「二人とも個性が
運転席で車を操縦する飯田天晴――インゲニウムは後部座席の二人、緑谷出久、青山優雅に話しかけた。
二人を出迎えた東京駅のそばに駐めておいたワンボックスカーで、インゲニウムの事務所『チームIDATEN』に向かっている最中であった。
本来、天晴がお気に入りのスポーツカーで案内しようとしたが、出久の十字架――珠雨華を乗せるのが重量的に故障必須であるため、サポートアイテムの詳細を聞いておいてよかった、と内心、天晴が安堵したのは内緒である。
「チームIDATEN、長所を活かしたワンポイント個性を適材適所に配置することで、総合力で事件解決を行うヒーローチーム、その活動実績はダントツ一位、ヒーローチームチャートでは年間トップスリー圏内、毎年表彰式を見てます!」
興奮して早口になった出久の言葉に、天晴は口角を上げた。
「あはは! ヒーローは個人、もしくは代表のヒーローに主体に合わせた
ヒーロー事務所に所属するヒーローの人数は単独、もしくは多くても数人程度が多い。単独で有名なのは、オールマイト、後者はエンデヴァーだろう。
オールマイトもかつては相棒がおり、個性を活かすためにはその個性を補うために他のヒーローを雇い入れることは珍しくない。
そういう意味では、チームIDATENは異質ともいえるだろう。
在籍するヒーローの人数は、代表である
しかも、本来、エンジンが個性であるインゲニウムに合わせて相棒が雇われ、それに特化したヒーロー事務所になるのだが、
その理由は、単独では埋もれてしまう個性をチームで補い、また活かし、それと、ヒーロー科に進学せずに没個性や弱個性だと諦めている社会人を積極的に採用、社会人ヒーローとして雇い入れていることが大きい。
地方から上京してまで、入社希望が殺到する、有名な事務所だった。
ただし、変わり者、としての風評があるのは否めない。
ヒーローの給与は歩合制だ。犯罪者の逮捕や救助活動など、申告をして、それが精査されて支払われる。
よって、逮捕や救助活動に向かない、プロヒーローの資格を取っても、滅多に活躍できないヒーローの場合、副業が許されているため、普通の会社に勤めるヒーローもいる。むしろ、そちらの方が稼げるとなって、ヒーロー活動が副業となるヒーローも少なくはない。
つまり、事件があったとして、その事件を単独で解決しても、複数人で解決しても、支払われる金額に変わりが無いのだ。
支払われる金額に差が無くても、単独と複数で分けるのでは、事情が大きく異なってくる。
確かに、多人数を雇い、分業化すれば、危険は低下し、より安全なヒーロー活動が行える。
多くのヒーローが在籍していれば、それによって、活動できる分野も広がるだろう。
だが、利益が薄い、ものすごく、薄い。
早い話が、金にならない。薄利多売ならまだ良い方で、下手をすれば自転車操業、最悪、借金を抱えて事務所の倒産、なんて話も珍しくなかった。
他の大人数でチームを組んでいるヒーロー事務所も、かなり資金繰りは厳しい。
それこそ、No.2ヒーロー、エンデヴァーが個性をサポートすることに特化させてチームを構築するのが普通なのだ。
その中で、例外的に成功しているといえるのがチームIDATENだった。
個性のみならず、サポートアイテムや、個性を使わないサポート人員を適材適所に配置して好成績を出している。
ただ、他も模倣できるか、と言われると、できない。なぜなら、代表であるインゲニウムの人徳による部分が大きいこともあった。
口さがない人々からは、烏合の衆とも呼ばれていた。
けれど、インゲニウムはトップヒーローであることは間違いない。元々ヒーローオタクであり、公安所属以降も個性社会の裏側を知りながらも、ヒーローへの憧れを捨てなかった出久は、会えたことにときめいていた。
担任の相澤の命令はしっかりと聞いていたが、それでも、目が輝いている。
天晴は除籍がかかっていると聞いていたが、出久の態度に、ヒーローを志すもののサガだと苦笑する。
