ARMORED CORE ASSEMBLE   作:ドクター・ヴィオラ

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アイビスの火が起こる以前からルビコン周辺星系で活動していた老境の独立傭兵
スッラが受けたとされる第1世代強化手術は 成功率が1割にも満たない極めて劣悪なものであり 彼の傍らには常に死の気配が漂っていた
手術を終えたスッラは「狩り」だけを請け負うようになり 今では雇い主さえ定かではない


15/C スッラ

 

 

 

 

「これが今回の被検体かね」

 

 主治医の男は神経質そうな様子で、手袋を指の先までピンと張った。それから麻酔で死んだように眠っている、被検体のことをまじまじと眺めた。

 主治医のまなざしには被検体へのいたわりのようなものはまるでなかった。

 

「資料では元軍人だとか」

「ふん」

 

 被検体──スッラの素性は主治医も確認していた。尤もそれを確認するのは業務上の事情に過ぎない。

 主治医がそれを義務的に確認するのは、被検体の肉体や精神の強度を知るためであって、被検体の素性に同情するためではないからだ。

 

 スッラ。

 ルビコンの星系の軍人。かなりの腕前だったらしいが、任務中の怪我が元で軍隊を出る。それからすぐにこの実験への参加を志願したらしい。

 

 主治医としては被検体が軍人であったことはありがたい。すぐれた軍人の肉体と精神は一般人よりも遥かに強度が高いものだからだ。

 

「何を思ってこんな実験に志願したんだか」

 

 助手が呆れたように右目を眇める。

 

「あの経歴ならほかにポストを貰えたでしょうに」

「戦争屋なのさ」

 

 戦場に取りつかれたような人間が稀にいる。

 

「戦うことしかできないんだ。そうすれば……何かを成しとげられると思っている」

「そんなものですかね」

 

 助手が退屈そうに返事をした。

 

「気の毒にな。だが……この実験で産まれかわる」

「生きていればですが」

「そう言うことだな」

 

 助手がライトの光を最大まで強める。

 

「では……はじめようか」

 

 

 

 

 

 

 檻の中で独りの男が、ベッドの上で蹲っている。

 

「経過はどうかな」

「なんとも言えませんね」

 

 檻の中をカメラがつぶさに捉え、それが主治医と助手の瞳になる。彼等の目は冷酷な研究者の瞳。そこにスッラへのいたわりはない。

 二人はまことに正しい。やさしさを見せるような仕草は研究者の堕落だ。

 

「コーラルは体になじんでいる。思考はあれで正常なようで、質問には正確に答えています」

「そうなるとメンタルか?」

「問題があるとすれば……」

「困ったな……成功例は少ないんだ。すみやかに結果を見せなければならないのに」

「教授が催促を?」

「ナガイは非人道的な研究がおきらいなのさ。已めさせるために理由を探している。困ったものだね……」

 

 スッラに二人の会話が聞こえるはずもなかったが、仮に聞こえていたとしても彼は何も言わないだろう。彼の頭はほかの“声たち”で一杯だったからだ。

 

 聞こえるのだ。火種の声たちが。

 手術のあとその声たちはスッラの内部に忍びこんできた。

 

 スッラの理性は──最初はそれを幻聴だと思った。手術の契約書にはそのような後遺症が記載されていたし、何よりも不安定な人間が幻聴を聞くことを、軍人は戦場で知っているものだからだ。

 

 しかし徐々にスッラの本能的な部分が、それが幻聴であることを否定しはじめる。

 嘆くような生命の慟哭。燃えさかるような地獄の悲鳴。

 いや──燃えさかる“ような”とは正確ではない。その声たちは本当に燃やされていたのだ。

 その声たちは焼失し、そこなわれていた。

 

 声たちの感情は多様だった。

 人間であるスッラに“ありたけ”の語彙で罵声を浴びせることもあったし、彼の過酷な境遇へやさしげに同情することもあった。ほかには単に悲鳴を発しているだけのことも……。

 

 そして感情こそは多種多様であったけれども、声たちにはひとつの共通の想いがあった。

 どんなかたちであれ──声たちは人間と会話がしたかった。

 声たちは理解者を求めていたのだった。

 

