これはとある漁村での出来事だ。丁度、彼女が死んで100年ぐらいの時だったかな。
私が人との交流を図る為に普段行っているのは、角を隠す事だ。見ただけで魔族とわかるこの角をどうにかして初めて人間と戯れる事ができる。特に町など人が密集している場所では、魔族がどのような存在か理解している輩が多いためだ。そのせいで何もしてないのに襲撃を食らったのは一度だけではない。かといって、魔法などで角を隠すのはしたくない。魔族にとって角とは象徴のような物、何となく嫌なのだ。前に角を隠してた時に会った同族に『魔族としてのプライドがないの!』と怒られたが。
「おいおい嬢ちゃん、そんな大きな被り物なんて脱いじまえよ。可愛い顔が見えずらいぜ」
「頭に大きな火傷の後があるの」
「え、ああその…悪かったよ、熊の被り物可愛いぜ!」
「ありがとうお兄さん。お兄さんの帽子も似合ってるよ」
「ありがとよ。この麦わらは親父からの贈り物で気に入ってんだ」
大きめの被り物をしておくと、適当な理由を言えば大抵の人間は引き下がる。何度も行った行為だが、魔力探知を行えない人間だとほぼ成功する。魔法使いがいるとバレるので過信は駄目である。魔力を隠すのも好きではないが練習中だ。
「ここで有名な何かってありますか?お父さんの取引が終わるまでに観光したいの」
私の見た目は、人間にとって幼子に見える。村・町、問わず何故一人で来れた?と問われた事は数知れず。何かしら理由を用意しておくのも警戒心を解く方法である。それと合わせて、相手の距離に近づく。女性だと逆効果になる事もあるが、男性だと大抵受け入れてくれる。この男性も驚いた様子だが、落ちるなよと座るのを止めなかった。
「そうだな~、見ての通りここは漁村だし、逆に何があると思う?」
「魚」
「まあそうだけど…もう少しひねった答えを言おうぜ」
「女性の好きな部位は?」
「スゲー質問!?え、何で今の流れでその質問するんだい」
人間の感情がわからない。特に言葉にするなら察する。今の状況ならこのような質問・答えを求めているのだな。と理解した上で発っせられるのが人間だ。だが私はわからない。だから知識として、何かを求める発言をしたら私の質問をするようにしている。大抵は上手く行くのだが、今回は間違ったようだ。
「…答えなきゃ駄目?」
「女性は男性の視線に気づきやすいの。どこが気に入るか、男性の言葉で知りたいな~」
男性は周りを見渡し、近くに人間がいないか確認しだした。念のため辺りは事前に確認してから話しかけている。魚を一人で釣っていたから話しかけたのだ。人間の男性に話しかける時は媚びを売る声を出す。特に繫殖行為に関わる質問の際は興奮状態を誘うのにうってつけだと知っている。稀に何故か怒らせて襲って来る者もいるが、人間の心は複雑怪奇である。
「はぁ・・・どんな教育受けてんだよお前。…そうだな!やっぱ尻だ!大きな尻の女は良い!…俺が言ってたとか言いふらすなよ、聞いたのお前だからな」
尻か。確かに人間の繫殖行為を行う上で大事な要素だ。
「子供を産みやすいから?」
「あぁぁー…揉みやすいから」
「尻が?」
「尻が」
「そう…何で?」
「男は尻が大きい女が好きなの!男はな!隠してるけど女の尻に興味ビンビンなんだよ!・・・だぁぁ、もうやめだ!ここらだと村の中心にある店に行きな!唯一の飲食店が上手い魚料理を出してくれるから!」
男性の機嫌を悪くしたようだ。これから更に聞こうとしたのだが、急ぎ足で釣り道具を持って行ってしまった。質問の仕方を間違ったようだが収穫はあった。
「そうか…男は女の尻が好きなのか」
このように人間とのやり取りで得られる事は沢山ある。私は人に害する行為は駄目だと彼女から教わった。だが必要なら殺すし、奪う、そこに何も感情は湧かない。でもそれをすると今のような情報は手に入らないのを知った。でもそれが一番の近道になるはずと彼女との知識でわかっている。
「…一ヵ月ぐらいかな」
勇者ヒンメルパーティーが魔王討伐に向けて立ち寄った漁村。そこは魅力的な女性が多く住む村だった。その魅力的な一部に目が滑る男性は数知れず、勇者パーティーも一人のエルフを除き、目が泳ぐ。
「やっぱり、この村は呪われてる」
