繁殖行為。実に興味深い   作:記憶破損

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人の気持ちは目に見えない

 これはとある町に出向いた時の出来事だ。魔王が勇者ヒンメルに討たれて60年ほど経ち、人間同士の争いが目立ち始めた時期だ。

 

 

 

 

 

 賑わいのある町に入る際、容姿とは重要な要素となる。繁殖行為においても女性、男性問わず、整った容姿をしているだけで繁殖行為の対象として意識が発展する事があるらしい。魔族だと顔や体格の違いはわかるが、何が優れているかは魔力量基準なので、魔族間で容姿はあまり重要ではない。それを言い出したら、そもそも人型から逸脱した者達もいる。そういった魔族程、強大な魔力量を保持して傾向にある。

 

 過去から生き続けた魔族は魔法こそ力、あるいは磨き上げた武が、という思考になりがちだ。逆に人間の容姿に近い者ほど近代の魔族らしく、人間の真似をして懐に入る行為をしている。人間と接し、拘りという概念や趣味に没頭する行為など人間と魔族でも似たような思考になる部分があると不思議な傾向に疑問がわいてくる。人間を捕食するために魔族は今の容姿に、思考になったなら何で感情だけは理解できるようにならなかったのだろうかと。相手の行動全てを認識・理解できた方が捕食もしやすいというのに。宗教を参考にするなら意図して天地創造の女神とやらが我々魔族に欠陥を残し創造したのか?だとしたらなんて狡猾な存在だ。

 

 

 

 

 

 人間の時間で魔王軍の記憶が薄れてきたこの頃。各村は別として、この時期になると町などの都市では貿易が盛んになり、一般魔法使いが普通に往来するようになった。魔法使いの質によるが、角や魔力を完全に隠さなければまともに探索もできない不便な時代である。

 

「…人が多い」

 

 前が見えない程の人の流れ。邪魔だからと魔法を撃ちたいが、理解していても殺したい、退けたいと思ってしまう。でも…ほんの小さな思考により行動に移さない。彼女と出会いこの思考に辿り着くようになってから100年以上過ぎた。繁殖行為、それに伴う感情から人間を理解しようと始めて多くの者達と出会いがあった。私は人間と接して、人間の中で過ごす事で人間のように振舞った。

 

(でも、わからない)

 

 最初は意思して人間を殺さなかった。感情を知るのに殺したら聞けないから。でも今は…何も思考せずとも殺さない方が得だと思い殺そうとしていない。魔族として殺した方が、食べた方が、本能は殺せと思考を誘導している。それ以上に私の意思という感情が勝っているのが今なのだろう。

 

 人間が魔族を研究した本を読んだ。これは第三者の視点という分析方法が記載されていた。人間から見た魔族の視点、そこから今の私の状態を考察していくのに役立った。何でこうなったのか、何でこのような思考・行動を自然とできたのかは理解した。だが、それに至った感情がわからない。行動に移すとは思考・感情が関わるのは当然のはずだ。なのに、人間を殺さない事に疑問を感じなくなる感情を自らで説明できない。目的の為に殺さないなら理解できるが、目的も関係ないのに殺さない今の私は何なのだろうか。

 

(繫殖行為。実に興味深い)

 

 始まりの疑問。始まりの思考。始まりの結論。今に至る全ての始まりに帰って来るのだ。結局、この行為を続けた事で今の自分に至ったなら、続ければいいと。

 

 

 

 ポスン…考え事をしていたら誰かにぶつかった。この場合は謝る事が必要だと顔を合わせたかったが胸で見えなかった。 

 

 

「あ、大丈夫?」

 

「ごめんなさい。前を見てなかったです」

 

 

 少し離れて顔を見直すと、紫髪で容姿が整った女性がいた。薬指に指輪をしているのが見え、男女の関係になった女性なのだと認識した。

 

「あら、ここでは見ない子だけど、他の場所から来たの?」

 

「はい。ここには観光で来ました」

 

「お父さんやお母さんは?」

 

「…いません。私、魔法使いなので一人で来ました」

 

 何かを思った顔で女性は謝ってくる。理解はできなくても、それが罪悪感だと認識はできる。こういった理解できるまで感情を調べているのに、罪悪感の感情・感覚を一向にわからない。どうにかその感覚を感じる切っ掛けが欲しい。

 

「えっと、よければお茶でもどうかしら。ここで出会ったのも何かの縁だと思うから」

 

「ええ、いいですよ」

 

 笑顔で近づくと、女性は頭を撫でてきた…過去に似たような事があったと思い出したが、何故かあの女のような感覚にはならなかった。

 