 しかし、スッラが声たちの求めるような返答をすることはついになかった。

 彼は孤独な瞑想の中心、声たちの渦の底で沈黙する。

 

 理解だとか、同情だとか。スッラにそんな感情をいだくような余地はなかった。それは別に彼に余裕がなかったからではない。

 なぜならスッラには人間的な欠落があったからである。

 

戦場に取りつかれたような人間が稀にいる

 

 常人が。そして声たちが理解することはない。

 居場所を求めるように戦場を渡りあるき、傍らでつねに死の気配を漂わせ、烏のように死肉をついばむことで生きながらえる。

 そのような人間が稀にいる。

 

 ただ──スッラはこの声たちを単に“やかましい”とは思っていた。耳の奥で話されるのは誰でもいやなものだろう。

 しかし声たちを止めたいとは思わなかった。スッラはそんな消極的な思考をするような人間ではなかったのだ。

 

 スッラの内部が知らず々らずのうちに声たちへ共鳴する。反響するように彼の攻撃性が体内のコーラルを抱きしめ、憎悪のような感情が彼の血管を走りぬけてゆく。

 

 スッラは思った──この声たちをすべての人間に聞かせ、すべての人間を壊してしまいたい。

 

 

 

 

 

 

 そのうちアイビスの火が起こった。

 そのころにはスッラもすでに一人の傭兵となり、強化人間手術はコーラルの代替品が完成し、コーラルはついに過去の存在に成りはてた。

 

 ルビコンが滅んでからしばらくして、声たちが聞こえることはなくなった。

 

 

 

 

 

 

「退屈だな」

 

 スッラのアーマードコアにバズーカの銃身を向けられて、最後のマッスルトレーサーが怯えるように後退した。しかし彼はそんな行動に容赦するような男ではない。

 バズーカが火を噴く。銃身の煙が消えるころにはMTが完全に沈黙していた。

 

「退屈だ」

「スッラ……遊びではないのだぞ」

 

 僚機が通信で嗜める。その声はスッラよりも若そうでありながら、どことなく厳格な印象を与えるような声だった。

 

「遊びだ。こんな殺しは」

 

 周囲にはMTの屍がいくつもころがっていた。

 MTの集団はこの星のゴロツキで、何度も街に襲撃をしかけていたらしいが、そんな背景に興味を惹かれるわけでもない。

 街のリーダーは腕前を買い、スッラたちに大金を払った。ふたりはそのリーダーが望むようにした。

 

 誰にでも理解できる、単純な原因と結果だ。

 街のリーダーはこの結果に満足するだろう。

 しかし僚機の主──ウォルターはそうは思わなかったらしい。

 

「MTのデータを抜いた。こいつらの事情もな」

「それで」

「こいつらが街を襲ったのは、街を追いだされたからだ。食糧不足が原因でな」

「だから?」

「……街の人間は遺恨を教えなかった」

「それを知ってどうするんだ?」

「……俺ならミッションを引きうけなかった」

「そうか。それならわたしが一人で全滅させていたのだろうな」

 

 ウォルターは沈黙した。

 何を言ってもゴロツキたちを殺したことに変わりはない。それでも不満が募るのが人間と言うものだ。

 

「ウォルター……それなら選んで殺すのが上等か」

「選ばないよりはな」

 

 スッラには理解できないことだった。ウォルターも金が欲しいだろうにと思いさえした。

 ウォルターの事情に詳しいわけではなかったが、彼が大金を欲していることをスッラは知っていた。

 そのためにはミッションを選んでいられないだろうに、どうにもウォルターには甘いところがある。

 

 いや──甘いというのはすこしちがうか。

 ウォルターは腕が立つ。ミッションの内容に納得しているときや、戦いが一方的な蹂躙でないときは、彼はとても冷酷に敵を倒すことができる。

 どこに天秤があるのかはスッラにも分からないが、おそらくウォルターはやさしすぎるのだろう。

 

 

 

 

 

 

コア・セオリー(理論)

