デク-1.0   作:今日は晴れ

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第七話 青山優雅:決意

 静岡県のとある地下鉄の車内は学生で溢れていた。

 普段から学生が多い路線ではなるが、学生たちは制服が統一されておらず、また、全国各地の中学校――有名私立中学から、生徒数十人以下の中学分校まで様々だった。

 それもそのはず、今日は一大イベントがあるからだ。

 

 雄英高等学校ヒーロー科一般入試である。

 

 雄英高校――様々なトップヒーローを輩出したヒーロー科の国内最高峰の高等学校で、例年の入試倍率は脅威の三百倍。

 

 その車内にて、学ランを着てそばかすに、鳥の巣のようなヘアスタイル、黄色い鞄と十字架を背負った学生――緑谷出久がいた。

 

 緑谷出久はぼんやりと、車内モニターを見ている。

 

 モニターにはニュースが流れていた。最新の(ヴィラン)退治や株価の変動、そして――

 

 『オールマイト事業団――発足から半年、経営難が続く蛇腔総合病院への支援継続発表』

 

 文字列が流れるモニターに、入院着の患者たちに囲まれて笑うオールマイトが映っていた。そんな画面をみて、少しだけ出久は表情をしかめた。

 

 緑谷出久がオールマイトと出会ってから、約8ヶ月が経とうとしていた。

 オールマイトは以前と変わらず、ヒーローを続け、ヒーローNo.1の地位を保っている。

 

 しかし、変わったこともある。オールマイトは去年、驚きの発表を行って世間を騒がせた。

 

 『私は新規事業を立ち上げ――オールマイト事業団を設立します』

 

 オールマイトがヒーロー活動やそのグッズの収益を元に、福祉事業を目的とした事業団を設立する、事務所の大半の人員をその事業団に移し、既に法人格を取得しているとの発表だった。

 また、その際にヒーロー公安委員会の特別枠として設けられているヒーロー公安委員にも兼任する、といった説明がされた。

 

 世間はこの発表を賞賛、するよりも困惑した。

 

 ヒーローにはこうした事業を行う者は既に存在していたし、オールマイトも少なからず出資していた。わざわざNo.1ヒーローが行わなくてもいい、との意見が大半であったし、利益を稼ぐことを目的とする事業主、現役で活躍するヒーロー、利権をいかようにもできるヒーロー公安委員の兼任を危ぶむ声があった。

 その危ぶむ声を強くしたのは事業内容だった。

 

 新規の施設設営を行っての運営、ではなく、五年前に理事長が()()し、経営が傾き多くの施設が封鎖、総合病院も近々廃院するのでは? と噂されていた、殻木事業団への経済支援が主な事業と発表されたのだ。

 

 傍から見れば、福祉事業ではなく、殻木事業団への買収計画に他ならない。

 

 そのため、オールマイトは拝金主義のハゲタカになった、とバッシングも相次いだ。

 

 しかし、オールマイトはそんな世間の声に笑ってめげず、方針を撤回することは無かった。

 

 当初は殻木事業団に所属する病院関係者や施設経営者からも困惑と非難の声があったが、オールマイトが行ったのは理事長が死去して以降、経営が厳しい施設への資金援助、また数少ないオールマイトの休日は、施設に訪問して入所者をケアをする宣伝や、世間への援助を集める活動に終始する。

 病院や施設の経営方針に口は出すことはなった。そもそも、理事長は生前、使途不明金が多いが、それ以上に謎の資金調達が多かったために成り立っていた、健全といえない経営よりも健全化したため、今でも困惑がありつつも、受け入れられている。

 

 癒着が不安視されたヒーロー公安委員会の委員業務も、世間の心配を余所に私情で行うことはなく、むしろ、ヒーロー公安委員会の業務の一つである、病気や怪我で引退したヒーローの再就職先の斡旋、個性によって恵まれない子供たちを、支援する病院や施設に優先的に入れて欲しいと陳情することはあっても、あくまでも委員業務から脱線することはなかった。

 

 流石はNo.1ヒーロー、と次第に賞賛の声があがる。

 バッシングに言い訳することなく、実績で黙らせたことにオールマイトの株は上がった。

 

 ただし、ヒーロー公安委員会に携わる者はその真意を理解していた。

 

 施設に再就職した引退したヒーローと紹介された大人たちは、委員会監視下で軟禁状態にあるAFOの個性因子保持の疑いがある人間であった。それは、開かれた場所で監視する、監視は続くが、環境改善のため、いかようにもできる場所にしたのだ。また、オールマイトが休日に訪れる施設は、緑谷出久のように、無個性青少年育成センターで生き延びたが、廃人と化した子供(犠牲者)たちがいる施設であった。

 

