しばらく歩くとログハウスが見えてきた。
おー、スゲーあれがエヴァの住んでるログハウスか―。
ちょっと感動した。
前世で幾つか漫画とかの聖地を見に行ったことがあるがそれと似たような感覚があった。
やっぱりこういう時って感動するよな。
麻帆良来た時に世界樹見て感動したけどあれどんな仕組みで立ってるんだろうな。
その辺よくわからない。
ちなみにこの麻帆良に来て感動したことランキング1位は学園長の頭だ。
あれもあれで生命の神秘を感じる。
まあそれは置いといて家に入るように進められたので家の中に入ることにした。
しかし何の用なのだろうか?
家の中を進んでいくとリビングらしき場所が見えて来る。
そちらの方に入っていくのかと思いきや素通りしてしまった。
何か嫌な予感がするような……
そのまま奥に進む、エヴァと自分。
地下への階段を降りていく。
ん?たしかこの先って……
そうしてそのまま地下室に入ると目の前には大きなフラスコがあった。
フラスコの中には塔のような模型が入っている。
うん。これって『ダイオラマ球』だよね?
実物ってこんなんなのか。と眺めていると足元でカチッと言う音がなった。
何だと思い周りを見る。
が、周りを見渡した瞬間、目の前の風景がガラリと変わっていた。
ログハウスの地下だったはずだが巨大な塔のような場所の上にいた。
……ある程度想定はしてたけど流石にビビる。
驚きで膝が折れその場にへたり込んでしまう。
その様子に満足したのか目の前にいた幼女は笑みを浮かべながら振り返りこういった。
「初めまして、五三万。私の名はエヴァンジェリン。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」
そんな風に自己紹介している。
まあ、知っているけどその辺は知ってたらおかしいので軽く流す。
「あ、どうも丁寧に。五三です。えっと何のようですか?」
「……貴様に恨みは無いんだが、まあ憂さ晴らしのようなものだ。気にするな」
そう言って笑みを深くするエヴァ。
恨み?憂さ晴らし?なんだろうか?
嫌な予感はするが先程から驚くことが多々あったたせいか、あまりうまく頭が働かない。
そのままエヴァは続ける。
「情けないことだと思うがな、どうしても我慢できないことがあった時お前ならどうする?」
ニヤニヤとした嫌な笑いのせいか世界が止まって見える。
……なんだろう。笑ってるのに威嚇されているみたいだ。
これは……殺気なのだろうか?
初めてそんな空気に触れたせいかうまく言葉が出ない。
「忘れて眠る?いやいやそんなことで忘れられるはずもない。カラオケなりゲームセンターでストレス発散?そんなことで晴れるならこんなことはしないさ」
何か嫌なことがあったらしい。
てかゲーセンのハイスコアって憂さ晴らしだったんだな。というかカラオケとか行くんだ……
いやいや、そんなことはどうでもいい。
考えろ。こういう展開だと次は大体どうなる。
えっと、この時期の嫌なことって何だ?
いやそっちも関係ない。
大抵こういう場合は……
そうしてどうなるかを考えようとした瞬間だった。
「まあ、簡単な事だ。『私の憂さ晴らしに付き合ってくれよ』とそういうことだ」
その言葉と同時に彼女はこちらに何か液体の入ったフラスコと試験管を投げつける。
「『氷爆(ニウィス・カースス)』」
そしてその呪文によって投げられたフラスコと試験管は爆発した。
―――――。
魔法が放たれたことによって目の前では土煙が上がり視界が遮られている。
魔法によって凍らされたせいか服からパリパリと音が鳴っている。
痛みはない。
ほんの少し体に意識を集中してみるが特に異常はないようだ。
53万のちからってすげー。
いやまあそんなことはどうでもいい。今、何が起きた?
