デク-1.0   作:今日は晴れ

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 注意
 オリキャラと出久くんとの恋愛が書かれます。
 ご注意ください。
 
 結構、大胆なことを出久君がします。
 こんなのナードな出久君じゃねぇ!もバック推奨。


第八話 筒美珠雨華:約束

 〈…………………………………………出久ちゃんの浮気者〉

 

 地獄の底に住まう悪鬼のような、もしくは男女関係のもつれで死んで女が幽鬼として蘇った、そんな声を出しながら、珠雨華は出久を糾弾する。

 

 「じゅ、珠雨華ちゃん!? 浮気!?」

 

 今は試験の最中だということも忘れ、出久は慌てる。

 浮気、と言われ、思い出すのは先ほどの転倒しかけた出久が、女子生徒に個性を使って助けてもらったとき。

 

 そのとき、出久は思った。

 ()()()()()()、と。

 

 出久の全身から、冷や汗が溢れた。

 

 普段、珠雨華は沈黙しているが、それは、常時、出久に成長の個性を使用させているためだ。エネルギーは出久と共有し、出久は二人分の食事を摂る必要があったが、それでも足りない。そのため、強制的にエネルギーが切れるか、軽減のために珠雨華は眠りについている。

 

 意識があるのは、長いときで、一日に一時間、下手をすれば数日に一分程度の時もある。

 

 ただ、起きている時は、珠雨華と出久は一心同体となる。

 

 出久の景色を珠雨華も見れる、出久の抱いた感情を珠雨華は知る。

 

 だからこそ、4月の転校初日、珠雨華は自分を傷つけようとした勝己から守ってくれた出久に惚れ直し、上機嫌だったのだ。

 

 

 だが、今は逆。それと、この能力の弱点として、珠雨華の景色を出久は共有できず、また、感情も流れてこない。

 

 つまり、珠雨華がいつ起きているのか、出久は知らないのだ。

 

 ただ、分かる。彼女の感情が流れてこなくても、分かる。

 

 

 猛烈に、珠雨華は機嫌が悪い。

 

 今まで、公安の任務中にも女性との絡みはあった。そのとき、珠雨華は機嫌が悪くなるものの、任務(仕事)だと納得はしていた。

 

 しかし、先ほどは完全なプライベート、出久の全身から冷や汗がでる。

 

 〈しらばっくれても無駄よ! 出久ちゃん! さっき、女の子に助けてもらってデレデレと鼻の下を伸ばしてたの、わかってるんだからね!〉

 

 「いや、あれは――」〈アレもソレもないわ! どうせ私の(個性)が必要なだけなんでしょ!? 出久ちゃんはおっぱいが大きい子が大好きだし! 知ってるわ! よくお酒の広告でおっぱいが大きなお姉さんをみてることと、ママ(火伊那)のおっぱいをみてることも、知ってるんだからね!〉

 

 「身内をそんな目で見た覚えはないよ!? あと、人聞きの悪いこと言わないで! 試験官(ヒーロー)も見てるんだよ!」

 

 ギャーギャーと、試験そっちのけで二人は喧嘩していた。

 周りの受験生はそんな出久たちを、この人生の大事な試験で痴話喧嘩をするなら余所に行って欲しいと一瞬睨むが、そんな時間も惜しく、仮想敵に挑んでいた。

 

 〈出久ちゃんなんて知らない! 今日は絶対個性を使わせてあげないんだから!〉

 

 「ちょ―――珠雨華ちゃん!?」

 

 それきり、珠雨華は沈黙し、うんともすんとも言わなくなった。

 珠雨華の、銃火器となる変形型個性を使用するには両者の合意が必要なのだ。

 

 また、珠雨華を完全解放したとき、出久の能力は本来の力を二人分――倍加される。

 現状でもそれなりの力はあるが、珠雨華を解放したのとしていないのでは、雲泥の差があるのだ。

 

 よって、できることは――。 

 

 『ブッコロスゾ コラー!』

 

 

 「うおおおおおおおお!!」

 

 出久は走った。試験会場を、残された仮想敵を倒しながら、走った。

 無論、珠雨華を背負って。

 

 珠雨華を置いていけばいいのでは? と思われるかも知れないが、ずっと一緒、置いていくなどという選択肢は、出久に存在しない。

 