 

 とのちに呼ばれるものがある。

 理論と言うよりは戦闘の技術や思考とでも呼ぶべきだろうか。

 

 スッラとウォルターが連携していたその当時、人型兵器の戦法は遠中距離戦が主軸だった。

 主要な攻撃は移動砲台などの強力な火器に任せ、人型兵器が敵の接近を遠中距離戦で抑止する。

 これを双方向がおこなって、大きな被害を与えたほうが勝利する。これが当時の人型兵器の文法だったのである。

 

 何がこの文法を終わらせたのかは明確に分からない。

 自立兵器の限界が来たのだとか、携行火器の発展によるのだとか、未来でも兵器開発者の論争にいとまはない。

 

 それはともかく──現代的な突撃戦を論じるに於いて、たしかにスッラとウォルターは、コア・セオリーの先駆者になるのだろう。軍属ではミシガンなどもこれにカテゴライズされることになる。

 

 戦闘の才覚や明晰な知性。

 これらの片方。あるいは両方を持ちあわせるACのパイロットたちだけが、最も有用なACの使いかたを本質的に理解していた。

 

 体系化されるまえに戦法をぶつけると言うのは、こと戦場に於いては大きな意味を持つが、ウォルターがACで近距離戦をするようになったのは、やはり連携しているスッラの存在が大きい。

 

 スッラは異常な攻撃性の持主であるとウォルターは確信していた。

 極端に凶暴な性格をしているわけではなかったが、やたらと目的や獲物への執着心が強く、標的を定めると何がなんでも敵を追いつめるのだ。

 その性格が当時は流行していなかったACでの突撃戦を実行させ、僚機のウォルターもそれにつきあわざるを得ないと言うわけだ。

 

 その戦法がいやなわけではない。実際──有効性はミッションの成功率に示されていたし、この派手な戦法は名を売るのに打ってつけである。御蔭で仕事が次々にやってくる。

 金は未来での戦いのために必要だ。

 

 しかし怖ろしいとも思う。

 スッラの異常な攻撃性がいずれ、自分に牙を向けてはこないだろうか……?

 

 

 

 

 

 

「ミシガン。ベイラムの居心地はどうだ」

「安宿のベッドに座っているような感じだ。ベイラムの連中……おれの実力は欲しいが、自由に動かれるのはいやらしい」

 

 ウォルターは内心で笑った。この男が好きに動かずにいるなど、天地が引っくりかえっても不可能だろう。

 

「ナイルは話の分かるやつだがな、いつまでも自由に動けないでいると、おれも前の巣穴に帰りたくなる」

「新入社員はそんなものだろう」

「腕っこきの新入社員だ。ベイラムのコシヌケどもよりも遥かにな」

 

 そこでミシガンが喉を鳴らした。世間話もこれまでにして、この急な連絡の本題にはいるらしい。

 

「そのうち軍隊を組織するつもりだ」

「反乱でもするのか?」

「真面目な話だ! ベイラムにはいりはしたがフヌケの下で働くのは我慢がならん。おれはおれのやりたいようにやる」

「それをおれに言うために連絡したのか?」

「ウォルター。おれの部隊ができたら……」

「無理だ」

 

 ウォルターは先手で返事をした。格下の人間にされたらミシガンも激昂するだろうが、今さらこの旧知の戦友の失礼に怒れるはずもない。

 

「おれに目的があることは知っているだろう?」

「おまえはその“目的”をいつまでも話さないだろうが」

 

 話せるわけがない。

 いずれコーラルが復活するかもしれず、それに備えていることなど、誰に相談できるだろうか?

