デク-1.0   作:今日は晴れ

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 制作経緯

 へー、ジャンプラでヒロアカ無料かー読んでみよう→おもしれぇ・・・→でも、デク君だったら、もっと曇らせてもいけるな・・・→曇らせよう!!!(この間僅か三秒)



第一話 緑谷出久:ペルソナ

 

 爆豪勝己は超常社会においての勝ち組だった。

 

 人類の八割が何かしらの異能――「個性」を持つ社会において、爆破という強力な個性を持ち、地頭も良く、人の形を持っている。そして、努力を惜しまない完璧主義者、ただ、性格が粗暴と、欠点があったが、それでも将来を約束された存在だった。

 

 そんな彼には、幼少期に自分をいらだたせる存在がいた。

 

 家がそばで家族ぐるみの付き合いがあり、幼稚園のクラスも同じ、ただ、彼よりも体格が悪く、そして何よりも、超常社会にて致命的な欠陥――個性を持たない無個性の幼なじみがいた。

 

 爆豪勝己は彼より何事も勝っていた。何事でも、彼は負けていた。

 

 誰もが味わうだろう、幼少期の勝利者(肯定)敗北者(挫折)

 

 ただ、爆豪は、彼がずっとそばにいると思っていた。自分のそばには彼がいる、と。

 

 しかし、現実はそうではなく、彼は爆豪勝己が5歳の時に引っ越して、それ以来あっていない。

 よくありふれた話であるのに、爆豪には裏切られた、との思いがあった。

 それが、爆豪勝己が5歳にして味わった、最初の挫折だった。

 

 ☆

 

 「えー、お前らも三年ということで」

 

 教壇の教師が進路志望の紙を手にし、口にする。

 

 「……だいたいヒーロー科志望だよね」

 

 クラスメイトたちが個性を使ってそれに応え、歓声を上げた。

 

 まるで人生最大規模の祭りのように。それもそのはずだ。この超常社会において、個性の使用を許されるのはヒーローのみ。

 

 故に、全ての人間はヒーロー科のある高校を志望する。これが、最初の関門なのだから、皆、テンションが上がる。

 

 それを、冷めた目でみるのは一人だけ。机の上に脚をのせ、態度の悪い男――爆豪勝己だ。

 

 「爆豪は雄英高志望だったな」

 

 それに勝己はおう、とだけ応じる。

 

 雄英高校……偏差値は最高であり、個性も勉学も体力も精神も全てが優れた者のみが入学を許される最高峰のヒーローの養成校である。

 

 周りはざわつくが、彼からすればモブがなにか囀ってやがる程度の認識だった。

 

 そんな時、閉まっていた扉がノックされる。

 

 『あのー、もういいですか?』

 

 「あ、忘れてた」

 

 

 担任教師が頭を手を叩いて思い出した。

 クラスメイトがずっこけた。

 

 「すまん、すまん、入って良いぞ」

 

 失礼します、といって一礼してくるのは、一人の冴えない少年だった。

 

 鳥の巣のように縮れた髪型に、そばかすが目立つ顔立ち、貼り付けたような笑みを浮かべる一人の少年。だが、クラスメイトたちは先ほどまでの喧噪が嘘のように、少年にざわつかせる。

 

 どこにでもいる冴えない風貌の少年。だが、彼が背負っている物が問題だった。

 

 布を何重にも巻き付き、ベルトで駐められたそれは、巨大な、少年よりも大きな十字架だった。

 

 しかし、少年は意に介さず、黒板に自分の名前を書く。

 

 「えっと、福岡から転校してきました緑谷出久です。デクって気軽に呼んでください」

 

 頭を下げる少年に、担任すらも困惑していた。デクって、どんだけ自己評価低いの? そんな思いが全員に湧き上がる。

 

 「あー、出久くんはご家庭の都合で転校してきた、三年だけど今日からみんなのクラスの仲間だ、仲良くするように」

 

 担任の説明に、まばらな拍手が続くが、クラスメイトの視線は彼の後ろに固定されている。

 

 その巨大な十字架はなんだ? といった疑問の視線だった。

 

 出久は少し困ったように笑い、

 

