政治的な立ち回りをしている親父には誰か報奨でも与えてやってほしい。

 

「さっきアイラとノラに関して、ヨルマイから沙汰があってな」

「へぇ」

 

 沙汰……物騒なワードだ。

 

「皆を混乱に陥れた責任として、狩人の試験を一年遅れで受けさせる事になった。一応その場には2人もいて、納得していたよ」

「あちゃー……まぁそらそうなるか」

 

 本来なら15歳で挑める試験が、16からになってしまったのだが……俺的にはまぁまだ緩い方で良かったなと思っていた。下手したら狩人になっちゃダメとか言われるんじゃないかと、内心ビクビクしていたぐらいだ。ひとまず彼らの夢は潰えないと分かり、俺は安堵した。

 

「そしてベガだが、試験が一年延びた事もあって……その間に訓練する際はアイラとノラの世話をする事と言われたぞ」

「……え、じゃあ」

「お前も付きっきりだな、当然ながら」

 

 うわぁ〜仕事増えた〜という感情と、まぁ仲良し4人組みたいな感じで良いねという相反する感情が交錯していた。いや嬉しいって言うのもおかしな話だが。

 

「ヨルマイはこれで一応罰として皆に伝えたが、俺からしたらこれはヨルマイなりに、ベガとアイラの仲をより深めて……相互理解の場をがっつり設けたと見ている」

「なるほど……」

「何せ最近になってベガは社交的になってきたが、まだまだ始め立てだ。1年でもう普通のコミュニケーションを他の人とも出来るようにしたいんだろうな」

 

 ふーんと俺は力無い返事をした。まぁそれだけなら別に言う事はない。普段の言動は気に食わない老婆だが、あの人なりにベガのことを考えてはいるのだろうか。

 だといいな、アイツには俺だけじゃなく沢山の味方が必要だし。

 

「本当に……お前たちは成長したな」

「何だよ改まって」

「まぁ聞け、体が錆びつき始めた男の戯言だと思っていいから」

 

 ならそう思って聞いてやろうじゃないか。

 

「アルタ、俺たちが何故早い内に力を付けさせ、ベガを導くように言ったか分かるか?」

「この世界を……生き抜くため?」

「7割正解だ」

 

 半分正解なら分かるけど、7割は初耳だ。

 なら3割は何なんだと俺は問う。

 

「……ベガが間違った生き方をしないようにするためだ」

「……」

 

 親父はベガについて何かを知っている――俺はここで確信に至った。彼女が一体どんな存在で、どんな力を持つのかも……多分知っている。俺ははやる気持ちを抑えて聞く事に集中した。

 

「あの子は不安定だ、力も……精神も。やりようによっちゃ幾らでも生きる道を選べる。正しい方へも、間違った方へも彼女は極める力を持っている」

 

 確かにベガは他の機人とは違う何かがある。頑丈だとか、強いとか、性能面の話ではない。もっと根本的な要素で彼女は他の機人より異なるものを持っている――そんな気がしてならないのだ。

 

「しかしそんな不安をアルタは取っ払ってくれた。今のベガならば間違った方にはいかない。俺の唯一の不安は取り除かれた」

「……もう心配してないと?」

「ああ、あとは時間と共に成熟していくだろう」

 

 満足気に親父は頷く。まぁ確かに俺的にも今のベガのまま成長したら、多分普通の人みたいに社会性を身につけられるとは考えていた。

 

「俺の役割は……もうない。良かったよ……お前たちが成長してくれて」

「何だよ、そのセリフ。遺言みたいで縁起わりぃ」

「ははは、確かにな。って事で……今回は祝いでコイツを持ってきた」

 

 そう言って親父はドカリと瓶ボトルをデスクの上に置く。それは間違いなく酒の類いだとわかった俺は、引いた顔をしながら親父を睨んだ。

 

「……俺まだ15なんだけど」

「だからなんだ?」

「未成年だよ、飲めないよ」

「はぁ? 何故だ?」

「未成年は飲んじゃダメだろ!」

 

 精神年齢的にはOKだが、身体年齢はアウトな俺は怒鳴った。この親父……まさか未成年の息子に酒飲まそうとするとは、とんだアナーキーな野朗だ。

 

「おいアルタ」

「なんだよ」

「第一にだ、人類の文明は崩壊してるんだ。元から法律などない、だからセーフだ。分かるな?」

「この親父……!」

 

