デク-1.0   作:今日は晴れ

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注意!

今回は他作品の微量他作品クロスオーバー要素と、オリジナル設定が多めです。
ご注意を。




第六話 AFO:プレゼント

 

 超常社会において、最も人気な職業はヒーローであることは間違いない。

 ヒーローは形式的には警察の下部組織かつ、民間の委託業者――外部組織に近い存在であるが、実質的には警察への命令、もしくは指示を出せる上位職業である。

 

 超常社会において、富、名声、そして社会的地位を持っており、ヒーローが社会の頂点だ。

 

 しかし、あまり話題にならないが、そのヒーローたちは個々人に特権を持つわけではない。当たり前だが、権利にはそれを保障する組織――国家が必須であり、国家から権利を嘱託されているのだ。

 

 その権利を付与するのは、ヒーロー公安委員会である。

 

 ヒーロー公安委員会は、まさしくヒーローたちが持つ特権を付与するにふさわしいかを、ヒーローたり得るかを試験するプロヒーロー資格試験の開催団体として知られている。

 

 だが、一般人は、それ以外で耳にすることはまずない。

 

 多くの人間は、ヒーローに興味があっても、ヒーローに資格を与える団体には関心が薄い。

 

 ヒーロー公安委員会を散文的に説明すると、与野党から選出された複数名の国会議員の委員と、ヒーロー公安委員会に所属する公安委員会長から構成されている。

 主な仕事はヒーローの管理や彼らの事務所に対する指導、また、全国各地のヒーロー養成学校への通達、など、多岐にわたる。本来、(ヴィラン)に対しての逮捕権の付与や警察などの連携などは法務省や警察庁、ヒーロー養成校は高等学校であるため、文部科学省の管轄だが、例外的に管轄が移行されているか、もしくは提携を行っている。

 

 畢竟、ヒーローが携わる業務の全てに関わっている。

 

 しかしながら、関わることが多岐にわたりすぎて、一般人どころかプロヒーローですら、何をしているのかよく分からない。世間では、公安調査庁や警察組織の公安警察などと同一視されるケースもある。

 

 元は、『個性』が『異能』と呼ばれた時代(個性黎明期)、当時の日本は国家として破綻寸前であったが、それでも己の役割に従った防衛庁非公式の()()()()()が各地の異能力者の情報収集及び鎮圧、治安維持に努め続けた。国家としての体裁を戻せるようになり、そのまま非公式の組織は公的組織に格上げされ、異能――個性の統括部門となり、また、自警団(ヴィジランテ)がヒーローとされると、個性に関わるヒーローを統括する部門として独立した、とする俗説もある。

 

 そんな組織が入るビルの前に、一人のバックを抱えたスーツ姿の男がいた。

 

 枯れ木のような細身で、春のそよ風ですら吹き飛ばされてしまうのではないかと危惧してしまうくらいに、痩身で前髪が垂れた金髪の初老の男が、ヒーロー公安委員会のビルを見上げた。

 

 「私が、来た……」

 

 男――ヒーロー名、オールマイトが鋭い眼差しで見上げながら、呟いた。

 普段からよく入るビルだ。取材対応はオールマイトの事務所で行うが、大きな事件などの記者会見を開く際はこのビルで行われる。ただし、今日はオールマイト(ヒーロー)ではなく、八木俊典(ただの個人)として、来たのだ。

 

 無論、その理由は、二人の子供と、二組の親子を助けるために。

 

 息を吸って、呼吸を整える。

 

 しかし、消化器官と肺の半分を摘出した八木にとって、痛みを伴う行為であり、咳き込みながら吐血してしまった。

 

 周りを行く人たちが、ぎょっと八木をみて駆け寄るが、大丈夫ですと告げて足早に去った。

 

 八木はビルに入ると、中は空調が効いて、内臓の半分を喪失し、発汗機能が上手く働かない身には空調が堪える。

 

 それでも、受付に向かえば、ホールに既に人がいた。否、普段は職員や、何かしらの理由があり訪れていたヒーローたちの姿があるのに、彼女たちしかいないため、閑散としていた。

