これは山の中を歩いていたら偶然出会った山賊たちの出来事だ。彼女が死んで40年ぐらいの時だったと思う。
愛を捨てた人間。そう伝えられ、彼女に具体的に聞いたら自分の事以外を信じられなくなってしまった存在と教えられた。魔族に近い思考になったのか?と聞いたら違うらしい、自らの欲望を優先するだけで取り戻すこともできる。だから実害が無い限り殺しては駄目だと言われた。自らも嫌な事をさせられ殺したいのではと聞いても、それは私が済ましたから終わった事らしい。似通った存在も消した方が、気分も更によくなると考えるが違うらしい。山賊は嫌いだが、殺すのは駄目と思う感情、これも愛だったのだろうか。
「上玉だな、どうしたんだそいつ」
「へい、近くを一人で歩いてやした」
「近くに商人でもいたのか?」
「こいつだけで運がいいなって」
「・・・おい、嬢ちゃん。親はどうした?」
私は今、体格のいい男性の脇に荷物のように持たれている。何の説明もないまま連れて来られたので、どうするべきか考えていた。
「山賊かしら?」
私が確認の為に言葉を発したら、リーダーらしき男性は私から距離をおいた。
「へ?兄貴、なに」
「馬鹿が!普通のガキがこんな冷静でいられるか!」
『感覚を鋭くする魔法』
「い!?いてぇぇぇ!」
後の感度に関する魔法の過程で作っていた魔法である。まだ調整が上手くいっておらず、何でも感覚が強くなってしまう失敗作。弱めにかけても少しの衝撃が、激痛に変わる為、何もしていなくても体中に痛みが走っているだろう。
「クソが!」
「ま、待ってくれ兄貴!」
連れて来られた場所は洞窟になっており、牢屋が並んで中に裸の女性が数名入っていた。山賊の仲間が性行為をしている者もいたが、こちらの騒ぎで陰茎を出しながら出口に走るように動いていた。痛みに苦しんでる仲間を置いて。
『見えない壁を作る魔法』
元々は繁殖行為を観察するために開発した魔法だ。私から見て内側からは外の様子が見えるが、外側からは周辺にあった姿形に見える。強度を上げれば応用が利くので気に入っている魔法だ。彼女にこの魔法の存在を知られた時から村の中で移動する間は基本手を繋ぐようになって使用できなくなっていたが。
見えない壁にぶつかる山賊たち。叩いたりしているが、魔法も体術も学んでいない連中に壊されるはずがない。
「ッ待ってくれ!君は魔法使いなんだろ、俺達は生きてく上で酷いことをしたのは事実だ。でも、君のように魔法も覚えられないからしょうがなく!」
山賊で兄貴と呼ばれていた人物が命乞いをしてきた。人間でいう、悪人の最後は魔族のように助けてくれ、殺さないでくれ、命だけは、決まった言葉を吐いてくる。そして、見逃すと場所を変えて同じことを繰り返す。まるで魔族のような行動だと、空中から眺めて観察したことがあった。
「見逃すと別な場所で同じことをするでしょ?」
繫殖行為をする為には愛が必要なのに捨てた者。自分の為に種族としての感情を捨てる行為に走った者。どちらも自らの愛の感情が関わってると知識ではわかる。だから聞く。
「どうすれば愛を知れるの?」
「は、え?愛って…それに答えたら見逃してくれるのか」
「答えて」
その男は少し考える様子で一瞬目線を下にしてから答えた。その顔は先ほどまでの焦りがやや消えたようだった。
「その前にいいかな。そこの…俺達が捕まえた女達を見てどう思った?」
生きてはいるが牢屋の中から動かず、虚ろな瞳でこちらを見ている。あれは諦め、やる気がない状態、人が何も考えたくない時に行う逃げる行為。
「何も。貴方達が捕まえて性行為をしてた女性。愛を感じていない、妊娠を嫌うだろうと思う」
「くくっ、君は…魔族か?」
「そうよ」