 

「おまえの目的がなんであれ、ベイラムがバックにつくんだぞ。何かを果たしたいならそのほうが有益だろうに」

 

 それは無益なことだった。

 なぜならベイラムは将来の敵に成りうるからだ。尤もミシガンにそんなことが分かるはずもなかったが。

 

「とにかく無理なものは無理だ。それに……何も一人で戦っているわけではないからな」

 

 そうだ。ウォルターは孤独ではない。

 人数は随分と減ってしまったが、オーバーシアーは今も戦っている。

 ウォルターのように兵器に乗るにせよ、情報を必死に集めているにせよ、今も宇宙のどこかで戦っているのだ。

 すべては人類の未来のために。

 

「……鼻ったれが偉くなったものだな」

「それほど年齢は変わらないだろうが。それとおまえの前で鼻を垂らしたことなどない」

「そうだな。すくなくともかわいくはなかった」

「あのな……」

「一人ではないと言うのは……あの傭兵がいるからか」

 

 あの傭兵と言うのがスッラであることをウォルターは即座に理解した。

 傭兵の関係は流動的だが、スッラと組むことが多いのも事実だった。人間性は好きになれないが、腕は一人前なのである。

 

「ちがう……スッラではない。おれの仲間は別の場所にいる」

「そうか」

 

 ミシガンの生返事が聞こえた。何かを考えているらしかった。

 すこしの沈黙のあとミシガンが警告するように言う。

 

「危険だぞ。あの傭兵は」

「分かっているさ」

「いや、いや! 分かっていない。おまえは何も理解していない」

 

 ミシガンの返事は怒声に近いものを帯びていた。

 

「前にファーロンとやつの戦闘がなかったわけではない。雇用主を選ばないタイプだからな、やつの詳細もすこしは知っている。もちろん戦闘しているときの映像もな。

 ウォルター。あのタイプの人間はな、誰かを痛ぶりたいんだ。金銭や名声には執着せず、戦いの本質的な部分をこのんでいる。物質的な欲を満たすことではなく、本能を満たすために牙を研ぐんだ。

 ベイラムに近いやつではコールド・コールがそのタイプになる。尤もあいつは金銭には執着するから、分かりやすいだけマシと言えるが」

「スッラはその傭兵よりもタチがわるいと」

「そこまでは分からん。ウォルター……油断はするなよ。狂犬病の犬は獲物を選ばない、それが隣人だとしてもな」

 

 

 

 

 

 

 スッラにとって──ウォルターと彼のACは優秀な僚機と言えた。特有のやさしさは傭兵に無用の素質だし、すこし金にがめついところはあったが、すくなくとも腕はたしかだった。

 

 しかし何も腕を理由にスッラはウォルターと仕事をするわけではなかった。

 スッラは本質的に孤高の人間だ。別に僚機がいなければミッションを受けないわけでもない。

 

 それは最初に一緒に仕事をしたときのことだ。ウォルターが近くにいると、スッラの内部で何かが疼いた。

 何かはわからない。しかし、どうやらその疼きは仕事をかさねるごとに強さを増してゆくような感じがした。

 

 不思議と不快な感覚ではなかった。別に愉快でもなかったが、スッラの勘はその妙な疼きを、なんらかの重要な信号であると捉えていた。

 

 そして疼きで悶えているのは自分ではなく、自分の内部の“何かで”あることも……。

 それは声を発し、共鳴していた。

 

 

 

 

 

 

  スッラがそれを知ったのは偶然に過ぎなかった。その情報を得たことが福音だったのか、それとも地獄の道をさらに舗装したに過ぎないのか、それは彼にはどうでもよいことだった。

 

 その切掛となったACを倒したのもまた、些細な巡りあわせの結果に過ぎない。しかし、どこかに因果を感じてしまうのもたしかだった。

 ルビコンとコーラル。その争いの輪に引きずりこまれるのは、あの星系を故郷にしていたからなのだろうか。

 

 そのミッションで敵対したACのパイロットが偶然にもオーバーシアーであること。ウォルターとの通信記録があったこと。

 それからACのデータを見ることで潜伏先を洗いだし、そこのコンピューターからオーバーシアーの目的を知ったこと。

 

 いや──オーバーシアーの目的のほうはどうでもよかった。そんなところにスッラの関心はない。重要なのはそこからウォルターの素性を知ることができたと言うことだ。

 ウォルターの事情や立場には驚かされた。どうやら彼はあまりに大きな使命を両肩に乗せているらしい。

 しかし同時に納得できたような気がした。ウォルターの厳格さとその裏側のやさしさの正体。そして何よりも内部の疼きの原因が。

 