 

 ホールにいたのは、黒スーツ姿の職員が二名と、四十代ほどの、八木より一回り若い中年の女性だった。

 

 「待っていました、オールマイト」

 

 女性――ヒーロー公安委員会のトップ、公安委員長である。

 八木は彼女に握手を求めることはしない。ただ、淡々と頭を下げた。

 

 「今日は、オールマイトではなく、八木と、八木俊典としての訪問です」

 

 八木が告げると、委員長はそう、と口を開き、

 

 「では、()()()()()()、八木俊典さん」

 

 オールマイトは委員長に、何度も会っている。

 だが、トゥルーフォーム(この姿)で会うのは初めてだった。また、八木俊典として訪れたのも。

 

 この姿のことを公安には打ち明けているから、知っているのは当然だと分かりつつも、委員長に従う職員たちの表情に驚きはなかった。委員長がただの警護に打ち明けるのは、重要過ぎるため、警護ではなく、それなりの役職者なのだろう。

 

 「場所は用意してるわ。こちらにどうぞ」

 

 八木は案内されるままに、とある一室に入ると、そこには、ソファとテーブルが置かれた簡素な部屋だった。

 

 観葉植物の類はなく、ただ、会合するだけの機能しか用意されていない部屋だ。

 

 八木はソファに座り、委員長も対面に座る。

 二人の職員は、委員長の後ろに立って控えた。

 

 「訪問の目的は、緑谷出久、ね……」

 

 茶も出されず、席に着いた途端、委員長は切り出した。

 その通りだと、八木は頷いた。

 

 「えぇ、緑谷出久少年の件です。単刀直入に言います。この子を、公安から解放して欲しい」

 

 「却下よ」

 

 だが、一瞬の間を置かずに、委員長は否定する。

 

 「なぜなら、あの子はヒーローに――」「ヒーローにならなくてはいけない、ヒーローにならないと、彼女、筒美珠雨華少女との約束が果たされないから」

 

 オールマイトは委員長の続きを遮って続けた。

 

 両手を合わせるように、苦悩しているように言葉を絞り出す。

 委員長は苦笑する。

 

 「流石はナンバーワンヒーロー、記憶処置を受けた職員を正確に思い出せるとは……貴方がはじめてでしょうね」

 

 「必死だからです。今も、なんとか思いだそうとしないと、忘れてしまう」

 

 事実だった。

 オールマイトはこの二週間、緑谷出久を何度か忘れかけた。

 手帳に記された名前のわきに、思い出せと強い筆圧で書かれていなければ忘れていただろう。

 それほどに、公安の記憶処置は厄介なのだ。

 

 現に、筒美火伊那の夫、筒美珠雨華の父である物種沙慈を忘却していた。

 沙慈のことを思い出すたび、オールマイトの、八木の胸が痛む。

 

 そんな八木に構わず、委員長は、ならば、細かい説明は不要、と、委員長は隣に立っていた職員からある物をテーブルに置いた。

 

 それは、仮免許――プロヒーローになるための、最初の難関。

 緑谷出久のヒーロー仮免許の原本だった。

 

 「それを踏まえて言わせてもらうけど、緑谷出久のヒーロー仮免許は本物。あの子たちが受けた試験は別会場ですけど、しっかりとした試験よ。ただ、子供ばかりだからこそ、正規の会場で試験を受験させられなかった。けれど、難易度は何一つ変わらない。その試験に合格したから、特例として発行した。それに、彼らには、法的には緊迫性や合理性も認められている。だから――」

 

 「人殺しを強要させるのですか?」

 

 部屋に、沈黙が下りた。

 

 無言のまま、オールマイトは抱えていたバッグから、封筒を取り出した。

 A4の大判封筒には、オールマイトの事務所のマークが押されて、書類を取り出す。

 

 その書類には、『事務所職員雇用』とあった。

 そこには、緑谷出久と筒美珠雨華の必要事項が書かれていた。

 

 「緑谷少年が公安を退職し、ヒーロー科の高校に合格しなかった場合、社会人試験を受けさせる準備として、私の事務所で雇用したいと考えています」

 

