デク-1.0   作:今日は晴れ

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第九話 相澤消太:個性把握テスト

 

 

 「しかし、今回の実技試験は大荒れだな……」

 

 試験結果表を見た、雄英高校の一人の教師が呟いた。

 

 モニターには、今年度の実技試験の結果、上位成績が映し出されていた。

 

 「あぁ、第一位がいた第七試験会場の受験者は可哀想に……。まさか一人でほぼ仮想敵全てを倒す受験者がいるとは」

 

 「圧倒的だったからな、一人で8割の仮想敵を倒し、そのまま0ポイントも撃破するとは。今までにないぞ、0ポイント撃破が2会場で出ることなんて……」

 

 「1位と2位、二人ともレスキューポイントがほぼゼロなのも、ある意味すごいが……」

 

 「それは3位もだ……。最後に0ポイントの仮想敵を倒した時にレスキューポイントを得たが、それ以外は……」

 

 教師たちは黙ってしまう。

 今年度の実技試験の上位成績の名前には、

 

 1位 青山優雅

 2位 爆豪勝己

 3位 緑谷出久

 

 その三名の名前があった。

 

 その一覧を、じっと見る男がいた。

 蓬髪に無精ひげを生やし、首からゴーグルをかける教師だ。

 

 「気になりますよね、相澤先生が受け持つ子たちになりますから」

 

 教師――相澤消太は返事も曖昧に、ただ、じっと表を見ていた。

 

 相澤は手元に視線を落とす。

 その手には書類が握られていた。

 

 雄英高等学校ヒーロー科への合格内定者が送る、事前の提出書類。

 

 その一枚、緑谷出久から送られてきた書類。

 

 それには、『個性に関してのサポートアイテム使用許可願届』とあった。

 一枚の十字架の写真が添付され、名称欄にこう書かれていた。

 

 ―― Punisher(断罪者)、と。

 

 ☆

 

 緑谷・筒美家の朝は静かだ。

 静謐と呼んでもいいだろう。

 

 スーツ姿の火伊那がコーヒーに口をつけ、新聞を読んでいた。

 

 出久もベーコンのないスクランブルエッグや、甘みのないマフィン、それとミックス味のプロテインを飲み、食べ終わると皿を流し台に運んで洗った。

 途中、火伊那が飲み終えたコーヒーカップを持ってきて、それも一緒に洗った。

 

 洗面台に移動した火伊那が化粧をし、出久は母・引子の部屋に行き、いつも通り、顔にクリームを塗って、保湿用のリップを唇に施した。

 引子は呼吸器によって規則正しく寝入っている。瞼が開かれることはない。

 

 「お母さん、僕、雄英に合格したよ」

 

 今すぐにでも起こして、見せてあげたい、誰よりも、ヒーローになる道が開けたことを知ったら喜んでくれただろう、そう思いつつ、部屋を出た。

 

 出久は珠雨華を背負い、火伊那は通勤用鞄を持って家を出る。

 家の鍵を閉め、マンションの入り口で別れる時だった。

 

 「出久!」

 

 火伊那が出久に声をかける。

 

 「なに? 母さん」

 

 火伊那は少しばかり言いよどむが、顔を上げて出久に向き合い、

 

 「制服、似合ってンぞ!」

 

 そう言って、歩いていった。

 

 「ありがとう! いってきます!」

 

 その背に、雄英高校の制服であるブレザー姿の出久が感謝を述べると、火伊那は片手をあげ、振り向くことはなかった。

 

 ☆

 

 「大きな扉だなぁ……」

 

 優に二メートルはある扉を前に、出久は見上げ、呆けてしまった。

 扉には『1ーA』と書かれており、どんな生徒でも受け入れる雄英高校を象徴するようだ、と出久は実感する。

 

 心拍数は抑える訓練をしているため、平然と、なるべく人当たりの良い笑みを浮かべて教室に入れる。潜入任務でも、第一印象が大切だ。

 

 それは、日常生活も同じ。

 公安の任務は解かれていたが、その癖が抜けていない証拠だった。

 

 「机に脚をかけるな!

  雄英の先輩方や机の制作者の方に申し訳ないと思わないのか!?」

 

 「思わねーよ!」

 

 爽やかな朝に似つかない、怒号が響いていた。

 

 (片方はかっちゃん、それともう片方は――)

 

 本人が聞けば激怒するだろうが、出久は心の中で爆豪勝己をかっちゃんと呼んでいた。

 勝己は机に脚をのせ、一人の生徒と言い争いをしている。

 

 もう一人は眼鏡をかけた知的で、真面目そうな男子生徒だった。

 

 見覚えがある。

 実技試験の説明の時に、プレゼント・マイクに詳細な追加説明を求めていた男子だった。

 実技試験の会場も同じだったことを覚えている。

 

 「む? 君は――」

 

 眼鏡をかけた生徒が、出久に気がつく。

 途端、つかつかと靴音を鳴らし、出久の前に来た。

 

 「おはようございます。僕もこのクラスの――」「破廉恥だぞ!!」

 

 男子生徒の怒声が響いた。

 はい? と出久は固まった。

 

 「君は試験をなんだと思っているんだ! 伝統がある雄英高校の入学試験に告白をするなど言語道断だ!――」

 

 その後もつらつらと彼は説教を述べる。

 やっべー、どうしよ、覚えてる子だ……。と記憶処置を受けているからこそ、覚えてないだろうと楽観していた出久だが、今更ながら、どれだけ目立ったのか、と自分の認識を改め、出久が背中に汗をかき始めた。