 委員の一人は、No.1ヒーローの名声と資金、そして、実績でしかなし得ない、と苦笑した。ヒーロー公安委員会が何年間も苦悩し、苦慮し、何もできなかった状態を僅か半年で改善させ、世間的にはより多くの賞賛を得たのだから。

 

 無論、オールマイト――平和の象徴になろうと努力を重ねた救世主でしか、この状態はなし得ない、と分かってはいただろう。現に、委員や職員たちは、オールマイトに感謝していた。

 

 出久も、感謝をする一人だ。

 

 緑谷出久の現状、端的に記せば、自由になった。

 

 オールマイトが面会に訪れてから二ヶ月後、ヒーロー公安委員会の委員長は出久と火伊那のマンションに訪れた。一通の命令書を携えて。

 

 委員長本人の口から、緑谷出久のヒーロー委員会の任務停止を通達される。

 

 母は、引子はどうなるのか、また、珠雨華のことは……引子と珠雨華を心配する二人に、委員長が持ってきた詳細な命令文書を渡される。

 母・引子を治癒できる個性が表れたときは優先的に治療するのは変わらずだが、4年間、公安委員会ヒーローの任務を、緊急事態以外は出久は解除される、といった命令書だった。

 

 より詳細には、高校在籍中、任務は停止されるものの、公安所属は変わらない。ただし、全国各地の高等学校ヒーロー科の卒業後(プロヒーロー試験合格の有無に関わらず)、公安に所属するか否か、本人の意思により決定する、といった内容で、ヒーロー科在籍中のインターンなどは公安が指定するが、それ以外は自由にだった。

 

 オールマイトに感謝しなさいね、委員長はそういって別れた。

 

 緑谷出久は任務がなくなった。かといって、出久と珠雨華が公安に所属している代償に、自由の身である、義母・火伊那が逮捕、タルタロスへの収監、また、出久のヒーロー仮免許が停止を危惧したが、そういったこともなく、緑谷出久は普段から、仮免許で許された範囲内でのヒーロー活動をしていた。

 

 経緯はわからない。しかし、きっかけはわかる。オールマイトが、自由にしてくれた、と出久にはわかった。

 

 ヒーロー公安委員会では末端である出久は知らないが、こうした新規事業も、オールマイトが公安に関わったから、そのきっかけは自分だと分かっていた。

 

 だからこそ、出久はオールマイトが映る画面をみて、顔をしかめた。

 

 オールマイトは数ヶ月に一度、出久の元に訪れて話をしてくれる。なんてことはない、たわいない話だ。

 

 しかし、トゥルーフォームは会うたびにやつれていた。

 

 公安から知らされた情報では、AFOとの死闘で、体が弱っている。

 そのために、痩せこけたのだ。その体に、ヒーロー活動だけではなく、ヒーロー公安委員と、事業主を兼任させているのだから。

 

 激務、なんて生やさしい表現ではすまない。

 

 マッスルフォームですら、最近は痩せてきた、とマスコミで話題に上がる。

 

 ――僕が、オールマイトに無理をさせてしまっている。

 

 この道に引きずり込んでしまった、そのことに出久は罪悪感を覚える。

 

 また、緑谷出久の罪悪感を一層、重くするのは、

 

 「ボンジュール、出久くん、()()()()()

 

 とある駅から乗車した、金髪の少年が出久の隣に立った。

 中学の制服は違うが、緑谷出久に親しげな様子だった。

 

 「おはよう、()()()

 

 出久も挨拶に応じた。

 

 少年――青山優雅――出久は知らないが、AFOから個性を譲渡された、緑谷出久と同じ、ヒーロー公安委員会の監視対象者(AFO個性因子保菌疑惑者)

 同じくヒーロー仮免許の試験を突破しながら、その名は決して表に出ない、ヒーロー公安委員会の飼い犬である子供、出久以上に人生を他人から強要されている被害者(加害者)

 

 彼と、緑谷出久は、同僚(戦友)だった。

 

 AFOから青山優雅が個性を譲渡されたために、優雅を含む家族はAFO死亡後に、協力者としてヒーロー公安委員会に拘束され、財産の全てを没収された。

 

 優雅と違って、両親はAFOから個性の譲渡や、個性の対象者になっていない、つまり、監視対象者(AFO個性因子保菌疑惑者)ではない。しかし、AFOの生前、多くの悪事を強要され、かつて、刑務所に収監されていた。

 

 青山優雅はその両親の解放を条件に、ヒーロー公安委員会に所属した。

 

 奇しくも、緑谷出久と青山優雅は、親のために受け入れた。

 

 二人は、腕時計をつけている。

 

 デザインも、機能も違うが、基板は同じであり、公安の犬である証拠。任務停止を宣言した時、委員長が持ってきた、新しい公安所属であることの証。

 腕時計はGPSを兼ねていて、公安の監視下にある。

 

 いまでも、二人が公安の犬であることに、変わりはなかった。

 

