タクティカル祓魔師二次創作 森塚梢の事件簿   作:泉 とも

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・祓魔師予備軍

 東京都と神奈川県の都県境に、とある学校がある。その名も県立東京慈愛学園。東京とは名ばかりの神奈川県校である。

 

 教育現場の崩壊と少子化により廃校寸前の学び舎だが、行政の腐敗と汚職に目を付けらたことで存続している。

 

東京の住民が越境入学することで、都は神奈川に教育行政の予算の一部を、支払わねばならないのだ。その金を県のやんごとなき人、所謂『上級国民』が、悪徳NPOの活動資金として着服する。

 

「以上でホームルームを終わる。規律、礼。解散」

 

 そういう理由で存続させられた、寄生虫に襲われてゾンビ化した虫のようなこの学園は、日本最低の偏差値を誇る最悪のバカ校だった。

 

 朝と帰りの号令は担任が出す。日直などというものはいない。

 

 午前が終われば生徒は勝手にいなくなり、教師の頭数は足りておらず、しかも全員が前科持ちという有様。

 

「つーかヤバくね?」

「マジヤバい」

 

 生徒の進級率が50%を下回っており、卒業率が30%を下回っている。進学率と就職率の集計が廃止されたのはもう10年以上前の話だ。

 

「ヤバいよな」

「ヤバすぎてヤバい」

「ヤッベー!」

 

 体力に任せて調子に乗った結果、人間としての未来から転げ落ちて来た輩の集まり。

 

 単位不足と犯罪による退学者が後を絶たない。

 

「あいつらから『ヤバい』を取り上げたら喋れなくなるんじゃねえかな……」

 

 彼女はそんなバカ校に通う生徒の一人だった。

 

 長身豊満な肉体に、森を思わせる腰まである長髪。気怠るそうな目と、どこかサメを連想させる口。

 

「マジそれ」

「ウケる」

 

 似たり寄ったりの無き声を発するクラスメートに、内心で辟易しながら、その女生徒は午後の授業にも出た。

 

 彼女の名は『森塚(もりづか) 梢(こずえ)』という。

 

 この県立東京慈愛学園に通う生徒であり、予備祓魔師(ふつまし)だった。

 

「梢ちゃん進路決まったー?」

「三年で言うことじゃねえだろソレ」

 

「あーしまだ決まってなくてさー」

「その場合は受験とか進学って書くんだぞ」

 

 梢は化粧のし過ぎで年齢が二つほど下に見える同級生に助言をした。相談されたのが今の今だったので、遅きに失した内容である。

 

「あたしは受験と、一応公務員試験を受けたよ。ほらあのお化けと戦う奴」

 

「あーあのコスプレみたいなの。コンバット陰陽師だっけ?」

 

 祓魔師。それはこの世界の現世と幽世の境を超えて現れる、様々な怪異や厄災と戦う公職である。今年から18歳からでも予備役として、就職が可能になった。

 

「そうそう。何か人が足りないとかで、やたらと募集してるの。インターン? とかあるらしくてさ、学生でもなれるなら、なっとこうかなって」

 

「はー手堅い……」

 

 祓魔師の殉職率は下がったと言われているが、それでも現代日本の消防や警察と比べて殉職率は断トツで高い。

 

 そのため使い捨ての駒、もとい便利な肉壁、新しい仲間を常に求めている。

 

「昔は超能力のテストがあったらしいけど、今はそれなくてもいいんだって」

 

 装備と組織の発達に連れて、超常的な力は必要とまでは言われなくなった。

 

「マジ? あーしも受けてみよっかなー」

「そうしな。あたしそろそろ帰るわ」

 

「マジ? 今日はお仕事しないの?」

「この時期は皆お金ないじゃん」

 

 そう言って梢は名前も知らないクラスメートに別れを告げて、帰路に着く。桜舞う夕焼け空の下には、日本のスラム街が広がっていた。

 

「ただいまーっと」

 

 彼女が帰宅したのは学校からほど近い距離にある、古びた賃貸住宅(アパート)。

 

 玄関先の郵便受けには『コーポ森塚』の表札が掛けられている。

 

 そしてその賃貸から伸びた、二階建ての一画。

そこには『森塚家』の表札が掛かっていた。

 

「今月のアガリは、よしよし全員入れてる」

 

 梢は自室に入るなり、パソコンで自分の口座を確認した。入居者たちに家賃の滞納は無い。彼女はこのアパートの管理人であり、ここは彼女の祖父母が遺した財産である。

 

(やっぱこの方針は正解だった)

 