 おい何だその自虐。

 そんな無茶苦茶な論理武装で、俺を論破してくんな。

 

 

 

         *   *   *

 

 

「――アルタ、お前意外と酒強いな」

「喉が焼ける……度数強いって」

 

 俺は親父に無茶苦茶な理由で言いくるめられて、絶賛未成年飲酒をぶちかましていた。前世でも確かマトモに飲んだ記憶はなかったが、もしかしたら忘れてるだけの可能性もある。ただそれを抜きにしても、喉からカァ〜っと熱くなる感覚があって、俺は明日二日酔いになるんじゃないかなと心配していた。

 

 何度も言うが、未成年飲酒はダメだ。

 

「俺はこうして息子と酒飲むのが夢だったんだ。これぐらいのわがままはいいじゃねぇか」

「……そうかよ、けっ」

 

 そう言われたら俺も強く言えない。

 何というか……とても儚い表情をするもんだから、あまり突っ込むのは違うかなと思ったのだ。

 

「俺の夢は叶い、心配事はなくなった。こんなに……嬉しい事はもう二度と来ないだろう。改めて感謝するぞアルタ」

「何だよ、それ」

 

 もう悔いもなさそうな顔をした親父が気に入らなくなった俺は、ダメ元で切り出す事にした。

 

「……親父はさ」

「ん?」

「多分、俺とベガが……どんな奴か知ってると思ってる。今までも何回か聞いたけど、ずっとはぐらかしてきたし。今だって俺が聞いても親父が話さない事も分かる」

「……」

 

 親父はすっと顔を俯かせる。

 

「でもさ、俺寂しいんだよ。俺……親父に信用されてない気がするんだ」

「アルタ……」

「そんなことないって言うつもりだろ? でも信用ないって言ってるようなもんだよ。それは変わらない」

 

 俺は珍しく強気になって言った。何というか……長年の不満が蓄積した結果、ちょっと漏れ出たような感覚に近い。

 

「だけど最悪……俺たちの事はいいよ。でも親父自身のことを知らないのは複雑だ。多少は話せるんだろ? 随分と昔に……俺は人類至上主義の国で兵士やってたって言ってたし」

「う〜……む」

 

 しまったと言った表情をした親父を見て、あれはうっかり漏らしたんだなと確信した。意外に口が緩いかもしれない、その調子で全部吐いて欲しいもんだ。

 

「まぁいいだろう、少しぐらいの身の上話は」

 

 親父は深いため息を吐くと、観念したのか話すことを決心した。ダメ元だったが言ってみて正解だったようだ。

 

「俺はお前を拾う前、約170年間……人類至上主義を銘打った国家連合――エリュシオン人類統治連合国で兵士を務めていた」

「待て、170年……? 親父あんた幾つだ?」

 

 ちょっとあまりにも予想外の勤務年数に、俺は話を遮ってしまった。170年は間違いなく俺の知る人間の寿命を超えた年数だ。しかし親父の見た目は50代半ばあたり、100歳を超えた老人には見えない。

 つーか何ならヨルマイより年上じゃねえか、こっちのがよっぽどジジイだよ。

 

「エリュシオンでは、人間の寿命を格段に伸ばす技術がある。主に遺伝子操作や技術的インプラントを生まれた瞬間に皆施される。俺も……ファナも同様だ」

「……!」

「ただエリュシオンのお偉いさんには、俺なんかより更に数百年長く生きた人もいる。そいつは人間の制御化に置かれたナノテクノロジーと、バイオテクノロジーで寿命そのものを取っ払ってる。まぁ……そんな場所だ」

 

 人類も中々大概な技術力を持っているな……。俺は親父の口から何が語られても不思議じゃないと、改めて腹を括った。

 

「エリュシオン……か? そこで親父はずっと機械と戦ってたのか」

「ああ、生まれた時から俺はずっと大人から機人(マキナス)は敵だと刷り込まれてきた。この太陽系にて生きる機械生命体は、殺さねばならぬ敵だとな」

 

 親父は今思えば、こんなバカな話はないよなと苦笑した。

 

「エリュシオンの目的は至極単純だ。かつて人類が支配していたこの太陽系を機械達から取り返し、もう一度黄金時代を築きあげる事だ。その為には人類に味方してくれている機械達でさえ、奴らは敵と見做している」

「じゃあ親父は機人を何人も殺したのか?」

 

 無意識のうちに俺の語気は強まってしまった。

 

