聖嬢淫転魔録 〜少女達のやんごとなき異形バトル〜   作:クサバノカゲ

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13:秘蜜の花園

 床に散らばる、一瞬前までデジカメだった破片たち。

 中学時代からずっと水彩画に打ち込んできた庄司先輩の細腕が、そんな握力を秘めているとは夢にも思わなかったことでしょう。

 御堂の目は呆然と彼女の顔を見上げ、そして驚愕に見開かれます。

 

「えっ……なんで……」

 

 無理もない。そこで彼を冷たく見下すのは庄司先輩の顔ではなく──琳子(わたし)(それ)なのだから。

 

「おいどうなってる!? ちゃんと掴まえておけ!」

 

 混乱しつつも彼は、私と庄司先輩がいつの間にか入れ替わったと考えたのでしょう。私を拘束していたはずの合気道部のふたりに対して声を荒げます。

 

「はい、ごめんなさい先生」

「もっとちゃんと、関節を(キメ)ますね」

 

 答える二人の声の位置(・・)に違和感をおぼえたらしく、彼はゆっくり視線を自分の真横(みぎ)に向ける。

 そこにいるのは彼の右腕を掴んで微笑む()。慌てて逆側(ひだり)に向けた視線の先でもまた、()が言葉通りに、左腕の関節を極める。

 

「……なんだ……これ……?」

 

 そして彼自身がいつの間にか(・・・・・・)琳子(わたし)がそうされていたはずの場所に立たされ、拘束されている事実に気付き、目をひん剥く。

 必死に振り払おうとする両腕を、左右の()はさらに強く締め上げた。さきほど彼自身が指示した通りに。

 

(いて)えっ、くっそ……なんだこれ……悪夢(ゆめ)か……?」

「あら。なかなか勘がいいのね、先生」

「は……?」

 

 答えたのは、彼と入れ替わってアンティーク椅子に、優雅に足を組んで腰掛ける()。サイドテーブルに置かれた空のコーヒーカップを持ち上げ、くるりと逆さにして見せる。

 

「自分で飲んだのは、はじめてかしら? ずいぶんと強めの睡眠薬(おくすり)みたいだけれど」

 

 ──さて。すこしだけ時間をさかのぼりましょう。

 

 保健室の前、魔力を使い果たした私が合気道部の二人に拘束され、大人しく従うしかないと諦めた直後まで。

 そう、このままでは(・・・・・・)

 

「……にえあッ!」

 

 しばらく歩いたところで唐突に妙な声を上げたのは、私の右腕を捕らえている美薗さん。

 合気道部のエースで、ショートボブがよく似合う凛々しい彼女は、お顔を耳まで真っ赤に染めながら後方をきょろきょろ見回す。

 けれど、彼女の背後から忍び寄って、引き締まった太ももをさわりと撫でた私の尻尾は、すでにスカートの内側に帰還済みです。

 

「どうしたの?」

 

 同じく合気道部の部長である塩崎先輩は、ポニーテールを揺らしながら私の肩越しに、様子のおかしい後輩を気づかいます。

 ふふふ、その優しさが命取り。私は目と鼻の先にぶら下がった彼女の小ぶりな肉のふくらみ──可愛らしい耳たぶを、唇でやさしくはさみ、ちろりと舐めるのでした。

 

「ひゃうえいッ!?」

 

 後輩に負けず劣らずの奇声を上げながら、転がるように私から離れる塩崎先輩。

 それによって解放された左手の五指を、私の右手を拘束している美薗さんの手首に滑らせる。指たちは柔肌に触れるか触れないかの狭間で、それぞれを異なる強弱で微動させながら撫でまわします。

 

 ──これぞ秘撫(ひぶ)天使の先触(フェザータッチ)」。

 

「────ッ!?」

 

 美薗さんは声にならない叫びをあげながら、私の拘束をあっさり手放し、その場にへなへなと座り込みます。

 まあ、免疫のない乙女ならそう(・・)なることでしょう。

 ちなみに、これらの「秘撫」はサキュバスとしての「能力」ではなくて、万戦練磨な前世(わたし)の「技術(テクニック)」です。

 

「ええっ……いったい何が……」

 

 先導して少し先を歩いていた美術部部長の庄司先輩が、振り向き目を丸くしています。

 

「わからないです、二人とも急に苦しそうに」

 

 白々しく答えながら、座り込んだ美薗さんの背をさすりつつ、真っ赤になった耳を抑えて息を荒くする塩崎先輩の方にも視線を向ける。

 

「あっ……なんだか私も……」

 

 そして額に手を当てながら、よろよろと廊下に倒れ込む──

 

「大丈夫っ!?」

 

 ──と見せかけて、駆け寄った庄司先輩の背にするりと両腕をまわし、背筋に「天使の先触(フェザータッチ)」を、耳には塩崎先輩にも使った「果実のついばみ(チェリーピッカー)」を同時発動させます。

 

「────ッ!?」

 

 声にならない叫びに続いて、すぐに甘い吐息を漏らした彼女は、私の腕の中に崩れ落ちるのでした。

 

 それからの数分間。完全防音の視聴覚室でなにがあったかは乙女の秘蜜としておきますが、とにかく私たちはとっても仲良く(・・・)なれたのです。

 魔性奴變(スレイヴライズ)を使うまでもなく、私のお願い──たとえば御堂のコーヒーに睡眠薬を仕込むとか──を悦んで聞いてくださるくらいに。

 

 しかも魔力はすっかり充填されています。

 

 ──ええ、三人ぶんですから。

 

 そうして準備室(いまここ)に至る、というわけです。

 

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