断片的で飛ばし飛ばしの思い出。
いつものようにお稽古に行く直前、使用人に呼び止められ客間に行った。
「・・・どっぺるげんがー、ですの?」
客間には、身共とよく似た姿の人が居た。その人は身共を見て、驚いたように目を見張った後、鼻で笑って顔を背けた。
「ドッペルゲンガーではありませんよ、お嬢様。」
身共をここに連れてきた使用人が笑いながら言う。その使用人は笑いながら続けた。
「お嬢様、今日からこの人はあなたの姉になります。」
姉になる?
「この人はこれからお嬢様と一緒にお稽古を受けて、同じ屋敷で生活をするということです。」
まだよくわからないけど、姉というものには前から興味があった。
「よろしくお願いしますわ、おねえさま。」
もしかしたら、彼女の前ではありのままの自分で居れるかもしれない。
身共に瓜二つの彼女は、傾く太陽のような瞳で身共を見て、首を振った。
「私は、あなたの姉じゃ無い。」
「おねえさま、一緒に折り紙をしませんか?」
「どうして?」
「おねえさま、一緒に寝ましょう。」
「一人で寝たいわ」
「おねえさま、身共・・・その、」
「厠くらい一人で行きなさい」
「あまり話しかけないで、ユカリ。」
何度義姉に話しかけても、冷たい返事しか返ってこない。そのうえ、最近はこっちを見ることが少なくなった。
大抵の場合は近くに居た使用人に何かを言われて身共に付き合ってくれるものの、いつもつまらなさそうにしている・・・もしかしたら姉妹とは皆このようなものなのかもしれない。それでも、身共は今日も後ろ姿に話しかける。
「おねえさま、一緒にお稽古に行きましょう。」
「わざわざ一緒に行く必要ないでしょう」
むしむしとして暑い夏の夜、縁側の方から物音が聞こえる。・・・幽霊、それとも妖怪かもしれない。怖くて横を見ると、布団には誰も入っていなかった。
「おねえさま?」
縁側の方から大きな音がした後、義姉があらわれた。
「ユカリ、まだ起きてたの・・・早く寝なさい。」
「おねえさまは?」
まだ起きているのは彼女も一緒だ。
「ちょっと、外の空気を吸おうと思って」
そうは言うものの、彼女は寝巻から着替えていて、手にお財布を持っている。
「おねえさま、勝手に屋敷の外に出てはいけないはずですわ。怒られてしまいます。」
なにより、彼女が居なくなったら身共は一人で寝ることになってしまう。最近はずっと一緒に寝ていたせいか、一人で寝るのは寂しい。
じっと見ていると、彼女はため息をはいた後、身共の方に手を伸ばした。
「?」
「行くわよ。」
「えっ?」
行くわよ?身共は引き止めているのに、誘われてしまった。
「行かないのね、でも私は行くわ。」
「!・・・待ってくださいまし!」
彼女が塀を越えて行ってしまったので急いで追いかける。
塀を越えると、彼女が静かに笑いながら待っていた。
「これでユカリも共犯ね。」
「おねえさまは酷い人ですわ!」
「ほら、行くわよ。」
義姉は身共の言う事を無視して歩き始めた。
「・・・・・・ユカリ?」
数歩先に居る彼女は振り返り、身共の方に戻ってくる。
「どうしたの、ユカリ。置いてくわよ。」
身共のすぐ側に居る彼女に抱きつく。
「ユカリ!?」
「おねえさま、身共・・・暗い所は・・・」
彼女は少し困惑して、気づいた。
「そういえば、ユカリ、夜に一人で厠へ行けなかったわね。」
「おねえさま!」
夜とはいえ、恥ずかしい事を言わないで欲しい。
「ほら、一緒に行くわよ。」
「そういえば聞いていませんでしたが、おねえさまはどこに行こうとしていますの?」
恥ずかしさを誤魔化そうと話題を離す。
「公園に。」
「おねえさま、まだ着きませんの?」
もう普段なら寝ている時間だ、疲れは確かに蓄積してきている。
「ちょうど着いたわよ、ユカリ。」
彼女の視線の先には、ベンチが置かれただけの公園があった。
「ベンチに座って星でも見ていましょう、ユカリ。」
彼女がベンチに腰掛ける。身共もその横に行き、星空を見上げる。
今日はよく晴れていて、月もない。夜空一面に星がきらめいている。
「おねえさま、とても綺麗ですわ」
そう言った身共の横には、悲しそうで、寂しそうで、辛そうな、そんな顔をした義姉が居た。
星空が少し傾いた頃に、義姉が話し始めた。
「私は、この星空を綺麗とは思えない。」
「・・・どうしてですの?」
彼女が綺麗と思っていないのはあの顔から分かった。でも、こんなに輝いている星空を綺麗と思わない理由は分からない。
彼女は少し黙った後、話を続けた。
「星空ではいくつもの星が輝いている。光の強さも、色も、まったく違う星達があの空にきらめいている。それはすごく綺麗よ。」
「?」
星空を綺麗とは思えないと言った矢先に、星空を綺麗と言っている。
「そう、星空はすごく綺麗よ・・・でも、あなたと居ると心底嫌になる。」
「?!」
彼女が身共の事を好いていないのは分かっているつもりでいたけれど、星空を嫌にさせる程とは思っていなかった。
義姉の話はそこで終わらず、続けられた。
「・・・誰も皆、あの星と同じなんだって思うから。」
「星と同じなのは駄目ですの?」
「だって、星にはいくらでも代わりがいるから。」
「!」
「あの星空から一つ星が消えても、人は悲しまない。他の星が消えた星の代わりに輝くから・・・ユカリと星空を見ていると、自分の存在している意味も誰かの存在している意味も分からなくなる。だから、ユカリと見るこの星空を綺麗と思えない。」
「おねえさま」
「なに、ユカリ。」
「身共は、おねえさまが大好きですわ。」
「・・・そう。」
きっと、彼女は「代わり」が嫌なんだ。だから、自分と瓜二つな身共を嫌っている、自分の「代わり」に輝ける身共の事を。
「おねえさま、見上げる人は星が消えても悲しまないかもしれません。でも、消えた星の隣に居た星は、消えた事に悲しみますわ。」
「・・・そう。」
彼女が居なくなったら、身共は一人になる。身共に、彼女の代わりに側に居てくれる人は居ない。
「今、身共の隣にはおねえさまが居ますわ。」
「・・・そう。」
「!」
彼女に抱きしめられた。
「おねえさま?」
「・・・今、私の隣にユカリが居るわ。」
おねえさまと身共、見た目は瓜二つでも歩幅は大きく違ったはず。それでも、その夜、おねえさまは隣を歩いていた。
主人公の外見はユカリそっくりです。ヘイローの形すらも同じ。違いは主人公の方が色が少し薄い所と、瞳が赤い所、体格も多少の違いがあります。