俺の戦闘力は53万らしい   作:センチメンタル小室

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第6話

「最近、古菲ちゃんからラブ臭がするんだけど気のせいかな?」

 

そう、メガネをかけた少女が話している。

場所は麻帆良女子中等部の2-Aの教室、時刻は午後4時、放課後になり何人かの生徒たちは帰宅していた。

 

「なによパル。いきなり」

 

赤毛の少女が返す。

 

「いやいや、最近古菲ちゃんから恋愛の気配がするのよね―」

 

「んー、気のせいじゃない?そんな雰囲気出してないし。むしろ最近修行で忙しいってきいたけど」

 

「せやね。最近は彼女、授業中も寝てて疲れてるみたいやね」

 

「でしょ?古菲ちゃんそういうのに一番縁遠いイメージだし、ないでしょ?」

 

そう結論づけて、話を打ち切ろうとするが、

 

「いや、そう決めつけるのは早いよ!」

 

そう言って後ろからいきなりカメラを持った少女が現れる。

 

「い、いつも思うけどどこから出てくんのよ……」

 

「記者は速さが命だからね。いつでもどこでも潜んでいるのよ」

 

「それで何ですか?朝倉さん」

 

そう紫髪の少女が朝倉と呼ばれた少女に質問する。

 

「おやおや?夕映ちゃんも恋愛に興味が有るのかな?」

 

「茶化さないでください。まあ、クラスメイトのことですし興味がないといえば嘘になります」

 

「てか、さっさと言いなさいよ。どうせいつものでっち上げでしょ?」

 

「明日菜はわかってないなあ……こういうのは焦らす楽しみが「さっさと言いなさい」……はい」

 

朝倉はポケットから手帳を出してパラパラとめくっていく。

そして目的のページを見つけたのか手が止まり内容を話す。

 

「えっとね、古菲ちゃん最近、弟子入りしたらしいのよ」

 

「弟子入り?」

 

「古菲ちゃんが?」

 

そう彼女らは疑問に思う。

古菲は中国武術研究部の部長であり、この麻帆良でも有数の強者だ。

毎年行われる格闘大会『ウルティマホラ』でも優勝経験があり、弟子入りするほど彼女より強いものなどほとんど浮かばない。

だが、話の内容はそこではない。

 

「ん?弟子入りしたからなんなの?別に強くなるためにいろいろやってるみたいだしふつうのコトじゃないの?」

 

そう明日菜と呼ばれた少女は返す。

それを聞いて待ってましたとばかりに朝倉は続ける。

 

「それがね……弟子入りしたのはなんと!男子高等部の先輩なのよ!」

 

「男子高等部の……」

 

「先輩?」

 

「それ普通に男子高等部の強い先輩に弟子入りしただけじゃ……」

 

だが彼女の言葉を否定するように朝倉は返す。

 

「それはないわ。情報によると朝は彼の寮まで出向きお出迎え。帰りも学校まで迎えに行ってるらしいのよ。普通、弟子入りしたとはいえ男の部屋に行ったりするかな?私はないと思うわ」

 

そして、なにか記者としての勘が働くのか何なのか彼女は更にヒートアップしていく。

 

「更に夜遅くまで二人っきりで修行。弟子と師の間に芽生える恋!これは何かあってもおかしくないでしょ!」

 

それを聞いて唖然とする少女たち。

 

「れ、恋愛から縁遠そうな古菲ちゃんが……」

 

そう言って膝をつくものもいれば、

 

「いやないでしょ……いつもの妄想記事かなんかじゃないの……」

 

そう疑心暗鬼になるものもいる。

 

「それで?だれなん、その師匠の人?」

 

それを聞いて朝倉は一枚の写真を取り出す。

そこにはごく普通そうな制服を着た少年が写っていた

 

「えっと彼の名前は『五三 万』男子高等部では割りと有名な人で麻帆良最強とも呼ばれてるらしいわ」

 

「見た感じ普通そうな人ですね」

 

「てか、むしろ地味じゃない?」

 

「んー私はこういう人のほうがええかな?」

 

「え?木乃香、こういう人がタイプなの?」

 

「いやー?いつもおじいちゃんにお見合いさせられる自分より一回りも年上の人よりは普通そうな人のがええかなってことなんやけどな」

 

「ああ、そういうこと。そうね、確かに普通に恋愛するならありかもしれないわね」

 

と何やら散々に言われている。

 

「それに朝倉さん、麻帆良最強って本当なんでしょうか?見た目から強そうなイメージが余りわかないんですが……」

 

「そうなのよねー。噂では最強とかよく聞くんだけど彼自身、余り戦おうとしないから戦ってる時の映像とかデータがないのよね。だからきっと師匠とか言って実は彼氏だったりするんじゃないかな?」

 

と自身の願望が入ってそうな意見を告げる。だがそれは後ろからまたいきなり現れた少女によって打ち消された。

 

「その御仁はほんとうに強いでござるよ。それは拙者が保証するでござる」

 

「いきなりね……さすが忍者……」

 