 「すみません、気になりますよね。この子は僕の個性に関係して、この子がないと困ったことになっちゃうんです。気にはしないで、って無理だから、ご迷惑をおかけします」

 

 その補足説明で、やっとクラスメイトは合点がいったようだった。

 

 超常社会において、本人の意思でオフとオンができない常時発動型では、本人や周りを傷つける可能性もある。そういった個性では、抑制するための道具が許されている。

 

 十字架で抑える個性って吸血鬼かな? といった推測を述べる生徒もいたが、出久がクラスの一番後ろの空いていた席に座ると、彼はいつもそうであるかのように目立たなくなる。

 

 「カツキ、変わったやつがきたな……カツキ?」

 

 爆豪とよく連む男子が爆豪に話しかけるが、その様子がいつもと違うことに気がつく。

 

 いつもであれば、けっ! とつばを吐いて、どんなやつが来ても所詮は没個性! などと傍若無人な発言をする爆豪が、静かだったからだ。

 

 その目は見開かれている。もう誰も気にしない、気にもとめないはずの転校生を、彼は食い入るように見ていた。

 

 ☆

 

 チャイムが鳴る。

 

 今日の授業は全て終わった知らせであり、クラスメイトたちはみんな足早に出て行った。

 

 「なー、カツキ、今日はカラオケにいか……」

 

 ただ、その視線の先に、爆豪はいない。

 

 爆豪はクラスの一番後ろ、十字架を背負った転校生、緑谷出久の前にいた。

 

 「久しぶりだな、クソデクゥ!」

 

 爆豪の声が響いた。転校生の前に、凶悪な、敵のような笑顔を浮かべる爆豪。

 

 爆豪は普段、他人に絡まない。それが、彼を捕らえていた。

 

 知り合いだったのか、と何人かは爆豪の態度に合点がいったが、それに、出久が困ったように笑って、

 

 「――ごめんなさい、貴方を覚えてないです」

 

 爆豪の笑みは凍り付いた。

 

 ☆

 

 「俺を忘れてんじゃねえぞ! クソナード!!!」

 

 出久の机が爆ぜる。

 

 爆豪の個性、爆破が使われたのだ。誰か、先生を呼べ、といったことをクラスメイトはわかっていたが、体が動かない。

 

 個性使用は禁止である。それを無視して普段から爆豪は使用しそうなものだが、彼は性格は悪いが、真面目で、個性を使うのは相当キレてる時のみ。つまり、今がそのときだ。

 

 大抵の者なら、爆豪の凶悪な顔と派手で殺傷力のある個性におののくだろう。しかし、出久は涼しい顔のまま、困ったように頬をかくだけだった。

 

 「すみません、僕、いろいろとあって、昔の記憶が曖昧で、貴方を思い出したいんですけど……ごめんなさい」

 

 出久は立ち上がり、頭を下げる。出久は誠実な態度そのものだった。

 

 

 

 

 だが、それが逆に爆豪勝己の逆鱗に触れた!

 

 

 

 

 「大体、てめー如きが生意気なんだ!! 無個性のデクが個性発現してんじゃねぇ!!」

 

 爆豪は怒りに駆られたまま、出久の背負っていた十字架、の布を爆破するつもりで手を伸ばした。

 

 だが、爆豪の手が十字架に触れる、まさにその瞬間、爆豪の世界は回転し、背中から衝撃が伝わり、肺の空気を押し出して悲鳴が上がる。

 

 爆豪にはわからないことだったが、周りの生徒は見ていた。

 

 爆豪の手を持った出久は一瞬で爆豪を投げ飛ばし、爆豪は背中から落下した。

 

 

 「彼女に触るなッ!!!」

 

 

 

 これまで物静かで、授業中も、休み時間にクラスメイトが殺到したときも、静かだった出久の憤怒の表情と、怒声が響き渡る。

 

 だが、一瞬で我に返った出久は、

 

 「あ、あ、ご、ごめん。この子に触れられると本当に困るんだ、その、ごめんなさい!」

 