隠す必要がないので正直に答えた。人間が魔族と違和感を持つ質問は決まって感情に関わる事だ。言っては気づかれる言葉は大抵決まっているので、言わないように普段は心がけているが今は意味がないのでしない。
山賊の仲間は私が魔族と答えたらうろたえた様子だが、兄貴と呼ばれた男は違った。
「俺達を食わないんだな」
「私は人間を殺さないようにしてる。理由がなければ殺すけど」
「…理由を聞いてもいいか?」
「繁殖行為に関係する感情を知ることよ。何で理由を聞くの?」
男は口元を歪め言葉を続けた。
「なら簡単だ。妊娠すればわかるぞ」
「愛のない繁殖行為は駄目な事よ?」
「あー…妊娠すれば愛を得られるのさ」
私は意味がわからなかった。知識では、愛のない繁殖行為は人間の中で駄目な事であり、その行為によって妊娠する事も駄目な事にである。
「貴方達は愛を捨てているはずよ。愛のない繁殖行為で愛を得られるの?」
「愛と妊娠がごっちゃになってるのか?妊娠すれば愛を得られるんだよ」
「…そう。貴方、魔族と知っても怖がらないのね」
「俺がまだ下っ端の時に魔族と出会ったことがあってな。話し合いに持ち込もうとしたその時のリーダーは、問答無用で食い殺されちまってたのを見たのさ。俺は無駄な事は嫌いでね、君の目的が繁殖行為の感情?を知る事なら協力して助かるならやるだけだ。同じ人間なら足掻いていたさ」
目の前の男も諦めていたらしい。言葉にするなら潔いであろうか。
「じゃあ、女性を選んで」
「お、早速か。だが男は何度も出せなくてな…少し時間を開けてくれるか?」
「人間の妊娠期間は1年ぐらい。それぐらいなら待つし、食料も送る」
「それは素晴らしい。なんなら…俺達みたいな連中をここに集めてくれないか?多くいた方がわかりやすいだろ?」
「いいよ。ついでに同じような女性も送る」
「最高だよ」
牢屋の前に行く頃には、男達は元の元気に状態に戻っていた。牢屋の中の女性たちは変わらなかった。
「じゃあ、真ん中の奴でいいか?」
「その子でいいのね?わかった」
『妊娠できる魔法』
「な!ぎーーギェァああ、い、イてぇギギギ!?」
『女性に男性器を生やす魔法』
私は男が選んだ女性にも魔法をかけた。けど、それだけだと動かない。だから、改良を続けた魔法もかける。
『性欲を増大させる魔法』
まだ調整が上手く行かず、どこまで増大させればいいか不明状態だったが、こういった感情が死んだ者達を使用して確かめるのが手っ取り早い。魔法をかけた直後、先ほどまで虚ろだった瞳が動き出す。後はその繰り返し、残りの者達も同じように魔法をかけていく。女性の人数の方が少ないので、男達は見えない壁に固定する。男の方が抵抗する力が強い為だ。
「ごめんね。私は女性型だから男性器を生やす過程で痛みとかイメージが湧かないけど、男性は子宮や気管を作るから痛いと思う。膣がないから排泄口も伸びる様に変えなきゃいけないし」
人間の中で犯罪行為に手を染める連中は多くいる。世に魔族、魔物など人間に脅威が残っているというのに、人間は同族同士でも争いを止めれない。
【悪即山】
そこは本来、自然が溢れるだけの山だったらしい。今では人間の犯罪者をぶちこむ監獄となっている。この山を発見したのは、かの大魔法使いゼーリエであったとされている。魔女の村を調べる過程で【産ませの魔女 ゲブーアト】の実験場を発見したのが切っ掛けだった。
魔法使いゲブーアト…その名を聞いた者達は、まず魔女の村の者達を思い出す。そして特徴も…人類に対する功績は計り知れない。今に至るまで魔族との戦いを支えた者達を産み出した偉大な魔法使い。その魔法使いの実験場が我々人類の感性で理解できるモノであろうか?