「貴方は強い子ね。貴方ぐらい子なら普通一人で外に出るのも怖がるのに。うふふ、産まれてくる子も強く育ってほしいな」

 

「妊娠されていたんですね。大きい服でわかりませんでした」

 

 胸元がゆったりと隙間を作れる服を着ていた為、お腹が膨らんでいるのに気づかなかった。ぶつかった時も胸に埋もれた。

 

 女性は自分のお腹を撫で、ゆっくり語った。

 

「私はまだ母親になったって夢のような気分なの。あの人に出会って、結婚して、子供ができて…本当に幸せなのよ」

 

 女性と歩きながら喫茶店まで着き座る。女性は微笑みを浮かべながら、どこか悩むような顔をしていた。多くの者を観察したが、この顔は初めてだった。どのような感情でそうなったか予想できなかった。

 

「何でそんな顔をしているの?」

 

 幸せなら笑う、喜ぶのが正常だ。魔族も人間もそれは変わらないはずだ。女性は番となる男性を見つけ、子を身ごもった。それは愛という感情の末にできた証拠であり、どこに悩む事があるのだろうか。

 

「そうね…大人になればわかるわよ?」

 

「具体的に聞きたいです。やはり性事情に関わる」

 

「それは関係ないわね。意外とませてるのね貴方」

 

 呆れた顔で言われた。間違っていたようだが、だとすると更にわからない。私が悩んでいると、お決まりですか?とウェイターが来た。人間の食べ物を口にしても上手い不味いはわかるが、普段食べる必要がないので何を注文すればいいかわからない。

 

「何か注文しましょう」

 

「はい」

 

「キノコのマカロニ煮、赤い宝石のサラダ、実肌の薄キリ焼き、あとーーーあ、大盛チャレンジがあるんだ」

 

 …女性は言葉の羅列を続けていく。メニュー表に書いてある言葉なので注文する品のはずだが、全てのメニューを読む決まりでもあるのだろうか?ウェイターも困惑した顔をしているので、変な事なのだろう。私はパフェを一つ注文した。

 

 

 

 

「お待たせいたしました」

 

「ありがとうございます。じゃあ食べましょうか、本当にパフェだけでいいの?お腹空かない」

 

「ええ、大丈夫です。全部食べれるのですか?」

 

「これぐらいなら腹八分目にもならないかな?」

 

「そうですか…」

 

 私達の机に置いていかれるメニューの数々。大盛チャレンジなる大量の食糧を食べきればタダらしいが、どうなるのか。

 

 

 

 モグモグ…モグモグ…

 

 

 

 淡々と食べていく静かな時間。私も甘いと感じるパフェを食べながら女性の不思議な肉体に疑問が尽きない。明らかに女性の胃袋の体積より多い食事を摂取しているように見える。魔法を使っている様子もない、そして女性は妊婦のはずだ。胃の圧迫を更に受けているはずなのだが、どうなっているのだ?

 

 疑問を持ちながら女性が食べ終えるのを待っている中、この店のシェフやウェイターの顔が青くなったように見えた。

 

 

 

 ごちそうさまでした

 

 

 

「また、出禁の店ができちゃった」

 

「店の食料を食べ尽くす客なんて初めてだったんでしょう」

 

「また探さないと」

 

 この女性…魔族より食べてないか?魔族も個体差はあるが、人間一人ぐらいを食べる事はできる。しかし、明らかにあの量は難しいと判断できる量だった。

 

「お腹に負担がかかるのでは?」

 

「栄養が行ってよく育つと思うわ」

 

「過度な栄養は体に毒だと書物でありましたが」

 

「う~ん、でもお腹が空くし…どうにかなる魔法を知らない?」

 

 妊婦が肥満状態になると、出産に至るまでで病気になる可能性が増えるらしいがどうだろうか?目の前の女性はあれだけ食べても見た目は変わらない。特殊体質なる個体の可能性もある。

 

「食欲を減らせばいいのですか?」

 

「それはいや」

 

「そうですか…なら、栄養を子供に流れやすく魔法で促進できますが」

 

「そんなことできるの?」

 

 女性のお腹に触れ、魔法で身体の流れに干渉する。そこで気づいた…腹の中で僅かな鼓動と魔力の感覚に。どうやら、産まれてくる赤ん坊は、魔法使いの才があるようだ。

 

「…貴方のお子さんに魔力を感じました」

 

 事実を伝えると驚いた様子で女性は納得した。

 