 途中で1ポイントや2ポイントの仮想敵を殴り、蹴り、破壊する。

 

 身体能力だけでは破壊できない3ポイントの仮想敵の場合は、

 

 「邪魔!」

 

 珠雨華の十字架をそのまま鈍器として殴りつけた。

 珠雨華は二百キロの重さがある。そのため、鈍器としても一級品だった。

 

 珠雨華には弾が切れた時や、大量のヴィランを倒さなければならない持久戦の際、消耗を抑えるために、通常の火器を何丁か収納しているガンラックでもあるのだが、そのガンラックすらも開かない。

 

 (本気で怒ってる……)

 

 出久はどうするべきか、悩みながらポイントを稼いでいた。

 

 ☆

 

 同時刻、このフィールドを見ていた雄英高校の採点者たち――教師陣は出久に口笛を吹いたり、腕を組んでじっと様子を観察していた。

 

 「なんだろうね、あの子……」

 

 呆れ半分、賞賛半分の言葉だった。

 

 始まったばかりは優秀さで目立っていた。

 

 初めて見ただろう仮想敵の、上部装甲が脆いと判断した判断力、

 周りを見極め、囲まれないように動いた情報収集能力、

 他の受験生よりも速く迅速に行動した機動力、

 そして、1ポイントとはいえ、個性を使わずに倒した戦闘力。

 

 全てが完璧に近い行動だった。

 

 問題は2、3ポイントの仮想敵が密集するエリアに進入したあとだ。

 

 なぜかサポートアイテムと喧嘩を始めて、10分間と限られた時間の中で2分間も言い争いをしていた。

 

 五分(ごぶん)の一をただ立っていただけの受験生など、初めて見た。

 

 サポートアイテムの故障かともみたが、サポートアイテムとの、やれ、浮気をしていた、だの、普段から巨乳の女をみている、だの、痴話喧嘩を音声が拾い、全員が呆れてしまった。

 

 もう、これはダメだ、と教師全員が思った途端、出久は試験会場で駆逐されつつあった仮想敵に猛烈な勢いで襲いかかった。

 

 いくら強力な個性があれど、受験生は中学生、しかも、個性の訓練などほとんど受けておらず、長期戦はできない。だからこそ、雄英高校のカリキュラムで伸ばしていく。

 

 畢竟、五分を過ぎると、はじめて全力で個性を使用したためにバテてしまう。

 出久は焦っているのか、二分間、結果的に休憩していたとはいえ、普通の中学生だったら一分も保たない動きで、初期の冷静さがどこへやら、とがむしゃらに動いた。

 

 荒い動きで仮想敵を倒し、数ポイントを稼ぐが、これで終わりだと全員が思った。そして、

 

 「変わんねぇな、スタミナ系の個性か?」

 

 動き続けていた。ずっと変わらない動きで、五分以上動いている。

 戦闘エリアにいた残り少ない仮想敵をほとんど駆逐してしまった。

 

 全員が呆れながらみていた。だからこそ、投入のタイミングを忘れていた。

 

 「じゃあ、真価をみせてもらおうか」

 

 よって、遅れながら、最大級の障害を放した。

 

 ☆

 

 出久がポイントを荒稼ぎして、猛烈に追い上げているときに、それは現れた。

 

 十数メートルはある巨大なロボットが、周りのビルを倒壊させながらこちらに襲いかかっていた。

 

 さぞ、ポイントがありそうだが、試験説明にあった、ポイントにならないお邪魔虫――0ポイントの仮想敵だと、瞬時に全員がわかった。

 

 周りの受験生が逃げている中、出久は稼ぎ時だと内心、ほくそ笑む。

 出久にとって、0ポイントの仮想敵が暴れれば暴れるほどに、受験生(ライバル)が逃げて減り、減った中を悠々と仮想敵を倒し続けられるボーナスタイムに他ならない。

 

 戦闘訓練を積んでいない中学生には0ポイントの仮想敵は圧倒的な脅威だが、出久にはただの動きがのろい巨大な亀だ。これを待っていた。この0ポイントが登場してからが稼ぎ時、ただ、誤算は残り数十秒で投入されるとは思わなかった。

 

 残り数十秒、されど数十秒。

 

