今回は、あるものと出逢います。
彼が逃げるという選択をした初めての日。何と出会うのでしょうか。ご期待ください。
それでは、どうぞ!
「シンがいなくなった...?」
「ええ、追おうとしたのですが強い言葉で拒絶され...みなあまりにショックが大きく、追跡できる状況では」
...しまった。彼は危険な状況を脱していなかった。今すぐにでも追わないと。
「向かった方向は?」
「分かりません...校門から出て行ったことは確定していますが、それ以外は何も」
「分かった、私のほうでも探してみるよ。他の自治区にも見かけたら呼ぶように伝えておくから、安心して待っててほしいな」
「どうか...どうか、頼みます。彼を見ていると今にも壊れてしまいそうで...」
私は憔悴したハスミの手を握る。
「安心して、みんなも疲れてるだろうから今はゆっくり休んで。これは私も個人的に動きたいと、そう思うんだ」
出ないと、手遅れになってしまいそうな。そんな気がして。
僕はあのあと服屋で黒いジャケットと青いシャツ、黒いズボンと青のキャップ帽にサングラスを買って着替えた。ひとまずあの人たちが気付かない程度にはできただろう。
これから、どうしようか。
「君、少しいいかい?」
...まずい。この状況は大変まずい。
もう正実が手配を?
「君は、ショートケーキについて考えたことある?」
「...え?」
訂正しよう。まずいことには変わりないが...正実ではなさそうだ。こんな人はいなかったはず。
「だから、ショートケーキについて考えたことはある?と聞いてるんだよ」
「...ないです。ロールケーキすらこの前人生で初めて食べたばかりですから」
「それはいい。ちょっと来てくれ」
こうして僕は、謎のショートケーキ至上主義者(?)に誘拐された。
「やあ、待たせたね」
ショートケーキ至上主義者はスイーツ店に入る。
「遅かったね...で、その人は?」
「最近トリニティを騒がせている...らしい、人さ。攫ってきた」
「はあ!?ナツ、あんたついに犯罪を...」
「元いた場所に返してきなさいよ、うちじゃ飼えないわ」
「えっと、ようこそ放課後スイーツ部へ...」
...なんなんだろう、この人たち。僕をリンチして殺すために誘拐でもしたのかと思ったけど、どうもそうじゃないらしい。
「なぜ自分がこんなところに?と思っているんじゃないかい」
読心術も使えるようだ。なんなんだこの人は。
「それは君が迷っているように見えたからさ、そのような時こそスイーツをだね」
「ナツ、あんた適当に人を攫ってくるって言ってたじゃない。そんな哲学めいたこと言わなくていいから」
「おやおや、つれないものだ。」
「...僕、適当に連れてこられたんです?」
はっきり言って意外だ。何目的にせよ、はっきり僕と認識して誘拐されたものかと思っていたから。
「まあそういうことだね。それ以外に、私が単純に興味を持ったのは二つ」
腰に下げた刀を触る。
「キヴォトスでは珍しい近接戦闘メインであることと、君が男子生徒であることさ」
「え!?」
「んなところで近接戦闘って正気!?撃たれてやられるだけじゃない!」
「銃はどこにあるんですか..?」
「...銃は、もうありません。僕が銃を取ることももうないと思います」
当然のことだ。守るために力はある。
しかし、僕は守れなかった。
「...はい、食べなよ」
黒いパーカーを着た猫耳の人がショートケーキを差し出す。
僕が食べてもいいのだろうか、いや。いいはずがない
「顔が暗いよ?そんな顔ばっかしてたら気分が下がるだけ。甘い者でも食べて元気出しな」
「え、でも...」
「でも、じゃない。こういう時はありがたくいただきます、とでも言えばいいの」
「食べたことがないのだろう?ショートケーキ。この機会に食べてみるといいさ」
「あ、ありがたくいただきます...」
恐る恐るフォークを使って先の方を切る。ふんわりとした感触が手に伝わってくる。
「おお...フォークが沈んでく」
「驚くにはまだ早いさ。」
フォークを切った先の方に刺して食べる。口の中に先ほどよりふんわりとした感触が伝わり、同時に甘さを感じる。
なんなんだこれは。こんなに美味しいものは食べたことがない...ティーパーティーの皆様が食べていたロールケーキに似たものを感じる。
「...美味しい」
自然に口からそう溢れる。
「よかった。たまにはこういうありふれた店で食べるのもありだね」