「ああ、中にはアガトみたいに機人と人間が平和に暮らしているだけの……単なる民間人すらいた。だけどエリュシオンにとって、機人の味方をする人間も敵扱いだ。当時の俺は何の疑いもなく引き金を引いた」

 

 親父は変に誤魔化すことなく、さらりと言った。

 だけど声のトーンと表情から、本当に後悔しているのは明らかだった。

 

「機械だ、機械だ、血なんか通ってない。そう言い聞かせてひたすら無心で戦ってきたが……次第に殺戮した場面が頭から離れなくなった。人間みたいに泣き叫ぶ機人と人間、機械は確かに俺たちの文明を壊したが……全部じゃない。味方になってくれる奴まで殺して……俺はどっちが悪かわからなくなったよ」

 

 ある一種のPTSDに近いかもなと親父は言った。

 俺には想像つかなかった。どれだけの経験をしたのかはわからないが、特異な環境下に置かれた人が病むぐらいの内容なんて間違いなく悍ましいものだろう。

 俺はかけるべき言葉が見つからなかった。

 

「ただでさえ精神的に参ってる上に、エリュシオンの連中はまるで現実をみれてない。俺たち人間だけで太陽系を取り戻すのは不可能だ。人類に味方してくれている機人達だって、その気になれば簡単に俺達を滅ぼせる力を持ってる。もうどう足掻いても……機械無しで生きていくのは無理だとわかっていて、手を汚すのは無理になったのさ」

 

 親父はこうも言った。

 人類のためと必死になって戦ってきたが、今更どう足掻こうと無意味だとわかった瞬間、これまで自分は何のために殺してきたのか分からなくなったと。それを聞いて俺は「ああ、親父は真っ当な人だった」と再認識した。

 

「そして俺は同僚でもあったファナと命懸けでエリュシオンを抜け出し、途中でお前を拾って、ベガも拾った――以上」

「えー……肝心なとこがざっくりすぎる」

「こればかりはな……すまない」

 

 はぁやっぱり其処は言わないか。

 どさくさに紛れて言わせられるかと思ったが、そんな甘い展開にはならなかった。

 

「幻滅したか……?」

 

 弱々しくなった親父を見た俺は、ぷっと笑ってしまった。

 親父もそんな弱気になるんだなと微笑ましくなった。

 

「まさか、する訳ないでしょ」

「俺は虐殺者、しかもエリュシオンを抜け出してる腰抜けだ」

「腰抜けじゃないだろ。むしろ親父は正しいことをしたと思うよ」

 

 死を覚悟してまでエリュシオンというイカれた国を抜け出し、俺とベガを育ててくれた親父を侮辱なんて出来る訳がなかった。そもそも親父がいなかったら俺は居ないし、ベガにも出会えていない。親父が正しいことをしてくれたから……俺はここにいる。

 

「俺さ、親父にずっと言えなかった事がある」

「なんだ?」

「……親父、俺を……ここまで育ててくれてありがとう。ずっと礼を言えなかったけど、改めて言わせてもらうよ」

 

 顔が赤いのはアルコールのせいだ。

 俺は親父から顔を逸らして、またぐいっと飲み込む。

 

「くっ、はははは……! そうか! そうか!」

「おい、何で笑うんだよ!」

「いや何、大人ぶっていても15歳のかわいいガキだなって思ってよ」

 

 中身はもっと年上だわと言いたいが、目の前にいる親父はもっと年上だ。もう年齢の問題なんて些細なことかもしれない。機人だって見た目通りの年齢とは限らないのだから。

 

「ただいま〜……ってアルタ顔真っ赤! 風邪?」

「私も戻っ――ローグ、何でアルタにお酒を?」

「え?」

「あ……」

 

 盛り上がっていたところに、ちょうどベガとお袋が帰宅してきた。お袋は親父に対して絶対零度の視線を向けて、ベガは興味深そうに俺と酒を見遣る。男2人で厳かに行われた秘密の飲み会は、いつのまにか家族全員を交えた騒ぎとなってしまった。

 

 そして気づけばさっきまでのしんみりとした空気は消えて、家族水入らずの楽しい時間になっていた。俺もベガも揃って笑い、親父とお袋はそんな俺たちを見て優しげに笑う。

 

 本当に……本当に……温かい時間だった。

 ただ今だからこそ思う。

 この時もっとたくさん親父とお袋と話しておけば良かったと。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

「アルタもベガも……すっかり寝ちゃったわね」

「そうだな」

 

