ARMORED CORE ASSEMBLE   作:ドクター・ヴィオラ

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ホーキンスはスウィンバーンと同じく第7世代であり 技術革新に至る過程で多くの同僚や部下を失ってきた
しかしそれでも コーラル技術世代で見られた非人道性や 狭間の世代で起きた凄惨な事故を思えば 何倍もまともな時代になったと彼は自身を納得させている


20/D ホーキンス

 

 

 

 

怒らせると最も危険なヴェスパーは誰か?

 

 そのような話題をペイターがフロイトにぶつけたことがある。

 偶然にもふたりの休憩に同席していたメーテルリンクはペイターを叱りつけた。

 フロイトが格下の気軽な態度を気にしないことは知れわたっているが、メーテルリンクはそれをよくないことだと考えていた。ヴェスパーが舐められるかもしれないからである。

 

「良いんだ」

 

 とフロイトはメーテルリンクを止める。そんな態度が余計に彼女の気を揉ませるのだ。

 

「こんな殺人者の集まりに、名誉が今さらなんだと言うのですか」

 

 二人の口論のさなかにペイターが呟いた。

 二人は目を丸くしたあと、次の瞬間にフロイトは大声で爆笑し、メーテルリンクは顔を真赤にする。彼女は闇雲にペイターへ罵声を浴びせはじめた。

 

 この不躾な後輩は情緒が欠落しているところがあったが、それが会話をおもしろくしていると言うのがフロイトの見解だった。

 しかし、これではその会話も続けられない。おもしろそうな話題をのがすのはフロイトも避けたいところだった。

 

「メーテルリンクは誰だと思うんだ?」

「えっ」

 

 フロイトの急な質問はメーテルリンクの思考を止めるには充分だった。彼女は言葉を詰まらせる。その返答の対象が誰であっても失礼になってしまうからである。

 

「上官の命令ですよ」

 

 とペイターが煽った。真面目なメーテルリンクは上下関係に弱い。尤も彼女が誰を指名するかなど、すこしは予想できるところだったが。

 フロイトとペイターが想定していたとおり、メーテルリンクはとても小さな声で 「閣下です」 と答えた。

 二人は“やはり”とでも言いたげに話しだす。

 

「スネイルはあれで意外と怒らないやつだぞ。威圧的ではあるがな」

「ネチネチとしていますからね」

「真面目すぎるのさ」

「それで? 結局……第一隊長殿は?」

「ふん?」

「誰を怒らせてはならないと思うのですか」

「ふむ……」

 

 フロイトが顎を撫でる。彼は意外と真剣に考えこんでいるようだった。

 しばらくの沈黙のあと、フロイトは答えた。

 

「ホーキンスだな」

「ホーキンス……ですか?」

 

 メーテルリンクが不思議そうに言った。

 アーキバスの社員らしくない、やさしげでかろやかな男。それがホーキンスの印象だった。

 別に恋愛関係になりたいわけではないが、ヴェスパーの中では“マシ”な異性でもある。

 

「あいつはやさしいやつさ。今度のルビコンでの作戦のように、大仕事をやるときは文句も言わないだろうが……そうだな。随分と前にセンターやファクトリーのことでスネイルと口論になったこともある。優秀な社員で軽率に実験するなとな」 

「閣下と……」

 

 メーテルリンクが唾を飲みこむ。あのスネイルと口論するなど、考えるだけで怖ろしいことだ。

 

「意外ですね。第五隊長殿とはペアを組むことが多いのですが、わたしは彼からそのような印象を受けたことがありません」

「まあ……滅多にないことだからな」

「どれくらい?」

「スネイルが他人に好かれるくらい」

「それなら可能性はゼロじゃないですか」

「ロックスミスが作戦中に破壊されるくらいとか?」

「ゼロじゃないですか」

 

 また二人がふざけはじめるのでメーテルリンクは呆れるしかなかった。真面目に話を聞いているのが馬鹿らしくなってくる。こと会話に於いてこの二人は危険なペアらしい。

 だからフロイトの発言も冗談だと思うことにした。

 

 ホーキンスが怒らせると最も危険な人間だと? 勤務態度も成績もアーキバスのエリートにふさわしく、部下からの信頼も厚いあの品行方正な男が?

