これはアウラから逃げて、2年程経った時の事だ。ある意味で役に立つ知識をくれた魔族だった。二度と会いたくないが。
人と魔族が一緒に過ごすことは可能だ。魔族側が人を攻撃しなければいい。彼女の教えから考えれば、未だにわからない事が多いが、殺さなければ人間側から近寄って来るであろう。互いに理解はできないが、わからなくても殺すことを抑えれば過ごすことはできたのだ。殺すことは人間側では駄目な事だ、それは何故なのかはわからない。私のように自分の為と、思わない魔族にとって止める理由がない。人間の感情と魔族の感情は違うのはわかる。知識として理解した上でも殺す事は何で駄目なのか、私も未だにわからないのだから。
『人を殺す魔法』
それは突然の奇襲だった。何とか回避できたのは、相手が魔力を隠そうとしてなかった為だ。
『性感度を上昇させる魔法』
「なるほど。なるほどのう。人間の感覚器官を我々の肉体に当てはめて作動する仕組みか…」
『性感度を低下させる魔法』
「ッ私の魔法を解析したの」
それは最悪の出会いだった。彼女の墓まで森を抜けていたら魔法が飛んできた。その魔法を放った同族も、あのアウラより強力な魔力量であり、同時に魔王軍であった為、アウラの件で追ってきたのだと思った。逃げられるように何の魔法を使うか考えながら構えていると、相手が魔法を止めた。
「魔族らしくないのぉ。魔力を隠し、大魔族を前にして立ち向かう」
顎に手を当て、考える様に呟き始めた。その言葉を聞いて、話し合いが可能だと判断した。
「アウラの件は事故だったの、魔王軍とは敵対する気はないわ」
「魔族と戦う術を得た人間がこの100年で増えた。人間の構造から逸脱した進化を遂げて・・・お前であろう」
「何のこと」
「…まあいい。問いたいことがある」
私は人間に魔法を使う事はあるが、力を与えたことは無い。意味がわからない問いに理解できなかった。
「人間と魔族は共存、あるいは共生は可能か?」
その魔族が口にするとは思わない質問に私は少し硬直した。相手に隙を作ったと思ったが、その隙に攻撃されることはなかった。
「何が目的なの?」
「やはり、魔族らしくないのぉ…人間を理解する。その意味のない行為をし続けなければあのような魔法を作れまい、だから問う。それだけよ」
「意味はある」
「ない。アウラにかけた魔法に志向性を仕掛けていたな、攻撃という意思に反応するようにのぉ…何故、殺意にしなかった?」
「魔族に効果がないから」
「殺すことに意思を持たぬからだ。人間から和睦が来る場合もあるが、成立しないのは我々がその意思をわからぬからだ」
目の前の魔族が何を思い、この問いを私にしているのかはわからない。でも、答えなければ私を殺すだろうとはわかった。
「…私は人間の感情を知る為に人間と交流を続けている。だけど、感情を言葉にできても理解はできてない。人間が感じた感情を具体的に聞いて、それを基に人間ならこうすると私が行動してるだけ」
「人間の真似を続ければ共生できると?」
「無理かな。私は、私の目的の為に動いているだけ。だから人間を殺さない理由があるだけ…」
私自身、人間との共存や共生を考えた事はなかった。殺してないだけで人間と近づける。それが私の目的にも繋がる、ただそれだけだったから。
「なるほどのぉ…理解した」
「何を?」
「魔族は人間を理解できぬ事をだ。続けるがいい、その目的の為に」
彼はそう答えて背を向けて去っていく…それが見えなくなるまで警戒を続けて、意味が無いと判断した時、やっと警戒を解いた。
「意味がわからない」
私はただ疲れたとその場に倒れるだけだった。
それは町から遠く、けれど人が住むには十分な自然がある村だった。そこでは子供たちが外で遊び、大人たちが仕事に動く、当たり前の日常が続いている。
「お隣さんに赤ちゃんができたんだ!可愛い子だといいね!」
「そうなんですよ、ソリテール様も是非会ってあげてください」
「うん!お腹が減ったら会いにいくね」
「ははは、いつでもいいですよ」
そこでは魔族と人間が一緒に過ごしている。長年の付き合いのように話す魔族もいれば、ただ食べている者もいる。
その様子を椅子に座り、ただ眺めている魔族もいた。
「楽できていいね。マハトちゃんもどう?」
子供の腕を渡され、ただ受け取り食べた。隣に座り、同じくそこらにいた子供を齧っている。
「いい友達持ったね。この魔法を広げれば戦わなくて済むし、共存もできるじゃん」
これは友からの贈り物。戦うのが嫌いな自分の答えの一つ。そして、魔王様達にとっても。
「魔族も人間も両者が理解できないなら、理解させればいいか」
『常識を書き換える魔法』
この村全体にかけられた魔法により、魔族と過ごすことは常識であり、魔族のする行為は許される事として認識するようになる。
「この魔法便利だけど、魔力消費が多すぎなのがね~」
「こいつらは人間なのか」
「え、そうじゃん?何言ってんのマハトちゃん?食べたけど、人間の味だよ…あれ、どこ行くの」
「魔王城…シュラハトが来ないなら、これは間違いなのだろう」
これは友からの贈り物。自分の答え。人間と争わず過ごせる求めていた日常。
「何かが違う」
「何が?」
「…わからない。だが、何かの感情が湧いたような気がする」
黄金を生み出す魔族は、ただその村から外へ歩みを始めた。
「おお、マハト様。お出かけですか?」
目の前に子供を連れた親子がいた。子供を殺してみた。意味はない。
「息子が何かしてしまいました!」
「すまない、殺した」
「いいえ、また作りますので大丈夫ですよ」
「はい貴方、申し訳ありません!息子が気に障る子だったせいで汚れが」
「いや、いい」
後ろで謝罪を繰り返す人間の夫婦の言葉。普通の人間なら泣き叫び、怒り、立ち向かうか…普段は面倒と、自らが嫌う争いという事に発展する行為。それが許される。
どちらにしても長くは持たないだろう。異変に気付く人間が、数年も経たず押し寄せて来る。束の間の共存が崩れる日も近い、その前に村の住人が消えているかもしれないが。
これは求めていた共存ではない
その疑問が何故か、一人の魔族の胸に残り続けた。