指定民間艦娘艤装整備店舗 千寿時計電機 作:茶碗からこぼれた米粒
作者は工学にわかなので作中知識は怪しいかも。
「さて、まず修理部の装甲を取り外そうか。ルイ頼んだぞ。」
「はーい、危ないので近づかないで下さいッス。」
片膝たちのルイが右手にアセチレン吹菅を持つ。
「そう言えばさっきからアセチレン、アセチレンって言ってますけど結局何なんですか?」
吹雪ちゃんの素朴な質問。
「ま、平たく言えば凄く高温で燃えるプロパンガスみたいな奴だな。実際ガスコンロと吹菅って原理は同じだし。」
「へぇー。」
吹菅に
ライターと言っても拳銃型火打ち石みたいな物だが。
吹菅のアセチレン調節弁を捻る。
ガチンッ!!
ゴオオオオッ!!!
ライターの引き金を引くと同時にアセチレンの炎が燃え上がる。
アセチレン炎は不安定なのか若干揺らめいていて、赤く黄色い。
「これって、アレですね。」
「アレだな。」
「「高速建造材」」
吹雪ちゃんとながもんの声が重なる。
「大型建造の時とか、どれだけこいつを消費したことか。」
「一回に20個とか消費しますからねぇHAHAHA(泣」
吹雪ちゃんの乾いた笑いが響く。
「ってかさ、アンタら機密漏洩し過ぎだろ。」
「「え?」」
「いやだって吹雪ちゃんだって前来た時工作艦とか姉妹艦の名前をペラペラと・・・。」
「私、言ってました⁉︎」
「うん言ってた。ガッツリ言ってた。」
確か、工作艦明石に兵装実験艦夕張に吹雪型二番艦白雪ですねハイ。地獄耳を侮るなかれ。
こちとらなろう系主人公みたいな鈍感じゃあないのだ(なろう系に対する強い偏見)
「ふむ。建造についても言ってしまったしな。もはや消すしかあるまい。」拳銃ガチャリ
「お、やんのかコラ。」点火器ガチャリ
「ふっ二人ともやめて下さい!!」
俺とながもんの間に火花が散る。ついでに点火器からも火花(物理)が散る。
「まさかビッグ7に勝てるとは思ってないよなぁ?」
「俺こう見えても武術には覚えがあるんだぜぇ?なんだったら深海s「作業やりたいんで静かにしやがれ下さいッス」
「「大変申し訳ありませんでした」」
ってか艦娘って拳銃持ってんのかよ喧嘩売らんとこ。
轟々と燃え盛るアセチレン炎に酸素調節弁を捻ることで酸素を注いでゆくルイ。
みるみる内に炎が赤から青白く、ゆらめきが減って真っ直ぐに変化していく。
「この状態で切断するのか?」
「いや、もう一段階ある。」
ルイが何の戸惑いも無く
パキッ
パスタでも割った(イタリア人はいない)かの様な乾いた音と共に炎のゆらめきが無くなり、白く、どこか、鋭い刃物の様な印象を受ける、真っ直ぐな炎が出来上がる。
音も先程と比べて激減しており、その不気味さと唐突な出現に流石の戦艦様も命の危険を感じたのか、少し仰け反っていた。
高圧酸素を一回止め、青いアセチレン炎を装甲へあてがう。
パキッ
もう一度高圧酸素が出された瞬間、雨のように火花が激しく散り出した。
アセチレンの鋭い炎はいとも容易く装甲を貫き、火花が噴水の様に開口部から吹き出している。
圧巻であった。
ルイによって丁寧に切り取られた鉄板は自重を支える物が無くなり、床に転がる。
幅45㎝、長さ80㎝程の湾曲した鉄板だ。
丁度真ん中くらいが大きく破壊され、亀裂も生じている。
あ、因みに鉄板の切り出し位置は前に届いた冊子を参考にしてますので悪しからず。
「おいながもん、こいつは焼き入れか何かの処理がしてあるな?」
「あ、ああ。ニッケルクロム鋼に浸炭処理がしてあるはずだ。」
「やっぱりねぇ。」
金属には炭素を加えると硬さが変化するという性質がある。
凡例として日本刀が挙げられる。
炭素を加えずほぼ鉄で刀を製作すると、柔らかいが壊れにくくなり、炭素を多く混ぜると硬いが脆い刀となるのだ。
この二つの性質のバランスを取ることによって良い刀が出来るのだが、現代の工業製品においては、浸炭処理をして焼き入れ(熱して酸素を加える過程)と焼き戻しをすることによって表面だけを硬化させることが多い。
つまりはうまい具合に炭素が多い状態と少ない状態の鋼を両立させることができるのだ。
ニッケルクロム鋼にこの処理をしたものを『VC鋼』と言い、帝國海軍に於いては金剛型戦艦と共にイギリスより技術が輸入され、広く使われた。
まぁ、ここまで長々説明して何が言いたいかと言うと、
「ウチの設備じゃ作れません!」
「「ウソだろお前」」
「こればっかりはしょうがないっスよねぇ。」
「だから言ったろ、替えの鉄板は同業者に頼むって。」
「言ってましたけど!!」
「まーまー、ここんとこはお引き取り願うッス。」
「まぁ、時間がかかるというのならしょうがない。行くぞ、吹雪。」
「なんか釈然としない!!」
渋々帰投していく二人を見送る。
「やー、久々にでかい仕事になりそうっスねぇ。・・・心なしか兄貴も楽しそうだ。」
ズタボロの略帽をぶん回して送ったと思ったら、こんな言葉が投げかけられる。
「だろ?」
別に異議はないので素直に返した。
するとそれが意外だったらしい。
「あれっ、そこはツンデレ風に『そっそんなことねぇし!』みたいに返すのがテンプレじゃないんスか?」
「ばっかおめぇ、男のツンデレはキモイだけだ。」
これはシャレじゃなく、マジだ。
いやホントにキモいと思いまする。
「はっ、それもそうっスね。・・・・でも、
それを聞いて、俺は言葉に詰まった。
あの
手に握られた略帽が潰れる。
「・・・・なんか、スンマセン。」
俺の様子を察したのか、ルイが少し怯えながら謝る。
「・・・・いや・・・大丈夫だ。・・・あの時みたいなことにはならん。・・・いや、・・・・させないさ。」
「兄貴・・・。」
現実から逃げ出す様に、ポケットから煙草を取り出して静かに咥えた。
「あれ、火がない。」
「あ、バーナーならあるっスよ。」
「殺す気か」
大丈夫、きっとなんとかなる。
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