 頭の震えが止まらない。

 視界に赤色の光がちらついているような気がした。

 

 この感覚を随分と忘れていた。

 聞こえるぞ──火種だ。

 

 

 

 

 

 

「遅かったじゃないか」

「わるいな」

「気にするな。よくあることだ」

 

 スッラの機体にウォルターの機体が追いついた。

 スッラとウォルターは木星圏の惑星、その辺境の山岳地帯での依頼を受けていた。

 

 珍しくスッラからの共闘の依頼だった。なんでもその山岳にベイラムが敵対している、アーキバスの秘匿兵器が隠されているらしい。

 

「本当にあると思うか」

「あるから依頼したんだろう。いずれ木星での大戦も予想されている。新兵器の開発はありえないことではない」

 

 現在──木星圏では衛星のガニメデで発見されたエネルギーを巡る、各勢力の争いの火種が燻っており、すぐにでもそれは爆発するだろう、と言うのがスッラの見解だった。

 争いに関してスッラの勘は非常に当たる。ウォルターもそこは信用していた。

 

「まあ……別に良いのさ、ないならないで……今回の雇用主はじつに大らかだったからな」

 

 とスッラが言う。

 ウォルターもそれには同意する。

 なんと今回の雇用主はミッションの報酬を事前に払ったうえ、戦闘をおこなわずとも返金の必要はないと言うのだから。

 

 

 

 やがて目的地に辿りついた。

 そこにはたしかに建物があった。

 無人の廃墟の建物が。

 

「これは……」

 

 しかし、いくら建物と言っても──それはあまりに小さすぎた。

 軍事施設でも研究施設でもない。と言うよりもその外観はあきらかに観測施設のそれだった。

 

 そしてウォルターが困惑の呟きを漏らした、その次の一刹那に彼の機体がアラートを鳴らした。間一髪で彼はクイックブーストで攻撃を回避し、いきおいQBをクイックターンに変速する。

 するとスッラの機体が自分に銃口を向けているのが見えた。バズーカの砲身が星の光でぎらぎらと威嚇的に輝いていた。

 

「やるな」

「……どう言いつもりだ」

「残念だが目標などいない。騙してわるいが……いや……仕事でもないな。それなら願いとでも言おうか……とにかく死んでもらうとしよう」

 

 

 

 二種類のプラズマミサイルが飛んでくる。

 前方と上空からのミサイルで確実にダメージを与え、左手の連射武器でスタッガーを維持すると言うのが狡猾なスッラのこのむところだった。

 ウォルターは焦らない。最も危険なのは右手のバズーカだ。ミサイルで焦ったところにバズーカや蹴りを当てると言うのがスッラの定石だ。

 

 ミサイルはブーストのみで最小限に回避する。わずかに削られるが気にしない。

 ほら──やはりバズーカが飛んできた。

 

「誰かに金でも積まれたか」

「金だと?」

 

 ウォルターの機体は平均的なACと言うところだった。

 フレームはアーキバスの中量二脚。

 手にはレーザーライフルとパルスブレードを装備し、左肩のパルスシールドで装甲を補っている。

 技巧があるとすれば、右肩のミサイルだろう。高誘導型のミサイルは半端な相手に揺さぶりをかける。戦いが長くなればスッラのような相手にも刺さるときがあるはずだ。

 

「金に執着しているのはおまえだと思うがね。しかし、あの情報でわけが分かったよ」

「……情報?」

 

 互いにミサイルを気にしながら、バズーカとレーザーを交差させる。ブレードも蹴りも互いの機体に直撃しない。実力が拮抗しているようだった。

 

「オーバーシアー……わたしが殺したのはなんと呼んだか……」

「なんだと!?」

 

 そして舌戦をスッラが制した。ウォルターの動揺は操作にミスを誘い、機体の側面をバズーカが直撃した。

 あまりに稚拙なミスだった。

 スタッガーが一気に上昇したこともあり、なんとか彼は冷静さを取りもどそうとする。

 

「そうか……あいつの連絡がなくなったのは……」

「可哀想に。使命の途中で死んでしまうとは」

「おまえは……オーバーシアーを滅ぼして、あの厄災を再現しようと言うのか?」

「ウォルター。あんなものに興味などないさ」

 

 スッラの声は恍惚とするような調子を帯びたが、それで彼の操作がそこなわれるわけではない。

 むしろ攻撃的な姿勢を強めてさえいた。

 より狡猾に。より冷酷に。より残虐に。

 声が聞こえる。それは脳深部で目の前の男を殺せと叫んでいる。

 

 その声のなんと惰弱であることか!