 何ポイントを稼げるか、勝負の分かれ目であった。

 

 (これで入試が突破――――――)

 

 「――……いったぁ」

 

 出久は見た。

 0ポイントの仮想敵の足下に、転びそうだった出久を助けてくれた女生徒が躓いて、逃げ遅れている様子を。

 

 

 出久は駆けだしていた、彼女に向かって、彼女を助けるために。

 

 二人分の成長をしている脚でも、彼女の元にたどり着けるか、賭けでしかなかった。また、珠雨華を解放していない。本来の力も出せない。

 

 ならば、時間の無駄だ。

 

 彼女を見捨てたほうがいい。

 分かっている、彼女を見捨てて、ポイントを稼がなければならない。

 珠雨華と喧嘩したためにロスタイムが発生し、思ったようにポイントが稼げず、今しか挽回できない、と。

 

 しかし、体が動いていた。

 

 何度痛い思いをするのか、ヒーロー公安委員会の犬だったときにもよく叱責されていた。

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 もう、合格はわからない。そもそも、彼女の元に間に合うかも定かではない。それでも走って――

 

 〈…………………………しょうがないなぁ、出久ちゃんは〉

 

 やれやれと言わんばかりに、珠雨華の声がした。

 

 瞬間、出久を珠雨華が包んでいた布と拘束具で固定される。途端、力が湧き上がり、速度が格段に上がった。

 

 「珠雨華ちゃん!」

 

 珠雨華に声をかけるが、あの子を助けるのが先、と珠雨華が述べる。

 

 0ポイント仮想敵の腕が彼女を掴もうとしたまさにその瞬間、出久は彼女を抱え、逃げる。

 

 一瞬で離脱すると、安全なビル影に彼女を横たえさせた。

 

 「え……」

 

 彼女は何が起こったのか理解できない様子だった。

 

 「大丈夫、っていっても、足を痛めたようだから、なるべく動かない方が良いね」

 

 それだけを言って、再び0ポイントの仮想敵の前に現れる。仮想敵はまだ彼女を狙っている様子だった。

 

 倒した方が早い、そう、出久は判断した。

 

 0ポイントは彼女の前に出久を捕まえるつもりなのか、出久に腕を伸ばす。

 

 「珠雨華ちゃん」

 

 〈…………………………………………なに? 出久ちゃん〉

 

 珠雨華が不機嫌そうなのは変わらない。

 試験の結果はわからない。この0ポイントを倒しても、救済措置はないだろう。

 

 

 構うだけ、時間の無駄だ。

 

 ただ、それでも0ポイントの仮想敵を倒そう。八つ当たりだと分かっている。

 

 しかし、それでは足りない。

 今日、この試験を受けられてよかったと思いたかった。

 

 オールマイトが自分のために用意してくれた、二つ目の救いなのだ。

 

 合否にかかわらず、このままだと最悪な思い出になる。

 なぜなら、珠雨華と喧嘩をしてしまったから、パートナーとの喧嘩で、最悪な思い出にしたくない。

 

 珠雨華の誤解を、いや、避難させた彼女にときめいたのは事実なのだ。だから、珠雨華に不快にさせたことを謝罪しても、形だけの謝罪になる。

 よって、出久は、覚悟を決めた。

 

 0ポイントの腕が伸びる、伸びていく。

 

 それに対して、出久は珠雨華を、十字架の頂部、短辺を構える。

 

 「僕は、珠雨華ちゃんとの“約束”を、忘れてない」

 

 十字架の、中心部分の髑髏を模した銃把を掴む。

 出久は左足は屈曲させて腰を下ろし、右足をまっすぐに横に伸ばした。

 

 

 「僕は、珠雨華ちゃんを、“世界で一番幸せなお嫁さんにする”」

 

 

 それは、幼少期の約束。

 

 緑谷出久と筒美珠雨華が結んだ契約。

 

 筒美珠雨華は緑谷出久をヒーローにすること。

 

 そして、

 

 『私の夢はね、世界一の――』

 

 今でも忘れない、少女の笑顔。否、地獄に落ちても、覚えていた数少ない思い出。

 緑谷出久がどんなに薄汚れても、どんなに憧れを汚そうとも、そのとき、彼女はそばにいてくれた。

 