「ん?拙者は忍者ではござらんよ?」

 

そう言いながらニンニンと手で印を結んでいる。隠す気があるのか隠す気がないのかよくわからないがそういうことなのだろう。

 

「それで、彼どのくらい強いの?」

 

と、みんなが疑問に思っていることを彼女に聞く。

 

「どのくらい強いのか、でござるか……」

 

「ん?話しにくいことなの?」

 

「いやそうではござらんが……なにぶん拙者も彼の本気を見たことないのでな……」

 

そうなにか考えながら言葉を選ぶ彼女。

 

「拙者も一度、挑んでみたことはあるが……」

 

「もしかして……負けたの?」

 

「そうでござる。一切、歯が立たなかったでござる。アレを攻撃と言って良いものか……一撃で終わったでござる」

 

そう言って苦い顔する。

よほどヒドイ負け方だったのだろう。

普段そういった表情を見せない彼女としては珍しい様子に彼女たちも驚いている。

 

「そ、そんなにヒドイ負け方だったの?」

 

「そうでござるな……武人としては余り経験したくない類の戦いだったでござる」

 

そうしてあの戦いを思い返す。

その戦いは本当に一瞬だった。

いや戦いとすら呼べなかった。

戦闘開始の合図とともに目の前にいた彼の姿が消え気づいたら後ろから頭を掴まれており、そしてそのまま頭をゆすられ気絶した。

何の技も出せず、相手の初動すら見抜けず文字通り瞬殺された。

だがきっと彼はやさしいのだろう。

あの速度で動ける彼が本気で攻撃すればおそらく私の身体は吹き飛んでしまう。

怪我をさせないように気を使ってそのような倒し方を選んだのだ。

だがその優しさが辛かった。

忍者という職に就こうとしている以上、怪我や死と言ったものは覚悟している。

そういった覚悟を持って彼に挑んだはずだった。

だが、彼は文字通り赤子の手をひねるように自分を倒してしまった。

しかも丁寧に怪我をさせないように倒すというおまけ付きで。

屈辱だった。とてつもなく屈辱だった。

そんな手加減されて負けてしまった自分が恥ずかしかった。

だから、あの後からずっと修行を続けている。

せめて一矢報いれるように。彼の実力の一端を見れるように。

まあ、今のところは彼と強さが離れすぎててそのイメージが湧かないため挑んでいないが。

 

「間違いなく麻帆良、いや……世界トップクラスと言っても過言ではないほどの実力者でござる。」

 

「そ、そんなに強いんだ……」

 

そう彼女の言葉を聞いて納得する少女たち。

 

「うむ。しかし彼が弟子を取ったでござるか。余りそういうのは得意そうではないように感じたでござるが、なにか心境の変化でもあったのでござろうか?」

 

「余り教えるのは得意じゃない人なの?」

 

「教えるのが苦手というよりは……彼はおそらく修行とかしたことないと思うのでござる」

 

そう、自分の考えを述べる。

彼からは武人特有の洗練さとか、戦闘時の癖が日常の中に出てしまうとかいうものを感じない。

ただ単純に強い。そういうイメージなのだ。

 

「え?鍛えたことないのにそんなに強いの?それはないでしょ」

 

「そうですよ。何も鍛えずに麻帆良最強クラスどころか世界最強クラスってあり得ないですよ」

 

「いや、簡単な訓練くらいならしたことはあるように見えるのでござるが、本格的に何か鍛えたというわけではなさそうなのでござる」

 

「そ、それなんかバグってんじゃないの……」

 

「そう……ですね。漫画みたいですね……」

 

それを聞いて引きつるクラスメイト達。

何の修練も積まずに自分たちの身近にいる強者である麻帆良武闘四天王を倒せると聞けばそう戦慄しないわけはないだろう。

 

「そういうわけで修行を課すにしてもかなり手探りの状態でござるし、割と彼と頻繁に戦ってる古菲がそういったことを見抜いていないわけはないとは思うのでござるが……」

 

そして何やら考えているのか黙りこむ。

その間にもクラスメイト達は色々と会話を弾ませていく。

 

「それなら、やっぱり恋愛じゃないの?好きな人と一緒にいたいとかそういうの」

 

「えー、普通に弟子入りしただけなんじゃない?一応強いみたいだし」

 

「でも、私のジャーナリストとしての勘が恋愛関係だとささやいてるのよ。これは間違いなくスクープ!」

 

「パパラッチの間違いじゃ……それに古菲ちゃんだよ?普通に修行してるだけだって」

 

「そうですね。古菲さんがそういったことをしているイメージはあまり無いです。」

 

「んー、私的にはラブ臭が漂ってるからありえるんじゃないかな?」

 

そして話が行き詰まりそうになった時、木乃香が一つの意見を出した。

 

「せやったら、みんなで見に行ってみる?そしたらはっきりするんちゃう?」

 

「そうね。ここで話してても進まないし見に行ってみようか」

 

それに賛同するクラスメイト達。

こうして2-Aのクラスメイトたちは古菲の修行を見に行くことになった。


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