繁殖行為。実に興味深い   作:記憶破損

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母親と愛は繋がっているらしい

 

 これはまだ彼女と村にいた時の話だ。まだ繁殖行為と愛、感情との繋がりを学び始めた時の事だ。

 

 

 

 

 

 人間は短命だ。老いという枷を持ち、徐々に身体は弱っていく。魔法も覚えられる個体差があり、魔族として見たら欠陥品、存在する意味すら理解できない存在と認識していた。繁殖行為について理解しようと思わなければ今頃、村の住人を理由なく殺していただろう。

 

「す、好きです!付き合ってください!」

 

 それは子供だった。村に住んでいた見た目だけなら同い歳程度の子供。親が事故で死んで、村の者達に育てられていた。出会った当初は他の人間を真似て私に近寄ろうとしなかったが、時が経つにつれあちらから近寄ってきた。繁殖行為に興味が出始めたのだろうと考えた。

 

「ええ、いいわよ?意味はないけど」

 

 私が返事を返すと赤くしていた顔に笑みが浮かんでいた。

 

「…待ちなさい」

 

 だが、それを彼女は止めた。魔族として、私が彼に害を与えると考えたのだろう。彼女は私のどこが好きになったのかを彼に尋ね出した、当初は言いたくないと嫌と伝えているので、人間が人間に害を与えるのは駄目なのではないか?と私が話に割り込んだ。

 

「彼が嫌がっている事を聞くのは何で?」

 

「ふぅ…貴方の容姿だけで来たのなら後悔するだけだからよ」

 

「違う!彼女は…僕が寂しい時、いつもいてくれたから…」

 

 私は村の者達に繁殖行為を学ぶ上で交流を続けていた。挨拶、笑顔、意味の無い話、何故こんな面倒な事を繰り返すのかわからないが、早い者では一日の内に警戒が解かれる場合があった。これが感情というモノに繋がっていると聞いて、人間とは話すべきだと学んだ。

 

 そんな時だ、彼が村の隅で泣いているのを発見したのは。最初は逃げていたが、数を重ねていくと身の上話をしてきた。親が死んだ、村の人はいい人だけど寂しい、私は事実は理解できたが、寂しいなどの感情はわからなかった。生きているのが嫌なら死ねばいいのでは?と考えたが、彼女との最初の教えで人間に死をイメージする行動をするなと言われたのを思い出し止めた。

 

 だから寝かせた、私の膝の上に。睡眠は人間にとって体力の回復を図る効果がある。感情の回復もあるらしく、その日は良い事がなかったと呟いていた者が次の日に元に戻っていた。睡眠は感情の回復に適しているのは明白であろうとは理解していた。後に食事や交流など全てが関わっていると彼女から学んだが、彼との交流では寝かせることしかしていなかった。

 

 詳細を彼女に伝えたら、手で顔を覆ってわかったと口にした。

 

「先に言っておくわ、後悔しかないわよ?」

 

「後悔なんてしない!」

 

「…彼女は貴方の母親になれないわ」

 

 怒りを感じたのか、顔を歪めながら彼は私の手を握り強引に外に行こうとした。私は対応がわからないので彼女に顔を向けるが、何を考えているかわからなかった。でも止めに入らなかったので、正しいのだろうと彼と外に出た。

 

 外に出た彼が連れて来たのはいつもの村の隅。ここは人があまり寄り付かず、静かな草木の音が聞こえる静かな場所だった。

 

「ごめんね…僕は…でも、好きなんだ!容姿に引かれたのもあるよ、でも…君の手があったかいんだ」

 

「生きていれば誰でも熱はあるわよ?」

 

 私が言葉にすると、彼は笑った。

 

「はは、うん。やっぱり好きだよ。お姉さんが言ってた意味…僕はちゃんと知ってるから。でも好きになったから仕方ないよね?」

 

「私に発情したのよね?好きって繁殖行為をしたいから言葉にするんでしょ、でも私、人間の子供産めないけど」

 

「違うよ!?えーと、一緒にいたいから好きなんだよ!これが愛なんだ!」

 

「何も思わないけど、これが愛という感情に繋がるのは何で?」

 

 頭を抱えながら彼は愛を言葉にした。どこか彼女のような笑顔で。

 

「魔族的に言うなら、一緒いても不快にならなければ愛に近いのかな?」

 