そのとき、気がつく。
もう一人の同行者、青山優雅が窓の外をじっと見ていることを。
この辺りには見覚えがあった。
天晴も、忘れることができない土地だった。
「鳴羽田、来たことがあるの?」
その質問に、優雅は顔を上げて我に返ったようで、笑みを浮かべてウィンクする。
「ちょっと昔に☆」
「この辺り、三年前に大きな事件があってね、そのときに再開発が進んだから昔の面影が少ししか残ってないんだ。残念だけど……」
あとで自由時間を作るから来てみるといいよ、そう天晴は話すが、そのとき、気がつく。
優雅だけではなく、出久もこの辺りを、外を、ある場所を、優雅と同じ一点をみていたことを。
脇見運転は危険行為だと知っていたが、外を一瞬だけ、二人が見た場所を見る。少しだけ、広がった路地裏。誰も気にとめない、そんな場所。
だが、二人は真剣に、食い入るように見ていた。
だからこそ、天晴も何があったのか、思い出された。
そこは、先ほど話した大きな事件に隠れてしまったが、その少し前に、ある悲劇が起こった場所だった。
優雅が外に気を取られていなければ気がつかなかっただろうが、二人が同じ地域にきて外に、ある場所に気を取られるのがただの偶然とは、天晴には思えなかった。
☆
チームIDATENの事務所は巨大なビルである。
天晴が案内した仮眠室は、ホテルの一室のようにバスルームも全てが備わっており、ツインベットも一級品、高級ホテルかと見間違うばかりに戸惑っている二人に、
「荷物を置いたら早速だけど、ブリーフィングをしようか! 今日一日は座学なのは残念だけど、でも重要なことだよ!」
二人は活動時はこの格好と、制服からジャージに着替え、部屋を出ると、案内されて会議室に入る。
この会議室も広く、数十人が一堂に集まれる椅子とテーブルがあった。
「お! 早かったね、二人とも。早いのはいいことだ」
速さにこだわりをもつヒーローらしい天晴の言葉に、二人は思わず笑ってしまった。
アイスブレイクはできたな、と天晴は思いつつ、事務員がまとめてくれたファイルを渡した。ファイルには、職場体験の細かい日程が記載されていた。
「じゃあ、まず、今回の職場体験だけど――」
このあとは、なんてことはない一般的な話であった。
二人が一週間の間、どうやって過ごすかの日程から、職場体験の趣旨はもちろん、ヒーローの給与に関する実務的な話から、ヒーロー活動に携わるサポーターや相棒の話まで、途中休憩を挟みつつ、行う。
食事はここで、と、連れてこられた社員食堂も、立派な造りで、出された料理も美味だった。
飽きることのない一日だった。
「――というわけで、二人には明日、サポートチームの運転する車両に乗って見学してもらう。明後日から、一緒にパトロールだな」
はい、と二人の返事を聞きながら、天晴は二人を見た。
じっと、見る。
「そのことで、二人には言っておくことがある。これは、絶対に遵守して欲しい」
プロヒーローから、守れ、の言葉に、二人は襟を正し、背を伸ばした。
「もし、仮にヒーロー活動中、何か事件事故、
それは、ヒーロー志望でも、学生なら当然の話、しかし、天晴は二人が仮免許を持っていることを知っていた。それを使うな、と担任から言われていることも。
それでも、明言した。
そして、多くのヒーロー志願者はこのあとの言葉を受け入れられないということも、多くのヒーローは言葉を濁す説明を、はっきりと言い放つ。
「二人が仮免許を取得してるのは知ってる。けど、自分の命が最優先だ。例え、市民の命が脅かされても、逃げなさい」
それは、ヒーロー志願者には、誰もが最初は、反発する言葉。
「市民の命や財産が脅かされても、自分の命に危険があれば、助けなくてもいい、助けるな。自分の命を優先して欲しい。
その上で、自分の安全が確保できたら、君たちは市民の安全を守ることだ。もちろん、個性は使わずに、できる範囲で、だ」
天晴は二人を見る。
