さあ、開演です。
聖徒会たちをもうどれだけ倒したんだろう。スクワッドを半ば無理やりバシリカの最奥部へ向かわせてから、もうかなり経ったはず。
「はあ、はあ...痛い、疲れた...あーもう、傷だらけ...」
でも。ここで私だけ逃げるわけにはいかない。
先生もシン君も、戦ってるんだから。
「まだ、大丈夫。」
「ここは...?」
気づくとトリニティの聖歌隊室によく似た場所にいた。オルガンと譜面台に置いてある楽譜だけが時間が固まったかのように残っている。他のものは埃を被りっぱなし。
「蓄音機まで...そっか、そうだよね。アリウスも私たちと同じ授業を受けていたはずだもん」
レコードはセットされていた。何か鳴らないかな。
「...ダメかあ。埃被りっぱなしだし、しょうがないけど」
ふと、私はあの時のことを思い出す。調印式の事故の後、私が攻撃を受けてた時に助けに来てくれたコハルちゃん。
打算も欲望もなしに、ただ自分の「正義」を果たそうとしてた。
「身を挺して助けてくれた時、かっこよかったなあ...物語のお姫様みたいだった。私もそう言う物語が大好き。窮地に陥ったお姫様を運命の人が救う、そんなお話が」
「子供っぽくて、夢に溢れて...素敵で、胸がときめく。私も、そんなお話の主人公になりたかった」
でも、私はそうなれない。
「魔女がハッピーエンドを迎えるお話なんて、この世のどこにも無いもの」
...今ならわかるかも。ここが教会みたいだからかな?懺悔します...なんちゃってね。
「サオリ、私は...あなたに、私と同じ痛みを受けて欲しかったんだね。そうじゃ無いと不公平だったから。でも、そうじゃない。私と同じように、あなたたちもただ救われたかっただけなんだね。ただ、幸せになりたかっただけ...」
この後に及んでやっと理解できるなんて。相手を憎み続けても、それは憎しみの連鎖にしかならないなんてこと、わかったはずなのに。
「あなたがアツコを助けたい理由もよくわかる...こんなことをしてしまって、多くの人を絶望に陥れた自分でも。最後に誰かを救えたら、苦痛だけの人生もそれで報われる。そう思ったんでしょう?」
「わかるよ、私とセイアちゃんもそうだもん」
不快な複製の叫び声がする。
「...だから、アリウススクワッド。私は、あなたたちのために、祈るね」
「いつか...いつか、あなたたちの苦痛が癒えることを...やり直しの機会を希うのと同じように、あなたたちに次の未来が、機会があらんことを」
「だから、私は...あなたたちを許すよ。それは、互いが不幸であることよりももっといい結末だから」
複製たちの足音が遠くから近づいてくる。
「きっとあなたたちの人生は、たとえアツコが助かろうと苦痛に満ちたものでしょう。一生追われるかもしれない...それこそ、日陰者のような生活を送ることになるかもしれない。でも、それでも」
「あなたたちの未来に、ほんの一筋でも光明があると信じるのなら」
「アツコを助けることで、あなたたち自身をも救えばいい。私はもう手遅れで、救えないけれど...あなたたちは違うでしょう?」
「それに、先生たちが手伝ってくれているからきっと大丈夫。あなたたちの行先に、幸いが。祝福が、あらんことを-」
その瞬間、蓄音機が鳴り出す。
「...あれ、壊れてたんじゃなかったの?」
これは、慈悲を求める歌。牢屋にいた時何回か教会から聞こえてきた。
「別にこの歌が好きなわけじゃ無いけど...うん。そうだね」
私は覚悟を決める。もう、私は迷わない。
「あは☆何をそんなに急いでるのかな?あなたたちは通れないよ。この先は、救済のための戦いを繰り広げる勝者の舞台。私たち悪役には許されてないから...さあ、先生。あの子達を救ってあげて」
そして、確固たる決意のもとこう宣言した。
「ここは私が食い止めるから」
譜面台の楽譜のタイトルには「The show must go on」と書かれていた。
歌が、聞こえてくる。
救いを求める歌だ。ああ、僕は。
...なんだ?僕は何に対して救いを求めていた?