 そういって、逃げるように教室を出久は出て行く。

 あとには、動きが止まったままのクラスメイトと、いまだに痛みにあえぐ爆豪が残された。

 

 

 ☆

 

 薄暗い地下道を、十字架と学生鞄を背負った出久は歩いていた。

 

 手にはスマホを持ち、誰かと通話していた。

 

 「あ、啓悟さん、お疲れ様です。129です」

 

 親しげな、どこか楽しげな声だった。

 

 到底、クラスで無機質な対応をしていたとは思えない出久の声。

 

 「……わかります? えぇ、ちょっとしたトラブルで、その対応を――」

 

 そのとき、彼の背後のマンホールから、ヘドロがしみ出して、形を、人型を形成した。

 

 『Mサイズの隠れミノ』

 

 はぁはぁとその呼吸音が木霊する。

 超常社会において、その個性を悪用して私用する犯罪者、敵であった。

 

 ヘドロのヴィランは、他者の体を乗っ取り、悪さを働く。今、天敵に襲われていた彼は、手っ取り早く隠れる場所を探して、幸運なことに一人で歩く出久を見つけた。

 

 『いっただきまー……』

 

 奇しくも、先ほど出久に害をなそうとした爆豪勝己と、このヴィランは同じ末路を辿った。

 

 世界が回転し、何をされたのか気がつかないままに、彼の意識は刈り取られた。

 

 ただ、意識を手放す前に、ヘドロヴィランは、

 

 〈……誰? 出久くんに手を出そうっていうのは?〉

 

 地獄の悪鬼のような、童女の声を聞いた。

 

 ☆

 

 「よし、これでいいな、追われている様子だったし、あとはヒーローか警察が来るまでに……」

 

 ブツブツと呟きながら、出久は一仕事を終えた。

 目の前には、出久に襲いかかったヘドロヴィランが、特殊な、冷凍機能付きの袋に収納されていた。

 

 あとは、どうするかを考えていた時、

 

 「もう大丈夫だ、少年!」

 

 ヘドロヴィランがやってきたマンホールの蓋が勢いよく跳ね上がる。

 そこからやってきたのは、一人の男、よく鍛えられた筋肉でTシャツがパツパツになっている金髪の男だった。

 

 「私が来たっ! …………って、あれ? 終わってるどころか事後処理も完璧!?」

 

 締まらない登場になったが、出久は内心、地元のヒーローが早かったか、とため息をつき振り返るが、その下がりに下がったテンションは、その男を見たとき、出久は、目を見開く。

 

 「お、オールマイト……」

 

 忘れるわけがない、忘れてはいけない男、ナンバーワンヒーロー、日本のトップヒーローである男、オールマイトがそこにいた。

 

 ☆

 

 「すまないね! 私が取り逃がしてしまった敵退治に巻き込んでしまったどころか事後処理までやってくれて! あとは私が警察に引き渡すから安心してくれたまえ!」

 

 HAHAHA!! と豪快に笑うオールマイトに、出久もはにかみながら、

 

 「い、いえ、市民として当然のことをしたまでです。あ、すみません、その袋、何度も使用してるので、ちょっと脆くなってるかも、お気をつけて」

 

 ヘドロヴィランが詰まった冷凍機能付きの袋をオールマイトに渡した。

 

 「しかし、正当防衛とはいえ、個性を使わせてしまったのは申し訳ない! あとで、怒られることになったら私を呼びたまえ! 私が釈明して――」

 

 「あ、ご心配なく」

 

 オールマイトの説明を出久は遮る。

 

 「僕、無個性ですから……」

 

 困ったように、自虐するかのように出久は笑った。

 

 「え!? 無個性で倒しちゃったの?」

 

 これには、オールマイトも素の声がでた。

 

 「え、えぇ、まぁ、その、くるくるーってやったら目を回してくれました」

 

 出久は目を泳がせ、トンボを捕まえるような、指先で螺旋を描く仕草を見せる。嘘がつけない子だとオールマイトは思いながらも、

 

 「――……そういうことにしておくよ、とにかく、助かった、ありがとう!」

 