「じゃあ、私は村の住人全員を愛しているの?繁殖行為をした方がわかるかしら?」

 

「それは止めてね!?ええっと…膝に、寝ていいかな…」

 

「いいわよ」

 

 彼は最初に寝かせた時のように膝に頭を乗せる。私は人間の女性が赤ん坊を撫でている動作を真似て頭を撫でる。普段は私の腹の方に向いているが、今日は私の顔を目が合うように寝ている。

 

「落ち着くんだ…僕だけじゃないと思うけど、君のその、人じゃない感じが…」

 

「魔族だからでしょ」

 

「はは、違うよ。お姉さんや僕みたいな…そうだな、人間の中でどこか外れちゃった者には、君は眩しいんだ」

 

「彼女も貴方も人間よ?」

 

 彼は寝ながら手を伸ばし、私の頬を撫でた。

 

「甘えられる存在を人は求めているんだと思うよ。お姉さんも僕に言ってたでしょ、母親になれないとか」

 

「母親になれば感情はわかるの?」

 

「…疲れてきたよ」

 

「そう、じゃあ寝なさい」

 

「うん、お休み」

 

 彼は膝の上で寝てしまった。起きるまで母親と感情、繁殖行為に関係ない愛の関係の繋がり、愛と関わっている感情の種類は数が多いのだろうかと認識を改めた時間だった。そして、彼が起きたのが夕暮れで、帰りに親代わりの者達が怒っていたのを私は見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってしまうのかい」

 

「彼女が死んだからね」

 

「そうかい、寂しいよ本当に」

 

「貴方が繁殖行為を他の人間としなかったからじゃない」

 

「君がいたからね。付き合ってる相手がいるのに愛を呟けないよ」

 

 彼女が死んで埋葬が済んだ後の事だった。彼も70に近く、人間として繫殖行為に適さない年齢になっている。作れなくないだろうが、本人が嫌がっているのでいいのだろう。

 

「繁殖行為を私に求めなかったわね」

 

「君はまだ愛と、そういった行為の違いとかわからないからね」

 

「でも興味があるって前に言ってた気がするけど」

 

「男は満足してると、意外と性欲は湧かないんだよ…行く前に私を寝かせてくれないかい」

 

 もう何十年も行っていた動作だ。彼の家に入り、ベットの上で膝に乗せる。彼が寝たらそのまま寝かせられるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた時…感じたのは温かい感触ではなかった。起こさないようにゆっくり布団をかけてくれたのだろう。作り置きがテーブルにおかれ、ホコリが被らないようにタオルが引かれていた。

 

「行ってしまったか…はは、私の好物だらけだ」

 

 彼女との出会いは彼女的には不幸だったのかもしれない。僕は人間として子孫を残せていないのだから、興味のある繁殖行為と程遠い存在に捕まったのだから。そもそも、記憶にも残らない存在としか思わないだろうが。

 

「好物だけじゃなく野菜とかも使えって、お姉さんから教わってからメニューが増えてたけど…そうか、最後は好物だけにしてくれたか」

 

 冷めてしまった料理をそのまま食べる。後で温めて食べる物を残しておくが、手を加えていなくても、僕にはとても温かく感じる。

 

「結局、君に愛を教えられなかったな…悔しいよ」

 

 人間なのに感情を理解できない存在に教えるのがこんなに難しいとは思わなかった。彼女はどこまでも、自分の事しか興味が湧かなかった。魔族全体がそうなのだろう、他者に対する思いやりとでも言うのか、感情がない訳ではないが一部だけかけている。そして、無意識的に発作のような人間に対する殺害衝動、そんな意思を思ってなくても魔族という種族として持ち合わせていた。その都度、お姉さんや僕が気づいたら対処していたが…今更になって彼女が心配になってきた。

 

「子を思う親の気持ちか…親を思う子の気持ちか」

 

 彼女がいたら首をかしげて聞いてくるだろう。出会った時と変わらず、幼子の容姿をしている彼女が、幼子のように理解できない感情を知りたいと。彼女が理解できる日が来るのだろうか、来てくれる日を願うだけである。

 

「・・・やっぱり、若い頃に一発ヤっとけばよかったか…」

 

 静かになった家の中、老人は一人で冷たい肉のスープを啜るのだった。

 

 





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