 二人の挨拶は、二言で終わり、それ以上はない。

 

 それだけで、十分だった。

 

 多くの中学生を乗せた地下鉄車両は、雄英高校を目指し、進んでいた。

 

 ☆

 

 「大きいや……」

 

 駅で優雅と別れ、十字架を、珠雨華を背負った出久は雄英高校を見上げて呟いた。

 

 ここがかの有名な雄英高校か、と感慨深く思うと同時に、本来はこの地に立つこともあり得ない、諦めていた第一歩だった。

 

 ――ありがとう、オールマイト。

 

 感謝を新たに、頑張らなくては、と決意したときだった。

 

 「どけよ、オイ」

 

 後ろを振り向けば、こちらをにらみ殺せるくらいの殺気を放った少年――爆豪勝己がいた。

 

 「おはよう、()()()()、頑張ろうね」

 

 顔を切り替える。

 表情筋は笑みに作り替え、人当たりの良さそうな笑みにして、勝己に話す。

 

 しかし、勝己はにらんだまま、無言で通り過ぎた。

 

 勝己とは、4月のヘドロヴィラン以降、疎遠なままだ。

 クラスは同じだが、ずっと会話はない。

 

 一度、体育の授業でバレーをしていた時、ボールをパスするために、かっちゃんと出久が呼んだが、その名前で呼ぶんじゃねぇと授業中にもかかわらず、勝己が爆破の個性を使った大騒動になり、教師が慌てて制止するほどの事態になった。

 

 それ以降、出久は勝己くん、と呼んでいた。

 

 ニコニコと、人当たりの良い笑みを浮かべられるのが、出久の長年鍛えた任務の成果だ。

 

 そんなわけで、歩こうと第一歩を踏み出し、

 

 「あ……」

 

 勝己のいた方向――後ろを見ながら歩き出したためにずっこけた。

 

 普段であれば、簡単に受け身を取れるが、浮遊感を出久が襲う。

 

 疑問に思っていると、そのまま直立になって立たされた。

 

 「大丈夫?」

 

 一人の茶髪の女生徒が出久に話しかけた。

 丸顔の優しそうな少女だった。

 

 「転んじゃったら縁起が悪いから、“個性”使っちゃった」

 

 女生徒はそう説明を付け加えた。

 

 「こちらこそ、前方不注意でした。ありがとうございます」

 

 出久は右手を差し出し、女生徒も握り返す。

 なるべく好印象で、と笑顔を見せる出久に、

 

 「緊張するよねぇ、お互い頑張ろう!」

 

 「えぇ、お互いに頑張りましょう」

 

 そういって別れた。

 

 可愛らしい子だったな、と思いつつ、出久は足を進める。

 

 〈……………………………………………………………………………………〉

 

 背負われた珠雨華の無言に気づかぬままに。

 

 

 ☆

 

 

 そのあと、実技試験ではプレゼント・マイクの説明が滑ったり、勝己と隣の席だったために表情は笑顔のままだが、ずっと気まずかったりを出久は経験したが、市街地戦とした実技試験――ビル街に出久はいた。

 

 持ち込みは自由とのことで、珠雨華が許されると出久はほっとしながらも――持ち込みが認められなくても格闘術で仕留める自信はあったが――背中の珠雨華を撫でた。

 

 学校以外のジャージでも許可される、と話だったから、普段、公安の訓練で使用する、黒インナーに半袖半ズボンの運動着に出久は着替えていた。

 

 『はい! スタート!』

 

 プレゼント・マイクの個性“ヴォイス”で、頭に声が響いた。

 

 出久はビル街に駆け出し、その前に仮想敵――1ポイントの機械が出現する。

 

 (珠雨華ちゃんを使うまでもない、か……)

 

 出久は飛び蹴りを放ち、1ポイントの仮想敵は沈黙する。

 

 続いて、少し大きめの2、3ポイントの仮想敵がビル街を割って現れた。

 

 (うん、珠雨華ちゃんの出番――)

 

 背中の珠雨華を前に降ろし、

 

 「珠雨華ちゃん、おはよう!」

 

 アタッチメントを押して、彼女を解放、珠雨華を包んでいる布と拘束具が出久に絡みつき、戦闘形態になる――――――――()()()()()

 

 

 アタッチメントを押したのに、珠雨華は一向に解放されない。

 

 こんな時にアタッチメントが故障!? と出久は二度三度、押したが反応がなく、出久は焦ったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈………………………………………………浮気、死すべし〉

 

 

 

 

 

 地獄の底から、悪鬼のような幼女の声が響いた。

 

 出久は、固まる。  

 

 





 今話の要約


 珠雨華「まずは金的! 次も金的! 懺悔しやがれ! コレがトドメの金的だーー!」

 出久「誤解です!」





































 優雅「僕タイトルなのに蚊帳の外!?」
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