 国から遺産の総額を吹っ掛けられた彼女の両親が、相続税より贈与税のほうが軽いと、相続先を娘に変更し、その費用を負担した。

 

 名実共に梢がコーポ森塚の管理人なのである。

 

「あー、管理人ちゃーんチィーッス」

「おう夏、今日部活は?」

「へへっ今日は仕事優先♡」

 

 着替えて外に出ると、同じ学校の制服を着た女子から声を掛けられた。

 

 地方から引っ越して来て、ここに一人暮らしをしている後輩であり、名を日向(ひゅうが)夏(なつ)といった。

 

 背が小さく髪も短く刈り込んであり、まだ少年でも通じるボーイッシュな少女で、日焼けした肌と雀斑、陸上で鍛えた体が『客』から人気である。

 

「こちら、今日の彼氏さんです♡」

「ども」

「ドーモ」

 

 夏と一緒にいたのは見知らぬ男で、軽薄の二文字しかその存在に寄与していないかのような風体だった。

 

「へえ、カンリニンって名字? 変わってんね」

 

「ええ、よく言われます」

 

 男は梢の肢体を舐めるように見ていたが、身長の高さが気に入らなかったのか、獲物にはしなかった。

 

「じゃ、おつとめがんばって」

「はーい!」

 

 夏は悪戯っ子のような笑みを浮かべると、男と腕を組んで自室へと入って行った。

 

 防音はしっかりしているが、その中では程無くして、嬌声が上がることだろう。

 

「あ、梢ちゃんお帰り」

「橘さん、ただいま」

 

 今度は別の入居者から声を掛けられる。どこにでもいそうな春先の女子大生で、名前を『橘 あすみ』といった。

 

 隣には逞しい黒人男性がおり、カメラマンがいれば、今にも撮影が始まりそうな雰囲気だった。

 

「ドーモ」

「ども」

 

 あすみは男を連れて部屋へと戻った。コーポ森塚は言わば売春宿であり、二つの意味で穴場だった。

 

 違法だが罰則のないこの犯罪に目を付けた彼女は、その辺の訳ありな上玉を囲っては、住まわせているのだ。

 

「それじゃおつとめ、頑張って」

「はい、また今度」

 

 

 梢はそれを見送ると、敷地内の掃除と見回りを始める。

 

 使用済みの避妊具などは可愛いモノで、芝生に煙草のポイ捨てや、何かの薬物らしき物が見つかれば、警察を呼ぶ必要がある。

 

(呼ばれる前に呼ばないといけないのが癪よね)

 

 ざっと見回し、ポイ捨てされた空き缶を回収し、周辺に不審者がいないかを確認する。

 

 次に表札の下に倒れていた、小汚い看板を起こす。

 

 看板にはそれぞれ『資金政治団体 寝来(ねごろ)会』『宗教法人 寝来(ねごろ)会』とあり、アパートには『宿房』の札が掛けられている。

 

「今日は異常ナシ。後は……ん?」

 

 独り言を呟いて彼女は自室へ戻った。アパートと繋がり、非常口で隔てられた管理人室が、彼女の家だった。

 

 元を正せば寺(墓)と神社の寄り合いのような一族だったが、明治維新の狼藉や、戦時の混迷により破壊されたのが森塚家である。

 

 国からの補償の類は一切無く、権利のみが保留となり、知らない者にはその辺の一般人と変わらない。

 

「神奈川県境界対策課、出動依頼のメール? スパムか?」

 

 スマホに届いたのは、書類提出で予備役に受かったばかりの、政府機関からの呼び出しだった。

 

 どうやら自分だけではなく、全体への招集らしかった。

 

「この間受け取った資料には何て書いてあったっけ」

 

 駅前で見かけた募集に応募した際、選考も無しに届いた合格通知と説明資料。

 

 そこには。

 

 ※内容はまだ検討中ですが予備祓魔師の活用する制度を予定しております。内容が決まり次第順次告知させて頂きます。

 

 出動の案件や交通費の支給等には一切触れていない。

 

「今日あたし客いないんだよねえ。どうしよっかなあ」

 

 梢は他のメッセージに目を通しながら、今後の予定を考えた。

 

(話の種にはなるかもだけど)

 

 男と女が所帯を持っただけで、無知無教養の官憲に淫祀邪教のレッテル貼られた戦前。

 

 敗戦した国家により荒廃し、破壊されてろくに賠償もされなかった戦後。

 

 森塚家は国に着せられた汚名をしっかりと守り、怨みを忘れずにいた。

 

「取り敢えず、電話してみようか」

 

 梢はこの出動内容について、支給される金銭や今後の就職への影響を、相談用の連絡窓口へと、問い合わせることにした。

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