 あれから、緑谷出久と筒美火伊那との面会から、オールマイトは、八木俊典はずっと考えていた。

 

 どうすれば、緑谷出久はヒーローになれるのか。

 どうすれば、緑谷出久が望んだヒーローになれるのか。

 

 高等学校に入学する段階で躓くかもしれない、仮に合格しても、ヒーロー試験に落ちる可能性はある。出久の言うとおり、公安のプランに沿ってプロヒーローになるのが最短かつ最良だろう。

 しかし、その道は茨の道だ。これ以上、傷ついていく少年を見て見ぬ振りをする選択肢など、最初から八木には存在しない。

 

 そして、出した答えが、自分の事務所で、高校入学で失敗したら、事務員として雇用し、ヒーロー仮免許を持っているからこそ、年齢が達すれば、限定的な相棒(サイドキック)として雇用、ゆくゆくは、正式なヒーローとなるまで、試験を受けてもらう。それが、八木の出した答えだった。

 

 ありきたりで、凡庸な結論(答え)だろう。

 

 委員長は嘆息をついた。

 

 「貴方は数年以内に引退する可能性が高いのに、ずいぶんと身勝手ね」

 

 今度は八木が沈黙する番だった。

 八木――オールマイトは宿敵との後遺症で、本来はヒーロー活動を続けることすら困難な身だ。

 

 だからこそ、後継者を探すために来年、雄英高校に教師として赴任するつもりであったし、オールマイトの弱体化を世間に知られないように、出久が公安から派遣されたのだ。

 

 つまることろ、数年以内に引退するのは確実であり、後継者さえ見つかれば、ある程度段階を踏んで引退することは決定事項ですらあった。

 

 また、オールマイトの事務所自体は大きいが、所属する相棒のヒーローもほとんどいない。引退を決意したヒーローだと、業界の人間であればわかるだろう。

 

 そんな数年以内に、引退後の利権関係調節のためだけの事務所で新しい職員を雇う、しかも数年、下手すればそれ以上年数が掛かるヒーロー志望の職員を。

 無責任だと言われても、その通りだと頷くほかなかった。

 

 八木は答えに苦慮していると、委員長は姿勢を正した。

 

 八木を、No.1ヒーロー(オールマイト)をみた。

 

 「八木さん、貴方が救いたいのは、二人だけ?」

 

 八木は顔を上げた。

 委員長の、先ほどまで、八木を皮肉るように、見下すように笑っていたが、その笑みが消え失せた表情で、問いかける。

 

 「貴方が打倒してきた巨悪――表社会に出てくることはなく裏で悪事を画策し、無垢な人々を搾取し、徒党を組んで悪事を行う、そんな、いつものように悪など存在しない……知ってしまえば、いっそ、存在してくれればどれほどよかったと考え、呪い、後悔する。悪意など欠片もないのに、悪が作る場所よりも、生ぬるい地獄で人々が手を伸ばしていたら、どうします?」

 

 口にして、彼女は猛烈な後悔を覚える。自分は何を言っているのか、と罵倒し、彼女は、八木に首を横に振ってくれ、と願った。

 

 口にしながらも、これ以上言うな、と理性が訴えていた。

 それでも、続けてしまった、言い切ってしまった。

 

 この男に、何も知らないオールマイトに苛立ちを覚えたのは事実だ。

 

 だが、オールマイトの功績からすれば、許される、否、まだまだお釣りがくる程度のことなのだ。

 

 完全な八つ当たりだと、委員長は自身を殺したいほどの自己嫌悪が湧き上がる。

 八木俊典を、オールマイトを苦しめるな、そう、自分を糾弾する。

 

 彼はどれほど平和に貢献したのか、ヒーロー飽和社会(平和な社会)はこの男が築いた。

 救われた人間は山ほどいる。無論、救えない人間もいる。いま、口にした、委員長が話した人間の方が圧倒的少数派なのだ。

 

 その救われなかった人間がいることを、どれほど残酷なことを突きつけようとしているのか。

 