生まれに対して?
そんな記憶、存在しないはずなのに。
「...いかないと」
なぜだか、そう言う気がした。音の方へ走り出す。
だんだん思考がまとまってきた。
...周りが何も無い空間に満たされていく。僕たちは何のために生きていたんだろう。
誰一人顧みることのない場所で、僕は現実を知った。
僕は探し続けた...しかし、何を求めていたんだ?
僕の目の前に現れたのは新しいヒーローと、冷酷な犯罪だけ。
僕は帳の向こうに居て、その先で劇が続いていた。
たとえ誰も望んでいなくても、ショーは続く。
「複製...邪魔だ!」
刀で複製を切り捨てる。こいつら、僕の吸い取られた神秘と恐怖で性能が上がっている...!
「さっさと消えろ、亡霊!」
まるで風船を斬っているような感覚。しかし。
醜い声をあげて、複製どもは消えた。
「先を急ぐか...!」
...だんだんわかってきたかもしれない、僕が何のために生きていたのか。
その答えに近づいているのかもしれない。同時に死にも。
時期に、何もかもが忘れ去られるだろう。表では新しい一日が始まろうとしているころだろう。だけど、僕は一人。
暗闇の中で、何かを成そうとしている。そして。
「...ミカ様!」
とうとう、見つけた。
僕が一生を捧げると誓った人。僕の生きる理由。
「...いったいなあ!」
マガジンがだいぶなくなってきた。でも、まだ戦わないと...そう思って、ポケットに手を伸ばすけど。
「...うそ、マガジンがない」
どうやら今ので最後みたいだ。
バルバラの銃弾が迫ってくる。
「...終わりかあ」
足音が聞こえる。誰だろう。
「...ミカ様!」
...うそ。
もう聞けないと思ってた声がする。同時に、鉄と鉄がぶつかって弾ける音がする。
「ミカ様、ご無事ですか!」
「シン君...なんで、ここに?」
私の目の前に現れた彼の背中は、私の記憶にある彼よりも大きかった。
「姫様の危険を見逃す騎士などどこにもおりません」
「で、でも。私は悪い子で...君に守られる価値なんて」
バルガラが不快な唸り声を上げる。
「ミカ様、こちらを」
彼のマガジンを渡してくれる。でも。
「シン君、まさか銃なしで戦うつもり...?あれは反則みたいな強さだよ!?」
「僕にはこれがありますので」
彼は刀を指さす。
「まって、ダメだよ...シン君、悲しい顔をしてる。私は...あなたに命を捧げてもらうほど価値のある存在じゃないんだよ...今すぐ逃げて!」
「逃げません」
「ミカ様に...僕の、大切な姫様に何をする!」
「はあああああ!」
恐怖を込めて聖徒会を横一文字に切り裂く。反転は本質を表すもの...神秘の誤魔化しで得た風ではなく、本来の僕が現れるはずだった。
「....この無の能力、命尽きるまで使わせてもらう」
切り裂かれた聖徒会はブラックホールのようなものに吸い込まれていく。
「次!」
何人倒しても終わらない。数は減っているけれど、それでも終わりが見えない。99が98になったくらいの変化。
「どうしたどうした...そんなのちっとも痛くないぞ!」
バルバラの弾幕は全て風で吹き飛ばす。心地いい全能感が体に溢れる。
「...アンプロジウスまで来るか!」
巨大な化け物が出現する。だが、問題ない、ここまでいけば...!
「烈風一一・虚!」
背後に無の空間を作って、刀で防御させているうちに風で叩き込む。
なかなかに反則な技だけど、そんなこと言ってる場合じゃない。
「よし...ッ」
ヘイローにひびがはいる。
「シン君、もうやめてよ!私はもう十分君に助けてもらったから...!」
「僕は、まだできます...!」
バルバラに向き直る。強さを感じる。だけど、恐怖は感じない。
「お前を倒す...!」
刀に刻まれた「Dingir Shar Kali Sharri」の銘が光る。
バルバラは嘲るように唸り声を上げる。
「はああああ...!」
走ってバルバラに近づく。弾は風で吹き飛ばす。
「らあッ!」
バルバラは片方のミニガンで攻撃を防ぎ、もう片方を僕の腹に当てて連続射撃する。
弾丸は体を貫通するが、問題ない...!