リプレイしてみよう。
エヴァについていった。
ダイオラマの中に入った。
いきなりエヴァに宣戦布告された。
攻撃食らった。
……ワケガワカラナイヨ。
特になんか地雷踏んだりとかした記憶ないし、今日のついさっきが初対面だ。
もしかしてゲーセンのスコア更新したから怒ったの?いや、ねえよ……
別に隠された記憶があったり、実はどこかで会ってたんだよ!的な超展開も無い。
というかあの幼女、一度見れば結構印象に残る。
自分のせいじゃないってことは……そういえばなんか憂さ晴らしとか言ってたな。
何?ムカつくことがあったから魔法ぶっ放したと、そういうわけか?
……そんなん今どきのDQNでもねえよ。いやDQNは魔法打てないか。
とりあえず、3行でまとめると
エヴァなにかムカつくことがあった。
苛立ったので俺に攻撃。
ちくわ大明神
……俺、悪くなくね?とばっちりじゃん!てか最後の何だ。
しかしどうしようか。
ダイオラマ球って確か24時間出れないし、このまま逃げ続けるってのは―――出来そうだけど面倒だ。
となると選択肢は……
そう、そこまで考えたところで脚に力を集中する。
相手の様子が分からないが見えないところからの奇襲というのは有効なはずだ。
戦闘経験なんて一切ないけど不意打ちが効くのは、ついさっきの自分で実証済みだ。
まあ、達人クラスには効かない可能性もあるけど多分いけるはず。
そして土煙が晴れ彼女の姿の端が見えた瞬間、一気に力を開放し彼女に向かって飛び出した。
飛び出しながらその刹那、相手の様子を伺う。
どうやら気づいていないようだ。
このままなら行ける!
加速していく時間の中でそう思った。
だが、彼女の背後を取るためその勢いのまま彼女の直前でブレーキをかけ、回りこむように足に力を入れた時だった。
何故かその足は空を切った。
え?何が起きたの?
その様に呆然としつつも尚も彼女に向かって進んでいく身体。
足元を見るとあったはずの塔が消えている。
あるのは落ちていく瓦礫だけ。
一コマ遅れて、前を見るとどうやらエヴァはこちらに気づいたらしい。目と目が合う。
あ、このまま行くと――いや考えるのはよそう。誰だって想像できる。
走馬灯というやつなのか、やけに時間の流れが遅く感じる。
別に過去を振り返っているわけじゃないけど。
そして虚空瞬動なんて高度な技を持っているはずもない俺にすっ飛んでいく身体を制御する術なんてなく、引き伸ばされた時間の中でそのままゆっくりとエヴァにぶつかった。
ぶつかった衝撃のせいか時間の流れが元に戻る。
その衝撃により何処かに吹っ飛んでいくエヴァ。
まるでキラリンとどこぞの小悪党のように星になったのが見えた。
あ、やっちゃった。
なんかスマン。ホントは後ろに回りこんで力で抑えこむつもりだったんだ。ホントダヨ?
というか、ふ、不老不死の吸血鬼だし生きてるよな?
生きてなかったら人殺しになるのか?
どうしよう。でも吸血鬼って人に……ってあれ?そういえば今足場無かったような……
ぶつかったことで前方への推力が消え、落ちていく俺。
いやいやいや。人のこと気にしてる場合じゃなかった。
その時の自分はパニックになっていたのだろうか。
落ちたところで対してダメージが無いはずなのに藁でも掴むかのように必死で手足をバタバタと振る。
すると、妙な浮遊感があった。
周りを見ると俺の身体は浮いている。
その衝撃で驚き手足が止まる。
また落ちていく。
また焦って手足をバタバタとする。
また飛ぶ。
手足が止まる。
落ちる。
手足をバタバタと振る。
飛ぶ。
……
鳥かよ……手をバタバタさせて飛ぶとかまんま鳥じゃん……
まあ、いいや。なんか原理とかよくわからんけど無理やり飛べた。
空中で動けるようになったせいか思考に余裕ができる。
とりあえず、エヴァの様子見に行こうか……
そう思い立ってエヴァの飛んでいった方向に飛ぶように手足で羽ばたく。
死んでないといいな……
そしてまるで鳥のように―――とはいかないものの手足をばたつかせながらエヴァの飛んでいった方向へ向かった。