 委員長は忘れて、と言う前に、

 

 「もちろん、その人の手を掴みます」

 

 八木はいつものように、人々が安心できるように、笑った。

 笑って、断言した。

 

 「八木さん、いや、オールマイト、貴方は、やっぱり英雄ですね……」

 

 委員長は笑う。悲しげに、しかし、どこか、誇らしいような笑みで。

 

 「オールマイト、ご無礼を」

 

 委員長は立ち上がり、頭を下げた。

 

 「頭を上げてください。それに、今日の私はオールマイトではなく、八木俊典です」

 

 事実だった。オールマイトとしての来訪であれば、簡単だっただろう。

 しかし、今日はオールマイトではない。いつものように暴力で解決ができないから、この姿で来たのだ。

 

 「では、八木さん、貴方に、お話ししなければならないことがあります。緑谷出久の件、そして…………」

 

 八木をみながら、

 

 「オール・フォー・ワンの件で」

 

 その名を聞いたとき、八木は摘出したはずの胃がうずく痛みを覚えた。

 

 

 ☆

 

 

 委員長と八木は、車に揺られていた。

 

 場所を変えるとして用意された車に乗り込み、ある場所に向かっている。その行き先は知らされていないが、窓には遮光ガラスがはめられているから、場所を知られたくないのだろう。

 車内で、一通りの説明を聞いて、八木は胸を押さえた。

 

 「――オール・フォー・ワン、は、まだ生きている……?」

 

 オール・フォー・ワン(以下AFO)はオールマイトの宿敵だ。

 かつて個性黎明期から生き続け、日本社会を裏から支配した怪物。

 

 多くの人々を恐怖で支配した。

 

 ヒーロー制度が認められてからも治安が改善しなかったのは、AFOの存在が大きい。

 

 そして、オールマイトに宿る個性『ワン・フォー・オール』に固執し、歴代の所有者を殺害してきたまさに仇敵だった。

 

 そのAFOは5年前に、オールマイトが倒した。

 

 生きていないと今まで思っていた。

 

 その根拠として、()()()()()()()A()F()O()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 「いえ、正確には、AFOの個性因子が生きている。貴方の個性のように……」

 

 委員長はタブレットを見せる。

 そこには、拘束具で縛られ、虚ろな禿頭の老人が映っていた。

 

 老人はかすれ声で話す。

 

 『お、オール……ふぉ…………ワンは、ふめ…………つ…………因子が…………あ』

 

 そこで崩れ落ちた。映像は何度か途切れ途切れ、再生されるが、そのたびに老人はやつれ、老けてぼろ雑巾のようになっていった。

 目に光が無く、薬で喋らせているのは明白だった。

 

 「AFOの協力者――『医師(ドクター)』と呼ばれていた人物です」

 

 委員長が説明を加える。

 

 「ドクターは表社会ではいくつも孤児院や病院を運営する名士でしたが、AFOの協力者でした。裏では、子供や患者の死体を弄んでいた。そして、AFOの復活を企んでいました。現に、AFOの死体を持ち去ろうとしたところを確保しなければ、AFOも復活していたでしょうね」

 

 恐ろしい、と委員長は話す。

 八木は知っている。AFOの死体は地球上にはない。

 5年前、表向きは、アメリカ合衆国のNASA(アメリカ航空宇宙局)と協力し、オールマイトは宇宙に行った。オールマイト、無限の宇宙に旅つ! と銘打たれた企画だが、実際はAFOの死体を宇宙に捨てるためだった。

 

 AFOは体がある限り、利用される。

 更に、AFOは膨大な個性を収集しているため、どんな個性を持っているか未知数。奴の狡猾さを考えれば、復活される可能性もあった。

 

 故に、誰も手に届かない場所――宇宙に捨てたのだ。

 

 AFOの死体は、今も宇宙を彷徨っている

 

 輸送中に蘇っても対処できるよう、オールマイトもスペースシャトルに同行し、大けがをしながらの宇宙への旅は、オールマイトの寿命を縮めたが、間違いではなかった。

 

