指定民間艦娘艤装整備店舗 千寿時計電機   作:茶碗からこぼれた米粒

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町工場スピリッツ

 

時は20××年

 

突如として海の底から出現した深海棲艦によって人類は大混乱に陥った。

 

これまでの科学に当てはまらぬ存在になす術もなく打ち倒されていった。

 

しかしギリギリになってもしぶとく生き残ろうとするのが人間という物。

 

同じく突如として現れた艦娘達と協力し、深海棲艦に対抗したのだ。

 

しかしこの世界はゲームではない。

 

優秀な提督によって轟沈は回避するも、艦娘の艤装や兵器は故障・損壊してしまう。

 

身体の負傷は入渠するなり高速修復材(バケツ)をぶっかけるなりすれば治るが、艤装・・・主機や砲は機械である以上、妖精さんや工作艦に頼まないと簡単に直りはしない。

 

そんなことが続き、日本中の鎮守府でドックや工作艦、妖精さんが不足し始めたのである。

 

これを重く見た日本軍(旧自衛隊)は対策を講じる事にした。

 

その幕僚会議の末出た結論が・・・

 

 

官僚側で駄目なら民間にやらせりゃいいんじゃね?

 

まさかの民間の優秀企業への丸投げ()

 

 

早速政府は各鎮守府近隣にある町工場や自動車整備工場、自衛隊時代から武器や車両の生産を委託していた企業を徹底調査。

 

『指定艦娘艤装取扱業者法』を制定し、艦娘の艤装を整備できる工場を指定していったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京都 某区

 

 

 

困った。

超困った。

超々々困った。

 

何が困ったかといえば、目の前でセーラー服の超絶美少女が泣いているのだ。

この美少女の名前は特I(吹雪)型駆逐艦一番艦『吹雪』ちゃん。

そう、今この時も深海棲艦相手に大健闘している艦娘の一人である。

 

この状態を作った元凶は『指定艦娘艤装取扱業者法』、そして応接間の机に置かれた『12.7cm連装砲A型』である。

 

 

 

 

 

 

 

話は一月前に遡る。

 

東京のとある住宅地に店を構える機械修理・金属加工屋「千寿時計電機」の店主である俺(31歳独身)は近所の爺さんから依頼された洗濯機の修理をこなしていた。

 

うちの店は店員たったの5名でネジやナットの生産・開発をやったり、電化製品や自動車の修理などで経営を回している零細町工場である。

 

開業は昭和21年と、一応ここらの町工場の中ではトップクラスに古いらしい。

深海棲艦が現れてから10年も経つのにこんないい加減な経営でよくつぶれないよなーと、我ながら思う。

 

すると後ろから唐突に、

 

「すみません、千寿時計電機の方で宜しいですか?」

 

黒スーツの男が話しかけてきたのだ。反射的に「そうですが。」と返す。

 

「では、店主の方はいらっしゃいますかね?」

 

「俺がそうですが。」 

 

思わずむっとして返す。

 

「おっと。これはとんだ失礼を。私は行政のものでして・・・」

 

「税金だったら払ってますよ。」

 

「それは税務署に言ってください・・・で、今政府の方でこういう政策を展開してまして・・・」

 

黒スーツがA4用紙の束を渡してくる。

SDG's的に宜しくないのでデータでいいと思います(切実)

何々ィ?

 

 

「『指定艦娘艤装取扱業者法計画案民間配布用』?漢字多過ぎだろ。」

「はい。実は・・・」

 

 

話が校長センセーのそれ並に長かったのでざっくり要約すると、

 

 

・金出すから艦娘の艤装の整備してくれや

・ただし一部の業者にかぎるで

・選定するために検査するから店に入れてくれや

 

とのこと

 

「では一週間後に担当の者が来ますので・・・。」

 

「は、はぁ。」

 

 

 

 

 

一週間後

予定通りに担当の人が来て作業場を見ていくと、きもいニンマリ笑顔で帰っていった。キモかった。

 

 

 

さらに一週間後

パチ屋のチラシと回覧板に紛れてやたらとでかい茶封筒が届いた。

 

中には

 

『指定艦娘艤装取扱業者法合格店舗』

 

というチャチな賞状みたいなの。

まぁ、取り敢えず作業場の神棚の近所にでも飾っておく事にした。 

 

 

 

 

 

そして、

 

もう一週間後

 

「ふぁーあ、徹夜しちまったぜ。」

東◯の冷蔵庫め、苦戦させやがって。

 

何となくテレビをつける。

古い薄型テレビはニュースをパッと映し出した。

 

『お昼のニュースです。本日より指定艦娘艤装取扱業者法が施行されました。議決から施行までに一ヵ月と云う異例の早さに、専門家は・・・』

 

この間の法律のニュースだ。どうやら今日から施行らしい。

 

「(そういや行政から艦娘がなんだとか言う指定受けてたっけ?まぁこんなショボい町工場にゃ、艦娘や軍人さんなんて来やしないだろうが。)」

 

補欠の補欠的な意味合いで検査に合格したに違いないと勝手に想像していると、

 

 

ピンポーン♪

 

 

とチャイムが鳴る。

我が家はガレージの様な作業場と事務所、居住部分が一体になっている構造だが、玄関は事務所と居住部分でそれぞれ別になっている。

 

チャイム音も別に設定してあり、この音は事務所の方である。

 

 

因みに居住部分のチャイムはファ◯マの入店音である。

 

 

一瞬居留守しようかなとも思ったが、窓が空いているのでテレビの音が漏れているので無駄だと悟る。

 

「へいへーい。」

 

やる気の無い声で返事をしながら玄関へと歩き出す。

近所のガキんちょがゲーム機の修理でも頼みに来たのだろうか。

 

曇りガラスの扉を開けた・・・

 

「へーい、千寿時計電機でー・・・す?」

 

ら、中学生くらいの美少女が突っ立っていた。

 

かわいいセーラー服に後ろで縛った綺麗な黒髪。少しパッとしない感じもあるが、整った容姿。

 

うーん美少女。

 

「あっあの!此処で艤装の修理をしてくれるって、聞いて・・・来たんですけど・・・。」

 

!おっと俺とした事が久々の女子成分(我が店にも生物学上女に分類される奴はいるが、タバコをふかし酒を浴びる様に飲み、面倒い仕事が入ると有給で都外へ逃亡する奴を俺は女子と呼ばない)に当てられて気絶してしまった!