 

 そのときまではメーテルリンクも、そんなふうに思っていたのである。

 

 

 

 

 

 

ファビアン

 

 ホーキンスのアーマードコア──リコンフィグの補佐を務めるそのパイロットは“ファビアン”と呼ばれていた。

 四脚型のマッスルトレーサーを自在に操るその男は、単にMTのほうが向いていると言うだけの理由で、ヴェスパーへの昇進を蹴ったことがあるらしい。

 

「本当は事務がいやなだけらしいけどね」

 

 とホーキンスはファビアンを横目で見ながら、大型機体輸送機の一室でフィーカを啜った。

 

「……本気ですか?」

 

 とメーテルリンクは信じがたそうに目を丸くした。

 

「ほかにも色々と理由はありますがね」

 

 とファビアンはごまかすように額を撫でた。

 アーキバスのエリートであるヴェスパーの地位を蹴るなど、メーテルリンクには考えられないことだった。

 

 過酷な訓練やひたむきな勉学、そして日頃の成績を加味したうえで、ヴェスパーの人員は選ばれる。だからこそヴェスパーは下役たちの羨望を受けるのだ。

 

「所詮は叩きあげの人間。わたしはMTに乗れるだけで充分です」

「叩きあげ……」

 

 とメーテルリンクは繰りかえす。つまり彼女のように訓練校を出たあと、徹底的な研修を受けたタイプではなく、入社したあと貧弱なMTで“壁役”をやり、生存することで徐々に昇進してきたタイプと言うことだ。

 

 もちろん簡単なことではない。どこの企業でも通常のMTは死兵も同然であるのだから。

 

「ファビアンはわたしが五番隊に引きいれたんだ。訓練中の動きのキレがよくてね」

「ありがたいことでした」

「いや、いや……御蔭で楽をさせてもらっているよ。補佐が横にいると仕事の励みになるしね」

「そんなふうに調子に乗らせて……またMTの集団の相手をさせるつもりでしょう?」

「あの作戦の君のレーザーブレードのキレはよかったよ」

「レーザーの放射にキレも何もないですよ」

「そうかな? ラスティくんを見ているとそうは思えないけどね」

 

 作戦前だと言うのに会話がはずむ。ふたりのやりとりがメーテルリンクは不思議とこぎみよかった。

 つきあいが長いのだろう。メーテルリンクは二人の信頼関係を如実に感じとっていた。

 

 隊長をやるのはむずかしい。連携を取るために信頼を築かなければならないのもたしかだが、隊長としてときには“死んでこい”と命令しなければならないときもある。判断を鈍らせないためにも安易な関係を構築するのは大変なのだ。

 

 特にメーテルリンクは女性でもあるため、部下の男性とのやりとりに苦労する。高嶺の花の取りあいは部隊に不破をもたらすからである。

 女性の兵士は非常に少ない。器量の良し悪しに関わらず、やたらと惚れられるものなのだ。

 

 

 

「三十分後に作戦領域へ突入します」

 

 そのうち三人は輸送機のパイロットの通信を聞いた。

 

「さて……準備をしようかな」

「ホーキンス。ブリーフィングでは解放戦線の食料貯蔵庫と聞いていますが……」

「らしいね」

 

 ルビコンはまともな食料がすくない。土着の主食がミールワームなのだから、その内情も察しがつくものである。

 だからこそ今回の施設は解放戦線の重要な建造物のひとつであり、かなり厳重な警備がおこなわれているらしかった。それこそヴェスパーが二人も必要なくらいには。

 

 この施設を落としてしまえば、食料の供給率を減少させられる。必然的に解放戦線の“壁”の戦士たちに大打撃を与えられるはずだった。

 

「まあ……焦ってもロクなことにならないよ。肩の力を抜いていこうじゃないか」

 

 ホーキンスが部屋を出る。彼の気楽さがメーテルリンクは頼もしかった。

 

 

 

 

 MTの集団が矢のようにこちらへ突撃してくる。

 こちらのMTも応戦しているが、すでに部隊はちりぢりで、半壊状態と言うところだった。

 敵の士気が高い。ホーキンスとファビアンがチャージしたプラズマライフルの爆風やスナイパーキャノンで牽制するが──それでも物量差を完全に覆すのは困難である。

 ジリジリと前線が交代しはじめたとき、ひとりのオペレーターがすべての回線に叫んだ。

 

「あのACが部隊の背後に迂回しています!」

 

 部隊に緊張が走る。

 そう──この状況を“あのAC”がもたらしたのだ。アサルトブーストで擦れちがいざまにMTを斬りつけ、ナパームランチャーで部隊の中心を炎上させ、こちらの戦場を複雑な状態に陥れる。

 