 宇宙空間に送り出し、見えなくなったAFOの亡骸をみた瞬間、終わった、と確信があった。

 

 「ドクターから聞き出した情報では、AFOは自身の個性因子を抽出していた。それを、いくつかの人物に授けたようです」

 

 「その一人が緑谷出久少年、だと?」

 

 あの少年の中に、因子が宿っている、もしくは、珠雨華少女の方? とも考えるが、委員長は首を横に振った。

 

 「それは、少し後にしましょう、ここで話す本筋は――」

 

 一息ついて、

 

 「AFOに、名士の協力者がいたこと、それは、医療関係のみならず、様々な団体に食い込んでいました。我々、ヒーロー公安委員会内部にも内通者が。

 

 貴方なら、分かるでしょう?

 

 先代が敗れた際、グラントリノと公安職員だった室井の提言で貴方はアメリカに逃れた。

 

 当時、日本のどこの街や組織にも、AFOの協力者が存在していた」

 

 八木は思い出す。

 先代のワン・フォー・オール継承者、志村菜奈がAFOに敗れた際、オールマイトとグラントリノ以外の援軍はなかった。

 

 ヒーロー内部にも裏切り者が、否、裏切りとすら思っていない協力者がいたのだ。

 だからこそ、ワン・フォー・オールが成熟するまで、アメリカに逃がされた。

 

 「着きました、どうぞ」

 

 そんな回想にふけっていると、車は停車した。目的地に着いた様子だった。外に下りると、鬱蒼とした森の中で、一棟のビルが建っている。

 

 委員長が前を歩き、八木も従ってビルの中に入り、息をのんだ。

 

 「これは――……」

 

 ある一室には、開けており、壁で小分けに区切られた台が置かれ、その先には人を模した的が設置されている。射撃場だ。

 別室には、コンクリートの床に丸が描かれ、雄英高校での格闘術の授業に使用する体育館に似ていた。

 他の部屋も見るが、どれも、戦闘能力を向上させるための施設だった。

 埃が僅かに積もっているが、朽ちるほどではない。数年前まで、使用された形跡があった。

 

 「無個性青少年育成センターです」

 

 忌々しげに、委員長が説明する。

 

 「元々の目的は、幼年期などに個性を持たず、人を傷つけてしまった非行少年たちへ、健全な精神を育むための施設でした」

 

 建前は理解できる。

 超常社会において、異形型差別がよく話題になるが、同じくらいに深刻な問題になるのも無個性だ。

 

 無個性であるが故に抵抗する手段を持たないと思われ、個性を使った暴力の対象になり、また、何もないからこそ差別を受ける。

 

 非行に走る無個性の子供は少なくない。他ならぬ、八木自身も無個性であったが故に、その辛さは分かる。

 

 だが、この施設は最初から優しげな目的のためとは思えなかった。

 

 「しかし、これじゃあ……」

 

 「えぇ、人を傷つけたりした無個性の児童、または無個性の孤児がこの施設に送られました。無個性であっても対抗手段を持つ、そうして、自信を身につけさせるといった、健全な精神と身体を鍛える名目で協力関係にあった委員がここを作った。

 

 ここには、主にドクターの運営する孤児院の無個性の子供を送られました。そうして、AFOの先兵を作り出した……。その中に、緑谷出久もいました」

 

 オールマイトは息をのんだ。

 

 「そ、それじゃ……」

 

 「そうです、オールマイト……」

 

 委員長は、ゆっくりと呼吸を落ち着かせ、

 

 「緑谷出久は、この施設を作った委員と約束をして、この施設に送られ、戦闘訓練を一年間たたき込まれた。そして、貴方がAFOを打倒し、協力者だった委員が逮捕されて白日の下にさらされるまでの4年間、AFOの私兵として、AFOの与える任務をこなし続けた。

 

 子供たちは記憶処置を受けさせ、また、この施設の子供たちは一般の学校にも通わせ、AFOは隠し続けた。

 

 ただ、影では公安の仕事として、人を殺し続けさせた。AFOの邪魔となる人間を、ずっと……。

 