多くの学生はそれに異議を唱える。
自分たちがいる存在理由がないと言ったり、また、そんなことはできない、と言われたこともある。けれど、これは絶対だった。
「君たちは子供で、俺たちは大人だ。例え、ヒーロー志願の学生だったとしても、まだ社会に出ていない。君たちは、守られる側なんだ。
そのことで不利益があったら、世間から非難を受けたら、そのために俺が、大人たちがいる。だから、絶対に守って欲しい。
最後に自分を案じれるのは自分しかいないんだからね」
ただ、二人は無言だった。
無言の反抗かとも思ったが、二人とも、懐かしさと、少しだけ悲しげだった。
懐かしさと、そして、悲しみが混じった沈黙だった。
やがて、二人は、はい、とだけ、返した。
「まぁ、これは滅多にないことだ! だから、今日はここまで! 明日、君たちが乗車するサポートメンバーのところに挨拶にいこう! 明日は早いし忙しいぞ! 二人は除籍がかかってるし、頑張らないと!」
二人を連れ、天晴は笑ってサポートメンバーの元に案内した。
☆
サポートメンバーに挨拶を終え、天晴は夜間業務に、インゲニウムとしての活動時間になり、別れる。
昼食と同じく、社員食堂で夕食を食べ終えた二人は仮眠室に戻って、貸し出されたPCに相澤宛てにレポートを書いて提出し、就寝まで、自由時間となった。出久は珠雨華を布で磨き、優雅も机でサポートアイテムであるベルトと、そこに収納された柄を分解し、整備している。
「――……いい人、だね。天晴さん」
優雅が、ぽつりと話す。
「そうだね、みんなからも慕われてる」
サポートチームに挨拶に行ったとき、全員、フランクに接してくれた。
全員、天晴に気さくな態度だったが、それでも、しっかりと一線を守った、なれ合いではない尊敬が込められているチームだった。
「でも、なぁ……」
優雅は、思い出す。
一人の、ヒーローを。
天晴は、思い出されるヒーローと、事務所の格も、ヒーローとしても、比較にできないほど、優れている。
それでも、できることならば――
「コンパスさんのところに、職場体験にいきたかったね……」
出久は無言だった。それは、叶わない望みだと、出久も知っている。知ってはいるが、同じ思いだった。
だからこそ、出久は手を止めて、天井を見上げた。
あの言葉、天晴から、説明の最後、自分の命を優先しろと言われたとき、驚きよりも先に、懐かしくなってしまったのだ。
過去に、二人にそういったヒーローがいた。
この地に任務で訪れ、チームを組んだヒーローは、二人にそう話した。
懐かしい、言葉だった。
そして、その言葉と、優雅の望みから、思い出されるのは、昼間の、鳴羽田の町並み。
ビルは真新しく、どの店舗も活気づき、道行く人々は笑みを浮かべ、治安の良い街だった。「蛇狩り」をしていた時の、ゴーストタウンであった面影などどこにも残っていなかった、綺麗な街
3年ぶりに訪れた鳴羽田は、全てが変わっていた。
ただ、あの場所は変わってはいなかった。
どこにでもある、ビルとビルの間にできた通り道。
ただし、あそこは、あるヒーローが命を散らした場所だった。
出久と優雅が、
『迷惑じゃないかって? 迷惑だよ。でも、それでいい。君たちは子供だ。子供だったら、迷惑をかけて当然なんだ』
二人を守るために、敵わないとわかりきっていたのに、重傷を負ってもなお、強大な
ヒーロー――コンパス・キッドが眠る
二人は、無言のまま、整備を終えるとベットに入る。
ただ、無言だった。
消すね、と優雅が呟き、明かりが消えて闇が下りた。ただ、痛々しいまでの闇が、部屋を包んだ。
制作経緯
ヴィジランテ読破したし、誰か登場させたいな
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でも、流石にこれ以上は無理かぁ?
↓
EP.80を読んでいる最中「曇らせに曇らせを被せればいいんじゃね!!」(天啓)
この作品では、コンパス・キッドさんが