人は何で繁殖するのだろう。私がまだ自分の魔法を生み出す前に持った疑問。今だにわからないが、いつかは解明したいと思っている。
「へへ、いい声で泣くから興奮しちまったよ。どうしてくれるんだ、また立っちまうじゃねえか」
最初は野盗になった人間だったかな?同じ人間の女を襲い、繁殖行為をしていた。偶々その近くを歩いていたら茂みの奥から甲高い声が聞こえたから発見した。
実に非効率だなって思った。人間の男女が繁殖の為に行為に及ぶのは知っていたが、ここは魔物のいる森林で、近くに逃げ込む家もない道外れ。行為に及ぶなら家などの中で行った方がいいだろう。女の泣き叫ぶ声が響き、いつ魔物が襲って来るかもわからないのだから。
「何をしているの?」
「ッだーー!?ま、魔族!?」
野盗の男はナイフを向けてきたが、私が魔族と気づいて怯えていた。でも私にとってはどうでもよかった、私の疑問を解決する答えを教えてほしかった。
「どうしてこんな森の中で繁殖行為をしているの?」
「た、助けてくれ、俺はその…そう!この女が悪いんだ!」
聞いてもいないのに女の悪いところを喋り出す男。私の疑問から遠のいていく事にイライラが募っていく、そんな時だった。何度も殴打でもされたのだろう、顔半分が腫れ、元の部分から顔は整っていたのはわかる女から消えそうな声で助けを求められた。
助けて
とても小さな声だった。男の羅列が飛び交う中でギリギリ聞こえた声。男と同じ助けを求めていた。
『人を殺す魔法』
虫のような声を上げながら倒れる男より有意義な話を聞けるかもと、同族が生み出した魔法を使った。まだ自分の魔法という概念が薄い時だったから使ったが、今思えば勿体なかったかと思っている。
「あり…がとう…」
同じ質問を女にすると、泣きながら買い物に行く途中に襲われた事、殴られた事、何度も声を出しても止めなかった事…わからない答えがわかった。
何で男は興奮したのだろうか?抵抗されて喜びを感じたから?女も何で魔族にこうも喋ってくれるのだろうか?ーーー多くの疑問が生まれ、同時にその始まりの疑問、人が行う繁殖行為の意味に興味が湧いてきた。
近くの村まで送ろうと伝えると、感謝の言葉を繰り返しされた。歩いている途中で人間の考えを知る為、質問を繰り返している中で子供が欲しいのかと聞いてみた。声を荒上げて否定された、繁殖行為は子供を得る為じゃないのか?その疑問を口に出すと、何とも言えない顔で答えてくれた。
「魔族の方って本当に人の心がわからないんですね」
「だから聞いている」
「…無理やりされて、そんな奴の子供なんて普通の人間は欲しくないんです。そこに愛もありませんから」
「愛…好きだよとかの言葉の事?」
「なんて言えばいいんでしょうか、人は感情で決めるんです」
「感情を知るにはどうすればいい」
私にもわかりません・・・そう答えられて何だそれはと思った。だからこそ解明したいと強く思った。
彼女との出会いは運命だったのかもしれない。骨と皮になった自分の手を掲げながら、出会った時のまま、小さな角を生やした頭に腰まで伸びたピンク髪の姿でこちらを心配そうに見つめる彼女と目が合った。
「ふふ…とても心配してるように見えますね」
「そう?よかった、上手くできてるようね」
彼女に故郷の村まで運んでもらった時は皆が私を心配してくれた。魔族という存在は嘘をついて人を殺す怖い存在っていう教えは伝えられていたが、実際に話してみてただ感情がわからないだけの人なのだと知ってくれた。
『人の感情を教えて、あと繁殖行為の感情も、愛についても』
…話をそこそこにそんな事を村人の皆に聞いて回ったせいか、見た目通りの性認識のせいか、とにかく村の人々は彼女に最初こそ怖がっていたが、私が一緒に生活をしているのを見て徐々に慣れてくれた。
「貴方と過ごしてもう60年ですね」
「まだ60年でしょ。私はまだ人の感情を理解できてない。目に見えない物って魔族だとわからないのかしら?」
「ふふ、その疑問を持ち続けてください。きっと、貴方の助けとなりますよ」
彼女は時々、論理感を無視した行動をしようとする。欲しい物があったら殺して奪う、代わりの物を用意すれば良い、気に入らないことがあれば暴れる。人間なら理性とかが働く場面でも、魔族はそれがない。そんな現場に何度も目にして、その都度何が駄目なのかを何度も具体的に伝えて、迷惑をかけた人に謝るを繰り返してきた。色々と問題はあったけど、彼女が村に来て60年一緒に過ごす事ができたのだ。
「どんな助けになるのかしら」
「さあ、わかりません」
「その不透明な感情を理解したいのよ」
後悔はない。でも残念に思うのは、この感情を彼女は理解してくれない事だ。長い年月を生きる彼女にとって忘れてしまう程度の記憶、ただでさえ感情を理解できないなら思い入れもない私の事なんて忘れてしまうだろう。
「…少し私に近づいてくれますか」
木々が生い茂る中、ピンク髪の少女が一人ポツンと佇んでいるような石の墓前にいた。
ほっぺたを触りながら、その少女は呟いた。
「何であの時怒ったのか」
前に教えてくれた感情に当てはめて、私もその行為を手助けした。
『女性に男性器を生やす魔法』
痛くなかったが頭を殴られた。違う、そうじゃないと、答えは自分で見つけろと言われた。
「あれから村を出て、色んな人間や同族に会って感情を聞いたりした。でも、わからない」
だからだろう。あれから200年程経っても自分の固有魔法という概念を生み出せていない。人間の繁殖行為、それに伴う感情。その全てを解明することを第一に考えてしまう、所謂、凝り性という価値観を自分は持ってしまったが故に魔族として魔法を極めようと、己の一つの魔法への目標が不透明になっているのだ。
「こうやって死んだお前に話しかけて意味があるのかわからない」
でも続けている。一応50年に一度は墓参りとやらに来ているが、未だに意味が理解できない。死者が話しかけてくれるわけでもないのだから。
「最近…ああ、40年前は人にとっては昔か。まあいいや、同族と人間の話だが、魔族の女性と人間の男性が今にも殺し合いに発展しそうな場面に出くわしてな。人間の論理感的に殺しは意味なく行っては駄目なのだろう?だから実験も兼ねて魔法を使ったんだ。ふふ、思い出しても笑いが出る」
『性欲を増大させる魔法』
実験で生みだした魔法だが、同族でも効いたらしい。まあ、意識もない人形のようになり意味の無い繫殖行為を求め続ける存在になっただけだったが。どうだろう?今も続けているのだろうか、人間の方は連れの者達が止めていたが。
「これぐらいかな…じゃあ、また来るわ」
彼女との出会いで私の魔族としての価値観は歪んだ物になった。魔族は人を殺す、そこに理由はない。でも私は理由が出来たから殺すのは控えている。矛盾を彼女が生み出したのだ、力も無いただの人間が。
「…これが初めてを奪われたって言うのかしら」
今度墓前で言ってみよう、私の初めてを奪った貴方とでも。