 

 彼は、ヒーローではなく、(ヴィラン)として、人を殺し続けたんです」

 

 これ以上、残酷な事実があるだろうか。

 社会のため、ヒーローになれる、と信じて訓練を積んだ子供に対しての、最悪の報酬だ。

 

 「そして、これからが重要です。

 

 

 この施設にいた子供たちの過半数は今は、もう、いません。

 

 10歳前後に、AFOが人殺しについての一般価値観を個性で植え付けさせ、子供であるからこそ、人殺しの重さを理解できなかった子供に、罪悪感を持たせ、発狂か、自死を強要させました。

 

 緑谷出久は、その価値観を植え付けさせられ、生き延びた数少ないこの施設の生き残りです。

 

 彼は、その倫理観を与えられ、今も苦しんでいます。

 

 だからこそ、理由がいる。

 彼が、人殺しを行った理由が、従事しなければならなかった理由が。

 

 我々、公安が今も彼に従事させる理由です。

 

 そして、彼を解放もできない理由がもう一つ。

 

 緑谷出久は無個性ではありますが、AFOの因子が――……宿っている可能性がある」

 

 会長は職員からあるものを受け取る。それは、黒皮の、使い込まれて年季の入った手帳、委員長は八木に渡す。

 

 「これは、貴方の個性、ワン・フォー・オールの二代目継承者にして、ヒーロー公安委員会の前身組織……当時、解散状態にあった防衛庁情報局をまとめあげた指導者駆藤の手記です」

 

 八木がはじめて知る二代目継承者、それがなぜあるのか、と思う前に、読んでいた。

 

 そこには、彼の生まれ持った個性因子と、そして、出来損ないのような個性因子がある時を境に宿った、とする記述。

 匿っていたAFOの弟を失った日から、個性が二つ宿ったとする内容だった。

 

 当時の駆藤は分からなかったのだろう、だが、いまだからこそ、ワン・フォー・オールだと、八木には分かった。

 

 「いま、緑谷出久の体には、個性因子によって変異したものがある。筒美珠雨華が与えた個性、そして、AFOの与えた倫理観――」

 

 その先を、委員長は何が言いたいかわかるか、と、目で質問した。

 ワン・フォー・オールにできたことが、オール・フォー・ワンにできない道理はない。

 

 「ある日、AFOの因子が芽吹き、AFOそのものの人格が発現することを、我々は恐れています。

 

 AFOの因子、といいますが、それが何であるのか、見当がつかない。

 それを話す前にドクターは死亡しましたから。

 

 つまり、全てを疑わなければならない。

 

 緑谷出久のように個性の対象に使用された人間だけではなく、AFOから個性を譲渡された無個性の人間や協力者を、確認できる全ての人間を、ヒーロー公安委員会は、軟禁、もしくは我々の仕事に従事させてるかして、監視しています。

 

 

 緑谷出久だけじゃない、もっと、多くの人間が、AFO予備軍なのです」

 

 それは、プレゼント(呪い)だった。

 

 かつての、宿敵からの、最期のプレゼント(呪い)

 

 一人の少年を救おうとした八木俊典――オールマイトを待っていたのは、もっと深い絶望()だった。

 

 




 




 今回の話の要約


 オールマイト「あの子を解き放て! ヒーローになる子だぞ!」


 
 委員長「黙れ小僧! 醜いヒーロー(大人)の争いに巻き込まれ、公安に拾われた少年だ! 公安委員に騙され、人殺しを強要され、ヒーローにならなくてはいけない、哀れで不幸な、可愛い同胞だ。お前に出久が救えるか!?」
 
 
 
 
 
 


 【オリジナル設定(作者の言い訳)

 
 ・ヒーロー公安委員会組織編成……防衛庁情報局そのまま。

 
 ・ヒーロー公安委員会の前身組織が防衛庁情報局(DAIS)
 並びに駆藤さんが防衛庁情報局職員……私の趣味です

 
 ・防衛庁情報局……福井晴敏先生のDAISシリーズに登場する組織。


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