 それに気がついてもすでに遅い。あのACはその行程を終えるとこちらに踏みこまず、周囲の建造物のうしろに隠れてしまうのだ。

 それを繰りかえされて、こちらの配置はグチャグチャだ。

 

「清聴!」

 

 急にホーキンスが各隊員に大声で通信をぶつけた。しかし、その大声のわりに焦ったふうではない。

 彼は隊員たちを平静に戻すため、いつもの穏やかな声で言う。

 

「ACの相手はリコンフィグとファビアンの“リヴィエール”がする……メーテルリンク!」

「はい!」

「部隊の指揮を任せる。わたしたちが戦っているあいだに前線を喰いとめるんだ」

「喰いとめるどころか……押しかえしてやりますよ!」

「その粋だ!」

 

 相手の士気に惑わされてはならない。敵のMTはことごとくがボウズの骨董品なのだ。

 数の上では負けているが、そこは部隊の性能差でカバーできるはずだった。

 

 リコンフィグとリヴィエールが反転し、背後のACを迎えうつために突撃した。

 

「どうしてこんなところに……」

「さあ……ボケているんじゃないのかな?」

 

 焼けこげたようなACが迫ってくる。

 ふたりの体に緊張が走る。

 アリーナのランキングは04/A──ACはアストヒク──解放戦線の師父。サム・ドルマヤンその人である。

 

「侮ったな。ピカクスやユエユーと同じだとでも思ったか? コーラルよ……ルビコンの内にあれ」

 

 

 

 

 

 

 そもそもの話──ドルマヤンがこの施設にいたのは偶然に過ぎなかった。最近ではミドル・フラットウェルが幅を利かせているし、彼のほうでもこの戦争に積極的なほうではなかったが、士気向上のための視察を承諾するくらいの分別はあった。

 

 仮にも師父。派閥の人間が減少したとは言え、いまだにドルマヤンへの支持は大きい。

 政治と無関係な現場の人間はドルマヤンの支持層だ。旧型のACで星外の最新兵器を葬るその姿は、尊敬されるに充分な振るまいだったからである。

 

ランキング 04/A

 

 その称号は伊達ではない。

 ドルマヤンはまさしくルビコニアンの最高戦力なのである。

 

 

 

「まったく、まったく……想定外の大物だね。ファビアン! すこしだけがんばろうか!」

「ボーナスは?」

「秘蔵の三十年物!」

「了解!」

 

 ふたりはドルマヤンを左右に挟みこむように動く。

 二対一の定石。どちらかに対処しようとすれば、何かしらの攻撃が当たるからだ。

 しかしドルマヤンはそれを思わぬやりかたで対処する。勢いを止めずに部隊の後方へ突撃していったのだ。

 

「何!?」

 

 そしてクイックターンで反転し、あろうことかその場で立ちつくす。

 

「……斬新な」

「戦士的な発想ですね」

 

 とふたりは呟いた。その言葉には関心さえあったしれない。

 

 要するにドルマヤンは部隊を人質にしたのである。この状態ではプラズマライフルやスナイパーキャノン、ほかにはレーザーキャノンやプラズマミサイルも味方に命中するかもしれないし、部隊のほうでも前線の相手をしているので彼のほうには容易に振りむけない。

 

 もし二人の武装が味方に命中したら、士気は一気に下落するだろう。また左右に展開しても今度は部隊との衝突が予想される。

 その硬直中に機体を斬りきざまれたらひとたまりもない。

 

 本来は有利なはずの二対一を、むしろデメリットにされていた。

 

「接近戦しかないね」

「……あれとですか?」

「ブレードの“キレ”の話……信じてくれるかい?」

「部隊を半壊させられてはね」

 

 今のやりとりで双方の“格”が決まった。

 戦場は流動的なものだ。アリーナのランキングですべてが決まるわけではないが──この戦いはあきらかにドルマヤンが格上。

 しかし、それなら格下なりにやるだけだ。

 

「ほう」

 

 今度はドルマヤンが関心するほうだ。

 ふたりの機体が周囲の建物のうしろに潜伏したからである。

 それならドルマヤンは背後の部隊を──とはならない。背中を斬られては元も子もないのだ。

 そのうちスキャンのタイミングを縫うようにして、アストヒクの右側面へリヴィエールが突撃してきた。レーザーブレードが強力な光を放つ。

 

 ドルマヤンはそれをクイックブーストで回避する。

 これは想定内。これほどの実力者に一発目が当たるとはファビアンも思わない。

 問題はこのあと。パルスブレードを振るうのか、それともホーキンスへの警戒を──アストヒクが動く。どうやら前者を選んだようだった。

 

 それを待ってましたと言わんばかりにリコンフィグが突撃してくる。元々はアストヒクの左側面に位置していたが、機体がリヴィエールのほうを向いたことで背後を取るかたちになる。

 

当たる!