「シン君...!」
誰かが叫ぶ声が聞こえる。
...ああ、きっと彼女もこうだったのかな。
彼女の魂と神秘は蝶の羽のように鮮やかに彩られていた。
彼女の御伽話は消えることなく広がりを見せた。
そして、彼女と共に世界の終わりを見届けたものとして。
「...僕はまだ負けるわけにはいかないんだ!」
片方しかない羽を使って飛び上がる。
「食らえ!」
バルバラの片腕を切り落とす。防御するより速いスピードでやって仕舞えば...
パリン。またヒビが入る感触。
それでも、笑ってやつに向き合う。決して諦めない。
バルバラも攻撃体制を整える。
次が最後の一撃となるだろう、そんな妙な確信がある。
「僕は...お前を倒す!」
羽を使って高速で走り出す。もう風を出す力すら残っていない。銃弾は全て避けるか刀で弾く。
「これで...終わりだ!」
横に切り裂く...と言うフェイントを入れる。恐怖を纏った真剣はバルバラの頭の上に持ってこられ、そして真っ二つになって跡形もなく消えた。
「...シン君」
ミカ様が何か言葉を紡ごうとした、その瞬間。
バキッ。バリン、バリン。
恐怖を宿した僕のヘイローは、跡形もなく砕け散った。
「シン君!」
「来ないでください!」
僕の体から黒い粒子のようなものが出てくる。そうか、僕は..死ぬのか。
悪くない死に方だ。最良といってもいい。
「直視したらあなたは立ち直れなくなる...僕の今の本質は無なんです。ミカ様まで無に染まる必要は...」
柔らかい感触を感じる。やや遅れて、「ああ、自分は抱きしめられたんだな」と感じる。
「そんなの関係ないよ!大事な人が私を庇って死んじゃいそうな時に、なんでそんなことしないといけないの!」
目にあたたかい液体が流れてくる。僕が、一番欲しかったものを。この人は何回も僕に与えてくるんだ。
そう、あの時も...守ってくださった、あの時も。
「まってて、今すぐ救護騎士団を呼ぶから...!」
「ダメです...もう、この体は助かりません。己の身に余る力を使った代償です」
「そんな...やだ、やだよ!せっかく戦いが終わる、そう思ったのに...!」
「...ミカ様、僕は。そういっていただけるだけで、とっても幸せです」
「やだ...止まって、止まってよ!」
ミカは黒い粒子を掴もうとするが、何もミカの手には残らない。
「ああ、あああ...」
「泣かないでください...また、どこかで会えます....最後に、一つわがままを言わせてください」
「うん...うん...」
「僕のこと、できるだけ覚えておいてください...そうすれば、僕は幸せです」
「残念だけど...そうはさせない」
...聞き覚えのある声が聞こえる。
「...誰」
「それの持ち主の集団の構成員」
「それって...シン君はものじゃない!」
「あなたはこれについて何も知らない。」
「来るな...もう僕は、お前らの道具にはならない!司祭にそう伝えろ!」
「ん、断る...あなたも知ってるはず。そうしないとあなたはもう生きられないって」
「それでも...!」
刹那、腹に強烈な力を感じる。蹴られたと知覚したのはその数秒後だった。
「いったいなあ、もう...!」
ミカ様は後方に軽く弾き飛ばされていた。
「これはもらっていく。時期にあなたの記憶からも消える」
「そんなこと、させな-」
「もらった」
いつの間にか担がれていた。しかも体が動かない。
「...早く忘れられるといいね」
「させない!」
銃弾がやつを襲う、が奴は意にも介さない。
「さよなら」
時空の裂け目に、奴は僕を放り込んでそのまま共に消えた。
「シン君...シン君!」
悲痛な叫びを、その場に残して。
ご閲読いただきありがとうございました。
死にましたね、シン君。
でも大事な人を守れたなら本望でしょう。
安らかに眠れるのでしょうかね、果たして。
執筆BGM:Queen-The show must go on