 そういって、オールマイトは右手を差し出した。

 ナンバーワンヒーローとしてオールマイトは自惚れているわけではないが、大抵の子供はオールマイトと握手ができれば、それだけで喜んでくれる。そんなつもりで、右手を差し出したのだ。

 

 大抵の子供で、あれば、だが。

 

 出久はその手を、ゆっくりと自分の手を伸ばして掴もうとする。そして、オールマイトに触れようとしたとき、びくりと出久は体を震わせた。

 汗が噴き出し、出久は手を引っ込める。

 

 「しょ、少年、大丈夫かい?」

 

 

 オールマイトは出久を案じながら、そのときだった。オールマイトの体から、煙が上がる。それは、もう時間が少ないとの合図であり、オールマイトには焦りが生じるが、それよりも、目の前の少年が心配になったのだ。

 よくみれば、少年の、出久の手は、まめと傷だらけの、ぼろぼろになった手であった。荒事が多いヒーローになって、多くの同僚をみていたオールマイトだからこそ、その手の異常性に気づける。腕を大きく切り裂くような傷もあった。

 ヘドロヴィランに傷つけられた物ではない、古傷ばかりだが、病院につれていくべきかオールマイトは思案するが、

 

 「だ、大丈夫ですよ! それよりも、時間がないんじゃないですか! ナンバーワンヒーローはお忙しいですし!」

 

 出久は無理矢理笑ってオールマイトを急かした。

 

 後ろ髪を引かれる思いながら、お互いに別れた方がいい、そう考えて、脚に力を込める。

 

 跳躍するときだった。

 

 「オールマイト!」

 

 出久から、声をかけられた。

 彼は大粒の汗を流し、呼吸を荒くしながらも右手を振り上げる、オールマイトのポーズを取って、

 

 「応援してます!」

 

 精一杯の笑顔で、そう叫んだ。

 

 「ありがとう!」

 

 オールマイトも最大の笑みを浮かべて、跳躍し、いなくなった。

 あとには、出久と十字架のみが残された。

 

 

 ☆

 

 

 商店街を、一人、出久は歩く。

 じっと、自分の手を見ていた。

 オールマイトが握手をしてくれようとしたのに、その好意を無碍にする行いをした自分に自己嫌悪が止まらなかった。

 自分の、傷だらけの両手をみる。

 

 この手が、オールマイトの、輝かしい、自分には後光が差しているように思える手に触れようとしたとき、自分の両手が真っ赤に染まって見えた。

 誰かの血で、濡れそぼった、汚らわしい両手。

 これが、オールマイトに触れること自体、自分の純粋だった過去すらも否定するようで、無碍にしてしまった。

 

 無論、幻覚だとわかっている。そんな両手だったら、こんなに人通りの多い場所を通れば、通報されているが、誰もが出久を気にしない。

 

 わかっていることだった。わかっていることなのに、出久はオールマイトの手を取れなかった。そんな自分に嫌気がするし、何よりも、オールマイトは触れられないのに、あの人なら平気で触れられるのが、あの人を、自分たちを案じてくれるあの人を、自分と同格に思っているかのようで、嫌になる。

 

 そんなとき、人集りができているのを見つける。

 今朝、登校するときのように敵が暴れているのか、とも考えたが、そのときとは様子が違う。

 破壊音も爆破音もするのに、今朝とは違って、ヒーローたちは右往左往するだけだった。

 

 

 その視線の先には、さきほど捕まえたはずのヘドロヴィラン、そして、ヘドロの囚われているのは、彼女に触れようとした、クラスメイトの少年だった。

 

 (あ、やっぱり捕らえた人間の個性も使えるのか)

 

 出久は冷静にヘドロヴィランを見ていた。自分が襲われたとき、爆破の個性はなかった。仮に爆破の個性があって奇襲を受ければ、『彼女』が直前で気づいていても、苦戦していたかも知れない。

 

 ただ、オールマイトほどのヒーローの元からあんな小物も甚だしい、裏で出会っていたなら、一瞬で討伐していたヴィランが逃げおおせたか疑問だが、袋が脆くなっていたことを思い出す。そして、それを持っていたオールマイトの跳躍力を考えると、あの飛び去ったときの衝撃に耐えきれなかったのだろう。