「ああ、多少ロマンに欠けると思っていたが...こういうことが観れるとは。」
「ショートケーキはまだまだよ!苺の部分を食べてみて!」
「ジュースも頼んでいいですよ!」
...こんなに心地良い空間は、初めてかもしれない。
こんなところに、いて良いのだろうか。
「ご馳走様でした。」
「おー、完食したね。アイリより細いのにしっかり食べられたね」
「よく見たら身長もヨシミより少し大きいくらいじゃないか」
「...遠回しに私が小さいって言ってない!?あとこの子はどう見積もっても私より15,6cmは大きいわよ」
「この子...そう言えば、名前を聞いてなかったわね」
「...上原シンです。トリニティ総合学園の2年生...なんですかね?17歳です」
皆さんは目を見開く。
「...じゃあ、先輩に当たる人ってこと!?」
「どうやらそのようだね、いやあ。失敬失敬、上原先輩」
「先輩などと呼ばないでください...トリニティにいる時間は皆さんの方が長いのですから」
「ってことは、転入生ってことですか...?」
「珍しいわね、どこの学校からなの?」
金髪の方は若干興奮気味のようだ。他のお三方も気になってたまらない、と言った様子。
「..連邦生徒会です。」
「「「「...ええええええええええ!_」」」」
「お客様、店内ではお静かに願います」
あのあと僕と皆さんは会計を済ませて店を出た。
自分の食べた分のお金といい経験をさせてもらった分全て支払おうと思ったんだが、「私たちが誘拐したんだから私たちが払うさ」と誘拐した人に押し切られた。
「...すみません、ご馳走になってしまい。」
「気にしないでいいさ、だって私たちは誘拐した側とされた側だろう?もう兄妹と言っても変わりないさ」
兄妹。
優秀だった妹。小さい頃から僕より格段に頭が良かった。
最初に言った言葉は、父が口癖のように言っていた「死んでしまえ」だった。
「...う゛っ」
口元を抑える。ダメだ。こんなところで吐くな。
「ん?どうしたの?」
猫耳の人がこちらへくる。隠せ。隠せ。隠せ。隠せ。隠せ。
「大丈夫ですよ。少し考え事をしていただけですから」
なんとか飲み込む。
「そ...ならいいんだけど。」
危ないところだった。隠せた。
「あ、私の名前は杏山カズサ。まだ自己紹介してなかったね、一年だよ。よろしくね」
「...そうだったね。私としたことが、名乗るのを忘れていたよ。私は柚鳥ナツ。同じく...というかこの四人は全員一年さ」
「栗村アイリです。一応創設者だけど、上下関係を作りたくないから部長はやってません。よろしくお願いします!」
「伊原木ヨシミよ。...何よ、これでも将来性はもの凄いんだから!」
「これが私たち...放課後スイーツ部さ」
「ようこそ、放課後スイーツ部へ!」
...楽しそう。
そう思ってしまった自分がいた。
「...その顔は、もう入部を承諾したってことでいいかな?」
あのあと。僕は廃墟に来ていた。
皆さんに「家がこっちなので」と嘘をついて。
「お゛ええええええええええっ」
吐く。吐く。ただひたすらに、吐く。
「あ...」
ドロドロになった苺のようなものが見えた。
ああ、こうして僕は思い出も良心も捨てていくんだろうか。
不思議と吐瀉物特有の酸っぱい匂いは感じなかった。
ご閲読ありがとうございました!
放課後スイーツ部へ半ば強制的に入部したのですが、彼も内心満更ではないようで。
しかし「家族」の話はトラウマなんだよね。あーあ、せっかく美味しく食べたケーキ、吐き出しちゃったね。
ちゃんとミカがヒロインです。最近出てきてないけど、しっかり後から出てくるので許してください。
次回の投稿は火曜日を予定しています!頑張ります。
感想、お気に入り登録等お待ちしております、よければぜひお願いします!
P.S.:先日の投稿後、なんと星10をつけてくださる方がいらっしゃいました!この場を借りて御礼申し上げます、大変ありがとうございました!モチベとなっております。
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さらに追記:なんと投稿後1時間も満たず星9評価をいただき、無事バーに色がつきました!評価してくださった皆さん、お気に入り登録・コメントしてくださる皆さん、そしていつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます!これからもよろしくお願いします!