 

って、艤装っつったか?この娘。

と、いうことはですよ、

 

「君って・・・所謂・・・艦娘ってやつ?」

 

「・・っはい!特型駆逐艦一番艦、吹雪です!よろしくお願いします!」

 

 

駆逐艦 吹雪

 

 

日本の駆逐艦の水準を引き上げ世界中を驚愕させ、日本海軍最強伝説を築き上げた一角。

 

・・・東◯より面倒いのが来やがったぜ。

 

  

 

 

取り敢えず吹雪ちゃんを応接間へ通し、面と向かって座る。

 

ぽかーんとしてると、先に吹雪ちゃんが切り出した。 

 

「えっと、実はこれを修理して欲しいんですけど・・・。」

 

ゴトッと音を立てて置かれたのは、手のひらサイズ・・・と言うにはかなり大きすぎる『砲』。

 

黒板消しクリーナーより少し小さいくらいの箱から、砲身が2本突き出しており、本来なら船体に接続される面に取っ手、引き金等が取り付けられていた。

 

謂わば『砲』を小さくしてそのまま無理やり拳銃にした感じだ。

手入れは十分してあるが、細かいキズやハゲた塗装からかなり使い込まれた物だとわかった。

 

「こいつは?」

 

「『12.7cm連装砲A型』です。私たち駆逐艦がよく使っている武装の一つですね。これがですね・・・」

 

吹雪ちゃんが連装砲を持ち、引き金を引いた

 

「わっ!?こっちに向けんな!銃口管理しっかりしろ!!」

 

が、ウンともスンとも言わない。

 

「・・・今みたいに引き金を引いても何も動かなくなってしまって・・・。」

 

「・・・鎮守府の技師には相談したのかい?」

 

「あかs・・・工場の担当の人にもゆうばr・・きっ機械好きのとっ友達にも相談したんですけど‼︎」

 

「お、おう(汗)」

 

2回も言い間違えてる・・・。かわいいけど軍事機密ガバってんなぁ。

多分話の流れ的に工作艦明石と兵装実験軽巡夕張だろうか。そんなのもいんのか・・・。

 

「それでも原因が分からないって・・・。」

 

「ふぅん・・・。」

 

専門の人でも分からないのか・・・成程。

 

 

 

 

うん、断ろう

 

 

 

無理に決まってんだろ専門家でも分からないんじゃ。

そもそも人類の常識から外れたとこにある謎機械を、民間業者の手で修理しようというのが間違っているのだ。

 

相当な理由でもない限りはこんなめんどくさい案件引き受けたくない。

 

こっちだって仕事を選ぶ権利はあるのだ。

 

零細だけど。

 

悪いけど今回は帰ってもらって賞状みたいなのも役所へ返納しよう。

 

 

零細だけど(泣)

 

 

「・・・申し訳n「実はこの連装砲は私のじゃないんです。」・・・うん?」

 

言葉を遮られたが・・・ちょっと様子がおかしい?

 

「しらゆk・・・私の友達のもので・・・前に南西諸島へ出撃した時にその娘は私のミスで大破しちゃって・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・誰のせいかで揉めて喧嘩しちゃって・・・その時に連装砲も壊れちゃって・・・。」

 

「・・・で?・・・。」

 

「わっ私!あの娘と仲直りしたいんです!・・・・・でも私は人に頼んでばかりで・・・・・しかも・・・断られちゃうし・・・・・・・わたしは・・・・・わたしは、・・・・・・ぐすっ・・・。」

 

あーあー泣いちゃったよ。

 

 

 

 

 

 

 

困った

 

 

超困った。

 

 

超々々困った。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・はあ・・・。」

 

 

テーブルの上のティッシュを何枚か出し、吹雪ちゃんに差し出す。

 

「ほら、涙拭きな。初対面のおっさんに涙なんて見せるもんじゃないよ。」

 

白く細い指がティッシュを受け取る。

 

それを見届けてから、なるべく優しい顔で、出来る限り言葉を選んで、静かに話しかける。

 

「全く情けないね。・・・でも、偉いよ。お前さん。」

 

直せる保証なんて無い。自信も無い。

 

だけど()()()()聞かされられちゃあねぇ・・・。

 

「仲直りしようと思ったんだろ?それでいろんな人に頼んで・・・それであきらめてもよかったのに・・・・千寿時計電機(ウチ)を見つけてくれた。すごい行動力じゃねえか。」

 

千寿時計電機(ウチ)のモットーは『ネジの一本から軍艦まで』そして『明日の誰かの笑顔になる職人仕事』。

だから店主として、やらなくてはなるまい。

 

「世の中じゃたくさんの人がそれぞれの特技で支え合って生きてる・・・・だから遠慮せず俺に頼ってくれ。」

 

それに、こんな難しい仕事・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せろよ。俺は技術屋(プロ)なんだぜ?」

 

燃えるじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

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