 

 一端は自分の責任だと思いつつも、これ以上は表の仕事、この世界で、裏方である自分にできることはない。

 

 ここは早く去ろう、そう歩き出したとき、捕らえられている少年と、目が合った。

 両目に涙を堪え、呼吸を制限されているのか、苦しんでいる少年。

 

 『たすけて・・・・・・』『娘だけは見逃してっ!』『なんで俺がこんな目に・・・・・・』『お願いします! お願いします!! お願いします!!!』『死にたく、な・・・・・・い』

 

 出久の脳裏に、何人もの顔が呼び起こされる。いままで、自分に命乞いする連中がよく見せていた表情であり、見慣れている顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――あぁ、そっか、『かっちゃん』だ。

 

 

 

 

 

 

 最初に住んでいた家が近くで、爆破の個性を持っていたいじめっ子。自分と『彼女』が出会うきっかけを作ったのが、かっちゃんだった。

 

 出久は走り出していた。

 

 群衆の間を駆け抜け、二の足を踏むヒーローたちを押しのけ、通学鞄を放り投げる。

 

 ヒーローたちが戻れ、や、何を考えているのか、といった怒声が響く。何をしているのか、と、周りからかけられる案ずる声に、そうか、今、自分は案じられている立場なのか、と人ごとのように思いながら、背負っていた十字架を、『彼女』を解放するアタッチメントに手をかける。

 

 

 

 ――――会長、怒るだろうなぁ。

 

 一瞬、後始末の面倒さを考えると、気の迷いです、と回れ右をしてそのまま行方をくらませたいが、ただ、もう『彼女』を解放するアタッチメントのボタンを押したあとだった。

 

 

 「珠雨華(じゅうか)ちゃん、おはよ!」

 

 

 〈おはよう、出久ちゃん〉

 

 

 どこからともなく、幼子の女児の声がした。

 

 

 拘束されていたベルトが出久に絡みつく、十字架を守っていた布が、出久の服となる。

 

 露わになった十字架は、大理石でできているかのように、聖者の墓標のように、夕日に照らされながらも、白く輝く、無垢を象徴するような十字架だった。

 

 

 

 代わりに、それを背負う出久は、ボロボロの布きれと、体を縛り付けるベルトが全身に絡みつき、まるで、凄惨な拷問を受けた罪人のように、灰色のフードで頭を隠し、灰色のマントをなびかせる。

 

 出久は露わになった白い十字架、中心部分の髑髏を模した()()を掴むと、十字架の足側が左右にスライドし、そこから覗かせるのは穴の開いた金属製の筒――銃身だった。

 

 出久は十字架の左右のアームに手にかけ、押し込めると、足側の間の銃身が回転し、銃身は白い銃身に、銃口付近に、小さな回転刃のような物が現れ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カカカカカカカカカカカカッッッッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りにけたたましい音が響き、回転刃が回って火花が散り、銃口から、巨大な火が立ち上がる。

 

 瞬時、周りの温度が急上昇し、群衆とヒーローたちは予期せぬ展開に戸惑うだけだった。

 

 ただ、群衆に紛れた一人の男を除いて。

 

 「や、やめ――」

 

 ヘドロヴィランは火に弱く、何をするのか察したのか、触腕を出久に向けるが、空中にまき散らすように放った炎が泥を乾かし、届かない。

 

 その炎の銃口を、出久はヘドロヴィランに、囚われている爆豪にも向けようとし、

 

 爆豪は見た。

 

 フードの間から覗く、出久の顔を。

 

 

 どこまでも、無表情だった。

 表情がそぎ落とされた、自分と同じ年頃の少年。

 

 

 だが、その瞳には、何も映っていない。

 その眼球には薄膜が貼り付けられているかのように、その瞳に、爆豪は映っているのに、見ていない。

 

 爆豪は14年の人生で、最大の寒気に襲われる。

 

 

 『た、たすけて・・・・・・』

 

 命の危機に、人は動きをゆっくりと見させるという。

 

 

 爆豪は、その銃口が、ヘドロに包まれた自分に向けられ、握る銃把に力が伝達し、

 