 その日の夜。

 久々の家族団欒の時間を楽しく過ごしたローグとファナは、ソファにてぐっすりと寝るアルタとベガをマジマジとみていた。アルタはソファの背もたれに傾れ込みながら寝ていて、ベガはそんなアルタの太ももを枕にして寝ていた。

 灰色の髪をした少年と空色の髪をした少女、見た目は全然似ていないが、まるで兄妹みたいな光景だなとローグとファナは思っていた。

 

「ふふふ、ベガ……本当可愛いわね。何だか幸せそうな顔をしているわ……。夢でも見てるのかしら」

「見ているかもな」

 

 ローグはベガが悪夢にうなされていた事を、アルタからちょくちょく聞いていた。そして実際に辛そうな呻き声をあげて、涙を流していたところを見た事もある。

 ローグ自身そんな彼女を見て、胸を締め付けられるような思いに駆られた。だけどそれを何とか出来るのは、他ならぬアルタだと知っていた。

 

 彼しかベガを救えない。

 彼じゃなければいけない――と。

 

「もうベガは悪夢にうなされていない。アルタが彼女の不安を打ち消してくれたからだろうな」

「そうね……道理でベガもアルタに懐く訳だわ」

 

 ファナはベガの髪を優しく触り、愛おしそうに撫でる。そうするとベガは気持ち良さそうに「うぅぅん」と声を出した。

 

「もう……2人だけでもきっと生きていける」

「ローグ……」

 

 ファナはローグの手を握る。

 いよいよ、その時が来たのだなと彼女は表情を引き締めた。

 

「アルタやベガには辛い思いをさせた。2人の事を教えず、ずっと悩ませてしまった」

「……でもそれがきっと2人を争いから遠ざける方法だと信じてきた。だから何も言わなかったんでしょう?」

「ああ、そうだ。2人が自分の正体を知れば……間違いなく大きな運命の流れに巻き込まれていく。俺は2人には平穏に……生きて欲しい」

 

 ローグはアルタの頭を撫でると悲しげに目を閉じた。

 

「だがその平穏は、俺たち2人が一緒にいる限り……訪れない」

「あとは私たちが2人から離れればいい……そうよね?」

「そうだ。2人には辛い思いをさせるが……。余計ないざこざに巻き込んでしまうぐらいなら……」

 

 親としては確実に最低な部類だろう。

 だがそれでも……2人が平穏無事に生きてさえいれば良いのだ。

 

 

「アルタ、ベガ、俺たちのことは恨んでいい。ただ一つだけ言わせて欲しい。幸せになってくれ……俺たちのことなんか忘れてな」

 

 そしてローグとファナは名残惜しそうに、2人の頭を撫でた後に出発の準備を進める。どうか2人の未来が明るいものになるようにと願いを込めて。

 

 

 

 

           *   *   *

 

 

 

「……んぁ?」

 

 夢すら見ないぐらい深い眠りから覚めた俺は、目をゴシゴシと拭いながら開ける。そしたら太ももに重さを感じた。

 

「すぅ……すぅ……」

「ベガ……」

 

 我らが相棒、ベガは俺の太ももを枕にして寝ていた。おかげで足が痺れている。ちょっと勘弁して欲しかったが……ベガの寝顔がめちゃくちゃかわいいから許す。

 

「ん……どんだけ寝たんだろ。くぁぁあ……」

 

 俺はベガを起こさないように、慎重に頭をずらしてソファに寝かしてやると、体に毛布をかけてやる。風邪は引かないが……まぁ気分の問題である。

 

「親父〜、お袋〜」

 

 窓からは美しい朝陽が顔を覗かせている。まるで新たな日常が始まる事を予感させるような光だ。しかしさっきから嫌に自宅が静かだ。人の気配も……全くしない。俺はまた何度か両親の名を叫んだが、全然返事がしない。

 

「……おかしいな……」

 

 何かがおかしい――と疑問に思っていると、目の前にあったデスクの上に置き手紙がある事に気づいた。

 

「ん……? 親父の文――」

 

 どっか出かけてんのかと思った俺は文を見て固まった。

 何故ならば。

 

〈アルタ、ベガ、俺とファナはアガトを去る。恐らくもう二度と会わないだろう〉

 

 両親は俺たちを置いて何処か遠くへ去ってしまったからだ。

 




ちょっとプロット整理で更新ペース遅くなるかもです。
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