 

 とホーキンスは確信する。しかし結果は彼の予想と逆をゆく。

 アストヒクがQBでブレードをキャンセルし、リヴィエールの右側へ滑るように移動する。そして続けざまに背後へ行き、今度は本当に機体を斬りつけた。

 機体を揺らされてファビアンが苦悶の声を漏らす。

 

「ファビアン!」

「大丈夫!」

 

 ファビアンはすぐに機体を反転させた。しかし視界に捉えたのはアストヒクではなく、侵略者を燃やすための火の海だった。

 いつの間にかアストヒクが両手をハンドミサイルとナパームランチャーに持ちかえている。

 

 視界不良のさなかにミサイルが追加で飛んでくる。火炎によるシステムエラー、そしてミサイルの良好な衝撃力が、リヴィエールをスタッガーさせた。

 

「ファビアン!」

 

 ホーキンスが絶叫するように名前を呼び、リヴィエールを迂回してアストヒクを蹴ろうとした。

 

 

 

「ホーキンス」

 

 それは何かを悟ったような声だった。

 

「わたしが昇進を蹴ったのは……あなたの部下をやるのがおもしろかったからなんですよ」

 

 アストヒクが機体の中心から、赤色の光を撒きちらした。

 

 

 

 

 

 

「まずは一機」

 

 アサルトアーマーが収束し、アストヒクが後退する。ブレードのリロードが終わっておらず、リコンフィグへ追撃はできなかったが、さすがにそれは望みすぎと言うものだろう。

 

 そのリコンフィグはと言うと──まるで死んだように硬直していた。

 スタッガーはすでに終わっているはず。戦意を失ったのだろうか。

 

「ホーキンス!」

 

 メーテルリンクの通信が届いた。

 

「応答を! 何があったのですか?」

 

 アサルトアーマーの衝撃が届いたのだろう。緊急事態を想定しての連絡だ。

 

「なんでもないよ、メーテルリンク」

 

 まだ最前線いるメーテルリンクを混乱させたくない。ホーキンスはこの時点ではファビアンの死を伝えなかった。彼は冷静に言葉を発していたつもりだった。

 しかし一方でメーテルリンクのほうでは──ホーキンスの声色に“おぞけ”をいだかざるを得なかった。

 

 何がそうさせたのかは分からない。ファビアンの死を察したわけではない。

 それは“本能的な恐怖”だ。スネイルのようなタイプを相手にするときとはちがう。具体的に言うなら──まるでいくつもの銃口を向けられているような……。

 ホーキンスが唐突に宣言する。

 

「総員に告げる。標的をアストヒクに変更しろ」

 

 リコンフィグがリヴィエールの残骸を一瞥したあと、今度は上空のほうへ視線を向けた。

 

「メーテルリンク……捕虜は要らないよ」

 

 

 

 

 

 

 已めてくれ、已めてくれ。

 已めてくれと解放戦線の戦士たちが機体の中で叫んでいる。

 戦士たちに向かってくるのはチャージされたプラズマライフルとレーザーキャノンの乱射。そしてプラズマミサイルの雨霰だ。

 戦士たちは嘆く。これが敵に立ちむかったことの結果から、納得の果てに絶えることができたのに。

 

 それは戦いではない。それは完全な蹂躙だった。

 ホーキンスは四脚を上空でホバリングさせ、施設とMTを一方的に空爆していた。

 

 エネルギーを切らしたタイミングを狙おうとすれば、今度はブレードのチャージで周囲を薙ぎはらわれる。

 エネルギーが回復すれば──また同じことの繰りかえしだ。もちろんMTの武装くらいでは、あれほど上空にいるACに致命傷は期待できない。

 

 頼みのドルマヤンはメーテルリンクと部隊の相手で手一杯である。

 アストヒクはパルスブレードを主軸にしているところがある。あまりの多対一は苦手な分野だったのだ。

 

「諸君!」

 

 ホーキンスが通信で叫ぶ。

 

「リヴィエールの残骸を見たか、ファビアンの死を確認したか」

 

 ドルマヤンの相手をするために舞台は反転している。それを確認するのは必然的だった。

 