「そう…やっぱり彼の子だからかしら?ありがとう、教えてくれて」

 

「事実なので。今は嬉しい気持ちですか?」

 

「ええ、何だかスッキリした」

 

 落ち着いた様子でお腹を撫で、何故か私の頭も撫でた。

 

「何で撫でるの?」

 

「ちょうどいい位置にあるから」

 

 頭を撫でる行為は、村にいた時も彼女が時々してきた。理由を聞くと、好意を持っているからと言われた。繫殖行為に繋がる愛の一部だと思うが…では、北方で出会った奴も?いや違うはず…わからない。

 

 私が撫でられる事はあっても逆は無かったはずだ。そう思い、私は女性の頭を撫でてみた。最初は驚いた様子だったが、すぐに撫でられるように顔を合わせてきた。

 

「優しい手ね。ペットでも飼ってたの?撫で慣れてる感じだけど」

 

「私を好きだと言った男を寝かせる為に撫でてた。愛を教えると言ってたけど私はわからなかった」

 

「…貴方が心配になってきたわ」

 

 撫でても何も感じない。もういいかと私は他を探索しようと動き出す。

 

「もう行くの?」

 

「私は色んな人とお話したいの。数ヶ月はいるから」

 

「なら、私達の家に泊まらない?」

 

「いいの?どうして」

 

「なんとなく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い空が広がる天気のよい一日だった。長旅になる時は、野宿も視野に入れて過ごす日々。しかし今回は運がよく同じ方向に行く馬車に乗せてもらい、感じる揺れを暫時として過ごす時間を堪能している。

 

 

 馬車の上で雑談をする男女は三人いる。人間の歳若き男女が二人に、エルフが一人。その話の中で、エルフにとっての時間と、人間の時間との違いで不貞腐れたようだ。子供のように紫髪の人の膝に頭を乗せていくエルフ…しかし、エルフはすぐに頭を上げて景色を眺め出した。その顔はまるで遠くを見ているようで見てなかった。

 

 

 

 空が何も見えなかった

 

 

 

 ただ一言呟いて。

 

 

 

 

 

 

 





 原点回帰の回


 以下 たぶん本編に登場しない集


「マハトがヴァイゼの領主であるグリュック様に仕えたのは、今から80年以上前だ」

 黄金卿を討つ為に集まった者達が、黄金卿の過去を知っていく。ヴァイゼの領主との関係は極めて良好だったことを…。

「マハトとグリュック様は、ただならぬ関係だった。マハトが望めば、愛を教え、答え、時には他者を巻き込み表現していた」

 今でも信じられないでいる。教えを受けた故にとは答えない。何より普段の行動を隠そうとしなかったマハト、ハッキリ言って変態的な行動をするような奴がヴァイゼを、グリュック様を裏切るような事をするとは思わないのだ。妻との暇に自然といつもの張り付けたような笑みで乱入し伝えてきたことを今でも思い出す。

『なるほど…続けてください、デンケン様』

『…何で入って来た?』

『愛を知りたいからですが?』

『ならグリュック様としたらどうだ』

『異性としか意味が無いのでは?』

『愛してれば関係ないだろう。それと二度と、私達の行為中に入るな』

 …思い出しても馬鹿らしく思う。あのマハトがヴァイゼを黄金に包む?実力はあるのは知っている。野良の魔族討伐、貴族達との交流の手腕、経営に関する書類云々。普段からグリュック様と共にあるを体現している姿、それでいて…趣味の数々。あいつの個室を見て、別の意味で不安になった事はあったが。未だに踏ん切りがつかないのが本音なのだ。

 そういえば、貴族の社交場でマハトが貴族令嬢から愛を囁かれた時があった。

『俺を愛しているのか?なら』

『待て、マハト。私以外に愛の言葉だけ伝えるな。お前が愛を理解した時まで待つんだ』

 その一件でグリュック様の立場と言うべきか、マハトとグリュック様に恋を向ける目線以外に別の目線を向ける令嬢がでてきた。貴族間でも付け入る隙が、ある意味で無くなったのはいい事だったのか?まあ、他種族との恋愛は美談として語られやすい。ヴァイゼ内でも噂になるぐらいだったからな。



「勝算というには不確定要素が多すぎる」


 話を聞いていたエルフは、魔族として異質過ぎる存在にそう返すだけだった。

 過去を調べ、その異質な魔族が何を感じ、何を思ったのか…それを知った時、黄金卿を師とする者は何を思うのか…。




 ロリ・コーン・ドストライド…何者なんだ…


 記憶を見たはずなのに、更なる謎が広がった。

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