 

 

 「DETROIT・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 ヘドロに囚われた爆豪と十字架を構える出久、二人の間に、巨軀が割り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「SMASH!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼――オールマイトの放った一撃は、爆豪にまとわりついていたヘドロを飛散させた。

 

 

 

 ☆ 

 

 

 ヘドロヴィランは見事、オールマイトの必殺技で倒され、一件落着となった。

 

 その後の話として、出久はものすごくヒーローたちから怒られたが、出久があるカードを見せれば、ヒーローたちは気まずそうに別れていった。

 

 爆豪は賞賛されたが、そんなヒーローたちの賞賛よりも、気になるのは出久――デクだった。

 

 オールマイトの一撃で発生した雨に打たれながら、爆豪はデクの十字架を見ていた。

 

 

 

 白い、白い、芸術品のような十字架を、爆豪はやっと思い出した。

 

 幼少期、出久が生意気にも刃向かってきたから、周りの子供と一緒に憂さ晴らしをしていた、そんな時、

 

 『「やめなさいっ!」』

 

 自分たちにたてついたもう一人の子供、そして、その日から出久が個性を持った一年間を。

 

  

 

 ☆

 

 

 

 「はい、すみません。ご迷惑をおかけしました。えぇ、こんなことは二度と起こしません。はい、失礼します」

 

 出久は再び、電話をしていた。しかし、地下道とは違って、ずっと頭を下げ、感情を殺した声だった。

 

 〈だいじょうぶ? 出久ちゃん?〉

 

 ただ、出久は一人じゃなかった。

 学生鞄を背負い、片手にはスマホ、もう片手にはつながる手があった。

 

 その手は柔らかく、そして短く、出久の半分しか長さがない。

 だから、出久は少し縮こまって歩いていた。

 

 五歳くらいの、女の子と出久は歩いていた。

 

 幼少期の子供はみな可愛らしいが、その子はとりわけ整っていた。

 青い髪に白いメッシュが入り、凜々しい顔立ちの美童女だった。

 

 童女は出久を心配そうにのぞき込んでいたが、スマホで通話が終わった出久はスマホをしまうと、

 大丈夫、と笑いかける。

 

 出久と童女は、夕暮れの道を歩く。

 

 〈どうだった? がっこう、たのしい?〉

 

 「まぁまぁ、かな? そうそう、かっちゃんがいたね」

 

 〈かっちゃん?〉

 

 「さっき囚われてた子」

 

 〈あぁ、あの出久ちゃんを馬鹿にした子ね! 大体、れでぃの胸をいきなり触ろうとするなんて失礼千万よ!〉

 

 彼女は怒り気味だった。

 出久は困ったように笑う。

 

 そこに、一人の男が姿を見せた。

 

 痩せ細った、枯れ木のような男だ。

 

 出久を守るように童女が、立ち塞がる。

 

 童女の姿はやがて、ゆっくりと消えた。

 

 代わりに、いままで出久が背負っていなかったはずの十字架を背負っていた。

 

 

 

 「…………こんにちは、オールマイト」

 

 出久は、その顔をみて、わかってしまった。

 とても筋肉で溢れている男と、目の前の枯れ木のような男が同一人物だと思わないだろうが、その男の手には、一枚のプリントアウトされた紙をみて、逃げられないと悟った。

 

 「少年、君は――それに、その子は……」

 

 その紙には、先ほど出久がヒーローたちに見せたカード、プロヒーロー仮免許の資格証のコピーが印刷されていた。

 男はしばらく悩んでいたが、やがて意を決したように、

 

 「単刀直入にいうよ、君、ヘドロを、ヘドロに捕まっていた子ごと、焼き払おうとしたね」

 

 

 「大丈夫です。オールマイトはご存じないでしょうが、かっちゃ、あの子の個性は爆破ですから、ある程度の熱波に強いと確信しての――「そういうことじゃない!」

 

 

 男の、オールマイトの叫びが響き渡る。

 

 オールマイトは咳き込み、それでも呼吸を元に戻すと、今度は落ち着いた口調で、

 

 「君は、()()()()()()()()()()()?」

 