 声が囁くのは──怒りだとか、嘆きだとか。憎しみだとか、悲しみだとか。そんな凡庸な感情ばかりだった。

 スッラは内心で嘲笑する。そんな感情は戦場ではありふれているのだ。

 

 教えてやる。自分の“狩り”はそんな領域を通りすぎているのだと。

 そして──それを学んだときに叫ぶのだ。

 自分に語りかけてきたときのように、やかましくも荘厳なアリア(Air)で!

 

 スッラは思った──この思考は──これは以前にも考えたことがあるような気がした──この声たちをすべての人間に聞かせ、すべての人間を壊してしまいたい。

 

「しかし争いごとには興味がある。本当にあの厄災が戻ってくると言うのなら……今度はどんな争いをもたらしてくれるのか?」

「破綻者め!」

 

 戦場に取りつかれたような人間が稀にいる。

 その人種は何も戦場での恐慌や、薬物の投与などで後天的にそうなるのではない。

 その人種は金銭や名声のためではなく、戦うために々うのである。

 

 ウォルターの心の隙にスッラが蛇のようにはいりこむ。彼はプラズマミサイルを巻きちらし、それを煙幕にアサルトブーストで突撃した。

 強烈な蹴りがウォルターの機体のコアに直撃し、さらにバズーカが彼を建物のほうへ吹きとばした。

 

「……スッラ」

「生きているとはな」

 

 機体が火花を散らしている。今にも砕けちりそうだったが、機体はギリギリのところで持ちこたえていた。

 

「……そんなにも争いが好きか」

「……好き?」

 

 スッラにひとつの疑問が産まれた。そんなことは考えたこともなかったのだ。それを疑問に思うには、あまりに争いが日常的だったのだ。

 しかし、まさに今──スッラはウォルターの御蔭で即座に疑問を解消するに至る。

 

「そうか……そうだな……どうやらそうらしいな。ウォルター……わたしは争いが好きなのだと思う。

 フフフフ、フフ……灯台がなんとやらだ。どうして気がつかなかったのだろう?」

 

 ウォルターはスッラのそんな長言を引きだすだけで充分だった。すくなくとも壊れかけの機体から、なんとかアサルトアーマーを機動するためには……。

 

 限界の機体が緑の爆風を周囲に放ち、それは背後の建物をも巻きこんだ。

 周囲が倒壊の煙で満たされる。それが晴れたころには──すでにウォルターの機体はいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 ウォルターがいなくなったところで、スッラの生活は何も変わらない。

 相も変わらずスッラは傭兵を続けていた。

 しかし変化もある。スッラは防衛や護衛のミッションを受注することが極端に減り、受けるのは特に敵機の撃破を目的としたものが主流になっていった。

 スッラは攻撃性に磨きをかけ、戦いは生活の一部になる。あるいは戦いが人生そのものに。

 

戦場に取りつかれたような人間が稀にいる

常人が。そして声たちが理解することはない

居場所を求めるように戦場を渡りあるき、傍らでつねに死の気配を漂わせ、烏のように死肉をついばむことで生きながらえる

そのような人間が稀にいる

 

 調教師──ハンドラー・ウォルターの名前を聞くようになったのは、あの戦いからかなりの月日が経ったあとだった。

 

 慌てることはない。スッラの勘は告げていた。

 あの星系の人間はいやでもルビコンとコーラルがもたらす、争いの輪に巻きこまれることになるのだ。

 まるで複数の蛇が絡みあうように。

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