 

 既に教室にいた生徒たちも、何事か、とクラス入り口をみて、眼鏡の生徒をどうでも良いようにみるが、出久を見ると、ある生徒は、勇者……。と呟いて恐れおののき、ある生徒は、モテ男が……。と血涙を流して今にも呪い殺さんとばかりに睨んできた。

 

 緑谷出久、高校入学五分で、既にクラスから浮いていた。

 

 そんなときだった。

 

 「あ! そのモサモサヘアーは!」

 

 出久の後ろから顔を出す女生徒がいた。

 

 当たり前だが、雄英高校のブレザーを着ていて、出久が入学試験で助けてもらい、実技試験では、出久が助けた女生徒だった。

 

 「よかったー! 君も合格したんだね!」

 

 貴方も良かった、と二重の意味を込めて女生徒に手を差し出す。

 

 浮気、浮気、とつぶやきが教室から聞こえたが、聞かなかったことに出久はした。

 

 そのとき、猛烈な寒気が、背中から、否、背負っている十字架から放たれる。

 

 (起きてる、100%起きてる!)

 

 

 浮気じゃないからね! 僕が珠雨華ちゃんにいったことは本気だからね! 心の中で念仏のように唱え、次第に寒気が治まっていた。

 

 そんな時だった。

 

 「友達ごっこがしたいなら、余所へいけ」

 

 女生徒の後ろに寝袋の男がいた――出久には見覚えがある。雄英高校合格通知の担当だった教師、相澤消太だ。

 

 「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 寝袋から出てきた第一声がそれだった。

 

 「早速だが、体操着を着てグラウンドに出ろ」

 

 体操着を見せ、生徒たちは指示に従うほかなかった。

 

 ☆

 

 グラウンドに体操服でやってきた一年A組の生徒たちに、担任の相澤から言い渡されたのは、個性把握テストの実施だった。

 入学式やガイダンスには参加しない、そんなことより合理的に行う、と相澤は話す。

 

 個性把握テスト――その名の通り、個性を使っての能力を測るテスト。

 今までの学校とは違い、個性を使って良いテストに学生たちのテンションが上がるが、そんな浮かれた雰囲気に、相澤は睨みつける。

 

 相澤は、最下位は見込み無し、として、除籍処分にする、との話をつけ加え、流石に生徒たちから横暴だ! と非難の声が上がったが、相澤は、お前たちが来たのはヒーロー科だ、と取り合わない。むしろ、プロヒーローは殉職者も多い、今、地獄をみるか、見込みがなかったら辞めた方がいい、との話に、生徒たちは沈黙することしかできなかった。

 

 この担任、本気だ――真意を理解した生徒たちに、緊張感が走る。

 

 個性把握テストの内容は、ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈――計八種。

 

 全力で行わなくては、と出久は覚悟を決める。

 故に、珠雨華を最初から解放した。

 

 「…………浮気はしてないよ」

 

 珠雨華は解放に応じてくれたが、この間の試験時より幾分ましだが、それでも不機嫌そうだった。

 よって、開口一番、出久は言い訳をすることになる。

 

 〈……間があやしかったけど、そうね……うん、ドキドキはしたけど、浮気じゃないわ、ただし、ギリ、よ……〉

 

 誰にも聞こえないやりとりだったが、珠雨華から一瞬だけ漏れた殺気に、少しだけ、出久に冷や汗が流れた。

 

 なお、見ていたクラスメイト曰く、珠雨華を解放し、拘束具と布で着込んだ出久は、個性に対しての必要なサポートアイテムとはいえ、戦闘服(コスチューム)みたいでずるい、との意見があったが、サポートアイテムの仕様です! と押し通した。

 

 その後は、淡々と個性把握テストは進んでいく。

 

 結果だけ記せば、出久はかなり良い成績を出した。

 

 学校側には、出久は常時発動型、として身体能力向上の個性ということにしているため、誰も疑問を抱くことはない好成績だった。

 流石に異形系や、その競技にアドバンテージがある個性持ちの記録には勝てなかったが、それでも、除籍(最下位)とはならないだろう。

 

 出久は若干の安堵と、しかし、このクラスから誰かが除籍されてしまう事へ、悲しみを覚えるが、相澤の言っていることは正しいと理解もあった。

 

 他ならぬ、何人も同僚を公安の仕事で失っている出久には、分かる話だった。

 

 

 そうして、全てのテストが終わる。

 

 日も傾いた夕暮れのグラウンドで、全員が相澤の元に集まった。

 何人か、個性で身体能力が上がらない生徒は顔が暗い。

 

 「今から名前を呼ぶから呼ばれたら出てこい、緑谷出久、青山優雅」

 

 何かあったのか、出久は疑問を浮かべ、前に出る。最下位(除籍)は疑っていない、そんな顔だった。

 青山優雅も同じ表情を浮かべている。

 

 それは、クラス全員が同じだった。

 

 緑谷出久は全体的に好成績であったし、青山もネビルレーザーを使い、50メートル走で好成績を収めた。

 

 二人が前に立つと、相澤は二人の肩を掴み引き寄せ、

 

 「お前ら、除籍な」

 

 「「は?」」

 

 出久と青山の声が重なった。

 

 

 





 今話の要約

 相澤「よくきたなウジ虫ども!」



 出久「シャーリーン・・・」

 珠雨華「私をシャーリーンとか呼び始めた・・・」

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