再犯罪率 - 0 - …そこに入れられた者は犯罪をしなくなる。中で何があったのかは、一部の一級魔法使いのみが知る。
「ねえ~、ゼンゼ~」
「…」
「無視しないで話そうよ~」
「…」
その山に送られる囚人は、基本として再犯した男性に限られる。殺人などを犯した者は法で裁くが、小さな犯罪を積み重ねた者達で直る見込みがない者だけをここに送る。所謂、どうしようもない者しか送らないのだ。
「…悪即山の維持は一級魔法使いの義務だ」
「あ、やっと話してくれた!そうだね、ご先祖様が作ってくれた人間の悪意の受け止め場」
「…人の解釈はそれぞれだ。否定はしないが、理解はできない」
「えー、再犯罪0って凄いじゃん」
「その仕組みの問題だ」
ゼンゼにとって…いや、魔女の村出身以外の者にとって、生命の何たるかを無視した行為に苦言を申し立てたい気分になる。もっとも、それを伝えたところであのエルフはだから?と行動してくれないだろうが。
「男性が妊娠するだけじゃん?それで犯罪をしなくなって、母性にも目覚める!人口も増える!いいことだらけじゃん!」
「普通の男性は妊娠しない」
魔女の村に関わると頭が痛くなる。本来ならここに来たくなかったが、ファルシュは…男性は絶対来たがらないので仕方なく女性だけで様子を確認しに来るのだ。ただし、魔女の村の者が行きたがる場合は、必ず目付け役を付ける為、実質ゼンゼは今、無駄に手間をかけてここにいる。
ギャァァァーーー!!
ここは地獄だ。
「男がだらしない声を出すな!出して良いのは私達だけよ!」
受刑者はまず、妊娠できるように魔法がかかった入口を通る。その過程で激痛を感じながら、母親としての知識の勉強を受けさせられる。逃げようとすれば折檻室だ。
「あら、まあ!一級魔法使いの方ですね。ご苦労様です!」
「お疲れ様です!活きのいい奴ですね!」
「…お疲れ様です。問題はなさそうですね」
「はい!再教育の間もご確認なさいますか!」
「…仕事ですので」
入口は鉄格子で造られ威圧感漂う感じだが、内側に入ると入口は見えなく、外の日差しが射しこんでいる。幻影と防御魔法の合わさった高度な魔法である。ゲブーアトの技量が鑑みえる。なぜその技量を別な事に生かさなかったとゼンゼはいつも思う。
【獄率】
ゲブーアトに命じられたか…この悪即山と呼ばれる前から管理していた一族。悪を許さず、即時執行。正義を第一に考える一族であり、魔女の村の者達よりは、協調性を持っている。その存在を知られてから、対応に困る囚人はここに送られるようになって喜んだらしい。
「ねえ、ゼンゼちゃん…興奮し」
「しない。近寄れば切る」
「うぅ、まだ怒ってるの。あの時、襲っちゃったの」
…あれは、新たな一級魔法使いと顔合わせをした時のことだ。
「研ぎ澄まされた魔力、冷たくも優しい瞳、何事も落ち着いて対処する精神性!」
「…ありがとう」
「勃起した!責任取って、子孫残させて!」
油断した。魔女の村の住人が、同じ女性に性的興奮を持つことは常識だったのに、私なら対処できると高を括ってしまった。
奴は私の髪を搔い潜り、急接近してきたのだ。…思い出したくない。ゼーリエ様が止めなければ今頃…
「あの時は可愛い声だったのに…ああ、勃」
「それ以上言ったら」
「あーん、その対応も好き!でもいつかはメロメロにしてあげるからね!」
「ありえない事を考えるな」
「理不尽といえる逆境を覆す!それが一級魔法使いでしょ!」
こいつの目付け役になぜか私がよく呼ばれる。魔法の相性だけで選ばれている感じだが、仕事なので仕方ない…そう、仕方ない。
「今月、産まれる予定は3名です。安定期になってやっと親としての自覚を得たんですよ」
「うん、よかった。村に付いてきそう?」
「追いかける遺志を持たせますよ。それが、我々の意思ですので。どんな環境で育った奴でも自ら痛みを知って産んだ子は可愛いものです…親として再起を図らせます、絶対に!」
ここで産まれた子は、必ず魔力を持って生まれてくる特異性がある。その為、子どもは魔女の村で預かり育てる関係にあるのだ。
「そうだね!子供は可愛いもの!」
魔女の村では赤ん坊は大事にされる。母親として、母性に溢れた者達が多いのも特徴だ。…彼女もいい母親にはなるであろう。
この世の悪人は震えあがる場所がある。そこに入った者は、次会った時、別人のように性格が変わるそうだ。魔法使いたちが関わっていると、噂だけが広がっていく。
悪い子は悪即山へ行くのよ
今日もその山では、男たちの声が木霊している。