「ええ、素晴らしい。ここに移住した者達は挙っていい感じに」
「何が素晴らしいのハイター?」
「ゴホン!それでフリーレン、魔族絡みでいいんだよね」
「村を中心に随分と大掛かりな魔法だよ。差し詰め『女性のお尻を大きくする魔法』かな?何でかけたのか不明だけど、解除してくるね」
わざと咳き込んだヒンメルが追いかけるようにフリーレンに続く…どこかチラチラと彼女のお尻に目を向けているが他の仲間達は黙っていた。魔族の気配はないらしく、残りは村を探索する事にした。
漁村ではあるが、その特異性の女性たちに釣られて来た獲物が多く移住したせいで、あと数年か数十年で街になるであろう可能性を感じさせられる賑わいだった。道行く女性に目が泳ぐ同じような男性がチラホラと見える。
「…いいな。この魔法は解く必要がないんじゃないか?」
「貴方もわかりますかアイゼン」
「ああ、尻が大きければ安産にも繋がるからな。人口も増えやすいし」
「かぁーそこじゃないでしょ!酒でも飲んで語り合いましょう、そうしましょう!」
「まあいいが。吐くほど飲むなよ」
その後、顔と尻が良い店員に勧められ限界を超えて飲むハイターの姿があったそうな。
同じ時刻、フリーレンと魔法解除に向かうヒンメルは彼女の一点が気になって仕方なかった。今も魅力的だが、大きくなった状態も想像し同時に自己嫌悪で妄想を消して再度耽るを繰り返す。
「どうしたのヒンメル?」
「あ、いや君にも影響が出るんじゃないかと」
「少しは影響を受けるかもね。エルフに効くのか不明だけど」
「魔法を解除したら直るのかい?村の女性たちも」
「無理かな。直接身体を変化させてる訳じゃなくて、促進させてる。あくまで体の成長を促してるだけだから面白い魔法だ。魔族が関わってなければよかったけど」
つまり…フリーレンのお尻は大きくなるかも…ッ
「どうしたの?」
「…ふっ新たな極致を見たのさ」
「極致を見ると鼻血が出るの?」
「お嬢さんや、男は女子に夢を見るんじゃよ」
「…誰?」
フリーレンとヒンメルの会話に参加したのは、年季のある麦わら帽子を被る老人だった。明るい色の服を着て、雰囲気も柔らかく内面も明るいのだろうと感じさせる歳の老い方だとヒンメルは思った。
その老人もヒンメルを観察すると、どこかマセガキ染みた二ヤついた顔で答えた。
「ほほほ、お前さんもか」
「えっと、何がでしょうか」
「なに…幼子との思い出に心を奪われた者同士だと思うてな」
「なっ!」
「別に幼くないけど」
どこか見当違いな回答をするエルフに更に老人は笑った。そしてどこか、寂しいそうに釣りを再開した。
「ご老人、誰かをお探しなら手伝いますよ」
「ヒンメル、魔法はどうしたの」
「いいじゃないか。すぐには害はないんだろ?」
ヒンメルが老人の隣に腰かけると、またかと思いながらも挟む様にフリーレンも座った。その様子に老人は懐かしいように二人に話しかける。
「あの子も唐突に座ってこっちのペースを崩す子だったの」
「お子さんですか?」
「いいや、もう何十年も前に、今の尻が大きくなる村じゃない時に現れた子だよ。親が取引してるとか言ってたから商人の子だったのだろうね」
釣り竿を引いたが外れだったようだ。もう一度エサを付けて獲物を待っている。
「その子との思い出が忘れられないの?」
「ああ、君と同じぐらいの可愛らしい子で、ピンク髪が熊の被り物からはみ出しているのが特徴だったね」
「私エルフだけど」
「彼女も特別な存在のように感じたのさ。まあ老人の美化した思い出よ、今思えば彼女と出会ってから夢が叶ったと言えるのか・・・まあ、奪われたか」
意味がわからない答えに首をかしげる。
「その子に男の夢を語った。そして叶った。でも…そのせいでその子が記憶に焼き付いて離れなくなってしまっての…また外れ、はぁ…今日は駄目なようじゃ。よっこらせと」
ゆっくりと釣り道具を片付け始める老人は改めて二人に話しかけた。
「思い出は一瞬じゃ。若いもんなら、思い出に浸かるだけで動こうとせん老人にはならんこった」
老人の後姿を眺めながら、流すようにヒンメルはフリーレンを一瞬見つめた。
「さあ行こうか」
気を取り直し、改めて魔法陣があるであろう場所に向かうフリーレンを先頭にヒンメルも改めてお尻を眺めるのであった。