 

 

 

 『ママみたいな、幸せなお嫁さんになること……。

 

 

 だから、出久ちゃんのお嫁さんにしてね!』

 

 

 

 

 耳にしたとき、倒れてしまった幼き日の記憶。

 それに、今は応えられる。

 

 短い銃身が上下にスライドし、大口径のカメラレンズが、銃口が現れた。

 

 「愛してる、珠雨華ちゃん!」

 

 十字架から、桃色の閃光――ビーム光線が放たれる。それは、瞬時に0ポイントの仮想敵を貫通し、一瞬の間を置いて爆発した。

 

 二人の周りに、仮想敵の細かい部品がライスシャワーのごとく降り注いだ。

 

 『しゅーーーりょーーーー!』

 

 それと同時に、プレゼント・マイクの声が響いた。

 

 

 ☆

 

 試験から一週間後、出久の自室の椅子に、青い髪に白いメッシュが入った童女(珠雨華)が腕を組んで座っていた。

 その前に、出久が正座している。

 

 あの試験で、かなりの大技である光線銃を使ったためか、一週間はこうして二人きりの時、珠雨華は現れていた。

 

 しかし、依然として珠雨華は不機嫌そうだった。

 

 出久は何も言わずに、ただ正座していた。

 

 沈黙が痛い、爆豪勝己とは違った痛さがある。

 何か言っても、珠雨華は無言か、素っ気ない返事だけだった。

 

 そのため、自然とこの形になった。その上、珠雨華への支払いが低燃費のためか、一週間も、二人きりの時は顕現していた。

 

 〈…………出久ちゃん〉

 

 一週間ぶりに、彼女が声をかける。

 

 「な、なにかな? 珠雨華ちゃん?」

 

 出久が応じると、

 

 〈これ、きてるのに見ないの?〉

 

 机に上がっていた一通の手紙を示す。

 そこには、雄英高等学校の文字が入った封筒だった。

 

 「珠雨華ちゃんと見ようと思って……」

 

 〈じゃあ、みましょ〉

 

 素っ気なく、珠雨華は言うが、椅子を空けた。

 椅子に出久が座り、その膝に珠雨華が腰を下ろす。

 

 手紙を開けると、そこには一台の機械と書類が入っていた。

 

 その機械は机に転がり、

 

 『あー、合格だ……』

 

 無精ひげの男が、いきなり投影されてそんな話から始まった。

 

 『え? もっと話せ? あー、雄英高等学校の教師の相澤消太だ。

 

 緑谷出久だな、雄英高等学校一般入試の試験結果を伝える。

 

 筆記、実技共に合格点に達していたから、合格だ。

 

 おめでとう』

 

 簡素な言葉で、伝えた。

 それからは、期日以内に書類を提出することや、学校指定の制服はどこで作るのか、などの業務連絡だった。

 最後に、と相澤は続ける。

 

 『それとな……』

 

 相澤はため息をつき、

 

 『愛の告白を試験会場で言うな、以上』

 

 ホログラムは終了した。

 

 しばらく、部屋に沈黙が下りる。

 

 〈……出久ちゃん、合格おめでとう〉

 

 「うん、ありがとう、珠雨華ちゃんのおかげだよ」

 

 形式的なやりとりのあと、お互いに笑っていたが、次第に顔が真っ赤になった珠雨華は顔を手で覆い隠し、

 

 〈…………ただ、私も出久ちゃんの告白は予想外で不意打ち過ぎるわ〉

 

 「………………ごめんなさい」

 

 頭を下げた出久。

 

 こういうことは、両者の合意の上に成り立っていることを失念していた。

 

 そんな出久に顔を上げて、とだけ珠雨華から命じられる。

 顔を出久が上げると、目の前に珠雨華の顔があり、その顔が――出久の唇に珠雨華の唇が軽く触れた。

 

 〈約束、覚えてて嬉しかった! でも、浮気はダメだからね!〉

 

 おやすみ! 元気よく言われ、その後、出久の腕に十字架に変わった珠雨華がいた。

 

 心なしか、珠雨華(十字架)の表面は赤かった。

 

 





 今話の要約



 0ポイント仮想敵「そうくるか! 女たらしめ!!」



 出久「失礼だな、純愛だよ」



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