 オールマイトは、日本の、世界のヒーローたちの頂点に君臨する男は糾弾するように問いかける。

 その問いかけは、間違いであって欲しかった。自分の思い過ごしであって欲しかった。

 

 ただ、これが事実であれば、最初から感じていた、地下道でヘドロヴィランをこの少年が捕まえていたときから感じていた違和感、処理に手慣れて、捕らえた道具は使い古されていた、日常的に使っていたことに対しての、疑問があっさりと解消される。

 

 少年は、緑谷出久は、困ったように微笑する。

 

 それが、千の言葉よりも何よりも雄弁な回答だった。

 

 「少年、君は――」

 

 何者だ、その誰何の言葉は、続かない。

 もう一人の乱入者が現れたからだ。

 

 

 

 「おい、てめぇ!」

 

 オールマイトの言葉は遮られた。

 

 二人の背後から、現れるのは、爆豪勝己。

 やっと、現場検証が終わって解放されたのだ。

 

 よほど急いだのだろう。

 体中から汗を流し、学ランの上着を脱いで、走って、ようやく追いついた様子だった。

 

 オールマイトが今の姿を見られるのはまずいと思いはしたものの、爆豪は目の前の男がオールマイトだと気がつかない。爆豪は、本来であれば、出久に助けはいらなかった、見下したつもりか、などと怒声を叫び続けるだろう。それが本来の物語だった。しかし、そうはならなかった。

 

 

 爆豪はオールマイトを無視した。

 出久に駆け寄り、胸ぐらを掴む。

 

 「やぁ、かっちゃん、さっきぶり。もうだいじょう「誰だ!てめぇは!?」

 

 爆豪は叫ぶ。

 

 「誰って、緑谷出久だよ、君と五歳の時まで一緒にいた「ちげぇよ!!」

 

 出久の答えに、爆豪は瞬時に否定する。

 

 「あいつは、クソデクはのろまで、馬鹿で、無個性だったが、てめぇみたいなやつじゃなかった! お前は誰だ!? なんでデクを名乗ってやがる! 答えやがれ!」

 

 右手で出久の胸ぐらを掴み、左手は爆破の個性を使って掌から爆音と閃光を輝かせながらの脅迫じみた質問に、オールマイトは爆豪を止めようとするが、爆豪の表情は、真剣そのものだった。

 

 

 「うちの子に、何してンだ、あんたら」

 

 その詰問に対して、この場に、四人目の声が響いた。

 

 爆豪とオールマイトの背後から、出久の正面から響いた声に、出久はその顔を、その顔を見たとき、思わず、出久は呟いた。

 

 「母さん……」

 

 この言葉は、過去を知っている爆豪と、プロヒーローであるオールマイトが母を見れば、まずい、と思いつつも、もう既に出久は言葉を紡いでしまっていた。

 

 そして、その懸念通りになる。

 

 爆豪は久しぶりに会う初恋の女性、オールマイトは彼の教育者をみるために振り返り、

 

 

 「誰だ、あんた……?」

 

 爆豪は、呆然と呟いた。

 

 その女性は、二十代にしかみえない美貌を持ち、青い髪にところどころ、桃色に変色している長髪の女性だった。

 手には、買い物籠を持ち、野菜を覗かせている。ジーパンにTシャツ姿のラフな格好な、買い物帰りで、どこにでもいる主婦の姿だった。

 

 

 

 

 爆豪の記憶にある出久の母親・引子とは似ても似つかない、別人だった。

 

 

 

 オールマイトも呆然としていたのは、同じだった。だが、爆豪とは正反対、その女性と面識があったからだった。

 その女性の名前を、オールマイトは口にする。

 

 「レディ・ナガン……」

 

 オールマイトの掴んでいた出久の仮免許証のコピーには、公安委員会直属の特例を示す、特の印字があった。

 

 

 

 

 

 

 

 これは、超常社会の闇を背負わされた子供(緑谷出久)が、「負」(マイナス) からヒーローになるまでの物語。

  




 



 この二次創作の概要を話した職場の同僚からのありがたいお言葉「人の心とかないんか?」
 
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