「ファビアンを無意味に死なせるな、彼の戦いは終わっていない。

 作戦を成功させろ。そしてファビアンの死に意味を与えろ」

 

 ホーキンスの補佐の死。本来なら──士気が下落してもおかしくないできごと。

 しかしホーキンスが扇動することで部隊の士気は、むしろ最高潮に達しようとしていた。

 ホーキンスとしたしくしていたファビアンは、彼と同様に部下に好かれていたのだ。

 

「野蛮な現地民を殺害しろ。ファビアンの仇はおまえたちの目の前にいる」

 

 ホーキンスが意図的に憎悪を増幅する。彼はファビアンの仇を取るためだけに戦っているのではない。

 やるべきことは作戦の遂行だ。そのために部隊を扇動する。それが友人の死に意味を与える。

 

 部隊がアストヒクに殺到する。

 機体の中でドルマヤンは呟いていた。

 

「わたしか……侮ったのは」

 

 

 

 そこからは簡単だった。

 リコンフィグの爆撃で解放戦線はやつざきに。部隊の重圧にアストヒクの動きは崩れた。

 

 解放戦線が壊滅するその直前にアストヒクが撤退し──蹂躙はそれで終わった。

 

 

 

 

 

 

「酒が強いやつでね」

 

 部隊が撤退の準備を整えていた。そのうち迎えの輸送機が到着するだろう。

 

「わたしも強いほうではあるんだけどね。ほら……あいつはガタイが良いからさ、そのうち潰されてしまうんだ。困ったものだよ」

 

 メーテルリンクは話を聞きながら、眼前の光景をつぶさに眺めていた。

 

 まさに徹底的な破壊だった。施設は跡形もない。MTの中の戦士たちは原型すらないだろう。

 メーテルリンクも部隊長として、敵を全滅させたことは何度もあったが、これほど執念を感じさせるような破壊をしたことはなかった。

 

「……わたしが怖かったかい」

「はい」

「意外と素直だね」

「ホーキンスの牙は……味方に向かわないと理解しましたから」

 

 ホーキンスはファビアンの遺体の回収を指示していた。遺体はアサルトアーマーのエネルギーで完全に焼けついていたらしかった。機体のハッチをこじあけたとき、完全な死亡が確認された。

 

「最初から……上空での攻撃をやっておくべきだったのかな」

「あの時点ではふたりがACの相手をするのがベストでした。むしろ友人が殉職したあと、あんなふうに機転を効かせるのは、ホーキンスでなければできないと思います」

 

 強敵との対峙と友人の死。そのふたつが同時に襲ってきたら、自分が冷静な判断をできるかはあやしい。とメーテルリンクは自分の未熟さを実感していた。

 

「この仕事はこんなことばかりだね。誰かとしたしくなる、その人間が死ぬ、誰かとしたしくなる、その人間が死ぬ。同じことの繰りかえし……慣れないといけないとは思うんだけどね」

 

 メーテルリンクは──すでにそう言うことには慣れていた。正確には無理にでも慣れさせていた。

 この仕事に知りあいの死はつきものだ。気にしていては正気でいられない。

 

 ホーキンスが馴れずに正気でいられるのは、彼の精神が強靭だからなのだろう。

 いつまでも隣人の死を悲しめるのは立派な強さだ。

 

「以前にフロイトがホーキンスの話をしていました」

「ふん?」

「あなたがヴェスパーで最も怖いと」

「へえ。君はどうだと思うんだい」

「わたしは……」

 

 メーテルリンクはそこで逡巡する。

 目の前の光景をもたらしたのは、まちがいなくホーキンスの精神性だった。しかし彼がそれを実行したのは友人の死が原因だ。

 この光景は戦友への弔いでもあったはずなのだ。

 

「ホーキンスはやさしいと思います」

 

 その言葉の御蔭だろうか。ファビアンの死を完全に飲みこめたわけではないが、ホーキンスは胸の内がわずかに軽くなったような気がした。

 そのうち通信が来た。帰りの輸送機が到着したらしかった。

 

「帰ろうか」

 

 ホーキンスはかろやかに言った。

 

「はい」

「じつは三十年物の酒があるんだ。それで君に余計なことを教えたフロイトを潰そうと思うんだけど……一緒にどうだい? あいつ……まるで酒が駄目なんだよ」

「あら。第五隊長殿はヴェスパーワンに反逆すると言うのですか」

「当然の報復だよ」

 

 リコンフィグがブースターを吹かしはじめる。

 

「わたしは怖いやつだからね」

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